マッハ20の初代死神でも幻想郷は辛かった   作:螢雪

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今回は殺せんせーがほとんど出てきません。それと説明が少々長いです。
今後の展開の為の下準備ですので許してください。


マッハ20の初代死神を、幻想郷は嫌うのか4

「あー、妬まし妬まし」

 

地上と地底を繋ぐ入り口の橋で、緑の目をした金髪の少女が、悪態をついていた。

 

 

水橋パルスィ(みずはしぱるすぃ)

橋姫

橋を守る神らしいが

宇治の橋姫という女性という説もある。

パルシィというと怒る。

 

 

「はー、最近ほんとに『妬ましい』としか言ってない気がするー」

「おやおや、それはいけませんねぇ」

 

後ろから声がかかった。手すりに身体を預けて外側を向いていたパルスィは、話しかけた男に背を向けたまま答える。

 

「半分は仕方ないものよ、能力だもの。後は私の性格よねー」

「ストレスばかり溜め込むと、少なくとも良いことはありませんよ」

 

すとれす?なんじゃそりゃ。パルスィは聴き慣れない単語に疑問を抱きつつ、その男を相手にだべり始める。

 

「周りが全て妬ましく見えるのは、もうどんなことをしても無駄よ。かと言って何も見るなと言われても無理。世の中には仕方がないことがあるの」

 

それに、とパルスィは極めて退屈そうに付け足した。

 

「周りを妬むのは、羨むってことでしょ。羨むことは決して悪いことじゃないし、むしろ向上心を高めるわ」

「…なるほど。一理ありますね」

 

まぁ向上する気も全くないし、これは今思いついた言い訳だけど、とパルスィは勝手に自分でふてくされ始める。そしてその矛先は男に向けられた。

 

「…ていうかあんた、黄昏てる女に気安く話しかけるとか、まるで助兵衛のようだけど、てかそもそもあんた誰…」

 

振り返ったパルスィは、その姿を見、目を見開いた。

 

 

 

 

 

「さとり様ー、入りまーす」

「どわっ!」

 

ノックもせずに入ってきたお燐。さとりは慌てて机の上を片付けた。そしてギロリとお燐を睨む。

 

「無断で入らないことって、何回も言っているでしょ!」

「すいません、急ぎの用だったので」

 

とは言っても、これはさとりがこっそりと自筆小説を書いているのを隠すための規則である。そしてそのことは、お燐を含め地底のほとんどの者に知られている。犯人は身内であることに、さとりはまだ気づいていない。

 

「…で、何があったの?」

「いや、こいし様の部屋の扉が開けられていましてね。多分こいし様が締め忘れたんだと思いましたけど、念の為泥棒じゃないかと確認してたんですよ。そしたら…」

「そしたら…?」

 

お燐が非常にまずいという表情で、続きを明かした。

 

「いつもあった電話機が無くなってたんです」

「ちょっ、ええっ!?本当!?」

 

この電話機は、都市伝説異変の時に、こいしが使っていたものである。この時こいしが使っていた都市伝説は「メリーさん」、電話されるたびに近づいてくるやつである。

 

「普通に考えて泥棒はありえないわよね。だってあんな電話に価値はないもの。だったらこいしが持ち出したってことになる。てことはスペカを使うつもり!?一体何のために…」

 

(反則探偵さとり様が、唯一反則の効かないこいし様に対して、一生懸命考えを巡らせていらっしゃる)

 

「お燐、余計なこと考えないで」

「アッハイ」

 

すぐに心を読まれて、お燐は黙らせられる。続けてさとりは、今出てきた疑問を投げかけた。

 

「ていうか、何でこいしの部屋の配置を覚えているの?」

「え」

 

実を言うと、さとりよりもこいしに懐いているからである。既に心を読まれたので、お燐は言い訳も何も言わなかった。

 

ガックシと肩を落としたさとりは、机の上の整理を手早く終え、机を離れた。

 

「とにかくこいしを早く見つけ出さないと」

「どうやってですか?」

「どうにかしてよ!」

 

こいしは人の無意識をついて行動できる。一種の透明人間。もっと言えばドラえもんの石ころぼうし、モーテン星である。普通に探すのはまず難しい。

 

