日本兵 in the ガルパンworld!! 作:渡邊ユンカース
実は伍長が愛用している陸王はオークションに出すとかなりの値段になる。なおオークションやらに疎くその価値を知らない伍長はまるで小学生の自転車みたいな扱いをしている。マニア激怒不可避。
「テーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるな~」
青空の下で俺は体を伸ばす。現在、俺ら大洗女子一行はサンダース女学園の学園艦上にいる。みほたちは各車の点検や整備を行っており、自動車部からの手厚いサポートのおかげでどの生徒もある程度の整備がこなせるようになった。あとでお土産を買わないとな。
「前に来たけど安定性が違う気がするな」
大洗の学園艦とサンダースの学園艦は大きさが桁違いであり、陸地と同様の安定性を感じる。流石大きさと資金が豊富なサンダースだ。一応大洗も平時なら安定性を保てるが、嵐に遭遇するとたまに大波によって船体が押され、震度3程度の揺れが起きてしまう。
俺は此処に着任してまだ間もないが、産まれてからずっと住んでいた優花理曰く、親の代の頃に最大級の嵐とぶつかり危うく竜骨が折れかかったそうだ。
……どうして平然と学園艦に住めるのだ? 一つ間違えば住居も人名も海底だぞ?
そんな疑問と心配を抱えていると、生徒会一同がこちらを向いて準備の状況を確認してきた。各車輛の生徒から完了を宣言する声があがる。
なお、一年生が操縦するM3リー戦車の砲弾を搭載し忘れていたことが発覚し、試合中に発砲できないという珍事態は避けられた。辺りから笑い声が聞こえ、和やかな雰囲気になる。
「呑気なものね、それでよく全国大会に出られたわね」
しかし、その雰囲気を壊すように聞きなれない声が聞こえた。俺は声の主に顔を向けるとそばかすのある少女と高身長で短髪の少女がそこにはいた。征服から察するにサンダースの生徒だ。
そして何故か彼女たちの姿を視認した優花理は急いで麻子の背を盾に隠れた。
「貴様ら何しに来た!」
「試合前の交流を兼ねて食事でもどうかと思いまして」
「あぁ、いいねぇ」
杏はいつものように笑みを浮かべて高身長の女子の提案を受け入れた。
「すごっ!」
「救護車にシャワー車、ヘアーサロン車まで」
「本当にリッチな学校なんですね」
彼女たちに案内されてやってきたのは屋台売り場の区画。よくお祭りの出店として出されるものは勿論、初めて見るものも存在していた。特にヘアーサロン車まで存在するとは思わなかった。もしかしたら
「……また伍長さん変な妄想してる」
「いや断じてしてないぞ、みほ。毎日こんな顔だろ」
「伍長さんは嘘を吐くと毎回口角が動くんだよ」
「やべっ」
俺は急いで口を手で隠すもそれを見届けたみほは呆れたように眉間を押さえる。
「……間抜けは見つかったね」
「……俺にカマをかけるとはやるじゃないか」
「ヘイ!アンジー!」
そんな茶番をみほと繰り広げていると背後から懐かしい声が聞こえる。振り向いてみるとそこには五年前に短期間ながらも同棲していたケイがそこには存在した。
「伍長ッ!!」
ケイも俺のことを覚えていたため、予期せぬ出会いに感情を暴露させてこちらに走りかけてきた。彼女と俺との距離が一メートル圏内にもなったのにも関わらず速度を落とさないので、俺は速度と彼女の体重を掛け合わせた衝突エネルギーを腹部に喰らった。
「こふッ!?」
なお体当たりと抱擁を合わせた一撃を喰らわせた後に、俺の横腹を大蛇の如く絞めつける彼女に俺は泡を吹きかけていた。彼女の抱擁から通じて、歓喜と微かな怒りが混在していた。
「滅茶苦茶ロングタイムな再開ね! もー、コールしてくれたっていいじゃない!」
「あばばばば」
「けど運命の出会いね!まさか貴方が大洗の戦車道顧問をやってるだなんて!顔も同棲していた頃と変わらないし!」
「あ、あのー気絶しそうなんですけど……」
「Oh! ソーリー、今離すわね!」
「……まずかった。暗転しかけた」
