「私たちが得たあの情報、…信憑性に問題は無かったかしら?」
ネカフェの一室、空間が歪められ、外からは認知できない状態の部屋で、紫は菫子に問うた。
「信憑性…、も何も、これは『国』からの発表よ。生徒が殺したとかはマスコミが言ってるから、事実確認は取れないけど」
菫子はパソコンを操作し、防衛省の発表の記事を映し出した。
「『超生物が月を破壊したこと』、『超生物が生徒を人質にとり、椚ヶ丘中学校の隔離校舎に潜伏していたこと』、『超生物が一年後に地球を破壊することを宣言したこと』、少なくともこの3点は、防衛省から発表されてる」
「それが嘘、っていう可能性はあるのかしら?」
紫の質問に、菫子は半ばイラつきながら返した。
「逆に聞くけど、国からの発表を信じなかったら、私たちは何を信じればいいわけ?自分の目で見たことが無いものを、どう把握すればいいの?国から得られる情報だって、根拠がわからないものは山ほどある。でもその情報は、私たちが得られる情報の中で『一番信憑性が高いもの』なのよ。…それを信じないってなったら、何が正しいのかを証明するだけでキリがないわ。国に噛み付きたきゃ勝手に噛みつけばいいわよ、でも何かできるわけでもないのにただ噛みつくだけなのは、意味がない、むしろ目障り」
特に最近のネットの連中は文句ばっか、と、怒りの方向がややズレ始めた菫子。
「…そうね、人から聞いた情報なんて、10割確実なんてことはない。いちいち信憑性を調査する暇はない。でも、」
私は、最初は目を瞑っていたことだけど、
「明らかに違和感のある点がある情報は、国だろうと何だろうと疑うし、文句も言うわよ」
紫の発言に、菫子は目を丸くした。
「…つい最近まで、私と一緒に『こいつサイテー』って言ってたのに、何があったのよ」
そんなJKみたいな会話は存在していなかったのだが、紫が最近まで『アンチ殺せんせー派』だったのは確かである。
「…私もこんなことは言いたくは無かったわよ、…でも、そうなる根拠が次々と湧いて出てくるから、仕方ないじゃないの」
あ、これはよっぽど悔しいのかなと、菫子は内心そう思った。
そしてしばらく、紫からの幻想郷の殺せんせーへの評価の話を聞く。何も話に手を加えることなく、ありのまま話す所から、紫の本気ぶりが垣間見えた。
「うーん、霊夢ッチが言うんならそうなのかもしれないな…」
「ちょっと、私よりも霊夢が信じれるってどういうことよ」
すかさずつっこんだ紫だったが、気づいて目を丸くする。
「…それよりも、貴方はこの話をすぐに信用するの」
「勘違いしないでよね、私は紫と違って意固地じゃないの」
ツンデレ風にそう言うも、菫子の目は真剣だった。パソコンに手を触れながら、菫子は口を開く。
「今や情報があちこちに一瞬で飛び交うネット社会。ニュースや噂の流通速度なんて、幻想郷と比じゃない。でもそれと同様に、デマや偽の情報も行き交う」
猛獣が動物園から逃げ出した。特定の必需品がある騒動で作れなくなり、店から消える。
勘違いや早とちりから生まれたものから、悪戯や悪質な思いつきから出たものまで、世に出たデマ情報は、電話が相次ぐ、買い占めが起こるなど、少なくとも良くない状況を生み出してしまった。
「情報の信憑性をすぐに問い詰めることができない私たちは、その情報を受け入れてしまう。これはある程度仕方ないことだと思ってる。だから大事なのは、自分の情報を速やかに修正すること。意地を張らないで、他の人の意見を受け入れること。
こっちの世界には、メディアリテラシーっていう言葉があるの。いろいろ意味はあるけど、要は情報を見極め、正しく使って活発に活動しようってこと。これを守れることを前提に、この世界は回ってる。だから間違っていることを自覚しながら修正しないと、世界の動きを妨害してるってことになる」
