日本兵 in the ガルパンworld!! 作:渡邊ユンカース
伍長が来たのでバタフライ効果でも起きたのでしょ(投げやり)
「あー、ようやく寄港が可能な日か。何をしようか」
俺がプラウダの学園艦にて用務員として過ごすうちに一学期が終わろうとしていた。
一学期を終えると夏休みが、しかしその前に学生諸君が非常に忙しい時期が存在する。
そう期末試験である。
試験にてもし赤点を一つでも取ると夏休み中に補修を受けることとなる。
補修日にいかなければ、陽の当たらない特別学舎で宿泊しながら授業を受けるという身体的にきつい罰を受ける。体罰だと思うが、実はこれ校則の一つだ。
あいにく期末試験という学生の苦行に関しては俺にはわからない。
軍人になっても俺らは基本体力のことばかりで頭は使わない。士官でも尉官でもないからな。
しいて頭を使うことといえば重火器の使い方や塹壕の掘り方程度だろう。
俺は換気扇を回しおもむろに煙草を一服する。
煙草は二カートン、それも種類は別といった具合で買い占められており、気分などで二種類のうちの一つを選ぶのが流行りだ。
喫煙する教員仲間と一緒に愚痴を聞いたり、煙草の種類を当てる遊びをしてたりとかなり友好的な関係を気づけたと思う。
煙草は一日一箱、普通だな!
やはり至福の時間だ。誰にも邪魔されたくは――――
「伍長来たわよ!」
「こんにちは」
さよなら俺の至福よ。
某あの幼子が勢いよく扉を開けると老朽化のためか軋む。
眼を蕩けさせていた空間が変わり騒がしくなるのを肌で感じたのか、少しウザったいような表情を浮かべる俺。
そんなことはお構いなしに嬉々と、そして自慢げに手に持った書類を俺に提示した。
「見なさい、これが結果よ!」
「……嘘だろ」
俺は顔をやや青ざめながらその書類の内容を確認した。
主題は試験の結果、そして俺の目は記載されている数字を嫌が応でも捉え、感嘆の声を零す。
「何故学年で一位を採れるのだ…」
「ふふーん、これがカチューシャの実力よ。感服しなさい!」
なんということでしょう、十種類の科目にて採点された点数は百点かそれに近い数値とかなり高い。
目を見張るものが多く、彼女の勉学の才能を思い知らされた。
彼女はさぞ嬉しいのかそれか俺を馬鹿にしているのか、けたたましく声変わりを果たしていない高音を部屋中に響かせた。
「これなら文句はないよね」
「……はぁ」
「さあ確かに守ってもらうわよ!」
「あー、わかったわかった。
この約束というのは俺が試験前に冗談交じりに言い放ったことで、もしも成績上位者であったのなら寄港した際に好きな物を買ってやると豪語してしまったのがきっかけだ。
そしたら本当に一位という結果を獲得し、俺に四の五の言う隙も与えさせなかった。
バツが悪そうに煙草を揉み消し、彼女に問う。
「で、何が欲しい」
「そりゃあ着いてからのお楽しみよ」
「そうか」
「カチューシャ、ちなみに給料日は寄港する前日だそうです」
「何故そういうのを知っている!」
「なら高いのを買えるわね!」
なんてことだ。自ら蒔いた種とはいえこうも自爆するなど、まったく大笑いだ。
確かに給料はちょいとばかし高額だが、仮にカチューシャが何万の商品を買った場合には俺は当分もやし生活だ。
貧乏には慣れたつもりだが、この快適な生活に慣れてしまったせいか耐え切れるか危うい。……下手すれば塩と水と日光で暮らしていそうなのだが。
けど約束を守らねば彼女の信頼を失うこととなる。失った信頼を取り戻すのは容易なものではない、むしろ酷だ。
だから多少無理はしてでも彼女の要求する物を購入するとしよう、そうしよう。
「ちなみに私もカチューシャに続いて二位なのでお願いします」
「俺の財布に穴を開けようとでもしているのか、お前ら」
残念、どうやら塩が砂鉄になるそうです。
まあ鉄分接種できるな、やったな。……俺八月の給料日までやっていけるか?
