日本兵 in the ガルパンworld!!   作:渡邊ユンカース

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祝五百人突破!
これからも頑張りたいと思います!


鍋パーティー

「なんか掘り出し物、というか使えそうな物はないか?」

 

ガソゴソと校外の倉庫を探る人影があった、というか俺だ。俺は埃まみれになった段ボールを多数に退かし、その段ボールの封を切って中身を確認する。

 

「ちっ、ただのガラクタか」

 

舌打ちを打ち開けた段ボールを適当な場所に置いて、作業を続行する。携帯電話で時間を確認するともう一時間が経過しようとしていた。一時間もしゃがんで作業に勤しんでいたので腰が痛い。一度立ち上がり体を捻るとバキバキと骨が鳴る。

 

「何処に仕舞ったんだろうか、鍋とコンロ」

 

そう、現在俺は鍋一式を探していた。土鍋とコンロだったら家庭科室から持ってくればよかったのだが、以前不手際で家庭科室の皿を幾つも割ったりしていたので気まずい。それに食堂にもあるのだが、食堂の調理師たちの無駄話に巻き込まれて疲弊した経験がある。だから俺はこうして倉庫を探しているわけなのだ。

 

「……これが最後の段ボールか」

 

目の前には封の切られていない段ボールが一箱存在し、重々たる雰囲気を放っている。

 

「……戦車道で導入される前に禁止となった爆弾とか地雷が梱包されてないのを願うぞ」

 

手にしたカッターで蓋を止めていたガムテープを切り、中身を開く。中には土色の陶磁器とその下に機械が存在していた。俺は勝ち誇ったように中身を取り出して床に置いてから高らかに叫んだ。

 

「土鍋とコンロだあああ!!」

 

そう、俺はとうとう土鍋とコンロを見つけたのだ。流石にコンロのガスボンベは入っていなかったため購入するとしても、これさえあれば鍋ができるのだ。

いやー何鍋にしようか。カモ鍋もいいしカレーなべも素晴らしい。非常に悩ましい案件だ。

俺は鍋の具材を何にしようかと胸を高鳴らしながら、鍋とコンロを手に倉庫から退出した。なお倉庫から出た瞬間に、教頭先生に鉢合わせて後片付けを乱雑にしていたことがバレてみっちし怒られてしまった。無念である。

 

そして何故俺が鍋とコンロをほしがっていたのは理由があった。

俺は私室ともいえる用務員室へ帰宅し、荷物を机の上に置いてポケットから携帯電話を取り出した。そしてある者へ向けて電話をかける。

 

「……もしもし、みほ。突然だが鍋食わないか?」

『は?』

 

返ってきた返事は非常に気の抜けたものであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……マジで鍋する気なのね」

「まあ伍長さんらしいよね」

「昔から変わらないからな。伍長さんは」

「さあさあ全員集まったようだな」

 

まさか本当に鍋をするとは思わなかった、と表情に出すエリカと出会った当初からこんな風に強引だったなことを再度確認する西住姉妹。

目の前の机には鍋が置かれており火が灯されている。大皿にはカモ肉や豚肉に野菜、そしてうどんが載せられている。食材はすべて俺の自腹である。カモ肉に至っては豚肉より値が張ったが致し方がない犠牲だと考えている。

俺の横にみほが座り、対面にはまほとエリカが座る。

 

「……なんでソファーに座りながら鍋なのよ」

「同感だエリカ」

「流石にソファーを解体して別のところに運ぶとかできないぞ」

「けど伍長さんは器用だから組み立てられるけど」

「多分俺がやったらベッドができるぞ」

 

エリカとまほは何故ソファーに座りながら鍋を食わねばならぬ、と抗議するが俺は淡々と自論を述べる。確かに俺も工具でソファーを解体してしまおうと考えたが、実はこのソファー非常に高価なものであることが判明した。それを解体して無事組み立てられなかったら弁償騒動だ。しかも、俺の寝床もなくなるので寝袋生活になってしまう。

まあ、やや屈みながら鍋を取ることになるが問題は特にないだろう。

 

「さて、お前らが来る前に実は鍋を仕込んでおいた。食べるか」

「そうしましょう。私はハンバーグ屋に行こうとした瞬間にアンタから電話が掛かってきたからお腹が空いたわ」

「私も何も食べてないからお腹空いたよね」

「そうだな」

「んじゃ開けるぞ」

 

