マッハ20の初代死神でも幻想郷は辛かった   作:螢雪

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遂に3ヶ月の期間が空いてしまいました。もう殺してくれ。
以前にも経験があったのですが、僕はどうやら、書き始めと最終局面の部分に差し掛かると、異常なまでにモチベが下がって、半ば鬱みたいな感覚に陥るみたいです。原因は多分、「これでホントにいいのか」っていう不安です。…いや、ここで愚痴っても面白くないですよね。モチベは現在奪還中です。ペースは何とか爆上げします。
ところで、暗殺教室の原作者・松井優征さんの新作が出るみたいですね。僕はジャンプで追っかけてないので、単行本出たら読んでみたいです。それではお聞きください。
い   つ   の   話   だ


マッハ20の初代死神さえ幻想郷は救いだす3

1日前

 

「…なんか騒がしくない?」

「カラオケってどこもこんなもんですよ」

 

顔をしかめる紫にそう答える菫子。だが、確かにカラオケの店内は、外と比べるとBGMの音量が大きい。

 

E組の生徒全員に殺せんせーについて聞いた後、糸成の提案により、紫と菫子はカラオケに訪れていた。理由はこの大音量のお陰で、殺せんせーの込み入った話を他人に聞かれないで済むからである。

 

「ちょっと待ってろ」

 

糸成はそう言って紫達を待たせて、自分はカウンターで店員に話しかけた。しかしすぐに戻ってきて、「行くぞ」と呼びかける。

 

糸成に案内される形で歩くが、カラオケの迷路じみた通路に、「なんて効率の悪い配置の仕方なの」と紫がぶつぶつと言う。カラオケの店内は、より多くの部屋を設ける為なのか、複雑な構造になっていることが多い。なので最初は、部屋に振り分けられた番号で必死に探すのだが、

 

「…あれ、糸成くん、番号が書かれた紙は?」

 

普通、店員から番号が書かれた紙を渡される。自分がどの部屋か解るように、また利用後の会計で用いる為なのだが、今の糸成は何も持っていない。

 

「じきにわかる」

 

そう言って糸成は立ち止まって、目の前の扉を開けた。その部屋はこのカラオケ店の中で一番広い部屋で、その中には、

 

「…やられた」

 

紫が思わずそう言った。中からE組の生徒全員が、紫と菫子を迎えたからである。一番近くにいたカルマがニヤリと笑って紫を挑発する。

 

「また会ったね、コスプレおばさん」

「…貴方が何かしたでしょう」

 

E組の生徒の中で一番最初に会ったのはカルマである。そのカルマがここにいるならば、彼が何かしたに違いない。

 

睨みつける紫に「そう睨まないでよ」と言って、カルマはもう1人の生徒を引っ張ってきた。

 

「あの時はあんたが何するかなんてわからなかったけど、元々得体が知れなかったから、だいたい全部に警戒してたよ。そしたらあんたは指パッチンの構えをした。多分俺の脳に何か細工する為に衝撃波をぶつけたかったんだろうけど…」

 

カルマはその引っ張ってきた生徒、渚を紫の前に出す。

 

「残念ながら、こいつが脳に波を当てるのが得意で、俺らはその対策を既に知っていた。だからあんたの攻撃を防げたってわけだ」

「ど、どうも」

 

ペコリとお辞儀する渚に、菫子が驚く。

 

「こ、こんな小さな子が、紫と同じ技を?」

「小さなって余計ですよ…」

 

指摘しつつも、渚は自分の技について説明する。

 

「僕の技は簡単に言うと『猫騙し』です。相手の脳の波に合わせて、手を叩いて強い衝撃を当てる、という方法なので、カルマが『あのおばさんが使っているのは、ほぼほぼそれと同じ手法じゃないか』って」

「おばさんは余計よ。…でもまぁ、大体合ってるわよ」

 

正直舐めてかかっていた。紫は自分の詰めの甘さを悔やむ。僅か16歳程の子供が、大妖怪の小技を凌げるなど思ってもいなかった。

 