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ということで無事寄港日です。
空は阿保みたいに快晴、こんな日はゆっくりとするのが一番なのだがそうともいかない。
答えは単純明快、カチューシャたちの約束を果たす日が今日だから。
久々の陸地ということで歓喜するカチューシャ、心なしかノンナの方も喜んでいる風にも想える。やはり冷静沈着を装っているだけで、心はまだまだ少女なのだろう。
……俺と同じ身長に至ってはいるが。
まあ彼女らの格好はカチューシャは可愛らしいという表現が正しい服装、ノンナは歳相応の普通の格好ではあるも謎の色気が溢れている。
嫁入りの際こういう女性だったら即座に申し込むのが大人数だろう。そのうちの一人が俺であるが。
ヘルメットを被せ向かった先は、彼女らが指定した大型のしょっぴんぐもーるという施設。幾つもの店舗が敷地内に密集することで構成されたモノを指し、多種多様な店が連ねている。
正直なところ、こういうところは行った経験がなく恥ずかしながらも内心、心が躍っていた。遊園地やサーカスみたいに地図を見ているだけで楽しい。
「なに雪だるまみたいに突っ立ってるのよ、粛清されたいの?」
「そうみたいです。カチューシャの無慈悲な鉄槌を彼に」
「俺を気軽に粛清するな。それになこの行いには経緯があるのだ」
「経緯とは?」
「単純に言おう、こういうところには行ったことがなくて戸惑っているのだ」
「へぇー、粛清を逃れようとそんな嘘を」
「違う違う、こういった娯楽施設は行ったことないのだ。子供の時には貧しくて映画館やサーカスにも行けなかった」
「……」
「……ごめんなさい」
日頃は自分勝手な態度を取るカチューシャだが、その時だけ申し訳なさそうな表情に変わり謝罪をする。
別にこれは誰が悪いだけでもなく貧乏が悪いことを知っていた。
罪悪感に負われているだろう彼女を慰めるために脇に手を回してから高く持ち上げ、肩に載せる。俗にいう肩車だ。
持ち上げた際には小さな悲鳴を漏らしていたが意図を汲み取ったのか、おとなしく鎮座してくれた。
「ふっ、だが昔のことだ案ずるな。それにな今楽しめばいいだけだ」
「そうね! ならさっさと行きなさい!」
「わかってる」
「……カチューシャ、私と伍長とではどちらが乗り心地が良いですか?」
カチューシャの側近であるノンナは何故か俺に対抗心を燃やしているのか心地はどうだと訊く。
するとカチューシャは暫しの間に考え出した答えを言い放つ。
「やっぱりノンナのが一番ね、慣れてるし。だけど伍長のは肩がガッシリとしていて安定性には申し分ないわね。あとかなり新鮮ね」
「やりました」
「けど身長に関して言うとノンナの方が高い気がするわ」
「やりました」
「おい待てゴラァ」
俺に勝てた点が多かったのかこぶしを握り締めるノンナ、それに対し俺は身長のことでツッコミを入れる。
俺と彼女の身長差はさして変わらない範疇にあり、女子の成長期は中学生だという。
すなわち今の期間だけ彼女が勝っているだけであり、いつか必ず俺が凌駕するということだ。
これは約束されていることで、少年期に栄養価の低いものばかりを食べたためこの身長になったが、今となっては栄養価の高いものを食べているわけできっと大きくなれると信じている。
それで彼女らが向かった先は意外にも模型屋。
中に入るとレトロ風味の内装で、商品棚にはたくさんの戦車や軍艦に飛行機、ましては拳銃の模型がズラリと陳列している。
商品の豊富ぶりには目移りする俺ら一行、彼女は背の低さを台で補いながらお目当ての商品を探す。
「あったわ!」
「流石ですカチューシャ」
「どれどれ」
店の奥から彼女の報告が聞こえる。
薄暗くやけに狭い店内を身長に歩き近づくと、彼女は縦三十センチ、横四十センチほどの箱を提示してきた。
箱の表面には露骨にデカい長方形型の砲塔を何とか支える車体、そして何といっても砲の口径が大きい戦車が堂々と描かれている。
「KV-2ですか、いい戦車です」
「でしょでしょ!」
「……デカすぎだろ、すべて」
我が皇国の戦車と比べると二倍もある大きさに息を呑む。
カチューシャの所属する学校はソ連を模倣している。それにKVという略称はどうにも引っかかる。
何だっけか……
「思い出したぞ、ソ連戦車か」
「正解ね、一撃が超強いから!」
「十五センチは伊達じゃないですからね、消し炭です」
「十五センチとか艦砲と同じだな」
「この破壊力に勝る戦車はいないわ!」
彼女はさぞ自分の好きな戦車が褒められて上機嫌らしい。
けど女子でこういうのを買うのはさぞ珍しい気がするが、まあ戦車道の生徒だし例外か。
値段もそこまでだし財布に優しい。それとせっかくの一位を獲得したのだからもう少しおまけしてやろう。
「ならもう一つだけ買っていいぞ」
「ホント!?」
「あぁ、例えばこういうのはどうだろうか」
俺はたまたま隣に並んでいた我が国の偉大な戦車を手に持つ。
種類はチハ、沖縄では小さながらも奮闘していたのを覚えている。やはり日本戦車は素晴らしいのだ!
「えぇー、小さいし弱いから嫌よ」
「伍長、カチューシャの趣向を考えてはいかがでしょうか?」
猛烈なダメ出しをされてしまった。遺憾の意を表す。
十分程度考えた挙句に選んだのはSU-100という駆逐戦車である。日本戦車の方がカッコいいのに何故わからない。
ちなみに十分間の間に模擬刀が飾られているところで品定めをしていた。
木刀で素振りをするのもいいが軽い、本来なら真剣が最適なのだがまほにあげてしまった。
したがって俺は素振りのために模擬刀の購入をした。なお案外値が張る品物が多いなか、装飾が少なかったためか安値の物を買えた。
彼女らはそんな俺を見て鼻で嗤っていた。刀は日本男児の宝である。
何がともあれかなり良い買い物ができたとご満悦気味のカチューシャ。
さて夕暮れになってきて帰る頃合いだと判断した俺は学園艦へと戻ろうとする。
「待ってください、まだ私の買い物が済んでいません」
「あっ、そうだった」
「私は帽子が欲しいので帽子屋へ向かいましょう」
「だな」
俺はノンナがどんなのを買うのか楽しみにしていたが買ってきたのは、彼女の外見とは不釣り合いの帽子だった。
毛糸で作られた愛らしくも暖かそうなニット帽でそんなのを被るのかと驚いたが、彼女は察しろと言わんばかりの雰囲気を醸し出す。
ふと思考してみるとカチューシャのためかと判断できた。そのカチューシャは俺の背ですやすやと熟睡しており、秘密のプレゼントとして購入したそうだ。
忠臣のノンナならではの贈り物だとふと笑う。
どんなに冷淡を演じていても慈愛というのは隠し切れないのだと深く実感しつつ、窓を鏡に映る俺自身を見る。
夕日が自身の顔を温かく染めているのに対し、影の部分が濃く表される。
その風貌が俺を表現していると考えるとまさにその通りだと感知してしまった。
楽しくも哀しくもあると―――――
KV-2の車内で焚き火を起こそう!
めっちゃ煙そう(小並)