日本兵 in the ガルパンworld!!   作:渡邊ユンカース

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男一人と女四人、料理をする

「よし、いいだろう。後の自動車の部員が今晩中にやらせる。それでは本日は解散」

 

各戦車を発見した各チームが戦車の清掃を終えたところで、日は暮れて後の作業は重機にも詳しい自動車部が引き継ぐこととなった。実際、機器の修理となると素人である彼女らはお荷物となるから妥当だろう。

 

俺は折り畳み椅子から立ち上がり、煙草を空き缶の中に入れて疲労困憊の彼女らに告げる。慣れない戦車の洗浄作業をしていた彼女らは苦痛を訴える悲鳴や肩で息をする者が殆どで、これだけの運動で疲れてしまったので実際に戦車を操縦したらどうなるのだろうか。疲れて爆散でもするのか?

ちなみに校内は基本禁煙だが、副流煙にならない距離かつ屋外という条件を生徒会に飲ませた。

強引に顧問にさせられたんだから別にいいよな、まあ前日脅迫したけど。

 

「じゃあ解散。さっさと寝て体を癒せ」

 

俺の号令とともに彼女らは倉庫の中に置いていた通学鞄を手にして、放課後はカフェに行こうやら買い物に行こうと話し合いながら彼女らは校門を出ていく。自由時間となると突然元気になるのはどの時代の生徒にも共通で、よりしごき甲斐がある。

そして俺も戦車の移動という作業には俺の手助けがいらないらしく、そそくさと着替えた後に帰宅することにした。繊細な作業は経験がなく当然だろう。

 

しかし、そのまま帰宅するには気分が乗らない。久しぶりに軍服を着ているのが一因だろうか。活力が満ち溢れんばかりだ。近くにあった錆びれたベンチに座り計画を暫時練り、その結果この街を知る必要はあると判断して街の散策をすることにした。

この街の特徴としては黒森峰やアンツィオ学園と街並みを比較すると殆どの家屋が現代日本的である。古屋敷や昔ながらの家屋といった感じでもなく、今までの旅で目にしたような街並みで面白味がない。

 

「……戦車くらぶ?」

 

自販機で購入したコーヒーを手にしてぶらぶらとしていると、面白そうな店を見つけた。名前からして戦車関連の商品を取り扱っているのが一目でわかる。それに店先にたぬきの像が置かれていない代わりに、土嚢やガソリン缶が存在している。

……まあ戦車道の顧問を務めることとなったし、見てみるか。

 

コーヒーを飲み切てから近くのゴミ箱に捨てて、店内に入店する。

真っ先に店内に入店してから目にしたのは戦車の転輪が大きさごとに金網に飾られ、壁には各国の軍服が掛けられている。此処でエルヴィンはあの帽子を購入したのだろう。

店はさほど広くはないので、大洗女子学園の生徒四名がその場に居ることを容易に気付くことができた。

何よりもその生徒たちは、俺の知る生徒たちであった。

 

「おぉ、みほたちか」

「あれ?伍長さんじゃん、一体どうしたんですか?」

「いやただ戦車道の顧問になるから少しはと」

「伍長殿は好きな戦車は何ですか! やはりチハですかね!」

「チハは好きだぞ。まあ一番は三八式歩兵銃が好きだが」

 

戦車は確かに役には立つ、だがそれは対歩兵に限ってで、チハはよくシャーマン戦車にはボコボコにやられていたのをはっきり脳裏に刻まれている。簡単にいうと頼りないのだ。

その点、俺が長らく使用していた三八式は歩兵との戦闘にも高頻度で使用されて、相手の銃の装備関係無しに撃破できる名銃だ。それに銃剣を付ければ簡単な槍にもなるからな。

 

 

俺と優香理とで好みの武装について談義した後、優香理は戦車のゲームに興じながら戦車道についてを沙織と華に説明していると、壁に取り付けられたテレビから戦車道の情報が提示された。

 

『高校生大会で昨年MVPに選ばれて国際強化選手に選ばれた西住まほ選手にインタビューしてみました』

 

なんたる偶然か、突然とみほの姉であるまほに関する情報が表れるなんて。みほはテレビを見つめて顔を顰める。当然だろう、今のみほにとって戦車道は敬遠したいモノだ。それに加えてまほの情報まで表れるとは。

