とにかく、クライマックスの途中なので何としてでも書き上げなければ…、と意地で作っている所存です。
いつになるかわかりませんが、どうか最後までお楽しみください。
月夜見様代理への到着間近、月の都内の広いスペースで、殺せんせーと生徒達、そして紫は足止めを食らった。
足止めを食らわせたのは、現在の月における強力な護衛・綿月依姫。そして彼女に立ち向かったのは、
「…妖夢さん」
依姫の刀を同じく刀で受け止めていた妖夢は、背中からもう一つの刀を抜くと同時に依姫に斬りつける。
しかし、依姫は当然の如く後ろに下がって距離を取る。妖夢も交わされることは予測しており、表情を変えない。
「…もう一度聞きます。何故穢れなき貴女が、私に歯向かうのですか」
「私にとっては、貴女がそんな優しい言葉をかけてくれることが疑問ですね。覚えてます?貴女達の蔵から、酒が一つ消えた事を」
第二次月面戦争の際、妖夢は幽々子と共に、月に潜入していた。月の住民は穢れに対して敏感で、地上の者が近くにいるならばすぐに悟られるが、幽々子と妖夢には穢れがない。穢れというのはざっくりと言うと生命のことであり、既に霊体となり生命では無い状態ならば、穢れは存在しない。
それをいいことに幽々子と妖夢は、綿月の蔵から酒を掠め取ってきたのだ。
「…貴女でしたか」
「返して欲しいですか?あいにくもう、身体には残ってないとは思いますが」
煽る妖夢に対して、依姫の睨みが一層強まる。その様子を固唾を飲んで見守るE組。しかし突然、その中で声を上げた人物がいた。
「これは…、○ッコロポジションキャラね!」
ポカンとして、生徒達は不破を見つめた。やがておずおずと渚が声をかける。
「あの…、不破さん?どういう事?」
「簡単よ、あの銀髪の女の子は、『奴をやるのは俺だ、故に他の奴に邪魔させない』って言って、主人公の味方になるキャラってことよ!これはあの緑の大魔王と同じく、熱いシナリオで盛り上がるわ!」
そう言って目をキラキラとさせる不破は、「頑張れー!」と妖夢にエールを送る。何を言ってるのかわからなかった妖夢は、とりあえず無視することにした。
「…ねぇコスプレおばさん、あの人、相当強いんじゃない?」
カルマが紫に声をかけると、紫は冷や汗をかいていた。
「強いなんてものじゃないわ、生物の強さの範囲を超えている。前に、地上で腕の立つ4人の精鋭相手に、ちょっと汚れただけで傷一つ負わずにボコボコにされたわ」
「精鋭とは?」
「そうね…、霊夢とか咲夜とかいたわ」
「えっ」
殺せんせーの質問にも紫が答えると、殺せんせーは思わず驚いた。この2人には瞬殺された覚えしかないが、それ以上とは。
綿月依姫(わたつきのよりひめ)
月人
月の使者のリーダーの1人。
神を使役することにより
強力な攻撃を繰り出せる。
「神…、それは生物の範疇を超えてますね…」
思わず図鑑を見る触手を震わせてしまう殺せんせー。生徒達も、今の状況がどれほど絶望的か、今、理解した。
「で、でも、あの子はその攻撃を受け止めたんだろ?あの子なら、道を切り開いてくれるんじゃ…」
「残念だけど、相手はまだ神を使役してないし、あの子はただ剣術が達者なだけ。神に近い力は持ち合わせてないわ」
希望を見出した杉野を、紫がすぐに一蹴する。「そんな…」とがっかりする生徒達。
(一体、どうすればいいんだ…!)
