日本兵 in the ガルパンworld!! 作:渡邊ユンカース
ちくしょう、どうして護衛が居るんだよ……ッ!
目の前にはヘルメットを被りライダースーツを着た女たちが武器を構えている。構え方からして素人のものではなく、無駄がない。下手に出ようものならこちらが袋叩きに合ってしまう。
早く行かないと辻が逃げちまう……!
「最終通告だ。そこを退け」
「……」
「応じるつもりはないか。武器を向けたんだから痛い目を見ても知らんぞ」
こちらの得物はナイフと予備の簡易ナイフのみ。これだけあれば十分だと油断した。もう少し揃えておくべきだった。
それでも俺は成さねばならない。どんな障害もぶっ壊して進むだけだ。
全力で地面を蹴って女のひとりに突進する。ナイフを斜めに傾けて突き刺そうとするも、ヒラリと躱されて手に警棒を当てられた。
手に激痛が走るも確固たる意志でナイフを保有し、思いきり体当たりをかます。
「ぐっ!」
「死ね!」
倒れる彼女の腹部を踏みつけてやろうとしたら背中に衝撃と激痛が走った。振り向かずともそれが警棒による打撃であると瞬時に理解できた。
咄嗟に後ろ蹴りを放って敵との距離を離すも、踏みつけようとしていた彼女は退避していた。
今度はナイフを逆手に持ち替えて連撃を喰らわせるも、パシパシと手で捌かれた。明らかにこいつだけ練度が違った。
その隙に敵は包囲してきて警棒で滅多打ちに叩いてくる。
「クソ!群がるんじゃねぇ!」
「うわっ!?」
「ちっ!」
「きゃっ!!」
あえてナイフを手放し、素手でひとりの手首を掴んでからハンマー投げのように振り回す。攻撃を捌いていた奴と左側の奴は回避していたが、残りの二人には当たった。
当たった彼女らは二メートルほど吹き飛ばされて、手首を掴まれた奴を跪つかせた。
「オラァ!」
「ぐっ!?」
俺はヘルメットに隠された顎めがけて膝打ちをかます。膝の皿が割れそうなくらい痛かったが気合でカバーする。膝打ちを喰らった彼女は脳震盪を起こしてバタリと倒れた。
「……まずは一人だ」
「はあああ!!」
「うおおおおお!!」
「甘いッ!」
吹き飛ばされた二人で挟み撃ちをしようとするも、後ろにステップを踏んで躱す。そして右側に居た奴の足を踏みつけて急所であるみぞおち目がけて殴る。
回避ができず、また衝撃も逃すことができないので戦闘不能にするには十分な威力を発揮できる。ドサリと腹を押さえて倒れ込んだ。
「うっ、がはっ!」
「そこで寝てろ」
「やあああああ!!」
「お前もだ」
背後から襲ってくる敵に対し、警棒が振り下ろされる前に彼女の胸部を掌で打ち付けた。これにより肺に溜めていた酸素が吐き出されて呼吸困難になる。
痛みと呼吸困難により思わず膝をついた彼女に踵落としを食らわせた。俺が履いている軍靴には踵と爪先に鉄板が仕込まれている。そのためヘルメット越しでも威力を発揮できた。
「残りは二人だ」
「ちっ!」
「くっ……!」
「なあ、いい加減諦めてくれ。お前らがアイツを守る義理なんて知らんがこれいじょう痛い目を見たくないだろう。とっとと寝てるやつ連れて失せろ」
「……ッ!」
「それでも敵意を向けるか。悪いが俺は何十人も人を殺してきたんだ。下手したらお前ら死ぬぞ」
まあそんなこと言ってもやり合うつもりか。だいぶ戦闘で時間を喰っちまったが間に合うはずだ。手早く片付けよう。
「キエエエエエエエ!!」
簡易ナイフを取り出して、猿叫で威嚇しながら攻撃を仕掛ける。地下駐車場ということで音がよく響いた。
ひとりが攻撃を受け流して、もうひとりが攻撃を行う。息の合った攻守の分担は素晴らしく、俺の体にダメージと疲労が蓄積されていく。
「鬱陶しい!」
「ふっ!」
「なっ!?」
ナイフを至近距離で投擲したにも関わらず、上半身を翻して躱された。手ぶらになった今がチャンスと言わんばかりに二人がかりで攻撃を行ってきた。
腕と手で警棒を何度も受け止めるも、骨が耐えきれずに何本もひびが入るのを体感した。激痛の中、それでも俺は攻撃を受け止めきった。
「はぁはぁ……」
「……ふぅ」
