日本兵 in the ガルパンworld!! 作:渡邊ユンカース
なかなか難産になりましたがなんとか書けました。
最後の健康診断を受けたのちに、あの例の殺人鬼と蝶野と家元に半ば護送されるような形で俺は大洗に帰還した。大洗の山奥で降ろされた時、どうして此処で降ろしたのか疑問だったが旧校舎でみほたちが暮らしていることを聞かされた。
「ここから先は貴方が解決してください。何をすべきかはおわかりのはずです」
そう言って家元たちは車で去っていった。ポツンと独り取り残された俺はとりあえず歩くことにした。
五分間歩いていると古びた木造の校舎が見えた。本当だったら走っていきたかったが、独りで解決してやると豪語したわりには何もできなかったという負い目が足取りを止まらせた。
行きたいのに行けないというジレンマが胸の内を交錯して足踏みしていると、後ろからクラクションが鳴らされてそっちを向く。
視線の先には一輌の戦車があって、すごく見覚えのある車種だった。
「伍長さん!」
砲塔部のキューポラが開いて一人の少女が俺へ駆けよってきて、ギュッと抱きしめた。馴染みの背丈と髪質を感じ、ポンと手を彼女の頭に乗せた。
「心配かけたな、みほ」
「本当に……!ホントにそうだよ伍長さん!」
「すまんな」
「伍長」
「伍長さーん!」
「伍長殿!」
「伍長さん」
続々と戦車からみほの仲間である麻子、沙織、優香理、華が降りてきて近づいてきた。皆が明るい顔をしていてどうしてか安心した。
……やれやれ、皆俺が居なくて寂しかったんだな。思う存分撫でて――――
「……あれェ?みほ、どうして合気で俺を拘束したぁ?」
「皆、やっちゃって!」
「はい、では」
「秋山優香理、いきます!」
「とりあえず一発!」
「悪く思うな」
「えっ、ちょっ―――」
拘束された俺に向けて四つのビンタが両頬に放たれた。一度叩かれた箇所をもう一度叩かれたため非常に痛くて、一瞬だけ視界に星が浮かんだ。
パッと拘束を解かれた俺は痛みで地面をゴロゴロ転がった。
「ぐおおおおッ!?仮にも俺は病人だぞおおおおお!?」
「知らないよ!だいたい伍長さんが失踪するのが悪いんでしょ!」
「そうだよ!また勝手に傷ついてるし!」
「そ、それはだな……」
「弁解は無用だぞ」
「えぇ。これは仕方がないことですから」
ま、まあ今まで彼女らに迷惑と心配をかけたからな。ここは受け入れよう。
「ほら、さっさと校舎に行って皆に謝るよ」
「わかってるさ。今回は俺に非がある」
「そうだよ。まったく、何をするつもりだったのかはわからないけど迷惑ばかりかけて」
「……反省してます」
「他の子も伍長さんのこと殴りたいって言ってたから殴られてもらうからね」
「えっ、これ以上殴られるんですか!?」
「当たり前じゃん!」
「い、嫌だー!頬がとれるー!!」
「泣き言言わないで!ほら行くよ」
「うわー!」
「な、なんだろう。すごくみほがお姉ちゃんしてる」
「こうとなったみほさんは強いですから」
「流石です西住殿!」
戦車道の皆が集められて俺は江戸時代の罪人みたいに拘束されて朝礼台に座らせられた。いや、座るというより膝をついていた。
顔を上げてみると皆が泣いてくれているみたいだが、この後にされる仕打ちを彷彿すると絶望するしかなかった。歴女チームが岡田以蔵だの近藤勇だの言ってくるがこれは処刑じゃないからな。
恥を晒すで言えば合っているけどな!