「お空呼んできて!」

「ラジャ」

 

地底での、この小さな騒ぎ。マッハ20の怪物がここに現れなければ、もっと大きな騒ぎにはならなかったはずである。

 

 

 

 

 

「手分けして探すわよ、いいわね!」

「はい!」

「?」

 

さとりがものすごい勢いで地霊殿の中を走って行った。何も言われずに連れてこられたお空はお燐に聞く。

 

「何を探すの?」

「こいし様が何かやらかしそうだから、その前に未然に防ぎたいの」

「ふんふん、じゃあこいし様を探せばいいのね?」

 

お空はそう言ってふんふんと納得し、…お燐に疑問を返す。

 

「私がいて戦力になるの?」

「悲しい自覚しないで。トリ頭とかそんなのは今は関係ない。人手は多い方がいいでしょ」

「ねぇ、私トリ頭までは言ってないよ?」

 

とりあえず、お空とお燐は先に旧地獄を見て回ることにした。のんびりと歩いているあたり、さとりよりも事態を重くは考えていない。

 

「よう、お疲れ!」

 

二人に陽気な声がかかった。大きな盃を掲げて、1人の女性が近づいてくる。

 

 

星熊勇儀(ほしぐまゆうぎ)

山の四天王の1人。

酒を溢さずに戦うのが流儀。

力がやばい。マジやばい。

 

 

「お疲れ様です」

「ヤッホー」

 

挨拶が対照的な二人である。勇儀は苦笑し、片手を軽く上げた。

 

「おう、悪いけど、さとり様に会えるかい?」

「え、どうしてですか?」

 

勇儀がさとりに会いたいというのは珍しい。疑問に思ったお燐が聞くと、

 

「私が会いたいからです」

「…え、」

 

勇儀の後ろから2人の人影が現れた。その2人はよりにもよって、

 

「こんにちは、火焔猫燐、霊烏路空。今回の用件は主に、貴方達にする予定でしてね」

「え、え、え、閻魔様!?」

 

 

四季映姫・ヤマザナドゥ(しきえいき・やまざなどぅ)

閻魔

死者を裁く仕事をしている。

よく地上で説教を垂れるが

地上の者にとっては迷惑でしかない。

 

 

「さっき会ったんだよ。とりあえず案内は終わったから、私は戻らせてもらうよ」

「ええ、ありがとうございます。小町、送って差し上げてください」

「私のことを便利な乗り物とか何かと思っていませんか?」

 

 

小野塚小町(おのづかこまち)

死神

三途の川の船頭。

能力上瞬間移動が可能なので

タクシー代わりに使おうとされる。

 

 

小言を吐きながらも、きちんと勇儀を送る小町。その間に、映姫が2人を見つめる。

 

「…数日前に空いた、穴について覚えていますか?」

「穴?」

「ええ。それもただの穴じゃありません。地上と地底を繋ぐほどの長さがありました」

「ええっ!?そんな穴空いたんですか!?一大事じゃありませんか!…ん?」

 

叫んだ後に、お燐は首を傾げる。その穴、どこかで見覚えが…。

 

「そうです。貴方達が空けた穴ですよ」

 

思い出した。地上でさとり様に呼ばれた時に出てきた穴だ。

 

「ここは旧地獄ですから、私にも縁がありまして、地底のことは気にかけていたのです。私がすぐに気付いて埋めさせたからよかったものの…」

 

ギロリと、映姫は2人を睨みつけた。

 

「万が一、人間等がその穴に落ちたりしたら、どうするつもりだったのです?」

「え、その…」

「地底の存在と、鬼などが住んでいることを知られた以上、消すしかないと判断するでしょうね。しかし自然の摂理なら仕方がないものの、誰かの不注意によって、人の命が一つ消えるのは、命を扱う私には見過ごせません」

「は、はぁ」

「今日は非番ですので、きっちりと説教をさせてもらいます」

「ええっ!?す、すみません今はそれどころでは」

 

説教をされている間に、こいしを地上にでも逃したりすれば、それこそ穴よりも取り返しのつかないことになるかもしれない。

 

「…私が説教をすると皆すぐにそう言います」

「いや、それはそうでしょうけど今回は本当に、」

「映姫様ー」

 

