マッハ20の初代死神でも幻想郷は辛かった   作:螢雪

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妖夢「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
…年明けちゃったよ。
えーと、今回は4か月以上空いたのかな?バカかな?
ところで、2021年の東方人気投票も、無事私が二冠達成という形になりました。やったね。いやぁ、博麗の巫女も落ちたものですねぇ。魔理沙さんにも負けてますし。
…もう2022年だけどな。
さてさて、今回は私メインの回ということで、さぞかし私が活躍するような描写をしてくれているはずですが…、何?尺ないから巻きで?黙れこのサボり魔が!知ってんだぞ、ダンマクカグラで私が言ったセリフに対して『萃夢想妖夢の再来だ』だとか、声を担当している人がウマ娘のサクラバクシンオーと同じだからって『バクシン精神を受け継いじゃったんですか?』とか散々煽りやがって、てめースマホの容量がないからウマ娘入れてねぇくせによ!大体私をバカにしながらダイパリメイクしてんじゃねぇぞ!
そういうわけで、ここの作者は全然筆が進まなかったというわけです。おまけに風邪までひきやがって。私はこいつを許しませんが、どうか続きを読んでくださると幸いです」


マッハ20の初代死神さえ幻想郷は救い出す6

依姫は、以前に霊夢達に見せた神の力しか使わないという縛りを、自分で決めていたようだ。つまり、依姫の攻撃パターンは限られる。

 

そして霊夢達と殺せんせーのどちらに対しても、初めは『祇園様の剣』を見せた。これが癖なのか、それとも使い勝手が良いから選んでいるのかはわからないが、少なくとも確率は高い。

 

そして妖夢の計画は、『依姫が祇園様の剣を使う』ことを起点として組まれており、他のパターンはまだ考えていない。なので、

 

(願わくば、相手の最初の攻撃が)

 

真顔で祈りまくったことが功を奏したのか、依姫は祇園様の剣を最初に使った。この瞬間、妖夢は心の中で確信する。

 

(勝てる)

 

地面から刃が突き出ると同時に、妖夢は地面を蹴って前方向に飛び上がった。その様子にE組からは響めきが上がる。

 

「あの攻撃を躱した!?」

「私も祇園様の剣には散々苦しめられましたが、それは初見だったからです。性能を知っていれば躱すだけなら容易ですよ」

 

対して、殺せんせーは冷静に解説する。

 

(そして、妖夢さんは今まで反射神経をみっちり修行させました。脊髄反射ではなく、一瞬で考えて最適解を導き出すように。地面から突き出す刃も、私の百烈剣を見た妖夢さんなら、スローに見えることでしょう。

 

ここまでは私が教えたこと。この先は、妖夢さん自身で考えた戦法です!)

 

一方で、依姫は祇園様の剣を躱されても冷静でいた。

 

(今まで観察されていたのですから、この程度は想定内。出来れば飛び上がらずにその場で受け止めてほしかったのですが…)

 

以前、霊夢達に対しては、剣で敵を覆って動きを封じる使い方をしていた。そのやり方ならば妖夢を拘束できたのだが、そのことも考慮してか、妖夢は剣の範囲内から脱出する方法を選んだ。

 

(だが空中の方が無防備だ。残念だが、すぐに決着をつけさせて…)

 

どの神の力でも良いが、とりあえず愛宕様の火を呼び出そうとした依姫だったが、

 

「っ!?」

 

突然、妖夢が瞬時に目の前に突っ込んで来た。咄嗟に依姫は地面に刺していた刀を抜き、妖夢の斬撃を受け止める。

 

(空中浮遊の力でもこんな速度では突っ込めないはず…、一体!?)

 

依姫の視界からは見えなかったが、ギャラリーからはそのタネが明かされている。

 

「半霊を踏み台にして突進した…、まさかこれも、貴方が仕込んだこと?」

「いいえ、妖夢さんが自身で考えたことです。ここから先の戦略も、全て私は関与していませんよ」

 

(妖夢が、一人で…)

 

紫らが見守る中、依姫は何とか妖夢の攻撃を逸らす。

 

(あまりに突然で愛宕様の火が使えなかった…、だがこの距離なら効果的、使い所はここしか…、っ!)

