日本兵 in the ガルパンworld!! 作:渡邊ユンカース
「することないな。暇だな」
俺はソファで寝ながらふと口にする。
現在俺の居るところはこの黒森峰学園の用務員室である。今日は日曜日ということもあって登校する生徒は殆どおらず、少数派で部活動のために登校した生徒だけである。
しかし、その生徒というのも夕方となっては誰もいない。さっき俺が見回りをしても誰一人発見することはできなかった。
「何をしようかー、やることないし」
勿論、草木の手入れや蛍光灯の交換をするか否かのチェックや掃除は午前のうちに済ましてしまい、まさに手持無沙汰だ。一応仕事の方も丁寧にしたのだがどうしても時間が余ってしまった。
ちなみに今俺が寝転んでいるソファは黒森峰の数少ない寝床であり、プラウダのように炬燵や布団などは最初から設備されておらず、備え付きの家具といえばソファにテレビ、ソファに高さを合わせた机だけである。台所や洗面所とトイレは付いていない。
幸運にも電子レンジや湯沸かし器は職員室に入室した際に埃をかぶっていた品物を持ってきた。どうやら旧式らしい。うん、決して強奪ではない。
「あーくそ、トイレはまだ許せるが洗面所というよりかは流し場も部屋を出なければ駄目だとか、とんだ欠陥住宅だな此処。いやまあ俺の時代からすれば贅沢で画期的だとは思うが俺の性分に合わん」
今思えばプラウダ学園は用務員にはかなり優しかったな。炬燵に台所に布団があったから考えるに……学校が猛吹雪で登校できなくなっても用務員は常に学校内に寝泊りしてるから掃除とか破損した箇所の修復及び入れ替えを任せた、ということか?
そういえば用務員室には大量の非常食にカップ麺が存在してたな。非常時じゃないのにずっと食ってたけど。
あとこの学園は泥棒の侵入防止にも力を注いでいるのだっけか。
学内の安全を一度、教頭から訊いたら無理やり押し入ろうとする者がいたらセキュリティー装置が反応して警察じゃなくて自警団が来ると教えられた。
自警団がこの世にまだ存在したこと自体驚きだが、俺の存在意義って無くないか? つまり校内に居る俺の意味って掃除だけしてればいいってことか。犯人捕まえて色々な女性に称賛の声を浴びたかったのに残念だ。
それはともかくだ。
何をしよう、テレビもつまらないし……。
―――――よし遊ぶか。
俺は机の上に放り投げられたガラケーを開いて、手慣れているともいえない手つきで電話を掛ける。ちなみに俺の電話帳の中にはたった六人程度しか入っていない。それはメールも同様で一度行った風俗店の営業メールで溢れている。まあどっちも基本使わないしな。
相手を待っている際に鳴る電子音が三回鳴った後に俺にとって聞き覚えのある声が聞こえた。
『もしもし』
「あっまほだな。 遊びに行かないか、飯も奢ってやろう」
『えっ、あっ。ま、まあいいですけど……』
まほは俺が電話をするのが珍しいのと、単に俺が遊びの誘いをしたことに戸惑っている様子であった。心なしか口調がたどたどしい。
「よし、ならお前の寮に迎えに行こう」
『……寮はちょっと危ないかもしれないです』
「どういうことだ?」
彼女は歯切れが悪そうに俺の迎えを断る。何故まほが断るのかが理解できずに俺は疑問符を浮かべる。
『私らの学校はいわば女子高みたいなモノなので』
「女学院みたいなものだしな。つまり簡単に表すと彼氏と思われたくない。そういうことだな」
『べ、別に伍長さんのことは嫌いじゃないですからね』
「擁護しなくても結構だ。乙女はこういうのに過敏だからな、仕方がないな。なら校門は…ちょいと難しいな。……だったらこっちに来い、今人いないから」
『わかりました。それでいこう』
「おう、ゆっくり待つとしよう」
