日本兵 in the ガルパンworld!! 作:渡邊ユンカース
……また夢か。だが今回の夢は初めてだ。
俺の眼前には故郷の花畑が一面に広がっている。その花畑には記憶があり、雪子と初めて出会った地である。天候は極めて快晴で暑くもなければ寒くもない春心地だ。モンシロチョウが至る所で蜜を吸っている。
花の香りやそよ風を肌身で感じて俺は花を踏まないように注意を払いながら前に進む。
進み始めて程なくした頃に見覚えのある少女が目を下に向けて花を摘んでいた。どうやら彼女は花冠を作っているらしい。俺は動揺しながらも少女が警戒しないようゆっくりと近づいた。
「あっ!久しぶりね」
「……あぁ。久しぶりだな」
俺の気配に気づいたのか少女は顔を上げた。その少女は当然雪子である。その雪子の姿は最後に会ったものと同じだった。彼女の象徴ともいえる白いワンピースを着用していた。
俺は不覚にも恋い焦がれてたが失恋した少女を眼前にしたせいか、いつの間にか目が霞んで大粒の涙をぽろぽろと流し始めていた。立つ気力も失い、その場にへたり込んだ。
「大丈夫?お腹でも痛いのかしら」
「あぁ!大丈夫ッ!大丈夫だから!」
俺は心配そうに近づいてきた雪子を思い切り抱きしめた。花の匂いや上質な石鹸の匂いといった様々な彼女の匂いが故郷をより思い出させる。楽しい思い出から今まで忘れていたくだらないことまでも思い出せた。
雪子は泣きじゃくる俺に最初こそは混乱していたが、次第に慣れていき手を俺の頭に乗せて優しく撫でる。そんな優しさが俺を再度感傷的にさせるには十分だった。
「ごめんごめんな……ッ!最後の別れを告げずにさよならしちゃって!」
「いいわよ。私は気にしていないわ」
「……そうか、そうか」
「だからたくさん遊ぶわよ」
「あぁわかった!いっぱいいっぱい遊ぼうッ!花冠をたくさん作ろう!」
抱擁を解いた俺と雪子は彼女の言う通りたくさん遊ぶことにした。鬼ごっこで遊んだりかくれんぼで遊んだ。俺の体は大人サイズで雪子は小学生サイズの大きさだが、不思議と体格差による有利不利はなかった。
そんな感じで楽しく時を忘れて遊んでいると、日は沈んでいき夕方を迎えた。遠くの寺院から五時を知らせる鐘の音が此処にも響いた。
雪子と一緒に花冠を作っていたその手を止めて俺は立ちあがった。
「……雪子、そろそろ帰るか」
「そうね。残念だわ」
「また明日遊べばいいさ。明日は友達を呼んで色々な遊びをしようぜ」
「わかったわ。じゃあその前に屈みなさい」
「こうか?」
俺は雪子の言われるがままにしゃがんだ。すると彼女は作っていた花冠を手にして俺の頭に乗せる。満足そうに笑みを浮かべると俺に向けて言った。
「未完成だけど似合うわね。あげる」
「俺は幸せ者だな。嬉しいぞ」
満面の笑みを浮かべると俺は彼女の頭をくしゃくしゃに撫でてから立ちあがった。立ちあがると突然背後から衝撃が走り、重量を感じた。後ろに目を向けると背中に彼女が張り付いていた。
「大きいんだからおぶりなさい」
「あぁいいぜ。だが落ちて洋服汚すなよ」
「わかってるわ」
彼女をおぶって俺は帰路に着いた。帰路といっても山道に毛が生えたようなもので凸凹で滑りやすいところもある。過去の記憶と感覚を使いながら注意して進む。あまり激しい動きをしていないため、いつの間にか背中では雪子が寝息を立てて寝ていた。
「寝たか。……しかし長い水溜まりだな」
現在俺は道に溜まった川の如く長い水溜まりを渡っていた。底は浅く何の影響もない。
俺はピチャリピチャリと音を立てて足を進めていると、不意に片足が地面に沈んで前のめりに転倒した。泥水や石が口に入るが、第一に気をつけていたのは雪子の安全だった。後ろを振り向くといまだ彼女は眠りについている。幸いにも洋服も汚れていない。
口に入った泥水や小石を吐き出してから立ちあがった。
「なんだ今の?」
気を取り直して前へ進むが、依然として水溜まりは続き、それに比例して足が沈み気を取られそうになる。それでも持ち前の持久力を使ってズンズン前へ進んだ。
「この水溜まりまるで沼だな。進めば進むほど足が重くなる。……あっぶねっ!?」
息を切らしながら必死に進んでいると、突如としてその足を何かに掴まれて転びそうになった。恐る恐る足元に目を向けると、白骨部位の見える手が俺の足を掴んでいた。
顔面を真っ青にした俺は手を薙ぎ払って走って進む。それでも白骨した手は俺の足を執拗に掴んできた。
当初は一つや二つしかなかった手も、今となっては十になっている。いくら俺でも突破できなかった。
