投稿遅すぎ?ごめんなさい。スプラのフェス走ってたもので(殴)。
殺せんせーをマジでぶっ殺す宣言をしたゆかりん。果たして殺せんせーの運命は?
「は、排除?それはまた物騒な言い方ね…」
紫の発言に驚きを隠せない霊夢。その横で幽々子が落ち着いて聞いた。
「どういう理由で、その結論に至ったの?」
「…長くなるけど、知ったこと全部を話すわね…」
殺せんせーが姿を現したのは、数年前の4月だった。
その日の数日前、外の世界では、今までとは次元を超えた事件が発生した。
月の7割が、消滅したのである。
「は?つ、つ、つ、月の7割が!?」
「ええ、その通りよ」
思わず声を上げる霊夢に、紫が落ち着きを払って答える。
「彼は、月を消滅させたのは自分だと公表している。その異様な風貌から、犯人は彼で、まず間違い無いと判断されたようよ」
「消滅…、ってことは、破壊とはまた違うの?」
幽々子の問いに、紫は深刻な顔をした。
「そこも、私の気になったところ。ただの破壊だと、砕けて破片が飛び散るけど、それは確認されなかったみたいなの」
「はぁ?」
「つまり、7割が忽然と姿を消したってことよ。向こうは『蒸発』で処理したみたいだけど」
「蒸発…」
この破壊力に、さすがの幽々子も深刻な顔になる。
「で、でもここにはしっかりと月が浮かんでいるわよ、ほら、明らかに3割以上はあるわよ」
「落ち着いて、霊夢。外の世界の月と、幻想郷の月は別物よ。向こうが消滅したって、こっちの月には外傷はない。ただ…、ここからは私たちに関係のある話よ」
「関係のある…?」
紫は、隙間を開いて、幻想郷のある場所を映し出した。
「ここは、人里から少し離れた場所よ」
「ちょっと、さっさと答えを言って欲しいんだけど…、それと何よこのガキたち、こんな大人数で人里から出てって…、妖怪の餌食になるわよ」
「それよ」
「…、あの、明言してくれない?」
少しイライラしてきた霊夢に、紫は答えを出した。
「原因は子ども達じゃなくて、妖怪にあるわ」
「妖怪…?」
「あなたも気付いているはずよ、近頃の妖怪の弱体化に」
「弱体化…」
そういえば、今日も命蓮寺で、小傘や響子、ナズーリンが弱っていた。
「…つまり、妖怪が活発に活動しなくなったから、人間達が軽率な行動に出てる、ってこと?」
「そうよ」
そういえば幽香が、初めて殺せんせーと会った時、太陽の畑に子供が3人組で来たり、大勢で乗り込んできたとも言っていた。あれも、妖怪に襲われることがなかったから、調子に乗って来ていたのかも知れない。
いや、それよりも、妖怪の弱体化との関連は、…月?