 

間髪入れずに、妖夢は2本目の刀を抜き、依姫の顔を狙う。それを再び依姫が受け止めた。

 

(二刀流…、そういえば刀を2本携えていた。これは…)

 

2本目の刀を弾き出しても、再び1本目の刀を振われる。刀同士がぶつかり合って甲高く響く音の中、依姫は自身が受け手に回っていることに気づいた。

 

(受けることに気が散って、神を使役する暇がない)

 

対して、妖夢は必死に意識を集中させながら、攻撃を叩き込んでいた。

 

(隙を与えるな、常に私の刀に意識を向けさせろ。上下左右前後、全ての方向から殺意を向けて、相手に安息を与えるな)

 

上方からの潰すような攻撃を受けられたら、次は地面を這うような攻撃。前からの攻撃を横に払われたら身体を捻って後ろへの攻撃。

 

(正直、神の力を使われたら私はもう終わる。でも、傍目から見たら、この人は神の力をまるで身体の一部のように使っているけど、履き違えてはいけないは、神の力を『借りている』こと。神の力を借りさせなければ、後は体術勝負に持ち込める)

 

依姫対策を練っている際、妖夢はそこを視点として考えていた。

 

(霊夢さんも同じように神の力を下ろすことができる。でも依姫さんよりも手間がかかっている。それは儀式だったり、御言葉だったり…、つまり、神を下ろすには正しい手順が必要ということ。多分、私たちでの、訪問と同じようなことだと思う。他人の住まいに赴いて、その人を呼び出す。

 

依姫さんと神が別人である以上、この訪問の行為はなくてはならないはず。瞬間的に呼び出して、霊夢さんのような正しい手順を省略しているようにみえるが、依姫さんは、訪問の行為を自身の意識内だけで完結させている。

 

だから神を使役させない為には、神を呼び出す意識を向けさせないようにしなきゃならない。とんでもないことだけど、不可能じゃないはず。体術だけの対決なら、レミリアさんの方が優勢だと聞いたことがある。抑えるだけなら、何とかなる!)

 

一方、受け手に回っている依姫は、妖夢が祇園様の剣を待っていたことを悟っていた。

 

(露骨に白刃戦に持ち込もうとしている辺り、やはり神を使役させないことが作戦か。一度突き刺した剣を抜いて攻撃を受け止めるとなると、途中で神を使役する暇もない。更には防御において、いつも鍛錬していた剣で咄嗟に受け止めることを利用した。ここまで折り込み済みなのか…?

…しかし、)

 

「舐めた真似を…」

 

暫く攻撃を受け流していた依姫だが、突然、妖夢の下からの一撃を真正面で受け、そのまま押さえつけようとする。

 

「この状態で半永久的に私を防戦一方にできると思っているのか!?」

 

依姫が受け手に回っている間、妖夢は全方向から攻撃をする為、依姫の周りを絶え間なく移動し続けなければならない。となると、消費する体力は依姫の2倍、3倍どころではない。

 

その上、妖夢の攻撃に慣れてしまうと、一瞬の隙を突かれて攻撃の手を止められる。そうなると神の力を使役されて一巻の終わりである。この状態を維持するメリットはほぼない。

 

「…いいえ?半永久的に続けるはずがないでしょう。必ず終わりが来ますよ」

 

そう言いつつ、妖夢は自身が刀にかけている力を抜いた。妖夢を押さえつけていた依姫が前傾姿勢になり、バランスを崩す。

 

「何を…、っ!」

 

横からもう一本の刀が近づいていることに気づいた依姫は、横っ飛びで、それをかわす。距離を取られた妖夢だが、

 

「だから早く油断して終わらせてくだ、さい!」

 

距離をとった依姫に対し、妖夢は刀の一本を投げつけた。槍のように飛んでくる刀を、依姫は仰け反って避けるが、

 

「なっ!?」

 

避けたはずの刀が、再び刃を依姫に向けて襲いかかる。それを受け止めた依姫は、目を見開いて驚いた。

 

(2人目の剣士…、いや、これは同一人物か!?同じ空間に同じ人物を2人存在させられるとは、どんな術を使ったのか…、いや、考えている暇はない!)

 

2人になったことで、依姫が警戒すべき方向が増えた。反対側から同時に攻撃されると、そう簡単に対応することはできない。

 

(さぁ、どう対応する?)

 

妖夢が2人になったことにどよめいている生徒達の横で、殺せんせーはしっかりと依姫の様子を観察する。依姫は先ほどまで慌てた様子だったが、

 

(…、空気が変わりましたねぇ)

 

依姫はずっと苦しそうな表情をしていたが、突如フッと顔を緩めた。それと共に動きを止める。

 

(…!今だ!)

 

その隙を逃さずに、妖夢はすかさず攻撃を叩き込んだ。防がれないように、前と後ろから同時に仕掛ける。が、依姫はそれを受け止める。

 

(…鞘か!)