エリカはハンバーグ屋に行けなかったことに関して未練たらたらであり、俺を軽く睨んだ。だが俺はそんなことお構いなしに蓋に手を伸ばす。蓋は熱で熱いのだが素手でも大丈夫な温度でそのまま蓋を開けた。

 

蓋を開けた瞬間に湯気が一斉に飛び出して天井目掛けて立ち上る。同時に匂いも部屋中に充満しだした。鍋の中には肉が食べごろだと知らせるように色が変わり、野菜はきちんと火が通っていたので鮮やかな色に変わり柔らかくなっている。豆腐も崩れていない。最高の状態だ。

この宝箱のような光景にまほは生唾を飲み込み、みほは感嘆の声を上げる。エリカも一見、無関心を偽っているが目は一向に鍋から離せずにいた。

俺は四個の皿に汁と一緒に具材も載せていき、煌めく野菜と芯まで通った肉はまさに財宝そのものである。

 

「な、なんか鍋なのに鍋じゃないように思えるのは何故だ?」

「……わかるよお姉ちゃん。鍋ってこんな感じだっけ」

「ふっ、あいにく俺は東北出身だ。鍋はなじみ深い。それに今はカセットコンロがあるから火の調整は楽にできるから現状の状態にするのは容易い。なにせ俺の時は囲炉裏だったからな」

「以前料理を見せてもらったけど、男が作りました感が異常だったわ。だけど何故鍋になるとここまで昇華できるのかしら」

「そりゃあ情熱だ。内地に居たころは冬によく仲間と一緒に鍋を囲って食らいあったものだ。上官にバレないように兵舎から抜け出したのを覚えている」

「さらっと軍規違反自慢するのやめなさいよ」

「大丈夫だ。万が一バレたらその上官も手籠めにしてしまえば解決だ」

「なにやってんのよ!」

「金か酒か鍋のお裾分けさえすればいい」

 

実際この方法は役に立つ。一番効果があるのは金だ。いくら上官といえども農家出の者が多い。そして彼らは貧困する実家に金を送り続けていることを俺は知っていたのだ。弱点を狙って交渉するのは悪いことだと感じるかもしれないが、相互の利益になっていることを忘れてはならない。

……まあ国に奉仕する公務員が仕送りの金を求める事態かなり危機的状況なのだが。実際、犬養毅首相を殺害し内閣の大臣を狙った二・二六事件もそれが由来だからな。

 

「……そういや伍長さん。確か夜分遅くに歓楽街へ繰り出していたと門下生から聞いたのだが。何をしていたのだ?」

「……お姉ちゃん?」

「流石に答えないよねアンタ!」

「山猫と遊ぶためだ。そしてまほ、もしお前が結婚して旦那がそういうところに行ったという噂を聞いたのなら見て見ぬ振りをするのが一番だ。覚えておけ」

「わかった」

 

胸を撫でおろし安堵するエリカとみほ、そして俺が言った意味がわかっていないのか疑問符を浮かべて首を傾げるまほ。ちなみに山猫という言葉は遊女という意味の隠語である。軍隊ではこのような隠語を学ぶことができるからな、必要になった場面なんて無いが。

三個のコップにジュースを入れて彼女たちに手渡し、俺は缶ビールの蓋を開けた。飲み口を開ける音と空気が抜ける音を出る。

 

「乾杯でもするか」

「乾杯って仲間内で何度したのかしら」

「うーん五回くらいかな?」

「まあ良いことだから気にすることはないぞエリカ」

「……まほ隊長が仰るなら」

「高校では隊長ではない、適当に呼べ」

「いいえ! まほ隊長は私の中では永遠の隊長です!」

 

俺らはコップもしくは缶を掲げて軽くぶつけ合い、俺は大声で何に対しての乾杯なのかを言う。

 

中学戦車道優勝(・・・・・・・)おめでとう! 乾杯!」

「「「乾杯」」」

 

それはみほとエリカが所属している戦車道のチームがこの前の中学戦車道大会で優勝したことを祝うものであった。昔から黒森峰学園は戦車道が強く、日本では王者として君臨していた。

何故ここまで強いのか、それは西住流が支援しているからである。西住流と黒森峰はいつの時代からか提携関係を結んでおり、西住流全体の門下生のうち黒森峰出身者が二割を占める。しかも黒森峰学園は戦車道世界大会に選抜された選手の多くが黒森峰出身である。

 

