日本兵 in the ガルパンworld!! 作:渡邊ユンカース
拝啓、天国に居る野郎ども
こちらは春がやってきて太陽が心地よく身体を暖めてくださいます。ちなみに小鳥もさえずる季節で各種の鳥の鳴き声が聴こえます。
今、俺は西住流の家へと戻りました。理由としては金が無くなったのとまたもや剣道の講師が産休に入ったという。
現在、みほはというともう黒森峰の学園艦に搭乗したらしく、惜しくも会えませんでした。悔しい。
とこんな感じで、仕事を果たしながらも俺はのんびり休息を取りたいと思う。
「……暖かいな」
俺は箒を所持しながらにこの春の訪れを体感していた。何せ冬の期間は凍るような寒さの中俺は野外で寝ていたのだ。毛布を掛けているとはいえ寒いものは寒い、幾度か警官に声を掛けられたりもした。
だが、西住流の元へと帰ると暖かい部屋やふかふかの布団が俺を包み込み、寒さから身を守り、なおかつ熱を外へと逃がさなかった。お蔭で心地よく寝息をたてることができ、身体はさらに良くなったようにも思える。
晴耕雨読の生活は楽しく、たまに竹とんぼを作って近所の子供にあげたりした。
「剣道の講習はまだか」
剣道の講習は基本午後、その間は自由時間となっており、遊びに出るのもよし、睡眠もよしと何をしてもよかった。だが、田舎には娯楽施設は少なく、仮に遊ぶにしたって俺が流行についていけるかどうかはわからない。
小鳥や早く現れてしまったカエルが鳴いている中、暇つぶしとして、門前をせっせと箒掃除に勤しんでいた。
かれこれ二時間程経過して、落ち葉がなくなってしまった。とかいって外壁を水雑巾で拭き掃除をするのは昨日に終えてしまった。やや汚れていた壁を新品に近い状態にするには苦労したが、その分やりがいを感じた。
早朝の剣の鍛錬も終えて、あとは講習も待つのみ。相手が居なければ剣道というのはつまらないものだ。しほ殿も剣道ができるそうだが、如何せん家元の仕事で忙しいご様子。
「……暇だ」
短歌や作文を書いたりするのも一つの手だが、今はどうしても気が乗らない。完成してもそれは見せられるような作品ではない。
ため息を吐きながらに煙草を一本取り出し、口にする。マッチを擦って火を着火、煙草に灯し終えると塵取りにマッチを捨てる。勿論のこと消火しているため、内部の落ち葉には火は着火しない。
そんな中、一両の車が奥から迫って俺の眼前に停車した。見る限りかなりの高級車らしく、すぐにしほ殿の客人だと見当がついた。
車でおいでくださった方は敷地内に停めろと事前に教えられており、俺は箒を持ちながらに客人の居る運転席へと向かう。
「あの、西住流のお客様でしょうか?」
「Yes! そうよ!」
運転席の窓が下へと下がると、何と車に乗っていたのはまだ二十歳前後の女性で正直に驚いた。理由としては高級車をこんな若い女性が運転していたことで、裏返せばそれ以外には驚かなかった。
原因としては戦車道の普及で戦車を一個人が持っている家庭も少なくはないからだ。それと今の時代、女性が運転するのも普通だからな。
吸い始めたばかりの煙草を仕方なしに携帯灰皿に押しつぶし、俺は彼女に伝達事項を淡々と告げる。
「なら敷地内に停めてください。門の邪魔でないところなら何処でもと」
「OK! わかったわ!」
「は、はぁ……」
ケイのように英語を絡ませながら話す話術に翻弄されがちではいたものも、伝えるべき内容は伝わったらしい。彼女は車を動かして、敷地内に敷いてある砂利の音を鳴らしながら停めた。
だがこんな高級車を乗り回す女性が一体どんな用件で来たのかは予想がつかない。戦車道は乙女の嗜みといったものも、弓道とは違う泥臭い武道には変わりはない。汚れを嫌う金持ちには縁もゆかりもないと偏見を持っていたからである。
ドアを横に引いて降りる女性、座っていたために体の線がわからなかったが、かなり豊満な胸と腰つきに惹かれるものがあった。正直に白状すると俺の好みである。
