日本兵 in the ガルパンworld!! 作:渡邊ユンカース
他者から見た伍長という存在をどうぞ。
あと過激な描写があります。
「此処は……?」
意識を取り戻した私は視界がまだぼやける中、ゆっくり辺りを見渡す。辺りは室内であるがかなり広く、数人のガラの悪そうな男五人が一つの塊となって談笑している。そしてドラム缶や木箱が部屋のあちこちに置かれていて、やや埃臭いことから此処は今は使われていない倉庫なのだと考察することができた。
私は頭痛で苦しむ中、どうにか此処に来る前の出来事を思い出した。
…確かコンビニに行った時に背後からスタンガンでやられたんだっけ。早く皆の元に帰らないと!
体を動かそうとするも椅子ごと縄で束縛されているため動くことができない。椅子の脚すべてに庭の外壁などで使用されるブロックが紐で結ばれている。
「このッ!このッ!」
「おいアマぁ、無理に暴れちゃいかん」
縄を無理やり解こうと抵抗をするも、その抵抗を止めるように促す一人の男がいた。男の特徴としては年季の入った紺色の外套を羽織り、若草色のミリタリーキャップを被っている。そして何よりも特徴的だったのは腰に差された日本刀と脇差だ。
あまりに時代錯誤が激しい格好に私はなんやかんやで付き合いのある伍長のことを彷彿とさせた。
「はっ、そん縄はかなりキツメに締めちょるから切らなきゃ解けん。船で使われちょる結び方じゃからのう」
「ッ!」
目の前の男は私を馬鹿にするかのような嘲笑を浮かべる。その眼差しは人を不快にさせるもので見られれば見られるほど腹が立つ。私は怒りを込めた鋭い眼光を彼に向ける。彼はそれしか反抗ができない私を鼻で嘲笑った。
絶対に縄を解いたらすぐさまアイツの顔面に拳をめり込ませてやるんだから…!
にしても何故私が誘拐されなければならないのか意図が分からない。誘拐ということなら家族に身代金でも要求するのかしら……。
誘拐された理由を考えているのを男は察したのか、低俗な笑みを浮かべながら訛りの入った口調で理由を話し始めた。
「何故おまんが拉致られたか、と考えとるやか」
「……そうよ。どうせアンタら犯罪者のことなんだから身代金狙いの大金でしょ。ミステリーやら現実でも定番の展開だわ」
「金なんぞいらん。わしが望むのはただ一つ」
「あら意外ね。見るからに学識の無さそうな人だから政治的要求じゃないと踏んでいたのだけど」
私は相手を馬鹿にするように両目をつぶり、彼を煽った。せめて口だけでも抵抗してやるんだから。
しかし、この男を軽視した発言をし終えた後に首元に冷たい感触が突然伝わる。私は恐る恐る視界を開けてみると男の持っていた日本刀が首元に当てられていたのだ。私は思わず短く悲鳴を上げてしまった。刀の腹で当てられていたからこそ痛覚そのものは感じさせなかった。
「ひっ!?」
「……今度わしを馬鹿にしたら人質であるおまんを容赦なく殺す」
抜刀時の音すら聞こえさせなかった抜刀の動作と異様ともいえる男の威圧に私は気圧されてしまった。首元に添えられた刀からは伝わる殺気は本当に殺す気なのだと察せられるもので、私はこの男に対して恐怖心を覚えてしまった。平時の態度を保とうと落ち着かせようとするも、情けなく足元が震え出した。
いくら戦車道で精神を鍛えていたとはいえ、本当の殺気には叶わない。涙が瞳から零れ落ちそうで、なんとも情けない。皆には見せられない姿だ。
怖がる私に満足したのか男は刀を納刀し、にたりと笑う。
「はっ、身の程を知れ。所詮はおまんもそこらの女子と変わらないことを知ったか」
「くっ……」
「涙目で睨まれても怖かない。ほんなら、わしが求める要求は何かを教えてやるちや」
男は顎に手を当て、無精髭を撫でながら私を攫った真相を話しだす。要求が叶ったその後のことを男は何も考えていないのか、口角を上げている。恐れというものを知らないのかと私は疑った。
「伍長、おまんらと仲良くしちょるあの男を殺す。それがわしの望みじゃ」
「なっ!?」
そして男の口から紡がれたのは伍長の殺害というかなり衝撃的な内容で、聞いた直後私は目を見開いて驚嘆の声をあげる。それもそのはず、ただ金や政治的要求といった一般的な要求とはかけ離れた要求なのだから当然である。
だけれど何故アイツが殺されなければならないのか私には意味がわからなかった。もしかしたら私とアイツが出会ったあの出来事がきっかけなのだろうか。となると道に迷った私が原因となる。
……私がアイツを巻き込んでしまったの?
