日本兵 in the ガルパンworld!! 作:渡邊ユンカース
読者の方々は2020年の抱負を叶えられましたでしょうか?筆者は半分です。
「あー、頭痛が痛い」
「伍長さん日本語間違えてるよ」
「うーん、そうか?」
「じゃあ今度一緒に国語の勉強頑張りましょうね、伍長さん」
現在、俺と西住たちと麻子と沙織を除いたあんこうチームは病院に居た。その目的は麻子の親族である彼女の祖母のお見舞いだ。華は見舞い用の花束を抱え、俺もジャージや軍服を着ていない。珍しくスーツを着て威厳を保っていた。
ちなみに何故俺が頭痛で苦しんでいたのかというと、昨晩の飲み会が原因である。みほたちに飯を奢り夕飯を終えた後、俺は自室で悠々と過ごしていた。そんな時に呼び鈴が鳴り、出てみるとそこには蝶野一尉が立っていた。彼女の手にはビールやおつまみで膨らんだビニール袋が握られ、勝利を喜び合おうと持ち掛けてきた。
実際乗り気だった俺は彼女の提案を承諾し、遅くまで宴を開いていた。宴後、蝶野は俺の部屋で爆睡し俺も同室で寝てしまった。
翌朝、蝶野は自らの装いに異変が無いのに気づくと俺を馬鹿にした。そりゃあ、たわわで豊満な胸を持っている女性が無防備に寝ていても率先して触ってやろうだなんて考えないだろ、常識的に。彼女のたわわな胸を揉みたいのは事実だったが、もし実際に行動に移してまえば信頼度は下がり下手すれば捕まる。流石に躊躇するぞ、たわわな胸が眼前にあっても。
まあ俺を散々馬鹿にした蝶野には俺の四の字固めを食らわしてやった。ざまあないぜ。
……実は触ってもバレなかったのでは?
「あのー、伍長殿?すごい思いつめた顔してますが」
「い、いやしてないぞ!一切!」
「伍長さん目が泳いでいる」
「な、なんのことだか僕知らないなー」
「ここですね」
そんな茶番を繰り広げているうちに冷泉の祖母の病室に着いた。華がノックをする前に病室から枯れた声が大きく聞こえた。
「もういいから帰りな!いつまでも病人扱いするんじゃないよ!あたしのことはいいから学校行きな!遅刻したら許さないよ!」
突如として羅列される怒声に一同は硬直して苦笑いを浮かべた。心なしか近寄りがたい雰囲気を醸し出している。話の内容も明らかに麻子に関するものだ。
「なんだその顔。人の話ちゃんと聞いてんのかい?まったくあんたはいつも返事も愛想もなさすぎなんだよ!」
「そんな怒鳴ってると血圧上がるってば」
「か、帰ります……」
この出来事に思わず弱気になる優花理は帰ろうとするも、華が引き留めた。優花理を説得すると、華は怒声が交わされる病室のドアを開けた。
「失礼します」
「おっ、華!」
「失礼します」
「失礼する」
「みぽりんにまぽりん、それに伍長さん。入って入って」
中にはすでに沙織がおり、病室に入るよう催促する。病室に居た麻子の祖母は続々と入ってくるみほたちに警戒するよう目を細めたが、俺の顔に視線が移った瞬間にどこか驚いたような表情を一瞬浮かべた。
「なんだいあんたたちは?」
「戦車道一緒にやってる友達」
「戦車道?あんたがかい?」
麻子の祖母は戦車道をしている麻子の姿が思い浮かばなかったらしい。麻子は祖母の問いに頷いて答えた。
「あっ、西住みほです」
「五十鈴華です」
「秋山優花理です」
「戦車道の顧問を勤める伍長です」
「私たち全国大会の一回戦勝ったんだよ!」
「一回戦ぐらい勝てなくてどうすんだい」
仰る通りで何も言えない。ま、まあ戦力差を考慮すると勝率低かったので……。
「で、戦車さんたちはどうしたんだい?」
「試合の後、お婆が倒れたって連絡が。それで心配してお見舞いに」
「あたしのことじゃなくてあんたのこと心配してくれたんだろ!」
「わかってるよ……」
「だったらちゃんとお礼言いな」
祖母からの指摘により、自分がみほたちに心配をかけてしまったことを知った麻子は恥ずかしがる様子で俺たちに感謝を伝えた。
「わざわざ、ありがとう」
「少しは愛想よく言えないのかい!」
「……ありがとう」
「さっきと同じだよ!」
「だから怒鳴ったらまた血圧上がるから」
夫婦漫才ならぬ祖子漫才に内心では愉悦している俺。この一連の会話で彼女の祖母は礼儀と礼節を重んじる人物であるのがわかる。多少口は悪いが麻子のためであることはしっかりと伝わった。たぶん不器用な人なのだろう。
「お婆ちゃん今朝まで意識がなかったんだけど、目が覚めるなりこれなんだもん」
「寝てなんかいられないよ!明日には退院するからね」
「いや、だから無理だって」
「何言ってんだい!こんなとこで寝てなんかいられないんだよ!」
「お婆、皆の前だからそれくらいにして」
「あの花瓶あります?」
「無いけどナースセンターで借りられると思うよ。いこっ」
麻子と彼女の祖母のやりとりを傍目に華は持参した花束を飾るために、沙織と一緒にナースセンターへ行った。
「あんたたちもこんなところで油売ってないで戦車に油差したらどうだい」
「えっ」
「お前もさっさと帰りな。どうせ皆さんの足を引っ張ってるだけだろうけどさ」
「そんな……」
……確かに日頃の麻子の素行は良くない。だから負の偏見が生まれてしまうのも頷ける。けど実際の彼女は大洗の操縦手の中で一番優秀だ。俺も彼女の顧問として一言言ってやるか。