 

依姫が最初から持っていた武器は一本の刀のみ。よって2対1の状況を作り出すことで、完璧に受け止められる状況を無くし、妖夢に有利な状況を保っていた。金山彦命の能力で武器を増産することはできるが、その隙すら与えないことで、依姫は不利な状況に陥っていた。

 

(だが鞘を使えば、得物は実質2本…。もし鞘に特殊な加工をして強度を増しているならば、十分な武器になる。そして依姫さんは、何か吹っ切れた様子ですね)

 

「…すっかり騙されましたよ。もう飽きたのかと思っちゃいました」

 

ヘラッと笑う妖夢に対して、依姫はギロリと睨みつける、と思いきや、フッと笑った。

 

「余計な考えを捨てただけですよ」

「っ!?」

 

次の瞬間、目にも留まらぬ速さで依姫の鞘が振られた。反射で妖夢は刀で受け止めるも、弾かれて一歩後ろに下がる。

 

(舐めてかかっていたことは反省しなければならない。向こうはきっちりと準備してきたのだから。私は今、この相手と真剣に向き合わなければならない)

 

妖夢を弾いたことで距離をとったが、すかさずもう1人の妖夢が斬りかかる。2人になり、カバーができるようになったことで妖夢側にも余裕が生まれたが、長く時間をかけていると依姫もだんだんと対応してしまう。

 

(仕掛けるなら、今すぐに!)

 

殺せんせーの考えに応えるかのように、妖夢はすかさず自分の鞘を抜き取り、依姫に振り抜く。依姫はすかさず躱すが、再び不利な状況に戻された。

 

(1人から2人に、得物が2本から4本に…、段階を踏んで、こちらが対応する前に状況を変えている。こちらが攻撃に慣れて、神の能力を使う隙を作りやすくすることを警戒している。こちらが新しいことをしたとしても、向こうと同じ土俵に立たされている以上、向こうも同じことをする…ならば、こちらが動いた時に勝負を決めなければ)

 

暫く、2本対4本での攻防が続く。攻撃しているのは妖夢側だが、どうやら依姫の動きを様子見しているように見える。

 

(様子見している、先ほどのようにこちらが動いた後に動くつもりだな。ならば今度も、私の行動は一度受け止めざるをえないだろう!)

 

白刃戦の際、意識はどうしても刀に向く。刀は必ず受け止めないと致命傷を負うからである。故に常に上半身に注視する反面、下半身への意識が少なくなりやすい。

 

(だから下半身から下半身への攻撃を、相手の戦法の要である機動力を削ぐ!)

 

妖夢が離れることができない、依姫に対して刀を振るった瞬間に、依姫は右足で妖夢の膝を蹴りつけた。

 

 

 

はずだった。

膝に痛みを感じたのは、妖夢ではなく、

 

(な…)

 

よろけた依姫に覆い被さるように攻撃をたたみ込む妖夢。たまらず依姫は倒れ込みながらも受け止める。

 

(蹴られたのは、私の方だと…。まさか…、

 

 

 

ここまで読んでいた…?)

 

優勢に持ち込むための行動が裏目に出て、さらに劣勢と化した状況で、依姫は必死に攻撃を捌く。その最中、刀同士がぶつかる音だけが響く空間で、鋭く刺すように、一際大きな音が響いた。

 

(威力を強めた…?最初から全力で振るってはいなかったのか、これも対応を遅らせる手か?)

 

体勢を崩した依姫は、2人目の妖夢からの追い討ちに備えるも、

 

(っ!?攻撃が来ない!?)

 

今まで立て続けに攻撃が来ていたが、突然、一拍の休みがあった。予想していなかったため、咄嗟に神の力は使役できない。と、次の瞬間、

 

2人の妖夢が同時に依姫に突っ込んだ。

 

(ここで捨て身かっ…!)

 

攻撃を抑えきれずに、刀が依姫の皮膚を擦り、血が滲む。一瞬の痛みに怯んでいる隙に、妖夢はもう一度、2人同時の攻撃を叩き込む。

 

(2人で援護し合いながら安全に攻めることができる状況を捨てて、援護も何もない猪突猛進な攻めを取るとは…、一歩間違えると逆転されるとはわかってるはずだ。そこまでして私に対応をさせないとでも…!?)

 

尚も攻撃を受け続けて、依姫はふと気づく。

 

(違う、このまま決めるつもりだ…!)