「まって、まさか」
霊夢はようやく気付いたようだ。驚愕の目線を紫に向ける。
「外の世界での月の破壊で、こっちの世界の月の力が失われているっていうの!?」
紫は、霊夢の叫びに、静かに頷いた。
「外とこっちでは月は別物…。でも表裏一体の関係でもあるの。外傷は無くても、内面的には影響があったみたい。向こうで7割消えたのだから、こっちの月と合わせたら、月の力は3割5分消えた、ってところかしら」
妖怪は、月からも力をもらっている。永夜異変の際も、まるまる偽物の月に変わったことで、霊夢らが気づいたのだ。
「そんなに減ったのに、気づかないなんて…」
「最近は異変が起こりすぎて、感覚が鈍くなっていたのよ。妖力とかに関わる異変もあったし」
扉によって力がみなぎっていた四季異変が、その例である。他にも、憑依によって、相手との混在して感覚が混乱したりするのも、関係があるかもしれない。
「…それで、月を破壊した後、彼は何をやっていたの」
「彼は『椚ヶ丘中学校』という、ここでいう寺子屋のような施設の、『3年E組』っていう、本校舎とは隔離された場所で、身を隠していたそうよ」
「身を隠すって、よく隠せてたわね…」
「月を破壊した存在が近くにいたら、民衆は混乱するでしょう。だから、国の方から口止めをしたの。もちろん、3年E組の生徒にも、口外禁止が出されていたそうよ」
「何よそれ、害があるって結論下してんのに、生徒たちを保護しようとは、国は考えなかったわけ?」
「超生物である彼が、生徒には手を出さない代わり、3年E組にいるという契約をしたそうよ」
「…は?契約?」
超生物と国が契約…?よくわからない。
「彼が何を考えているのかはわからないわ。ただ、バレたくなかったからか、契約は最後まで守り抜いたわ」
そして、翌年の3月に、国の最終兵器で、遂に死まで追い詰めた。
「彼は、『一年後、次は地球を破壊する』と宣言していたそうなの。向こうとしては、ギリギリで間に合った形ね」
「ちょっとまって、外の世界の奴らは、あの怪物を殺せたの?」
菫子から聞く限り、技術は異様に発展しているものの、戦闘力に関しては武器に依存していることは察している。それも、幻想郷の少女らの能力とは比較にならないほど弱い。
「向こうがかなり発展しているという証拠よ。結界のように、彼のいる場所を円形で包み込み、その円の面積とほぼ同じ太さの光線で、とどめを決めたはずだったそうよ」
「はず…?って、どういう」
これもまた、複雑な話である。紫はしばらく黙った後、口を開いた。
「…最後は、3年E組の生徒が、殺した」
復讐と言うべきか、逆襲と言うべきか。少なくともそのような言葉で、マスコミは大騒ぎだった。
「3年E組の生徒は、彼の暗殺の授業も、密かに行っていたそうよ。世間は、そのおかげで学力が低下することを懸念しているみたいだけど」
長い沈黙が続く。やがて、霊夢が頭を掻きながら言う。
「…なんかもー、聞きたいことが山ほどありすぎて嫌なんだけど、とりあえず一つ聞くわ」
霊夢はまっすぐと紫を見て言った。
「彼を、今すぐに排除しなきゃいけない理由は」
「彼は月を破壊する力を持っているの。いつ何があってもおかしくないわ」
「…そんなの、今に始まった話じゃないわ。地底の八咫烏だって、核エネルギーぶっ放せば地球なんていくらでも滅ぼせるし、」
「それとは次元が違うの」
紫の深刻で真剣な顔に、霊夢は黙り込む。
「彼が本気を出していないの、わかっているでしょう?なめた態度ばっかとっているから、取り返しのつかない状況に陥って、今まで何度も殺せてきたけど、彼は超高速の超生物。隠しだねだってまだあるはずよ」
幻想郷は全てを受け入れる、とか、どっかで聞いたことのあるセリフである。
だが、全てを滅ぼしかねない存在はごめん被りたい。それが紫の思考だ。
