日本兵 in the ガルパンworld!! 作:渡邊ユンカース
「うん、やることがないッ!」
時計の針が十二時半を回った頃、校内では昼休みを知らせるチャイムが鳴り、廊下は多くの生徒で埋め尽くされている。教室内でお弁当を食べる者もいれば、食堂へ行って昼食を食べたり、あえて外に赴いて食べようとする変わり者もいる。
そして俺は用務員室もないので、わざわざ食堂まで足を運んでカップ麺にお湯を注ごうとしていた。
別に昼食を此処で食べてもいいのだが、周りが生徒で囲まれているので俺が居座ったら異物感で目立ってしまう。それに隣席する生徒にも緊張させてしまう。だから俺は周りを気遣ってカップ麺をいれるだけにしたのだ。
なお食べるところは人気の無いベンチだ。
「あっ! 伍長さん」
「あぁ、みほか。奇遇だな」
背後から声をかけられたので後ろへ振り向いて返事に応える。声をかけた主は昨夜会ったみほで、彼女に付き添うように二人の女子がいる。一人は明るい髪色の長髪を持つ娘で、もう一人はいかにも大和撫子と呼べる娘だ。
容姿は二人とも良いのだが未だに幼い。あと数年経過すれば俺の好みへと化けるだろう。
「伍長さんも此処でご飯?」
「いいや。俺はこのカップ麺にお湯を注いだら立ち去るつもりだ」
「えー。此処で食べていけばいいのに」
「それだと周りが気まずい思いをするだろう。俺は男でもあるし」
「みほはあのイケメンと知り合いなんだ。羨ましいなー」
「まさか許嫁とか?」
「それはないよ。だって伍長さんは確かに顔や性格は良くても、私にとってお兄ちゃんみたいな存在だし」
「俺からも言える。しかも俺の好みじゃないぞ」
よく家元の下で剣道の指南役をしていた際に、門下生からみほやまほ、しまいには家元の色恋の関係について問われたことが幾つかある。しかし、家元は恩人で西住姉妹は妹分として俺は見ていた。おそらく相手側もそう思っている。
「け、けど義兄妹から発展することもあるじゃん!」
「ないない。俺はこいつが異性を意識する前から面倒見てるんだ。そういう感情は湧かない」
「それほど西住さんを妹として見ているのですね」
「あぁ。それと、みほはこう見えてやんちゃだからな」
「ご、伍長さん!」
「意外ですね。落ち着きのある女性だと思ってました」
「ねー」
「田んぼでザリガニ捕まえたり、昆虫採集したりと活発だったな」
俺は過去の記憶を巡らせて、あの時の懐かしさに浸る。
そしてみほの友人二人は驚いた様子であり、みほの方は顔を赤く染めてこちらを睨んでいる。普段から威圧することに慣れていないのと愛嬌のある娘なので睨まれても怖くはない。むしろ愛らしい。
「まあみほと仲良くやってくれ。いいやつだから」
「はい。わかりました」
「もちろんです」
「みほも当たり前だけど友達は大切にな」
「うん。わかってる」
「そうか」
微笑を浮かべ、そそくさとお湯を注いだ俺はその場から立ち去った。
彼女の友達と深く接するために俺がその場にいることはむしろ邪魔だ。今のみほに必要なのは友達だ。友達がいなければ学校生活は面白くはないからな。どんな苦しいことでも友達とそれを共感しあえれば緩和されて良い思い出となるだろう。
「さて、飯を食い終わったから仕事するか。することないけど」
人気の無いベンチにて俺は座りながら昼食を食べ終えた。
カップ麺ということで完食するのも早く、次の仕事をしようと立ち上がる。
うーん、何の仕事をすればいいのだろうか。落ち葉も集めたり生垣の伐採も終えた。先生を口説くのもいいが、セクハラとして訴えられる可能性もある。とにかく、ドアのガラスでも拭いていようかな。
次にやることを取り決めて腰を上げた瞬間、唐突に近場の拡声器からアナウンスが聞こえだした。
『普通一科二年A組西住みほ。至急生徒会室に来ること、以上』
……この放送は一体?しかも入学したてのみほ、そして先日都合の良いように行われた戦車道の宣伝―――――
――――――みほを戦車道に取り組ませようと画策しているのか。
彼女は戦車道が原因で黒森峰から転校した。彼女自身も暫くは戦車道を行いたくはない、と告げていた。だから彼女は戦車道以外の選択をしたはずだ。
「助けてやる」
俺は手にしていたカップ麺の容器と割り箸を投げ捨てて校内へと向かう。生徒会室ということは元凶は生徒会に属する生徒なら安易に説得できる。