 

再び妖夢の刀が掠った。2本だけの得物だけでは、4本相手に反撃は取れない。

…正攻法では、

 

 

ガチリ、と刀同士がぶつかる音が重なった時、妖夢の動きが止まった。

 

「っ!?」

 

依姫の刀と鞘が妖夢の獲物を同時に2本ずつ抑えている。しかし防ぎきれずに、妖夢の2本の刀が依姫の身体に少し食い込み、先程よりも深い傷を負わせている。だがそれと同時に、依姫は妖夢の刀に強い力を加え、妖夢の刀に加えられている力が、反対方向以外に逃げることを許さなかった。

 

(無茶苦茶な相手を抑えることは、こちらも無茶をしなければ不可能、無茶の殴り合いを、制す!)

 

妖夢が反対方向に逃げようと刀にかけた負荷を緩めた瞬間、依姫は自身の2本の得物に力を込め、妖夢を2人同時に押し返した。

 

「まずい、隙が!」

 

外野で生徒達が騒めく。押し返されてバランスを崩しては、持ち堪えて再び攻撃するのに時間がかかる。ましてやその空白の時間は、今まで余裕を与えなかった僅かな合間と比べると、無限に感じられるような長さだ。

 

(今まで散々切り詰めてきた時間に慣れてしまった以上、この長い後隙を普通に与えてしまうと、神を使役されて確実に負けです。ですが妖夢さん、私が育てた反射能力ならば、アドリブもそつ無くこなせるはずですよ!)

依姫が神の使役を始めようと意識を変えるとほぼ同時に、片方の妖夢が消えた。

 

「!?」

 

代わりに、消えた妖夢がいた場所には半霊が浮いていた。半霊は瞬時に本体の妖夢に飛んで向かう。

 

(あれが分身の正体。変身がどれほど便利に出来るかは知らないが、大きな制限は無さそうだ。そして空中を自由に動けるということは、)

 

依姫が観察する中、半霊は本体の背中に回り込み、支えとなった。

 

(人間である本体とは違い、足や体幹で体勢を立て直す必要が無く、…基本的に大きな後隙は発生しない!)

 

気づいた瞬間に依姫は神の使役を中断する。それと同時、あるいは少し前に、半霊は本体を押し込んで、本体は弾かれるように依姫に突っ込んだ。

 

「…全然やられませんね、いい加減斬られたらどうです、かっ!」

 

妖夢は刀で押し込むと同時に、足で依姫を引っ掛ける。もつれ合うように倒れ込み、妖夢が上から押さえつけようとしたが、

 

「ぐっ!?」

 

腹の辺りに突きを突かれ、妖夢が空中に飛ばされる。ガードはかろうじて間に合うが、痛みを負った上に依姫から離された。すかさず半霊が再び人の形に戻り、鞘を依姫に対して振るう。

 

(ここだ!)

 

妖夢の鞘が横凪に襲いかかった瞬間、依姫は仰向けのまま、両方の足の裏で受け止めた。

 

「は!?」

 

思いもよらない行動に妖夢が驚愕する。当然、攻撃は完全に抑えることはできないので、弾かれるように吹っ飛ぶが、

 

(吹っ飛びすぎだ!)

 

妖夢と完全に距離を離した依姫は、転がりながらも受け身を取り、滑りながら状態を起こす。

 

(前進しつつ地面に平行に放った攻撃に対して、足のバネの力を加算させて無理矢理距離を離すとは、…この人はとんだ頭の回転をしている!これは神の使役を受けるのは必須!)

 

流石に殺せんせーも戦況に不安を感じる。妖夢も着地して素早く距離を詰めようとするが、すぐに立ち止まった。

 

雨が、降っている。

 

依姫の周辺で、雷鳴を轟かせながら豪雨が降り注いでいた。

 

「そうか、雷が落ちるなら、刀を持って近づけない…!」

 

依姫は力の使い手なので、当然免れるだろうが、妖夢は不用意に近づけない。その隙に、依姫は8匹の龍を呼び出した。

 

「…火雷神だ」

 

生徒全員で龍を見上げる中、渚がそう呟いた。

 

依姫の合図で、龍が血を這うように妖夢に襲い掛かる。その様子を目前で確認した妖夢は、顔色一つ変えずに考えていた。

 

もし、神を使役された場合は、どうする?