「いやー嬉しいな。お前らが隊長として腕を振るい活躍して優勝するとは、なんて素晴らしいことなんだ」

「そ、そうかなぁ」

「当然の結果よ。西住流の教えを守り個の力より全体の力を重視すれば勝手にこうなるわ」

「そうかもしれないな。だがエリカやみほの指揮がなければ、いくら統率や全体の力が勝っていても勝つことは難しい。二人ともよくやってくれたな」

「ま、まほ隊長……! このエリカ、歓喜の極みでございます!」

「お姉ちゃん……」

 

俺から見たら戦車道の試合なんてわけのわからないことだらけだが、彼女たちが全力をもって戦っていたことははっきりとわかる。特に普段おどおどしているみほが指揮するときになると人が変わったように凛として的確な指示を送る姿は昔のわんぱく少女とは違って新鮮味があった。

そして意外にエリカも攻勢を仕掛けるときに活躍していたな。攻勢も一度しくじれば兵力を消耗し蹴散らされるというパターンがあり普通なら尻込みするのだが、エリカはそれを了承の上で攻撃をする度胸も中々に良い。

エリカは攻撃でみほは防衛、なんて素晴らしい矛と盾なのだろうか。

 

「食え食え! たくさん飲んでしまえ! 俺の奢りだ!」

「いいのか伍長さん」

「あぁもちろんだ! めでたいのだから当然だろう!」

「伍長さんありがとう!」

「……まあこういうことも悪くないわね」

 

やっぱり鍋は囲んで食べた方がいいのだ。独りで淡々と食べる鍋は美味くは無いし、寂しい。ドンチャン騒ぎをしながら楽しく飯を食べるのが一番の娯楽かもしれないな。

俺は鍋を突き合い、鍋の具材を取り合う彼女らの姿を見て思うと、不意に目頭が熱くなり視界がぼやけていく。

……あぁクソ、酔いがまわるのはあまりにも早すぎるぞ馬鹿野郎。まだ一本ビールを開けただけだろうが。

俺は手にしていた缶ビールを一気飲みして中身を空にする。そして予備の缶ビールを取り出して蓋を開けると、皿に盛った具材を口にした。だし汁が豆腐や野菜に染みこんでいて美味い、そしてカモ肉も弾力があって美味だ。皿の中身を空にすると俺も鍋の具材をよそい始める。

 

「ほらほら早くしないと無くなっちまうぞ」

「ちょっと肉取りすぎよ!」

「安心しろ、まだ肉はある。入れればな!」

「なあ伍長さん。カレー鍋もいいと思うんだが」

「カレー鍋はカモ肉に合わないから今回はなしだ」

「むぅ」

「お姉ちゃんカレー大好きだよね」

「当たり前だ。カレーは主食ってインド人のカレクックさんとダルシムさんも言ってた」

「誰だよカレクックとダルシムさんって」

「カレクックさんは頭にカレーライスを載せていてダルシムさんはヨガの達人だ」

「前者に至ってはカレールーを飛ばす残虐なプロレス技を仕掛けそうだ。そして後者に至っては関節外したり火を噴けそうだな」

 

こうして俺たちの鍋パーティーが始まった。

 

「あはははっ! 懐かしいな、みほのやつが田んぼによく落ちてしほ殿に叱られてたな」

「もう伍長さん!」

「確かあの後に伍長さんも落ちてなかったか」

「みほが俺の手を引っ張ったのが悪い」

「みほ、アンタ話には聞いていたけどそんなにヤンチャだったのね」

「ち、違うよ! 私は友達と一緒に遊んでいるうちにそうなっちゃっただけで!」

「そういやみほって男友達多かったよな」

「大半が男子だった覚えがあるぞ、私」

「もうお姉ちゃんに伍長さん!」

 

昔のみほの話だったり、まほとみほが子供のころに俺に仕掛けた悪戯の話で場は盛り上がっていた。ちなみに俺に仕掛けた悪戯というのは、何処からともなく持ってきた春画集を居間の机に置いたというもので、その時は俺しか西住家に男がいなかったため必然的に犯人に仕立てられた。

その際、しほ殿から軽蔑の目で俺を睨み、俺は数刻ほど体が動かなかった。まさに蛇に睨まれた蛙である。

 

しかし、流石にやりすぎたと察したのかみほとまほが自らがした悪戯だと自首し俺は免罪ということで許されたのであった。補足として、その春画集は何処から持ってきたのかというとそれはしほ殿の旦那の常夫さんであった。常夫さん、いくらなんでもSM本はバレないところに隠してくれ。

 

「酒が美味いなぁ」

「……伍長、アンタ何本飲んでるのよ」

 