そう言って俺は電話を切る。久しぶりの客人を乗せるわけだから陸王のサイドカーも綺麗に掃除しなくてはならないな。座ろうとしたら座席が汚れていることは避けたい。
今思えば最後に乗せたのはいつ頃だ? ミカの時に乗せたっきりか、懐かしいな。あの娘また迷子になっていないだろうか。はたまた遭難でもしているのかもな。
「さてと、んじゃ綺麗に掃除しちまうか」
俺は学校指定の駐車場に置いてある陸王の元へと赴き、掃除を始めた。用務員室から駐輪場まで距離はかなり近い、というよりは用務員室の窓から見れるほどだ。外に出ていても大丈夫だろう。
案の定、十分後に俺のところにまほがやってきてくれた。流石予想を裏切らない娘まほ。
こうして俺とまほのぶらり旅という名の遊びが始まったのであった。
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春風か潮風かがわからない風が吹く。風は顔に当たると髪の毛を掬い、流した。交差点では歩行者側の信号機が青なため、俺の陸王はエンジンを響かせながら車道の信号機が変わるのを今か今かと待っている。
不意にまほが言った。ちなみに、まほは以前ミカに付けさせたヘルメットを着用している。
「伍長さん。夕飯はいいとして何で遊ぶのですか?」
「……全て無計画だ」
「……」
「しほ殿のような視線を投げるな。ただでさえも顔と雰囲気が似てるからちょっとだけ背筋が寒くなるのだ」
本当にしほ殿と似てるよな、まほ。みほも勿論似ているのだがどうしてもまほの方が似ている。多分だがしほ殿の夫である常夫さんの遺伝子が多く入っていると思う。
「いやまさか誘った本人が何も考えていないとは……」
「今までの旅は無計画でその場しのぎばっかしてきたからな。私生活で頭なんぞ使いたくないし」
「典型的な駄目男よりもさらに駄目ですね。母から聞きましたよ、女性を口説こうとしたり口すっぱく言っても煙草と酒をやめなかったりと」
「心外だな」
最近のまほが大人びてきているのは実感してたけど、それにつれて口とか悪くなってないか? この娘は俺に厳しい言葉とか投げつける性格だっけ? いいや違うな。
そうだ成長したから俺の駄目な所を見つけれるようになったのだ。うん、成長することは良いことだからそうだと信じよう。
煙草と酒に関しては完全に娯楽兼精神安定剤だからな。嫌な夢を見た時には寝起きに煙草を一本吸うと和らぐのだ。酒はちゃんと夜に飲む。
「決まっていないのなら私が決めていいですか?」
「まほがか? 別に構わないが」
「ならアレで」
まほが指を指す反対車線の三十メートル先にはゲームセンターと書かれたお店があり、その横には煙草専門店が存在した。
しかし忘れてはならない、現在進行形で陸王に乗って移動していることに。
「……アレって、お前まだ未成年だから煙草専門店は流石にマズいと俺は思うが」
「なんでそっちに目がいくんですか!」
「ふっ、冗談だよ。いやな、久しぶりにまほを揶揄ってやろうと」
あれは嘘を吐いた。マジで煙草専門店だと勘違いをしてしまった。もしもこのことがしほ殿に伝われば、遠路はるばる学園艦までやってきて説教をする可能性があるのだ。
それだけは避けたかったので嘘を吐いた。人を傷つける嘘ではないので後悔はしていない。
目的地が決まったので俺は進路を変えて向かい、ゲームセンターの駐輪スペースに陸王を停めた。こんなオンボロの骨董品なんて盗まないと思うのだが念のためにタイヤに取り付けるタイプの錠前を付けた。
「さあ新天地に征こうではないか」
「むぅ? 伍長さんも初めてなので?」
「当たり前だろう。まあ初心者同士仲良くやろう」
まほは若干ではあるが不安そうにこちらを見つめているが、俺は問題なしと判断し一歩踏み出す。すると自動扉が俺らのために開かれる。