『刻々と成長している外の世界では、その成長度合いに合った立ち振る舞いをしなければ、新しく手に入れたものを使いこなすことはできぬ。例え賢者であっても、知らないことをしろと言われてもできんじゃろう』
マミゾウがそう言っていたことを、紫は思い出した。ネット環境が流通していない幻想郷ばかり見ていては、ネットで得た情報を使いこなすことは容易ではない、ということなのだろうか。
「…、だから私は、間違ってるって言われているなら、認める。証拠も大分揃ってるし、調査する価値はあると思う。…けど、」
菫子の、先ほどまで堂々と話していた表情から、困惑した顔に変わる。
「どうするのよ、防衛省以上に信頼できる情報源なんてないわよ。それどころか、ネットにあるほとんどの情報は、防衛省の情報と似たようなものよ。私は別に情報のスペシャリストじゃないし…」
「…菫子、最も信頼できる情報って、何だと考えているかしら?」
紫が突然、菫子に質問をふっかける。戸惑いながらも、菫子は自分なりに答えた。
「長い間の信頼を築いた、家族や親友…とか?」
「それ以外の人からの情報は、全く信じないってわけ?」
「いや、それだとやりにくいと思う。相手を信頼しなきゃいけない場面も沢山あるし…。てか、何が言いたいのよゆかりんは」
菫子に逆に質問されて、今度は紫が菫子を見据えて話す。
「私も無知なりに考えたわ。『ねっと』の情報と私たちが普段使っている情報との差を」
「差…?それは結構あると思うけど」
パソコンを使う、使わない。匿名で出来る、出来ない。多くの点で、ネットの情報は他の物と比べて差別化できる。
しかし、紫が重視している点は、
「重要なのは、『顔』だと思うの」
「顔…?」
「人やそれに似た私たち妖怪は、ただ耳で相手の話を聞くわけじゃない。表情の動きを見て、相手の感情も組み込んでより深く情報を得るの」
嬉しそうだったり、悲しそうだったり、怒っていたり、疲れていたり、…そして、
「嘘をついてる時だって、だいたいわかってしまうわ。目が泳いだり、逆に目が据わっていたり、…人の顔は、何か変なことをしようとすると、大抵はいつもとは違う感じがするものよ。そういう意味でも、人の顔を見ながら得た情報は、『ねっと』の情報に比べて信頼性が高いと、私は思う」
「…つまり、ネットの情報にはもう頼らないで、誰かに話を聞こう、ってこと?誰に?」
要領を得た菫子は、紫にこう聞き返した。…が、実はなんとなく答えは予想できている。
紫は、ここ最近で初めて、ニヤリと企んでいる顔で笑った。
「当然、『当事者様』達よ」
その男は、崩れた三日月の下で、帰り道を歩いていた。
一つの大変な仕事がようやく落ち着き、今は元の生活に戻りつつある。…いや、家に帰れば、いつもと違う生活にはなるだろう。だがその生活もやがて、日常となるはずだ。「ただいま」と言えば、返事が返ってくる生活が。
男は家のドアを開け、「ただいま」の「ただ」まで言いかけた。途中で止めたのは、
「っ!?」
玄関に入りきるまでに足を止めた。あと一歩踏み出せば、
「あっ!烏間、ごめーん。仕掛け外すの忘れてた〜!」
そう言って駆け寄ってきて、足元の罠を外す金髪の女に、烏間惟臣は目を怒らせてつっこんだ。
「どういう状況になったら、家の玄関にワイヤートラップが仕掛けられることになるんだ!」
「だからごめんってば、私の勘違いだったの」
申し訳なさそうには見えない態度で、イリーナ・イェラビッチは謝っている。
「勘違い?どう勘違いしたんだ」
「まぁとりあえず中に入ってよ」
言われるがままに誘導され、不審そうに中に入る烏間。そして居間の中に入ると、声を出した。
「…誰だ?お前は?」
「初めまして。私、八雲紫と申しますわ」
「わっ、私は宇佐美菫子です」
さも当然のように座っている紫とオロオロしている菫子に、烏間はただただ困惑する。これはコスプレか?