「で、でも一体どうやって?」

 

慌てふためく菫子に、カルマは自分の腕を見せつけた。その腕からは僅かに血が出ている。

 

「自分で自分の腕をつねったんだ。結構強くつねったから怪我しちゃったけど、みんなもそうやって回避してるよ」

 

紫が出していた波は、脳の他の機能に影響が無いように微量に調節している。そこに痛み等の強い刺激が入ると、その波が掻き消されてしまう。

 

それを知ったカルマは、紫らが去った後、全員に連絡して、この回避方法をするように伝えたのだろう。

 

(つまり、最初にこの生徒に会ったこと自体が悪手だったってこと…。この生徒達相手に、理想通りに事を進める事自体が不可能じゃないの)

 

「じゃあそろそろ本題に入ろうよ。そっちも多分忙しいでしょ」

 

カルマがそう言うと、新たな生徒が2人、前に出てきた。磯貝悠馬と片岡メグだ。

 

「糸成から聞いているとは思いますが、俺たちはあなた方に、殺せんせーに関する情報を提供します。もちろん、政府が公にしてないことや、俺らの中で秘密にしてきたこともです」

「その代わり、あなた方には、今、殺せんせーがどういう状況に遭っているのかを教えていただきます。この条件が飲めない場合私たちは情報を提供できません」

 

2人の主張は要約すると取引だ。だがこれは単なる情報交換で済む話ではない。この条件を飲むということは、幻想郷外の人物に幻想郷についての話を漏らすことと同義である。

 

(だけど、もう彼らには少なくとも、私のような超能力的な存在があることは知られている。かと言って、ヤケになっていい訳じゃないけど…。それよりも、)

 

「…貴方達は何故、私達を信頼するの?得体の知れない人物に、そう易々と情報を与えるのは、簡単じゃないはずよ」

 

政府すら知らない情報、生徒に一番関わった政府の人間が固く口を閉ざす情報。何故、紫らには話して良いのだろうか。

 

「それはまぁ、交換条件だからっていうところもありますけど…」

 

そう前置きをして、磯貝は生徒達を見ていった。

 

「俺たちは、殺せんせーに何度も救われています。他の人には出来ないほど、俺たちに尽くしてくれました。…でも俺らは、殺せんせーにはあまり何かをしてあげれなかった。命を賭して俺らを守った殺せんせーを、今度は俺らが手助けする番だって、俺だけじゃなく、みんなが意気込んでいます。だから俺らは動きます。もし危なくても、何とかして切り抜けます」

「信頼面ではやっぱり、堅物の烏丸さんの口を開かせたところが大きいです。あの人は殺せんせーと同じくらい、どんな局面でも私たちを優先して、命さえ助けてくれました。だから私たちは烏丸さんを信頼していて、向こうも私たちを信頼してくれています。烏丸さんがあなた方に協力しているってことは、この人なら大丈夫だっていうメッセージなんだと、勝手に思ってますので」

 

磯貝に続き、片岡もそう語った。周りの生徒達も、その話に異論がないようだった。

 

(…驚いたわ)

 

そう感じたのは菫子である。

 

生徒と先生が、1匹の超生物を交えながらも互いに信頼し合い、片方の状況や判断を見て、もう片方は迷いなく次の行動をとる。その関係は生徒と先生であることとは完全に逸脱している。

 

(あまりに理想的で、フィクションの中でしか存在していなかった『教室』が、ここに存在しているなんて)

 

「で、どうするの」

 

磯貝と片岡の後ろから、カルマが紫に対して急かすように言う。紫はまだ悩んでいた。悩めるということはE組側としては良い傾向である。

 

(短いやりとりでもわかる。この子達は、もし幻想郷について何か知っても、こっちから固く口を閉ざすように要求したら、その通りにしてくれる。けど、それは私の勝手な感想…。幻想郷の賢者としては、その判断は確実に間違っている。

 

…申し訳ないけど、騙させてもらうわ)

