日本兵 in the ガルパンworld!!   作:渡邊ユンカース

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おっさんが女子高生に囲まれてカフェとか通報案件でしょ。


ケーキとはすなわち決意である。

「……ふっ、久しぶりにスーツに袖を通した」

 

広場のベンチにてみほとその一行を待つ俺は、普段とは打って変わって黒いスーツを着飾り、生徒からはボロボロで汚いと酷評を受けた略帽からただのハンチング帽子を被っていた。ハンチング帽子は使用頻度が少なく新品同然のありようで、余程のことじゃない限り身に着けなかったのだと伺える。

 

「やだあの人、なんかカッコいいわ!」

「そうね。あの風貌とか渋くて素敵」

「無駄に着飾らないところがいいよね」

 

俺は自分自身でも顔がいい方と認識しているため、やや鼻が高くなり秘かに昂揚していた。どこぞのラノベ系主人公のような鈍感さを備えてはいない。待っている最中もカフェでお茶をしようと女性に誘致されたが、電話番号だけ交換して断っていた。

 

約束の時刻になると遠方から五人の女子集団がこちらに向かって歩いてきているのに気づき、俺は立ちあがると彼女らに向かって手を振る。無論、その女子集団がみほたちであることは言うまでもない。

すると俺の行為に反応したのか、彼女たちもこちらへ手を振り返す。

 

「おはよう皆」

「おはよう伍長さん」

「伍長さんが珍しくスーツ着てる!」

「そりゃあ仮にも戦車道の顧問なんでね。馬鹿にされたくないだろう」

「馬子にも衣裳とはこのことか」

「にしても久しぶりの陸だと潮風の匂いがしなくて寂しいですな」

 

優花理の意見に船の上で長年生活していた者たちは頷く。そう、俺らは学園艦という偽の大地ではなく本土にいるのだ。港から幾分か離れているので潮風も届かない、長年本土で生活していた俺にとっては名残があり落ち着く環境であった。

 

「ちょうど例の抽選が始まるまで三十分だ。もう入ってしまおう」

「……うん」

 

抽選という言葉に反応し、緊張と不安で顔を硬直させるみほ。何故、学園艦から離れた本土に居るのかというと戦車道の公式大会のトーナメント表を完成させるためだ。抽選によってチームがどこまで進めるかが重視されており、初心者揃いで経験の少ないうちの学校が初手から強豪校と激突したらもはや目も当てられない。

まさに小国が大国に蹂躙されるようなものだ。

 

「気を持てみほ。運は気まぐれで、強豪校と当たってもお前のせいじゃない。それに一年後の大会にまた参加すればいい。一年も経てば今の仲間も成長するだろうし」

「そうだよ!みほが気にすることじゃないって!」

「同意だ。運なんて所詮は不確定要素だ」

「運も大切ですが、やはり全力を尽くすことが大切です」

「そうですよ!」

「そ、そうだね。少し気が楽になった気がするよ」

「ならばよし。さあ抽選会場に赴くぞ」

「「「「おー!」」」」

 

 

「……伍長殿、そちらは逆方面です」

「やっべ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

……うーん、まさかこうなるとはな

どうやら幸運の女神はこちらに微笑む―――のではなく、嘲笑するかのような笑みを向けてきた。やはり至高なる女神は砲兵でいいのだ。

みほが引いたクジは八番、ちょうどその八番と初戦で激突することとなった学園はサンダース大付属、つまりは強豪校。みほが八番を引いた途端に、サンダース大付属から勝利を確信した歓喜の声が上がっていた。

まあ不幸中の幸いなことに初手からプラウダや黒森峰という決勝戦のレギュラー入りを果たしている学園ではなかった。

 

「おう貴様ら、此処は俺の奢りだ。好きなもんを喰え」

「なんて太っ腹」

「じゃあどれにしようかなー!」

「流石は伍長殿!話がわかる!」

「感謝するぞ」

「伍長さん本当にいいの?」

「大丈夫だ。たかが娘五人の飯代くらい払えない大人とでも?」

「……じゃあ甘えちゃうね」

 

