日本兵 in the ガルパンworld!! 作:渡邊ユンカース
またエリカ視点、そして途中から伍長へと移ります。
「さあ攻めてみい」
「……ッ!」
構えを取ってから一度深呼吸を行い、伍長は勢いよく以蔵に向けて突撃をする。真剣を持っているのにも関わらず、一切の躊躇がない。
伍長は手首を捻り刀を寝かした状態で突きを以蔵の首元目掛けてに放つ。以蔵はそれを弾き、袈裟切りを行おうとするがアイツは肩で以蔵に体当たりをする。小柄ながらも筋肉質な肉体が有する突撃力はかなりのもので、以蔵の体を退かせ姿勢を崩す。
これにより以蔵の間合いから外れた。
次にアイツは先程したように刀を寝かせた状態で突きと薙ぎを繰り出す。狙いは的確に人体急所の一つである首。首は皮が薄く非常に切りやすい、刃が一寸さえ届けば確実に相手の命を狙えるほどだ。
熾烈な攻撃を前に以蔵は頬や首に掠り傷を負いながらも体を反らして攻撃を躱していたり、弾き返していたりした。
「なめるなぁ!!」
「おおおおおッ!」
攻められてばかりの以蔵ではない。以蔵は屈んでは左脚を軸に回転し、アイツの足首へ刀を振る。刀が軍靴を捉えようとするも、アイツは飛び跳ねて刀を飛び越えて躱し、膝蹴りを姿勢の低い状態の以蔵に喰らわした。後方二メートル蹴り飛ばされるも以蔵は即座に体勢を整える。
数分前は剣道の試合などで見るような形式にある程度基づいて自己防衛に重きを置いた戦い方をしていたのに、今では映画や時代劇で見るようなただ殺すための殺陣を繰り広げていた。
この光景に私はもう何も言えなかった。言えるはずがなかったのだ。人と人とが狂いながら戦うさまに圧倒されて、私は眼前の狂気に怯えて傍観するしかないのだ。
「いッ!?」
あまりの回避率の高さに業を煮やしたのか、伍長は以蔵の片足を踏みつけてから首元に剣先を迫らせた。これでは回避するのは難しい。
「なんちゃあないッ!!」
だがしかし、アイツの出した突きは以蔵が左手であえて貫かせることで軌道を反らしてから、以蔵は片手に持っている刀の柄でアイツの額を何度も殴りつける。すると手を貫いた状態では以蔵の命を狙えないと考えたのか、アイツは刀を強引に抜き取ってから以蔵の足を離す。以蔵は脂汗を浮かせながらも、すり足で後ろへ後退して距離を取る。
一連の動作を最初から最後まで見ることは私にはできなかった。けどアイツが刀を左手から抜いた瞬間、以蔵が苦痛に悶える声をあげていたのははっきりと耳に届いてしまった。これが痛みに苦しむ者が発生する声なのかと耳を疑った。
「死ねッ!」
距離を離してから一息すると伍長は足を大きく開き重心を落とし背中に刀の峰を向けて構えてから、けたたましい猿叫を発しながら以蔵に突撃した。以蔵が前にした構えとほぼ同じだ。だが相違点としてはその迫力で、その姿は何人も人を殺めてきたのだと嫌でもわからせてくる。
以蔵は猛スピードで突っ込んでくる伍長に対し、血まみれの左手を柄に添えて姿勢を低くくして突きの構えを取るも、やはり片手に深手を負ったのが致命的になったのか以蔵の間合いに侵入した伍長になんとか突きを放つも、勢いが足りない。あっけなく顔を右に向けて躱され、伍長はそのまま剣を振るうとする。
必殺の刃を前に以蔵は歯を食いしばり、恐ろしいほど苦悶の表情を浮かべていた。
「もうやめてッ!!」
「!?」
人が殺す光景も殺される光景も見たくなかった私は、今なお剣を振り下ろそうとするアイツに向けて大声で叫ぶ。あの陽気な男が私の目の前で殺人犯となるのはどうしても嫌だった。ヘラヘラと笑みを浮かべて人の悲しみや喜びを分かち合える素直な人が冷徹な殺人犯として私の記憶に残りたくはなかった。だから私は恐怖に打ち勝ち声を発せられたのだと思う。
アイツに似合うのは殺意ではなく笑顔なのだ。
この掛け声を聞いた伍長はピタリと剣が以蔵の脳天目掛けて振るわれることなくぴたりと止まる。徐々に我に返ったのか、アイツは立ちあがり刀を手中から落とした。鋼の音が試合のリングが如く倉庫に鳴り響く。
「……そうだ。そうだったな。俺はエリカを救いに来たんだったな」
当初の目的を思い出し、傷ついた体で一歩一歩ゆっくりと私に近づいてくる伍長。顔には先の殺意や憎悪に怒りといった感情は無く、普段と変わらない様子で近づいてきた。一歩一歩踏みしめる度に赤い足跡を残している。
私はそんな伍長を見て寸でのところで殺人犯になることを阻止できたことに安堵すると、不思議と安心しきったのか涙がぽろぽろと零れ落ちる。安心しきって泣くなんて赤子のようだわ。
何故、私が泣いているのかを理解できない伍長は困った様子で頭を掻いている。
「さあ、みほたちのところに帰ろう。お前を待って―――――」
