今回はゼルダとかスプラとかしてたからってわけじゃなく、単純にやる気が失せてました。倦怠期かな?ちまちまとは書き連ね、本腰を入れたのが昨日です。もう物書きやめちまえよと思いますが、楽しいから今でも続けてるんでしょうね。
それとは別に下調べの期間もあったことも原因です。月の都編に入ると、どうしても調べておかないといけない気がしたので…。ちなみに儚月抄揃えました。教材としてでもありますが、単純に東方の書籍を一つは買ってみたかったんです。みんなも買えよ。
そんなこんなで、カタツムリよりも遅いこの作品。今日はいい感じの展開まで行ってます。がっかりしない程度に期待してください。
追記
霊夢のセリフを一部修正しました。儚月抄の内容と異なる点があったので…。その他、原作と矛盾していると思ったら、遠慮せずに指摘してください。謝ります。
筆を立てて、スラスラと紙に字を書くサグメ。やがて書き終えた一枚の紙を見せた。
『貴方達にもわかるように、出来るだけ簡単に説明する。よいか?』
「…若干煽られてるのが気に食わないけど、賢者らしく難しい言葉を使われても嫌だから、別にいいわ」
霊夢が認めたのを確認すると、サグメはまたサラリと書いて見せた。
『よろしい(^_^)』
「は?」
ポカンとする霊夢をよそに、サグメはまた新たに書き出した。
『「殺せんせー」という人物が、死後の世界に行かずに幻想郷を出入りしているのは、とある神のおかげである。その神の力で「殺せんせー」は一時的に肉体を持ち、幻想郷を駆け回っている。( ・ω・)』
「…それは大体知っているけど」
『だが、そのように仕向けたのは神ではなく、神と親交のある人物である。(`・ω・´)』
「ねぇ、こいつふざけてんの?」
耐えきれずに霊夢が優曇華に聞くと、何事もなく受け答えされる。
「いえ、筆談でも感情を伝えられる方法を、この前面霊気の踊り子さんに教えてもらったので、それをそのままサグメ様に」
「無闇に喋れないだけで、表情が動かないわけじゃないでしょ…」
そもそも顔文字自体何処から来たのか、とは思うが、それは当然、守矢の風祝と超能力高校生が原因である。
「で?それが月とどういう関係な訳?」
『今から順に説明するから、落ち着け。
(ノ・ω・)ノ』
「こっの…」
身を乗り出しかける霊夢を、紫がガシッと掴んで止める。その間にスラスラと筆を進めるサグメ。次に見せた紙には、
『神にそうさせるよう仕向けた人物は、月の一番上に当たる者である』
「って、××様がですか!?」
横から耳元で優曇華が声を上げ、霊夢はビクッと優曇華から離れる。それを受け止めつつ、紫は優曇華に聞いた。
「知っている人物なの?」
「いえ、お目にかかったことはありませんけど。××っていうのは、名前じゃなくて地位名です。でも、何でそのようなお方がわざわざ…」
「で、何て言ったのかしら?よく聞き取れなかったのだけれども」
「××様です。って、多分聞き取れないですよね」
「そうね、聞き取れないわ」
「師匠の本名みたいに、地上だと発音できないやつですね」
聞き取った言葉を日本語に変換できないのは不思議な気分である。外来語ですら、強引に日本語に出来なくもないというのだが。
『そちらの言語で合わせるならば、「月夜見様」である。貴方の知っている人物とは少し違う。現在そのお方は綿月豊姫と共に、月の都の外へと視察に行っている』
「豊姫さんと!?」
綿月豊姫といえば、第二次月面戦争で紫に頭を下げさせた、末恐ろしい人物である。紫としてはあまり触れられたくない点であるが、
「あ、もしかして紫をボコボコにした奴?」
霊夢は少しヘラヘラした様子でそう言った。負けじと紫は即座に反論する。
