日本兵 in the ガルパンworld!! 作:渡邊ユンカース
最初はエリカ視点から始まります。
「ねぇ。次の戦いはどうなると思う?」
「相手は去年まで無名の弱小校でしょ。戦車も練度も相手にならないわよ」
「そうだよねー」
「ほらそこ!キチンと整備しておきなさい!次は決勝戦なんだから気を引き締めて!」
「は、はい!」
「すみません!」
車庫にて私は整備の手を止めて談笑し合う隊員二名に檄を飛ばす。注意された二人は背筋をピンと伸ばして自身が乗る戦車の整備を再開した。
どうにも浮ついた雰囲気が隊内で蔓延っており、これが九連覇を成し遂げた黒森峰学園なのかと思うと呆れてしまう。
確かに私たちは大洗女子学園の戦車と比べると強いし、隊員の実戦経験も豊富だ。
けど、あっちにはまほ隊長の右腕であったみほが居る。さらに軍人あがりであるあの|バカ≪伍長≫もいる。
あの二人が大洗に参入したせいで、列強校のサンダースやプラウダを倒して決勝まで歩みを進めた。情報を集めて解析しようにもデータも大昔のとここ一年の試合動画しか入手できていない。
さらにみほが初めて見せる戦法も独創的なもので、主流なドクトリンを有してないから得意とする戦術もわからない。
……それこそ
「イラつくわね」
外に出た私は誰かがポイ捨てした缶を思い切り蹴飛ばした。カコーンと缶は軽くよく飛んでいく。けれども沸々と苛立ちは募るばかりだ。
大洗の情報収集のために大会映像を視聴するたびに、どこかしらに伍長が居た。サンダース戦では泣きじゃくりながら勝利を喜ぶ伍長が、アンツィオ戦ではパスタを食べ過ぎて苦しそうにする伍長が、プラウダ戦では教会の中で笑いながら焚火の準備をする伍長が。
どの伍長も今の環境に満足しながら一生懸命自分ができうることをこなしていた。それこそ私が誘拐された時にしか見せなかった様子ででだ。
「本当にイラつく」
伍長が中々見せてくれなかった態度を大洗では常に見せていることに怒り以外に悔しさが込み上げてきた。おそらくこれは嫉妬なのだろう。
身勝手で傲慢なこの感情と対面するのは初めてだったが、まさか自分がここまで嫉妬深いとは思わなかった。
「どうしたんだエリカ。何か思い詰めているのか?」
「た、隊長」
茫然とただ校庭を歩いていたら隊長と遭遇した。自分がそんな顔になって外を歩いていた事実に気づいて恥ずかしくなった。
隊長はそんな私を察して、優しくも凛々しく語り掛ける。
「決勝戦のことか?」
「……はい」
「私らはみほと対峙して優勝を勝ち取らなければならない。さらに名誉挽回の意味合いを含めるとプレッシャーが掛かるな」
「けど今度こそ負けないつもりです」
「私もそのつもりだ。けど重荷を背負いすぎては試合で力を発揮できない。だから後の仕事は私に任せて早めに上がってくれ」
「そんな!隊長だってまだ仕事が残っているはずでは!」
「わかっている。けどエリカの態度を見ていると心配で堪らない」
「……すみません」
「謝らなくていい。エリカは十分に仕事をこなしてくれた」
どうやら隊長は私の内情を見透かしていた。それはただ隊長の観察眼が鋭いだけなのか、それとも私と同じ心情なのかはわからない。
けど隊長が指摘してくれたように今の状態で試合に挑めば力を発揮せずに敗退してしまう可能性が高い。私個人の失態が隊長に影響するとなれば休まざるおえない。
私は隊長の提案を承諾して早めに学校を切り上げた。時計を確認するとまだ五時を回って間もなく、何をすればいいのかわからない。気晴らしに好物のハンバーグを食べに行くにも時間帯が早すぎる。
とかいって帰宅しても、戦車道の資料が嫌でも目に入り心を落ち着かせることはできないだろう。
「……どうしよう」
何もすることなくただ街を散策した。同じ制服を着た生徒が友達と買い物をしたり、カフェでスイーツを嗜んでいる。ショーウィンドーのガラスに独りの私が写されて、より孤独感が増していき気が滅入りそうになる。
「……隠れて仕事でもしようかな」
独り公園のベンチに座り、ため息をついた。
憂鬱なまま公園で遊んでいる子供たちを無気力に傍観していると、不意に肩に片手が乗せられた。ゴツゴツとした大きな手だ。
