日本兵 in the ガルパンworld!! 作:渡邊ユンカース
ざっと百人は逝きそう
一片の曇りをも見せない紺碧の空、悠々と見渡せる程の水平線、向こうには何も確認することができずにただただ広がる大海原。優しく吹く風には潮風が添えられており短く切られた髪をくすぐった。
「……何故」
丁度この絶景を見渡せる公園で俺は鉄柵を掴みながら呟いた。自身の乗っていた陸王は駐車スペースに置かれ、休息を取っている。
肺に息をため込んで解き放つ、それはまさに野砲の如きものであった。
「何故俺が海に居るんだああああああ!!」
力強く鈍重な叫び声が海上で響き渡り、それに呼応するかのように汽笛が鳴る。俺が今立っている陸地を除けば海上なのである。もう一度言おう、海上である。
ゆっくりと進んでいるのは船、いや艦船と言ったほうが正しいか。それは南方に出兵した際の乗り心地とは違ったものも雰囲気は似ていた。
何故このようなことになったか、それは数時間前に遡る。
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俺は今、夜中でありながらも陸王を駆けていた。西住家と別れたのが三日前、現在俺は九州の佐世保に赴いている。やはり海軍の造船所ということで昔ながらの建物を売りとして観光地にしているらしい。俺からすれば別に変わらないが、だって太平洋戦争の兵士だからな。
確かに満月が建物に照らされて綺麗だとは思うがそれで、と感じる。にしても潮風が鼻にくるのが懐かしく思える。忘れていたが俺は七十年近い未来に送られたらしい、まったく戦車道はあるのに何故歩兵道がないのだ。もしくは対戦車道でも可、まほたちに対戦車についての教鞭を振れる。
未だ慣れない街頭で照らされた道路を走ると唐突に眠気が襲ってきた。旅の疲れだろうか、貯金は貯まっているが事故に遭ったり怪我をすると厄介なのでお金はなるべく使わない。旅先での宿泊も滅多なこと以外は使わず基本的には野宿である。幸いなことにも今季は夏で死なないのだ。
「……何だコレ?」
眠気で瞼が重い、必死に目の前に書かれた看板を凝視する。睡魔が俺の視界を濁すため繊細に読み取ることができない。何かしらの記号が書かれているのに見分けらないが、駐車無料と書かれた言葉を見つける。
無料で停められる休憩所なのだろうか?まあ何事も行動だ。三キロと書かれているから十分もしないで着くことだろう、それまでに俺は耐える。何としてもだ。
身体に奮起を促してアクセルを捻る。ガソリンの心配もしなくてもいい、気合込めていくぞ!
予想通り十分もしないうちにそこへと辿り着いた。潮の匂いが強く、鼻がむず痒い。睡魔は俺の判断力や冷静力を着実に落としていき、ふらりふらりと陸王を推し進めた。流石にこの状況で操縦するのは難しいと思ったからだ。しかしそれは正しかった。推し進める時に足元がおぼつかなく、力が入らない。例えるなら動力を失った駒のようだ。もしこの状況で乗っていたらきっと事故を起こしていただろう。
歩き進めていると見覚えのある記号と看板が存在した。その先を示す先には黒く大きな建物が建てられ、存在感をこれでもかと主張している。
此処が休憩所か偉大なほどに大きいな。此処で一晩を明かすとしよう、さすれば元気に日本中を旅できるはずだ。
趣味の煙草をすら吸う気力を無くした俺は斜辺の坂を上がる。金属質の冷たい音がこの暑い大気を突き刺す。あがった先には薄暗く広い空間に種類豊富の車やバイクが置かれている。
「眠い、早く停めよう」
むぅ、視界が揺れる。徒労が一気に押し寄せたか、えーと二輪車の場所は……。
首を右往左往に振りながらなんとか場所を発見、運よく駐車場所も空いていた。最後の気力を込めて進み、駐車場所に停める。意味もわからずに前輪を設置された金属の輪で閉めた。カチリと人気のない根暗な場所に小さく鳴った。
……寝る。
サイドカーの荷物を退かし、座る。いつも寝ている方法だ。
瞼を閉じると心地よく、今まで拒んでいた睡魔が身体の中に塞き止めていたダムの水の如く流れこみ、俺を夢の中へと誘った。
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「んぁ? ……眠い」