自責の念に駆られる私に彼はさらに追撃をかけるように言葉を言い放っていく。
「わしはな、あの自誅事件の犯人ちや。何人もこの手で殺めちゅう剣の天才じゃ、いくら軍隊あがりの男けんどなんちゃあない。必ず殺してやるぜよ」
私は男の瞳に潜む殺意と闘志を垣間見て本気なのだと察した。首に刀を添えられた時に抜刀の音すらも聞こえなかったことから、彼は本当に天才なのだろう。しかも自誅事件の犯人なら人を殺すのにも躊躇いはない。こんな残忍な人間に腕っぷしだけが強い伍長は勝てるのだろうか?
喧嘩は強くても殺し合いとは別ベクトルの話にもなる。呑気に花に水をあげていたり、バカみたいに陽気な態度を常に振舞い、人一倍優しい心を持つアイツが果たして勝てるのだろうか?
嫌でも私はアイツがこの男に勝てる確率は非常に薄いと分析してしまった。それに無残に殺されていく様子を想像してしまい、顔が青ざめて吐き気を覚える。
「おうおう、どだい白うなりよって何じゃ。伍長ちゅう男が殺されるんのを想像でもじゃか」
「う、うるさい……伍長はアンタなんかに……ッ!」
「どうだか。そろそろアイツも来る時やか?」
男が携帯電話に内蔵されたデジタル時計を私に見せつけてきた。時刻は十一時を指している。私が気絶させられたのは十時になる前と考えると少なくとも一時間は気絶していた計算になる。学校からこの倉庫まで距離は離れていなかったはず。何故断定できるかというと、倉庫は一か所の地域に集中して作られているからだ。
伍長に助けてもらえると希望を持つが、希望を覆い隠すように殺されてしまうかもしれないという不安と心配、そして恐怖が私の胸中を占める。思わずこの辻褄の合わない感情に顔を顰めた。
すると男の望み、または私の助けを求める声に呼応したのか正面の金属でできた扉が音を軋ませながら開いていく。男は伍長が約束を守ったことに何かしらの感情を抱いたのか、刀の柄に手を乗せた。一塊となっていた男の手下たちもバットや鉄パイプを持って扉に視線を向ける。
金属の扉は完全に開ききる。しかし一向に開けた本人の姿を表さないでいた。
扉が開いた原因は風かしら? いや、風ぐらいではあの扉は開かないはず。だったら何で?
私は思考を巡らせていると、ようやく開けた当人の姿が見えた。
時代錯誤が激しい服装でなおかつ左腰には一本の刀取り付けて背中に一本の刀を背負い、色があせ始めた帽子のつばで顔の目元まで隠している。この恰好をする物好きなどアイツしかいない。私は希望と絶望を込めた一声を放つ。
「伍長!」
「……」
伍長は倉庫内を見渡すとこちらに向かって歩み寄ってくる。しかし手下たちはアイツの行く手に立ち妨いで、メンチを切ってていた。伍長は手下たちよりも背が低く、身長差があり手下たちの陰となっているのでこちらからは見えない。
「約束を守るとはいい男じゃの。殺しがいがあるちや」
「お前が電話の声の主だな」
「あぁ、わしぜよ」
「ならエリカを返してもらおうか」
その時、伍長の正面に立っていたと思われる男が大きく吹き飛んだ。空いた正面から伍長の姿が確認できて、アイツは拳を前に突き出していたことから殴り飛ばしたのだと理解できた。
「こんのッ!」
「調子に乗るな!」
他の二人も手にした得物で殴り掛かるが、それよりも早く伍長は相手の腹を殴ったり股間に蹴りを入れる。悶絶する二人を前に、内一人には顔面に膝蹴りを食らわせ、もう一人には意図的に鼻を曲げようと殴る。膝蹴りを食らった者はピクピクと痙攣をしながら仰向けに気絶し、鼻を殴られた者は鼻を抑えてうつ伏せになって悶えていた。なお、そいつが気絶していないのを確認した伍長は躊躇せずに後頭部を踏みつけて気絶させる。
