日本兵 in the ガルパンworld!!   作:渡邊ユンカース

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ここからは日本兵の一人称視点となります。
一人称視点は経験少ないから、お兄さんゆるして


戦車少女

拝啓、天国に居る国別軍人ども。

俺は今、ここが何処で何をすればいいのかがさっぱりわからん。

訳も分からずに陸王が置かれ、サイドカーには一日分の衣服と通帳、さらには家の家宝であり、忌々しい神様に没収された日本刀がありました。通帳には二百万円という大金が入れられていて、円が万の単位で仰天していたところに置手紙で説明された。時代は変わったとつくづく実感したぞ。

拳銃には弾は入ってはいないが整備は行き届いている。日本刀もそうであって不思議だった。

 

「しょうがない、動くか」

 

兎に角俺はこの場から離れることとした。生前の沖縄戦で幸い陸王は運転したことがあるから動かせる。アメリカ兵が言うハーレーダビットソンにもいつか乗ってみたい。

俺は座席に跨り足のペダルを踏み込む、するとエンジンが唸りをあげて排気ガスを排出する。燃料は満タンで暫くは心配が無いようだ。

 

「あっ、鉄兜しないといけなかったな」

 

サイドカーから衣服などの生活必需品が押し込まれた麻袋を取り出した。中を弄ると鉄兜と航空眼鏡を取り出した。まったく面倒な世の中になったことよ、煙草もあったことだし吸いながら運転することにするか。

俺はマッチを擦って口元の煙草に点火する。紫煙が空中に漂い、肺に流れ込んだ。中毒ともいえる人間が存在するように一時的な快楽に包まれた。

 

「やはり、生きてる時に吸うのが一番だ」

 

死者の時は煙草を喫煙してもさして快楽は得れなかったが、今は比べものにならない程の快楽が体を包んだ。一服をし終えた後、略帽の上から鉄兜を被り航空眼鏡を顔に付ける。日本刀と拳銃はサイドカーの中に隠してある、下手したら警官に捕まってしまうらしい。

 

「今回こそ行くとするか」

 

アクセルを捻り、陸王を動かした。時速六十キロで心地よい風を体全体で浴び、座敷から細かな振動を感じ取ることができる。航空兵の友人から聞いたが、あちらはさらに振動が激しくて座席が硬いので痔になるという。けど飯などで好待遇や給料が高いのでかなり羨ましい。

煙草を吸い終えて即席で取り付けられる携帯灰皿に差し込んだ。煙草内からタバコの葉が出てきた。にしても路地は田舎特有で小石が転がり、それを轢いて陸王が跳ねてあぜ道に入りかけそうになる。そう簡単に速度を出せないのが悩みだな、夜になる前に町に出たいものだ。

まっ、そうそう車があぜ道にハマるなんてことはなさそうだし。

 

 

その瞬間、遠くに黒鋼の大きな物体が道路のはじに映った。俺は上部から長い棒が刺さっていることを確認すると陸王を停めて態勢を低くする。サイドカー内の日本刀と弾無し拳銃を取る。

 

「ちくしょう、何で戦車があるんだよ!」

 

まさかこの場に戦車があるとは思わなかった。沖縄で嫌という程見たから強く覚えている。にしてもここまで戦車が迫っているとは新たな戦争が始まったのか、これからどう立ち回ればいいのだろうか。こんな時の何でも麻袋に任せるとしよう。

ガサゴソと探ると双眼鏡を発見した。流石便利麻袋だ。もしかすると手榴弾も有ったりしてな、ははははは!

 

すると一個、コロリと手榴弾が転がり出て、思わず顔が青ざめる。

 

「……多用は厳禁だな」

 

肝に銘じながら俺は双眼鏡で謎の戦車を覗く。

普通なら屈強な兵士が居るはずなのに二人の女子が乗っかっている。一人の少女は泣き、もう一人は慰めている。

どうやら心配には及ばないようで安心した。戦う武器が日本刀だけだしな、手榴弾あるけど。

 

俺は鉄兜を脱ぎ捨てて陸王のエンジンを切る。ゆっくりと徒歩で接近するとあちら側も気づいたらしい。何があったのだろうか、こんな戦車と女子が合わさっている絵なんてそうそうないぞ。普段は女子じゃなくてむさ苦しい男だ。

 

「おい貴様ら、何をしているか」

「ひっ!?」

 

声を掛けた途端に一番小さな女子がもう一人の女子の後ろに隠れてしまう。

うわっ、こんな反応されたのは初めてだな。かなり心にくるものだ。けど事情を訊くには他ならないが。

それに警官が迫っても逃げれることだろう、本土でぬくぬくとしていた者に俺が負けるものか。……本土まで敵が来る時代なら解らないが、というか拳銃で撃たれたら終了だな。

 

「……今戦車が動きません」

 

はっ? これ動くのか、破壊されていないのか。見るからに旧式であるから戦力にはならないだろう、仕方ない俺が直々に破壊してやるか。

 

「よし貴様らは離れてろ。手榴弾を燃料タンクに挿して破壊する。弾薬もあれば周りと内部に配置して破壊を―――」

「違います。これ私たちのです」

「はあっ!?」

 

おいおいマジかよ、こんな女子が兵器を所持できる時代が来るとはな、恐ろしい。確かに欧州では航空機を各自で持てるというがそれが日本で起きるのか……。てか今戦争から何年経過した?

