日本兵 in the ガルパンworld!! 作:渡邊ユンカース
拝啓、各国兵士のお前ら。別に手紙を書くことがめんどくさくて一年も出していないということはないです。
そちらは仕事ばかりで大変そうですね、まあ現世だと剣道を教えてはいますが。
まほとみほは大きくなりましてまほは今年の春に中学に上がりました。黒森峰という学校で全員がドイツ兵みたいな格好になっていました。もはや国民突撃隊みたいだ。
そして今日、俺は西住流から出ていくことにしました。特に喧嘩騒ぎを起こして破門を喰らった訳じゃないです。本来の剣道講師の方が産休から帰ってくるからです。ずっと貯金していたので五百万以上はあるので当分無事です。これにて終わり。
「ふぅ、手紙を書き終えた。荷物の支度もできたから夜には出ていくか」
「伍長さん」
「どうしたまほ」
手紙を書き終え、俺は自室の畳に寝転ぶ。少ない私物を墨に寄せていつでも出ていけるようにしてある。現在の服装は最初着ていた軍服である。まほは俺の隣に密着するように座る。場所はあるのに何故俺にくっつくのだろう、今は夏の終わりだけど暑い分には暑いぞ。
「本当に行っちゃうんですか」
「あぁ、契約としては産休の講師が戻ってくるまでだ」
「……此処にずっと居ることもできないの?」
「そうだ。何せ俺は居候の身、いつまでも人様の家に居座るということはできない」
「じゃ、じゃあ二人講師を雇えば伍長さんは居られるの?」
「そいつは無理だ。剣道の講師は一名だけでもいい、しほ殿にもまほと同じことを仰られたよ。だがな、剣道という武芸は講師一人で十分なのだ」
まほは俺の言ったことに萎れている。何故かというと両脇のはねた髪が萎れているからだ。この娘は優しい、俺のような今までの経歴不詳の浮浪者を最初しほ殿と会った時に弁解をしてくれた。まほにはあまり頭が上がらんな。
「そういやみほは?」
「うん、伍長が出ていくと聞いてから部屋で拗ねてる」
「たかが俺だぜ。お前ら二人と俺とで価値を天秤に測ったら断然お前らだ。俺にはお前らが止めるほどの価値すらない、お前らが金剛石だとしたら俺はただの石だ」
「そんなことはない!」
まほが大きな声をあげたので俺は驚いて後ろにひっくり返る。その後、まほは剣幕でこちらに覆いかぶさった。まさかまほがこんな大胆なことをするとはさらさら思ってもいなかった。いつでも起き上がることができても、俺には彼女を退かすことができなかった。
「伍長さんは優しくて強くて温かい人です。それなのに自分を下に見ないでください! そんなの私は許しません!」
彼女の目尻には涙が浮かんでいた。心なしか手が震えているようで声は涙声だ。感情の起伏が少ない彼女がここまで乱れるとは初めてで新鮮味を感じた。だが彼女には悪いが、俺には人と比べることはできない、それは俺が守れずに死んだ無能な男なのだから。
「……許さなくていい。それは俺にはできない行為だ」
「なんで!」
「それは――――」
どうしようか、このまま全てをうち話すか。でも俺は一度死んで天界から転生したのだと言われても不審がられるのがオチだ。彼女らには内密にしよう、それが一番の最善策なのだろう。
「言えない、俺にはその理由を話すことすらも相手にとって愚行だから」
「それが、それが理由だと言うのですが!」
「悪いな、俺はこういう人間なんだ。恨んでも構わない、そのぐらいの権利はある」
彼女は少しほとぼりが冷めたのか俺から身を引いた。体を起こし、胡坐を掻いた。彼女の顔は伏せられておるが、泣いていることが丸わかりだ。けど俺はどうすることもできない、こういう男だから仕方ないと言いつけて。
「…すみません、取り乱してしまって」
「気にするな、今は何時だ」
壁に掛かれた時計を確認すると短針が六時を指している。もうそろそろいいな、この時間帯なら暑くもないだろう。俺は重い腰を上げ、荷物を取った。とことことお別れの挨拶をするためについて来ている。嬉しいものだ。
