日本兵 in the ガルパンworld!!   作:渡邊ユンカース

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……蝶野教官がモテない理由ってなんでしょうかね。


教官訪問

「……なあこれ本当に教官来るのか?」

「うん来るよ。直々に電話も貰ったもん」

「ならいいのだが……」

 

俺は今日来訪するという戦車道の教官を生徒たちとともに待っていた。何故俺が教官が来るのかに不安を抱いているのかというと、この学園艦はここ数週間も寄港していない。数週間前に教官へ連絡を入れているのなら話は別だが、おそらくそうではない。

 

俺は即席の折り畳み椅子に座り貧乏ゆすりをしながら堪えていると、みほが珍しく遅れて校庭に来た。

 

「遅いから心配しました」

「寝過ごしちゃって…」

「遅いぞみほ、まあ教官が来てないから別に構わないがこれからは考慮するように」

「教官も遅い、焦らすなんて大人のテクニックだよねー」

「えっそうか? 俺ならガーと一気にだな」

「伍長さんそういうのいいから」

 

俺や生徒たちとの間で他愛のない会話を繰り広げていると、非常に耳障りな機械音が徐々に近づいて大きくなっていくのに俺を含む全員が気が付いた。それは確かにエンジン音であり、レシプロ飛行機のような羽音でもない。此処の学園艦は規模が小さく、航空機を着陸する滑走路はない。北アフリカで私兵として従事した際にこの機械音は幾度も耳にしており、まさかと思って上空を見上げた。

 

空は平時通りに青いが、一機の大型輸送機がこちらに向かって飛行して学校の駐車場目掛けて飛行機は低空飛行する。すると輸送機に内蔵された格納庫から四個のパラシュートに引かれた戦車が一輌現れた。

まさかの空挺降下に俺と生徒たちは思わず叫ぶ。

 

「はああああああッ!?」

 

しかもその戦車は金属板に載せられており、バチバチと火花散らし金属板が擦れて生じる摩擦音を響かせて駐車場を滑走する。そして運悪くそこに駐車していた学園長の赤いフェラーリに激突し、哀れにも車両はひっくり返された。

なお戦車は学園長の車に何かしらの恨みでもあるのか、停止した戦車は金属板から降りるために後退するとちょうど学園長の車を轢いた。当然、戦車の重量に耐えれるわけもなく廃車が確定してしまった。まあスクラップとして売れば二束三文にはなるだろう。

……にしてもこれはやり過ぎである。

 

「こんにちは!」

 

砲塔のキューポラから姿を現したのは厳つい体の教官、などではなく黒髪短髪を持ち端麗な顔立ちの女性であった。凛とした表情を浮かべる姿は男にも引けを取らない。

なお偶然にも俺とみほはその女性と面識があり、苦い笑いを浮かべる。

……マジでこの人が来るとは思ってなかったぞ。この人と顔見知りだと面倒くさいことになりそうだから生徒の陰に潜んで静観しよう、うんそうしよう。

 

 

「……騙された」

「でも素敵そうな方ですよね」

「特別講師の戦車教導隊蝶野亜美一尉だ」

「よろしくね。戦車道は初めての方が多いと聞きますが一緒に頑張りましょ」

 

沙織は騙されたと頬を膨らませて不服気味でそれを華が慰めていた。

にしても一年程度で一尉とはすごいな、大尉だもんな。やはり教育を受けた者は昇級が早く、一般隊員として歩兵だと基本叩き上げで軍曹止まりがほとんどだからな。まあその軍曹も新任の少尉や准尉の補佐をしたりと重要な役職ではあるが。

 

「あれ、西住師範のお嬢様ではございません? 師範にはお世話になってるんです。お姉様も元気?」

「……はい」

 

みほが蝶野に家柄をバラされたことにより、周囲の生徒たちは騒めき立つ。だが不幸中の幸いなことに黒森峰で起きた事件をする者は存在しなかった。戦車道に関心のない少女たちが集まったのだから当然である。

……この雰囲気はみほにはツラいだろうな、どれ助け舟を出すか。

 