小町が戻ってきて、映姫に話しかけた。お燐は正直、助かったと思う。

 

「…何ですか小町」

「うっわ、こっわい目…。いやいや、ちょっと面白いことになってましてね」

「その面白いことは、私の説教より大事ですか?」

「人によっては」

 

と、小町の後ろから勇儀が顔を出す。

 

「小町、お送りしなさいと言ったはずですが」

「いや、これは私の意思だ。みんなに聞いてほしいことがあってな」

 

勇儀がそういうと、誰かの背中をポンと押した。押されて出てきたのはパルスィである。

 

「げっ、閻魔様じゃん!ちょっと勇儀、聞いてないわよ!」

「いいからいいから、誰に言ったって同じだろ」

「何ですか?水橋パルスィ」

 

うへぇ、といった顔をしたパルスィは、諦めて言いたいことを口にする。

 

「現れたんですよ。黄色い奴が。遂に地上に」

「黄色い奴が…、ってまさか!あのタコ!?」

「タコ?」

 

声を上げるお燐と、何を言っているのかわからないという表情の映姫。同じ顔をお空もしている。

 

「なにそれ」

「あれだよ!お空が核光線をぶっ放した相手!確か名前は…、殺せんせー、だったっけ?」

「殺せんせー?」

 

再び映姫が聞き返す。しかし今度は、その名を知っているかのような聞き返し方だった。

 

「知っているんですか?映姫様」

「…ええ、一応」

「え、あんたは知らないのかい?」

 

勇儀がびっくりして小町に聞くと、小町も逆にびっくりした顔をする。

 

「え、みんな知ってることなんですか?」

「そりゃあ、夢のお告げで出てきたらみんな覚えてるだろうさ」

「夢のお告げ?」

 

またもや疑問を持つ声を出す映姫。勇儀は丁寧に説明した。

 

「夜、寝てる時に、夢の中で神様みたいな奴が出てきて、その怪物を1日以内で殺すと報酬がもらえる、というげーむ?を始める、言ってんだ。もう何回も見たよ、その夢を」

「…私には何のことかさっぱり」

「ああ、映姫様すぐに徹夜したがるからでしょ」

「別に徹夜が好きなわけじゃないですが」

 

どうやら映姫はその夢を見ていないらしい。小町はというと、

 

「あたい?あたいはいつも昼寝してるからね。いつの間にか生活が昼夜逆転してたんだよ」

「それは事実として受け取っていいのですね」

 

映姫の睨みつけに、小町はやらかしたと気づいた。減給は覚悟しなければならない。慌てて話を逸らす。

 

「え、でも映姫様は『ころせんせー』って名前に覚えがあったんじゃないんですか?夢を見てないのに、何で知ってるんですか?」

「ええ。死者の名簿にありましたから」

「え、『殺せんせー』なんて名前があるのか?」

「いえ、本名はちゃんとありますが、名簿には偽名や愛称が載せられることがしばしばあります。特に、本名を忘れられるほどに親しまれた、使われたものなどですかね」

 

勇儀の疑問に淡々と答える映姫。その横で小町がうへぇ、と顔を歪める。

 

「映姫様、名簿の名前を全て覚えてるんですか?いやぁ、すごいを通り越しておかしい…」

「別にそんなわけではありませんよ。ただ、彼については後々調査しなければならなかったので、覚えておいていただけです」

「何だ、気になったらいちいち調査しなきゃいけないのか?閻魔って思ったより大変だな」

「いえ、これは別に閻魔の仕事でもないです」

 

勇儀の呟きを否定する映姫。勇儀は「は?」といった顔をする。

 

「私的、ってことですか?じゃあ何でわざわざ調査を?」

「…話しますか?貴方達に言ってもあまり良いとは思えませんが…」

「勿体ぶらないでくださいよ!目の前に吊らされた魚を、取る寸前でお預けされるような仕打ちですよ!」

「…その例えは猫じゃない私たちには伝わりにくいのですけど…」

 

お燐の訴えに少し呆れる映姫。しかしお燐や他の人々の目線に負け、映姫はため息をついた。

 

「まぁ何か情報が得られるかもしれないですから言いますが…。むやみやたらに他の人に言わないでくださいね」

 