鍋を楽しむこと二時間、鍋に入れる具材や汁ももうない。さきほどお米を入れて食べてしまった。すっからかんになった鍋を片付けないでそのままにしていた。

エリカからの問いに俺は床に転がった缶ビールを指先で指しながら数えていく。

 

「あっ? えーと、五本だな」

「飲み過ぎじゃないの」

「あはははっ! 馬鹿野郎、俺はまだまだ飲めるぞ!」

 

そう言って俺はふらつきながらも立ち上がり、若干千鳥足になりながらもテレビの影から四合瓶の日本酒を取り出した。この日本酒は少しばかし高級な酒で味も上品な逸品。得た経緯はしほ殿からの仕送りとして送られたのである。ありがたい限りだ。

俺はその四合瓶を手にソファーに座り、高級酒を贅沢にラッパ飲みで飲む。口当たりの良く滑らかな酒が喉を通っていく。もう止められない、このまま一気に飲み干してやる。

 

「げえっ!? やりすぎよ!」

「……あー、伍長さんの悪い癖だ。調子に乗って羽目外しすぎて明日動けなくなるパターンだ」

「ちょっとみほも傍観してないで止めなさいよ!」

「いや無理だエリカ。ああなってしまった伍長さんはぶっ倒れるまで飲むぞ」

「あ、ああいう大人にはなりたくないですね……」

「伍長さんに見習いたいところはあるのだが、これは嫌だな」

「うん、すごいわかるよお姉ちゃん」

「だがな、ああいう状態になるってことはだな――――――」

 

まほが言葉を紡ごうとしたとき、俺は突然ラッパ飲みをやめた。俺は金属の蓋を閉めて四合瓶を床に置くと、脱力してソファーに眠り込んでしまった。いびきを立てずにすやすやと眠る光景は、さながら電池の切れたおもちゃのようである。

 

「爆睡する一歩手前の証明なんだ」

「……えぇ」

「しかもずっと眠りっぱなしだよね」

「そうだな、朝まで起きない」

 

この状態に移行した俺に慣れていたのか、食器や鍋を片付け始めるまほとみほ。エリカは困惑した面持ちで二人を眺めている。エリカは何度もこの光景を見ていたのだな、と察した。

実際に俺と常男さんで飲み合いをするのだが基本は男衆は寝落ちして、片付けなどはしほ殿と西住姉妹が行っていた。しほ殿が直々に起こそうとしても、俺と常夫さんは眠りが深くずっと眠りっぱなしで起きないのだ。

そして、たちの悪いことに翌日は絶対に二日酔いになりその日一日の行動が制限されるのだ。その状態で剣道をやろうものなら、たちまち門下生たちのサンドバックにされる。すると散々生徒に打たれると俺は気分が悪くなり、半日中トイレに籠るという事件も起きた。

 

この経験から禁酒法が西住家内で制定されたのだが、俺と常夫さんの士気が目に余るほどに低下して支障をきたしたため数日後に撤回された。

酒を飲んでも呑まれるなとはまさにこのことである。

 

 

「……まだ時間は九時を回ったあたりなのね。隊長、私がお菓子買ってくるので女子会でも開きませんか?」

「女子会か別に構わないが」

「わかりました。何が欲しいですか?」

「カレースナックだ」

「いつものですね了解しました。みほは欲しいお菓子あるの?」

「じゃあコンビニ限定ボコのボコボコチップスを頼めるかな」

「本当にボコ好きねアンタ。まあ買ってくるわ」

「よろしくねエリカさん」

 

エリカは上着を羽織り、お菓子を購入するために学校を出る。今宵は満月なのだが、雲が厚く満月が隠れてしまった。いくら満月の月光が普段より明るくても、雲に隠されては無意味だ。

エリカは慣れた足取りでコンビニへ向かう姿を、背後からハイエースに乗った三人の男が睨んでいた。

 

「……アイツでも構わないか。ターゲットの名簿にあの女が当てはまる」

「よっしゃ、実行するか」

「絶対に成功しろよ。そうじゃないと俺らがあの人に殺される」

 

運転席の男を除き、二人は背後からエリカへと近づく。そしてポケットからスタンガンを取り出して彼女の首元に当てる。彼女が当てられた感触に気付き、声をあげる前に男は電流を流すスイッチを押して電流を彼女に流し込んだ。

 

「ッ!?」

 

卒倒し徐々に意識と力がなくなるエリカをスタンガンを持っていない方の男が背負い、そのまま車内へと帰っていった。現場には何の証拠も残されてはおらず、ハイエースは暗闇を走り抜ける。

 




ハイエースは誘拐の象徴(偏見)

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