日本兵 in the ガルパンworld!!   作:渡邊ユンカース

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これでようやく原作ルートに入れる……。
ということで過去編最後です。


再戦と決別

「俺を忘れるな」

「あぁ?」

 

以蔵は結局その剣をエリカに振るうことはなかった。いくら力を込めても寸毫も動かない刀から察したように背後を向いた。

 

当然、そこには右手で刀の刃を握り彼女に刀を振るわせないと阻止する俺の姿があった。おびただしい出血を左腕の断面から垂れ流し、刃を掌握する右手にも血が左腕へと滴る。不思議と体は痛くは無い。

 

エリカは満身創痍でありながらも立ちあがり自身を守ろうとする俺を見て、影が差していた顔を上げて、口を開けて驚いていた。

 

「ご、伍長?」

「今起きたぞ。さあ帰ろう」

 

俺は彼女に血塗れの顔面で笑みを浮かべると、以蔵の首の付け根を服越しに噛みつき、体を大きく振って投げ飛ばした。

まさか背後から投げ飛ばされる展開など考えてもいなかった以蔵は驚嘆しながら硬い地面へと転がる。

 

「な、なんじゃおまんの咬合力!? 化け物か!!」

「知らねぇよ。火事場の馬鹿力だろ」

「……なんちゃあない、再戦といこうかや」

「だな」

 

剣を構えなおす以蔵に対し、俺は片腕で徒手空拳の構えを取る。相手は武器を所持して負傷も左手だけ、だが俺は武器も無くて片腕だ。しかも銃弾が体に埋め込まれている。

 

一見、勝ち目は明白なのだが俺はそれを使う。以蔵はほぼ勝ち戦ともいえる戦いでなるべく無理はしたくはないはずだ。だから以蔵は今までよりも手を抜いた攻撃をしかける。それを狙って俺が反撃して一撃で落とす。

 

「ちぇすとおおおッ!!」

 

以蔵は上段の構えでこちらに突撃する。構えから判断するに示現流で一度回避しても二の手三の手がある。油断はならない。

俺は呼吸を整えて以蔵を迎える。動機も呼吸も落ち着いて、俺の体は不思議と落ち着いた状態になっていた。あんなにも憤怒していた感情も今は無い。何故か清らかになった気がした。

 

「しまいじゃあああッ!!」

 

以蔵が自身の剣の範囲まで接近して剣を振り下ろす。だがしかし、それよりも速く口から血を以蔵の顔面へ向けて吹き出す。びちゃりと俺の血が以蔵の視線を隠し、振り下ろす動作が刹那に鈍る。

 

――――好機を開いた。

 

俺は接近して片手で以蔵の胸倉を掴んで体を低くして前傾姿勢を取る。以蔵は俺が掴んできたことを感知し、刀を振っては必死の抵抗をする。その時、がむしゃらに振られた一閃が俺の右目に縦線を入れるように斬られる。右目の視界が暗転し熱かった。

 

「ッ!!」

「離せえええええッ!!」

 

けれど俺は腕力と相手の力を利用したこの動作で以蔵の体を宙に舞わしてから地面へと叩きつける。背中から落とされた以蔵は半ば白目になりかかりながら肺の空気を全て口から漏らして、手から刀が離れる。

 

「これで、最後だあああ!!」

「がばッ!?」

 

それでも意識を保ち続けていた以蔵に鳩尾目掛けて瓦割りをすると、一度以蔵の四肢が

天井へと伸びるもだらんと落ちる。口から泡を吐いて白目を剥いていることから完璧に気絶したのだと断定できた。

 

いろいろ以蔵に対して思う節はあるのだが、無力化できればそれでいい。さっさとエリカを解放してやらねばな。

あの馬鹿力はどこにいったのか倦怠感と疲労感を背負いつつも、ゆっくり彼女の元へと向かう。赤い足跡が二本できていた。

 

「エリカ、今解くからな」

「ア、アンタどうして私なんかに!」

「どうして、なのかだって?」

 

エリカの背後に回り彼女の縄を解いていると彼女は悲痛めいた声で訊いてきた。

さっきは歓喜していた声だったのにころころ変わるとは感情豊かな娘だな。元気な証拠だ。

俺は即答して答えを述べる。もう縄を解き終えていた。

 

「困っている人がいたら助ける。当然だろ?」

「あ、アンタ」

「それに―――――」

 