「依姫さん!」
ここで声を上げたのは優曇華院だった。依姫は優曇華院の姿を認識すると、少し意外そうな顔をした。
「…鈴仙、何故貴女も、奴らに加担している」
「聞いてください。間違っているのは月の方です!…あ、いや、依姫が間違っているわけじゃなくて、今の月夜見代理が、」
「今まさに、月が消滅の危機に陥っているのにか?」
依姫の強い言葉で、優曇華院は思わず口をつぐんだ。以前、優曇華院は綿月の下で働いており、その主従関係の名残が未だに残っている。
「…表の月は、奴と同じ『触手』の生物によって、殆どが消滅してしまった。その脅威が今、月の都で、私の目の前に立っている」
「…そ、そこまで知っているなら、殺せんせーの立場もわかるんじゃないですか!?」
声を上げたのは片岡である。続けて、依姫に対して語りかける。
「殺せんせーは地球を消滅させない為、自らの命を私たちに差し出しました。殺せんせーは破壊を望むような人ではありません。当然、ここにいて月を破壊するつもりもないはずです!」
「それに、そっちのやり方も問題なのは、わかってるでしょ?話を聞いたら、殺せんせーに恐怖を与える為にゲームを繰り返していたって聞いたから、そっちの代表の方がいるところにわざわざ乗り込んだんだ。そっちにも非があるんだから、そっちも月夜見代理とやらを出すのが道理じゃないの?」
続けてカルマも声を上げたが、依姫はなおも仁王立ちして反論する。
「確かに代理がした所業については、私が擁護しても不利でしかない。ですが最初に攻撃的な態度を取ったのはそちらです。それに私はその生物についても、貴方達についても詳しくは知らない。…故に、」
再び刀を構えて、依姫は戦闘体制に入る。
「私が理解しているのは、現在目の前に危険生物が存在していること。そして私は代理の警護だけでなく、月の都の護衛を任された者。危険を排除することは、当然の行為です」
(っ…、ダメか)
いくら言葉で攻めようと、依姫の『月の都の護衛』という立場がある以上、危険生物である殺せんせーを仕留めようとする姿勢は崩れない。殺せんせーが危険生物ではないという証拠があればいいが、残念なことに殺せんせーは『100%無害』とは言い切れない。本人の意思によらずに月のような爆発は引き起こされ、その確率は僅かに残っている。
「とはいえ、貴方達がご存知の通り、我々月人は穢れを嫌う者です。故に命を奪うような真似は致しません、地上に送り返します。…既に命が無いものを除いて」
依姫が殺せんせーを睨んでそう言うと、依姫からは得体の知れないオーラが放たれた。それを感じた時、生徒達が初めて気づく。
(…これが、この人の『殺気』!)
もっとも、殺すこととは違うのだが、依姫からは初めて、殺気に近い気を放っていた。
「ありがとうございます、カルマくん。皆さんも、警戒を解いてください」
緊迫した空気を破ったのは、殺せんせーの声だった。固くなっていた生徒達の肩を瞬時に揉み、身体を柔らかくさせている。そして肩揉みが終わると、依姫の前に降り立った。
「依姫さん、私も、話を聞く限りでは納得がいかない状況です。ですので、貴女に抵抗することになります。とはいえ、私がマッハ20で飛び回るのを追いかけて、貴女がドンパチを起こそうものなら、この月の都はめちゃくちゃになるでしょう。そこで…」
ここで一瞬だけ、殺せんせーが消えた。再び元の位置に戻った時、殺せんせーと依姫を中心として、大きな円の形をした線が引かれていた。
「この広間で、貴女と戦いましょう。私は今引いた線の外には一切出ません。好きに私を狙ってください。ただし、貴女が負けた場合は、ここを通らせてもらいます」
「…私の敗北条件は?」
「貴女自身に『負け』と認めてもらうだけで結構です」
ニヤリと笑う殺せんせーを見て、依姫もニヤリと笑い返した。
「それ以外に制限は無いですか」
「特に設けません。自由にやっていただいて結構です」
質問がなくなった依姫は、殺せんせーに背を向けて、円の中心へと歩いていった。殺せんせーは生徒達の方に向かい、触手を広げて円の外に追いやる。
「さぁさぁ、円の中に入ると危険ですよ、離れてください」
「ちょ、こ、殺せんせー、本気ですか?」
渚の不安そうな声に、殺せんせーは特に表情を変えずに答えた。
「元々これは私の問題です。貴方達にリスクを負わせることはできません」
「そうじゃなくて…」
生徒達は既に話を聞いている。こちらの世界では各国のあらゆる組織、人物からの攻撃を余裕そうにかわしていた殺せんせーが、幻想郷では1日も保たずに殺されている事を。
「…この戦い、俺とお前との最初の戦いに似ている」
不意に、糸成が口を開いた。皆が注目し、糸成はそのまま殺せんせーを見つめて続ける。
「だが、一つ違う点がある。お前は場外に出たら負けだが、奴が場外に出たら負けとは言っていない。俺の時のように、相手を場外にさせて穏便かつ安全に済ませるやり方は通用しない。これはお前にとっては痛いルールじゃないのか」
「そうですね。糸成くんの時のようにはいかないでしょう」
殺せんせーはなおも生徒達を場外に押しやり、糸成に答える。そして生徒達が完全に外に出ると、殺せんせーはニヤリと笑った。
「ですが、私には新たな勝利プランがあります。私は無謀な条件の戦いを申し込むような者じゃありませんよ、ヌルフフフ」
絶望的なこの状況を、殺せんせーはひっくり返せるというのか?確かに、警戒度MAXの殺せんせーを殺すのは至難の業だが、果たして通用するのだろうか?