「…とはいえ、向こうは神が絡んでいる。私が動くのはまずい気がするわ。だから霊夢、あなたを呼び出したの。妖怪退治の名目なら、そう簡単に疑われはしないから」
これが私の提案、と、紫は長い話を終えた。
「地上に降り立つ時には、命の補正がついている。でも、白玉楼にいる時には、それが無いと踏んでいるわ。その時に討つ、っていうのはどうかしら」
再び、長い沈黙が続いた。
そして、ゆっくりと霊夢が立ち上がった。
「ふえええぇぇぇ…」
ぐったりと、妖夢が床に倒れこんだ。
「座学って、こんなにも疲れるものなのか…」
「まぁ、勉強嫌いな人は山ほどいますし、仕方ありませんよ」
しかし、と殺せんせーは手元の紙を見て思う。
(思いの外、妖夢さんは飲み込みが早い。たったで一人で学習しても、教材さえあれば平均に余裕で乗っかりそうです)
だが、普段妖夢にやられっぱなしの殺せんせーは、ここで褒めることで調子に乗られるのが気に食わないので、心のうちに留めておいた。
「じゃあ、そろそろ剣術の方に行きますか」
「それだ!早くしろ!」
やっとのことで、本来の目的に流れが向くと、妖夢は疲れを忘れて立ち上がった。
「早くしろ!座学のせいで時間が削られているからな!」
そう言って妖夢は意気揚々と、特訓に挑んだが、
「秘技・北斗神剣!アタタタタタタタタタタタタ!!」
「うわあああああああああ!!」
超高速で放たれる百烈拳ならぬ百烈剣に、妖夢は防御するのもままならなかった。剣先が触れるか触れないかで、素早く木刀を引っ込めるので怪我は残らないが、そーっと触られた時に感じる痒みが辛い。
おまけに、前からだけで無く、後ろ、横、上や地面からも攻撃するので、妖夢は一方的にやられるだけである。
「って、ちょっと待て!パンツ見てんじゃねぇだろうなお前ぇ!」
「ニュヤッ!?」
妖夢の剣の横振りに、殺せんせーが素早く飛び退いた。
「ニュ…、今のはいい剣でした」
「誤魔化すんじゃねぇ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら特訓するのは、いつものことだった。毎回、お互いに疲れ果てて終わりにするのがオチである。
「っはぁ、はぁ、き、今日はこれで終わりにしましょう」
「…そう、だな」
殺せんせーの提案に、妖夢は素直に従った。殺せんせーは妖夢から木刀を受け取り、自分の分も含めて片付けに行く。
倉庫に向かい、廊下を歩いていると、
「…隠れていないで出てきてください。殺気が隠せていませんよ」
殺せんせーが立ち止まってそう言った、次の瞬間、
その人物が、目の前に躍り出た。殺せんせーは、ピクリとも動かずに、その人物を見つめる。
「…今、逃げなかったのはわざと?」
「ええ、その通りです」
目の前に現れたのは、上半身だけ覗かせている女性。
…紫だった。
「今、あなたを殺せば、どうなると思う?」
「え、ど、どうなんでしょう。考えたこともありません。ですがどっちにしても、あなたには報酬は来ないかと」
「ふん」
つまらなさそうに、紫はスキマの中に消えていった。
「…なんだったんでしょう、今の」
「紫わねー、あなたのことが嫌いになった見たいよー」
横からやってきた幽々子が、殺せんせーの独り言に答える。それに対して、殺せんせーはプンスカと顔を赤くして怒った。
「それを言ったら、私だって紫さんは嫌いです!セコい能力を持っていますから」
「あんただって、完全防御形態とか言って、セコいことしてたじゃない」
「って、どあっ!れ、れ、霊夢さん!?」
「お、今度は鬼巫女って言わなかったわね」
霊夢の登場に驚く殺せんせー。思わず木刀を落としてしまう。
「まーこれから、地上に降り立つ時以外でも警戒しといた方がいいんじゃなーい」
「へ?それはどういう」
「まぁ、いろいろあってね」
殺せんせーの答えに、幽々子はわかりやすくはぐらかす。