「かなり、そっちもキツそうだな。もっとも俺はまだまだやれるぜ」
ちらりと一瞥すると腕と手が青紫色に腫れている。額からは鮮血が流れている。五体満足の状態なら善戦できていたが、隻腕隻眼の状態では過酷すぎた。
どうにか立てているのも薬物と気合があるからであって、普通なら卒倒してもおかしくはない。
満身創痍でありながら虚勢を張る。弱点と隙を見せたらやられることは俺が一番理解していた。
「じゃあ再開だ」
「ッ!?」
二人の中で弱かった方に被っていた帽子を目くらましとしてぶん投げる。予想通りにピシャリとヘルメットのバイザーに当たった。そして彼女の首元を掴んで片手で背負い投げをする。背中を強く打ち付けたので呼吸困難になる彼女、俺は彼女の首を踏みつけてやろうとした。
しかし練度が高いもうひとりが俺を拘束する。腕が背に回されて、なおかつ跪いている状態なので易々と動けずにいた。
「手慣れた捕縛術だ。けどな!」
「なっ!?」
脱臼及び骨折覚悟で強引に捕縛を解いて立ち上がる。お返しと言わんばかりに彼女の左腕を掴むと、その肘部分に俺は膝打ちを食らわせる。
左腕はメリメリと嫌な音を立ててあらぬ方向へ曲がった。激痛のあまり彼女は絶叫して地面に転がる。
「うがああああッ!」
「痛いよな。これされるとマジで痛い」
「くぅ……!」
「じゃあな。楽にしてやる」
「がはっ!」
俺は彼女に馬乗りしてギュッと首を絞める。喘ぎながらもバタバタと抵抗する彼女を無視して力を込め続ける。
一番厄介な彼女だけ殺せれば後はビビって襲ってはこないだろう。現に全員が一度再起不能になったから襲ってきても結果は変わらないとわかっているはずだし。
首を絞め続けていくと、徐々に彼女の抵抗が弱くなっていく。脈が弱くなっていくのを肌身で感じる。初めて相手を素手で絞殺した時は不快感と罪悪感でいっぱいだったけど、こなしていくうちに何も感じなくなった。懐かしい。
「皆のために死んでくれ」
さて、あと少しで仕事を完遂できる。俺は二度とみほたちと会うことはないと思うが、それで彼女たち救われるのならいい。守りたいものを守れたんだ、悔いはない。
「ガッ―――!?」
突然、うなじに鋭い電撃が走った。疲弊していた体にはもう耐える余力は残っていない。全身から力が抜けて意識が朦朧とする。どさりと馬乗りにした彼女に覆いかぶさった。
クソ、まだスタンガンを持っているやつがいたか……。せっかくいいところまでいったのに、な。
「……ごめん、皆」
謝罪と未練を残して俺は意識を手放した。
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酷く、頭が痛い。全身が痛い。
腹も減ったし喉も乾いた。
「あ、あぁ……?」
目を覚ますと何処かの倉庫に転がされていた。辺りには照明もなく、コンクリートの床が夏場だというのに冷たい。身を動かそうとするも腕と足と手首に鎖で拘束されてしまっている。
イモムシ状態で這いつくばりながら状況を整理しようとするも、電撃を受けて以降の記憶がほぼない。
ぬかった、完全に油断していた。こいつらのせいで俺の計画がすべて台無しだ。
「……どうしてうまくいかないんだ」
また俺は約束を守れなかったのか。情けない自分が嫌になってくる。
……けど脱出の芽はどこかにあるはずだ。イモムシ状態でも歯があれば相手の喉笛を噛み切れる。相手の姿勢を低くさせるような芝居を打てれば可能だ。
「ッ!?」
脱出計画を練っていると目の前の扉が音を立てて開いた。
すぐさま計画を実行に移そうとしたが、中に入って来た人物の正体に驚いて何もできなかった。
「な、なんで。どうしてあなたが……」
「……まさかこんな愚行に出るとは。見損ないました」
「どういうことですか家元ッ!!」
俺の目の前に現れたのは俺を拾って剣道指南役として雇ってくれた西住家の家元、西住しほだった。
俺の恩人である家元がどうして俺のもとに現れたのか意味がわからない。俺の暗殺計画を妨害した奴らは誰なんだ?あー、ちくしょう!余計混乱する!