 

 

 

──こうする。

 

 

 

龍が妖夢を包み込もうとしたその瞬間、その龍が真っ二つに割れた。

 

「な!?」

 

依姫は思わず声を上げた。それはギャラリーも同様だったが、その中で茅野が気づく。

 

「あれは…、殺せんせーの脱皮!?」

 

半霊が、先の戦闘で殺せんせーが捨てていた脱皮の皮を、どこからか拾ってきて被り、本体の前で攻撃を防いでいた。

 

(とんだ頭の回転をしているのは、貴女もでしたか!私の脱皮など、妖夢さん以外、誰も眼中になかったでしょう)

 

妖夢は攻撃を防いでいる半霊を鷲掴みにした。そして全力で押し込み、投げつける。半霊は火雷神の攻撃を掻き分け、依姫に接近した。

 

(馬鹿な、神の力に対抗するなど、そんなことが、いや)

 

驚きつつ、依姫は妖夢の戦略をもう一つ理解した。

 

(この考え方すら、利用したということか!分身以外に超人的なものが無い以上、私が神を使役すれば無条件で圧倒的な優位に立てると思わせて、もう1人の超人、つまりあの怪物の残したモノを利用して、正面から受け止めた!)

 

半霊は依姫の目の前まで接近するが、炎が押し返す力が強まったため、それ以上は近づけない。と、同時に、脱皮の皮が溶け始めた。

 

(神よりも人造物が勝ることはない。あの皮は愛宕様の火を瞬間的に受け止めることはできても、この火力を継続的に受け続けることはできないようだ。そのまま溶かし切って押し返せば終わりだ。

 

…いくら小技を駆使しても、正面からぶつかった以上、火力の高い方が勝つのだ!)

 

半霊は皮を折り畳んで、重ねた状態で受け止めてるので、溶かし切るには時間がかかる。が、既に半分の枚数は突破された。遂に勝利を確信した依姫は、ありったけの力を半霊が被った皮にぶち込んだ。

 

 

 

 

両肩に鋭い痛みを感じたのは、その直後だった。

 

 

 

 

(…まだ、)

 

炎の隙間から、2本の棒が伸び、依姫の肩に直撃している。

 

(まだ、小技をけしかけてくるのか…!)

 

依姫が力を込めた瞬間、どうしても荒っぽくなり、受け止めていた炎の中に隙間が生まれた。その時半霊は人型へと形を変え、予め持っていた鞘2本を、その隙間に目がけて振り下ろした。

 

振り下ろされた2本の鞘は依姫の肩に直撃した後、一拍置いて砕け散った。それと同様に、依姫の周りを纏っていた炎の龍が散り散りになり、豪雨が止んだ。

 

(不導体の鞘を持って、雷が落ちる中近づき、)

 

尚も纏わりつく半霊を払った依姫の前に、妖夢本体が躍り出た。

 

(雷が止んだ後で、導体の刀を持って近づく)

 

「…こい!」

 

依姫は刀を構え、妖夢を迎え撃つ体勢をとった。だが、妖夢が右手にしか刀を持っていないことに気づく。

 

(やることは最初と変わらない)

 

もう一本の刀は、接近する前に上に投げ上げていた。慣性によって、妖夢の真上に位置する様になっているが、依姫の視界外の為、視線は自然と右手の刀に集中する。

 

(相手が対応する前に、畳み掛ける!)

 

「これは…、まさか!」

 

気づいた渚が声を上げる。これは渚がロヴオから教わった、猫騙しの状況だった。

 

 

 

「何か必殺技はないのか、ですか?」

「そう。何か持ってない?」

「そうですねぇ…、では、私ではないですが、私の生徒が使っていたモノを一つ紹介しましょう」

「お前じゃないのか…。まぁいい、教えろ」

「やり方は猫騙しとほぼ同じですが、かくかくしかじかで…」

「…なるほど?それほど効果があるようには思えないが…」

「条件次第で大いに発揮しますよ。まぁこれの上位互換でクラップスタナーという技もありますが…」

「えっ何それ教えろ」

「さっきから命令形多いですね…。いやしかし、まずは初歩から身につける方がいいですよ。音を出す時にコツがありましてね。掌はピッタリと合わせるのでは無く、こうやって少しズラして空洞を作って…、ってあれ、上手く音が鳴りませんねぇ」

「触手をペチペチしたところで猫騙しにはならんぞ」

 

 

 

(確かに妖夢さんには一度、猫騙しの条件と手順は教えましたが…)

 

ここで右手の刀を捨て、依姫が動揺する間に手を突き出して掌で音を立て、怯んだところで上に投げ上げていた刀を手にとって斬りかかる、という算段だろうが、

 

「ダメだ、今はそのタイミングじゃない!」

 

渚がそう警告するも、その声は届くはずがない。妖夢は右手で握っていた刀を、殺意ごと捨てた。

 

(何!?)

 

謎の行動に一瞬動揺するも、依姫は目の端で、上からもう一本の刀が落下していることに気づいた。

 

(刀を2本持っているが故の陽動か、だが種が明かされた以上、優位はこちらにある!)

