日本兵 in the ガルパンworld!!   作:渡邊ユンカース

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まほの口調は難し、難しくない?


西住流

さんさんと太陽の紫外線やらが地上に降り注ぐ。夏の風物詩であるセミはうるさく鳴いている。

 

「暑い」

「今日は涼しいよ」

「これでか!?」

 

今日はとても暑いと思ったがこの娘たちにとって涼しいらしい。どのような環境で生きてきたのか、俺が子供の時はもう少し涼しかったと思うのだがな。こんな日は水風呂に浸かったりスイカを食したいものだ。

風が顔に当たるのでさして汗をかいてはいないものも、略帽の中が蒸れて気持ちが悪い。生前は沖縄で三か月滞在していたがここまでは暑くはなかった。ソ連兵を連れて行ったらどうなるのだろうか、興味がある。

 

「寝床どうするべきか……」

「伍長さんは住む場所ないんですか?」

「そうだ。金は二百万程貯金されてはいるがこれからを生きるとなると不安だ」

 

そういや忘れていたけど寝床もないし、これからどう生活すればいいのだ。貯金はあっても一年も持たないだろうし、あの天使めなんなら億ぐらい寄越せよ。

 

「仕事は?」

「ない。いや昔は兵隊で戦地に行ってた」

「た、大変でしたね」

「本当にな」

「伍長伍長」

「なんだみほ」

 

先程に彼女らは自己紹介をしてくれたので嬢ちゃんという表現はなくなっている。サイドカーの方に顔を向けるとこちらに拳銃の銃口が向けられており、思わずたじろく。しかし、さっき点検した時には弾倉と銃弾が入っていなかったので驚いた自分がやや恥ずかしかった。

 

「そいつには弾が入ってな―――」

 

その瞬間、小石を乗り上げて陸王に振動が伝わる。するとみほは引き金を引いたらしく、銃声がのどかな田舎中に響いたあと略帽に穴を開ける。もしも俺の頭がずれていたらどうなっていただろうと想像し、必然と青ざめる。

 

「あっ、あ……」

「み、みほ!」

 

まほが彼女を叱るような口調を放つと彼女は今にも泣きかけそうな表情を露わにする。俺は陸王を停めて、拳銃を優しく取り上げた。

彼女が傷ついているのにも関わらず野暮に叱ったりはしない、おそらく驚かそうとしたのだろうから悪意はない、と思いたい。

 

「大丈夫だ安心しろ、ところで銃弾は何処で見つけた?」

「座席の下に……」

 

落ち着かせながら手を伸ばすとあることに気づいた。みほから拳銃を取り上げる際に彼女の手は酷く震えていた。突然の出来事に恐怖を抱いたのだろうか。

ここだけの話だが実は、俺は今何事もなかった風に接してはいるが、内心かなり怖気づいてたりする。死ぬのには慣れてもいないし、銃弾で死んだ俺としたらかなりトラウマがあるものだ。けど今にも泣きだしそうな彼女の前では弱気にも成れず、ただひたすらに心を騙すしかなかった。

 

「やはり麻袋に無いと思ったらそんなところに、怪我はないようだ。安心した」

「怒ってない?」

「平気だ。昔戦場に居たから慣れている」

「すみません、怪我は?」

「見ての通り元気満々だ。案ずるんじゃない」

「そうですか」

 

略帽は弾が貫通した箇所が酷く解れている。俺の同期で裁縫が上手い高山が居たが今は居ないし天国でも逢ったこともない、また話でもしたいものだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「そろそろ私たちの家です」

「むっ、そうか」

 

彼女らを乗せて二十分が経過した頃、まほが家までの道順を教えてくれた。此処から先は私たちだけで行くと彼女は言っていたが、先程の不運な出来事に疲れて果てたのかみほは寝息を立てて寝ている。まだ幼いまほにみおを背負わせるのはとても気がかりであったので、家の前まで運んでしまおうと思ったのだ。

 

だけどこれから驚く羽目になるとは思わなかった。

陸王を走らせていると長い塀が連なり、地主かそれとも大きな組合の屋敷なのかと想起しているとある門が見えた。それは立派に作られており、道場らしく。看板にはでかでかと西住流と書かれている。

 

「此処です」

「嘘だろ……」

 