 

「わかったわ。今の殺せんせーの状況を教えてあげる。ただしこちらは必要な内容しか公開しない。それでいいかしら?」

「…!ありがとうございます!」

 

磯貝、片岡が頭を深々と下げる。その光景を見て、紫は少しだけ心が痛んだ。

 

(殺せんせーのことが全て方がついたら、E組全員の記憶を消させてもらう…。向こうは防ぐ術を持っているけど、こっちは相手を無防備にさせることができる協力者をいくらでも作ることができる。残念だけど、貴方達よりも我々が常に優位なのよ)

 

と、強者ポジションで生徒達を見回す紫だったが、カルマの目を見て止まった。

 

(…気づいてるわね)

 

何か見透かされているような、気持ち悪い感じがするのは、恐らく気のせいじゃない。カルマは少なくとも、嘘が混じっていることには気づいている。

 

(この子には要注意、か。落とすときには優先的に落とさないとダメね)

 

そのような算段を立てつつ、紫らとE組は情報交換を問題なく進めた。

 

「…つまり、殺せんせーは仮の状態で生き返らせられて、何度もデスゲームを繰り返されていると」

「そういうことです」

 

基本的に、横文字に弱い紫の代わりに、菫子が対応する。現代の社会ではほとんどの会話に横文字が入り、文明の遅れた幻想郷の住民では、話についていけないことが多々ある。

 

「それで貴方達は、殺せんせーが幻想郷に害なす存在であるかどうかを確認しに、俺たちに取材、もとい情報収集をしていたと…」

「私は疑ってなかったけどね〜。このおばさんが頭硬くて」

「嘘おっしゃい」

 

紫に全責任を負わせようと菫子が嘘をつき、すかさず紫がペシっと叩いた。

 

「…まぁ、害はないことは確認したわ。人格面でも侵略とかは考えてなさそうだし、自爆も一年の猶予があるってことだから」

 

むしろ死に戻りの時に身体がリセットされてるので、自爆する確率は0%と言っていいだろう。

 

「…でも、問題ないってわかったら、生徒さん達がする事ってないですね」

「そうとも言い切れない…かも」

 

殺せんせーは別に危機的状況ではないので、E組の生徒が助けるようなことはない。そういう意図で言った菫子の言葉を、紫が否定する。

 

「こうは考えられない?度重なる死の連続で、殺せんせーを精神的に追い詰めようとしている、と」

「え?」

「死は、当然だけど究極的な恐怖。貴方達に殺された時は穏やかであったけど、理不尽な死が連続で続けば、普通なら正常でいられない…」

 

幻想郷にも、不老不死となり、死ななくなったが、その代わりに人生に退屈し、無気力になった人物もいる。死んでも生き返ることは、必ずしも良い事ではないのだ。

 

「まだ殺せんせーは楽しんでいるようだけど…、本人のことを考えれば、本来はかなりの苦行を強いられていることになる。いくら神々の遊びとしても、限度があるわ」

「いくら神といっても、人を虐めるような遊びは誉められないだろうね…」

「過去において神が人間に被害を与えた例は、ほとんどが「神の怒り」と称されている…。殺せんせーが恨みを買ったと考えるのが妥当かしら。…それでだけど」

 

紫は話し相手をE組の生徒に変える。

 

「ここまでを踏まえて、貴方達に出来ることを、教えてくれる?」

「え」

 

唐突に話を振られて、磯貝と片岡の2人が固まる。

 

「…いやー、お二人の話を聞いた限り、何も出来ないような気がしてきました…」

「神という言葉をこうも軽々と使われてしまうと、ちょっと次元が違う話に聞こえてきて…。やっぱり、貴女方の世界は凄いところだと再確認させてもらったぐらいです」

 

神の力を知っているわけではないが、それに対抗する力を生徒達が持ち合わせているとは、とても思えない。

 