「ボコボコにされてないわ、お互いに傷つくことは無かったもの」
「でも完敗だったわよね」
「私は囮だったのよ?結果的には戦争に勝ってるわ」
「酒を一つ掻っ攫ったぐらいで何偉そうにしてんの?第一その酒を飲む時、最初から私も呼びなさいよ!寄越して来た時、もう半分くらいしかなかったじゃない!住吉三神を呼び出そうと儀式した時から、依姫に月の都を連れ回されて帰ってくるまで、あんたらよりも長く働いてたのよ!?」
「不在期間が長すぎて、天狗に『博麗の巫女、交代か?』って記事を書かれそうになってたわね」
「あんたのせいでしょうが!」
口論を続ける紫と霊夢を放っておき、優曇華はサグメに続きを聞いた。
「つまり、今の××様は辞められたと?」
『そうではない。あくまでも今は代理を立てているだけで、じきに戻ってくる。だがその視察の旅は一年前からずっと続いている。それまで代理が務めていたのだが、その者は仕事は出来るが、判断力等はまだその域に達していない。我々もそれを承知ではあったが、その行動は我々の予想を遥かに逸脱していた。((((;゚Д゚))))』
「それが、殺せんせーに対するゲームって事ですか…。って、コラ、話を聞いてください」
優曇華は耐えられず、後ろで騒ぐ紫と霊夢を収める。
「で?いくら馬鹿でもきっかけがあるでしょ。何が原因でこのゲームを始めてるの?」
「何事もなかったかのように始めないでください」
優曇華のツッコミを霊夢は無視する。次にサグメが書いた紙には、
『それは周知であろう。無論、表の月を破壊したことだ』
月の7割が蒸発した大爆発。幻想郷の月には変化が無くとも、実際に月の妖力は減少していた。その影響が、月の都でも発生していたとは考えていなかったが、よく考えれば納得がいく。
『貴方達が承知の通り、月の表と裏は表裏一体。あの爆発の際に月の都は大地震に見舞われ、一部で地殻変動が発生した。それ程の問題であるなら、当然その元凶を恨まずにはいられない。これは超生物への復讐であるのだ』
『しかしながら、この災害の原因については、上層部の一部しか知らされていない。地上の穢れにわざわざ首を突っ込むことは避けておきたく、そもそも対象が一年で死亡したのだから、今になって市民や兎達に知らせたところで、何か得があるとは思えない。よって公に公表することは無かった』
『しかし月夜見様の代理は、何故か復讐しようと躍起になっていた。やがて繋がりのある神を通じて、今のゲームを計画し、実行した。何故これが復讐になるのかは疑問だが、恐らく死の恐怖を与える為であると我々は考える。通常の人間ならば、大人数から敵視され四面楚歌の状態で常に死の恐怖と痛みを感じるのだから、さぞ辛いだろう』
「まぁでもアレは人間じゃなくて怪物だし、このゲームを楽しんでるから、ほとんど意味なさそうだけどね」
立て続けに出された紙を読みながら、霊夢はボソリと呟いた。と、その時、
『それである!σ゚ロ゚)σ』
突然サグメが、そう書かれた紙を突き出しながら霊夢を指差すので、霊夢は思わず後退りした。続けてサグメが次の紙を突き出す。
『このゲームは、対象に対して一切の復讐の役割を果たしていない。それもほぼ序盤から、である。初めは「余裕でいられるのも今のうち」とたかを括っていたようだが、最近は苛立つ事が多くなり、それに比例して、仕事も粗が目立ち始めている』
『このゲームは隠密に進めているらしく、情報を漏らさまいと常に我々にも目を光らせていたが、最近になって集中も切れ始めたことから、賢者の中から私が一人抜け出し、永琳様に助けを乞うことを決めた』
「…それも謎よね。何で『穢れ』に助けを求める訳?穢れは貴方達が一番嫌ってるものじゃないの」