苗字が一致すると思ったら彼女は此処の住人らしい、迷子を返したらまさか大きな道場でしたという推理小説にありそうなオチに俺は苦笑するしかなかった。

さらに驚かせる内容が看板には書かれていた。

 

「戦車道?」

 

戦車を所持している理由はこのためだったのかと俺は納得するが、一つ疑問が浮かんだ。

女性が流派などを継げるのか?本来ならこの堅苦しい伝統は男性に継ぐのだから彼女らはお遊びで戦車を動かしていたのだろう。

疑問にふけっていると門が開けられ、中からは容姿の良い女性が出てきた。かなりの美人であり惚れ惚れする程にその女性は美しかった。気品に満ち溢れると同時に吊り目から俺を睨むような眼光を差し向けてきた。この光景はどう見えて人攫いそのものだ。

 

「お前ら早く降りろ、この状態はまるで人攫いに見えるだろ」

「運搬はしていた」

「余計なことは言わないでくれ」

 

彼女らに降りるように諭すと鉄兜を俺に渡したまほは降りて女性に駆けより、何かを話し始めた。事情説明だろう。

一体あの女性はどのような繋がりがあるのだろうか、できれば歳の離れた姉妹なら嬉しい。あの容姿は好みの部類だしな。

 

「……お母さん」

「は?」

 

寝ぼけ眼を摩りながらみほが目を覚ます。やはり現実は非常である。彼女は奥様らしい、悲しげにため息を零す。その行為に疑問を持ったみほがこちらを見つめる。

暫くもするとまほと一緒に奥さんが近づいてきた。かなり上品な方なので思わず身なりを正そうと風で乱れた服を整え、帽子を深く被って陸王から降りる。痛いことを突かれそうなので背を伸ばして立つ。

いちよう謝罪の弁を込めて謝ろうと俺は思う、そうしよう。

 

「この度は――――」

「娘を助けてくださいましてありがとうございます」

 

まさか貴女から謝られるとは思わなかった。

頭を深々と下げられて謝られることには慣れてはいないので情けなくも尻込みする。どうしたものか、俺が次に行えば良い行動がわからない。情けなくはあるが取りあえずは謝罪を素直に受け取り、早々に退散するのがいいだろう。

 

「いえいえ、迷惑をかけてしまい申し訳ない。ではこれで……」

 

みほをサイドカーから抱き上げて地面に降ろす。みほはもっとサイドカーに乗って居たかったのかやや不満気な表情に変わる。姉とは違い顔の表情豊かな娘だと思う。

陸王のエンジンを吹かしてその場を立ち去ろうとした。

 

「事情は聞きました。家がないことや正式な名前もないことも」

「……はい」

 

奥さんにまほは洗いざらい話したようだ。そうでもしないと俺の信用を勝ち取れなかったのだろう。てか、名前の件を言わなかったら俺は無職となるのか。まほには感謝すべきだ。何故なら傍から見れば無職が幼い娘誘拐している風に見えるからな。

 

「私の名前は西住しほと申します。助けてくださった伍長さんには細やかながらもおもてなしをしたいと思いますので、どうぞこちらへ」

「は、はい」

「早く早く!」

「わかった。わかったから強く手を引くな、ずっと座ってたから腰が痛いのだ」

「……案内します」

「すまないがまほ、俺にくっつくな二人とも暑いだろ」

 

途中でどうこうありながらも俺は彼女の家に招かれた。

あと二人が懐いてきて嬉しいのだが大したことはしていないからな、ただ親切心で送っただけだからな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

お屋敷の中は広く、正座しなければ俺自身の示しがつかなかった。みほは家に帰ってこれた喜びではしゃいでいる。まほはというとずっと隣に居座っている。何か俺を嵌める目論見があるかと感じてしまうほどに。

一方みほは俺の膝の上に勢いよく乗っかったせいで、脚が強烈に痛い。俺にも従兄弟が居たがここまで乱暴に乗っかったりはしなかったぞ!