「そうよ、いろいろあったの」
霊夢も同じようにあからさまな態度である。殺せんせーは困った顔をしながら、木刀を拾い集めた。
…数十分前、
「反対」
「…何ですって?」
仁王立ちした霊夢は、紫を見下ろして言った。
「もう少し、様子を見るわ。あいつはまだなめきっているんでしょ。だったら今すぐ危険な訳じゃないわ。それに…」
霊夢は一瞬躊躇うも、再び毅然として言い張った。
「彼は、紫が言うほど悪いやつじゃ無いと思うわ」
「…根拠は?」
「女の勘よ」
「どこで覚えてきたのそんな言葉」
「菫子から聞いた」
「…霊夢、いい加減にしないと、」
「私も、そうだと思うわー」
紫が霊夢を睨んで腰を上げようとした時、幽々子が口を挟んだ。紫が思わず幽々子を見ると、幽々子はにっこりと笑う。
「殺せんせーと一緒に住んでるけど、あの人凄いのよー。こんな広い白玉楼の掃除をあっという間に終わらせちゃって、しかもピカピカなのよ」
「幽々子、そういう話は今は、」
「紫は一緒に暮らしてないから、わからないのよ」
幽々子は珍しく、真っ直ぐな目を紫に向けた。
「…あの人と一緒に暮らしてもない紫には、否定はされたくないわ。物事を深く知らないでただ文句を言うだけの人間って、不愉快だもの」
「っ…」
久々に見た、幽々子の真っ直ぐな目。紫に向けられたのは初めてで、少し怖気づいてしまう。
だが、幽々子はすぐににこやかな顔に戻り、手をパンと叩いて提案した。
「じゃあ、紫もここで住んだら?」
「は?」
「殺せんせーの行動を、間近で確認するの。そうすれば、霊夢の言ってた『様子を見る』こともできるでしょう?」
「ちょ、そんな急に言われても」
突然の提案に、紫は泡を食ってしまう。その横で、
「決まり。じゃあ私は神社に戻らせてもらうわよ」
「あっ、霊夢!?」
早々に出口に向かう霊夢は、振り返って紫を見る。
「私も賛成。だから多数決で決まりよ。外の世界だって、お偉いさん方は物事を多数決で決めてるらしいから、文句は言わないでよね」
「ちょっ、外の世界は関係な…」
「じゃあ、紫の分の布団、用意してあげるわね」
「なっ…」
とんとん拍子でことが進み、紫はため息をついて諦めた。そしてせめてもの抵抗で、一言漏らす。
「…少しの間だけだからね」
「いろいろ、あったのよね」
「そう、いろいろ」
「まだ言ってるんですか…」
はぐらかし続ける幽々子と霊夢にそう言って、殺せんせーは倉庫に向かう。
「あ、そうだ」
霊夢が何かを思い出して、殺せんせーを追いかけた。
「…ニュ?何でしょう」
殺せんせーが振り向いて尋ねる。霊夢は間髪入れずに質問を投げかけた。
「あんた、元は人間だったんでしょ」
霊夢が立てていた、元人間理論。それを確認しておきたかったのだ。
しばらく黙っていたが、殺せんせーはやがて口を開いた。
「…そうです。生まれも育ちも地球で、人型で生まれてきました」
「じゃあ、どうしてその姿に」
その質問に、殺せんせーは少し悲しげな顔を見せた。
「今までの不悪行の、報いですかね。私は完璧であり続けていたつもりでしたが、弟子を、しっかりと見ることが出来なかったようでした」
「報い…か。ありがと」
「はい」
倉庫に向かって、ゆっくりと歩く背中を、霊夢と幽々子はしばらく見つめていた。
「じゃあ、出口まで送るわね」
「ん」
幽々子の提案に、霊夢は素直に従う。
殺せんせーについて、外の世界の「パソコン」で調べて出てきた情報。それはまだ、本人には伝えないでおいた方がいい。そんな気がした。
「ていうか、紫はどこに行ったのよ。ここで観察するんじゃなかったの」
「悪いわね、命蓮寺と神霊廟との約束があったのよ」
「…にしてはやけに早く帰ってきたじゃない」
すぐさま霊夢の横にスキマで現れた紫に、霊夢は呆れた目を向ける。
「さーて、尻尾は出してくれるかしら…」