 

 

 

 

命蓮寺。貧乏神と疫病神による騒動からまだ2日しか経っていないが、再びそこに神霊廟メンバーが訪れていた。

 

「どうどうどう、落ち着いてください太子様」

「私は落ち着いている!」

「すぐバレる嘘をつかないでくださいよ」

 

イライラを抑えきれない神子を、屠自古が必死に落ち着かせている。その見慣れない様子を、命蓮寺メンバーは物珍しげに眺めていた。

 

「寛容でカリスマ溢れる神子さんも、怒るときは怒るのね」

「普段我慢しているのが、溢れ出たんですかね」

「あのスキマ妖怪の胡散臭さに、耐えきれられなくなったんじゃないですか?」

 

好き放題言う白蓮、一輪、水蜜の横で、ナズーリンと星が、布都の相手をしていた。

 

「再び急にお邪魔することにあたって、お詫びの品を持ってきたぞ!」

「ありがとうございます。ですが、その…」

 

星が困ったように、布都が「連れてきた者」を見る。

 

「品物扱いするのはちょっと失礼じゃ…」

「全然構いませんよ。それよりも厄はどこかしら?」

 

 

鍵山雛(かぎやまひな)

厄神様

神だけど妖怪みたいな存在。

厄払いを得意とするが

逆に自分に溜め込んでしまう。

 

 

「私、本職のせいで厄が無いとやっていられなくなってきたの」

「はぁ」

「この前なんか一週間も厄が無くて、気がついたら身体が痙攣し始めたわ」

「この人の言ってること、もしかして『ヤク』違いなんじゃ無いですか」

 

ナズーリンがそう星に耳打ちすると、星はパシンとナズーリンの頭を叩いた。

 

「とにかく、此奴がいればどんな厄も払いたい放題じゃ!この前のような惨劇を繰り返さぬよう、お願いしてみたのじゃ!」

「いや、あれは貧乏神の放った悪運ですから、今は必要ないかと…」

「あ、ちなみに私が厄を溜め込んでいるから、近くにいる人はもれなく厄の影響を受けるわよ☆」

「ちょ、何ですって!?すみません!もういいですから早く出てってください!」

「やべぇ大変だ!ヤクの影響って、死ぬまで治らない幻覚幻聴じゃ…」

 

そう言うナズーリンの頭を再び叩く星。そんな彼女らに向かって神子が怒鳴った。

 

「うるさいですよ!静かにしなさい!」

「げげっ、す、すみません太子様」

「太子様、そんなにカリカリしないでください」

「ぐっ、…くそ、あのスキマ妖怪のせいでイライラが収まらん…」

「それはごめんなさいね」

 

いつの間にか太子の横に現れていた紫。周りは呆気にとられて、しばらくポカンと紫を眺めていた。

 

「待たせていたことは申し訳ないわ。ある程度問題が落ち着いたから、この前言いそびれたことを言うわ。…何故片腕を上げているの?」

「それはお前を殴る一歩手前だからだ」

 

何とか思いとどまって、殴ることを防いだ神子。ため息を吐きながら、その腕を下ろす。

 

「散々待たせて、呆気なく約束をむげにされて、その態度か…これが賢者とは結構なことだ」

「嫌味なら好きなだけ言いなさい」

「…いい。言ったところで無駄なだけだ。で、教えてくれる情報とは何だ?」

 

紫は、先日に霊夢らに教えた情報を漏れなく伝えた。全てを話し終えた後、神子は腕を組んで唸る。

 

「…そうか、地球を人質に取った超生物か…」

「確かに、あのスピードを見ると、やりかねないと思いますね」

 

屠自古もそう言った。他の人々も、その情報は嘘ではないだろうと考えている様子である。

 

「…しかしおかしいな」

「?」

「私が持っている情報と、だいぶ違う」

「…貴方が持っている情報?聞いてないわよ」

「貴方がすぐにスキマに消えたから、言う暇がなかっただけです」

 

神子が持っている情報…、一体何だろうか。

 

「それはどうやって手に入れたのかしら?」

「私も人づてに聞いただけだが…、マミゾウ殿はいるか」

「おるぞー」

 

