日本兵 in the ガルパンworld!! 作:渡邊ユンカース
あと残酷な描写もあります。
模擬刀を構えて呼吸を整える伍長に足を地面に擦って隙を伺う以蔵。流派は違えど達人同士の二人が放つ威圧感は何者の侵入を許さない。仮にその空間に足を踏み入れようものならどちらの陣営構わず斬りかかることだろう。
私は息を呑み込んで伍長の行く末を見守る。
「しゃあッ!!」
最初に斬りかかるは以蔵、刀で刺突するつもりなのか剣先を向けて伍長の胸元へと迫る。対してアイツも以蔵の攻撃を受け流そうと胸元を中心に刀を構え直した。
以蔵が刺突を繰り出すとアイツは突きを難なく受け流し、再度蹴り飛ばそうとする。
そんなことは見抜かれていたのか以蔵は後ろへステップを踏んで蹴りを躱すと伍長へ袈裟斬りをする。たけどアイツは以蔵の攻撃を自身の模擬刀で受け流してから後ろへ距離を取る。
「はっ、さっきから剣による攻撃が皆無ちや。そんなんでわしを倒せると思うたか?」
「なら要望に応えてやろう」
そう言うと伍長は上段の構えのまま地面を強く踏み込んで一気に以蔵との距離を詰める。どうせ振り下ろされるのは頭だろうと、以蔵は油断していたのかそれを刀を頭上へ構え、受け止めようとした。
だけど、放たれたのは面打ちと見せかけた胴打ちで模擬刀は以蔵の腹部へと迫る。いくら斬れないとはいえ鈍器としては用いることが可能。かなりのダメージが期待できた。
「なんちゃあないッ!!」
以蔵はアイツのフェイントに悪態をつきながら手首を半回転させて、刀をどうにか腹部の防御へ回すことができた。
「がはッ!?」
「やった!」
しかし、アイツはかなりの力を込めて打ったのか完璧に防ぎきることはできずに以蔵は押し負けて胴打ちが決まる。刀による防御である程度の威力は半減したとはいえかなりの威力。私はこの様子を見てアイツの勝利を確信する。
しかし、以蔵は胴打ちを食らいながらも刀を乱雑に振り回し、追撃を仕掛けようとした伍長を遠ざける。遠ざけた後の以蔵は膝を地については、口から嗚咽と涎を垂らす。
「こんの馬鹿力が、わしに膝をつかせよって!」
「知らねえよ」
痛みを怒気と憎しみに変えてふらつきながらも立ちあがる以蔵の姿を見て、伍長は何の感情を抱いていないのかまるで無機物を見るかのような視線を送る。この視線に以蔵はさらに激怒して先程までの余裕がなくなったかのように暴言を吐き始める。
数分前の大物ムードから小物ムードへ変わったことには正直失笑ものだけど、今はそんな皮肉を吐ける状態じゃないわよね。
「わしは天才じゃ! おまんみたいなボンクラとは格が違うんじゃ!」
「その天才が凡才に膝をつかされてるんだぞ。わかれよ」
「ほざけ! 今宵おまんの首は胴から離れてると思え!」
以蔵は袖で口元を拭ってから脇差も抜いて二刀流の構えを取る。アイツはその構えに見覚えがあったのか、ポツリとその流派の名前を零した。
「二天一流か」
「その通りぜよ。まっことわしの尊敬する宮本武蔵が作り出した流派、その身に味わえや!」
以蔵は右手に持った刀を振り上げながらアイツに接近するのに対し、アイツは手数で圧倒されると考えたのか自身の間合いに入った瞬間に以蔵の首元を狙って刺突をする。だけど、その突きは左手に持った脇差に弾かれてしまう。
以蔵の脳天目掛けて振り下ろされる刀に対し、アイツは両腕を即座に引いてから右に一歩ステップを踏んで躱そうとする。