生徒達が疑念を持つ中、殺せんせーは妖夢にも話しかける。
「妖夢さん」
「…」
妖夢は何も言わずに殺せんせーを見つめている。ここを動かないという意志を感じられたが、
「貴女は外で見た方がいいでしょう。じっくりと、私の戦闘ぶりを『観察』できますよ。貴女の殺しの参考に、大いになるでしょう」
妖夢は暫く動かなかったが、やがて円の外に出ていった。それを見届けると、殺せんせーは中央に立つ依姫に向き直る。
「では始めましょう。いつでも攻撃を仕掛けていいですよ」
「…折角与えられた命、無駄にしても良いのか?」
依姫の問いかけに、殺せんせーは目の奥を光らせて答えた。
「私は最善の道を進むまでです。ここで私は勝利を掴み取ります」
「よろしい。それでこそ、殺し甲斐がある」
フッと笑った依姫は、手に持った刀を下に向け、
一気に地面に突き刺した。
「…私は、後のことを任せたと、言われたはずですが」
「真実に辿り着く為の中間地点が、ここしか思いつかなかったから」
目の前に仁王立ちする霊夢を、映姫がうんざりした顔で見ていた。
「これはまたぞろぞろときましたね…。月の住民まで、どうして連れてきたんですか」
サグメを見て、映姫はさらに困惑した。サグメはペコリと頭だけを下げて、何も喋らない。
「…何か手がかりでも見つかったんですか」
うんざりした顔で、映姫は霊夢の方を見る。霊夢はニヤリと笑い、「ほら」と自身の後ろに声をかけた。
そこから現れたのは、
「…閻魔様の所だったの?やだなぁ」
そう言いつつも笑顔を含んだ顔を見せる、古明地こいしだった。
戦いが始まる少し前、生徒達と殺せんせー、そして妖夢を見つめる紫の後ろから、新たな人物が現れた。
「どうしてくれるのよ、役目をきっちり果たしてくれなきゃ、こっちとしても困るんだけど」
「悪いわね、使えない駒で」
服までボロボロになった、風見幽香が、その姿を見せる。E組の生徒達が兎達相手に暴れている時、都を挟んで反対側で依姫を抑えていたのは、幽香であったのだ。
「あの化け物相手に1時間位持ち堪えただけでも褒めてくれない?お陰で明日は筋肉痛確定よ」
「何?まだ死んで無いの」
「三途の川は大分見えた気がするんだけどねぇ」
後頭部をさすりながら、幽香は顔をしかめた。
「あの女、上手いこと殺さずに気絶させたわ。お陰で数分くらい伸びてたわよ」
一瞬の隙を突かれ、依姫から一撃を喰らってしまい、依姫を離れさせる事を許してしまった次第である。
「…で、これからあの女に立ち向かおうってこと?」
「誰のせいでそうなったと思ってるの?」
ブラック企業のような紫の態度に、幽香は無視してボソリと呟く。
「…生き残るだけでも精一杯だろうな」
その瞬間、依姫は刀を地面に突き刺した。何をしているのかと、生徒達は依姫に注目していたが、
その瞬間、触手が5、6本、空を跳ねた。
「…!!」
殺せんせーの足元から、数本の刀が飛び出し、触手を斬っていたのだ。
(いきなり、これほどの数の触手を失うとは…、はっ!)