白蓮の後ろから、あぐらをかいたマミゾウが顔を覗かせた。

 

「酒は飲んでないな」

「まずそれを聞くのかのぅ…。飲んではないぞ」

 

いくらマミゾウでも、禁酒である命蓮寺内で酒を飲む真似はしない。

 

「…貴方が情報を手に入れたの?」

「うんにゃ、私も人づてに聞いたのだがな。少し前にやった作戦の際に、さとり妖怪から彼の記憶について教えてくれたのじゃ」

「記憶?」

「ああ。と言っても断片的にしか教えてくれなかったがのぅ」

「構わないわ、教えなさい」

「やれやれ…」

 

マミゾウはそう言って立ち上がり、柱にもたれながら答えた。

 

「彼は教師をしていた。寺子屋のような建物でな。何故あの怪物姿で教師ができるのかは不思議じゃったが、さっきの情報で合点がいったわい。

 

しかしつくづく狂った教室じゃった。出欠を取るたびに、生徒は銃を怪物に向け発砲。軽い銃声と共に点呼し、怪物は全ての弾をかわして、出欠が終わると全員で弾の片付けをし、何事もなく授業を始めた。

 

驚くべきことは、生徒が皆、彼に対して笑顔だったことかのぅ」

「笑顔、ですって?」

 

ありえない、自分らを脅し、将来を奪った怪物相手に笑顔を向ける?奴は催眠術でも使ったのだろうか。

 

「暗殺をするときも笑顔、授業の時も笑顔、話している時も笑顔。…そして、最後に彼を殺した時も、あの少年は最後は笑っていた。泣きながらのぅ」

「泣き…ながら…?」

 

意味がわからない。泣くほどのことなどあり得るはずがない。対象を殺せた嬉し涙…?そんなことがあるのだろうか。それともそこまで高度な催眠でもできたのか…。

 

世の中のある物事に対して、憶測はいくらでも可能である。しかし紫の憶測は、情報が集まるにつれ、「ありえにくい」方向に偏ってきていた。

 

どこかで間違えたか?だが外の世界から手に入れたのだから、こちらの情報性は確実。しかし彼の記憶を見たのならば、それも事実と捉えられる。

 

何かおかしい。どこがおかしい…?

 

 

 

 

「…しかしあれじゃのう、スキマ妖怪さんは年寄りになったかの?」

 

 

 

 

命蓮寺に沈黙が広がった。そして、そのスキマ妖怪から、

 

ブチリ。

 

 

 

「…今、何て?」

 

 

 

紫の形相に、その場のほとんどが震え上がった。

 

(ひ、ひえええええ、怖えええ!!)

(何すかあの顔!あの人まさか鬼なんじゃないですか!?)

(血管がブチ切れる音って、聞こえるものだったっけ…!?)

 

一輪、水蜜、星が無言で震え上がる横で、マミゾウはけろりとして続けた。

 

「いや、歳をとったのぅ、と言った」

「ばっ…」

 

3人が慌ててマミゾウの口を塞ごうとするが、その前にマミゾウは続きを話した。

 

「さっきから、悩む必要のないことで悩んでおるからのぅ、つい、言ってしまった。すまぬすまぬ」

「悩む…?悩むことがBBAだって言いたいの?」

 

(誰もBBAとは言ってねぇよ!)

 

「いや失礼。頭が固いと言うべきか。しかし頭が固いのは悪くも老人の印象が強いからの。偏見で申し訳ないが」

「老人…?」

 

のそりと紫が立ち上がった。その鬼というか、どちらかというと貞子の風貌になった姿を見て、取り巻きはマミゾウに目で警告する。

 

(おいやめろマミゾウ!お前は火に油をバケツでぶっかける気か!)