『それ故である。もう我々は代理を下ろすどころか、ほぼ追放しても良いという判断を下した。我々がいう「穢れ」は、生死のことである。その生死を軽々しく扱うことは、寿命を捨て「穢れ」を取り除いた月の都の本質に大きく矛盾し、認められることでない。よって貴方達「地上の穢れ」によって代理を追い詰めることにより、「穢れに屈した」という汚名を着せる為、助けを乞うたのだ』
霊夢の疑問に対する返答を聞くと、何ともえげつない手法である。しかし、かえって自分達を馬鹿にされているように感じた霊夢は、ますます不機嫌な顔になった。
ところで、この話を聞く限り…、
「つまり私達に、月を侵略しろって言いたいの?第三次月面戦争の始まりじゃないのよ」
『侵略とまではいかない。代理を屈することができれば、後は我々が手配して後処理を行う』
つくづく都合の良い話である。報酬はあるかもしれないが、霊夢側にはほとんどメリットが無い。しかし月夜見代理を潰せば、幻想郷を舞台にした迷惑なゲームは終わり、殺せんせーは無事に成仏する。
「…もう少し私達側の利点を」
「提案してもいいかしら」
悩んだ末、霊夢が口を開くが、その言葉を邪魔するように紫が割り込んできた。このBBA、と霊夢が文句をつけようとするが、紫の次の台詞に絶句した。
「殺せんせーが攻め入る、っていうのはどうかしら?」
サグメもそれは考えていなかったらしく、珍しくしばらく固まっていた。紫は立て続けに言葉を繋げる。
「要は月夜見代理を、圧倒的な屈辱で打ち負かせばいいのでしょう。恨みを持つ相手にやられたら、それはそれは精神的に堪えると思うのだけど」
『…それも一理ある。だがこちらとしての責任から、「殺せんせー」を駒に使うことは憚られる。代理は精神面が弱いことから、地上の穢れにやられることで十分打ちのめせるはずだが』
ちゃっかり「紫らは駒にしても問題ない」と言っているようなものだが、話が進まなくなるので無視する。
「本人は気にしないはずよ。今は『楽しむ』ことしか考えていない様子だから。月に都があるだなんて知って、そこに乗り込むって言われたら、すぐにでも行きましょうとか言ってくるでしょ。そもそも私たちは、ドレミーから殺せんせーの協力が必要って聞いてるわよ」
『勝手なことを…。それで、突破できる保証は』
「貴方が私達に対して乗り込みを提案したってことは、あの圧倒的科学力組織を上手く丸め込んで、私達『でも』突破できるような下準備はしてくれる、ってことでしょう。その状況で、突入して代理の元へ行くだけなら、あの超生物なら1秒で突破するでしょう。どうせなら取り巻きや護衛も退けなくていいわ。全員こっちが無力化してあげる」
随分なものの言い方である。第二次月面戦争時には、たった1人の月人に屈したのだが、その自信はどこから来るのか。
『…助け無しに成し遂げられるのか』
「もちろん、ある程度は助けてもらわなくちゃ困るわ。でも『侵略された』ことを全面的に出す為に、まずは代理の取り巻きからこっちで潰さなくちゃ、後々困らない?」
「いやいやいや、澄ました顔で言うけど、あなた何言ってんの?正気の沙汰じゃないわよ」
あまりに挑戦的すぎる紫に、霊夢が待ったをかけた。
「たった2人の月の姉妹に、あなたと私と魔理沙とレミリアと咲夜が、容易く止められるのよ。幻想郷で使える戦力をかき集めても、突破できる保証は少ないんじゃないの?」
「戦力にはアテがいくつかあるのよ。とりあえず作戦を話すから、質問はそれを聞いてからにして頂戴。あと永琳と輝夜を呼んできて」
そう言いつつ紫はサグメの手元に置かれた紙をいくつかひったくって、何やら図面を描き始めた。指示された優曇華はやや疑りながらも、「わかりました」と2人を呼ぶ為に席を立った。