「スキマ使って上半身で移動しないで、気持ち悪い」
「気持ち悪いって言わないでくれる…、って何これ!?」
「へ?」
霊夢の背中を、紫が驚愕して指を指す。気づいた霊夢が当然のように答えた。
「ああ、名案でしょ。さっき思いついたのよ。これなら両手も空くしね」
「だ、だからって…、こんな所業…」
霊夢の背中には、縛り上げて殺すくらいに締め付けられたゆかりん人形があった。
「あなたにはモノを大事にするこころがないの!?」
「誰があんたの呪いみたいな人形を大事にするか!原因作ったのはそっちでしょ!」
「あーあー、もう怒りましたよ。そっちがその気なら…」
そういうなり紫がスキマの中に消え、スキマが閉じられる。何がしたいの、と霊夢がフンスと鼻息を立てるも、
「あっ!?」
すぐに身体に異変を感じた。外傷はないのだが、内面的な、発作に近い形である。
「ま、まさかあのババァ…」
そう、ゆかりん人形に忍ばせている僅かなスキマを閉じたのだ。よって、紫の報酬によって霊夢に付け加えられた、「紫が近くにいないと落ち着かない」という能力が発動したのだ。
「今すぐやめろ!これ、ほんっとに身体に悪い…あっ、ちょヤバい。こ、こら、あ、謝るから…あ…ぐ…」
うつ伏せにぶっ倒れて、助けを乞う霊夢。身体がピクピクと痙攣し始め、這いずることもままならない。
(こ、これ、どちらかと言ったら、「近くにいないと発狂する」能力じゃない…)
「懲りたかしら〜?もう私に逆らわないことね〜」
「…殺せんせー云々以前に、あんたが私の敵ね」
ぐったりと寝転がる霊夢に向かって、紫は勝ち誇った態度をとる。そこに妖夢が居合わせた。
「…何やってんですか、霊夢さん」
「文句はこのスキマ妖怪に言いなさい」
「あら、私は悪くないわよ」
睨む霊夢ととぼける紫、これは面倒なやつだと、妖夢はこれ以上深く聞くのをやめた。
「あ、そうだ妖夢〜、今日から紫も白玉楼に住むから、よろしくね〜」
「へ!?それはまた唐突な」
「布団とかは私がしておくから、食事の方、お願いね」
「は、はい」
「あ、じゃあ私、布団敷くの手伝いますよ」
突然、殺せんせーが紫の後ろから声をかけた。びくりと紫が肩を震わす。
(…マッハで会話にまで入ってくる…。この場にいないからといって、油断できるわけじゃない。重要な話はさっきみたいに、何かに集中している時でないと…)
「じゃあ幽々子さん、早速」
「ダメだ。お前は掃除をしてろ」
妖夢がギロリと殺せんせーを睨んで言う。
「何でですか!布団を敷くことぐらい、マッハで終わらせますよ」
「お前が幽々子様の胸を見るのが嫌だから言ってんだよ!」
「ニュヤッ!」
「ヘェ〜、頭の中は性欲で一杯なのね〜」
「な、これは、その、」
妖夢の指摘に、紫が殺せんせーを睨む。あたふたと殺せんせーが誤魔化そうとするも、うまくいかない。
「そ、掃除をしてきます!」
「よろしい」
バツが悪くなった殺せんせーは、急に掃除のやる気を出した。
「で、でも、もうやるところがありませんが、」
「もう一周するんだよ!一回で済むと思うな!」
「ひいいいいい!すみませんすみません!」
妖夢に刀を振り回され、殺せんせーは逃げるように掃除に行った。
「すっかり、殺せんせーを尻に敷いてるわね、妖夢は」
「人聞きの悪いことを言わないでください、幽々子様」
「それよりも、どんどん妖夢の口が悪くなっているのを気にしたら?」
殺せんせーがやってきてから、妖夢が不良になっている気がして、紫は厳しい顔をした。
「全く、幻想郷の賢者が聞いて呆れる」
「太子様、もう帰りましょう」
イライラする神子を、屠自古がなだめた。
紫が、得た情報をくれるという約束をしていたのだが、当の本人は先程、
「ごめんなさい。急用ができたからまた今度」
と言って、こちらが言うことも聞かずにスキマに消えていった。
「幻想郷の賢者が口約束一つ守れないでどうする!」