この行動から生半可な覚悟ではやられることを察した手下の一人はポケットからバタフライナイフを取り出して切りかかるも、伸ばした腕はあっさり伍長に掴まれて柔道の代名詞ともいえる背負い投げを食らわされる。
「ガハッ!?」
背中を強く打ち、肺の中の空気が抜けて呼吸困難になる手下、さらに伍長は追撃を食らわせた。仰向けになって動けないでいる手下の顔面を力を込めて踏みつけた。踏みつけられた直後、腕が空を仰ぐように伸びるもすぐに落ちてしまった。
「ひっ、ひいっ!?」
最後に残る手下は尻もちをついて交戦しようという意志は消え失せていた。誰がどう見ても恐慌状態に陥っていたのだ。歯をカチカチと鳴らす音は距離が離れていても不思議と聞こえた。
「立てよ」
伍長は闘志をなくした手下の胸倉を掴み、強引に立ち上がらせる。大の大人を持ち上げる程の腕力と握力は相当なものだと伺える。アイツは無理やり立たせると、自身の顔を上に向けてから一気に振り下ろす。頭と頭が痛々しくぶつかる音が室内に響く。
額から血を流し、白目を剥いて上半身を晒している手下の胸元を手放した。まるで糸が切れた操り人形のように倒れ込んでいた。
「よくも仲間をッ!」
今度は最初に顔面を殴られた者がバットを持って襲いかかるも、振られたバットを腕で防ぐ。普通なら生身で攻撃を受けたため痛みで声ぐらいあげるはずなのだが、アイツは無言のままであった。
「な、なんだよお前!?」
アイツの異様ぶりに気がついた手下は後ろに退こうとするも、アイツはバットを引っ張って手下を自身の方へ寄せる。そして手下に強烈なアッパーを食らわせた。体がやや浮き、空中に白い歯が舞った。
なお前方に倒れ込む際に気絶中の不良の手が偶然、アイツのトレードマークともいえる帽子に触れて頭から外れた。
その時、私はアイツの顔を見てゾッと鳥肌がたった。
距離があってもわかるぐらいに目つきが鋭く、普段は黒目が大きくて温厚そうな眼から三白眼へと変化している。また雰囲気も大きく変わっており、陽気で人懐っこさがあった気配から冷徹で狂気の混じったモノへと変貌を遂げていた。
あまりの変貌っぷりに私は皆が知る伍長なのかと疑うとともに、アイツの本性を知って愕然とした。
「テメェもこいつらの様になりたくなかったら彼女を解放しろ」
「わしを騙そうとしても無駄ぜよ。どうせ解放してもおまんはわしを仕留めに来るばずちや」
「わかってたか」
「さて、どうせわしが勝つんじゃ。名を名乗らせてもらうぜよ」
男は刀を抜いて自身の肩に峰を当ててから、堂々と己の名前を述べる。勝利を確信して慢心しているのか、笑みを浮かべながら名乗る仕草は非常に腹立たしかった。
「わしの名前は岡田以蔵。そいて剣の天才じゃ!」
「……幕末の人斬りと同じ名前だな。さては復活したか?」
「はぁ? そげなこと抜かすなや阿保が、偶然に決まっておろうが」
「そうか」
それほど男の名前に興味がないのか淡白な返事を返す伍長。
伍長は呑気に落ちた帽子を拾うために俯き腰を屈ませる。すると、その行動を取ったのを確認した以蔵は剣を上段に構えて突撃してきた。確かに隙を見せたアイツが悪いのだが、それ以上に自分で戦うと明言していた以蔵が突如として斬りかかる姿に私は驚愕と怒りを覚えた。
すぐさま私は伍長に向かって危機を知らせる。そうしないとアイツがあっさり殺されてしまうと感じたからだ。
「伍長、前ッ!」
「死にさらせェーッ!!」
以蔵と伍長との距離は僅か二メートル、以蔵の刀の間合いだ。以蔵の刀は伍長の後頭部に振られようとするも、アイツは即座に帽子を片手で手にした後に、右の方へと横転した。横転して以蔵の攻撃を回避すると、アイツは隠し持つように所持していた銃剣を即座に太もも付近から取り出し、瞬時に立ち上がって以蔵の左腕目掛けて刺突を行う。
だが、以蔵も後ろにステップを踏んで距離を離すことで躱す。
