日本兵 in the ガルパンworld!! 作:渡邊ユンカース
あれはいつ頃の思い出であっただろうか。
確か俺が六歳の頃だったな、呑気に春風が吹く野原で遊んでいると花が集団で咲いていたところに時代的に珍しい洋服を着た少女が花を摘んでいた。
髪の毛を始めとする全ての部位が真っ白な容姿に俺は思わず目を奪われてしまった。彼女の腕は俺の日に焼けた腕とは違うもので、雪を彷彿とさせ非常に幻想的であった。幼い俺でも生きている世界が違うと思わしめた。美しい容姿に調和するよう洋服の方も白シャツに青いロングスカートを着ていた。自身のつぎはぎだらけの着ものと比べれば差は歴然だろう。
少女は黙々と花弁の色合いがそれぞれ違う種類を選び出し、それを輪っか状になるよう器用に作成していた。輪っかの縁には赤、青、紫、白の宝石が散りばめられているようにも感じ取れた。
「なあ、何をしているの?」
と初めてみるソレを少女に問うと少女は
「花の冠を作っているのよ」
と俺と顔を合わさずに答えた。
俺は綺麗に飾られた花を見て自分も作りたいという好奇心と挑戦心に駆られたのか、彼女の体面に座り込んでは、ぶちぶちと適当に野草を引き抜いて見様見真似で冠を作ろうとする。
しかしできたのは、ところどころに欠陥が見受けられる欠陥品で輪っかの部分が輪になってはおらず、馬の蹄鉄のような感じである。一応は花も飾ってはいるものも、慎重に花を摘んでいなかったためか、花の花弁が崩れ落ちたりと散々な一品である。
心が成熟していなかった俺は彼女の物と自身の作品と比べると小さくまん丸とした目から涙を浮かべ始め、号泣する手立てを揃えていく。
状況を見かねた少女は面倒くさそうにため息を吐くと俺の冠を引ったくると、次々に野草を摘んでいく。呆気に取られた俺は呆然と彼女の行動を傍観していると、あっという間に一つの輪ができた。
次に彼女は花に手を出し、丁寧に花の茎を千切っては輪に差し込んでいく。するとどうだろうか、彼女の作品と同じ完成度を誇る一品が見事完成した。
「すごいなお前!」
「ふん、当然でしょう」
不思議と涙は引っ込み、瞳を星のように煌かせて歓喜に満ちた言葉を彼女に向けて発する。彼女はというと頬を紅潮させてやや照れている様子で答えた。大人ぶった返事をしているも根はまだ子供なのだ。
「この辺じゃ見ない顔だし何処から来たんだ?東京か、横浜か?」
「何を言っているのよ、私はここで産まれてここで大きくなったの」
「ええっ!?」
「文句でもあるの」
「だってこんな目立つ洋服着てたりその顔じゃ誰でも覚えるのに」
実際、彼女の風貌は変わっていたため嫌でも人は覚えてしまうだろう。さっき、俺と会話をした際にわかったのだが、細い眉毛も白く瞳は貝殻のような灰色、まさに日本人離れした顔つきであった。この時代の都市部でも目を引くような存在であっただろう。
俺がそう言うと顔をやや俯き表情を暗くする少女、流石の当時の俺でも何かしでかしてしまったと察して急いで話を変えようとする。
「そ、そうだ! この近くに蝶がたくさん飛ぶところがあるんだ。行こうよ!」
「えっ、でも……」
「いいから!」
俺は半ば強引に彼女の手を引いて立ち上がらせ、忙しく野原を駆けていく。最初は走る速さは俺より少し遅い程度であったものが、徐々に速度が遅くなっていくのを感じる。きっと疲れてきたのだと走ることをやめ、ゆっくり歩くことにした。
息を切らした彼女はその原因となった俺を睨むも当の俺はそんなの気にせずに目的地へとただ進む。
目的地に向けて十五分後、野原を飛び出しついには森に突入した俺は殆ど勘で森を進んでいく。何度か行っているので土地勘はある。
初めて森に侵入する少女は不安に怯えたような表情を浮かべている。するとパッと辺りが眩しくなり、目の前には広大な野原を見つけた。
野原を点々と花の群集が咲き乱れ、それに群がる色々な蝶。大きいのから小さいの、地味な色から派手な色と多種多様だ。先の野原とは数が段違いなもので、今少女の目の前を一匹の蝶が通過した。
「ここは蝶の楽園なんだぜ。へへ、綺麗だよな」
「うん、こんなの初めて……」