四つん這いになって息を整える俺を差し置いて、杏とケイが向き合い握手をする。ケイの背の高さが相まって杏が小さく見える。ついでにいうと胸もそうだ。
「やーやーケイ、お招きどうも」
「何でも好きな物食べてってー!OK?」
「オーケーオーケー!ケイだけに!」
「アハハハッ! 何そのジョーク!」
つまらないダジャレにゲラゲラと笑うケイだったが、みほたちの方に視線を投げると何かに気づいた様子で声を掛けた。
「Hey!オートボール三等軍曹!」
「あぁ!?見つかっちゃった!」
「だ、誰ぇ?俺知らないィ……」
「お、怒られるのかな?」
聞き覚えのない名前と何故か優花理が反応することに首を傾ける。ケイはそのまま優花理のもとへと歩み寄るたびに、優花理は怯えた様子だった。
「この間大丈夫だった?」
「あっ、はい」
「またいつでも遊びに来て!うちはいつだってオープンだからね、じゃっ!」
「な、何があったのだ?」
しかし優花理が想っていたのとは違っていたのか、安堵した様子で彼女は地面にヘタレ込んだ。ようやく息を整えた俺はみほたちに近づき、何が起きたのか説明を求めた。
「よかった……」
「隊長はいい人そうだね」
「フレンドリーだな」
「何があったんだ?」
「えーとね。怒らないで聞いて欲しいんだけど」
「なんだ?」
「実はこの前優花理さんがサンダースに忍び込んでね、諜報活動していたの」
「えぇ……」
優花理が他校に忍び込んで諜報活動に従事していたという事実に思わず困惑した。しかも詳細に聞いていくうちに、彼女はコンビニ船の荷物に隠れて乗り込んだという事実に困惑は二乗された。
視線を優花理に投げると、そこには綺麗な土下座を決めた彼女の姿がそこには存在した。彼女からは謝罪のオーラが激しく漏れ出ていた。
「申し訳ございませんでしたああああああ!!」
「伍長さん、優花理さんは悪意のある工作はしてないから許してくれないかな?
「秋山さんをあまり責めないでくださいませんか?」
「ゆ、優花理は皆のことを想って行動してくれたの!だから許してあげて!」
「まあ過程はどうあれ頑張ってくれたんだ。ほどほどにな」
「み、皆さん」
「……あのな優花理。せめて俺に知らせてから諜報活動に従事してくれ。それとコンビニ船の荷物に紛れ込むのは半ば犯罪だからな。今後は良心に従って行動するように」
「は、はい」
「よし、説教はおしまいだ。試合まで時間があるんだ、さっさと飯でも食って堪能してこい!」
俺は今後は注意して行動することを命じた後に、彼女たちに自由時間を与えることにした。今までの厳しい訓練に耐え抜いた褒美だ。それにサンダース側の人間が何でも好きなだけ食べていいと念を押してくれたのだから、つまり無料ということだ。
実際俺も毎日コンビニ弁当しか食ってなかったから楽しみだ。さて何から食べようか、お好み焼きもたこ焼きもいいな。いや焼きそばも捨てがたいな……。
「そうだ伍長さん」
「ん?なんだみほ」
味に現を抜かそうとしていると突然みほから声を掛けられた。振り向いてみるとみほは笑顔を保ったままでこちらを向いており、何故か並々ならぬ負のオーラが滲み出ている。笑顔がまったく可愛くない、それどころか恐怖を覚える。ツーと冷や汗が背中に流れ、俺は身震いした。
「同棲ってどういうこと?」
「あっ」
あぁ、俺のお楽しみの時間はかなり減らされるんだろうな――――――
口角を引くつかせた後に、俺はすぐさま土下座をした状態で事の顛末をすべて話した。みほは土下座をした状態の俺の背中に乗り、話の痛いところを的確に突いてきた。それに対し俺はなんとか言及するもまたもや突かれ、尋問は拷問に変わっていた。そんなやり取りを試合開始十分前まで行っていた。
「まあこれでおしまいにしとくよ。世間的に見れば伍長さんは未成年の家に入り込んだ浮浪者だからね」
「はい、肝に銘じるんで赦してください」
「次回からは気を付けてね」
「はい……」
意思や風貌は違ってもやはり家元の血を継いでいるのを実感した俺であった。