「くそっ!?何なんだ一体!?」
「うぅん?どうかしたの?」
「見るな!目を閉じてろ!うっ!?」
俺の足を掴んだ手の正体が血の水溜まりの底から姿を現していく。どれも顔面を腐らせているが、俺には見覚えのある面子がほとんどだった。
「中田、それに黒野のおっちゃんに比嘉!?」
「伍長殿ひどいです。我らを忘れてぼんやり生きるなんて……」
「俺らは同じ戦場で死んだ戦友だったよなぁ」
「つらいです。助けてください」
「違う、違うんだお前らッ!! 俺は一日もお前らを忘れたことはない!」
呪詛を零しながら俺の体をよじ登る戦友に俺は必死に説明する。誰もが大切な人であり、家族に値する人だった。だがいくら説明しても彼らは俺によじ登る。
嫌な汗が流れて鳥肌が立ち、徐々に息が苦しくなってきた。俺にしがみ付く面子を多くなっていき、ついには俺の両親までもが現れた。
「やめろ、やめてくれ!俺は、俺は……」
「ねぇ」
「ごめんな皆。ごめんな……」
「ねぇ」
「……雪子」
俺は背後の雪子に目を向けると雪子は瞳孔を開いて不気味に見つめている。目があった瞬間、口角を異常なまでに上げて彼女は言い放つ。
「私はあんたを赦さない」
「待っ―――――!!」
彼女が言い告げると俺の体は鉄を水に沈めるが如く即座に沈んだ。大量の水を飲んで手足をもがいて浮上しようとするが無駄でそのまま沈んでいった。
溺死の苦しみを味わいながら俺は涙を流して意識を失った。涙は血に混じって染色した。
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「うあああああ!?」
激しい動悸と共に俺は布団から起き上がった。暗い部屋には時計が秒針を鳴らして静かに動く。荒い呼吸と動機を抑えるために俺は手元にあった缶ビールの残りを飲み干して、さらにもう一本開けて一気に飲んだ。
ようやく動悸や呼吸が落ち着いてまともに行動できるようになると、外を見た。外では雪が深々と降っており、プラウダの港に着いたのだと認識させた。
試合は今日の夕方六時である。まだ時間的には余裕があり、用意をした後に屋台を回ることもできるだろう。
「……シャワーでも浴びるか」
俺は壁に手をつきながら風呂場へ向かった。服を脱いでからおもむろに洗面所の鏡を見ると、体の至る所に手の形をした血痕が付着していた。
血痕に触れてみると簡単には色は落ちない。ただちにシャワーを浴びて流すことができたが、四十分も時間が経過していた。
「……なんだよ本当に」
風呂場の床にへたり込んで俺は呟いた。
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「よう河嶋。準備はどうだ」
「伍長遅いぞ。いつでも戦車は搬入できるようにしてある」
「まあこんな雪国で戦車動かすのは初めてだけど、マニュアル見て頑張ったんだー」
「そうか。あの重戦車はどうだ」
「残念ながらまだ……」
「そうか。なら仕方ない」
時刻が夕方の五時に回った頃に俺は大洗女子学園の待機所に赴いて確認を取った。雪が降ったことで学園の整備に引っ張りだこだったため遅刻してしまった。仕方がないことだ。
しかし重戦車も出せないとなるとルノーb1と四号F2の戦力強化だけでプラウダに立ち向かうのは骨が折れる。ソ連戦車は装甲や火力が申し分ない性能だからな。打ち破れるか怪しい。
「皆伍長の士気鼓舞を期待しているぞ。早く行け」
「……悪いな。今回はパスできるか?」
「はあっ!?顧問であるお前がやらなきゃだめだろう!」
「あんまし体調良くないんだ。そんな俺が皆の前に出たら逆効果だ」
「どうしましょう……」
「うーん、じゃあしょうがない。うちら生徒会でやるよ」
「助かる。ありがとうな」
俺は彼女たちの配慮に感謝しながらその場を立ち去った。実際俺の体調は普通なのだが、あの夢のせいで気分が落ち込んでしまった。そんな状態で鼓舞することはできないからあながち間違いじゃない。
こういう時は飯でも食えば元気になれるはずだ。大洗女子学園の出店で豚汁があったはずだからそこで一杯貰おうか。
俺は雪をザクザク踏みしめて進む。手にした簡易マップを見て近道をしようと人気のない通りを歩いていると金髪長髪を一つに束ねた少女と丸坊主で口髭を蓄えた大男が話していた。辺りには人がいないので印象的だった。
少女と大男が別れて、大男がこちら方面に歩いてきた。十メートル、五メートルと距離が近づいていく。そして一メートルになった時にお互いの顔を認識した。