「…俺たちが出来そうなことは、せめて有象無象の殲滅ぐらいかと」

「殲滅?」

「麻酔やスタンガンを使って、大群を無力化するくらいなら、何とか出来るとは思いますが、…まぁそれは相手が一般人としての話で、神レベルになるとどうにも…」

 

最初は威勢よく言っていた生徒達も、先程の会話を聞いてすっかり縮こまっているが、無理もない。

 

「…ありがとう、もし貴方達の力が必要になりそうな場面があったら、お願いするわ」

「え、ちょっと紫、正気なの?」

「もし仮に相手を殲滅出来なかったとしても、彼らの命を保護することぐらいなら出来るわ。だから彼らは駒として活用できる。…それに殺せんせーの教え子にやられたら、相手もたまったものじゃないわ」

 

要は相手を煽る為の駒でもあるということだ。つくづく考えることがせこいと、菫子は慄く。

 

「場合によっては、貴方達の力を借りないこともあるわ。その時は事の顛末を教えに行く、それでいいかしら」

「わかりました、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

部屋の中は監視カメラがあるので、人気のないところまで移動し、その後紫は幻想郷へと帰っていった。紫が目の前でスキマを使って消える様子を見たE組は、しばらく興奮が冷めなかった。

 

「…さて、みんな、この後予定がある人はいる?」

「そうは言っても、ここにいるほとんどは用事をすっぽかしてきたんじゃねーのか?」

 

磯貝の呼びかけに杉野が笑って答えた。殺せんせーに関する事なら、E組が予定を蹴って集合することは容易に納得できる。

 

「今から帰って、部活の先輩とかにばったり会うとか嫌だから、俺はむしろまだ何かしてたいな」

「じゃあ、強制じゃないけど、出来れば大人数で行っておきたい場所があるから、ついてきてほしい」

 

磯貝は強制じゃないと言ったが、その場から帰る人は1人もいない。

 

「…だよな。じゃあ行こうか」

「私、アポ取っとくね」

片岡がそう言って、携帯で電話をかける。かけた先は…。

 

 

 

 

 

 

「…」

「…あの、烏間さん、聞いてました?」

「いや、聞いている…」

 

防衛省の会議室にて、烏間1人と生徒27人(+1人)が向かい合って座っている。しかし烏間が予想外の顔をしているので、生徒側も困惑気味である。

 

「忙しいようでしたら、また後日伺いますが…」

「いや、むしろ予定を空けておいたぐらいだ…」

「は?」

 

昨日、別世界から来た女性が殺せんせーのことを尋ねて帰った後、何となく、生徒達が明日押し寄せてきそうな気がしてきた。そんな予感がしてなかったら、空いている会議室を確保して、生徒達を中に入れることは出来なかっただろう。

 

「無茶な言い分だということはわかっています。ですが烏間さんにしか頼めないことです。どうかよろしくお願いします」

 

磯貝の言葉の後に、生徒全員が「よろしくお願いします」と頭を下げる。

 

磯貝は、烏間にあるものを用意するようにお願いした。それは一年前、政府が開発した超体育着と、殺せんせーが死んだ日に、生徒が群狼を殲滅した時に使用した麻酔銃等の武器である。何やら敵を無力化する際に使うかもしれない、とのことだが…。

 

「…俺は情報を彼女らに教えることは許可したが、戦闘に参加することまでは許可したつもりはない。君たちが危険な行為に走るならば、俺は黙って見過ごすことはできない」

「そこは紫さんが、私たちの命の保護くらいはできると明言してくれたので大丈夫です。それに…」

「だが、向こうの世界の事を何も知らないだろう。無知のまま未曾有の地に足を踏み入れることは危険だ」

 

磯貝と片岡を相手に、なかなか姿勢を崩さない烏間を見て、E組の生徒はある事を感じていた。

 

(この人が真面目な顔で異世界の話をするの、違和感しか感じない…)

 

E組の生徒がそんな事を思っていることは露知らず、烏間は頭を悩ませ続けていた。

 