もう一つ該当する理由を述べようとした次の瞬間、体は限界を迎えて倒れこんでしまった。もはや立ちあがる力は残されていない、体が言うことを利かないのだ。それに徐々に意識も遠くなっていくし、瞼も重くなっていく。

彼女が駆け寄って声をあげているがその声も雑音が混じっていて聞こえない。

 

――――この感触は死ぬな。けど不思議だもう死ぬ間際だというのに寂しくもないし満足感がある。あの時(沖縄戦)のモノと比べ物にならないぐらい温かくて落ち着く。

……あともう一つの理由があの娘(雪子)と似てるって言ったら彼女はどう反応するだろうか。言えなくてよかったのかもな。

 

「じゃ…あな……」

 

渾身の力を振り絞り伝えられたのはこの一言の短文。彼女は携帯電話で救急車を手配しながら、懸命に俺の命を助けようと上着を脱いで左腕の止血を試みている。

―――――やっぱり、雪子そっくりだ。

 

俺は最後誰かに看取ってもらえることと想い人の影を見たことで満足し、瞼をそっと閉じた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

―――――何処だ、此処。

目を覚まして真っ先に目に入ったものは白い天井。蛍光灯が白くて眩く光っており、アルコールの臭いが漂っている。このことから病室だと察して体を起こそうと上半身を上げた。

 

その瞬間、体に電流が流されたような感覚と鋭利な痛覚が襲い、ベッドに倒れて歯を食いしばって悶えていた。ここまで痛かったのは初めてで、声を発する余裕すらもなかった。

……ちくしょう、無理がたたったな。戦闘している時はあまり感じなかったのに。

 

視野が許す限りで辺りを見渡すとカーテンが三方面に引かれており外の様子を見れない。体には幾つかのチューブが刺されており、心音図を測る機械がベッドの横にあった。

右目には包帯を巻かれている感覚があってむず痒いから右腕を上げて掻こうとするだが、右目に触れる瞬間に激痛が走る。無意識に痛みで左腕も上がるのだが、左腕はひじほどしか存在しない。

 

「くそ、満身創痍だな」

 

無残ともいえる格好に自嘲気味に悪態をついた。独りでは何もすることができないのでため息を吐いては、再度寝ようと瞼を閉ざすと、同タイミングでカーテンが静かに開けられた。

開けた先には西住流家元のしほ殿が顕現し、こちらを一見していた。ベッドに寝たままでは従者として失格ということを上官から聞かされていた俺は、体に鞭を打って無理やり上半身を起こそうとする。

 

「いやいいわ。楽にして」

 

起きたばかりで満身創痍の俺には酷だと判断したのか差し止めるしほ殿。彼女に罪悪感と申し訳なさに表情を表して寝ている態勢を渋々取る。

 

「貴方はどうしてこうなのかしらね」

「わかりません。直しようがないかも知れません」

 

彼女は間違いなく呆れている様子を取って、ベッドの横にあった椅子を引いて座る。備え付けの冷蔵庫からあらかじめ切られて販売されているリンゴを取り出しては、蓋を開けてつまようじを刺す。彼女が突き刺したリンゴを持って俺へ迫るが、不思議と食欲は湧かず、首を振って拒絶の意を表した。

 

「珍しいわね。食べ物を拒絶するなんて」

「俺だってそういう気分はあるんです」

「まあ入れておくからいつでも食べなさい」

「ご厚意感謝します」

「にしても、貴方よく生きていましたね。凡人なら死んでます」

「そうですか?」

「腕や脚に腹部に銃創、体の殆どに打撲痕、合計四十針も縫う様々な刀傷に左腕と右目。正直言うといつ死んでもおかしくはなかったわ」

「何それ怖い」

 

……改めて確認すると俺怪我しすぎではないか。今は滅茶苦茶に痛いけど、戦闘時はただ興奮していて気付かなかっただけなんだなって思う。

以蔵のやつあんなにも俺の体を傷つけるとは案外やる剣士だったな、久しぶりに死闘を演じて自分の未熟さを再認識されたな。退院したら訓練しなくては。

 

「……貴方、変なこと考えてるでしょ」

「あぁ、鍛錬を積もうかと」

「……貴方馬鹿なのね」

「小卒なんで」

 

ジト目で俺の考えていたことに口出しする彼女、俺は正直に思考していた内容を話すと彼女はそういえばこういう男だった、と片手で頭を押さえては振る仕草をする。

 