私の縄を解こうと伍長が腕を伸ばした瞬間、突如として伍長の腹部から刀が生える。何が起こったか理解できない私と伍長は大きく目を見開いている。伍長と私は恐る恐る伍長の背後へ視界を向けると、ボロボロになった以蔵が刀で伍長を背後から突き刺していた。私の目の前で伍長の口から血液が溢れ出して一気に鉄臭い臭いが周囲に広がる。
「ごめんな」
伍長は幼い子供が慈悲を乞うような悲しい笑みを浮かべる。刀が強く体内から抜かれるとアイツはその反動で一歩後退して重々しく膝をついた。
「はぁはぁ、わしは天才じゃ…天才なんじゃ……!」
「うおおおおおッ!!」
アイツは瞳孔を大きく開き、最後の力を振り絞って以蔵の腹部目掛け、組み付こうとするが左手が以蔵の脇腹を掴む前にひじ関節ごと切断される。斬られた片腕がぼとりと落ち、斬られた反動でバランスを崩し地面に伏す伍長。腕の断面からはおびただしい程の出血でコンクリートの床を朱色に染め上げる。
私はこの見るからに残酷な行為を見てしまい、心が大きくすり減ってしまったのかもはや叫ぶ気力すらもなかった。
「く、くそが……」
片腕を失ってもなお右腕を伸ばし以蔵の太もも付近を掴み抵抗をする伍長であったが、今までの蹴りの清算をするかのように伍長の顔面を蹴り飛ばす。アイツが手を放してもなお蹴られ続ける。
「死に晒せ、死ぬまでしでてやるぜよ!」
「がはっ……」
何度も何度も顔や体を蹴られてあざと傷を増やしていく。腕を失い武器をなくした伍長にはすでに勝ち目はなかった。
次第に伍長も体力の限界を迎えたのか、攻撃を受けても一言を発さなくなり、とうとう沈黙してしまった。
私はついにアイツが死んでしまったのだと気づいてしまい、力なく項垂れて後に来るであろう死を待つことにした。
もう抵抗する気力なんて湧かない。どんなに痛めつけられようがどんなに犯されようが私にはどうでもいい。私が実質殺したようなものだ。私が拉致られなければアイツは死なずに済んだし、私の勝手な願望で以蔵を殺めることはできなかった。
もう、どうでもいいや――――――。
「見物人にゃ用はもうない。死ね」
以蔵は私に向けて刀を振り上げた。
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昔、俺は神様を信じていた。
その神様は国を治める権力者にして神の子孫と国民全員が言い、俺もその神様や他の神様を信仰していた。だがしかし、神様はなんて理不尽なのだろうか俺を愛する者をことごとく奪い去ってしまった。
母親、父親、戦友、そして愛する彼女でさえも。
俺は神様に嫌われているらしい。このことに気づいたのは俺が死んだ後であった。
「ここは、何処だ?」
俺は辺り一面が白い空間にて目を覚ます。右手で斬られたはずの左腕を確認するとそこには無いはずの左腕が存在した。左手もきちんと動いた。
俺は気力を絞って立ちあがり銃弾で撃たれたはずの箇所に手を当てると血がつかない、軍服を捲ってみても新しくできた銃痕は確認できなかった。
「俺は、帰らなければならない。帰ってエリカを守らなければッ」
とくに考えはないのだが取りあえずは歩いてみようと足を踏み出した瞬間、前方から眩い光が空から降り注いだ。探照灯を照らしたかのような眩しさに俺は目を細める。その光は妙に暖かく、心が癒されるような効果を持っていた。
すると、空から奈良の大仏ほどに大きな人物が舞い降りる。白髪の立派な髭と長髪をなびかせて地上に降り立つさまは神々しくあった。
俺は突然現れたこの正体不明な男に警戒を強め、無謀にも格闘する体勢を取る。すると大男はこちらを一見し、鼻であざ笑うかのような態度を取り、薄ら笑いをする。
「人間、神である私に立ち向かうなどやめたほうがいい。貴様では勝てぬ」
「神? 神と言ったな、テメエ」
「あぁそうだ。私は神だ」
ふざけるな、と言いたくはあったがこの辺りが真っ白な空間と体の巨躯から本当の神なのだと俺は気づいた。今まで俺が天界で働いていた時には主に神の使いが監督官としてやってきたり上司として指導していたのは覚えている。
しかし、神の姿というのは一切見たことがなかった。一度見たら忘れなさそうな体の大きさと髭である。キリスト教を信仰している者なら歓喜の涙を浮かべて喜んでいるだろうが、俺は違う。仏教や神道ならまだ信じるが、目の前の存在を忌まわしい存在と捉えていた。
「そう睨むな、人間。貴様の意図もわかる」
「ならさっさと蘇えさせろ。神様って自負するんだったらできるはずだ」
「それよりも君には
「真実……だと?」
神の口から告げられた真実という単語に思わず俺は反応する。その反応を察した神は馬鹿にするかのように口角をやや釣り上げていた。
