日本兵 in the ガルパンworld!! 作:渡邊ユンカース
これからもお願いします。
拝啓、天国に居る兵士諸君。
俺は現在、西住家でグータラ三昧を送って過ごしています。
きっとお前らは書類の納期やらで忙しく働いていることでしょう、大変そうですね。
……まあいつもだったが。
まあ煽るのはここまでにして、春になってきたということで道路の脇に植えてある桜や敷地内の桜の花が咲き乱れました。
一欠けら一欠けら、幻想的に落ちる様子はいつ見ていても飽きることはない。雨よどうか降らないでくれと日々願っております。
ただ一つだけ、桜についての悩みがあります。
それは毛虫です。先日、掃除をしている最中に毛虫の毛に刺され、大変痒かった思いがあります。
それさえ無ければ完璧とも言えるのに。
では兵士諸君、元気でやってください。
あんなにも寒かった冬の寒気は何処かへ吹き飛び、今日もポカポカ陽気で辺りを温める。
色々な野鳥が独自の鳴き声で春を祝う。
花々は春を祝うための旗を用意し、春風が優しく鮮やかな色々旗を揺らしていく、まるで凱旋パレードのような感じだ。
山に生息している動物たちも深い眠りから覚め、空っぽの胃袋を埋めるために木の実を喰らう。冬を越した獲物を喰らう。
西住家では剣道場から聞こえる掛け声にも心なしか元気があるようにも思える。
産休から復帰した本来の女性講師が活を入れているのも聞こえた。二児の母らしいが元気なものだ。
そういえば俺も彼女とお手合わせ願ったことがあったな。
剣道だけという縛りではあったが流石は西住流の剣道講師、男と女という体格の差を押し退けるほどに上手で、ついつい本気を出してしまった。
結果としては引き分け、いい勝負だった。
その後、やや生徒から引かれてしまった。生徒から訊いたのだが彼女は全国一の女性剣士らしい。
通りで強いわけだ。俺にもし戦場での勘が無かったら負けていた。
昔に沖縄戦でサーベルを腰に携えた米兵と剣を交えたな。あの剣士、素晴らしい腕前であったな。まあ一分の戦闘の末に俺が斬殺したが。
流石にもう一人米兵がいたのだが疲れ果てて追跡できなかった。
そんな声を聞きながら俺は縁側で横になり、傍に三本の三色団子と一杯のお茶を置いて庭に立派に咲く一本の桜をぼんやりと見ていた。
それこそはまさに魂を抜かれた亡霊のように。
「あー暇」
心に思ったことを口に出し、俺は三色団子を手に取り食す。
もちもちとした触感にあとから来る甘さを楽しみながら一本目を食べ終える。そして二本目へと伸ばして口にする。
だらけていた自分に活を入れようとしたのか、春風がひゅるりと音を立てて吹いた。
すると桜の花びらがひとつ、被っていた規格帽のつばに乗っかる。無論、当の本人からは乗っかったこと自体を知らない。
砂が三色団子とお茶に入っていないことを確認しただけだった。
「ちょっとそこ退いてもらってもいいですか?」
「ん? あぁ、菊代さん。すまないな、今動く」
西住家の家政婦を勤める菊代さんは、かつて俺がプラウダの学園艦で働いている時に雇ったらしい。確か本名は井手上菊代と聞いたことがある。
長い黒髪を後ろに一本纏め、よく緑色の着物を着ている。昔ながらの大和撫子といったものだ。
年齢こそはわからないものも、容姿が端麗だ。本音をいうと俺の好みの範疇である。
「くすっ、伍長さん。頭に桜が」
「むっ」
菊代さんが俺に頭の指摘をする。
帽子を外すと同時にひらりひらり舞い落ちながら床へ落ちる。
まさか自分の頭に桜の花びらが付いていたとは、少しばかり恥ずかしいな。幼い少年少女みたいだ。
羞恥心を感じながらも感情を抑え、己の顔を赤らめるような表情を取らなかった。理由としてはそれこそ少年のような仕草だったからだ。
外していた帽子を再度被る。
「菊代さん、指摘感謝する」
「別にその程度で感謝しなくても……って随分とその帽子傷んでますね」
「あぁ。この帽子はもう何十年も被っていましたから」
「ふふっ、ご冗談が下手なんですから。私が手直し致します」
「えっ、できるのか?」
「勿論ですよ。裁縫は大の得意なんですから」
彼女はかなりの自信があるのか胸を突き出して自慢げになっている様子。そして胸を張っているためどうしても胸部が強調される。
別段大きくもないその胸を、俺は彼女から見てバレない程度にチラチラと視線を移す。
やはり和服は最高だ。
「にしても伍長さん、雑に修復してますね。これってただ類似する布を縫い合わせただけじゃないですか」
「仕方ないだろう。俺はこういうのが苦手なんですから」
「もう駄目ですよ。これからは男も家事をする時代なんですから裁縫もできないと」
「わ、わかった」
顔を接近させる菊代さんに俺は身体を反らせるように一定の距離を置いた。
うーん、料理は普通なのだが裁縫はなぁ……。てか馴れ初めの際にみほが発砲してできたところを巧妙に隠せたと思ったのだが、案外バレるものなのだな。
帽子が傷ついた主な原因はプラウダに居る時とみほの発砲だけか、あながち少ない。
「では今度一緒に裁縫のお勉強をしましょう」
「は、はい」
くっ、勉強会ができてしまった。
この時代を生き抜くためには必要だから大人しく履修しておくべきか……。
「場所は私の家でしましょう」
「……ん?」
今彼女はなんと言った?
彼女の自宅? 自宅と口にしたよなこの人。
……これは一種のチャンスなのではないか!