そんな愚かな思考をしていた俺と目が合うと、彼女はしほ殿は何処に居るかと言及した。
「書斎に居るのでは? 何なら俺、いや私が案内しますが」
「うん、頼むわね」
箒を近くの木により掛けて彼女を案内する。
……にしても背後から彼女の視線が刺さる。もしかしてさっきの考えが彼女にバレてしまったのか?いやそんなことはない、バレたのはしほ殿だけだしきっとこれは杞憂に違いない。そう思わなければ訴えられてしまう気がする。
書斎の前に辿りつく前に、ちょうど玄関にてしほ殿と鉢合わせる。
すると空気が氷河期の如く凍結し、独特の緊張感が辺りに漂い始める。
まさか常夫さんが浮気をし、その浮気相手がカチコミに掛けたのでは? となると女の戦いが始まるわけか、あぁ恐ろしや恐ろしや。……一応、暴力沙汰になったら対処できるように準備はしよう。
体感では十秒程度の沈黙が永遠にも感じた頃、客人である彼女がこの沈黙を打ち壊した。
「お久しぶりです。西住流家元」
「久しぶりね、蝶野さん」
「最後に会ったのが確か二年前でしたね」
「そうですね、貴女が大学戦車道の優勝を飾ったときぶりです」
……戦車道だと?つまりは彼女、戦車道の経験者か。身構えてしまったがこれまた杞憂だったようだ。にしても大学に行けたのは羨ましい。それ以前に中学と高校に上がれているのも羨ましいが。
しほ殿は一般人にはわからない程度に表情を和らげた。私生活でも滅多にしない行為だったために、一年の居候生活をしていた俺には彼女が喜んでいるのだと感じ取れることができた。
「あがりなさい。ちょうど美味しい茶菓子が入ったところです」
「本当ですか! ありがとうございます!」
彼女は目を煌めかせながらに感謝の意を伝える。さて、どうやら俺はお邪魔虫のようだ。さっさっとこの場から離れて煙草を喫煙しよう。
クルリと転進するとしほ殿から謎の威圧が掛けられた。戦車の重量の如き圧は最近平和ボケし始めた俺は簡単に気圧される。去るにも去れないこの雰囲気に圧倒された結果、去ることを妥協しざるおえない、要するに屈したのだ。渋々と俺は彼女とともに家へとあがった。
やはり俺は場違いなのではと薄々感じ始めていた。
当初から茶菓子とお茶が置かれるのを境に、蝶野と呼ばれた彼女は茶菓子を摘みながら戦車道関連の話を始めた。無論のことそれが本題であり、しほ殿も戦車道関連の会話を行っているため、戦車道関連では無知の知である俺は招き猫のように机の隅でおとなしく正座していた。
勝手には茶菓子を取れないので、今までお茶を啜っていたが、いつしか無くなるのがこの世の定め、湯呑みは空となる。
うつらうつらと睡魔が遅い、眠くなり、座ったまま寝てしまおうかと考えた。しかし、しほ殿に茶菓子を一つ机を擦るように投げられる。要するに起きているとの意思表示なのだろう。抹茶の風味がする羊羹を大事そうに食べる。お味は大変美味である。
「そういえばこのお手伝いさんは?」
突如として俺の話題へと変わる。待っていましたと言わんばかりに羊羹を一口に食べてから自分の自己紹介を始める。
「私の名前は伍長、名字もなく名前もないためこれが本名です」
「それはどういうこと?」
「記憶喪失です」
「それは……very苦労したでしょうね」
「苦労はしましたがしほ殿が拾ってくださったため、今は幸せです」
彼女の心配を感謝の気持ちに溢れた笑みで返す。
この世界に来てからは幸せ尽くしで満喫していた。娯楽もあるし仕事も、可愛い妹分もいるため毎日が充実していたりする。……煙草の値段は高いけど。
横目でしほ殿を覗くと不思議と顔を伏せ、頬に赤みを帯びていた。
しほ殿は照れているのか判断がやや難解ではあるものも、俺にはそう捉えることができた。
「そういえばご職業は何をなされていたのです?」