情報を全然話してくれないので、何も言えない霊夢に、サグメが新たな紙を差し出した。
『何故ここまで協力的なのか。そちらにこれと言った利点が無いはずだが、この女は何を考えている( 'ω')?』
「この女の頭の中はあまり知りたくないけど…」
嫌な顔をした霊夢は、次には面倒そうな顔になり、投げやり気味にこう言った。
「どうせ第三次月面戦争と重ねようとしてるんでしょ。今のところ一勝一敗らしいから、勝ち越したいだけじゃない?」
ムッとしたサグメは、素早く次の紙を出した。
『ならば今度4回目の戦争を起こせ、再起不能にしてやる』
「さらりとえげつないこと言わないでよ…」
そもそも紫なら勝ち逃げで、もう2度と戦争を起こさなそうではあるが。それに純狐やヘカーティアが起こした騒動を含めると、(意図せずに)月を救った恩として、既に地上側は勝ち越しているのではないだろうか。
…そういえば、この2人の危険人物を忘れていた。今の頭首代理がそれ程使えない者ならば、いつ付け込まれるかわからない危険な状況なのだろう。
(やけにグイグイ来ると思ったら、そういうことなのね)
そんなことを考えていると、優曇華が永琳を引き連れて戻ってきた。
「どうやら近くに『奴』が潜んでるみたいです。姫様が連れてくるとの事なので、行ってもらいました」
「そう。ホントは作戦を聞いて欲しかったけど…。あまり時間は気にしなくていいから大丈夫よね」
紫は全員を机の側に呼び、紙をいくつか広げた。
「殺せんせーが来る前にしておく話をするから、よく聞きなさい」
「既にその作戦を実行するって決まった雰囲気にするな」
霊夢のツッコミを無視し、紫は作戦会議を始めた。
この数時間後、殺せんせーが永遠亭を訪れることとなる。
永遠亭は、白玉楼とはまた違った雰囲気を漂わせていた。それを感じて、しばらく耽っている殺せんせーをよそに、妹紅が輝夜に聞いた。
「おい輝夜、何でここに連れてこられなきゃいけなんだ」
すると、輝夜が笑顔で次のように答える。
「あら、妹紅には用ないから、もう帰っていいわよ」
「は!?」
「ていうか、最初から用はなかったから、邪魔だったんだけど」
「おまっ、そこまで邪険にする必要ないだろ!しかも笑顔で、傷つくわ!そもそも私はあのタコをぶちのめす為に…」
そう言って妹紅は殺せんせーを指差すも、殺せんせーは2人の会話など聞いておらず、近くにいたイナバにちょっかいをかけていた。
「このウサギ…、ただのうさぎじゃないですね!何と可愛らしい…。この生物に囲まれた生活など、一度体験してみたいですねぇ」
「お前は何してるんだ!」
妹紅が突っ込むと、殺せんせーは一体のイナバを抱え上げて振り向いた。
「見てください、このお顔!まるで私みたいですね!」
「どこが!」
「顔が簡単なパーツでできていて、それでいて人々を魅了する点ですよ(うどんげっしょー参照)」
「お前はそこまで魅了しねーよ!むしろ腹立つ!」
イナバ達がウロウロしているので、迂闊に炎は放てない。飛び蹴りでもしてやろうかと妹紅が構えたところで、永遠亭の一つの襖が開いた。
「お待ちしておりました。えーと、殺さま」
「殺せんせーでいいですよ」
現れたのは永琳だった。言いにくそうな様子だったので、殺せんせーは助け舟を出す。
「姫様もご苦労様です」
「どもー」
「姫様?ということは、貴方がかぐや姫様ですか!?」
「もっと驚いてくれたっていいのよ」
聖徳太子に続き、またもや殺せんせーは輝夜に頭を下げる。それを見てご満悦な輝夜を指差して、妹紅は永琳に訴えた。
「おい永琳、私こいつに勝手にここに連れてこられたのに、酷い言い方で用はないって言ってくるんだ。なんとか言ってやれ」