扉を開けた瞬間、かつてないほどの騒音が俺の鼓膜に突き刺さり、砲弾が至近に落ちて耳がキーンと痺れるのを思い出す。室内なんて確認する余裕もなく、真顔で二歩後ずさりまほよりも後退する。
「おいやばいぞゲームセンターって所は。戦場並に騒がしい」
「まあ色々なゲーム台がありますし仕方がないですよ」
「初めてお前も来たのに動じないとか、流石西住流だな」
「まあ当然です。西住流を背負う女なので」
そう凛とした態度で告げるまほも実際にはビビッていた。顔だけは平時を振舞っても手には手汗を掻いている。
俺ら二人は良くも悪くも戦場、または類似した環境に特化した人間である。無駄に騒音飛び交う空間は耳で状況把握するその者たちにとってこの環境は酷く苦手であった。
「ならまほさんどうぞ。次期家元が行くべきだと俺は踏んだ」
「今は家元でもないしみほがいるから不確実。なので伍長さん、貴方が行くべきだ」
「何を言うのだ。俺は駄目な男と言われたので立派で清楚で淡麗のまほ殿が行くべきだと直感が告げている」
「今はレディーファーストという言葉があるように先に行くべきです」
「今は男女平等社会だから。てか英語とかわからないほど学が無い男だから俺。ここは学のある才女の貴女が行けばいいと思う」
どちらも負けず嫌いの性格が反発することもなく、むしろ性格の性質が反転した擦り付け合いが始まる。それはもう見ていて見苦しいレベルで。
まほは顔では笑っているように見えるが内心俺を先行させるために思考し、俺も笑みを浮かべつつもまほをどのような手段を用いてゲームセンターという魔境に陥れるか詮索していた。二人は狂犬やら次期家元やらと評されたとしても未知との遭遇に関しては両者揃ってチキンであった。
十分間続くが口論は決着がつかず、いよいよじゃんけんとなった。最初はグーの段階で両者ともパーを出して荒れ、じゃんけんの最初は規定通りにするという約束を結び再度じゃんけんが始まる。
しかしながら、あいこを連発しあい勝負は決まらない。
だが、この阿保極まれりの試合に進展があった。
「……何してるんですか隊長」
「ご、伍長さんとお姉ちゃん?」
「あっ」
「あっ」
俺らの眼前に映るはまほの後輩であり戦車道に履修する存在であり俺が以前助けた少女である白髪の少女エリカとまほの妹のみほ。
思わぬ遭遇に俺とまほは思考と身体が一気に固まった。暫しの静寂が訪れる。
「よ、よおみほにエリカ。き、奇遇だなッ!」
口火を切ったのは俺だった。固まった表情筋を大和魂で無理やり稼働させ、笑みを見繕う。その姿を見たまほも負けじと笑みを作り上げた。
「本当に奇遇だな。そ、そうですよね伍長さん」
「だなだな!」
俺ら二人の脳裏に浮かぶは共通して情けない姿を隠さねばという発想。隠匿しなければ今までに作り上げた個人像が崩壊する。俺は頼れる兄貴分として、まほは隊長としての威厳があり、これだけは避けなければならない。
俺とまほは目配せをして先程まで口論をしていたとは思えないほど瞬時に同盟を結んだ。
「いやーちょうど出たところでな、うん」
「いや中入ろうとしてたよね。というかむしろバイクで到着したの見たよ? なんで嘘吐くのかな」
「ぐはッ!?」
「まさか忘れ物をするとはな」
「お姉ちゃんなんかじゃんけんしてなかった? なんで嘘つくの」
「はうっ!?」
「……隊長」
「うっ!?」
信頼を置く人物から鋭い一言を受けた哀れな共闘相手二人は某ボクサー漫画のように燃え尽きたように白くなる。唐突に潮交じりの春風が吹く。
まだ緑に青い落ち葉が俺らを馬鹿にするかのように足元を通り過ぎた。
ちょっとドジなお姉ちゃんは好きです。
てかまほはかなり軍人ぽいところありますよね。