この事実とは俺の名前や何故天界で日本兵が俺だけなのかということを表すモノなのか? それとも俺の名前について言及するつもりか、アイツは。
「貴様、最初に暗黒の空間で謎の物体が自身の体内へと取り込まれたことを覚えているか?」
「……忘れることはないな、それがどうした」
「あの正体、知りたいか?」
「あぁ?」
唐突にかなり初期のことを言い出されて神が言おうとしている意図がわからずに疑問符を浮かべる俺であったが、そんなこと知ってか知らずか神は俺の否応を聞く前に正体の存在を暴露した。
すると、その正体を認知した俺は膝から崩れ落ち、口から吐瀉物を吐き出して白い床が汚れていく。気分が非常に悪く寒い、気を抜けば気絶してしまいそうだった。
「何故そこまで気分を害するのだ。醜悪なモノでもなかろう」
「う、うるせえ……ッ。誰しもがそうなるだろうがよッ、その答えにはッ!!」
「たかが
暴露されたモノ、それはすなわち魂。人間の核となるものだ。その魂が俺の体内に大量に取り込まれていたと知らされたのだ。得体の知らない恐怖と気味悪さが襲うのも無理は無い。
神にはこの感情を理解できないのか、無関心さが窺える態度を取っているため、やはり人の理を超越した存在にはわからないのだと俺は悟る。稀に意味不明な行為をする天使の方がまだ何百倍も可愛いものだ。
吐き気や悪寒に苛まれながらも俺は立ち上がり、腹の底から神に向かって叫ぶ。
「テメエのような崇高な存在にはわかるはずがないだろう! 一人の体に大量の人の核となる魂をぶち込みやがってッ!! 俺の体に容れるなら神社か寺を天界に建ててそこに奉りやがれ!!」
「そんなことをしては天界が埋まってしまう。なら名のない人柱として各戦争の各国の兵の魂を一人の体に容れるのが効率的だ。人間という生命体は誠に愚か、すぐに争いを起こす」
「……こ、この化物め!!」
「人間は神の考えには同意しない。それは人間性があるためだが、私はそれを修正しようとは思わない。理由としては修正したとしても新たに人間性が芽生えるからだ」
考えが合致しない、これが人間と神との差なんだろう。
しかし、管理が容易いというふざけた理由で人柱に立てた俺や同僚である各国の兵士、そして天界に居る全兵士に現世へと蘇えさせる権利を与えたのかがわからない。
不気味にも神は俺の思考を覗いたのか、その答えを述べる。
「何故現世へ蘇させたのかというと、ただのきまぐれの一つに過ぎない。まあ人柱で天界が溢れた場合を想定しての実験でもあるな」
「……」
この答えに俺は何も言えず何も思えなかった。
これが神という存在、これが人智を超越した存在なのだ。十の問いを投げかけても想定外の十の答えを返してくるのが神という存在。とてもじゃないけど論争する気力は湧かなかった。
神は無気力で立ちすくむ俺にさらに言う。
「それに生き返ったのなら試練を与えねばならぬ」
「試練、だと?」
「そうだ。何も条件なしで生き返らせても面白くはない。だから貴様に数々の試練を与えたのだ」
「試練――――――まさかッ!!」
脳裏には以蔵との対決やプラウダ学園における対戦車戦にアンツィオ学園の予算問題が浮上する。真意を俺が汲み取ったことを傍目に無感情で淡々と試練について話す。
「貴様は二度の試練を乗り越えた。しかし、今回の試練で貴様は失敗しかけているがチャンスをやろう。銃弾を撃ち込まれて片腕を無くしてもまだ戦うか?」
「当然だ」
神の問いに即答する。
答えを聞いた神は初めて微小ながらも表情を露わにしている様子で眉を微小に上げている。
もしも俺がそのまま試練を失敗してしまえば誰がエリカを助けるのだ。俺が起きなくてはエリカは殺されてしまうのは確実なのだから。
「いいのか? 試練を諦めても貴様は特別に人柱としての任を解き天使となる資格を与えようと思うのだが」
「それでも俺は彼女を守るんだよッ!」
「かつての恋人と空似だからか?」
「目の前で助けを求める者を救わずしてどうする。―――――俺は大和魂を秘めた日本男児だ!」
白い空間で俺は吼えた。目には一人の兵士としてではなく、一人の人間であることを示した灯火が轟々と燃え盛っていた。神は人間の底力を体感すると、初めて嗤って見せた。嘲笑と驚嘆に歓喜が籠められた不気味な笑みである。
神が指を鳴らすと俺の足元に門が出現する。ちょうど立ち位置的に扉の上に立っている。
「行ってくるがいい。貴様が試練を乗り越えられるか、せいぜい愉しませるがいい」
「覗き見とはいい身分だ。流石は神だな」
これ以上にない秀逸な皮肉を吐いてから俺は扉の開いた門の中へと落ちていった。
神は門の消失を確認すると光に導かれて何処かへと姿を消した。白い世界には何もない。
神様のイメージは幼女戦記の存在Xをモチーフにしてます。
まああっちの神様の方が神様らしいけど。