 

依姫が気づいていることを知らない妖夢は、手を前に差し出す。刀を手放した以上、取り返しがつかない。早まったせいか、妖夢の判断ミスで、戦況は一気に依姫に傾いていた。

 

 

 

 

 

 

 

(何で、私はここで本気で戦っていたんだっけ…。)

 

手を差し出す間、スローモーションでゆっくりと動きながら、妖夢はふと考えた。

 

(あのタコを助けたいわけでも、あのタコを私が仕留めるために阻止したいわけではないとすると、多分、自分がどのぐらい強いかを知りたかったんだ。

 

あのタコの指導を受けてから、主に対人についての強さを真剣に考えるようになってきた。強くなりたいと、本気で思ってた。

 

そして多分、褒められて欲しいのもちょっとある。幽々子様も紫さんも、私のことをまだ若造みたいな扱いをしてるから、見返したいわけじゃないけど、認められたいところがあるんだ。

 

2人は何て言うんだろう。多分「よくやったわ」とか澄まし顔か笑顔で言われそうだけど、それでも十分及第点なんだろうな。

 

…タコは何て言うんだ?

 

──「よくやりましたね、妖夢さん。自分で考え、ほぼ貴女1人で敵を倒しました。

 

しかしながら、貴女の強さを引き上げたのは私の指導もあってこそですし、私が事前に戦っていたから相手の技を熟知でき、脱皮の皮も利用できて、猫騙しを教わったからこそ、仕留めることができたのです。

 

つまりは、実は私のおかげ、っていうことですねぇ。(ドヤァ)」

 

 

 

 

 

 

…、

 

……、

 

…………は?

 

 

いやいやいやいや、これは私の成果だぞ?何でこいつのおかげになってんだ?

だが、奴の指導で技術が向上したのは確かだが…。

 

「つまりは、実は私のおかげ、っていうことですねぇ。(ドヤァ)」

 

うるせえ黙ってろ、これは私の成果だ。ここまで考えてきたのはお前じゃなくて私だ。例えお前が教えたことを糧としても…。

 

「つまりは、実は私のおかげ、っていうことですねぇ。(ドヤァ)」

 

だから違う、お前は関係ないだろ。

 

…でも、

 

お前から教わった技で最後を決めたら、ひょっとすると、

 

 

 

お前の、おかげか?

 

 

 

 

え、やだ。

 

私が戻ったら奴がニヤニヤするのも、

 

白玉楼に戻ったら奴のおかげとして幽々子様に報告されるのも、

 

そんなことが、あってはならない。

 

心の底から、もう1人の自分がそれはダメだと叫んでいる。

 

いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ、

 

絶対に…、)

 

 

 

 

 

 

 

「そんなことが、あってたまるかってんだ!!!」

 

 

 

突如、妖夢がそう叫んだ瞬間、信じられない現象が起こった。

 

妖夢は猫騙しの為に差し出した手を止め、右手を元の位置に下げた。その手に向かって、

 

「…は?」

 

先程捨てたはずの刀が、吸い付くように妖夢の手の中に戻ってきていた。

 

(…半霊だ、刀が地面に落ちる前に半霊が滑り込んで、刀を弾き返した!)

 

原因を理解した殺せんせーは、思わず身を乗り出して戦況を見届ける。渚を含むE組の生徒達も予想だにしない展開に、ただただ驚愕して見守っていた。

 

依姫は、妖夢の手元に戻ってくる刀を、凝視していた。

 

(一度殺意ごと捨てられた刀が、無くなったはずの殺意を纏って、再び私に向かってくる、だと…)

 

刀を掴んだ妖夢は、即座に左手を上に掲げ、投げ上げていたもう一本の刀を掴む。

 

「っ!!」

 

間髪入れずに振り下ろした刀を、依姫はかろうじて受け止めた、が、

 

(間に合えっ!)

 

ほぼ同時に振り上げられた刀を、依姫は刀の向きを変えて受け止める。

 

辺りに今まで鳴っていなかった、尋常じゃない音が響き渡る。それと同時に、依姫は何かが上へ舞い上がるのを確認した。キラキラと光りながら飛ぶそれは、

 

(あれは…、刀身?)

 

それを認識した瞬間、依姫の左肩に激痛が走り、同時に視界が赤に染まった。

 

(…!斬られた、刀ごと…!)

 

肩からの血が舞う中、妖夢は振り上げた刀を横に構え、横一線に刀を振るう。刀の長さが足りなくなった依姫は、やむ無く後ろにかわした。

 

(出血の割には傷は深くない…、最初から身体は狙いじゃなかったのか。

 

狙いは、刀を折ることか!)