 

が、マミゾウはそれを無視し、続けた。

 

「お主もわかっておるじゃろ?」

「…?」

「あ、老人ということではないぞ。お主も、これからするべきことぐらい、とっくにわかっとるじゃろ、と言いたいのじゃ」

 

紫が動かないことをいいことに、マミゾウはペラペラと話し続ける。

 

「だがまぁ、お主にもお主なりの意地というもんがあるのじゃろ。お主にはお主なりのやり方があって、それで今まで上手くいっていたから、それに固執する部分もあるやもしれぬ。

 

お主のような頭の良いものが、悩む必要のないことで悩むことなど、それこそおかしい。固執しているもう1人のお主が、邪魔をしているのかもしれぬな」

 

「何を言っているかわからないわ」

 

「ああ儂もわからない。何せ儂も知らぬ、外の世界の話が絡んでいるのじゃからな。全て話していることは憶測じゃ。

 

幻想郷の数少ない欠点じゃのう。外の世界の流れについていけないとは。刻々と成長している外の世界では、その成長度合いに合った立ち振る舞いをしなければ、新しく手に入れたものを使いこなすことはできぬ。例え賢者であっても、知らないことをしろと言われてもできんじゃろう」

 

「…それは私のことかしら?」

 

「わざわざ確認せんでも…。ま、そういうことじゃ」

 

「どういうことよ」

 

「どういうことかのう。それくらい、自分で考えてみてはどうじゃ?」

 

マミゾウの堂々とした態度に周りはアワアワと紫の顔色を伺う。紫もあまり楽しくなさそうにつっこんだ。

 

「貴方、随分と舐めた口をきくのね」

「侮ってはならぬぞ、儂はお主と同じExボスじゃ」

「あら、勘違いしないで頂戴。私はPhボスよ」

 

(何の話だよ!)

 

一同が心の中でつっこむと、紫が背を向けた。

 

「…もういいわ、あまりここに長居したくないから、帰るわね」

 

誰かが声をかける前に、紫は一瞬で消えた。途端に皆がマミゾウによってたかる。

 

「お前何度死にかけたかわからんぞ!」

「いやいや、儂はそうは簡単に死なぬわい」

「ていうか何が言いたかったんだよ!」

「まぁ簡単に言うと、新しいやり方でもやってみないか、ということじゃ」

「わかりにくいわ!長々と語ったことほとんど無駄じゃないか!」

「さてさて、幻想郷の賢者をからかったところで、酒でも飲むかの」

「しかも遊んでたのかよ!真面目な話してんのかと思ってたけど結局遊んでたのかよ!」

 

一同のガヤガヤとした声かけを無視し、マミゾウはスタコラととんずらしていった。後に残された中で、神子は非常に疲れた声で呟いた。

 

「…一体何を見せられてたんだ、私達は」

「太子様、もう帰りましょう。布都」

 

神子を連れて帰ろうとした屠自古が、布都を呼ぶと、

 

「よーし!じゃあ我と共に神霊廟に来てみるかの?」

「お誘い感謝します」

「おいこら布都、その妖怪は元の場所に返してきなさい」

「ペットみたいに言うでない」

 

雛を連れた布都に注意した屠自古を、神子が嗜める。

 

「そういえば…」

「ん?」

「あの狸さんの持ってた酒瓶、何のお酒が入ってんだろうと、私がベタベタ触っちゃってけど大丈夫かしらね」

「…?触ったぐらいでは別に問題は無いのでは?」

「…あっ、」

 

星が思わず声を上げた。雛の言葉を思い出したからである。

 

(「あ、ちなみに私が厄を溜め込んでいるから、近くにいる人はもれなく厄の影響を受けるわよ☆」)

 

「いやいや、まさか物に移ることはないでしょう…、え、ある?」

 

コクコクと頷く雛。非常にまずいと苦い顔をした星だったが、

 

(…まぁマミゾウならいいか)

 

「何でも無いです。お気をつけてお帰りください」

「まぁ、丁寧にありがとうございます」

 

星は顔をけろっと変え、まるで何も知らなかったかのように、雛に手を振って見送った。

 

 

 

 

 

「小町、殺せんせーとやらを送った記憶はある?」

「いやー、全部を覚え切ってるわけじゃ無いですけど、流石にあの怪物姿じゃ一度見たら覚えると思いますよ。でもあたいには記憶がありませんね」

「そうですか。ですが、元の人間の姿で冥界に来た可能性もありますしね、その点については微妙でしょう」

「は?あいつが人間なのか?あんなに黄色いのにか?」

 

勇儀が聞くと、映姫は淡々と答えた。

 

「ええ。資料によりますと、ちょうど亡くなる一年前ほどに、あの姿になったと記述がありました」

 