私は瞬時に警戒心を高めた。不良や不審者対策にポケットにある携帯電話に手を伸ばし、すぐさま緊急連絡ができるようにしてから後ろを振り返った。
「ッ!?」
「久しぶりだな」
清潔感のある黒いスーツとズボンで身を包み、ハンチング帽子を被った男が立っていた。屈強な体つきで相手を威圧するような眼帯を身に着けた男を私は知っていた。
「なんで伍長が此処に居るのよ!」
「へへっ、来ちゃった」
みほと同時期に姿を消して、最大の敵の一人となった伍長がそこにはいた。伍長は驚く私とは正反対にお茶目に舌を出してできていないウィンクをした。
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「いやー、マジで偶然だな!まさかこんなところで会えるとはな!」
「私も会うとは思ってもみなかったわよ。てか勝手に隣に座らないで」
「気にするな」
「私が気にするのよ!」
俺はこんなにも早くエリカと出会えて嬉しかった。ちなみに学園艦に乗艦したのが四時半で、何故学園艦に乗艦できたのかというと実は熊本の港に停泊しているからだ。
学園艦にも滑走路は存在するが基本的に値段が高い。貯金もさほどないからな。
……ない理由としてはみほたちに飯を奢りすぎたからだ。華がよく喰うんだこれが。
「まっ、せっかく遊びに来たんだから遊びに行くぞ」
「……私と一緒に?」
「そうだ」
「隊長にも来ていること知らせたの?」
「知らせたけど忙しいらしいからな」
「……私も普段は忙しいのだけど」
「けど今は暇だろ。そうじゃなければ公園で黄昏ないだろ」
「ぐぅ……!」
俺に図星をつかれたエリカはぐうの音も出ないといった様子で押し黙る。あの様子なら心理学を履修していない俺でも一発でわかる。
「……アンタ義手はどうしたのよ」
「あー、気づいたか」
「当たり前でしょ。不自然に左袖がプラプラしてるんだもの」
「実はなプラウダでスノーモービルに乗ってたら転んでな。壊れちゃったぜ」
「……無茶したのね。また」
「あぁ。それが取り柄だからな」
「そう」
エリカは悲しげに呟いた。いかにも無茶はするなと言いたげな様子だが、俺だけが無茶すれば物事はいい方へ向く。色々な人に心配をかけるが、ちゃんとした見返りが返ってくるなら構わない。これをエビで鯛を釣る、外国風だとローリスク・ハイリターンだな。
「……まあアンタは昔そうよね」
「そうだ。お前らの方が人間としての価値は高いから」
「みほにも言えるけど私はそういうところが嫌いよ。自らを卑下して相手を上げるだなんて」
「わかった。帰ったらみほに注意しておこう」
「自分にもしなさい。まったく」
「それじゃあ遊びに行くか」
「……わかったわよ。けどあまり遅くならないようにしてよね。明日も朝練だし、傍から見れば未成年誘拐よ」
「その時はお前を姪とする」
「なら私も嘘をつくわ」
こうして俺とエリカで遊ぶことになった。
最初に向かったのは大型ショッピングモールで、昔にカチューシャとノンナと一緒に行った以来だ。
この建物には様々な店舗が置かれており、服屋やレストランはもちろん映画館やゲームセンターもある。最初は映画館に行こうという話になったが、お互いに見たい映画が見つからず、最終的にはゲームセンターに行くことになった。
「相変わらず音がうるさいな」
「ゲームセンターなんだから当然でしょ。で、何をするの?」
「……何をしようか。好きに決めたまえ」
「そうね。ならこれは?」
エリカが指差すのは一緒にプレイしたことのある銃撃戦のゲームだ。コントローラーやレバーよりも銃器は手に馴染むので快諾して金を入れる。もっともどんなゲームをやろうとも拒否はしないけどな。
「悪いが俺は強いぜ。片手間に敵を全滅してやる。片手だけにな」
「つまらないダジャレを言うだなんておじさんね。歳ごまかしてない?」
「まだ二十代後半だが」
「ほら始まるわよ。構えなさい」
年齢に関する弁解を垂れながら俺は銃を画面に向ける。映像に多数の化け物が映されて、自分が操作するキャラクターに襲い掛かろうとする。俺は冷静に化け物に照準を合わせて引き金を引く。すると化け物は赤い血煙になって爆散した。どういう理屈なんだろうな、二十ミリ機関砲か何かか?