「ところがどっこい。麻子は上手に戦車操ってくれてますよ。一番上手い」
「冷泉さんは試合の時いつも冷静で助かってます」
「それにすごく戦車の操縦が上手で憧れてます!」
俺と同じ考えをしていたみほと優花理も麻子を称賛した。みほばかりで目がいっていなかったが、麻子も良い友達を持ったんだな。映画化決定してもおかしくないぞ。
不器用だが孫思いの優しい麻子の祖母と麻子の間で繰り広げられるやり取りは横から傍観しても飽きない。あっという間に時は過ぎていった。
「じゃあお婆、また来るよ」
麻子は一足先に病室から出て、俺とみほも部屋から出ようとした。そんな時、彼女の祖母から声を掛けられた。
「あんな愛想のない子だけどね、よろしく」
「はい!」
「任せてください」
俺とみほは麻子の祖母からの願いに屈託のない笑みを浮かべて答えて見せた。麻子は愛想が悪くて無口で時折何を考えているのかわからない時もある。けれどそれ以上に、彼女は友達思いで人のために努力をすることができる人物だ。まだ半年も彼女と交友していないが、それだけは理解できた。
帰りの電車の車内では祖母とのやり取りに疲れた麻子が沙織の膝を枕として使い、寝息をたてて寝ていた。
「麻子さんのお婆さん、思ったより元気でよかったね」
「えぇ」
「なんか冷泉殿が絶対に単位が欲しい、落第できないという気持ちがわかりました」
「お婆様を安心させたいのですね」
「うん。卒業して早く傍に居たいみたい」
「あの人も不器用だからな、怒鳴り散らしていた内容も全て麻子を思ってのものだった。良い祖母を持ったな」
「そうだね」
沙織は安心そうに眠る麻子の頭に手を置いて、優しく撫でた。
電車に揺られ続けて、一時間半が経過した。夕日に照らされていた周囲は闇に包まれ始めている。その頃には港の最寄り駅である大洗に到着しており、俺がいまだ寝ている麻子を背負う。
「麻子あまり寝てないんだ。お婆ちゃん何度も倒れてて」
「お婆様がご無事で安心したのかも……」
「でもこの前はすごく動揺していましたね。あんな冷泉殿を見たのは初めてです」
「そりゃあ親族が倒れたなら誰しもが同じ反応する」
「……それにたった一人の家族だから」
「えっ?ご両親は」
「麻子が小学生の時、事故で」
「そうだったんですか……」
「……俺とあまり変わらないのか」
麻子の境遇は俺と似ていた。俺の両親は結核で死に、集落全体に感染させないために家を出た。家を出た先で俺は何度も苦しい生活を過ごしてきた。常に飯と病気と野犬などに気をつけた生活を送らないといけなかった。おかげで軍隊に入隊後、頑丈でしぶとい体を手に入れた。
彼女との相違点は親族が一人でもいたこと。親族がいるだけで帰るべき場所がある。俺には頼れる親族も帰るべき場所もなかった。
大洗の学園艦に乗船するための連絡船に乗船した俺らだったが、道中で沙織と優花理も座席で寝てしまった。
船外ではみほと俺が夜の海を見て黄昏ていた。そこに沙織がやって来た。
「二人ともどうかした?」
「ううん、別になんでも」
「なんでもないさ」
「ただ皆も色々あるんだなって」
「麻子のこと?」
「うん」
「麻子ね、みぽりんのこと心配してたよ」
「えっ」
「みほね家族と離れて大洗に来たじゃない。あの時は独りで」
「偶然の再開だからな。俺とみほ」
「麻子のお婆さんてさお母さんにそっくりで亡くなる前に喧嘩しちゃったんだって。謝れなかったってずっと後悔してんだって麻子」
「伝えるべきことをいざという時に伝えることができないのは想像以上にツラい。俺も長年後悔してんだよ、せめて伝えられたらなって」
「伍長さん……」
生前雪子とは身分は違えど幼少期を一緒に過ごして、いつしか恋愛感情を抱いた。気持ちを彼女に伝えることなく俺は村から去った。どうせいつか言えるだろうと。
その結果、俺はもう一生彼女に自分の本心を伝えることができなくなった。その後悔は死後も続き今に至る。自分は案外ずぼらで雑な人間だと評していたが違ったらしい。
俺はみほの頭に手をやり、ぽんぽんと軽く撫でる。みほと沙織がこちらに視線を向けた。
「お前も後悔があったら抱え込むな。なんとしてでも解消させろ。じゃないと死後も付きまとうぞ」
哀れで正体不明の男の助言に賢明で繊細な少女は小さく頷いた。それを確認すると俺はみほから手を引いて髪を掻き上げて、誰にも聞かれないように小さくため息を吐いた。
生前のヒロイン雪子の再登場。
地主の娘と自作人の息子とで繰り広げられるドラマに主人公として参加できない主人公がこの伍長です。
ゴールデンカムイの杉本と同じように伍長も過酷な人生を送りました。杉本の故郷にいる想い人は杉本が結核疑惑で故郷から離れた間に親友に嫁として取られ、戦争でその親友をなくし、その想い人は子を育てながらも目の病気になってしまう。
伍長は結核で家族が死んで村から離れ、少年期や青年期は橋の下でホームレス生活を送り、入隊後故郷に帰ると想い人は死亡。その後、太平洋戦争で何も守れないまま満身創痍の状態で戦死する。
伍長と杉本に救いの手は無いんですか!?