一瞬ポカンとした様子の永琳だったが、既に真顔でこう言った。
「貴方、何でここにいるの?用がないなら帰って頂戴」
「お前もか!」
永琳までにも言われる妹紅に、輝夜が追い討ちをかける。
「うるさいわね、貴方が私の領域に入ってくるからいけないんでしょ」
「お前が勝手に乱入してきたんだろうが!」
「領域とは?」
殺せんせーが頭を下げたまま問いかけると、輝夜はまだ嬉しそうな様子で教えてくれた。
「私は永遠と須臾を操る程度の能力を持つの。須臾っていうのは、まぁものすごく短い時間ってこと。色々と応用が効くのだけれど、今回は速度に関していじって、貴方の超高速についていけるように、こう、なんか、いい感じに調節したのよ。その調節した領域に妹紅が入っちゃったから、一緒に来ちゃった訳」
説明にしては曖昧な部分があるが、この能力自体、不明な点が多いので半分は仕方無い。もう半分は輝夜が途中で面倒になったからである。
「ところで、私は何故ここにお呼ばれしたのです?」
「説明は中で致します。どうぞこちらへ」
「妹紅は入ってこないでね」
永琳に案内されて永遠亭に入る殺せんせーと、妹紅にアッカンベーする輝夜。3人とも中に入ってしまい、妹紅は1人取り残されてしまった。
肩をポンポンと叩かれて、振り返ると、そこにはてゐが、哀れんだ顔で妹紅を見ていた。
因幡てゐ(いなばてゐ)
妖怪兎
非常に長生きな兎。
悪戯を生きる楽しみとしている。
被害者はほぼ優曇華院。
「同情するよ」
妹紅はしばらく死んだような顔をしていたが、やがて口を開いた。
「…お前、ちょっと遊んでくか?」
「やだ」
そう言っててゐはイナバ達を引き連れてどこかに行ってしまった。イナバすら近くに居なくなった状態で、妹紅はまた死んだ目の状態で突っ立っていた。
(片腕の仙人の所に行くか…)
そう結論を出した妹紅は寂しそうにトボトボと永遠亭を後にした。
部屋に案内された殺せんせーは、ここに霊夢と紫がいたことに驚いたが、それよりも初めて見る少女に驚愕していた。
「はっ、羽が生えてます!凄い!触らせてもらってもいいですか!」
『断る(乂ω・)』
しかし、サグメが紙に書いて見せるまでの間に、殺せんせーは十分堪能していた。
「素晴らしい触り心地でした。これほど立派で大きな羽を持つのが人間だとは、実に素晴らしい。って、」
満面の笑みだった殺せんせーだったが、あることに気づいて一気に顔が青ざめる。
「あ、貴方!羽が片方無いじゃないですか!もがれたんですか!酷い!」
『誰かこいつを黙らせてくれ:( #´°ω°` ):』
ひとまず殺せんせーを落ち着かせ、まずは月の都への突入について聞かせる。月に都があること、圧倒的な科学力を持っていること等、逐一、殺せんせーが興奮してしまうので説明に手間取ってしまう。
一通り説明が済んだ後、
「私がこのゲームを始めるきっかけになった人物を、攻めるのですか…」
「嫌なの?貴方が逃げ切った時の報酬は、向こうに頭を下げさせて、お詫びって形で貰えばいいじゃない。」
少ししょんぼりした様子の殺せんせーを見て、霊夢が言ったが、殺せんせーは否定する。
「いえ、私としては、もう少し幻想郷を楽しみたかったのですが。…いえ、私が乱入することで、幻想郷も迷惑だったかもしれませんね。そろそろ幕引きといった頃合いでしょうか」
「別に私はいてもいなくてもどっちでもいいんだけど…。幽々子経由で聞いた話だと、もう貴方は死後の世界に行くことが義務付けられている。今は神の強行でここにいるけど、長くはいられないとは思うわね」
霊夢の言葉もどこか悲しさを含んでいた。その横でサグメが紙を見せる。
『それに到着を待つ間に、こちらとしても今すぐに突入してほしい状況となった。月の都を代表して、今日中に決着をつけることをお願いしたい』
