日本兵 in the ガルパンworld!! 作:渡邊ユンカース
そして今回は煙草とクスリの描写があるのでご注意を。
私はどちらの使用も反対派です。
闇が深い。
まだ秋の八時だが学園艦の現在地によって、どうしても暗くなってしまう。
吹雪いているためか、唯一の明かりでる月がその姿を隠しているので辺りは酷く暗い。とはいえ、月が出ていたとしてもさして変わらないものではあるが。
普段の時間帯は、雪が積もる音や吹雪いている音に落雪時の音と自然から生み出された音が全てなのに対し、今夜は機械音と金属が軋む音が元々の音らを掻き消していってしまう。
新雪は十トン前後の鉄で造られた巨体によって踏み潰され、硬くなる。
その鉄の巨体の中では三人の少女が各々の役職に努めており、うち一人がキューポラから半身を乗り出した。
ヘルメットから前髪が飛び出している茶髪の少女は双眼鏡で辺りを見渡し、たった一人の敵に向けて索敵を行っていた。
「ちっ、何処にもいないわね。あの男」
車長の田辺は舌打ちを鳴らし、吹雪いて寒い外から無風だけど寒い車内に戻り、キューポラに組み込まれている覗き穴から再度辺りを見渡す。
「もう八時を回ったのに居ませんね」
「私たちもしかして放置されたんじゃ……」
「はあっ!? そんなことされたらあの男を徹底的に弄べないじゃない!」
「いやこれは仮定の話ですから……」
もしもの話に激しく激怒する田辺に肩をすくめる操縦手に「案件は案件だがそこまでしなくとも……」といった感情が込み上げる砲手。
田辺はどっかりと普段行っている仕草とはほど遠いモノで、貧乏ゆすりや爪を噛んでいた。
元々伍長に対し無関心であったが、カチューシャへの怒りの矛先や今までの鬱憤にストレスを向けていた。
そして何よりも伍長に向けられている感情は
もしもこの戦いで自分が負けてしまえばおそらくは伍長がこのいじめのことを教員に報告し、次期隊長どころか学園を退学しなければならない。
その考えが彼女を狂気へと導いた。
伍長のことを考えるだけで腹が無性に立ち、ガンガンガンと足で床を踏み鳴らす。
滑り止めのために取り付けられたブーツの金具がより音を助長させた。
また、本来ならばやってはいけないようなモノをポケットから取り出して口にする。
「ちょっ!? それって煙草じゃ…!?」
「そうよ、何。何か問題でもあるの?」
「流石にそれはマズイってやめなよ!」
「そうだよ!」
二人は彼女を必死に止めようとするが、制止を振り切りマッチで火を点けた。
一口吸ってから彼女は狂気に染まった目でその二人を見つめながら事実ともいえる言葉を言い放った。
「いじめを一緒にしてたんだから今更いい子ぶらないでよ」
何処からか取り出した可愛いらしい折り畳み式の手鏡、しかしそれは自分を映すための鏡ではなく、ただそう見えるだけに加工された灰皿だった。
吸殻を落としてからまた口にする。
「け、けど田辺。いつから煙草を吸ってたのさ」
「いつって中二からよ、付き合ってた彼氏が煙草を吸ってて勧められたの。発覚しないように口臭にも気を配ったわ」
「……そうなんだ」
「あーあー、本当にあの男のせいでこうなったのが腹立たしい。早くぶちのめしてやりたい」
煙草を吸ったことで多少は落ち着いたのか激しい挙動を見せなくなった田辺であったが、依然として感情の高鳴りは衰えていない。
すると彼女は箱から二本の煙草を取り出して火を点けた。
「ねぇ、貴女たちもどうよ」
「えっ?」
「わ、私はいいかなって……」
「いいから吸え」
「う、うん……」
「……わかったよ」
二人は煙草を口にして一度吸いこんだ。
一度はむせたが、何故か二度目を吸い始めたくなって再度口にする。
吸ったら吸ったらで怖気づいて萎えていた気持ちが、不思議と元気に、いや普段以上の高鳴りを見せたのだ。
動機が早くなり、目に血流が集中しているのがわかる。それに脳がより活性化しているのが体感していた。