「ねー?いきなり家に金髪の人妻と若いぴちぴちのJKがいたら、浮気とか疑っちゃうでしょ?」
人妻と認識されているということは、それなりの歳を取っていると見られているということである。菫子はぎくりとするが、紫は人妻が意味することがよくわかっていない様子なので、胸を撫で下ろした。
「おいお前、知らん奴を家にあげたままなのか?」
「まーまー、そんなに怒らないでよ。ちゃんと訳があるみたいだから」
「訳?」
「とりあえず、私は先に聞いたけど、あんたにも聞きたいらしいから、座って座って」
言われるがままに座り、紫と向き合う。
「良くわからんが、単刀直入に用件を言って欲しい」
「あら、それはありがたいです。では…」
烏間の言葉に、紫は少し微笑んで聞いた。
「黄色い超生物について、お聞かせできませんか?」
ムッ、と、烏間は硬い顔をした。しばらくこの手の取材も無くなってきたというのに、久々にやってきたか。しかも人の家にまで上がり込んで。
「…そのことなら何遍も同じことを、幾多のマスコミにお知らせした。それ以外には言うことはない。…不法侵入のことは目を瞑ってやるから、さっさと帰ってくれ」
「あらあら、そうでしたの。気分を害してしまって申し訳ありません。ですが私がお聞きしたいのは、『超生物』についてではなく…」
キラリと、細めた紫の目が光った。
「『殺せんせー』についてですわ」
ぎくりと、烏間の身体が震えた。瞬時にイリーナを見ると、「私が教えた訳じゃないわよ」と返される。
「…その名をどこで聞いた、部外者どころか、政府も知らない名だぞ」
「あら〜、そうだったんですの?」
わざとらしくてうぜぇ、と菫子が紫を睨む。
「…こちらの事情をお話ししてもよろしいかしら?聞き捨てならない面もありますが」
「…いいだろう」
烏間が頷くと、紫はニコリと笑って話を続けた。
「私たちは、いわゆる『異世界』からやってきましたわ」
「!?」
「その異世界に、殺せんせーは死後にやってきました。どうやら神によってゲームをさせられているみたいですの」
「か、神だと?」
「しかし殺せんせーは月を破壊するほどの超生物。最初は私が排除しようとしたのですが…、脅威的な存在なのに、敵対する必要がないと周りが言うのです。実際にそれらの証拠もいくつか挙がっています。そこで隠された真実を探るべく、超生物の担当だったあなたにお聞きする、という次第ですわ」
「ま、まて、話は一応わかったが、その前にいくつか…」
「残念ながらその質問には応答できません。一度聞くと芋づる式で次々と出てくるものですから、日が暮れますし、1日であなたが理解できるとも思えません」
「いやしかし…」
困惑する烏間に、菫子が手を挙げた。
「失礼します。私たちはマスコミではありません。…なので、こちら側の世界の部外者に情報を漏らすことは一切しません。私たちの問題を解決したいだけです。…不可解な点は多いですが、信用してお話しをお願いします」
しばらく黙り込む烏間。やがて紫の顔を見て、
「…見た目や話から明らかに『おかしい』と感じる相手を信用するには、流石に無理があるのではないか」
「では、貴方は政府の発表が全て正しい、ということで問題はないのかしら?」
「……そうだ」
そう頷いた烏間の様子は、どう見ても本心からには見えない。紫はここてダメ押しをする。
「殺せんせーが教師として働いている間、生徒が笑っていても?瀕死の人を救える技術を持っていても?生徒が彼にとどめを刺す時、…皆が泣いているとしても?」
ピクリと、烏間の肩が震えた。
「それでも貴方は、彼をただの邪悪な超生物だと言い張れるのかしら?」
…そんなことはない。
俺は生徒ほどでないが、奴をずっと側で見てきた。
生徒がやる気をなくしたら、すぐさま全力で応援して、
生徒が侮辱されたら、その仕返しに全力でサポートして、
生徒が道を誤ったら、揺るぎない態度で叱りつけ、
生徒が危機に直面したら、なりふり構わず助けに向かって、
生徒が笑えば、奴も笑い、
生徒が泣いても、奴は笑った。最期まで。
奴は…、
「…俺は、」
「はーいお待たせ〜」
俯いた烏間の言葉を、突然出てきたイリーナが遮り、何やらプリントされた紙を紫に手渡す。
「これ、うちの生徒の顔と進学先のリスト。流石に住所までは教えられないけど、これでいいかしら?」
「十分です、ご協力ありがとうございます」
「あっ、ゆかりんが持っても意味ないだろうから、私が受け取ります」
安直に生徒の個人情報を手渡すイリーナに、烏間は目を怒らせる。
「イリーナ、お前…!」
「いつまで『堅物』でいるつもり?」