動揺する殺せんせーが顔を上げると、既に依姫が躍り出ていた。
「『祇園様の剣』、知っておくといい。そしてこれが、」
依姫が右手を突き出すと、その手に火が宿った。
「『愛宕様の火』」
火が殺せんせーの眼前に迫る前に、地面から突き出た刀の隙間を縫うように触手を抜いて、依姫の後ろに回り込む。が、
「ニュ!?」
すぐさま依姫は後ろに左手を回した。左手にも火を持っており、殺せんせーはたまらず距離を取った。
一瞬の攻防を固唾を飲んで見守る生徒達だったが、殺せんせーの顔を見て、皆が「あっ」と声を上げる。ほぼ同時に殺せんせーが自分の顔を触り、冷や汗をかいた。
(顔が溶けている…、2回とも、接触は避けていたはずですが…)
「地上には『愛宕様の火』よりも熱い火は、殆ど存在しない。触れなければ良いというわけでは無いわ」
「紫さん…、彼女は一体何者なんですか」
渚の震える声に、紫もあまり良さげには見えない顔で答える。
「幻想郷の住民の中には、ある程度の能力を持つものがいるわ。でもそれは大体が一種類か二種類…。応用を効かせて何種類も扱うこともできなくは無い。でも、彼女の能力は『神霊の依代となる程度の能力』。つまり神を自身に降ろさせることができる。もちろん、全ての神をね」
「神様を、降ろす…?」
聞き慣れない言葉に渚が聞き返し、紫も返答した。
「要は神の力を借りることができるってことよ。そして、八百万の神って言われるくらいだから、彼女は八百万の能力を持っていることと同等なのよ。つまりは、なんでも出来るってわけね」
「何…、でも…」
一方、殺せんせーは自身の頭と触手を数本、再生させていた。
「甘く見ていたつもりはなかったんですがねぇ…、これは気を引き締めていかないと」
「…気を引き締めても、もう手遅れでは?
触手を切り取られ、その上再生した直後で、素早さは大分落ちているはずですが」
「…!?」
さらりと口にした依姫の言葉に、殺せんせーだけでなく生徒達も驚愕する。
「な、何故その事を…!?」
「月の科学力をお忘れですか?表の月の蒸発後、周囲に飛び散っていた触手細胞のカケラを集めて研究すれば、その特徴を知ることは容易です。こちらでは触手細胞を利用する利点が無いので、誰も触手は埋め込んではいませんが。…『金山彦命』」
依姫が神の名前を呼ぶと、最初に地面に突き刺した刀が、砂と化して空中に舞った。それと同時に、地面から突き出た刀が地面に戻っていく。
(祇園様の剣の発動は、刀を地面に突き刺す事が条件…?そして金山彦命は…、名前からして金属に関する神様でしょうか?少なくとも刀を砂と化すことが出来、)
殺せんせーは、依姫手元で砂が集まり、元の刀が形成される様子を確認した。
(元の状態に作り直すことが出来る、と)
「目で見てることが全てだとでも?」
依姫がそう言った直後に、
「先生、危ない!」
渚からの警告と同時に、殺せんせーの頭上から大量の刀や剣が降り注ぐ。
(この刀や剣…、まさか先ほどと同じ要領で…!?)
どこか別の場所の倉庫から、金山彦命の力で武器を砂と化してこちらに集結させ、殺せんせーの頭上で元に戻す。武器は月の重力に従って落ちるだけなので、殺意もない。渚の警告が無ければ、一つぐらいは刺さっていただろう。
(いくら不意を突かれたところで、重力に従って落ちるだけなら、私のスピードに比べれば遅すぎる。ネタが割れてしまえばこっちのもの…)
無数の武器が降り注ぐ前に後退する殺せんせー。しかし、
「ニュッ!?」
再び、斬られた触手が数本、宙を舞った。最初と同じように、地面から刃が突き出ている。それも先程とは比にならないほどの数である。
(これも『祇園様の剣』!?しかし、それは彼女が手にしている刀では!?)