 

「こちらをどうぞ」

「感謝します」

 

スイカと麦茶が三人分お盆に乗せられて運ばれた。みずみずしくて非常においしそうである。涎が零れそうになるのを抑えて俺は勢いよくスイカにかぶりついた。

 

「美味しいね!」

「いやー、久しぶりに美味いスイカ食べました」

「伍長様はどのくらい食べていなかったのですか?」

「そうですね、本当に何年ぶりでしょうかね。前に戦地に行ってた際は夏になる前にスイカ畑は荒らされたんです。それ以降から食えなかったんですよ」

「そうですか、まだまだありますよ」

「それはありがたいです」

 

米軍が艦砲射撃やら空爆で荒らされるから実が生る前に死んでしまうからな、米軍の方では肉の缶詰もあって羨ましい。幾ら陸軍でも滑走路やられたら制空権も取られるし艦船にも攻撃不可だ。海軍が大和を沖縄まで辿り着いてしまえば……。

 

「―――伍長さん?」

「…あぁすいません。つい思いふけってました」

 

どうやら俺は思い詰めてしまったらしい、反省しよう。

だけど今は楽しむとするか、束の間の休日だとは思うが。

 

「失礼ながらお聞きしたいのですが、本当にお名前を覚えていないのですか?」

「はい」

 

唐突にしほ殿は探りを入れてきた。全てを見通すかのような眼差しである。

……まあ流石に怪しいと思うか、当然だ。真実をある程度話すこととしよう。生き返ったとかは言わないが。

ということで俺の話をすることにした。

 

「本当です。所持品を確認しても階級しか情報がなく、困り果てているのが現状況です。申し訳ない」

「いえ、こちらも愚直でした」

「こんな馬の骨を長々と滞在させるのも良くないですので、スイカ美味しかったです」

 

座敷から立ち上がり、身支度をする。荷物は日本刀しかないのだが。

屋敷の大きさから察するに名家であろう、こんな死兵が居ていいわけない。俺が何らかの迷惑を掛ける前に去ったほうがいいだろう。そしてこの戦車道とは関わりのない部外者でもある。

しかたないので適当な小屋でも探して今日はそこで一泊するのが一番だろう。てんやわんやで今日は疲れた

 

「待ってください」

 

しかし、いきなりしほ殿に止められる。何事だと思って振り向いた。

 

「よければですが、この屋敷で働きませんか」

「はい?」

 

……西住家には驚かされてばかりだ。何を思って俺を勧誘するのだろうか、意味がわからない。

困惑する俺を無視し、彼女は淡々と要件を告げる。

 

「戦車道の生徒に剣道を習わすのが西住流の習わしですので。ただし大きな問題がありまして現在講師が産休で不在のため困り果ててましたが、伍長さんが来てくれれば問題は解決できうると思いまして、西住流師範代の身勝手でございます是非とぞお願いします」

「……」

 

彼女は正座したまま頭を垂れて頼み込んだ。

どうやらこの戦車道というのは女性が受け継ぐものらしい、ということはまほたちは未来の家元ということか、大変驚いた。

けど、仕事もないしいつかはのたれ死ぬ可能性もある。それなら講師が産休から帰ってくるまでの間、俺は此処で働くことにするか。

にしても一つ疑問点が水泡の如く浮かびあげた。

 

「わかりました。にしても何故俺が剣道を習っていたと判断できたのですか? まあ自慢ですが軍隊の中では群を抜く実力でしたが」

「それは帯刀している刀を見てわかりました。日頃から振られていた柄の跡や手のタコです」

 

彼女の隙のない観察に舌を巻く。

 

「……西住流はそんなところまで、観察眼が素晴らしいですな」

 

だけどそうでなければ西住流は継げないか、ちなみに試合では船坂の奴はかなり強かった。

 

「みほとまほは伍長さんの部屋まで案内してあげなさい」

「はいお母さん」

「ん? ちょいと待ってください。部屋ですと?」

「はい、ご自宅すらないのなら居候した方がいいかと思いまして」

 

淡々と俺に都合のいい条件を口にするしほ殿に壊れたあかべこの如く首を振る。

……うん、もう素直に甘えよう。そうしかいと相手も面目ないだろうし、それと蚊は嫌いだし。

てかこの家元結構乱暴な気がするのは気のせいか?

 

「はい喜んで、日頃からお手伝いをさせて貰います上、どうかよろしくお願いいたします」

 

かくして俺の西住流生活が始まった。

 




伍長の海軍嫌いは沖縄戦の自軍劣勢を海軍が打破してくれると密かに期待していたからだぞ。
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