大地に一歩一歩憤怒を込めて踏み込んで進む。校内に侵入した俺はそのまま生徒会室へと直行する。通りかかる他の生徒は俺の気に触れて、道を開けたり俺から避けたりする。まだ少女である彼女らにとって恐れるのに十分なモノであった。
「…」
生徒会室の前に立った俺は最終確認として盗み聞きをする。
「これはどういうことだ」
「なんで選択しないかな」
「我が校、戦車経験者は皆無です」
「終了です。我が校は終了です!」
やはりそうか。何が終了なのかは理解できないがみほに戦車道を無理やりやらせようとしているのはわかる。
俺はドアノブを握り、突入しようと身構えた。
「勝手なこと言わないでよ!」
「そうです。やりたくないと言っているのに無理にやらせる気なのですか」
「みほは戦車やらないから!」
「西住さんのことは諦めてください」
しかしいざ開けようとドアノブに力を込めるが、室内から食堂で出会ったみほの友達二人の声が聞こえて俺は停止する。二人の声は熱が入っており、本気でみほを守ろうとしていた。
……これで解決してくれればいいのだが。
「そんなこと言ってるとアンタたち、この学校に居られなくしちゃうよ」
「お、脅すなんて卑怯です!」
「脅しじゃない。会長はいつだって本気だ」
「そうそう、今のうちに謝った方がいいと思うよ。ねっ?ねっ?」
「酷い!」
「横暴すぎます!」
もう我慢できなかった。彼女らのみほたちの意思を愚弄する発言には耐えられなかった。しかも退学という学生を従わせるには効果的な切り札も用いてきた。
歯を痛い程に噛みしめて俺は生徒会室の扉を蹴り開ける。扉は音を立てて勢いよく開き、一気に視線がこちらに集束する。
そして俺の怒気と殺気を感じたのか、奥に座る生徒会長の生徒以外は動揺した様子であった。みほも俺がこんな風になるのは久方ぶりだったので身震いしている。
「ご、伍長さん……!」
「何者だお前!?」
「……異議を唱えに来た。みほのな」
「へー、最近雇われた用務員さんか。けど彼女と何の関係が?」
「あっ? みほは俺の妹分だ。早く彼女の意思を尊重して戦車道から手を引け」
「私は大丈夫だから、ね?」
「みほ、それに付き添いの二人。お前らは外に出てろ、此処は俺が説得する」
「けど」
「―――――行け」
「ッ!?」
みほたちを制した俺は彼女らを廊下に出るよう命じた。みほは小さく頷き、俯いた状態で二人と一緒に廊下へ出た。
扉が閉められて、閉塞的な空間には昨日見かけた眼鏡を掛けた生徒、副会長らしき生徒、そして小柄な生徒会長の生徒だけとなった。
「さて、話し合いだ」
「待て! 会長に近寄るなッ!」
「邪魔だ」
「ひっ!?」
生徒会長へと詰め寄ろうとすると眼鏡を掛けた生徒が俺を止めようと迫る。しかし、一喝すると彼女は俺を恐れて尻もちをつく。副会長らしき生徒はその場から動けなかった。
相対する俺と生徒会長の生徒、彼女はまっすぐ俺の目を見つめる。俺も彼女の目を見つめる。彼女は俺の威圧に動じていないらしく、依然として人を見下すような姿勢で此方を見つめていた。
やせ我慢しているだけか、それとも本当に動じていないのか判断がつかないが、その生意気な顔を頷かせてやる。
「お前は知らないと思うが彼女にはきちんとした理由があるんだ。だから手を引け」
「いいや。そう簡単にはいかないね。こっちにも事情というものがあるんだ」
「何を言ってやがる。大学に行くための実績、または学校の名を轟かせようとしているのか?」
「そんなことじゃない。けど重大なことだからこそ、西住みほが必要なんだ」
「そうか。なら早く手を引くのが身のためだぞ」
「うちら生徒会が簡単に手を引くとでも?」
彼女は不敵な笑みを浮かべて此方を覗く。俺が圧を掛け続けても動じないあたりから察するに、彼女はかなりの器量の持ち主なのだろう。家元やココといった者には流石に劣るも、俺に動じない程度には強い。
だが、所詮は少女だ。安易に脅せば篭絡する。
俺は机に置いてあったボールペンを手にし、生徒会長に向かって回り込んで道中室内を横目に確認する。そして机越しから何も間に挟まない状態で相対する。
「しなかったらお前らをこの場で殺す」
「えっ!?」
「か、かかか会長ッ!?」
「……へぇー、言ってくれるじゃない」
渾身の殺意を込めた脅迫に生徒会長以外の女子は驚嘆したり明らかに恐怖の色を滲ませた発言をする。流石に生徒会長もこれには動じているのか、曝した額から冷や汗を垂らしている。この脅迫は非常に効果があった。