テレビに移されたまほは一年前から変わってはおらず、しいていうなら身長が伸びた具合だろう。凛々しい顔立ちや雰囲気は昔と変わらない。

 

『戦車道の勝利の秘訣は何ですか?』

『諦めないこと、そしてどんな状況でも逃げ出さないことですね』

 

インタビュアーからの質問をまほはそう返すと、みほは口元を歪めて俯いてしまった。おそらくはこの返事にある逃げ出さないことに彼女は反応してしまったのだろう。

俺は大丈夫だ、と彼女の肩に手を乗せようとしたが、俺自身も一度怪我を口実に家元の元から去った身だ。人のことを言えず、煩わしさで胸中がいっぱいになった。

みほのもとに沙織たちが集まるが、ただならぬ気配を察知した沙織が空気を変えようと提案をする。

 

「そうだ! これからみほの部屋に遊びに行ってもいい?」

「私もお邪魔したいです」

 

この提案に華も賛同した。

すると二人の提案を嬉しく感じたみほは顔から陰を排斥し、歓喜に満ちた表情で明朗に了承した。しかし、この提案に優香理はおどおどとした態度で手を挙げてみほたちに尋ねるのであった。

 

「あの……」

「秋山さんもどうですか?」

「ありがとうございます!」

 

華も瞬時に察して誘うと、優香理は深々と頭を下げて感謝の意を表すのであった。

 

「じゃあこれにて俺も」

「伍長さんも行こうよ。住んでるアパート一緒でしょ」

「えっ!? みほと伍長さん同じアパートなのッ!?」

「驚きですね」

「みほ、そういうのは口にしたらいけない。俺がクビになるし、お前の悪評もだな……」

「大丈夫だよ。伍長さんはそんなことしないと信じてるし、この場に居る皆は漏らさないと思うから」

「みほ……」

「もー、みほったら!」

 

突然と一年離れていてもみほは俺を信頼してくれるらしい。優しい娘だな、みほは。涙が出てくる。

みほの優しさに心打たれて、俺は感動で涙腺を緩ましつつも、道中で買い物を行い夕飯に必要な素材を手に入れた。そして一行はみほの家へと入室することとなるのだ。

室内は歳相応の女子らしい部屋であり、棚にはボコで埋め尽くされている。ボコにも種類があって、色違いや怪我の部位が異なる。どこにこの人形の可愛さがあるのか正直わからない。

 

「西住さんらしい部屋ですね」

「よしっ、じゃあ作るか! 華はジャガイモの皮剥いてくれる?」

「あ、はい」

「私ご飯作ります!」

 

優香理が米を炊くといって自身の大きな鞄から取り出したのは飯盒に金属製の皿で、ピカピカの新品である。この行動には沙織も困惑していた。

まさに俺の従軍時を思い出す。俺も平時や戦時中はよくこれで米を炊いたものだ。戦時は米をこれで炊いてたが煙で敵に見つかるといけないので、煙を隠すように炊いたな。まあ後半からは米が無くなったがな。

 

「なんで飯盒…いつも持ち歩いてるの?」

「はい、いつでも何処でも野営できるように」

 

すると今度は華の驚嘆の声が台所から響く。何事かと赴くと、華が指先を切っていた。

 

「すみません。華しか切ったことないので……」

「待ってて、今絆創膏持ってくるから……!」

「皆意外と使えない……よしっ!」

「どれ、俺も手伝うか。簡単なやつなら任せろ」

 

俺は義手につけていた手袋を外して沙織のもとに向かうが、彼女は動揺した表情を浮かべてその視線が俺の左手を凝視していた。それは華と優香理も同じ反応を示した。

 

「ど、どうしたんですか伍長殿……その手は?」

「すごいメカメカしい……」

「あぁ、俺の左腕は肘から指にかけて義手なんだ。ついでに俺の眼帯も飾りじゃない」

「ど、どうしてそんな大怪我に?」

「まあ色々あってこうなったんだ。けど義手は極めて高性能で日常生活に支障はない」

 