 

立て続けに振るわれる妖夢の刀を避けるも、痛みで意識を割かれた依姫は、先程よりも明らかに動きが鈍い。このまま詰め寄ろうと前傾姿勢になった妖夢だったが、

 

「ぐっ!?」

 

突如依姫が正面衝突した。折れた刀はなんとか避けたが、衝突をモロに受けて妖夢がよろめく。

 

「『愛宕様の…』」

 

密接した状態で依姫が口走った言葉で、妖夢は気づいた。

 

(攻撃に転じられた展開!)

 

(『勝てる』と思って油断しただろう!)

 

激痛に耐えながら、依姫は神を降ろした。依姫の手に火が灯され、その熱が妖夢にも伝わる。

 

(取った!)

 

「『…火』!」

 

その瞬間、妖夢が横っ飛びに吹っ飛んだ。妖夢がいなくなった空間に、愛宕様の火は突き出される。

 

(またか、半霊!)

 

半霊が妖夢を突き飛ばしていた。更に殺せんせーの脱皮も纏っていることから、愛宕様の火の熱からも妖夢を防ぐ。

 

半霊は続けて、脱皮を依姫に向かって、覆うように投げつけた。視界を奪うことが目的だろうが、斬ったり燃やしたりすることが出来ないため、掴んで退かすしかできない優れものである。

 

依姫はそれを右手に持った、折れた刀で払ったが、

 

「…それは読めている!」

 

瞬時に詰めた妖夢の左からの攻撃を、すかさず依姫が刀で受ける。が、

 

「っ!?」

 

妖夢の攻撃には、力がほとんど乗っていない。受けようと力を込めた依姫は、そのまま前傾にバランスを崩す。そして妖夢の後ろから、もう1人の妖夢が襲い掛かった。

 

(また刀を分けたか…!)

 

もう1人の妖夢が持つ刀は一本なので、刀は受け止めることが出来るが、すかさず妖夢は蹴りを繰り出す。バランスを崩していた依姫は、なすすべなく後ろに吹っ飛んだ。

 

地面を転がる依姫に対して、追い討ちをかける妖夢。が、刀を振るう前にその刀が依姫に蹴り飛ばされる。

 

(ただ転がっていただけじゃない、受け身を取り続けて、すぐに攻撃に転じれるように準備をしていたのですか!)

 

戦況の不利をすぐに打ち消すことが出来る、依姫の技術の高さに殺せんせーが舌を巻く。

 

妖夢の刀は空中を舞い、無防備になったところで刀を突き出す依姫。だが妖夢は半霊へと姿を変え、突き出す刀をかわす。そしてそのタイミングで、本体の妖夢が依姫の後ろから詰める。

 

(多角的な攻撃…、もう読めた!)

 

依姫は、妖夢が真後ろから攻撃を仕掛けることを知っていたかのように、突き出していた刀を後ろに叩き込んだ。妖夢はその攻撃をギリギリで刀で受け止める。

 

(刀持ちはこの本体だけ、押し切る!)

 

左肩の痛みに耐え、そのまま攻撃を仕掛けようとする依姫。だがその首筋に、冷たい感覚が伝わる。

 

(…!!)

 

切れてはいないが、当てられているのは確実に刀である。

 

(2本の刀のうち、一本は弾き飛ばして、もう一本は本体が持っているはず…、なぜ3本目を、その半霊が持っている!?)

 

その答えは、正面にいる、本体の妖夢が持っている刀にあった。

 

(それは、折れた私の刀の刃先…!私の攻撃はそれで受けていたのか!)

 

土壇場で、刀が2本だと確信している状況で3本目を作り出した、妖夢のアイデアが功を奏した結果である。

 

「私の勝ちです。もし、半霊の私が本気で刀を振っていれば、貴女の首は繋がってない。今から状況を覆したとしても、その事実は揺るぎません」

 

動きを止めた依姫に、妖夢はそう言った。依姫は妖夢を見つめていたが、やがて聞き返す。

 

「…貴女がそこまでする理由は、何ですか」

 

依姫に聞かれ、妖夢は即答しかける。

 

「最初も言いましたが、あのタコは私が仕留めるので、その邪魔をさせない為…、

 

 

 

…だと、思ってました。

 

さっき考えていました。この理由でも無く、タコを助けたい訳でもないとすると、自分の強さを測る為、かなと。それで多分、褒められたいと。

 

でもさっきそれを考えているうちに、嫌な結論に至ったんです。私はそれに反抗しました。そうなると、この理由もちょっと違う、って思ったんです。

 