ハイになった砲手がこの煙草について問う。
「ね、ねえ! これが煙草なの!?」
「えぇそうよ。厳密には少しばかし違うけど中の葉っぱが変わっただけ」
「そんなんなら早くやればよかった!」
「うんうん!」
確かに葉っぱが変わっただけだが、大きく異なるモノだった。
これは覚醒剤。
所持をしているだけで捕まるこの薬物の効能は集中力を底上げして、恐怖の類を薄くしたりと一見便利なモノだと錯覚するが、恐ろしいのはその副作用だ。
過労と栄養失調、それに依存性が高く心臓にも負担がかかるところだ。
実際、ヒロポンとして世間に出回った十年以内に自主回収、1951年に覚醒剤取締法が制定されたりと危険な薬物であり、一時は収束したかのように思えた。
だが、安価で製造が可能な手法により多くが流通し、皮肉にも覚醒剤取締法が価格の上昇を手助けるという事態になってしまったのだ。
追撃として、現在はSNSの普及にグローバル化が進み学生や子供にも購入できる社会になってしまった。
不意に覗き穴を覗いた田辺は、廃村の方角から信号弾が打ち出されたのを確認した。
酔狂しているのか不敵な嗤いを溢し、彼女は二人に語り掛けた。
「さあ憎き敵を殲滅しましょう、自分は廃村に居ると自白してくれました」
「了解!」
「はい!」
「―――――さあ、みすぼらしいキツネを狩りましょう」
口角をより一層高く釣り上げて嘲笑しながら彼女は打ち倒すべき敵へとエンジンを唸らせ、履帯を鳴らしながら進行した。
「市街地戦、いかにも歩兵が考えそうな浅はかなものね」
廃村を目の前に田辺が呟く。
実際は戦車にとって市街地は勝手が利かない戦場で、機動力に勝る歩兵が対戦車装備を所持して戦い、撃破するのが多い。
なので戦車には随伴歩兵が必要なのだが、戦車道対歩兵道という構図なので有利にはなれない。
しかし、たかが歩兵一人には限度があると彼女らは感じていた。
いくら機動力の利く歩兵とはいえ、やれる攻撃には限りがある。収束手榴弾や火炎瓶による攻撃が全てだと想っていた。
結論からいうと、近接しなければ勝てるということだ。
歩兵に対する戦車の対抗としても機関銃が二門取り付けられている上に、対戦車の武装は重いので動きが鈍重になりやすいところだ。
分が悪いだけでこちらの勝率依然として高いままで悪手を打たねば勝てる試合。
「せいぜい逃げなさい、愚かなキツネさん」
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とまあ、相手は考えるだろう
俺はその逆をいく。
「て、敵が百メートル前にいます!」
「なんですって!?」
「しかも待ち構えていたと言わんばかりに立っていますよ!」
「……何か、何か持っているようにも見えますが!」
「この距離で持っている武器――――まさか!?」
そろそろ頃合いだと想って信号弾を撃ち教えてやったんだ。
それなりに楽しんでもらえないと困るな。
さて、アホに重いコイツの出番が回ってきたわけだ。
俺はアキレス腱や太ももを伸ばす運動のように股を開き、気温で冷やされ重い鉄の長物を腰の横になるように持つ。木製のハンドルに手を携えてから、ただでさえ固い引き金を引いた。
戦車や銃器を知らない人が聴けば大砲の砲声だと勘違いされそうな音は、ハイになった彼女らの思考を冷静にさせた。
直後、車内に衝撃派と耳をつんざくような金属音が頭に響いた。
「バカじゃないの!? アイツは何故――――」
「
「二射目来ます!」
「一時停止ッ!」
車体を停車すると同時にまたもや金属音が車内に響き渡る。不快かつ信じられないものを見るように撃った張本人に目を向けて罵声にも似たモノを吐き捨てる。
「対戦車ライフルなんて腰だめで撃つ一品じゃないのよ!?」
「かなり衝撃はくるな、これ」
まだ二発目だというのに腕がジンジンと痺れる上に痛い、それがあと弾倉内には三発も残っているわけだ。耐えきれるかは正直怪しいのだが、カチューシャの受けた痛みと苦しみに比べたら大したものではない。