「あっ!?」
「ちっ」
アイツはなんとか振り下ろされた刀を躱すも、完全に躱しきることはできず左肩を切り裂かれて、じんわり肩の布地が赤くなる。
さらに以蔵はアイツに追撃を仕掛ける。今度は脇差を細かく刺突や横薙ぎを行っていく。伍長は距離が詰められすぎていたため模擬刀による防衛ができずに、後ろへ下がりただひたすらに躱し続けていた。何度も攻撃を躱し続けているうちに、アイツの軍服の所々が切り裂かれて鮮血に染まっていく。
私はいつ攻撃がアイツに当たるのではないかとハラハラしていた。
「はははっ! ひさに躱し続けられるか!」
「クソがッ」
伍長は相手が刺突し終えた瞬間を狙い、以蔵の股間目掛けて蹴りを入れようとするも、それに感づき以蔵は二歩後ろへ下がった。伍長は脇差を吹き飛ばそうと模擬刀を剣先を地面に向けて、低く構えてから脇差目掛けて斬り上げる。
「そんな攻撃読めてるんぜよ」
脇差と刀をクロスした状態でアイツの斬り上げを防ぐと、以蔵は右手に持つ刀で横薙ぎを行う。模擬刀は脇差で抑えられているためすぐには引けないため、アイツは屈んで横薙ぎを躱す。その時、アイツが常に被っていた帽子が宙に舞う。
「さきの蹴りの返しぜよ!」
「ぐっ!」
屈んだ隙を狙ったのか以蔵は伍長の顔面に靴底がぶつかり、強く蹴り飛ばされた。だが、この攻撃のお蔭で伍長は後ろへ後転して距離を取ることに成功する。顔面に攻撃を受けたことで鼻から鼻血が垂れるもアイツは親指で流れていないほうの鼻の穴を押さえてから鼻から強く息を出した。
すると勢いよく鼻血が噴き出てきた後に服の裾で鼻を拭いてからは、不思議なことにアイツの鼻から鼻血は垂れなくなった。
「お前強いよ」
「当たり前ぜよ。わしはおまんよりも強い」
「時代が違えば歴史に名を残せる剣士になれたのかもな」
そう伍長はぼやくと自身の出血している箇所に手を当てる。そしてあろうことか血塗れになった手で前髪を掻き上げてワックス代わりに用いた。
「さあ本気は出さん。来いよ」
「……後悔させちゃるわ!」
伍長は以蔵に挑発する発言を発すると、まんまと以蔵は両手に得物を構えて接近してくる。対して中段の構えから何も動かないアイツ。以蔵はアイツに先程と同様の右手による振り下ろしをしようと剣を掲げる。
そして振り下ろされるのを確認するとアイツはニヤリと笑みを浮かべると後ろへ軽くステップを踏んだ。
以蔵の刀は伍長には僅かに届かず虚しく空を斬る。これを確認するとアイツは長物を握る右手に籠手打ちを打ちこんだ。手首に当たったことで以蔵は手にした日本刀を手放しそうになるも、気合いで握り直して、苦痛に歪む表情を浮かべながらも後ずさる。
なお伍長はみすみすこの好機を見逃す男ではない。籠手打ちから面打ちへと移り、以蔵の脳天に剣を振り下ろす。
「こんのッ!!」
脳天に当たる間際で以蔵は左手に持つ脇差で弾いて、アイツの刀の軌道を逸らすことに成功する。だが安堵するのも束の間、今度は以蔵の顔面にゴツゴツとした拳が飛んできたのだ。これには避けることもできず、以蔵は五メートル後ろへ吹き飛ばされた。
「顔面一発のお返しだ」
「く、クソが……ッ!」
「さっさと降伏するんだな。さすれば八割殺しから半殺しまでにしてやるよ」
「あやかしいこと言うなッ!」
睨みを利かせながら立った以蔵は脇差を納刀し背後に手を回す。すると背中からリボルバー式の拳銃を取り出して対面する伍長へと銃口向けた。