ともかく俺たちはダメージを喰らうことなくボスのところに到達した。ボスは長々と自身の理想や意見を説明するも、俺的にはお前は敵だから潔く死ねと思っていた。
「……結構強いわね」
「そうだな」
ボスは突如巨大化して俺たちに襲い掛かってきた。胴体にある目玉が弱点らしいのだが、機敏に動き回るせいで照準が忙しい。さらに体力も多いので骨が折れる。
エリカはこの戦いを経験しているのか、行動を予測して銃を撃ちボスの体力を減らしていく。初見ながらも行動を予測して銃を撃つ。俺らは息の合ったコンビネーションを五分間続けたの末にようやく撃破した。
「初めて倒せたわ。アンタやっぱり銃器の扱いに慣れてるわね」
「当然だ。伊達に伍長はやっていないぞ」
「スコアもランキングトップで上々ね」
「そうだな。今度は何をする?」
「ぶっちゃけると私これしかしないの。プリクラとか撮る人じゃないし」
「ぷ、ぷりくら?」
「写真機のことよ」
「写真なら携帯電話でもできるし、街中に個室のやつがあるだろ」
「馬鹿ね、それとは別よ。隊員の子いわくキラキラになったり、可愛くなれるらしいわ」
「そうなのか。けどエリカは今のままでも十分可愛いぞ」
「……歯に衣着せぬ言い方ね。ナンパ慣れなのがわかるわ」
「本心だが?」
やれやれと呆れたエリカは何故か俺の脛を蹴った。ブーツで蹴られたので地味に痛く、脛を押さえて蹲る。流石は弁慶の泣き所と言われるほどだ。
プイっと顔を背けたエリカはあれがやりたいと言って先行してしまった。彼女に追いつくためにケンケンしたまま歩き始める。
「UFOキャッチャーだっけか」
「そうよ」
「商品のこの人形はなんだ?女子に獣の耳と尾がある」
「知らないのね。これはウマレディよ。最近人気上昇中のアニメキャラ」
「あまりテレビ見ないからな。トウダイテイオーっていうキャラであっちがゴールドクルーズよ」
「馬で思い出したわ。確か西大尉の愛馬ウラヌスとか居るのか?」
「なんで戦前の馬を挙げるのよ。流石にいないわ」
「で、これが欲しいのか?」
「ま、まあ特に欲しくはないけどやらないよりはって感じよ」
エリカに欲しいのかと問うとよそよそしい反応になったので、きっと欲しいのだろう。隠し事の下手なエリカのために頑張るか。
財布から百円を取り出して投入した。
「さあやるか」
「やるからには絶対に取りなさいよ」
「任せろ」
自信満々に答えてプレイに集中する。だが何百円入れるも結果は惨敗、多少人形の位置が変わっただけにすぎなかった。
ここまでできないとなるとUFOキャッチャーに怒りが込み上げてきて、いっそのこと持ち上げて揺らしてしまおうか。そうすれば無駄に金を浪費しないで済むし。
「壊れてるだろ!」
「……そろそろね。次は私がやるわ」
「任せた」
頃合いだと見計らったエリカはUFOキャッチャーに挑む。俺的には絶対に取れないのではないかと勘繰り、強硬手段に移ろうと考えていた。
しかし俺の予想に反してクレーンはしっかりぬいぐるみを掴み、そのまま持ち上げた。そして移動中に落ちることなく事は進み、落下口にぬいぐるみを落とした。
エリカは出てきた緋色の髪をしたツインテールのぬいぐるみを持ち、ドヤ顔で自慢する。
「ふーん、どうよ」
「すごいなエリカ。俺は何度も駄目だったのに」
「これは確率機といって一定額まで金を入れてプレイすると掴む力が強くなるのよ」
「なるほど。要するに俺はお前の踏み台になったわけだ」
「そういうことね」
エリカはすぐそばにあった土産用の袋を取ってぬいぐるみを入れた。壁に掛かっている時計で時刻を確認するとそろそろ晩飯の時間になりそうだった。心なしか腹の虫がなりそうな気配もある。
「そろそろ時間帯的に七時を回るな。どうだ飯屋でも行かないか」
「そうね。けど行く前にひとつ質問をしてもいいかしら」
「何だ?」
「どうしてアンタは黒森峰に来たの?」
「……まあ、そうなるよな」
いつか問われるであろう質問に俺は暫時沈黙した。あわよくば隠し通そうとしたが、この前言われたことを思い返してやめた。近くに置かれていたベンチに座り、俺はエリカに真実を告げる。
「実はな、エリカに会うために此処に来たんだ」
「……私に?」
「お前、みほと俺が居なくなってから正直つらいだろ。副隊長としての責任や自分は俺らのために何かできたんじゃないかって」