イリーナは腕組みをして、座っている烏間を見下ろす。
「政府だとか個人情報だとか、堅苦しいこと考える必要、ある?もっと気楽にいきなさいよ」
「気楽だと?いくらなんでも、」
「私は彼女らを信じるわよ。…だって、」
イリーナは、懐かしむような、哀しいような、…嬉しいような目で、紫を見つめた。
「ここまで私たちのクラスを知ってくれてる人は、初めてだもの」
「っ…」
目を見開いて固まる烏間を無視し、イリーナは紫らを持ち上げるように立たせた。
「さぁもう帰った帰った。こんな堅物に聞いたってもう何も出てこないわよ。さっさとガキたちに聞いてきなさい」
「…突然家に押し入り、申し訳ありませんでしたわ」
「じゃあね!ビッチ姐さん!」
「おいこら、そんな呼び方どこから聞いてきた!」
騒がしく玄関まで出て行く3人。しばらく動けないでいた烏間は、弾けるように立ち上がり、紫らの背中に叫んだ。
「…俺は!」
3人は立ち止まり、ゆっくりと振り返って烏間を見る。烏間は近所迷惑にならないよう、声を抑えて、最後の言葉をかけた。
「俺は、奴ほど良い教師は見たことがない。…それだけ伝えておく」
少し驚いた顔をした紫だったが、すぐに笑いかけ、
「重要な情報を、ありがとうございます」
軽くお辞儀をして、菫子と共に外へと出て行った。
「ゆかりん、今日体調良くないの?」
「は?」
「まるで殺せんせーがいい人みたいな話し方してさ。コロッと変わりすぎじゃない」
「ああ、そのことね。てっきりあそこまで言えば『違う、奴が邪悪なのは間違いない』って言ってくれるはずだったのよ。それがあの堅物、素直に黙り込んじゃって」
「ほんとかな〜?」
「…本当だろうと何だろうと、これはもう自分の意見を通せなくなっているわ。私は素直に考えを改めざるを得ない。諦めて認めるとするわ。あ、明日も手伝いよろしくね」
「ええ!?こんな夜中まで付き合わせておいて、明日もこき使うわけ!?明日はゆっくり寝させてよー、美容に悪いのよ!」
「どうせ寝たって、貴方はその間幻想郷で遊び呆けるだけじゃないの」
東京都、椚ヶ丘市に位置する、偏差値70以上の私立高等学校、椚ヶ丘高校。
付属している椚ヶ丘中学校が、超生物に関わっていることと、E組の制度が問題視され、前理事長である浅野學峯が解任されたことから、当時は高校にもマスコミが詰め寄っていた。だが最近は防衛省同様、元の生活に戻りつつある。
そんな中、椚ヶ丘高校一年の1人の生徒が、授業終わりに紫に捕まった。
「えっ、何?コスプレおばさん。俺に何か用?」
開幕から笑顔で重いパンチを放つ赤羽業。顔を歪ませる紫を、菫子が何とか抑え込む。
(初っ端から雲行きが怪しくなる奴が出てきた…)
何とか自制した紫は、いつもの余裕そうな顔をする様に心がけ、カルマに聞く。
「少し聞きたいことがあるのだけれど、よろしいかしら?」
「え、何それ、コスプレして取材か何か?」
「ま、まぁそんな感じです」
カルマの問いに、菫子がぎこちなく答えると、カルマは少し向こうを指差した。
「何か聞くなら、あいつに聞いた方が早いよ。マスコミ慣れしてるし、学力もトップクラス。まぁ一位の座は俺が貰うけどね」
指の先には、女子に囲まれる浅野学秀がいた。こちらに気づき、指を向けるカルマに嫌そうな目線を向ける。
「俺なんかに聞いても何も出ないよ」
「いいえ、貴方じゃなきゃいけないのよ」
「…?」
紫が何を言っているのか、一瞬考えるカルマ。やがて紫の目的に気づくと、目の色を変えた。
「…へぇ、まだそんな古臭いネタを追いかけてる奴なんかいたんだ。生憎だけどそれに関しても何も出せない。言えることは全部政府が言ってくれてるし」
そう言ってするりと抜け出そうとするカルマを、紫は腕を掴んで止めた。
「いいえ、『超生物』のことじゃないわ。
…『殺せんせー』、のことよ」
その名を紫が口にするや否や、カルマの顔が変わり、パッと紫を振り向いた。その名はどこからも発表されておらず、E組しか知る由がないもののはずだ。
「…ねぇおばさん、何考えてんの?」
「何も真実を騒ぎ立てたいわけじゃないわ」
今更「超生物は悪くない」と言ったところで、大人数に押しつぶされるのがオチである。
「私たちはただ『真実』が必要なだけ。それによって私たちがとる行動が変わるの」
「…具体的に言ってくれない?」
「そうね…」
少し悩んだ末、紫はフッと笑ってカルマに言った。
「もし、殺せんせーの魂がまだ残っているとして、その魂を消すかが私にかかっているとしたら?」
「…はぁ?言っていることがよくわからないだけど」