俺はモーターのような駆動音に起こされる。別に障害にもならなかったから恐らくは普通に起床したのだろう。眠気眼のままサイドカーから降りる。
身体が痛い、窮屈な場所で寝ていた障害だろうな。しかし、無料の休憩場となっていたが何処だ? 数時間は寝たはずなのに未だに暗所だ。時計を確認するか。
俺は貰ったケータイを開いて電源を入れる。すると画面内の時計が十時を指している。寝たのが二時だったので単純計算では八時間も寝ていたことになる。
「取りあえず外に出て煙草でも吸うか」
入っていった扉は閉められており開けることができない、したがって俺は他の出口を探すことにした。休憩場はとても広く三十分も歩き回っていたが階段を見つける。そしてその階段を上がっていくと地上に降り立つことができた。
「太陽の光が眩しいな、いい目覚めだ」
煙草を口に咥えながら散策を始めた。何処か飲食店で朝食を食べようとして歩き始めると、米国式の店が羅列していることに気がついた。
何故和食がない、うどんや定食屋は何処だ?
俺は何処もかしこも洋食や米国式の飲食店で居心地が悪くやや苛立ちを感じている。純日本人として生きていた身には環境が合わないのだ。もうおにぎりでもいいから売っていないだろうか……。
一時間後、ようやくコンビニという売店を見つけたのでおにぎりを購入した。にしてもサンダース大学付属高校学園艦店と制服に書かれていたがなんだろうか。名前長い上に艦だと?まさか船の上か?いやこんなに大きいはずがない……
まほが通っているのは黒森峰の学園艦、つまりは……
「今甲板にいるのかああああ!!」
学園艦の船に響き渡る。幸いにも人は周辺には居なかったため気にかけられることはなかった。
いやいやいや、流石に待てよ。もしかしたらまだ海上には出ていないはずだ。そうだ、きっと停泊中なのだろう。
丁度看板系の地図が設置されていたので現在地を確認する。
えーと、此処から近くに展望台か。すぐに降りるために陸王でも持っていこう、盗まれたらたまったものではないからな。
かくして冒頭のやり取りになるわけであった。
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「どうしようどうしよう、今船とかいつ寄港するんだよ。陸地に帰りたいし船は怖い」
船に関わる嫌な思い出で輸送船がアメリカの潜水艦に沈められまくったため物資が届かなかったという経験をしてきたため、かなり船に対して恐怖感を覚えていた。特に艦砲射撃をされた時が一番である。
もうやだ早く帰りたい、本土に帰って地に足をつけたい。
半ば脱力状態になりベンチでだらりと寝転がる。日光が身体前進に降り注ぎ、いい日光浴だ。煙草の吸殻を灰皿で擦る。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ?」
俺の顔を覗くように女子が見つめていた。制服で金髪の長髪が特徴である。
「ほら熱中症とかにはなっていませんですか?」
「心配は不要、昔から身体が強くてな」
「そう、安心した」
「……邪魔になったら申し訳ない。すぐさま何処かへいこう」
「い、いえそんなことは!!」
「そういやその制服、ひょっとしてサンダース大学付属高校の生徒さんか?」
「そうです。中等部ですが」
学園艦は一つの学園を中心に造船されたからな、まほが通っている黒森峰で知った。だが彼女は中等部の生徒だろうか、胸やら尻が年相応には大きい気がするが……。
脳内でとんでもないセクハラをする俺に気づくはずもなく、会話は進んでいく。
「いつこの船は寄港する」
「うーん、暫くですかね。一か月後とか」
「一か月!? 遠いな」
「急ぎの用でしたか?」
「いや、地に足をつけたいだけだ。昔から船は苦手でな」
「なんでです?」
「戦場に身を置いたからその際に輸送船が沈んで物資が足りなかったりで散々な目に遭ってるからだ」
「た、大変ですね」
「そうだ。ったく陸軍は陸軍の輸送進路なら無事だったのに……」
「?」
「すまんすまん、自分の世界に入ってしまった」
今ごちゃごちゃ言っても仕方ないか、取りあえず今日寝れる場所を探そう。学園艦は警備が厳しいからバレないようにしなくては、いや待てよ。もしかしたら留置所の方が安全ではないか?