大人としての威厳を誇示するのと強豪校と当たってしまったというみほの負い目を晴らすために、俺は戦車カフェという色物のカフェにて全員の飯代を肩代わりするのを決意する。俺の財布には今日のために二万も入れており、簡単には空にならない。

前々から少女たちはこの店のことを認知していたのか、メニューを開くといなやすぐさま注文したい食べ物を決めて、店員を呼ぶため多彩砲塔の戦車を見繕ったベルを鳴らす。ベルはその外見に合わせて、重々しく砲撃音が鳴る。

チハを模したベルはないのだろうか。

 

「ご注文はお決まりですか?」

「ケーキセットでチョコレートケーキ二つとイチゴタルト二つとレモンパイにニューヨークチーズケーキを一つずつください」

「承りました。少々お待ちください」

「そうだ。貴女の電話番号を知りたいのだが――――」

「この人普段からこれなんで無視してくださいね」

「おいィ?」

 

呼ばれて来た女性の店員はドイツ国防軍の軍服を模した制服を着ており、茶髪の長髪が見事に調和している。恰好が似合っているだけでもなく、しかも美人。俺はすぐさま彼女に電話番号を聞き出そうとするが、みほに邪魔されてしまう。

店員は困ったように乾いた笑い声を零して店の奥へと消えてしまった。余談だが俺が注文したのはイチゴタルトだ。男子でもたまにはイチゴが食べたくなるのだ。

 

「このボタン、主砲の音になってるんだ」

「この音は九十式ですね」

「流石は戦車喫茶ですね」

「この音を聴くと前はちょっと快感だった自分が怖い!」

「戦車…シャーマン戦車……うっ頭が」

「まあシャーマンは素晴らしい戦車の一つですよね。汎用性に富んでますし」

「火を噴けるとかマジでずるい。だからぶっ壊すんだけど」

「あれ?戦車って簡単に壊せるの?」

「いけるいける。例えば鉄条網を履帯に絡ませて機動力なくしたり、履帯に丸太を挟んだりとか」

「まあ実例はありますが難しいと私は思いますがね」

「随伴歩兵がなければ余裕、ソースは俺」

 

ソースは俺という強すぎる引用をする俺にやや引き気味の少女たち。

彼女たちの目の前に存在するのは日頃から掃除をしたり空き地で木刀を振る人間ではあるが、七十年前に沖縄で単独で奮戦していた兵士である。塹壕の掘り方から戦車の壊し方まで知っている半ば工兵擬きの歩兵、それが伍長という人間なのだ。なお、大半が自己流なので失敗することも多い。

 

そうこうしている間に、窓際のレーンから二輌の車輛が注文したケーキを載せてやってきた。ケーキも戦車喫茶という名前から察せるように、ケーキも戦車の形を模している。ケーキの色がまるでうちの戦車みたいな塗装だ。……いやうちの戦車がおかしいだけか。

 

「何これ!?」

「これドラゴンワゴンですよ」

「可愛いー!」

「……えっ?可愛いのかこれ、普通の牽引車だろ」

「ケーキも可愛いです」

「……ごめんね、一回戦から強いところに当たっちゃって」

「だから最初に言っただろ。運を味方にすることはあっても気まぐれだって」

「サンダース大付属ってそんなに強いんですか?」

「強いってかすごいリッチな学校で、戦車の保有台数が全国一なんです。チーム数も一軍から三軍まであって」

「公式戦の一回戦は戦車の数は十輌までって制限されてるから。砲弾の総数も決まってるし」

「でも十輌って、うちの倍じゃん。それは勝てないんじゃ」

「幸運にも俺はシャーマンとの戦闘は経験してるが、歩兵と戦車じゃ勝手が違うからな……」

「……単位は?」

「負けたら貰えないんじゃない?」

 