「あの人は自由ですからね」
「少したるんでいると思わないか?」
「まぁ、ちょっと調子には乗っているかもしれませんね」
「だろう?ここは少し、仙人として説教でもするべきだと思うが、どう思う?」
「それはいいかもしれませんね」
神子の訴えに対し、白蓮がそれに笑顔で応答している。その光景はまるで愚痴を聞く面倒見のいい人である。
「…ホントはまだここに居たいんじゃないのか、太子様は」
「喧嘩ばっかりしてるくせにね。素直じゃないと言うか」
二人の会話が途切れるのを待って、神霊廟のメンバーはもう少し、命蓮寺に居残ることにした。
「ご馳走様」
紫を含んだ4人で晩ご飯を済ませ、妖夢がギロリと殺せんせーを見る。
「片付け」
「はいいっ!」
マッハで皿を片付ける殺せんせー。もはや妖夢の言いなりである。
「…?ねぇ、それは何?」
紫が指差したのは、洗い物をする殺せんせーが、手に付けているものだ。
「え?ああ、水を通さない手袋のようなものです。外の世界では『ゴム手袋』というものがあるのですが、ここにはなかったので自作しました」
「何故そんなつけて…、まさか、水に溶けるとか?」
「いえいえ、溶けはしませんが、ふやけます」
「…ふやけ、えっ?」
ふやけてどうなるなるのか、紫が思わず聞き返す。
「私は水を吸うと動きが鈍くなります。向こうにいた時は、その弱点を突かれて、夏の時、E組の生徒達に本気で殺されかけました。まぁ、あいにく私には、完全防御形態がありますしねぇ」
クックックと笑う殺せんせーを、横から紫が冷ややかに見つめる。
(生徒達の幸せを奪っておいて、よくもそんなに笑えるわね…)
「あ、でもお風呂とかは入れますよ。粘液で浸透圧を調整できますからね」
「でも殺せんせーは、一度もお風呂に入っていないわよ〜」
横から幽々子が口を挟んだ。自分の目線を見られたと思い、紫は殺せんせーから視線を外す。
「ええ、実は毎回殺されて新しい身体で復活するので、老廃物が出ないのです。だからお風呂には入る必要がありません。最近は頻繁にゲームが始まりますしね」
「何よそれ」
「ちなみに、私には月一の隠し技、脱皮があるのですが、これも新しい身体になるせいでできません」
「別にそこまで聞いてないわよ」
意図せず、殺せんせーの戦力が削がれている状態である。だが、脱皮如きで幻想郷の住民の攻撃を防げたかは怪しいが。
「あ、お風呂も先に洗って準備しておきました。幽々子さん、どうぞ」
「ありがと〜」
「…隠しカメラでも仕掛けたんじゃないでしょうね」
「何で幻想郷にないものを私が仕掛けるんですか…」
紫の怪しむ目に、殺せんせーは困った表情でツッコミを入れた。
「おい」
「はっ、妖夢さん」
妖夢が現れた瞬間、殺せんせーは触手で土下座の姿勢を取った。
「今日はもう大丈夫だ。休んでいい」
「了解しました」
もはや奴隷の類に見える。紫はその様子を、真剣な目で見ていた。
次の日…、
「私に、協力を?」
「ええ」
「ええと、それで奴が何でしたっけ」
妖夢は紫に、先ほど聞かされたことを聞き返した。紫はもう一度、殺せんせーについて報道している内容を伝え、真剣な表情で頼み込んだ。
「あの怪物は、今すぐに排除すべきだと、私は結論を下したわ。それで、今一番、奴を殺せるチャンスを持っているのは、あなたなの。幽々子はどうも乗り気じゃなくて…。お願いできるかしら」
「え、えーと、そうですね。頼ってくれるのはすごく嬉しいのですが…」
妖夢は、言いづらそうに答えを返す。
「…ごめんなさい、できません」
「…どうして?」
ペコリと頭を下げる妖夢に、紫は少し厳しい目で聞き返す。
「幽々子様に、先に言われました。紫様がそう言ってくるだろうから、断っておいて、って」
「…ったく、幽々子ったら…」
「それに…」
妖夢はこれまた言いづらそうに、続けた。