「なぁにそれ、私知らないんだけど」
「あんたは先行隊の準備があったから知らないだけよ。そのうち説明するから」
どうやら殺せんせーが到着するまでの間に、状況が変わったらしい。事情はわからないが、今すぐに動かなくてはならないようだ。
「ところで、先行隊とは?」
殺せんせーが聞くと、紫は紙を机に広げて説明した。
「順を追って説明するわ。まず、私たちの目的は月の完全征服じゃなくて、月夜見代理を打ち負かすこと。だから攻める範囲は小さくて済むわ」
それでも、月の都の本拠地を攻めるのだから、周辺にはそれなりの兵が待機している。
「サグメによると、今の兵の状況は、多数の一般兵と、1人の強力な護衛だけ。ほとんどの強い兵力は、本物の月夜見について行っているから、代理にはそれほど兵力を割けなかったみたいね」
どうやらこれでも少ない方らしい。しかし殺せんせー1人で完全に無力化は出来るのだろうか。おふざけだとしても、幻想郷でさえ成功したことが無いので、月で成功する光景は想像し難い。
「そこでまずは、敵の兵力を一定にして、これ以上増えないようにする。私と輝夜の能力を使って、月の都を周辺から隔離して、その上で攻撃を仕掛ける」
紫は「月夜見代理」と書かれた部分を、大きな丸で囲んだ。そして円の中に点をたくさん描く。描き終わった紙は、「月夜見代理」から見て一方向にだけ、点が密集しているように見えた。
「一般兵は偏って設置されているけど、本拠地には強力な護衛がいるから、反対側から攻めていけばいいわけじゃない。そもそもどこから攻めるにしても、この護衛が邪魔になるから、まずはこの護衛の動きを止める。一般兵が少ない方向に、こちらも強力な駒を一つ置いて、護衛をこっちに留めておく。その間にこちらが用意した先行隊を、敢えて兵が密集している所に攻撃させる」
本拠地に到着する為には、兵のほぼ全てを無力化しなければならない。強力な駒で敵の意識が逆に向いたところで後ろを突き、混乱している間に大部分から刈り取ろうという魂胆らしい。
「今まさにこの段階が実行されているわ。今聞く限り、順調に無力化してる。後は貴方を本拠地に送り込んで、月夜見代理を討つ。大体わかったかしら?」
「ええ、ですが月夜見代理を攻撃する手段はどうしましょう。暴力的なことはしたくはないのですが…」
殺せんせーの疑問には、サグメが答えた。
『護衛をめちゃくちゃにされて本拠地に乗り込まれれば、精神の弱い代理はそれだけで打ち負かされたも同然である。足りなければ一言二言、何か言ってやれば良い』
「なるほど。しかし…」
これは月からの意向ではあるのだが、そもそもの原因は直接的でなくとも、殺せんせーにある。当時は幻想郷の存在を知らなかったので、そちらへの配慮など出来るはずもないのだが、
(知らないというだけで、自身の責任から逃れてはいけません。こちらも謝りはしないといけませんね)
「さて、そろそろ行きましょう。準備はいいかしら」
「もちろんです。私が協力できることは、何でも致しましょう」
確認した紫は、立ち上がってスキマを展開した。通常ならば、紫の能力ではポンポンと月への経路を作ることは出来ないのだが、今回はサグメとドレミーが協力し、夢の世界を経由して月に行けるようにしている。
「あれ、霊夢さんは共に行かないのですか?」
「私は別にすることがあるわ。さっきも言ったけど、貴方が来るまでに状況が変わった。でもそれはまだ確実じゃない。それの真偽を確かめてから、そっちに行くわ」
「そうですか。それでは、行ってまいります。八意さん、短い間でしたがありがとうございます。優曇華さんにもお礼を言いたいのですが…」