俺らが思う以上に単位が大切なのだろう。麻子はフォークをケーキに突き刺すと、多くの具を取り出して口に入れる。一見すると彼女はケーキを食べただけに思えたが、ケーキと一緒に固い決意も飲み込んだと俺は考える。

 

「それより全国大会ってテレビ中継されるんでしょ!ファンレターとかきちゃったらどうしよー!」

「生中継は決勝だけですよ」

「じゃあ決勝行けるまでガンバロー!」

「そうだ頑張るぞ、俺らは」

「ほら、みほも食べて」

「うん」

 

 

「―――副隊長?」

 

俺とみほも皆に次いでケーキを食べようとした時、通路から聞き覚えのある声が聞こえた。声の主に気付いたみほはハッとしたように振り向いた。

振り向いた先にはみほの姉であるまほと誘拐事件の際に俺が救ったエリカがそこには居た。

 

「あぁ、元でしたね」

「お姉ちゃん……」

 

威圧感を醸しながらこちらを見つめるまほに肩をすくめるみほはポツリと呟く。大洗の少女たちはその言葉に反応してみほを見つめ、優花理を除いて驚いている様子であった。

俺はこの光景にあえて口を挟まずに黙ってケーキを食べる。

 

「まだ戦車道をやっているとは思わなかった」

「お言葉ですが、あの試合におけるみほさんの判断は間違ってはいませんでした」

「部外者は口を挟まないで欲しいわね」

「すみません……」

「行こう」

「はい隊長」

 

まほに言われてエリカは出口へと向かう。どうやらまほとエリカは此処で食事をしていたらしい、偶然が忌々しい。

 

「一回戦はサンダース付属から戦うんでしょ。無様な戦い方をして西住流の名を汚さないことね」

「何よその言い方」

「あまりにも失礼じゃ」

「貴女たちこそ戦車道に対し失礼じゃない?無名校のくせに」

 

冷たく険悪な雰囲気が場に立ち込めて、周囲の客も何事かと視線を集めている。エリカはみほたちを軽蔑するかのような目でこちらを睨み、告げる。

 

「この大会はね、戦車道のイメージダウンになる学校は参加しないのが暗黙のルールよ」

「強豪校が有利になるように示し合わせて作った暗黙のルールとやらで負けたら恥ずかしいな」

「もしアンタたちと戦ったら絶対負けないからッ!」

「ふっ、頑張ってね」

 

威勢を張る沙織たちに鼻で嘲笑うとエリカとまほはそのまま店から出ようとする。だけど、俺は面倒くさそうにため息を吐くとエリカとまほに一言言う。

 

「本当にそれ(・・)が言いたかったのか」

「……」

「……ちっ」

 

この一言にまほたちは何かを言いたそうな表情、というよりは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべただけでさっさと店を出てしまった。まほたちに悪態をつく華と沙織を見て優花理は不安げに彼女たちにまほたちの正体を教える。

 

「あの、今の黒森峰は去年の準優勝校ですよ。それまでは九連覇してて……」

「えっ!?そうなの!?」

「ったく、アイツらも不器用なんだから。てかいつから戦車道は権威主義みたいになったんだか」

「……伍長、もう一つ頼んでいいか?」

「いいだろう麻子。皆も鬱憤が晴れるまで食え、もう一度言うが俺の奢りだ」

 

だが強者と戦うのも悪くはない。全ての策を弄しあらゆる小技を行い全力を尽くすには適している。彼女らの意思も固くなったことだし俺もそれに応えるべきだろう。

いくら戦車道はスポーツだとしても、軍事教育や俺の実戦経験は使える。彼女らを民兵から普通の戦車兵として育てるのは難しいが不可能ではない(・・・・・・・)

 

「さて、お前らを勝たせてやろう」

 

俺は皿の上のケーキを丸呑みにしてから独りでに不敵に笑った。

その笑みは不気味で力強くて勇ましいものであった。




やっぱりエリカとまほは可愛いなあ!!
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