「フンヌッ!!」
「うおっ!?」
すると突然大男が俺の服を掴むと街灯に向けて投げ飛ばした。背中を街灯に打ち付けて一瞬息ができなくなるがそれでも立ちあがり、即座に臨戦態勢を整える。
大男は殴りかかるも俺はその腕を掴んで、そのまま一本背負いをする。しかし地面が雪で覆われているためダメージは少なく、大男は仰向けになった状態で両脚を俺の顔面に向けて放つ。
「ぐっ!?」
「ウオオオオオオ!!」
「くそが!」
鼻血を流しながら仰け反る俺にタックルを仕掛ける大男を受け止めようとした。しかし体格差から完璧に受け止めきれずに後ろへと後退していく。
「グオオオオオ!!」
「あまり舐めるんじゃねぇぞ!」
「ヌオッ!?」
全身の筋力を使って大男を受け止めると、そのまま体を持ち上げて投げる。二メートルほど離すことができたが今の投げで全身の筋肉を疲労させてしまった。
俺は否応なしに懐に手を突っ込んであるモノを取り出す。大男もその意図が読めていたのか同様のモノを取り出した。
「……」
「……ッ」
俺らが取り出したのは拳銃だった。俺は傭兵時代にお世話になったココとの別れ際で貰ったS&W M642という比較的小柄な拳銃だ。対して大男が持つのはマカロフ PMと呼ばれる拳銃でロシア製だ。
俺らは睨み合って何かしらの行動をすればいつでも発射できるような状態だ。装弾数はあちらに利があるが信頼性はこちらが上だ。
俺は足元の雪を蹴り上げて視界を反らしてから撃とうと考えて、片足を動かして実行しようとした。
「ストープ!!」
「あぁ?」
その時、遠方から先程の少女がこの戦闘を止めようと走りかけてきた。少女は急いで大男の傍に寄ると流暢なロシア語で長々と話し始めた。
俺は唖然として拳銃を下すと大男も拳銃を下して少女との会話を始める。
「おい、どういう関係だ?」
「すみません。うちの父親が」
「あぁ、親父さんか。となると二人はロシア人か」
「まあ私はハーフですが。……お怪我とかは」
「まあ大したことじゃないから安心してくれ。で、何故親父さんは俺を襲ったんだ」
「それが軍人として働いた際に貴方と交戦して仲間が傷ついたと言っているんです」
「……あー、そういうこと」
武器商人の傭兵時代で確かにロシア軍と戦闘した記憶がある。誰もが屈強な兵士で手こずったな。その戦闘で俺と親父さんはやりあっていたのか、変な偶然もあるものだ。
……まあ仲間思いは結構だが此処でやるのは間違いだ。
「こちらも仕事でやってたんだから仕方ないと伝えてくれ。あと俺は傭兵を辞めたとも」
「わ、わかりました。本当に父がすみません」
少女は自身の父親にロシア語で話しかけると、渋々とした様子で独りその場を立ち去った。脅威が去ったのを確認して俺は拳銃を懐に収めた。
「良い父親なんですがどうしても家族以外には短気で……」
「まあ家族思いならいいだろ。そういや名前は?制服からしてプラウダ生か」
「はい。私の名前はクラーラと言います。貴方は確か伍長様ですね」
「そうだ。ノンナかカチューシャから聞いたか」
「まあ良くも悪くも貴方は隊長たちに知られてますから」
「そうか。なら菓子折りでも持ってかないとな」
「そうですね。まあそれだけで済むかはわかりませんが」
「ありがとうな。ってかそろそろ時間じゃないか?」
「……そうでした。では」
「試合両校とも頑張ろうな」
一礼をした後にクラーラは父親を追いかけていった。何か忘れ物でも届けようとしたのだろうか。
気を取り直して俺は出店の場所へ向かおうとしたが、疲労感から雪の上で仰向けに寝転んだ。暫くは動けそうもないので、体力が回復するまで此処に居ようとした。
天空から降り注ぐ雪を呆然と眺めていると見知った少女がこちらを俯瞰していた。
「あら、雪のベッドは気持ちよくて?」
「ダージリンか。……疲れて体が動かん。引っ張ってくれ」
「それが淑女にやらせることで?」
「うるせぇ。それか戦車か車で俺を引きずるなりして運んでくれ」
「仕方ありませんね。ペコに車で運ばせますわ」
「頼む」
「……ふふっ」
「……ダージリン、雪を顔面に被せるな」
ダージリンはペコが来るまでの間、俺の顔面に雪を被せて悪戯をしていた。その都度俺は雪を手で払うも、繰り返して雪を乗せてくるので俺は考えるのをやめた。
クラーラの声優の方の父親はスペツナズなんですよね。
なのでそこから独自の設定を持ってきただけなんで公式じゃないです。
父親の階級は個人的には曹長ポジションです。