(今、悩んでいることは、彼らが俺の意見に反抗していることじゃない。彼らが俺が想像もつかない事を言い出したことだ。情報提供までならいいだろうと思っていたら、こんなことになるとは…)

 

そこでふと、烏間は気づいた。

 

(懐かしい…)

 

思えば一年前、なんだかんだと生徒達に振り回されていた。いや、生徒と「奴」だ。

 

前原を酷く傷つけた本校舎の生徒に下剤をもったり、奴を助けたいという理由でカルマと渚がロケットに無断侵入し宇宙へ飛び、更には帰還用のカプセルを裏庭に落としたり…。

その度に頭を悩ませ、奴を叱り、それでも彼らは反省はするも後悔はしていない顔だった。

 

(あの時と同じ感覚だ。始末や迷惑を考えて常に頭に血が昇っていたが、心の何処かでは何とかなると思っていた…)

 

それも、今までは奴の指南が入ってこその無茶だったが、成長した彼らは自分達で考えて無茶をしようとしている。

 

(正直、彼らに任せても大丈夫だとは思っている。思ってはいるのだが…)

 

その時、ノックの音が聞こえ、イリーナが入ってきた。

 

「みんな〜、久しぶり〜」

「ビッチ先生!?」

「ここに入ったって本当だったんだ…」

 

久々の再会に生徒達は喜ぶが、イリーナは不満げな顔になる。

 

「もう、あんた達も子供じゃないんだから、『ビッチ先生』なんて面白がった呼び方やめなさいよ」

「じゃあ『ビッチさん』で」

「何も解決してないじゃない!大人になりなさいよ!」

「だって俺ら、子供じゃないけどまだ大人でもないし」

 

このやりとりも懐かしい。いつもイリーナが怒鳴るような場面だったが、彼女も満更ではない様子だった。今回も、怒鳴りはするものの深く追及せずに話を流し、持ってきた大きなケースの鍵を開け…。

 

「…おい」

「え?」

「それは何だ」

 

イリーナが会議室に一緒に持ってきたケース。烏間の記憶が正しければ、自身が責任者として管理を指示した、

 

「何って、去年こいつらが着てた体育着だけど」

 

またしても、こいつは無断で持ってきた。昨日と同じだ。

 

「イリーナ、お前…」

 

烏間の怒りの顔に生徒達が怯えるも、イリーナは何とも思わない様子でケースを開けた。

 

「いいじゃないの烏間。卒業旅行に別世界って、きっと楽しいわよ。それに、」

 

烏間の方を見て、イリーナは軽くウインクした。

 

「元先生なら、生徒が言う事を否定せずに見守ってもいいんじゃないの?」

 

こいつはきっと、生徒達を過信している。

 

いや、俺も生徒を過信しているだろう。でなければ暗に群狼を殲滅しろだなんて言わない。

 

 

…そうか、こいつは俺よりも素直に、生徒を信じれる奴なんだろう。

 

 

 

こいつは、知らずして俺の背中を押してくれるのだ。

 

 

 

「ちなみに管理者はもう私がおとしたから、実質的な権限は私が持っているようなものよ。だからここで強奪したって、後で何度でも持ち出して…」

「わかった。…仕方がない」

 

そう言って深くため息をつくと、生徒達がわっと盛り上がった。

 

「ただし条件を加えさせてもらう。超体育着が必要だと確定するまで、持ち出しは禁止する。そして必要になった時は必ず、俺とイリーナに連絡しろ」

「ありがとうございます!」

「わかったら気が変わらないうちに家に帰れ。もう空も暗くなってるぞ」

 

結局、頭を悩ませる結論にしてしまった。ひかし歓喜する生徒達を見て、不安は残るものの、自分の中では後悔がないように感じた。

これも全て、奴の仕業である。

 

(全く、死んだ後も俺を困らせる奴だ。殺せんせー)

 

「ねぇねぇ烏間」

 

声をかけられて横を向くと、イリーナがワクワクした顔で話しかけてきた。

 

「私たち用にもあの体育着、今から作ってくれるかしら?デザインは私が考えてあげるから」

 