「……そういやエリカはどうなりましたか?」

 

俺は気にかけていた疑問をしほ殿に訊いた。以蔵や不良共にはきつめの攻撃を与えたから再度起き上がることはないと思うが、エリカのことは心残りであった。

残酷な行為をお互いに行っていたから精神的には参っていないだろうか。年頃の少女に関わらず他の大人ですら衝撃を受ける戦闘だった。

 

「彼女は普通よ。今日も学校に通ってるわ」

「……そうですか。よかった」

「けどね、貴方のこと非常に心配していたわ。一時期はもう目覚めないかもしれないって最初は鬱病になりかけてたのよ」

「それは申し訳ない……ん? 一時期?」

「貴方、二週間も昏睡してたのよ」

「えっ」

 

まさか二週間も寝ていたという事実に直面し驚嘆の声が漏れた。あの死闘が俺から思うについ先日の出来事のように鮮明に思い出せる。

まあ確かに二週間も昏睡していたら起きないのではと考えるし、責任も感じるだろう。早く元気になって顔を見せなくてはな。

 

「あとね、彼女を襲った暴漢らが警察に捕えらえたわ」

「まあ当然ですよ。このご時世は謝罪の一言で解決する世の中じゃない」

「あら傷つけられた分だけ仕返してやろうとか考えないの?」

「勝負で俺は勝った。後腐しちゃいけないんだ」

 

あの戦いはどうあろうとも一対一の戦い。以蔵の方は卑劣な手を行使していたが、それは戦闘の一つの醍醐味だ。

以蔵も卑劣な手を使っても真剣勝負を挑んだのだから、背中を刺すようなことはしないと考えてはいる。

――――まあもし以蔵が再戦を挑むのなら俺は応じよう。まあ次も人質を使うことがあれば、必ずぶっ殺すが。

 

「で、これから貴方の処置を考えるのですが貴方はどうしたいのですか?」

「どうしますとは?」

 

彼女はおかしな提案を俺に持ち掛けてきた。突然の問いかけに俺は疑問符を浮かべながら訊き返す。

 

「残念なことに一生右目と左腕は戻らないことです」

「そういうことか」

 

確かに戦闘で左腕と右目を無くしてしまったのだから、みほとまほの護衛はできない。ましては障害を抱えた人間を黒森峰に置いてもらえるかすら怪しいところで、五体不満足とまではいかないが確実に俺の戦闘力は落ちた。左右からの攻撃に対処しづらくなっているからだ。もはや自分の身を守るだけで手一杯だ。

 

だからこそ彼女は俺の答えを望んでいる。剣道の指南ですら隻腕隻眼では難しいし、屋敷の掃除すらも怪しい。彼女の厚意に甘えれば俺は西住家に残れるのだろう。しかし、それではただの役立たず。それはあまりにも厚かましいし苦痛にしかならない。

 

だから俺は数少ない選択肢の中で最善と思える選択肢を選出した。これしかないと、知恵を振り絞ってその答えを出した。

 

「俺は西住家を出ることにします。旅に出ようと」

「……それが貴方の決断なのね」

「はい。穀潰しにはなりたくもないですし、役に立てないでしょう。まあ、火急の用があれば駆けつけるので」

「…わかりました。ではお金は西住家で工面をしましょう」

「いやそれも結構。しほ殿の心遣いには感謝致しますが、役立たずとなった俺にはもったいない。それは西住流のために使ってください」

「…」

 

しほ殿は俺の決断に対して様々な援助をしようとするのだが、俺をその全てを拒絶した。役に立てない人材に援助をしてもらっても、むしろ苦痛となるだけであるし、援助に惚けて惰性するきっかけになる可能性もある。それならば、援助を貰わずに何処かへ消え失せて人知れずにのたれ死んだ方が得策だろう。そうすれば誰の迷惑になることはなくなる。

 

「……わかりました」

 

しほ殿は重々しい表情を浮かべて俺の決断を認めた。彼女も俺の意図を汲み取れないほど愚かではない、むしろ賢者の方だ。俺はその言葉が聞けて感謝と安堵が混在した笑みを浮かべていた。

 

対象に彼女は俺の笑みを見て、何故そんなにも喜びと悲壮感が混じったあやふやで不気味な笑みができるのか一切わからなかった。

 




Q 何故一年に渡って過去編を書いたのですか?

A着地点を見失ったから。
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