では、全て撃ちならしてしまおう。
三連続で紡がれた銃声は的確に戦車へと向かって発射され、二発は戦車に命中した。
だが、立って撃つことに重視した構えでは貧弱な部位には撃ちこめないため、有効打にはならなかった。
「五発の銃声で終わった…? つまりアイツはシモノフPTRS1941を撃っているわけね」
「どうしましょう?」
「機銃で攻撃しつつ前進」
「はい!」
戦車からは暗闇と吹雪の中からでもわかるように二門の機銃が放たれているようで、後ろに掘ったタコツボに逃げ込んだ。
頭にヒュンヒュンと弾が通過しているのがわかる。あぁ、まるで戦争そのものだ。
嫌いなはずの戦争なのに何故か愛着と心の高ぶりが止まらない。
機銃が止んだので、潜っているうちに弾倉を交換した対戦車ライフルをタコツボに半身を隠した状態で撃つ。
上手く履帯を切って接近しようと試みるが風の影響からか中々命中しない。当たったとしても傷ついているだけだ。
思わず舌打ちを鳴らす。
「敵との距離が五十メートルを超えました」
「なんなら踏み潰してあげたいけどつまらないわね……」
「ッ! 敵動くようです!」
対戦車ライフルの弾丸を消費し尽くしてしまった。
これはいかん、さっさと後退しよう。無論、無用の長物となったコイツを置いてな。
僅かに地表より掘り下げた廃村中央へと向かう道に沿って俺は走る。
「せっかくだから撃っちゃおうか」
「まさか砲をですか?」
「そうよ、バーンと撃っちゃいなさい。貴女ならいけるわ」
「わかりました」
本来ならば砲で人を撃つという躊躇い、どんな状況でも最後の良心により拒むはずの行為が覚醒剤の影響か引き留める機能が正常に動かなかった。
照準を俺の近くに合わせて砲を撃つ。
榴弾は俺の数メートルに着弾し爆ぜる。その爆発に俺も巻き込まれた。
爆風により吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「ガハッ!?」
息が苦しいし視界がぼやける……。
どうにかして立ち上がらなければ……。
幸いにも吹き飛ばされたのが建物の陰となる場所であったため追撃は受けない、壁に手をついてなんとか立ちあがった。
しかし、やけに左足が熱い。視線を投げると榴弾の破片が突き刺さり、血が来ていた軍服に染み込んでいた。
どうやら経年劣化により歩兵道の装備は機能しなかったらしい。現に撃破判定を示す印も光ってはいない。
「あぁ
脂汗が額から染みだしながら俺は口角を上げて、あとからきた激痛をカチューシャ想いで誤魔化す。
血液が一滴、また一滴と地面に垂らしながらも俺は廃村深部へと姿を隠した。
「どうやら内部に侵入したようね」
「はい、追撃しますか?」
「無論よ。手負いの状態なら派手な動きもできないでしょうよ」
田辺は勝ち誇ったかのように鼻をならして指示を出す。戦車は指示に従い、キュラキュラと足を回し雪を踏み固めていく。
薬を使用しているためか、彼女が無駄に陽気な歌を口ずさむと車内の搭乗員に伝染し、女子会か誕生日会のようなモノへと遂げる。
もはや戦勝気分であった。
そう、だからこそ彼女らは気づけなかった。
自分らが罠が張り巡らせた巣穴に踏みこんでいってしまったことに。
二軒三軒と民家を通過すると、突然何かが断絶される音がする。
部品の故障かと田辺が覗き穴から確認するとその正体を視認し嘲笑う。
「はっ! そんなワイヤーじゃ戦車は止められないわ。戦車が開発されたのは前線を突破するためなんだから」
彼女は特に何事もなかったかのように車内に戻る。
しかし、暫く動いていると不思議と操縦するためのレバーを上げても動かない。操縦手は何度もレバーを上げ下げしたり、前進後退をさせようとするも戦車は寸毫も動いてはくれない。
「戦車が動きませんッ!」
「何ですって!?」
涙目で訴える操縦手に田辺は慌てた様子で反応し、唇を噛む。
―――――ハメられた……ッ!!