そして、最終的に得た結論は、…タコを助ける為、でした。

 

確かにあのタコは、腹立つし余計な事するし煽ってくるしそのくせ本気を出さないですぐ死ぬしその姿は情けないしで、良いところなんて何もないかと思ってました。ですが…、

 

あのタコが、理不尽な扱いを受ける理由は無い。いくら私がタコを嫌っても、あのタコは助けるに値する存在、そう思いました。

 

だからこの危機は私が助けてやる、だがその後私が殺しにかかることは関係ない。それが私が戦ってきた理由です」

「…なるほど」

 

依姫はそう言うと、少し笑った顔で続けた。

 

「正直、何を言っているかよくわかりません」

「はぁ」

「だけども、その理由を糧に、勝負に打ち勝った…。だからそれは、正しい理由なのでしょう」

 

依姫は、手の力を抜き、折れた刀を地面に落とした。カタン、とその音が響く。

 

 

 

「負けを、認めましょう」

 

 

 

しばらくお互いに突っ立ったままだったが、やがて2人とも、ストンと座り込んだ。

 

今まで集中していた分、その集中が途切れると、とてつもない疲労が襲いかかる。妖夢が呼吸を整えていると、

 

「わっ!?」

 

突如、四方八方から抱きつかれた。何事かと驚いていると、妖夢の耳に声が入ってきた。

 

「すごい、本当にすごいよ!」

「かっこよかったよ!」

「まるでジャンプアニメのようね!」

 

周りを囲っているのは、E組の女子生徒達だった。投げかけられる歓喜と祝福の声に妖夢が戸惑う。

 

「わ、私は個人的な理由でやったまでで、貴女達に褒められることでは…」

「いいえ、素直に受け取るべきですよ」

 

声をかけられて、男子生徒を連れて近づく殺せんせーに気づく。

 

「よくやりました、妖夢さん。私は貴女が勝つと信じてはいましたが…、ヒヤヒヤさせられました」

「…そりゃどうも」

「ですがその勝利は、生徒達と共に共有するべきです。良いことに限らず、悪いことも、そうでもないことも全て。何故なら…」

 

殺せんせーはニッコリと満面の笑みで、妖夢に語った。

 

「貴女はもう既に、我ら3年E組の仲間と言っても過言ではない。貴女の編入は、私の独断で許しますよ」

 

なんか知らない間に、勝手にクラスに入れられていた。相談もなしに無断で決められると、何かとムカつくのが条理だが、

 

(…このクラスは、悪くない)

 

E組の温かさに、妖夢は小さく笑った。

 

 

 

 

 

「…さて、大きな壁は越えることが出来ました。皆さんのおかげで、私は最後のステージにたどり着くことが出来ます」

 

殺せんせーが全員に感謝の意を述べた後、都の本殿に向き直る。

 

「これから、あそこに乗り込む、のですが…」

「…向こうから来てくれたわね」

 

紫も悟って、都を見上げる。高いところに位置する、展望台らしき場所から、殺せんせーらの集団を見下ろす人物がいた。

 

顔は見えず、そもそも逆光気味なので、服も具体的にはわからないが、どうやらとてつもなく怒っているらしいその人は、

 

「あれが月夜見様の、代理ですか」

 

依姫の側についていた優曇華院が確認する。レイセンは怯えた様子で上を見上げていた。

 

 

 

 

「…それでは、最終局面です。いきましょう!」




イリーナ「…今日の後書きは、私、イリーナ・イェラビッチと」
八雲紫「八雲紫でお送りします」
イリーナ「ところであんた今回、最初と最後しかセリフ無かったわよね(CV 伊藤静)」
八雲紫「二話分しか出てこなかった人に何を言われても平気ですよ(東方スペルバブル CV 伊藤静)」
イリーナ「今回の戦闘、勝てて良かったけど、何故勝てたかは疑問よね。しっかり作戦を練ってたとはいえ、いくらなんでも依姫って奴は強すぎるから」
八雲紫「それはまた、次回にわかることでしょう」
イリーナ「それにこの戦闘に勝ったぐらいで、月夜見代理が納得するはずがないわよね。奴を黙らせる方法はあるのかしら」
八雲紫「それもまた、次回にわかることでしょう」
イリーナ「貴女、ほぼ丸投げしてるじゃないの」
八雲紫「後書きで次回の内容をバラすことはないですよ、ビッチ先生」
イリーナ「なんで貴女がその呼び方知ってんのよ!」
八雲紫「それじゃあまた次回をお楽しみに。今回はゆかりんとビッチでお送りしました」
イリーナ「それただの蔑称じゃないの!」
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