「何故私が此処にいるか理解できていないようですね」
「あぁ、まったくですよ。こんな根暗な倉庫に貴女が居るのか理解に苦しみますね」
「実は薄々気づいているのでは?」
「残念ながら全然です。だって俺には考えるだけの頭が無いんですから」
「なら教えましょう。私が貴方の計画を阻止しました」
「あぁ!?」
突如として晒された真実に思わず驚嘆の声をあげる。
つまりなんだ。辻たち役人と家元はグルだったわけだというのか。その線はないと踏んでいたのに!
「ふざけんな!寄ってたかってみほたちの邪魔しやがって!そんなに
「思ってるわけないでしょう。むしろ救いたいと思ってる側です」
「じゃあ何なんだ!ちゃんと俺にもわかりやすく説明してくださいよ!」
「……本当に貴方という人はどうしようもないバカなんですね!」
「ッ!?」
普段は冷静で声を荒々しくすることがなかった家元がこの時だけは怒鳴った。顔を怒りで赤面して大声をあげる家元を初めて見た。
「何が皆を守ると言って殺人なんて犯そうとする!何が心配を掛けないというくせに心配を掛ける!どうして薬物まで使ってまで完遂させようとする!」
「……皆を救うために」
「そんなんで救われてもあの子たちがいい顔をするとでも!」
「……それは」
「みほが知らせてくれなかったら危ないところでしたよ。負傷者は出すし、本当に……!」
「死んでないだけいいじゃないですか」
「そういう問題じゃないんですよ!島田家のあの人が伍長のことをたまたま懐いた野良犬とはよく言ったものですね」
「島田家……?」
「とにかく、こっちはこっちで手を回してるんで伍長は邪魔をしないでください」
「うぅ……」
……大人になってもこう怒られると結構ツラいな。つまりはあれか、使用人の犯行を雇い主が未然に阻止したという形になるのか。
ははっ、良かれと思ってしていた行動が逆に家元の手を煩わせてしまうとは。最低だな俺って。
「手段はどうあれ伍長がどれだけあの子たちのことを想っているのかはわかりましたよ。その志は立派です」
「お世辞でも嬉しいです。……そういや俺と戦った彼女らって」
「まったく、やりすぎですよ伍長さん!」
「げえっ!?」
家元の後ろからは左腕にギブスを着けて固定している蝶野の姿があった。ここまで痛めつけられるとは思っておらず、多少の怒気を感じた。
「あ、あれはそのぉ……」
「貴方がどこの国の兵士だったかは知りませんが二度と殺しはやめてくださいよ!」
「は、はい……」
「見てくださいよこの腕を!搬送された日とその翌日は入院してたんですからね!」
「すまない、本気でやってたから。……あれ、俺は何日寝てた?」
「ざっと三日間」
「……通りで腹が減るわけだ」
「点滴刺そうとしたら針を凶器として感知して起きると家元に言われましてね。実質、水しか与えてませんね」
「そこまで脅威認定されてるとは……」
「だって現役の女子自衛隊員をここまでボコボコにしたんですよ。いやー、死にかけましたね」
ハハハと痛快に笑ってはいるものの目が笑っていない。正直言って根に持ってるだろ。まあ死にかけてるんだから無理はないが。
「あっ、そうだ。ちなみに最後にとどめを刺してきたのは誰だ?最後まで気配を感じなかったが」
「あぁ、それは―――――」
「わしぜよ」
「なっ!?」
カツカツと踵を鳴らしてやってきたのは、二年前にエリカを誘拐した犯人の男だった。
灰色の半袖半ズボンといった身軽な格好をした以外は何も変わっていなかった。相変わらずオレンジ色の瞳を卑しく揺らしている。
「あの時の……!どうして家元と一緒に!」
「おおっ、怖いのう。繋がれた狂犬が吠えよるわ」
「殺すぞ負け犬ッ」
「おまんも負け犬じゃ、間抜け」
「やめなさい二人とも。私が理由を説明しますから」
「けっ」
「殺人鬼に理由でも?」
「実は監視カメラの映像や凶器が無くて証拠不十分で拘留されていました」
「証拠不十分だと!?凶器なくして俺の腕と目が無くなるとでも!」
「仕方ないじゃろ。おまん以外にゃわからんが、半裸の男が刀をやるからおまんを襲えと指示しよった」
「半裸の男……?まさかアイツか!」
半裸の男といえば奴しかいない。俺を戦友の魂を収めるための容器にさせた神のことだ。
つまりは神が俺を試すための装置を作ったのか。何がお前を試すだ、ふざけやがって!