「西住流っていうのはね、戦車の流派の中でも最も由緒ある流派なの」

「蝶野――――」

「教官はやっぱりモテるんですか!」

 

みほには気まずい雰囲気を俺より先に払拭しようとしたのは沙織で、彼女は戦車道の噂は真意であるかを訊くと、みほは話をわざと転換した彼女に感謝するように振り返る。

みほは素晴らしい友を持ったものだ。誇るべき友だな。

 

「えっ?うーん、モテるというより狙った的を外したことはないわ。撃破率は百二十パーセントよ」

 

この返答に辺りは感嘆するかのような声を上げる。完全な返答ではないのに不思議である。

……彼女の返答から察するに恋人作りは失敗しているんだな、顔と体はいいけど他がなぁ……。

 

「教官!本日はどのような練習を行うのでしょうか!」

「そうね、本格戦闘の練習試合やってみましょ」

「えぇ!? 最初からですか!」

「大丈夫よ、何事も実践実践!戦車なんてバーと動かしてダーと操作してドーンって撃てばいいんだから!」

 

駄目だ、もう駄目だこの教官。教導隊でこんな感じに教えているとしほ殿に知られたら怒られるし、最悪左遷されるだろう。……よく一尉に昇級できたな、俺が試験官なら落とすぞ。あー、頭が痛くなってきた。

 

「それじゃそれぞれのスタート地点に向かってね……あれ伍長さんじゃないですか、久しぶりですね」

「良い天気ですね、では俺はただの用務員なんで気にしないでくれると嬉しいです。さて、掃除だ掃除!」

 

不幸にも静観決め込んでいた俺もとうとうバレてしまった。みほと同様に周りからの視線を集め、さっさとその場から立ち去ろうとした。下手に西住流と関わっていたことを知られると後々面倒だしな。

けれども、そそくさと逃げることを許さない少女が一人だけ存在した。

 

「あの人は実は戦車道の顧問なんですよー」

「生徒会長、貴様は何を言ってるのか俺は理解できないぞ」

「まあ! なんて偶然ね、握手させてくれるかしら!」

「ま、まあ握手だけなら」

 

俺は渋々彼女に接近し、差し伸ばされた蝶野の右手を握る。すると彼女は右腕を引くと俺は難なく彼女のもとへ寄せられてしまい、空いた左腕で俺の首に絡めてきた。このままでマズいと即座に俺は左手で気道の確保を行うと右脚で彼女の足元を狙って蹴る。バランスを崩した彼女と一緒に俺も後ろに倒れこんだ。

二つの柔らかい感触が背中に伝わるも今は無視して彼女をここからどのように倒すか冷静に思考していた。

 

「ははは、やっぱり勝てませんね」

「突然仕掛けてくるから油断していた。素晴らしい格闘術だがまだ未熟だな」

「そうみたいですね」

 

彼女は首や手の拘束を解いて堂々と降参宣言を口にした。俺はそれに呼応するかのように立ち上がり、土が付着した箇所を払う。ふと辺りを見渡すと生徒たちは口を大きく開き、愕然とした顔立ちでこちらを凝視していた。目の前で唐突に格闘が行われれば必然である。

 

「ま、まるで山中鹿之助の取っ組み合いみたいだ……」

「まったくぜよ」

「ったく悪目立ちは避けたかったのに、ほら立てるか?」

「大丈夫です。私はこの通り元気元気!」

 

土が大量に付着した背中を叩きながら笑顔を浮かべる彼女を見て、怪我はないと認識した俺は大袈裟に肩を回した

。久しぶりの格闘だったので痛みはないかの確認である。

 

「お前らさっさと持ち場に着け、時間は有限だぞ」

「「「「は、はい!」」」」

 

目を覚ました彼女らは蜘蛛の子を散らすように戦車のもとに近づいた。各々は慣れない戦車に様々な想いを募らせていたのか気合を入れる集団も存在し、中にはバレー部復興を夢見る集団もいた。壁に戦車をぶつけたり直線に進めなかったりと悪戦苦闘をしながら各々のスタート地点へとなんとか進んでいった。