事情も知らず、心配する彼女らを安堵させるように俺は笑ってみせた。義手も慣れたもので昔同様に扱える。

俺の事情をなんとか理解した彼女らは、俺を料理の仲間に加えて夕飯を作り始めた。沙織の料理の腕は優れたもので、手早く作業を行いつつ料理に不慣れな華やみほに指示を送っていた。かくいう俺も指示された一人だ。

 

机上には和食を始めとした料理が並べられて、肉じゃがが香ばしい匂わせて食欲をそそる。しかも俺はここ数日はコンビニで購入した食品しか口にしていなかったのでなおさらだ。米もほかほかしている。

 

「じゃあ食べよっか」

「よし」

「はい」

「はいっ」

「はい」

 

沙織の号令を皮きりに皆が皿に手を付ける。真っ先に俺は肉じゃがに手を付けて口にすると、ジャガイモがほどよい触感で崩れて味も染み出ている。玉ねぎも飴色で綺麗だ。

 

「いやー、男を落とすには肉じゃがだからね」

「落としたことあるんですか?」

「何事も練習でしょー!」

「ていうか、男子って肉じゃが好きなんですか?」

「知らぬ。俺はそもそもそんなに食ってない」

「えー、珍しい」

「そもそも無かった」

 

肉じゃがはそもそも戦後作られたもので、通称和製ビーフシチューだ。一般的に家庭で広がったので知る由がないのだ。

 

「お花も素敵」

 

みほは机上の中心に置かれた生け花に目をやる。華は彼女の反応を見て、申し訳なさそうにしていた。

確かに彼女は料理ができないという理由で調理の面子から外されて、その代わりに生け花を差して役に立とうとしたのだろう。なんと健気な娘だ。

みほは彼女をすかさず擁護して励ましていた。

 

「そういや伍長さんは恋人とかいたの?」

「お、俺か」

「そういや伍長さんは恋愛の話はしないね」

「……聞きたいのか?」

 

まさかここで生前に想っていた雪子について訊かれるとはな。……まあ打ち解けるために少しだけ話すか。

俺はコップを一気に飲み干して、軽く覚悟を決めて彼女に話すことにした。初めてこの話を聞くみほや色恋に敏感な女子たちは俺に視線を集める。

 

「俺は故郷で想い人がいてな、幼少時からの付き合いだったんだ」

「おおっ! すごいテンプレ展開!」

「けど事情で俺が遠くに行ったんだ。そして数年後、また故郷に帰るとその子は消えた」

「えー、引っ越しちゃったの!?」

「追いかけなくてよかったのですか?」

「いや死んだんだ。風邪を拗らせてな」

「そんな……」

「……悲しい結末だったのですね」

「伍長さん……」

「まあもう慣れたから、あまり気にするな」

 

俺は悲し気に顔を歪める彼女らに笑みを浮かべて茶化した。

けれどその言葉は嘘だ。慣れたのなら雪子の夢を見て感傷に浸ったり、エリカの姿と雪子を照らし合わせることなんてしない。未だに俺は彼女の死を受け止めきれていないのだろう。

真実を隠した偽装の笑みは彼女らには通用したのか、若干安心した様子であった。

 

 

夕食が終えた後も一時間程度談話をしておおいに盛り上がった。それはみほを楽しますことができて、俺は傍からその様子を見守っていた。

流石に九時になると彼女たちは帰らないといけない時刻になり、みほと俺はアパートの玄関まで見送り手を振った。

 

「やっぱり転校してよかった!」

「そうか」

 

俺はみほが喜々としているのを見て、安堵と喜びで簡単な返事しかできなかった。これで彼女は戦車道を行うのに少しは気楽になるし、これからも楽しい学園生活を送れるだろう。

スキップで階段を上がり、自宅のドアまで行くとこちらを振り返り満面の笑みで言うのであった。

 

「じゃあね、伍長さん!」

「あぁ、明日」

 

軽く手を振ると彼女も手を振り返す。俺は彼女が家の中に入るまで手を振り続けた後に、俺も自宅に帰宅した。

部屋にはゴミが散乱しており、ゴミを蹴り飛ばしながら布団に倒れた。倒れこんだ途端に不思議と猛烈な眠気が襲い、翌朝になるまで俺はいびきを立てて爆睡していた。

その日は何も夢を見ることはなかった。

 


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