しばらく黙ってイリーナを見つめていた。周りの生徒達も同じようにイリーナを見る。その様子にイリーナは目を丸くする。

 

「…え?私何か変なこと言った?」

「ビッチ先生、まさかついて行こうとしてるんですか?」

 

岡野の言葉に再び困惑するイリーナ。

 

「え?私たちは引率としてついていくんじゃないの?」

「えーっと、今回は俺達だけで行こうかと思ってたんですが、ていうか、俺達でしか行けないっていうか…」

「えええええ!?」

 

磯貝の言葉に驚愕するイリーナ。烏間は元々そう思っていたらしく、驚かない。

 

「なっ、ななななな何で!?」

「俺らだったら友達と遊ぶだの言って、簡単に抜け出せるけど、いくらなんでも防衛省の人間がテキトーな理由をつけて抜け出すのは無理でしょ」

「じゃあ引率はどうするのよ!いくら何でもあんた達じゃダメよ!」

「一応引率みたいな形で紫さんが側にいてくれるので…」

「何でよ!私なんかよりあんな女がいいわけ!?あんた達は年増な女がお好みだって言うの!?」

 

紫が聞いたらしばかれそうなセリフを吐くイリーナを、烏間が止める。

 

「諦めろ。そもそも今は仕事が溜まっているだろうが」

「嫌よ、絶対ついていくんだから!あんたが触れられないようなデリケートな理由で休みとって、絶対に別世界に行くんだから〜!」

「…こいつだけは絶対について行かせないようにしてくれ」

 

烏間はイリーナを押さえつけて、生徒達に念を押す。生徒達は苦笑いで承諾し、そそくさと会議室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日、殺せんせーの現状を聞き、装備を確保したところなのに、

 

「今日、ですか?早くありません?」

 

磯貝の部屋に現れた紫は、上半身だけ浮いていてやや衝撃的だった。

 

「無計画で申し訳ないわ…。でも今の好機を逃すわけにはいかないの。準備の時間はいくらでも確保できるけど、どのくらい集められる?」

「今日は休日なので、運が良ければみんな集まるとは思いますよ」

「助かるわ。準備ができたら菫子の携帯に連絡して頂戴」

 

紫はそう言ってスキマに消えようとしたが、ふと気付いて磯貝に聞いた。

 

「…何でそんなに楽しそうなの?」

「あ、いや、前にもこんなことがあったなぁと」

 

去年の夏、殺せんせーが夏祭りに生徒を誘うべく、一人一人を訪ねて回っていたことがある。

 

「家に突然現れたところが、何となく似ていて」

「ふーん」

 

殺せんせーへの対応が変わった今、同類扱いされることに抵抗は無いが、…いや、やはりあの風貌の生物と同類は勘弁だ。

 

「どうでもいいから、準備をして頂戴」

「了解です」

 

 

かくして、E組の生徒は全員集まり、紫のスキマも使って超体育着と武器も回収し、後の処理はイリーナに任せた。

 

「懐かしいな、またこの体育着を着られるとは思わなかったよ」

 

渚が自分にピッタリな体育着を見ながらそう言うが、

 

「あれ、俺は結構きついや」

「え?」

 

カルマを見てみると、確かにきつそうに見える。

「俺もだ」

「私も〜。着られなくはないけど」

「え!?」

 

渚以外の生徒が、若干きつそうにしている。それに驚愕する渚の頭に、中村が手を乗せた。

 

「あれあれ〜、渚くんは成長期まだ何ですかー?」

「こ、これから伸びるから!」

「どうだろうね〜。大人になっても3センチも伸びないんじゃ無いの?」

「カルマうるさい!てかカルマは伸びすぎだよ!あれから半年も経ってないのに!」

 

以前よりも渚を見下ろすようになったカルマに、渚が涙目になりながら怒った。その光景を見て、他のE組の生徒が笑いに包まれる。

 

「…感覚おかしいわこの子達、これから戦場に行くのに笑えるだなんて…」

 

笑い合う生徒達を見ていた菫子が若干怯えてそういうと、

 

『私たちE組は、元々おかしな環境で一年を過ごしたので、慣れたものですよ』

 

「え?誰?」

 

どこからか声がかかり、誰が喋っていたのかとキョロキョロとすると、菫子のスマホがバイブレーションを起こした。画面を見ると、

 

『昨日ぶりです、菫子さん!』

 

(ハッキングされとる!?)