「……別にそういうことは考えてないわ。むしろせいせいしたわ。アンタはともかく、みほはあっちで自由に手腕を振るっているんだから」
「確かにその通りだ。型式に囚われた黒森峰よりも大洗の方が彼女は活躍できる。だがな、それとこれは別だ。みほもお前と同じく心配してたよ」
「……勝手にアンタら抜けといて何様のつもりよ。誰にも相談しないで」
「確かにみほと俺も悪かった。相談すれば俺とエリカとみほには違う現在があったかもしれない」
仮にみほがまほとエリカと家元に相談して黒森峰に残留したら、仮に俺が誰にも言わないで日本を出国しなかったらどうだったんだろうか。少なくとも今より状況は良かったかもしれない。
時間は不可逆的で取り戻すことはできない。ならば俺は今ある最善を成し遂げてやらねばならない。それが
「今俺がすることは何か。それは状況を好転させることだ」
「好転……?もうみほも私と関わりたいと思うわけないじゃない」
「そんなことない。みほが関わりたくなければどうしてお前を心配するんだ」
「……ッ」
痛いところをつかれてエリカはこちらを睨んだ。
「そう怖い顔をするな。お前には似合わない」
「……私がみほと関係を戻すことなんてもうないのよ」
「だったら賭けをしないか」
「賭け?」
俺の提案した賭けにエリカは猜疑心を持ちながら言う。ろくでもないことを言うのだなという本心が透けて見えるが、実際その通りだ。
俺は今から勝手にみほを引き合いに出すんだからな。
「みほが決勝で勝利したらお前は彼女が望む関係になる。逆にエリカが勝てばお前が望む関係に。どうだ、簡単だろう」
「ちょっと何よそれ!私とみほが互いの意見が一致していたら結果は同じじゃない!」
「はっ、つまりお前は仲直りをしたいということだな」
「そんなこと言ってもないわ!てか第一、アンタそのことをみほに伝えたの!?」
「伝える必要ないだろ。てか勝利したらみほが勝手に修復を求めるはずだ」
「ホントに身勝手すぎる……ッ!」
「身勝手で結構。あいにく俺は多くの人を泣かせた非情で浅はかな男なんでな」
身勝手極まりない賭けに狼狽するエリカに向けて、下卑た笑みを向ける。このことがみほにバレたら暫く口を聞いてもらえないかもしれないが、こうでもしないと二人の仲は進展しないしやる価値はある。
故に彼女には致し方がない犠牲になってもらう。だがその犠牲は決して無駄にはしないで活かしてやる。
「……いいわ。その賭けに乗ってあげる」
「二言はないな」
「えぇ。黒森峰の副隊長として全力で戦って勝つわ」
「決まったな」
パチンと両手を叩き、立ち上がる。俺を見上げるように視線を飛ばすエリカの瞳には先程まで秘めていた不安や緊張が失せて、代わりに闘志と自信があった。
俺は何故エリカに会ったのか。理由は二つある。
一つ目は賭けを取り付けること、二つ目はエリカを激励するためだ。
この二つはエリカがみほと関係を修復したいという思いがなければ失敗する。関係が悪いままでいいなら賭けには乗らないし、やる気も生じない。
つまり何が言いたいのかというとエリカの本心を利用させてもらった。俺はエリカが強気で不器用ながらも優しい心を持つ少女であることを知っている。
「じゃあ宣戦布告も終わったことだし飯食いに行くか!」
「えっ。アンタまだ此処に滞在するの?」
「そうだ。ついでだが明日はまほに会おうかなって」
「隊長なら今頃実家の方に帰っているわよ」
「……マジぃ?」
「マジよ」
「今なら間に合うか?」
「もうヘリコプターで空中よ」
「どうしよ」
「私に言わないでよ」
「……まあグチグチ言うのは性に合わん。ハンバーグ食いに行くぞ!俺のおごりだ!」
「相変わらずの無鉄砲さ。あの時と何も変わらないのね」
やれやれと呆れた様子でエリカは頬を緩める。その姿はかつて俺が恋心を抱いていた雪子を彷彿とさせ、どこか懐かしさを感じさせた。
こうして黒森峰の一日を終えた。なお翌日、間違えて飛行機で運ぶコンテナの中で睡眠をしていたため目が覚めたころには千葉県に居た。馬鹿みたいに寒くて凍えそうだった。
忘れてはいけないが伍長は所詮ギャグキャラです。つまり持ち前の悪運と生命力にギャグ補正が掛かると絶対に死にません。
どのくらいかというと例え核爆発に巻き込まれても頭アフロになって全裸状態になるだけです。某考古学者みたいに鉛の冷蔵庫に入る必要はないです。