彼女は蝶と花の掛け合わせに魅了されていた。ふと、何かを思い出した俺は見惚れる彼女にあることを伝える。
「そういやお前、どういう名前なんだ?」
「私の名前は雪子っていうの」
「雪子っていうんだな。うん、名前に似合って良いと思うぞ!」
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まさかこの世界で彼女が存在するなど想ってもみなかったな。華やかな回想から現実の薄暗く不気味な雰囲気漂うところへ引きずりこまれた俺は彼女の瞳を凝視する。
灰色の瞳は恐怖に満ちたものに支配されて僅かに揺れている。きっと今までの状況が恐ろしかったに違いないな。
「あ、あの……」
「ん? どうした」
彼女は声色が震えた様子で俺に話しかける。暫く時間が経過したお蔭か声を発することができたのだろう。これ以上刺激させないよう、俺は彼女に優しく返答した。
「私は、雪子ではありません……」
「……あぁ?」
彼女の顎を上げて顔をよく見えるようにする。確かに髪や瞳は同じ色をしていても、どこかが違う。本当に類似こそはしているが何かが違う。
もしや赤の他人なのか、この少女は。彼女とこんなにも類似しているのなら、雪子と血縁関係がある者か? それとも彼女本人か?いやしかしそれはあり得ない、なら何だ?
沸々と浮上する疑問に俺は首を傾げ、狂気に満ちた瞳から通常のモノへと移っていった時、彼女は俺の手を振りほどいて立ち上がった。
立ち上がってくれてわかったことなのだが、どうやら彼女は黒森峰の生徒らしい。学生服がみほとまほのと一致するからだ。
「助けてくださってありがとうございます。もう大丈夫ですから」
この場から一刻も早く逃げたいのか俺に早口で告げると壁に手を付けて、倒れた不良を避けるように歩き始める。
しかし、左足を踏み込まない歩き方は不自然だ。きっと逃げる際中に捻挫をしたのだろう、それで転び逃げられなくなったに違いない。辻褄が合うな。
どれ、手伝ってやるか。
「まあ取りあえず嬢ちゃん。そんな足じゃきついだろう。俺が外まで連れていこう」
「えっ――――」
俺は彼女の前まで歩み、中腰になる。簡単にいえばにおんぶだ。俺は己の腰を叩き早く乗れと催促を促す。いつ不良どもが起き上がってくるかわからないからだ。無論、再度襲い掛かってきても迎撃する余裕はあるのだが。
彼女はついさっき知り合った男性におんぶをさせるといった罪悪感とあの狂暴な不良をいとも簡単に倒したことによる警戒心が合わさるが、現状況を打破した方がいいと選択。彼女は俺の腰に跨り、肩に両手を乗せた。
背中に柔らかいものが当たるも状況が状況なことと、少女には興奮しない性質なのでやましい感情は湧かなかった。成人している女性しか興奮せん。
「では行くとしよう」
腰を上げて立ち上がる。
道端に転がるごみ箱や段ボールを器用に避けて通路を歩く。のんびりと歩いていると彼女はふとした疑問が浮かんだのか、俺に話しかける。
「どうしてこんな鬱蒼とした所に来たのですか?」
「決まってるだろう。助けを求めれば救いの手を差し伸べるのが人間だからな」
まあ実際は喫煙所に行くために歩いていたら、うっかり迷子になってしまった。その際に彼女の助けを呼ぶ声が聴こえたという真実だ。しかしそのまま伝えたら、ただの迷子になった人という余分な情報まで付け足されてしまう。これではあまりに面目立たない。不必要な情報は隠蔽するに限る、もっとも重要なモノまでも隠されては堪らないが。
にしても彼女こそどうしてこんな所に居たのだろう。訊いてみるか。
「そういや嬢ちゃんはどうしてこの小汚い路地裏に? 不良がいるかもしれないのに、ていうか居た」
そう言ってやると彼女は後ろでやや震えている。不良という言葉に反応し再度恐怖心が体を蝕んだからだろうか。しまったな、もう少し気を遣えばよかった。
自身の気遣いのできなさに呆れながらも、彼女の答えを待った。彼女は小さい声でおどおどと呟いた。当然距離は近いため自然と聴きとることができ、俺はその言葉を彼女に確認するように言う。
「ハンバーグ屋さんの店舗を探しにねぇ……」