その瞬間、俺の口がくぐもる。あんなにも嬉しそうに話していた口が途端に喋れなくなってしまった。笑みはロウソクの火を消されたように消え失せる。
恐らくはこの前の凛とのやり取りが影響しているのだろう、過去の情景が色濃く思い出されてしまったのだ。動悸が早まるのを感じ、手には汗が滲み出る。
彼女は首を傾げる仕草を見せる中、俺は無理やりに口を開き声を発しようとした。
「軍、人でした」
「ちなみに何処の国に勤めていましたか?」
言えるはずがない。此処は時代が違っても日本にも変わりはない、しかし数十年前の日本兵だと暴露できない。そんなことをしたら精神が病んでると思われ、西住流に首を切られて疎遠になるだろう。或いは納屋に監禁というオチがある。
後者においてはそんな問題はないと思うが産まれた時代背景がそうであったため、嫌でも考えてしまった。そしてその不安が今にも通じていたらと思うとさらに胸が圧迫する。
無意識のうちに呼吸も辛くなり、一刻でも早くこの場から立ち去りたかった。掛け時計の秒を刻む音が動悸を促進させ、額に熱が帯びて少しばかり頭痛が響く。
「そのことは私らにも伝えられていません」
救いの手を差し伸べたのはしほ殿だ。様子がおかしくなった俺を見て察したのだろう、彼女の言う通り、俺は伝えてはいない。それに人を殺めたということすらもだ。
徐々に呼吸も落ち着き、動悸も収まる。「すみません、忘れでしまった」と偽りの謝罪を掛けると蝶野さんも「しょうがないです」と気にしないでくださった。私情には深入りしない蝶野さんに救われた。
けど折角できた会話の機会に入るため、俺は彼女に質問をする。
「蝶野さんはどういうご職業で」
「私は自衛隊に所属しております。といっても新兵ですけどね」
自衛隊、俺の死後に日本で組織され、国防に重点に置く組織だったな。日本軍とは違い交戦権がない点が大きく異なる。
俺とは違い、攻撃する側から防衛する側に変わった国は俺とは相容れぬことだろう。前にテレビで知ったことだが誰一人敵兵を殺してはいないらしい。そのことを聞くと尚更だ。
つまり、俺は時代の波に取り残されたたった一人の旧人というわけだ。悲しく孤独にも思えることだが、総国民がそう願ったのならば尊重しよう。軍人は国民を護るために戦うのが本分なのだから……。
「何か教えて貰うことはできますか!」
「お、教えてもらうこと…?」
「はい! 何でもいいです!」
彼女は今後の自衛隊生活に必要なものを先駆者である俺に問いただす。喋り方も敬語寄りだ。俺は狼狽しながら彼女に伝授することを探す。
いくら何でも人を殺める方法とか奇襲の方法とかを伝えるわけにもいけないしな。戦車道をしていたとなると確実に戦車関連の兵科だ。となると教えることはない、俺ただの歩兵だし。
「き、緊張しない方法ぐらいですかね。教えられるのは」
「それは一体どういう!」
「え、えーと。……剣を振るですかね」
「剣を振る……」
マズい、やらかしたな俺。流石に自己流かつ根拠の欠片もない方法で、他人が精神統一できるのだろうか。そもそも緊張を無くすのではなく、和らげるという言い方が正しいのだろう。人によって緊張の種類も変わるので一概にこれがいいとは言えない。
ふざけるなと怒鳴られたら素直に謝ろう、これが一番だ。
「なるほど! 剣に精神を宿して精神統一ということですね!」
「そ、そうだ! 日本刀ならいいのだが、箒でも何でもいいのだ!」
「では今度実践したいと思います!」
「そうか、頑張ってくれ!」
疑いもせずに信じてくれた彼女には罪悪感が募るも、まあ仕方がないと割り切った。しほ殿は白々しいなと視線で訴えかけているがそんなのお構いなしである。
かくして、予想外の来訪者との相手を終えた。
しほ殿から後に胡散臭さの権化という不名誉な称号をいただいた。案外そうなので反論の余地ができないのが悲しいところである。