日本兵 in the ガルパンworld!! 作:渡邊ユンカース
そして山鳩の代わりに鳴くウミネコとか絶対うるさい。
「どうしてこうなった」
現在俺は枕に顔を突っ伏しながら不安定な音程で愚痴をこぼす。時刻は七時、出勤の時刻である。何故俺がこのような姿勢で唸っているのかというと、先日のやりとりで俺が西住流に関与していたとして戦車道の顧問に任命されてしまったのだ。
外では山鳩ならぬ海鳥が馬鹿にしたかのように鳴いている。非常にうざく、撃ち殺してしまいたい。
当然だが、俺は戦車道を体験したことはない。簡単な修理ぐらいしか戦車は扱えない。
「おかしい……戦車道を拒絶するために行ったのに俺が顧問だなんて……」
みほを守るために赴いたはずなのに、まさかミイラ取りがミイラになってしまった。今更になって顧問を辞退するわけにもいかないし。
……もはや進撃しかない。
「よしっ! 俺は腹に決めたぞ! 顧問として尽力する!」
俺は覚悟を決めて堕落した姿勢から立ち上がる。
これもみほのためなのだ。俺はみほの補助となれればそれでいい。戦車道の基礎は彼女が教えるからな。
俺はそう言い聞かせながら、年季が入って縫い跡だらけの軍服を紙袋に仕舞い、家から飛び出した。なお、自身の大事な略帽が入っていなかったことに気づいた俺はすぐさま家へと戻ったのであった。
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「で、集まったのは十八人か」
俺はあの大規模な宣伝の割には履修者の人数を建物の陰から見て愕然とした。新たに復興した科目だから人が少ないのはわかるが、あそこまでの特典を付けてこれとはな。もはや諦めたい、せっかくの朝の気力がそがれてしまった。
海鳥が俺のすぐそばに降り立ち、こちらを嘲笑うかのような視線を向けてくるので、海鳥を蹴飛ばして追い払う。
「……どうしたものか」
俺は当初の問題に頭を抱えた。
戦車道経験者はみほのみ、それ以外は戦車のせの字も知らない素人。こんなんで戦力になるのか? 訓練をしても、せいぜい民兵に毛が生えた程度で匪賊より弱いだろうな。
こいつらをどうやって指揮するかはみほの手に懸かってて大変そうだ。心なしかみほの顔も不安の色が浮き出ている。
「これより戦車道の授業を開始する」
片眼鏡を身に着けた生徒会委員が開始を宣言する。
それに合わせて俺も陰で軽く着替えて懐かしの軍服に袖を通す。布地に染み込んだ火薬と土の香りは服を捨てない限りは一生取れることはない、さしずめ俺の人生のようだ。
……やはり愛着がある服だと気持ちが落ち着く。北アフリカの時は基本私服で戦闘だったからな。まあ再度教鞭を握るのだから厳格にいこう。
俺は陰から飛び出して彼女らのもとへと行き、張りがある声で自己紹介をする。皆が俺の恰好や用務員が顧問をするという異例の状況に目を丸めていた。
「皆知ってるかも知れないが俺が戦車道の顧問を務める。名前は西済伍長だ。気軽に伍長と呼べ」
「あー、朝掃除してる用務員さんだー!」
「私知ってる! 危ない雰囲気持ってる人だ!」
「にしても旧日本軍の軍服とはわかってるじゃないか」
「まさに武人ぜよ」
各々の反応はそれぞれなのだが、やはり奇抜な衣装を着る女子たちには受けがいい。もっとも、彼女らは俺が本物の日本兵とは思ってもいないだろう。てか、知っているとむしろ怖い。
すると、奥の方でなりを潜めていたパーマをかけた女子が俺の服を見て訊いてきた。
「そ、その軍服は本物でしょうか!」
「そうだ」
「ど、何処で入手を!」
「それは秘密だ」
「そ、そうだ。やはり戦車道の戦車はティーガーでしょうか?」
「知らん。どうだ生徒会」
「なんだっけな。見ればわかるよ」
何故把握をしてないのだ。生徒会のくせに。
……まあ、あのデカい倉庫の中に戦車はあるのだから見てみるか。我が皇国の戦車があれば万々歳で、何よりも俺が一番うれしい。まあ性能については何も言わないが。
「ということでよろしくね用務員さん」
「……はっ?」
「いや早く開けてよ。人力で」
「嘘だろ」