「彼女は先行隊の補佐に入ってるから、向こうで言ってきてください。お気をつけて」
最後に、殺せんせーはサグメにも一言かけようとしたが、既にサグメは紙をかかげていた。
『よろしく頼むm(_ _)m』
その一言を言う(書く)ことが、月の立場からしてどれほどの想いが込められているかは、殺せんせーもなんとなく把握していた。
「何とかしましょう。私の出来る範囲で」
幻想郷に訪れてから、殺せんせーは初めて、本気で何かをしようとしていた。
地球であれば空に月が浮かぶのだが、月では地球が浮かんでいる。宇宙飛行士でもないのに地球を見れることは、地球に住む者にとって幸福であると同時に、忘れられない体験となるであろう。それ程までの絶景であった。
その光景に合わせるかのように、月の都は驚くほど静かだった。ただし、都の光景だけは異質である。あちこちで寝転がっているのは、恐らく月の都の兵士だろう。絶景に感嘆する間もなく、殺せんせーと紫は降り立った道を進んだ。
「うさ耳が生えている…。この方達は、優曇華さんの仲間ですか?」
「そうね。元々優曇華は月からの脱走兵だったらしいわ」
血が流れているようではないことから、無力化は理想通りに行われていたようだ。気絶しているものがほとんどで、後は寝ていたり、縛られて動けない状態で放置されている。
「私がここに来るまでの数時間で、ここまで攻略するとは、相当の手練れでしょうか」
「時間はあまり関係ないわよ。輝夜がここの空間の時間をいじって、貴方が来るまでには完了する様に調節しているから。それに…」
少し溜めて、紫は前を向いて言った。
「この結果になったのは、貴方のせいよ」
「…?」
殺せんせーが幻想郷に来たから、という意味ではなさそうだ。不審に思いつつ、釣られて紫の視線を追うと、答えはすぐにわかった。
「あれは…!」
視線の先には立派な建物があり、一目でそこが月夜見代理がいる本拠地だとわかる。だがその建物よりも手前側、殺せんせーと紫がいる道の先に、複数の人影が見えた。
30人程の人影は、殺せんせーにとってはとても見覚えのあるシルエットで、顔が見えるまで近づくと、殺せんせーは呆気に取られて立ち尽くした。
すると、人影の中から1人が前に出る。周りと比べて身長が低いその人物は、大きく息を吸って「せーの」と掛け声をかけた。
「お久しぶりです、殺せんせー!」
潮田渚の合図のもと、3年E組の生徒は、元気よく挨拶し、殺せんせーに手を振った。
霊夢「今回の後書きは私、博麗霊夢と」
神崎「神崎有希子がお送りしまーす」
霊夢「ところで、何故この組み合わせなのだろうか」
神崎「何ででしょうね?(CV佐藤聡美)」
霊夢「何でだろうね?(不思議の幻想郷 CV佐藤聡美)それは置いといて、今回は不明点のおさらいをしていこうとのことらしいわよ」
神崎「色々と謎が判明しつつあるけど、まだ明かされていない謎や、新たに出てきた謎もありますね。ざっとまとめると、
・何故、月にE組がいるのか
・殺せんせーが永遠亭に着くまでに状況が変わったらしいが、何故か
・敵の護衛は誰か、またそれを抑える強力な駒は誰か
・何故、映姫が気付くように、殺せんせーの不審な回収が行われたか
・妖夢の出番はあるのか
このくらいですかね。何か忘れてたら、感想等で指摘してくれると助かります」
霊夢「そもそも伏線ばら撒きすぎて、訳分からなくなってるじゃないの」
神崎「もともと単発で出す予定のものを無理矢理長編化した、そのツケが回ってきたんじゃないですか?」
霊夢「どっちにしても、泣いても笑ってもここからがクライマックス。ここまで読んでくれた貴方達、最後まで読むのよ!」
神崎「完結、いつになるんですかね〜」