心の中で殺せんせーが驚くのに答えるかのように、依姫は口を開いた。
「祇園様の剣とは、物体ではなくその能力の事を指します。つまりこの刀は正確には『祇園様の剣』ではなく、『祇園様の能力を付与された剣』と呼べます。能力が消えればこれはただの刀で、この刀以外で能力が付与された刀も『祇園様の剣』です。
そして神様の力は分割でき、分けられたいずれの力は本来の力と何ら変わりありません。つまりは『祇園様の剣』は、無数に量産することができるわけです。…まだ解説しましょうか?」
「…貴女は何がしたいのでしょうか。自ら手の内を明かすなど」
どうやら挑発しているらしい依姫に対し、殺せんせーは小さい目で睨みつける。依姫は表情をピクリとも変えず、こう返答した。
「そうですね…。明かされても何ら問題がないからでしょうか」
そう言い終わるや否や、
(っ!明らかな殺気!)
間一髪で横にかわす殺せんせー。さっきまで居た場所を、後ろから一本の刀が高速で横切った。
「『金山彦命』で再生した武器は、加速度を付けられますよ。それに、武器はまだあります」
依姫がそう言った瞬間、殺せんせーは視界が一気に暗くなったことに気づく。
「ニッ…」
殺せんせーの上には、円形に配置された無数の刀や剣があった。
「これで決めたいですね」
依姫がそう言うと同時に、武器が動き出した。
(私が引いた範囲を全て埋めている。あの上に退避することは不可能…。武器は何層にも重ねられているから、武器を弾き飛ばしたところでまた次が来る。マッハで自分の上だけを何とか処理できたとしても、全ての刃に付与された『祇園様の剣』の力で、地面から串刺しにされる。先程見せられた加速度の付与があるから、全ての武器を弾き飛ばす時間は恐らく与えられていない。最初に武器が地面に刺さる前に上に抜け出せるかどうかは…、ほぼ無理、ですか)
パッと考えついたあらゆる可能性が潰されている。その全てを考えて、依姫は殺せんせーを追い詰めていた。
「…これは無理ね」
紫がそう呟くと同時に、武器が地面に刺さり、祇園様の剣の能力で無数の刃が地面から突き出る。もはや範囲の中に安全に立てる場所はない。
が、これまた同時に、依姫が居た場所で火が上がった。
「!?」
何が起こったのかわからず、傍観者達はただただ驚く。そして驚きの表情を浮かべていたのがもう1人。
「圧倒的な計画性でここまで追い詰めるとは…。人間離れしているとしか言いようがありません。あ、ただの人間ではないですよね。ですが、私も進化しているのですよ」
「…これは、しぶとい怪物で」
依姫の上空で佇む殺せんせーを見て、依姫が少し悔しさを滲ませる顔を見せた。
「いくらマッハであろうと、対応できない程に畳み掛けたつもりでしたが…、読まれていたようですね」
「ええ。依姫さん、私を誘導しましたね?この大掛かりな攻撃の為に、貴女はわざと『祇園様の剣』と『金山彦命』の能力を事細かく教えた。逃げ場が、依姫さんの真上しかないという判断を下させる為に」
範囲全てを覆い尽くす攻撃は、当然ながら依姫にも被害を被る。ならば必然的に、依姫は自分が立っている場所に攻撃が届かないように操るはずである。その空間が、この攻撃の唯一の安置であった。
「もし仮に無理矢理突破して上に逃げられたら、完全に失敗に終わる。貴女はそれを避ける為、私に『この攻撃は普通にやっては正面から太刀打ちできない』と思わせ、他の方法を考えさせた。正直、無理矢理突破できる可能性はほぼ無いに等しいですが、他の案を思いつかない限り、私はその僅かな可能性に賭けていたでしょう。
この場合、私が攻撃を避ける方法は2つしかありません。『唯一の安置に逃げる』か、『完全防御形態になる』か」