百人の男が見ても美女と答えるだろう女性と一緒だと、これはいい機会だ。好機だ!
お酒を持って一緒に晩酌をしてなんかエッチな雰囲気になったら双方の同意の上で……。
さあ、その封印を解いて二つのお山を拝んでやるぞ!!
大きさは大山かな蔵王かな?
「菊代さん、いや菊代先生! 私は何故か無性に貴女の裁縫のご指導を受けたくなりました!」
彼女の肩を掴み、意気込んて言い放つと彼女は突然の俺の行為に動じていた。
ふっ、彼女の性格がわかった。押しに弱い類だ。このままいけば確実にいける。
「そ、それは何よりだわ」
「なので今日足を運んでも―――――」
俺が全てを言い終える前に、先の温かかった気温が故郷東北の真冬を思い出させる如く凍りあがった。電光石火の速さで悪寒が身体を走る。ピリピリと空気が張りつめているのがよくわかる。
背中に重く圧し掛かる何とも言い表せないような重圧が俺を押し潰し、いつしかノシイカのようにされてしまいそうである。
呼吸が徐々に乱れつつも俺は振り向いた。
「―――――お裁縫のお勉強ですか」
背後には鬼が存在していた。
黒いスーツを着こなし、長い黒髪をした鬼を俺は知っていた。
「し、しほ殿……」
「ぴゃい!」
顔を引きつらせる俺と奇妙な悲鳴を上げる菊代さん、菊代さんに関しては顔を青ざめて上下に小さく震えている。
しほ殿は持ち前の威圧感をさらに放出しながら俺の元へと迫る。どさくさに紛れて菊代さんも、しほ殿が近づいてくるにつれて一歩ずつ後ろに引いている。
逃れることのできない状況に陥った俺は必死に弁解の言葉を模索する。
「伍長、お話があります」
「も、申し訳ありませんが今から庭の掃除を……」
「お話があります」
「……わかりました」
もっとも、導き出した応答としてはあっさり看破されるようなお粗末なものだった。
彼女の威圧に負けて渋々客間に連行される俺を、菊代さんは一部始終視線を逸らすことはなかった。彼女の眼差しはまるで哀れな者を見るかのようなモノであった。
客間まで連行された俺はこれから何が行われるかを考察したため、顔を真っ青にして俯いた。
ガソゴソと革の鞄から何かを探しているように思えるしほ殿から察するにきっと解雇届けに違いない。西住家が無かったら俺は一生野宿するハメになるだろう。
この家が最後の砦なのになぁ……。
しほ殿は目当ての物を見つけたのか机の上に一枚の紙封筒を提示する。普通の書類が入る大きさだ。
紙封筒を手に取り封を開ける。俺に渡す前に彼女が開封したのか前もって封が切られていた。
心臓の心拍や血液の鼓動が速くなる中、中に封入されていた一枚の書類に目を通す。
書かれていたのは解雇届……ではなく一枚の記載済みの履歴書であった。
「な、何ですかこれ? 俺の履歴書ですか?」
「そうです。貴方のために辻褄を合わせおきました」
「はいィ?」
確かに名前はデタラメに記載されている。
それと住所は現西住家の住所から隣の廃屋となっている。流石にそこで寝泊りしたことはない。
唯一、正確なのは年齢だけだ。ちなみに二十六歳と若い。
「なんで欺瞞に溢れた履歴書を? 処されますぜ」
「そのことに関してはご安心を」
「はっ?」
「何故ならうちの管轄内だからです」
「……すまない、俺は頭が悪いので。つまりはどういうことで」
「貴方は今月から黒森峰の学園艦にて働くことが決まりました。用務員として」
「……えっ」
突然暴露された真実に俺は唖然とした。
まさか自分が勝手に就職するようになるとは誰が想おうか。目頭をつまみながら俺は彼女に問う。
「何故俺が黒森峰で働くことに?」
「それは至極簡単で働かざるもの食うべからずだからです」
「……掃除してましたよ?」
「最近は我が家に腕のいい家政婦さんが存在するでしょう。縫物もできなくて常に怠けている人は要りませんから」
「……ぐうの音も出ない正論です」
確かにそうだった……。
あーちくしょう、もう少し真面目に取り組めばよかった。本来の剣道の講師と一緒になって指導すればよかった。やってしまった。
「それに――――」
彼女は追加で言う。
「最近は治安がよろしいとは言えません、以前に人斬り騒動もありました。親の目が届かぬ所で学業に励んでいるまほたちを守ってもらう目的があります」
「なるほど」
いくら厳格な西住流といえども二児の母親であることには変わりようがない。
子供の動向を見守るのは親の義務ともいえる。しかし見守るのには限度がある。
そこで俺の出番というわけか、幸運にもプラウダで働いていた実績もある。
そうなったら返事は決まっている。
「いいでしょう。全力を尽くしましょう」
「感謝します」
「なに、普通のことですよ。俺もまほたちのことは妹分として扱ってますし」
「彼女たちからしたら嫌な兄分だとは思いますが」
「そ、そんなことはない……と予想します」
アハハと苦笑いを浮かべ、頬を掻く。しほ殿は不自然な俺が可笑しかったのか若干顔の筋肉を緩めた。
ともあれ、今月から黒森峰の用務員とまほたちの万が一の守衛として働くわけだ。あらかじめ剣道と剣術を練習しておこう。
剣術に関しては我流ではあるが実戦での効果はあった。このままでいいと感じる。
まっ、産休から復帰した剣道の講師に相手をしてもらおう
久方ぶりに火が灯った瞬間であった。
ノシイカ美味しいですよね。
甘くてしょっぱいのが堪らないですよ。