どうやら大洗女子学園は警備に関する機能は整ってるくせにこういうところには及んでいない様子。なんでそうなるのだ。こんな重そうな鉄扉を一人で開けろとはかなりの苦行じゃないか。
……仕方ない、本気でやるか。
鉄扉に手を付けた俺は渾身の力を腕に込めて押し込む。すると扉は徐々に軋ませながらゆっくりと開いていく。幸いなことにさほど錆びついてはいないので開けることは可能だ。もっとも、閉める際も人力なのだが。
「すごい腕力だな」
「さしずめ金太郎だ」
「いやアーノルドシュワルツネッガーだ」
「ここは力士の雷電 爲右エ門ぜよ」
「「「それだ!」」」
背後で俺が力士だと揶揄されながらも気合いと根性と大和魂で開け切った俺は。地面に大文字に寝転んで息を切らしていた。普段から鍛錬をしているとはいえ、これは体の芯にくる。しかもこの作業を授業ごとにしなければらならないと思うと気が遠くなる。
「お疲れさま伍長さん」
「ど、どういたしましてみほ」
倒れた俺を無視した多数の生徒は続々と倉庫の中へと入っていくが、唯一労いの言葉をかけてくれたのはみほだった。しゃがんだ彼女は俺の視点で逆さまになりながらも判断できるような笑みを浮かべていた。すると少しだけ気力と体力が回復したかのように思えた。
「で、戦車は何だ。重戦車か中戦車か、それとも駆逐か?」
「おそらくドイツの四号戦車。型はD型」
「ドイツ戦車なら西済流には馴染みがあるな。使えるかどうか調べてくれ」
「わかったよ」
彼女は戦車を点検するために倉庫へと向かう。倉庫内から汚いや錆びついているだの批評が聞こえるが、はっきりとみほの声が聞こえた。
「これでいけるかも」
その宣言が意味するのはこの車輛で戦車道を行えるということだ。倉庫内からは驚嘆の声が聞こえ、俺は多少軽くなった体を起こして戦車のもとへと歩み寄る。
眼下には埃を被っては酷く錆びついている戦車が一輌。しかし、外装は醜悪だとしてもこいつが内に秘めている炎を感じ取ることができた。俺は右手を当てては、誰にも聞こえないほど小さく呟いた、
「
俺は彼女らを振り返っては宣言する。
「この戦車はお前らよりもずっと先輩だ。そしてその先輩を動かすのは貴様ら自身なのだ。せいぜい貴様らが先輩に恥じることないようにしろッ!わかったなッ!!」
「「「「「はいッ!」」」」」
「声が小さいッ!」
「「「「「はいッ!!」」」」」
「それじゃあ戦車を此処から運び出す。ロープで牽引しろッ!」
「「「「「ッ!?」」」」」
俺とみほは戦車にロープを結び、屋外へと生徒たちを使って牽引させる。戦車の重量は二十五トンだが二十人程度の力で引っ張れば、時間は掛かりながらも出すことはできる。二十分を掛けて外へと運んだ生徒たちはもう疲れている様子であった。
「おい生徒会。他に戦車はないのか? まさか一輌だけというオチは無しだ」
「えっとこの人数なら……」
「全部で五輌必要です」
「全然足りたいな。どうする」
「じゃー皆で戦車捜そうか」
この思いがけない会長の発言に俺を含めた一同は混乱した。普通なら戦車は此処の倉庫に全て保管されていると思っていたからだ。まさか宝探しの感覚で戦車の捜索をするとは誰が思おうか。少なくとも俺は思わない。
「我が校においては戦車道は何年も前に廃止になっている。だが当時使用していた戦車は何処かにあるはずだ。いや必ずある。明後日、戦車道の教官がお見えになるので残り四輌を見つけ出すこと」
「して、いったい何処に」
「いやー、それがわかんないから探すの」
「何にも手がかりないんですか?」
「無い」
「では捜索開始!」
……もう家に帰りたい。こんな無責任な生徒会とか滅びてしまえ。
「聞いてたのと話が違う…戦車道やってるとモテるんじゃ……」
「明後日カッコいい教官来るから」
「本当ですか!」
「本当本当、紹介するから」
「行ってきまーす!」
あぁ、悲しきかな。会長の卑劣な罠に掛かって騙される者が一人できてしまった。どうせ戦車道の教官は女だろう。男が戦車道やるわけないしな。まあその教官も察しはつくのだが。
「取りあえず伍長さんも一緒に捜そうか」