完全防御形態になれば、その際の爆風で武器を吹き飛ばすことができる。万一吹き飛ばせなくても、武器や祇園様の剣では完全防御形態には勝てない。しかし、依姫に範囲外に運ばれて終わる。必然的に、唯一の安置に逃げるしかない。
「当然、貴女がここに誘い込んだのですから、攻撃をしないはずがない。現に『愛宕様の火』を放っていますしね。…ここで、これの登場です」
殺せんせーは自身が持っていたものを掲げた。半透明の黄色で、シート状のその物体は、
「あ…!脱皮!」
矢田がそう言うと、「ピンポン!」と殺せんせーが顔に丸の図形を表示させた。
「しかもただの脱皮ではありません。完全防御形態の応用で、強度を格段に上昇してあります。流石に完全防御形態ほどの強度はありませんが、『愛宕様の火』の瞬間火力ですら防いでしまう優れものです」
イメージとしては、完全防御形態の外壁を薄く切り取ったような感じである。
「本来ならば、常に新しい身体を作られているので、一ヶ月の時間が必要ですが、輝夜さんに協力して頂いて、私の身体だけ時間を進めさせてもらいました。私のことをよく調べている貴女なら、脱皮は無いと油断していたのでは?」
「…そうですね、地上から月に来るのですから、永琳様の手助けは当然あったのでしょう」
殺せんせーに指摘されたことを、依姫は否定せずに受け入れているようだ。しかし再び眼光を鋭くさせ、殺せんせーを見上げる。
「しかし、振り出しに戻ったことに変わりありませんよ。加えて脱皮直後で更に動きが鈍っています。ここから逆転が出来るとでも?」
「ヌルフフフ、奥の手というものは、何個でも用意するものですよ」
殺せんせーが不気味に笑った瞬間、突然眩しい光を発し、思わず依姫は目を覆った。
「っ!」
「人に向けたら危ないものですが、貴女なら上手く身を守るでしょう。ただし、吹っ飛んでもらいますよ!」
殺せんせーがそう叫んだ直後、小規模の爆発で、辺りに突き刺さっていた武器が吹っ飛ぶ。
これも完全防御形態を応用したものである。糸成や茅野との戦闘の際に見せているもので、依姫を場外に吹っ飛ばすには十分な火力を持つ。
「殺せんせー、やっぱり場外で決着をつけるつもりか!?」
「正式に負けとは決めてないけど、出した後で言いくるめて、向こうに負けを認めさせるつもりかしら…!」
E組の生徒がそう考察する中、吉田が指をさして叫ぶ。
「駄目だ!まだ円の中にいるぞ!」
至近距離のエネルギー砲をかわしたのか、少し離れた位置で依姫が膝をついていた。
(今まで攻撃を見せてこなかったから、油断した…)
「まだです!」
砂煙の中から、殺せんせーが再びエネルギー砲をぶちかます。膝をついた依姫は、すぐに避けることができない。
「あの攻撃、連続で撃てるのか!」
「これも練習の賜物です!」
寺坂の驚きの声に応えるかのように、殺せんせーが一気にエネルギーを放出する。今度こそいけるかという雰囲気だが、渚が依姫を見てふと気づく。
「…まだ何かするつもりだ」
依姫は迫り来るエネルギー砲を見つめ、新たな神の名を呼んだ。
「『石凝姥命』よ、三種の神器の一つ『八咫鏡』の霊威を今再び見せよ!」
次の瞬間、殺せんせーのエネルギー砲を、大きな鏡が受け止めた。エネルギー砲の衝撃で、辺りに大きな音が響き渡る。
「盾を生み出して防ぐつもりか!」
「いえ、アレは鏡よ。ということは…」
紫の予想通り、鏡はエネルギー砲を反射した。
(霊夢から聞いた通り…、これは、もしかすると)
紫が思考を巡らせている時、殺せんせーは自分が放ったエネルギー砲が、返って自分に牙を向けてきていることに驚いていた。
(本当に何でもアリな能力ですね…!これはやむなく振り出しに戻さねば…)
そう思って超高速で離脱しようとする殺せんせー。しかし、
(なっ、身体が動かない!?)
思った通りに身体が動かない。咄嗟に自分の身体を調べると、その原因に驚愕した。
(これは、ダイラタント挙動!?ということは、まさか!)