 

「なら無線機で親を呼ぶのだな、取り付けているはずだが」

「それがはまった衝撃で壊れてた」

「そ、そうか」

 

無線機が壊れるとかどのくらいの速度で突っ込んだんだよ。海軍の零戦の無線機か。けどあれは無線を使えないからそれ以前の問題だ、その点陸軍って凄いよな無線や防弾性もあるし、海軍は自慢のお船で陸軍兵士を運べばいいのだ。

陸軍は独自の輸送船を造船するのだ。さすれば予算もこちら側が多く貰える。

 

「それでどうする。家まで送ろう」

「……知らない人には連れていくのはよくない」

 

かなり警戒されているようだ。まあ見ず知らずの男が自身に都合の良いことを言ってるからか。ならば、イギリス兵から教わった話術を披露するか。

 

「ならば俺の後ろに乗るがいい、戦車の部品で長い得物持ってばいい。鉄兜はお前らに渡す。不審な動きをしたのなら得物で俺の頭を殴れ。その小さい嬢ちゃんはサイドカーに乗せよう」

「……確かにそれなら。いやしかし―――」

「よし話は決まった。来い」

 

相手が考え込んだら間髪入れずに決めるのが一番だとイギリス兵が言う。流石鬼畜米英汚い。

そして彼女は何処からか取り出した鉄パイプを装備する。小さい方も連れて俺の陸王までやってきた。俺はサイドカーの荷物を足元の出っ張りに掛けてエンジンを起こす。

陸王は再度心地よい唸り声をあげる。小さい方はサイドカーに大きい方は俺の後ろについた。

 

「お姉ちゃん、ふかふかしてる」

「ははは、そうだろう。新品同然だからな、ほら鉄兜被ってろ」

「お、大きくて重い……」

「そうでなければ破片が刺さるからな、貴様は航空眼鏡だ」

「おじさん」

「おじさんじゃない! まだ二十三歳だ!」

「ごめんなさい、老けて見えたから」

「俺の名前は……」

 

言葉が詰まる。思い出せない、俺の名前がどうしても思い出せないのだ。長い間自身の名前を呼ばれなかったことの弊害か?自分が思い出せるのは……

必死に脳裏の記憶を呼び覚まそうとする。自分が戦った戦場、部隊、そして死に場所。ちくしょう、駄目だ思い出せない!

 

「どうしたの?」

「……すまないな、俺はどうやら名前を忘れてしまった」

「お名前無いの?」

「悪いな小さな嬢ちゃん。俺は長い長い間、呼称で呼ばれていたからな。頑張っても伍長だったことしか思い出せない。……ははは、ツラいものだな当たり前のことを忘れるということは」

 

思わず自嘲の嗤い声をあげる。母親が折角俺に付けてくれたというのに忘れてしまうとは、なんて親不孝者だろうか。生前は十分な親孝行をすることもなく母親を亡くしてしまった。たった独りで俺を育てあげてくれたのに、こんなことになるなら生きている内に母親に感謝すればよかった。あぁちくしょう、ちくしょう……!

罪悪感と自責の念に駆られ涙が目頭に浮き上がる。唇をこれでもかという程に噛みしめる。

 

「……ごちょう」

「あ?」

 

後ろに乗った女子が告げた言葉に半分涙声になりながら応える。

 

「貴方の名前は伍長、これなら貴方を呼べます」

「うん、伍長! いい名前!」

「ッ!?」

 

この二人の放った言葉が俺に刺さる。だが冷たくも痛くもない、むしろ暖かみを感じた。伍長という安直な名前でも十分だ。彼女らは折角名付けてくれたことを無駄にはしない、己の名前を思い出せるまで俺はこれで突き通すことにしよう。

 

「ありがとうな、お嬢さんら」

 

感謝を述べ、彼女らに笑顔を向ける。彼女らも安心したらしく大きい方は微笑み、小さな方は満面の笑みを浮かべる。アクセルに手を伸ばし、短くアクセルを捻ると短くエンジンも応えてくれた。

 

「さあお嬢さんら、しっかり捕まってろよ!」

「わーい!」

 

アクセルを思い切り捻ると陸王は前へ前進する。これが俺の再出発なら、幸せな出発を切りたいものだ。

今度は、平和な世界に産まれて生きたいものだ。

陸王は荒い道路を駆けていく、三人の幼い人間を連れて。

 




意外に主人公は若いんだよなぁ、それと年は取っても姿には現れづらくなっているゾ

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