「じゃあ今後のことを話すね」
「……うっす」
ほぼ全員から罰を受けて満身創痍だった俺にみほが今後のことを話してくれた。ちなみにその前に、なぜか三式中戦車のアリクイチームから強烈な腹パンを受けて死にそうな状態でだ。
どうやら家元と杏たちが辻に話を付けてくれたらしく、大学選抜チームに勝利できれば廃校は取り消しになるという。だけど大学には戦車道の天才、島田愛里寿という少女が居る。高校生にもなっていないのに飛び級で大学まで上がってきたようだ。
また持っている戦車も違う。センチュリオンとかいう英国の戦中ではほぼ最新鋭の戦車を使ってくるのだ。正直言ってかなりきつい、対戦車戦法でどこまで通用するのかもわからない。大洗はこの勝ち目の薄い敵と戦わされることになり、苦戦は確実だろう。
俺は今まで怠けていた生徒を持てる資源の限りみっちり鍛え、他の隊長との作戦会議に参加して策を練った。来る日も来る日も良案が思いつかない。しかめっ面になって戦場となる地図とにらめっこを繰り返していた。
そしてついに試合当日になった。
試合を始める前の号令で双方の戦車と搭乗員が相対する。戦車の数と質も大幅に負けていて、搭乗員の経験ですら負けている。作戦も昨日思いついたかなり強引なものしかない。
もはや戦時中の日本を見ているみたいで胸が苦しく、何ともできない現状に俯くしかなかった。みほたちは必ず勝つと信じるしかなかった。
だけどそんな苦境に立たされた時、奇跡が起きた。
「ちょっと待ったー!」
なんと今まで試合で戦った聖グロリアーナ、サンダース、アンツィオ、プラウダ、継続、知単波の主要メンバーが助太刀に来てくれたのだ。彼女らの参戦のおかげで数を整えることができて、優秀な搭乗員も揃った。
これもみほの人徳のおかげだろう。本当にみほはすごい奴で尊敬する。
「ちょっと!あれはありなんですか!」
今まで異例の出来事だったため抗議しようとする辻を戦車道連盟の会長や家元が制した。無論、俺もそのつもりで睨もうとしたら蝶野に頭を前へ向くようヘッドロックを掛けられた。流石に俺でも目で射殺すことはできんのに。
他校の彼女たちが参戦したおかげで良案を練り直すことができた。各学園のリーダーを分隊のリーダーと置くことで強力な分隊が作れたからだ。もっとも作戦や分隊の名前決めの時はみほの案が採用された。
その後の戦闘は凄まじいものだった。
初手で山頂を取ることができて防衛に回っていたところ突如としてバカデカい砲撃が山頂を耕したのだ。戦車道連盟会長いわくロマン砲と言われている列車砲のカールのことで、もしもダージリンたちが参戦しなかったら本格的に蹂躙されていただろう。
これにはマズいと山頂を捨てて撤退するがその際にプラウダのノンナやKV-2を失うことになるが、別動隊のミカと杏とアンチョビがドーラを撃破して砲撃を止めることができた。そして戦場は森と山岳から遊園地へと移り、そこで熾烈な戦闘が行われた。
道中で誘い込まれて包囲される危機があったが、ウサギさんチームの狙撃で観覧車を転がすという常識離れした展開を起こした。そのおかげでみほたちは包囲を脱することができた。
一方で突撃ばかりしていた知単波も途中から戦法が大きく変わった。待ち伏せと奇襲を用いるようになり、センチュリオンを数輌撃破したのだ。思わぬ活躍に俺の大和魂が震えた。
そこからは大洗のペースで多くの犠牲を払いながらも、ついに大学側は島田愛里寿の車輛だけになった。
けど彼女は島田流戦車道家元の天才娘、一騎当千の実力でこちらの戦力をことごとく撃破していく。残されたのはみほとまほの西住姉妹だけで、意外なところで西住流対島田流の頂上決戦が起きた。
遊園地のギミックを存分に使った戦闘を繰り広げ、幾度もヒヤヒヤする展開が続いた。あそこまでの死闘を演じられるのは彼女たちしかいないだろう。
最後はみほがまほに車輛の後方をゼロ距離で撃たせることで加速させて、島田愛里寿の背後を取った。半ば相打ちのような形になったがなんとか大洗側は勝つことができたのだ。
試合が終わった後、俺は片づけでせっせと荷運びを行っていた。
大洗が参戦してくれた学園に何か報酬を払うことはできないが、せめて俺が片付けだけでも手伝おうとしたのだ。明らかに質の違うオイルや整備道具をせっせとトラックに運んでいると声をかけられた。振り返ってみるとそこにはエリカが居た。
「ようエリカ、久しぶりだな」
「そうね。あの賭け以来かしら」
「……戦車道大会の決勝後に会ってなかったっけ」
「何言ってんのよ。アンタがそそくさと何処かに行ったから会ってないわよ」
「あー、そうだっけか」
「元々忘れっぽかったのに一層磨きがかかったわね」
「まあ色々あったからな」