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「おっ、そこに居たのか」
「待っていましたわ、伍長様。前回の試合ぶりですね」
「そうだな。いやー、お茶会に招いてくれてありがとうな」
俺はサンダース到着する前日に届けられた招待状を手にし、指定された地点へ赴いた。その地点では俺に招待状を送ったと思える田尻家の令嬢ならぬ聖グロリアーナのダージリンと彼女が搭乗する戦車の装填手を務めるペコが優雅にもお茶を片手に観戦していた。喧騒とした観客席とは違い、辺りは静謐とした一面の野原だが超大型モニターにより観戦が可能だ。
「上着は届きましたか?」
「届いたぜ。けど別にご丁寧にクリーニングなんかしなくてもよかったんだが」
俺は用意されていた椅子に座った。するとペコが俺に紅茶が淹れられたカップを渡したので、俺は軽く会釈をした。紅茶を口にすると、普段紅茶を飲む機会がない俺だったが匂いや味から上質な茶葉を使用しているのだとすぐにわかった。
ちなみに俺は紅茶より緑茶が好きである。理由は飲み慣れているからだ。
「ふふっ、そうはいきませんわ。それに男性の方は身なりを整えないと女性に好かれませんよ」
「むっ、うちの家元と同じこと言われた」
「えっ?家元ってもしかして西住の方ですか?」
「そうだが」
家元という単語に反応したペコは質問を投げかけ、それに対し俺はそっけなく言及した。俺はそっけなく対応したつもりだったが、ペコにとって衝撃の事実らしく口を大きく開けれ目を丸くしていた。
一方でダージリンはペコの反応を眺めながら紅茶を飲む。一見優雅な印象を受けるが、カップで隠された口元は僅かに歪んでいた。
「ダ、ダージリン様!どうして戦車道の権威である西住流と繋がりがある方がいらっしゃるって教えてくれなかったんですか!?」
「あら?教えてなかったかしら。そういえば伍長様は西住家に居候していた時期がありますのよ」
「あわわわあわ!?」
彼女はペコに対し愉悦の表情を浮かべている。おそらくはペコを揶揄いたいがために伝えていなかったのだろう。困惑のあまり手にしていたカップを小刻みに揺らすという、淑女らしからぬ態度をとっていた。
……うわぁ。まるでドイツ兵を揶揄うイギリス兵みたいだぁ。なんとなくだが既視感がある。まあ可哀想だし止めてあげるか。
「そこまでにしとけダージリン。てかダージリンが言うことに間違いはないが、俺は大層な身分じゃないぞ。臨時の剣術指南役兼用務員だ。」
「あら?なら監視役としての職は?」
「昔にな。ただ今俺は偶然みほと出会っただけの用務員兼顧問に過ぎない。それに家元とはここ数年接触していない」
「……まほさんとみほさん、どちらに貴方はつくので?」
彼女は何かを見定めるかのように俺を見つめる。適当にあしらうこともできたが、それが原因で誤解が生じるかもしれない。だから正直に胸の内をさらすことにした。
「……俺はみほの味方、というわけではない。
意外そうな顔をしつつも後から納得した様子のダージリンは笑みを浮かべた。その笑みは何に対しての笑みなのかは予想がつかない。とりあえずは好意的なものとして受け取ることにした。
「こんな格言をご存じで?不幸せの原因は、他の誰かの身勝手ではなく、自分自身の身勝手である」
彼女は今後のことを見透かしたかのようにその格言を言い放つ。初めて聞いた格言で誰が言ったのかは知らない。けど、俺がどっちつかずの態度を取り続ければ必ずや不幸が訪れるであろうという意図は理解できた。
「なんとか、やってみせるさ」
傍から見れば俺とダージリンとの間で一触即発の空気が立ち込めていたのか、ペコは不安そうに様子を見つめていた。
俺は紅茶の水面に映された自身の顔を確認した後、一気にその中身を飲み干した。
いつの間にか紅茶は冷めていて喉に突き刺さる感覚を感じた。
実はダージリンは度々断片的ではあるものの伍長のことをペコに話しています。しかし名前や性別を伏せて言っていたため、ペコは伍長のことを女性だと勘違いしていました。