「な、なんで普通に言っちゃうのですか!」
「いやだって、ここまで間抜けな回答があるとは想わなかったからな。普通なら不良に追われたとかだろうに」
「わかってますよ!すみませんね、こんなちゃちなことで面倒を見てもらって!」
俺に指摘されたことで彼女は興奮しながら愚痴交じりの物言いが俺の耳に響く。女子特有の高音は非常に耳にくるのでやめてもらいたい。耳がキーンとする。先程の震えは羞恥心からか、それとも恐怖心なのか、これがわからない。
まあこんなにも元気に応対ができるのだ。恐怖は多少抜けたのかもな。
「そういやあのお爺さんは無事なのかしら……」
ポツリと思い出したように口に零す。
お爺さんというのは倒れていたあの浮浪者のことだろう。俺は「治療費とおまけをくれてやった」と伝えると背後からでもわかるように安堵していた。
自然と彼女の性格は他人のことも気遣える娘なのだということがわかった。
多少の重石は何の苦もないので歩くのには支障はない。そのため歩き進めて十五分が経過すると明るい喧騒が聴こえ始め、路地裏の出口らしきところからは通りの光が漏れ出している。
ここを抜ければ路地裏迷路は終わりを告げる。彼女からの要望で背中から降ろしてやる。彼女は歓喜を胸に抱きながら前へと進む。俺も彼女が転ばないように段ボールを足で払いのけて通路を確保する。
俺らは広い通りに出た。
通りは明るく空気も違う。不気味な雰囲気の欠片もないのだ。身体を伸ばして、喜びを表現する。腰を回してみるとゴキゴキと骨が鳴り、爽快な気分になる。
「んじゃ、お別れかな。まあまた会うかも知れないが」
「では、またということで」
「そうだな。ではまた」
両者とも背を向け、この場から立ち去ろうとした時
「見つけましたよ伍長さん!」
「よお、みほか」
「もう何処行ってたのですか。捜し回りましたよ」
「いやーすまないな。喫煙所を探していたら迷ってしまった」
俺の正面からみほがこちらに向かってきた。額には大量の汗の粒を浮かべ、息を切らしている様子から見るにかなり捜し回ったのだろう。
心配してもらえる身分になるのは嬉しいものだな、前世ではそんなもの基本無かったからな。
まあ適当に嘘をついてこの場を去ることにしよう。
「土地勘もないのですから……って逸見さん?」
「……私は逸見じゃないの。ドンキーエリカよ」
みほは背後に居る少女に気づいたらしく、声を掛ける。どうやら名前を知っているので知り合いなのか。逸見という名前はみほのメールには記載されてはいなかったが。
てかなんだ。そのドンキーエリカは。エリカを消してドンキーの前にびっくりを付ければハンバーグ屋さんだぞ。
「いや逸見さんですよね。どうしてこんな所へ」
「えっ。何だお前ら、同じ学校なのはわかってたけどもしかして知り合いだったのか」
「そ、そうですけど……。ん? 確か伍長ってみほが貴方に言いましたよね」
「そうだが」
「……あ、貴方がまほ隊長の兄的存在ですってええええ!!」
「えっ、あっ、うん」
まさか叫ばれるとは想定されてはいないので、しどろもどろに答える。でもまほ隊長と言っていたから戦車道の生徒か。
俺が有名人とか嬉しいな。高揚しちまう。
「兄的存在は認める。あっそうだ、まほとみほをこれからも頼みます」
「あっ、こちらこそ……。じゃなくて!」
「何か問題でも?」
「あーもう、問題とかそういうことじゃなくて!」
「あ、あの逸見さん」
「何!?」
「私たち、目立ってます」
「あっ」
俺らの傍を通る人々、もしくは信号を待つ人々はこちらに視線を向けて注目しているようであった。
自分が置かれている環境が理解できたのか二度目の紅潮を迎える逸見と呼ばれた彼女。
「まあここじゃなんだ。俺がバイク停めたところで話すとしよう。俺の奢りだから心配するな」
「……はい」
かくして俺ら三人はあの飯屋で話し合うこととなった。
どうやら俺の情報で真偽怪しいものの弁解に時間と金を費やしたのだが、ひとまずは仲良くなれたと信じたい所存である。
やはり雪子と似ているところはあるが気掛かりではあるが。
兄的存在(本人公認)
案外、ガルパン二次創作で兄的存在は少なかった気がする。