後天性で怪物となった人間。中々信じ難いが、閻魔が言うのだから本当だろう。

 

「で、何で映姫様はあたいに送ったかどうかなんて聞いたんすか?」

 

小町の問いに、映姫は真剣な顔で答えた。

 

「彼が私の前に現れなかったからです」

「現れなかった?つまり閻魔の裁きを受けなかったってことか」

「ええ。そこでお聞きしますが、夢の中に出てきて彼を教えてきた人物が誰かわかりますか?それと教えた内容を」

映姫の問いには、勇儀が答えた。実際、勇儀と小町だけが、映姫と対面で話せている現状である。

「神様とか言ってたな。本当かどうかは知らないが。なんか知らんが、殺せんせーは24時間、幻想郷内を逃げ回るらしい。そんで私らの誰かが殺せんせーを殺せたら、殺した奴に報酬と言って、好きなものを得ることが出来るんだとさ」

「神、ですか。神にしては随分とイカれたことをしますね」

 

勇儀の説明に、映姫はボソッと呟く。その呟きに皆が震え上がった。

 

(閻魔様が、イカれたって言った!?)

 

「それで、調査したいことって何なのですか?」

 

先に落ち着いた小町が、話を本題に戻す。

 

「貴方達の証言から、彼を私の前に現せる前に拐って行ったのはその神とやらでしょう。ですがその意味が全くわからない。裁きを受けるはずの死者を、私に何の報告も無しに連れて行くとは、仕事上では絶対にあり得ません」

「つまり、公にするとまずいってことか?」

「神は実際、その権力で好き勝手が出来ます。そんなに彼を拐いたければ、堂々と『用があるから』と曖昧にして連れて行っても問題ありません。ですが、その神は私にも隠れて行った。神が持つ権力は、彼ら同士の中ではそうはいきません。と言うことは、私が他の神に報告することを恐れていた。つまり、彼の誘拐は、神全体の決定では無いと言うことです」

「そ、そうなんですか?」

「まぁこれは憶測の一つなのですが、一番可能性が高いかと。そして理由は恐らく私情。もしくは誰かに頼まれたか。そこら辺を知りたいのです」

 

映姫の推論を聞いて、勇儀がポンと手を叩く。

 

「そういえば、その自称神は殺せんせー側にも報酬を用意していると言っていたぞ。もしかして、その殺せんせーって奴の何かが見過ごせなくて、何か与えようとしているんじゃないか?流石にただでは与えないようだけど」

「何かって?」

「さぁ…。何か善行をしたんじゃないの?」

「えええ、あの怪物姿で?」

 

パルスィが信じられない目をしている。しかしそこでお燐が口を挟んだ。

 

「あ!でもさとり様が言ってましたよ。『怪物姿なのによくここまで人の心を掴んでいるわね』、って。さとり様、奴の記憶を見たらしいんですけど、だいぶ感心されていましたよ」

「へぇ、さとり様がねぇ。じゃあ私の推測は合っているのかな?」

「さとり様が言うほどですからね!それは余程善行を積んだに違いありませんよ!それを神様はきっと見逃さなかったんですよ!ね!」

 

勇儀の言葉に、お燐が食いつくようにそう言って、今度は映姫を見た。突然顔を向けられて驚くが、映姫は落ち着きを払って答える。

 

「どうでしょうか。そのような善行があったにせよ、私は恨みや報いの方が可能性があると思いますが」

「え?何でですか?」

 

目を丸くするお燐。さとりの意見を信じて疑わないその姿は、主人に忠実だと言うべきなのかどうなのか。

 

「根拠でもあるんですか?」

「いえ、私もその神が何を考えているのかは知りませんが…。これだけは言い切れます」

 

小町の言葉を否定しつつ、映姫は次の言葉をはっきりと言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

「彼は、黒です」

 




本来、ゆかりんはこの作品のような立ち振る舞いはしないと思いますが…。展開のために少々無理に動かしています。
少し前、Twitterで「東方で、あるキャラを引き立てるために他のキャラを悪役にするのが嫌だ」という言葉を見かけました。同じ考えをもつ読者さん、安心してください。僕は完全な悪役は作りたくない派です。
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