「そんなことしたらすぐバレちゃうけど」
「簡単ではないが可能だ。監視カメラも無いし、最初にお前の首を片手で絞めてから手にしたペンや机上のカッターを投げて声を出すこともなく彼女らを殺す。その後にお前だ」
「じゃあ死体処理はどうするのさ」
「そんなの海上に投棄だ。この学園艦は常に動いているし、解体しちまえば魚の餌だ」
「っ」
「ほら、早く選択しとけ。やめるか
言っておくがこれは本気だ。彼女らも薄々これが本気であることを察しているだろう。
何度も人を殺傷してきた俺にとって殺人に対する抵抗はない。敵と判断した者は味方であろうと殺し、命令であれば善人でも殺せる。抵抗感は
彼女が拒否したら速攻後方の二人を殺せるよう手にしたペンに力が入り、みほたちにどう経緯を説明するか思考する。
彼女のために俺が苦しむことは構わないが、彼女が苦しんでいるのを俺は赦さない。解決するにはどんなこともするのが俺の流儀だ。
「戦車道に西住みほを―――――」
「ちょっと待ってください!」
「ッ!?」
「に、西住!?」
何者かが扉を開けて生徒会長の発言を制止する。普段なら部外者が入ったと舌打ちをするが、その何者かの正体が現在擁護しているみほであった。俺は傍目で彼女の姿を視認し、生徒会の者たちへ警戒を怠らないでいた。
みほは此方に向かって歩んでいき、机越しに生徒会長と相対する。生徒会長の彼女はみほに視線を向けて、何が紡がれるのかを待機していた。
「わ、私! 戦車道やります!」
「何ッ!?」
「……それは本当かい?」
「……はい」
みほは何かを決心した様子ではっきりと戦車道の参加を宣言した。
まさか自分から戦車道を選んだことに俺は驚愕していた。先程までは戦車道に対して負の感情を抱いていたのにも関わらず何故その選択ができるのかが理解できない。戦車道が原因で黒森峰から転校したのに何故再度その競技を選ぶのだ。訳がわからない。
「何故だみほッ! お前は戦車道を拒絶する正当な理由があるはずだ! それなのに何故選ぶ!」
「……確かに私も最初は嫌だったよ。だけどね、生徒会の皆さんが戦車道に並々ならぬ感情を抱いているのが感じ取れて、私はそれに応えなければいけないとさっき決心したの」
「では、最後の確認として貴様に問う。本当にお前は戦車道を行いたいのか」
「うん。もう変わらないよ」
「……お前の選択なら俺は尊重しよう。生徒会の者たちには悪いことをしたな、謝ろう」
俺は先程まで行った脅迫について頭を下げて謝罪をする。生徒会長の方も一瞬にして殺意やらの感情が俺から消失したことに戸惑いながら俺を見つめていた。
脅迫を行って、しかも殺す一歩手前だったのだ。きっと彼女らは警察に訴えて俺は罰を受けるに違いない。その時は速やかに受諾しよう。
「さっきの行為について、さっさと解雇するなり警察やらに訴えてもいい。その時は俺は逃げないで罪を認める」
「……もちろん罰は今後受けてもらうよ」
「そうか」
「ご、伍長さん」
「戦車道の顧問兼補助員として、ね」
「あぁ? 顧問だと?」
「伍長さんが戦車道の顧問?」
まさか生徒会長の彼女からの宣言に俺とみほ、しまいには他の生徒会の生徒二人と覗いていたみほの友達二人も唖然としていた。当然のことだ。殺されかけた人物を解雇したり警察には訴えずに自らの手元に置いて、戦車道の顧問をしろというのだ。前代未聞の事柄に生徒会長以外は状況に追いつけないでいた。
「待て待て待て。俺が戦車道の顧問をしろと? 戦車の操り方や戦術も知らん」
「それは西住ちゃんがやるということで。君は自動車部と一緒に修理や訓練の手伝いをすればいい。てか戦車道の顧問はぶっちゃけ誰でもいいから」
「伍長さんは力が強いしある程度機械修理できるね」
「それでもおかしいだろ!? だって戦車道で教育できることといえば隠密行動のいろはや罠の設置に塹壕の掘り方ぐらいしか知らんッ!」
「やっぱ知ってるじゃん。いけるいける」
「そういや芋掘りとかかくれんぼが異様に上手かったね」
急遽として決められた条件に内心ため息を吐きながらも、みほと離れ離れになることはないと安堵していた。まさかこのような形で再び教鞭を取るとは想定していなかった。
まあ顧問として任命された以上、みほの指揮に応対することが十分できる部隊を作らざるおえない。
そして俺は決心を固めた。
Q.何故伍長はこんなことをするのですか?
A.SAN値は一桁台にギリギリあるけど不定の狂気を持っているから。