殺せんせーの身体は、強い風圧や特殊な圧力光線を受けると、ダイラタント挙動を起こし、全身が硬直する。現在、殺せんせーには風圧がかかっていない。ということは、
「弱点だらけの怪物で、正直助かってますよ」
依姫が石凝姥命を呼び出すと同時に、装置を取り出して殺せんせーに向けていた。
(やはり!柳沢が持っていたものとほぼ同じ光線装置!いや、それよりも強力な…)
エネルギー砲がモロに殺せんせーに直撃する。何とか触手を動かして受け止めるも、触手が何本か千切れ、殺せんせー自身も吹っ飛ぶ。
「まずい、場外に出る!」
磯貝が思わず声を上げるが、殺せんせーはギリギリのところで踏みとどまる。だが場内のラインはすぐ真後ろにあり、背水の陣である。
「火雷神」
「っ!」
息つく間もなく、依姫は新たな神を呼び出す。次の瞬間、雷が鳴るほどの豪雨が場内に降り始めた。
(この雨量だと、すぐに触手が水を含んでしまう。早く撤退しなくては!)
だが、もう既に遅かった。
(…これは)
殺せんせーの周りを、8本の火柱が囲んでいた。しかしこれは火柱ではない。蛇のようにしなって動くそれらは、竜であった。
(散々攻撃を受け、触手を再生し、脱皮もした上でエネルギー砲を放ち、加えて圧力光線を受けて身体に雨水も含んだ…。これほど動きを鈍らせる条件が揃っている上で、この八つの炎竜から逃れられる方法はただ一つ)
炎竜達は場内の殺せんせーの逃げ場を塞ぎ、一斉に襲いかかった。炎竜が消える頃には、殺せんせーは遠く離れた所に逃げていた。
「これほど不利な状況で、火雷神達の攻撃を避けられるとは…。地上の民が一年も殺せずにいたことも頷けますね。ですが、そこは場外。貴方が提示した規約に則れば、貴方の負けです」
「殺せんせー…」
自信に満ち溢れていた殺せんせーは、依姫に土埃をかけただけで敗北した。生徒達は呆然として殺せんせーを見つめる。殺せんせーは、ボロボロの身体で立ち上がりながら、依姫に話しかける。
「金山彦命の大掛かりな攻撃の後の『第二の刃』で、まんまとやられてしまいました。恐らく『第三の刃』も持っていることでしょう。私が負けることは必然、ということですね」
(殺せんせーが負けることはわかっていた…。だから殺せんせーが立ち向かったのは時間稼ぎだと考えて、裏で手を回していたけど…。綿月の姉の方が何か細工をしたわね。都内にスキマを上手く通せないわ)
紫も悔しそうに依姫を睨みつける。
(このままでは私たちの負け。どうにか手を打たなければ…)
「さて、いい加減帰って頂けませんか。最初に言った通り、命あるものは無事に地上に送り…」
「ラウンド、2ーーーーーー!!」
突然大声で叫んだ殺せんせーに、依姫はおろか、紫や生徒達も呆気に取られる。
「…は?ラウンド?何のことです?」
「第二試合ということです。私は貴女と私の勝負での、私の敗北条件は伝えましたが、全体の勝負での、私たちの敗北条件はまだ言ってませんよ」
とんだ屁理屈に依姫は思わず天を仰いだ。
「馬鹿馬鹿しい、いくら時間を稼いだところで、もう既にボロボロの貴方に何が出来るとでも?」
「私じゃありませんよ」
殺せんせーはそう言ってニヤリと、いつもの表情で笑った。
「ここにいる、私以外の人物と貴女で、同じ試合をするのです」
「…そうですか。では早く済ませましょう。先程の戦いぶりを見て、私と戦いたいと思う者は、前へ出てきてください」
余程呆れたのか、依姫は殺せんせーから目線を話し、紫や生徒達の集団に声をかけた。
「殺せんせー、いくらなんでもやけくそじゃないか!?」
「私たちが、あの人と戦えるはずがない…」
生徒達も殺せんせーの奇怪な言動に困惑する。
(一体、何を考えているというの?あの女に対抗できるのは、貴方ぐらいしかいないというのに…)
紫は時間稼ぎのため、依姫に声をかけた。
「それよりも!貴女は今見せた神の力しか扱えないのかしら?」
「どういうことです?」