「いいぞ。で、みほよ目途はあるか」
「残念だけど無いね」
「地道な作業になるな……」
この俺の予想は的中、三十分掛けても戦車は一向に見つからない。校舎やその周辺を散策しても戦車の砲塔すら見えない。
先程まで元気よく飛び出して戦車を捜していたみほの友達の沙織とやらは鬱憤を叫んだ後に、肩を落としてしょげていた。そんな彼女をみほの友達の華が慰める。
「駐車場に戦車はないかと」
「だって一応は車じゃない。じゃあ裏の山林行ってみよ」
「……なあみほ、気づいているな」
「うん。後ろの子だよね」
「あぁ」
沙織たちを追うように俺らは追従するが、その後ろで一人の少女がこちらを木陰から伺っている。相手は普通の生徒なので敵意や殺気はない、となるとこちらに声を掛けようとしているのだろう。
「みほ、彼女に声を掛けて――――」
「あ、あの!」
俺はみほに指示を送る前に彼女は後ろへ振り返り、背後にいた少女に声を掛ける。今まで消極的な姿勢であった彼女が行動を取るなんて珍しかった。
「よかったら一緒に捜さない?」
「いいんですか! あ、あの普通二科二年C組の秋山優花理といいます。不束ものですがよろしくお願いします」
「こちらこそお願いします。五十鈴華です」
「武部沙織!」
「わ、私は……」
「存じ上げております。西住みほ殿ですよね」
……みほのことを知っているとなると戦車道を知ってるな。となると関係者か?
優花理は軽い敬礼をした状態でよろしくと挨拶をする。
新たな仲間を手に入れた俺ら一行は山林を突き進んでいく。甲板の上に山ができているというのは大変おかしなもので、時折吹く潮風や海鳥の泣き声がなければ地上だと感じてしまう。木々も青々と豊かに育っている。どのくらいの費用を掛けて造ったらこうなるのだろうか、不思議だ。
「……あっちから臭いが」
「臭いでわかるのですか?」
「花の香りに混じって鉄と油の臭いが」
「華道やってればそうなるの!?」
「……微妙にだがそうだな。よくわかったな」
「なんで伍長殿もわかるんですかッ!?」
「昔、嗅ぎ慣れててな」
まあ鉄と油、そして硝煙の臭いはもう嫌というほど嗅いだ。沖縄戦ではそういう物騒な香りが周りに充満していたからな。なんなら毒ガスの臭いもある。
「ではパンツァー・ファー!」
「パンツのアホぉ!?」
「パンツァー・ファー、戦車前進っていう意味なの」
華が先行して進み、俺らはその後を追った。一歩また一歩と進むにつれて臭いも濃くはっきりとわかっていく。どうやら彼女の嗅覚は本物だ。
一分ほど歩くと、ようやく眼前に待望の戦車が放置されていた。やはり野ざらしであったため外装の塗料や部位が錆びてはいるものも、再利用可能であった。なお、この戦車の名前はまったくわからないが。
「38T……」
「なんかさっきのよりも小さい…ビスだらけでポツポツしてるし……」
「38Tとはロンメル将軍の第七装甲師団でも主力を務め、初期のドイツ電撃戦を支えた重要な戦車なんです! 軽快で走破性も高くて…はっ! Tってことはチェコスロバキア製ということで重さの単位のことじゃないんですよ!」
……わかったわ。なんで彼女がみほのこと知ってたかわかったわ。この娘かなりの戦車オタクだ。下手したらみほやまほよりも知ってるのでは? 戦車の情報とか。
「今、生き生きしてたよ」
「すみません……」
「では戦車をどうやって持ち帰るのですか? まさか人力とかでは……」
「流石にそれは酷だ。自動車部が重機で牽引してくれる。てか学生なのに重機の運転って」
「それ戦車を操縦した私にも言えるね」
「そういやそうだな」
かくして各々のグループが戦車を発見し、自動車部が校庭に運んでくれた。
五輌の戦車はどれもオンボロではあるものも大きな損傷は皆無で幸先いい。戦車を操縦する者は基本は見つけた者が振り分けられるようになった。
例外としてみほたちのグループは四号を操縦することになったが却って都合がいい。
こうして彼女たちの戦いが幕を開けたのだ。
崖の下にあった戦車ってどうやって回収したんでしょうかね。まあ設置もだけど。