「そうだ! そういや私の名前を言ってなかったですね。私はケイよ」
「ケイか、米国でも通じる名前だな。俺は伍長、苗字もないから伍長と言え」
「何故伍長ですか?」
「記憶喪失で名前知らないから。だから覚えていた階級を名前代わりに」
「壮絶過ぎない?」
「そうだろうな」
けどあの乱世の時代なら俺みたいな人間は少なからずはいる。何とも言えないな。
ベンチから体を起こし、紫煙が彼女に向かわないように煙草を吸う。受動喫煙という言葉があるからそれを配慮しなければならない、世知辛くも正論よ。別に悪影響を与えなければいいので風向きを注意すればいいのだけだ。
「なあ野宿できそうな場所はあるか?」
「えっ? 野宿するの?」
「金はなるべく使わない方針でな、いざという時に困る。ちなみに寄港するまでの間だ」
「そうね……」
彼女が考えこんで一分が経過したころ、彼女は顔を明るくしながら策を思いついた。
「私の家に泊まるのはどうかしら!」
「……馬鹿か!」
「何で!?」
「年頃の娘がそうやすやすと赤の他人、しかも異性を泊めるんじゃない! 襲われても知らないぞ!」
「Oh、伍長襲う気だったの!?」
「阿保を抜かせ! 俺は何でひよっこのお前を犯さないといけないんだ! 胸と尻がまだ足らない!」
「とんでもないセクハラね!」
「お前がさせたんだろうが……」
天然かわざとかは知らないが振り回されて早速疲れた。やや息が切れている、やっぱり運動量増やすか。それと出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んで欲しい。しほ殿みたいな感じで人妻であるのが残念だ。あいにく俺は寝取るということはできない、家庭を壊したくはない。
「なら大丈夫ね! だってその言いぶりだと興味なさげだし」
「まあそうだが、そうなのだが……」
…今の発言はもしかすると墓穴掘ったか? 性的な目で彼女を見ることはできないし大丈夫だろう、絶対。けど警備が厳しいから間違いなく一度は留置所送りだな。下手すると経歴で残りそう、てか戸籍ないから不法滞在になるな。
……ここは彼女の案に乗るべきか。
「わかった。だがこのことは他言無言、バレたら俺が社会的に死ぬ、幾ら大手の家が守ってくれても被害は免れない。だから決して、決して言うなよ!」
「わ、わかってるわよ」
凄まじい俺の剣幕に押されて若干引き気味になっている彼女、本当に約束を守ってもらいたい。そうでなければ社会的に大打撃を受けるし西住流に迷惑をかけられん。
「それと家事は洗濯以外は全て俺が受け持つ」
「Why?」
「なるべく日本語で喋ってくれ英語はわからん。それは年頃の娘の下着など洗えるか、それに嫌だろ男の下着と一緒に洗わられるのは」
「いや別に気には……」
「兎に角それは無理だ。それと料理には慣れているから朝と夜は任せろ、腕は普通だ。昼は言えば作ってやる」
「結構庶民的ね、てか何故昼は申告制?」
「同期と同じもの食いたいだろうと察してな」
「意外と繊細なのね」
「知らん」
かくしてケイと俺の同居生活が始まった。
ちなみに彼女の部屋はかなり散らかっていて、足の踏み場が存在しなかったため即急に掃除を開始した。
その際、下着が散乱していたため俺のお説教が二十分続いくはめとなる。