「貴女が今まで使った力は、全て霊夢達が以前戦った時と同じものよね。話は聞いているから知っているわ。どうして他の力を使わないのかしら」
挑発にならない挑発を依姫に向ける紫だが、依姫は何も問題ないような顔で、淡々と答えた。
「次に貴女達が月に攻めてきた時に備えているのです。私の能力は既に露見し、貴女は当然その対策をするでしょう。今ここで、新たな神の力を披露して、敵に情報を送るようなことはしません。さぁ、早く次の対戦者は進み出てください」
(くっ、わかっていたけど、全く通用していない…。本当に次の対戦者を出したところで、勝ち目は…)
「紫さん、これを」
「え?」
突然、声をかけられて戸惑う紫。何か冷たいものを渡されたので、されるがままに受け取る。
「…これ、何?」
「図鑑です」
図鑑を差し出した人物は、そのまま依姫に向かって歩く。
「…また貴女ですか?」
依姫が呆れた顔をすると、妖夢は少し小馬鹿にした様子で口を開いた。
「命あるものは地上に送り戻すんですよね?私、命が半分くらいなんですけど、その場合どういった扱いになるんです?半殺しですか?やってみてくださいよ」
呆れた顔をしていた依姫は、次に哀れみの顔に変わった。
「警告します。後悔する前に戻りなさい」
「え?それは私の不戦勝ってことでいいんですか?やったあ」
流石にカチンときたのか、依姫は自身の刀を抜いた。
「わからないのならば教えるまでです。満身創痍で地上に帰ってもらいますよ」
「あまりペラペラ喋らない方がいいと思いますよ。負けた後に恥ずかしくなるから」
互いに譲らずに、2人は睨み合いを始めた。その様子を見て生徒達が感嘆する。
「すげぇ…。よくわかんないけど」
「全く怖気付いてないけど…、勝てる、のかな?」
生徒達は、全く引かない様子の妖夢の姿に、素直に感心しているが、先程の先頭から見るに、勝ち目が薄すぎることに懸念を抱いているようだ。
紫の後ろに殺せんせーが降り立つ。その殺せんせーを、紫が睨みつけた。
「全部貴方のせいよ。あの口の悪さも、無謀な行動も。貴方が唆したの?」
「確かに唆してはいますねぇ。口が悪いことは知りません。ですが私は負けるとは思ってないですよ」
「何を根拠にそんなことを…」
「根拠、そうですねぇ…。
彼女は、私の新たな生徒だから、ですかね」
妖夢がまず依姫に対峙して、することはただ一つだった。
(祈る)
刀を構えながら、妖夢は頭の中で無茶苦茶祈っていた。
(目の前に神の力を操る人がいるけど、そんな人のことはさておいて、私の祈りを聞いてください、神様。頼みますほんとに。今まで良い行いいっぱいしてきたので、それがチャラになってもいいので。とにかくお願いします。
…願わくば、相手の最初の攻撃が)
「始めましょう」
依姫はそういうと、自身の刀を地面に突き刺した。
「…来た」
足元から刃の先が覗くのを、目で見て確認して、妖夢は呟いた。
博麗霊夢「今回の後書きは、博麗霊夢と」
矢田桃花「矢田桃花でお送りしまーす。霊夢さんは2回目ですよね?」
霊夢「別にそっちの小さい主人公も2回出てるからいいでしょ(東方スペルバブル CV諏訪彩花)」
矢田「それもそうですね(CV諏訪彩花)」
霊夢「今回はあのタコ負けたのね。結構な大口叩いてたけど」
矢田「そのかわり、何か仕込まれてる妖夢さんが立ち向かうんですよ、一体どうなるんでしょうね」
霊夢「刀同士の白刃戦がやりたかっただけでしょここの作者…」
矢田「ところで、チラッと出てきた古明地こいしちゃんは、どういう立ち位置なのでしょうか?」
霊夢「こいしは殺せんせーを殺したから、ゲームの勝利者ってことよね。ということは…、ここから先は自分で考えなさい」
矢田「えー、ケチー」
霊夢「さて、次回も戦闘回となりますが、今回の戦闘はどうだったのかね?対して面白くなかったら次回もそういう感じになりそうな…」
矢田「読者が減るようなこと言わないでください!作者も頑張ってるので、どうぞ最後までお読みください!」
霊夢「キャラに喋らせないで自分で言えよ…」