激動の日々を送ったから忘れていた。流石に大洗を守るために辻という役人を暗殺しようとしていただなんて言えるはずがないけどな。
「隊長から聞いたわよ。アンタ、かなり無茶をやらかしたって」
「……そ、そんなことはないぞ」
「バレバレな嘘ね。まったく、どうしてみほ同様に独りで抱え込むのかしら」
「自分で言うのはなんだけど、人を思いやり過ぎてるからだな」
「その通りよ。そういうとこが二人の嫌なところだわ」
「うっ、返す言葉が見つからない」
俺に頼れとみほに言っていたのが恥ずかしくなる。反面教師以前に同族だったからな。今度は何か困ったことがあれば家元とかに相談してみるか。そうすれば何か良案を出して解決してくれるからもしないしな。
「……アンタって会うたびにボロボロになっていくわね」
「むっ、そうか?」
「胸元から包帯の先っちょが出てるし、顔面に少し腫れあとがあるわ」
「顔面のことなら以前にみほたちからぶん殴られたからだな」
「意外ね、あの子がこんなことするだなんて」
「どうやら俺は相当迷惑をかけたらしいからな。全員から殴られても仕方あるまい」
「……待って全員?」
「あぁ、うちの全員」
「……よく耐え抜いたわね」
「頑丈さと戦闘がウリだからな。それしかない」
「アンタ、そういうこともう言わない方が良いわ」
「えっ」
自虐を言ってみるとエリカの目が鋭くなる。その目には怒気が孕んでいた。
「ど、どうしたんだエリカ。何故怒っているんだ」
「そういうところが嫌いなところなの。すぐに自分を卑下するところが」
「だ、だって俺には学も人格もないから……」
「ふざけてんの?アンタは確かに快楽の誘惑には弱くてダメダメな人間」
「うぐっ、その通り過ぎる……」
「けどね、根はまっすぐで慈悲深くて弱者のために戦えるそんな人間がアンタよ」
「え、エリカ……」
「私だってアンタに救われたその一人なんだから」
そう言うとエリカは鼻で笑うかのような微笑みを浮かべた。儚いながらも強い芯を持つエリカに思わず胸がときめいた。
それはかつて恋焦がれた雪子の面影が被っていたからではなく、目の前にいる逸見エリカという少女にだ。
急に恥ずかしくなってきて頭に血が昇っていくのがわかる。咄嗟に顔を背ける。
「あら、案外可愛らしい反応するのね」
「う、うるさいぞ。そうやって人を小馬鹿にするのは伍長としてよろしくないかなって!」
「あいにく生まれつきなの、ごめんなさいね」
「ぐぬぬ」
「それとアンタはみほが卒業したらどうすんのよ」
「あぁ?考えたことなかったな」
「だったらアタシんとこに来なさいよ」
「……すごく大胆!」
「そういうことじゃないわよ!要するにこっちの大学で働かないかってこと!」
「大学勤務か、まあありだな」
「でしょ。元々隊長の提案で誘うように言われてたの」
「あー、なるほど」
おもくそ監視が目的だな。まほの提案となるとその大学にはまほとエリカが在籍するようになるのか。みほも来てくれればあの懐かしの日々がまた送れるかもな。
「まあ状況が変わってしまったら行けなくなるかもだけど、その予定にするか」
「……で、本音は」
「麗しい女子大生とデートがしたい!」
「そういうとこよバカ!」
「なんて冗談だ。俺は皆とまた笑い合って過ごせればそれでいいんだ」
「アンタらしい願望ね」
「あぁ、だって俺の生きる希望がアイツらだから」
楽しいことも苦しいことも何度かあったが、みほやまほやエリカやダージリンたちがいてくれたおかげで乗り越えることができた。一概に友人という区切りができないほどに俺にとっては大事な大事な繋がりだ。
ふと時計を見ると大洗の学園艦の出航時間に迫っていた。また密航紛いなことをすれば今度こそ命を落とす。急いで戻らなくては。
「じゃあなエリカ。俺はもう行くぞ」
「そうね、また会いましょうね」
「あぁ!約束だ!」
「……伍長!」
全力で走り出そうとするがエリカの一声で止められた。
「アンタの名前、そろそろ思い出せたんじゃない!」
「――――今、思い出したとも!」
「なら教えなさい!今度からそれで呼んであげるから!」
「俺の名前は――――」
秋の到来を告げる秋風が強く吹いた。
そのせいで聞こえたかどうかわからないでいると、エリカは満面の笑みを浮かべて言の葉を紡いでくれた。
「良い名前じゃない!」
くぅ~、疲れましたこれにて終了です。
今思えばこんな一発芸をよく三年も続けて書いてましたね。しかも別作品執筆していたのに。
多少、巻いていたところはございましたがなんとか完結にこぎつけれてよかったです。
どうしても未完にはしたくないという意思が働いたんですかね。
約三年間、本作を応援してくださってありがとうございます。気が向けば小話を載せるかもしれませんのでよろしくお願いいたします。