一撃を外した伍長は銃剣を以蔵の右胸目掛けて投擲するも、以蔵は剣で難なく銃剣を弾き攻撃を防ぐ。再度攻撃を防がれた伍長は腰に取り付けていた刀を鞘ごと取り外して以蔵に横薙ぎを食らわせようとした。
「ちぃッ!?」
以蔵はどうにか剣でアイツの刀を受け止めるも、不思議と顔を歪ませて後方へ下がってきた。遠くで銃剣が地面に落ちる音が鳴る。ある程度距離の取ることができた以蔵は柄を掴んでいた手を一度緩めるような仕草をする。
「なんつぅ馬鹿力ちや……。手がちゃがまる」
「訛りであまりわからないが、痛いということだな」
「まあそういうことぜよ」
「今度は直接体に打ってやるよ」
そう伍長は言うと、持っていた刀の鞘を引き抜いて鞘を投げ捨てる。そして伍長は剣道で基本の体勢といわれる中段の構えを取った。以蔵は鞘を抜いたアイツを見て、突き刺すような眼光をより鋭くさせる。
……まほ隊長はアイツに剣道を教わったことがあるって言っていたわね。となると、アイツの剣道の腕前はかなりのモノ、じゃなきゃ西住流の次期家元に教えることなんてないしね。
「道場剣法でわしに勝とうなんぞ、阿保を抜かすなや!」
以蔵は姿勢を低くし、足を大きく縦に開き、利き脚であろう右脚を後ろに左脚を前にする。そして刀の峰を背中に向けるような上段の体勢を取った。その姿はまさに猪のようだ。
そして以蔵は一呼吸するとアイツに向かって突進を行う。低姿勢での突撃は下半身の全筋肉を用いているため恐ろしい程に速い。しかも姿勢が低いので攻撃箇所が限られる。
「チェストォッ!!」
以蔵は叫び声をあげながらアイツとの距離を縮め、また以蔵の間合いに伍長が入ってしまう。しかし伍長は動かない。勝利を確信した以蔵は剣を大きく振り下ろした。私はアイツが斬られてしまう姿をどうしても見ることができず、思わず目を閉じた。
嫌でも脳裏には数秒後、血飛沫を撒き散らすアイツの未来を考えてしまった。
「ふんッ!」
「ぶッ!?」
だがそれは杞憂に終わる。この以蔵の叫び声が聞こえ、私は開眼する。
何が起きたかというと、以蔵が己の間合いに入った瞬間に伍長は剣での攻撃ではなく脚による攻撃を行ったのだ。蹴りあげられた以蔵は鼻を片手で押さえながら後ろへ下がる。伍長は好機と察して接近、刀を以蔵の肩に打ち込んだ。
「ガアッ!?」
本来なら肩が切断されて戦いは終わりなのだが、アイツが用いたのは日頃から愛用している模擬刀だったのだ。そのため、以蔵は痛みに苦しみながらも片手で剣を振るうことができた。それに対応するため伍長は刀を構えなおす。
両者の刀と刀が衝突し、つばぜり合いになる。力ではアイツの方が勝っているため、以蔵は少しずつ押されていった。
「く、くぅ!!」
「おらああああッ!!」
「ち、ちィ!」
伍長は唸るような声をあげて以蔵を威嚇する。
アイツの気迫に押されたか、それともつばぜり合いでは分が悪いと踏んだのか以蔵は伍長を蹴って二人の距離を取る。蹴られてよたつく伍長だけど、即座に構えなおして以蔵を威圧する。以蔵も両手で剣を握りなおしてから睨みつけた。
この戦いの傍観者である私は二人の威圧と殺意に鳥肌が立ち、冷や汗も掻いていた。こんな殺意を丸出しにした以蔵と闘志を剥き出しにした伍長が戦うさまは、さながら獣の戦いともいえた。戦車道や他の競技では味わえない緊迫感は不思議と私を虜にさせた。何故、コロッセオなどの闘技場が人気だったのかが今にも説明できそうな程度に。
私はその時、とある一時の不安を抱いていた。それは自分が殺される、または伍長が殺されるということではなく、みほやまほ隊長の知るアイツが消えてしまうのではないか、と―――――――。
Q ガルパンは刀でチャンバラをする作品ですか?
A いいえ違います。