「あの刀は危険な存在じゃった。力が込み上げてきて罪悪感も恐怖も消しよった」
「……私には嘘をついているとしか思えませんがね。信じるほうが馬鹿らしい」
「普通なら蝶野の反応が正しい。けど俺には理解できる」
神の力を使えば監視カメラにはこの男は映らないし、撃破後に凶器を消すことも容易い。何なら協力者の存在を抹消してしまえばいい。
「明らかにエリカからの証言はありましたが証拠不十分で不起訴になり抑留されたわけです」
「で、誰が保釈したんですか。結構な額を払うと聞きましたよ」
「私です」
「家元が払ったんですか!?」
「最悪の事態を想定した結果、戦力を増強するのが最善だと」
「人選ミスでは?」
「けど結果は出してくれました」
「ッ」
家元の正論に対して顔を顰める。よそでは男がニヤニヤと嘲笑を浮かべていてすごく癇に障った。拘束さえなければぶん殴りたい。
「で、どうするんですか処罰は。このまま警察にでも突き出しますか?」
「それはしません。これはあくまでお家騒動的なものだと捉えますので」
「……つまり解放ですか」
「そうなりますね。とはいえ制限をさせてもらいますが」
「制限、ですか」
「みほに貴方の行動を逐一連絡してもらいます」
「大洗女子に帰れるんですか」
「はい。さらにGPS付のブレスレットも付けてもらいます」
「……妥当とも言えますね」
「ははっ、ついに首輪がついたか!」
「貴方もです」
「あぁ!?」
まさか自分にも付けられるとは思っていなかったらしく男は家元を睨みつける。それを無視して今後のことを続けて説明する。
「そして注射器の件です。気絶中に貴方を検査したところアレは覚醒剤などの類ではないとのことです」
「えっ」
「それとこのボイスメッセージを聞きなさい。とある貿易会社から貴方宛に送られてきたものです」
家元は携帯電話から送られてきたボイスメッセージを流した。
すると聞き覚えのある流暢な日本語が流れ出した。
『久しぶりだね伍長。まさか私に覚醒剤を寄越せと頼むとはね、驚いたよ』
その声の主は前職の雇い主である武器商人のココ・ヘクマティアルだった。どうやって家元の携帯電話を特定したのかはわからない。
『まあ日本で入手するのは難しいからね、頼るのも仕方がない。けど君は私が大の薬物嫌いだということを忘れてはないか?』
「……そういえばそうだった」
『目的はどうあれ、君にはアドレナリン投与だけで十分だろ。君の席はまだ空けてはいるがこっちには来ないで日向でのんびり暮らすといい』
「ココ……」
『バイバイ伍長。あいにく仕事で立て込んでるんだ』
プツリとメッセージが途切れた。
ココ的には俺は表舞台の方が似合っているというのか。まあ戦場で生きる以外の真っ当な道を探せってことだな。にしても覚醒剤を決めてると思ったら、ただのアドレナリンか。あー、なんだか恥ずかしくなってきたわ。
「さあ後で健康診断に行きますからね。万が一に備えて」
「いやいや、俺は元気なので……」
「さあ行きますよ!ほらスタンドアップ!」
「イテテテテ!鎖が皮を挟んで痛いんだけど!」
「貴方も手伝いなさい。保釈してあげたんだから尽くしなさい」
「ふん、わしの仕事は終わったきに。酒でも飲んでくるわ」
「……変人が一人増えたぐらいですし、問題はありませんか」
こうして鎖で結ばれたまま俺は病院に搬送された。異様な光景に看護師と医者は苦笑いを浮かべていた。
そして医者いわく、点滴を指していればいいとの診断結果を受けた。しかしその後に整骨医院行くと腕の骨にいくつかひびが入っているためギブスの着用して安静にすることを余儀なくされた。
そのせいで大洗女子に帰還できたのは大会当日だった。
実は伍長の暴走は初期から考えていました。
ちなみに伍長は大の病院嫌いなのでケガをしても市販薬で治そうとします。皆さんはきちんと病院に行こう。