「そうよねー、結局のところ、その結論に至っちゃうのよね」
突然声を上げてお手上げのポーズをとる紫。その姿を見て菫子がポカンとする。
「死んだ人間が生き返ることはない。そもそも魂云々の話も、想像上の話にしか聞こえない。『ありえない』話を信用することができないのが、この世界なのよね。烏間惟臣もそう言っていたし」
「…は?烏間さんにもあったの?」
紫が出した烏間の名前に、カルマは敏感に反応した。
「そうよ。あの人は最終的に、政府の発表とは明らかに違うことを言ってくれたけどね」
「録音もしてあります」
菫子が端末を操作し、烏間の発言を再生した。地味に抜け目ない。
「カルマさんの発言も録音するつもりですが…」
「…さて、貴方はどうするかしら?信じられない話だからって無視するのは仕方ないけど、それによって殺せんせーが本当に消えることになっても、文句は言わないで…」
「…いいよ、話してやるよ」
頭を掻いて、カルマは諦めたようにそう言った。
「堅物の口を開かせたとなったら、信じるしかなさそうだし」
「あら、ご協力ありがとう。じゃあ、コスプレおばさんとか言った分も、情報を提供してくださいね」
(ゆかりん、まだ気にしてたのか…)
紫の指摘はスルーし、カルマはやっとのことで口を開く。
「俺さ、先生が嫌いだったんだよ。今まで俺を見てくれてると思ってた奴がさ、目の前で皮膚が剥がれてって、中にいる鬼みたいなのが見えてくんの。先生なんてろくなもんじゃない、って思ってたところに、今度はあのタコが現れた」
教師として死ぬか、物理的に死ぬかという選択を殺せんせーに迫らせるため、カルマは武器を持って崖から飛び降りた。結果的には殺せんせーに上手いこと避けられたが、その時に殺せんせーは、「生徒を見捨てるという選択肢は私には無い。安心して飛び降りてください」と言った。
「頭おかしいでしょ、そんなこと言う奴」
ヘラヘラと笑うカルマだったが、顔がすぐに真剣になる。
「それでも俺は少し嬉しかった。俺をちゃんと見てくれるんだって、そう感じた」
それに先生を暗殺する教室も楽しかったし、と、今度はニヤリと笑うカルマ。笑い方のバリエーションが豊富だ。
「生物としては完全にアウトだけと、教師として、俺はあのタコを尊敬してる。それはうちのクラス全員の総意だと思うよ」
(クラス全員…)
本当にそうであるかは、これから聞き出すことだが、カルマの話だけでも説得力が強い。高校一年にして、生意気に大人の強さが垣間見える。
「…もういいでしょ、こんなこと言うの俺の柄じゃ無いし」
「ええ、十分よ。ありがとう。…それと、ごめんなさいね」
「…?」
何故紫が謝るのか、聞き返そうとしたカルマだったが、その前に、
パチン!
カルマの目の前で、紫が指を鳴らした。
「な、何してんのゆかりん」
「ほら、ボーッとしないで、次に行くわよ」
菫子の手を引っ張る紫。カルマの前からそそくさと姿を消す。
カルマは一瞬ポカンとしていたが、ふと気づいたように2人を追って駆け出した。しかし、曲がり角で見失ってしまう。
「…」
カルマはあらぬ方向をしばらく見つめた後、くるりと背を向けて、その場を離れた。
「指パッチンで記憶を消した!?ゆかりんそんなことできたの!?」
驚愕する菫子に、紫は手袋を着けながら答えた。
「言っとくけど、うちの幻想郷の奴らには通用しないわよ。霊力や妖力を持ってない、いわゆる雑魚にしか効かないから」
「それはまたなんで?」
「指から出す妖力が微量だからよ。霊力や妖力を持ってるやつにやっても、簡単に打ち消されちゃうだけだから」
脳は非常に繊細で、力が強すぎたり、当てる場所を間違えると、どんな障害が発生するかわからない。その2つを意識しなければならないため、出せる力は雀の涙、というわけだ。
「まぁ障害度外視でスキマを使って脳を鷲掴みすれば、誰にでも効果はあるけど」
「うげぇ」
グロい話になるのが嫌な菫子は、すぐさま話題を転換した。
「次行こうよ、次」
「…そうね、ゆっくりもしていられないし。次は誰?」
「出席番号順に聞いているから、次は…」
「…幻想郷の賢者が、余計なことしているな?」
「そうなんですか?」
「まぁ気にしなくとも良いだろう。我らに過ちはない。もしあの賢者が出しゃばるならば…、
…その程度の賢者だということだ」
何度か言ったと思いますが、作中に出てくるものは僕としての『意見』がほとんどです。なので深く考えない方がお互いのためになるかと…、ならない?すみません。
次は半分くらいできているので、今度こそ早めに投稿出来ると思います。