 

画面に映し出された律は、自身の服装を超体育着仕様に変え、ポーズを取っていた。

 

『ところで、私と菫子とで連携を取ると聞いているのですが、どのような事をするのですか?』

「えっ、聞いてない」

 

初耳の情報に菫子が目を丸くすると、紫が横からスマホを覗き込んできた。

 

「ああ、それはまた後で説明するわ。まずは戦場を下見しないといけないでしょう」

「ちょっと待て!私、2日も連れ回されて用事が溜まってて、今日は流石に無理なんですけど」

「じゃあその『すまほ』、暫く貸して頂戴」

「自分勝手か!軽々しく言ってくれるな、今の学生はスマホが無くなったら死ぬのよ!」

 

散々文句を言っていた菫子だったが、最終的にスマホだけ置いて帰っていった。

 

「…さて、そろそろ作戦を説明するわよ」

 

いい加減に生徒達の熱も冷めてきた頃に、紫が口を開くと、素早く生徒達も真剣な表情になった。月に行くと聞くと流石に驚きはしたが、説明を終える頃には、全員が、昨日は見たことがないような顔になっていた。

 

(なるほど、これが彼らの本気って訳ね)

 

これは期待以上の結果を出してくれるかもしれない、そんな予感がした。

 

「じゃあ、行くわよ」

 

E組の生徒達は、紫が開いたスキマにゆっくりと包まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数ヶ月前、全員で群狼を殲滅して殺せんせーを助けに行ったが、逆に助けられてしまい、殺せんせーはこの世からいなくなった。

 

そして今、自分達はあの日と同じように、殺せんせーを助けに行こうとしている。

 

自分達は何がしたいのか。あの日のようにならないように、殺せんせーを助けたいのか。それとも殺せんせーを陥れようとしている何かに対抗したいのか。

 

どちらにしろ、確かなことが一つある。

 

 

 

恩師に会いたいからだ。

 

 

 

最後の日、殺せんせーと満足に話すことは出来なかった。あの日の続きを、今日したい。その為に、自分は今一度、持ちうる力を使う。

 

「いくぞ、みんな」

 

磯貝の合図に、全員が静かに動き出した。目標は、本拠地の標的と強力な護衛に見つかる前に、有象無象の護衛を無力化すること。まさに暗殺に近い。

 

 

 

あの日から鳴らなくなった、暗殺教室の授業開始のベルが、数ヶ月ぶりに鳴り出した。




鈴仙・優曇華院・イナバ「今回の後書きは、私、鈴仙・優曇華院・イナバと」
奥田愛美「奥田愛美でお送りいたします」
優曇華「さて、前回同様、謎の組み合わせなのですが…(夢想夏郷 CV矢作紗友里)」
奥田「髪が紫ってところじゃないですか?(CV矢作紗友里)」
優曇華「今回はE組の生徒達の流れを追うって事でしたが、ちょっと時系列が面倒ですよね」
奥田「作者はしっかりと辻褄が合うように作っているつもりらしいですけど、やっぱり解説するのは面倒なので、とりあえず月には殺せんせーよりも先に私たちが到着した、ってことだけ押さえておけばいいです」
優曇華「さて、予定上では次回から戦闘シーンが盛りだくさん!戦闘を描くのが難しい小説というジャンルで、素人の作者は無事に書き切ることができるのだろうか!」
奥田「遂に完結まで数えるほどとなりました!どうぞ最後までよろしくお願いします!」
優曇華「次回は私も出るよ!」
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