「私の意志でも、それはしたくありません」
この答えに、紫は目を見張った。
「…あなたは、あの怪物に居残って欲しいの?」
「いやいやいや!そんなはずはありません!あのタコったら、枯山水を何度もめちゃくちゃにするわ、ウネウネして気持ち悪いわ、幽々子様の胸ばかり見るわで、もう一刻も早くぶっ殺したいくらいです!」
紫の発言を全力で否定する妖夢。しかし、その後困った表情を見せた。
「…でも、紫様が言っている理由で、あのタコを殺すのは、何か違う気がします。あのタコは、変態で迷惑しかかけないですが、…それだけです」
「…妖夢は、まだ彼の本性を見てないから、そんなことを考え、」
「なら紫様は見たんですか」
ぐ、と紫が口を閉じた。まっすぐ紫を見る妖夢の目は、まるで、
(…幽々子みたい)
「おやおや、何をしているんですかお二人とも」
そこに、件の殺せんせーが割って入った。妖夢は再びペコリと紫に頭を下げる。
「紫様、心配しなくても、このタコは私が無残にも切り刻んでぶっ殺します」
「ええっ!?」
動揺する殺せんせーに蹴りを入れ(避けられたが)、妖夢はその場から去った。
「…ちっ、」
尽く、上手くいかない。紫のイライラは増していくばかりだ。
「おやおやおや、紫さんも私を殺すんですか?上等ですよ、殺せるならね」
「…今まで失敗してきた者の言葉とは思えないわね」
「ニュッ!?今度はそうはいきませんよ!危険な場所、関わってはいけない場所は、順番に確認していますからね!」
ぴょんぴょんと跳ねて反論する殺せんせーを紫は無視する。と、その時、
「…できれば、次で成功させる自信を持って欲しいのだがね」
「はっ、この声は、自称神!」
「もう自称でも何でもいいからさ、『神様』って言ってくれない?」
自称神は、まるで頼むようにそう言った。
「あなたの声が聴こえるということは…」
「そうだ、次の挑戦は明日だ。準備するように」
最近ペースが上がっているというが、それは大抵2日おきである。余程神に人気なのだろうか。
殺せんせーは、紫に目を向けて、舐めた態度をとる。
「ヌルフフフ、殺せるといいですね。24時間で」
「いいえ、私は今回は殺さないわよ」
「ニュ?」
紫の言葉に、殺せんせーは戸惑う。紫は妖しい目を開き、殺せんせーを見つめて宣言した。
「あなたの生態が気になるの。だからずっと監視させてもらうわ」
言い訳はそれでギリギリ通るだろう。自称神が覗いている時に、こう宣言すれば、建前を神界に知らせることができる。
「…別に構いませんが、何故急に」
「あら、別にいつだっていいじゃない」
困った顔の殺せんせーに背を向け、紫はその場から離れた。
(…この怪物の尻尾を、必ず掴んでみせるわ。覚悟なさい)
「…あらあらあら」
「ん?」
とある場所。二人の少女が静かにその場にいたが、そのうち1人が、突然声を出した。
「これはこれは…未曾有の大災害。いや、もっと酷いのが数年前にもありましたね。というかもっと最近にも、幻想郷だけで」
「お、仕事してるのか。珍しい」
「珍しいとか言わないでください。年中働いてない人が」
「うっさい」
少しだけ、2人の間で会話が進んだ。やがて最初の発言者が、若干面倒そうな顔で歩き始める。
「今から行くの?熱心ね。どうしたのよ急に」
「だってこの前怒られたのですよ。しっかりと言えって、霊夢さんに。元はと言えば総領娘様が原因じゃないですか」
「しーらない」
「全くもう…」
その少女は、ふわりと身体を浮かせた。そしてもう1人の少女を振り返って言った。
「下界に行ってまいります」
ぶっちゃけ最後の2人、ここまで出すんなら名前伏せる意味なくない?って思う。でもムードって大事だよね。
ちょくちょく改良を加えながら書いているので、矛盾してたりおかしいとこがあったらバンバン教えてください。キレ気味でも結構です。