拳銃の大きさは小さめではあるものも、人を殺すのには事足りる。それにどう考えても近接武器と遠距離武器とで戦ったら遠距離武器の方が勝つ。また、殺傷はできなくとも相手の体のどこかに傷をつければ近接武器を扱う者にとっての障害となりえてしまう。
分の悪い相手に私は思わず冷や汗を垂らすけど、伍長に至っては顔の表情を一つも変えずただ以蔵を見つめていた。
「拳銃を使うのはおぼこいが、もう手段を問えやせん。死ねや」
「伍長!!」
以蔵は拳銃の引き金を引く、倉庫の中に無機質な銃声が響き渡った。短い銃身からは九ミリの弾丸が一発、伍長目掛けて突き進みアイツの頬を掠める。擦り傷から血が流れる。
普通は弾丸が掠ったとなれば慌てふためいたり動揺するのが世間一般の反応だが、アイツは何事も狼狽えずにただ模擬刀を構えてジッと見つめている。
動じないアイツを見た以蔵は余計に腹が立ち、三度も引き金を引く。弾丸はそれぞれ腕や脚、そして腹部に命中するもアイツは表情を一切変えない。
この様子にアイツに対して私は嫌なことに恐怖感を覚えてしまった。あんなにも平時では表情豊かだったのに対し、今では人形のように豹変し、感情がなくなってしまっているのだ。その姿はまさに義務的に殺害をこなす殺人マシーンそのものであった。
以蔵の拳銃に残された弾は一つ。以蔵は自身の射撃の腕を憎みながらアイツを動じさせることができる決定的な策は無いかと頭の中で模索しているようだった。
すると何かしら妙案を思いついたのか以蔵はニタリと笑みを浮かべると、突如として私の方へ拳銃を向けて発砲してきたのだ。
「うあっ!?」
以蔵が放った弾丸は私の頬を掠め、弾によって千切られた数本の髪の毛がパラパラ落ちる。傷口は熱い物を押し付けられたかのように熱く感じ、以前カッターで指を切った時の痛みとは別の感覚だった。
そして拳銃で撃たれたことによる恐怖で私は思わず目から涙を流して泣いてしまった。理由としては戦車道で砲声や銃声は慣れていたとはいえ本物はやはり違ったことや、私自身が殺されかけていたからだ。
この行為にはさしもの伍長も感情を取り戻したのか目を見開いていた。
「……やはりわしに拳銃は無理じゃか」
「お前、やってくれたな」
「あぁ? 聞こえんぜよ」
「お前やりやがったなッ!!」
この行為に腸が煮えくり返ったのか、伍長は倉庫内の空間全体を震えさせる程の怒声を発すると手にしていた模擬刀を投げ捨てて、背中に背負った刀を引き抜いた。倉庫の照明がその刀を照らすと、刀の刃が鋭く反射する。
「そん刀は真剣か、ほんならようやく本気だすつもりと!」
「もうテメエはぶっ殺す!何を言おうとぶっ殺してやるからな……ッ!」
先程の態度とは打って変わった伍長の態度に以蔵は両手で刀の柄を握り直す。アイツは犬歯を見せつけるかのように噛みしめ闘志を剥き出しにしながら、今までとは見たことない構えを取っていた。その構えというのは以蔵の左目に剣先を付け、やや刀身を右に傾けている。
その体勢に以蔵は言及する。
「ようやっと剣道から剣術に変えよったか。そいてそん構えは天然理心流」
「あぁ、新選組がよく用いた流派だ。では……行くぞッ!」
私の涙で歪んだ視界に写されるのは伍長ではなく鬼人そのものだった。
今回、以蔵が用いたのは日本の警察官も使用している拳銃です。
それと伍長の剣術はすべて我流です。それぞれの流派を履修していた戦友に教わり習得しました。