玄関を出て陸王を取りにいこうとするとそこにはしほ殿とみほの姿があった。
「これはしほ殿、もう出ますね」
「知っていました」
「俺言っていないんですが」
「女の勘です」
「そ、そうですか」
何だ女の勘は、そんな電探みたいに使うものじゃないと思うのだが。きっと戦車道で精度をよくしたのだろう。しほ殿はまほの姿を一目見てため息を吐いた。みほに至っては姉妹揃って泣いていた。
「お世話になりました。楽しかったですよ」
「…やはり」
「はい、人様の家に長く居候するわけにはいきませんし」
「伍長さん、行っちゃうんですか?」
「そうだ。何、じきに慣れる」
みほは昔あんなに無邪気だったのに、ここ最近落ち着き始めた。前はさん付けしないで呼んでいたのが懐かしく感じる。彼女は一歩大人に近づいたのだ、好ましいことである。早く立派な大人になってほしいものだ。
にしても別れは本当に嫌なものである。よく別れがあれば出会いがあるというがそれは嘘だろう。死別したら出会いも何もない訳だから。……だけど別れを紛らわすことはできるのだ。俺は自身の袋と腰から昔の俺がよく使っていたものを取り出した。
「これをお前らにやろう」
「えっ」
そう言って差し出したのは拳銃と日本刀だ。流石に拳銃には銃弾が取り除かれている。
まほには日本刀、みほには拳銃だ。昔のまほは刀のを重々しく持っていたのに今では普通に持ち上げている。これが成長というものか、感慨深いな。
「けどこれ伍長さんの大切なものでは」
「何、優しさの押し売りだと思ってもらっていい。別に捨てても構わない」
「大切にします。伍長さん」
「私もお姉ちゃんと同じです!」
「そうか、それならよかった」
武器を渡されて喜ぶ、そんな少女の姿は見たことない。誰も悲しみと恐怖を抱いた表情しか見れないのだ。本来武器は人を殺すための道具、だが人を喜ばせる存在になれて武器もさぞかし驚嘆していることだろう。この二人なら悪用はしない、そう信じて俺は贈ったのだ。
「じゃあなお前ら、元気でやれよ」
「伍長さんも元気で」
「困ったら西住流に駆け込みなさい、擁護します」
「はははっ、しほ殿は優しいですな」
去年の冬に与えられた小型携帯無線機のケータイを俺は見せつける。未来はスゴいものだ。背負わなければ携帯できなかった無線機を小さくして能力を向上させるとは。
ちなみにガラケーというらしく、現在西住家としほ殿の電話番号が入力されている。補足だが俺はケータイを殆ど使いきれていないからメールという電文は遅れない。
実際には遅れるが時間が掛かりすぎるからだ。
「まほ、お前も折角の中学を気張れよ」
「わかっています。勉学にも戦車道にも励みます」
「うむ、その意気だ」
陸王に跨りエンジンを掛ける。日々の整備でエンジンの掛かりがよく快適そうにエンジンを吹く。西住流にはたくさん与えられたものがある。それは俺の全てを投げうったとしても返済できる額ではない。だが、西住流が困っているのならばすぐに助太刀いたそう。俺は西住流のために尽くす、それが例え人殺しだとしても喜んでしよう。せめてもの恩返しを真剣にだ。
陸王のアクセルを捻り、機体を進める。サイドミラーからは彼女らの姿が見える。ようやくサイドミラーから居なくなったのは道を曲がった時であった。
ちくしょう、涙が出る。
思ったときには涙が航空眼鏡に貯まっていた。鼻水が情けなく垂れる姿を誰にも見せたくはなかった。拭いても拭いても涙や鼻水が止まらない。きっとそれは忘れていた温もりのせいであろう。
「ったく、本当いい家族なんだよなぁ……ッ!!」
醜く濡れた顔を直しながら陸王は明日へ向かって駆けていく。その先に何が待ち受けるかはわからない。
伍長は尽くす人なので殆ど何でもします。
まさに忠犬。