 

校庭に取り残された俺と蝶野、俺は離れて煙草を吸おうとするも彼女の眼光に止められた。俺は振り返ると彼女は一介の国家の人間としての表情で俺に問う。さっきまでの一人の教官といった情のある態度ではなく、極めて冷淡な態度だ。俺は身構えて彼女に訊く。

 

「……何か言いたそうだな」

「はい、貴方は二年前に目と左腕を失いましたよね。あの事件で」

「まあそうだ。目は治らんが左腕は義手だ」

「それは一目でわかります。ですが問題は何処で入手したかです。あまりに義手としては高性能にできすぎているし、そうなるとかなり高額でしょう。お世辞にも貴方はそれほどの大金を持っていませんし、家元から授かった物でもない」

「……それを知ってどうする」

「貴方はちょっとした関与が疑われています。そうですね、武器商人の―――――」

 

 

彼女が続いて口を噤もうとした瞬間、俺は眼前に敵を認識した際に発する殺気を全力で彼女にぶつけて牽制する。様々な感情が入り乱れた殺気は彼女に対して効果はなく、彼女も自身が出せる限りの闘志を俺にぶつけてきた。彼女も先程の戦闘とは違う雰囲気を察しさせる。

もしこの場が戦場でお互いにナイフや銃器を所持していたら、速攻で戦闘が起きていたと想像させるほどに緊迫した状態が空間を支配する。辺りのひりついた空気が肌に触れて毛を逆立たせ、互いに威嚇をする。

 

しかし、そんな険悪な空気を打破するように彼女が持参していた無線機から突如通信が入る。俺に視線を投げた状態でスイッチを押して相手の無線に応答する。

 

『全員の準備が完了しました』

「では試合を開始してください」

 

端的に無線を切ると彼女はため息を吐いて俺に向けて言う。先程までの闘志や雰囲気を纏ってはおらず、俺も殺気を放出するのを止める。

 

「まあ貴方は色々と海外で確認されていますので気を付けてくださいね。少なくとも私は関わりませんし、第一違う部署の仕事です」

「……そうしてくれると助かる。俺も有望な若き兵士の芽を摘み取りたくないし、お前を傷つけたらしほ殿に怒られる」

「やっぱり貴方は自衛隊に入るべき人材ですよ。ほら推薦状書きますから、ね?」

「残念だがお断りだ。たまには兵士以外の職に就きたい」

「何も戦う以外に仕事はあるんですよ。救助活動とか輸送とか給仕とか」

「そういうのは向かないから却下だ」

「ちえっ」

 

可愛らしく舌打ちを打った彼女はペンを持って地図を眺める。戦車が撃破された地点を記載して、後から自動車部に回収に向かわせるつもりだろう。

俺は煙草に火を点けて一服した状態で暇つぶしに持ってきた折り紙を折る。意外にも折ろうとするのはカエルだ。

 

「最初に撃破されるのはどのグループですかね」

「まあ見当はつく。おそらく生徒会だろうな、みほたちは彼女らに恨みを持っている可能性がある。次点で排球チームかな、皇国の戦車は装甲や機動力が高いとはいえない」

「客観的な考えですね。まあ経験のあるみほお嬢様が一番ですかね」

「次点で歴史愛好会ってとこか。装甲もあるし砲も良い、ドイツを代表する自走砲だ」

「けど戦車道は何が起きるかわからない。勝負において絶対というモノは存在しませんよね」

「あぁ。猫がネズミを殺すのが普通だがその逆もありえる。勝負事とはそういうものだ」

 

一服を終えると俺は完成したカエルを胸ポケットに入れて、吸殻を携帯灰皿に入れた。

勝負はどのように移るかを夢想しながら俺は倉庫の点検を行うことにした。

 




ちなみに戦車道の戦闘の様子はこの作品では基本書きません。
何故なら戦闘描写がめちゃくちゃ大変だし、本編と内容は変わらないからです。

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