あのワイヤーの意味は確かに止めることではあった。
だが、履帯や部品に絡ませることで戦車は止まることを知らなかった。
足回りが動かないことを当然お話し知らないわけではない。
俺は物陰から火炎瓶に火を点けて戦車のエンジン部目掛けて投げ込んだ。ガチャンとビンは割れて油が広がることで火も燃え広がる。
「あ、危なかった……少しでもズレていなかったら白旗判定だわ……」
投げ込んだ火炎瓶は惜しくも戦車を撃破するには至らず、投げ込んだであろう方向へ砲塔を回す。
マズイと直感した俺は急いでその場から退避し、数秒後に轟音を響かせて建物を倒壊させる。
「まだアイツは仕留め切れてはいない! 次弾装填ッ!!」
「は、はい!」
二発目が隣の建物に目掛け撃ち込まれる。そして三発目、四発目と撃ち続けている。
あらかた障害物は排除しようとしているのだろう。瓦礫の山に身を伏せてことを得ようとしていた俺だったが、吹き飛んだ破片が頬を掠める。
「無茶をする搭乗員どもだ」
頬から血液が滴るも袖で拭き取り、腰につけていた収束手榴弾に手を伸ばす。腰には模擬刀と収束手榴弾が一つついている。
――――――さて、そろそろ決着を付けようじゃないか。
俺は土煙が舞うなか、おぼつかない足取りで横から戦車へと近づく。
煙幕として土煙を利用するも吹雪いているためか途中で晴れてしまう。
相手も歩み寄る俺に気づいたらしく、砲塔を向ける。
「ここまできたら榴弾で仕留めなさい!」
「しかし榴弾がもうありませんよ!」
「なら徹甲弾!」
「持ってきていません!」
「機銃掃射よ!早く!」
凄まじい音と連射で全身に撃ち込まれる何十発もの銃弾。
実弾ではないとはいえ殺傷力は少なからず有する。
何発も身体に受け痛々しいアザを作り、流血するも依然として前へ前へと前進する。それはブレーキの壊れた重戦車のようで足取りが遅くとも一歩一歩と前進を繰り返す。
目は何かにとり憑かれたかのように虚ろで生気がない、腹から込み上げてきた血液を吐血する。
車内では搭乗員誰しもが発狂し喚き引き金を引く。
薬を使用して恐怖を忘れたと思ったのに、俺の現実離れした行為に恐れおののいていた。
もちろん田辺も例外ではなく、言語とも取れない猿叫を発していた。
「悪魔が来るわッ!!早く殺しなさい早く早く早くッッ!!!」
「うわああああああ!!」
カチカチッと機関銃の弾が切れたのを暗示する音が小さくなる。
この小さな音に彼女らは大きく絶望した。
もう何も抗うことはできない、何もすることができない。
何処から分泌されたかわからない液体が顔中を濡らし、反抗心が消えうせてへたり込む。
そんな風になっているのを知らずに、集束手榴弾の栓を引き抜く。
もう投擲できる距離だ。火薬がびっしり詰められた一品を投げると集束手榴弾が戦車の装甲に当たった瞬間に爆発を引き起こした。
爆風に吹き飛ばされた俺は背中から地面に打ち付け、一時的な呼吸困難を招き悶絶する。
頭だけを上げてその後の戦車を確認すると、キューポラからは白旗が吹雪でなびいていた。つまりは勝ったのだ。
腰に付けた模擬刀を抜いて地面に刺して杖代わりに用いる。
俺は彼女らを放置して強烈な吹雪の中を徒歩で帰ることにした。もうこれ以上戦っても意味はないと察していたからだ。
一時間掛けて戻ると顔を赤子のように泣き腫らしたカチューシャが俺に抱き着こうとする。
けれど、現に俺の全身は血塗れで彼女が触ったら白い肌を汚してしまうので「汚れるから触るな」と言う。
それに彼女がいじめられていたという事実に気づけなかった俺は不甲斐なさにかられた。
「カチューシャのせいで伍長は……!!」
「俺を気にするな。ただでさえ使い捨ての駒なのだから」
「そんなことないから!」
俺の制止を振り切って彼女は俺に抱き着き、白い柔肌が不自然に赤く染まってしまった。
罪悪感と彼女の優しさを受けながら頭を撫でる。
撫でていると徐々に眠気が増して、手に力が入らなくなってきた。
「少々……血を流しすぎた…少し……ばかり…寝る……」
「伍長!? 起きてよ伍長!!」
膝から崩れ落ちる俺を小柄な彼女は必死に支えながら声をかけ続ける。
目覚めを促す声を聞きながら俺は夢の奈落へと落ちた。
対戦車歩兵道流行れ
パンプキンシザーズという漫画の戦い方と一緒です。
アニメ化もされてるので観てください(ステマ)