黄色い超生物の話題も、もはや全く耳にすることも無くなった頃から、約十年後。首都は東京から京都に移しており、東京は荒廃していた。
そんな中、京都の大学で、その超生物の話題を出した二人組がいた。
「これ、私たちが小さい頃の話よね…」
「そうよ、私たちはこれから、この超生物について調査します!」
意気揚々とそう言ったのは、宇佐美蓮子。蓮子がコピーした新聞記事を眺めているのが、マエリベリー・ハーン。通称メリーである。
「ねぇ蓮子。私、いよいよこのサークルの目的が何なのかわからなくなったんだけど」
二人が所属するオカルトサークル、秘封倶楽部。その活動は当然オカルト絡みのはずなのだが、
「何言ってんの、この超生物にはね、とんでもない不思議が眠っているのよ!」
いよいよネタが尽きたのだろうか、蓮子は「不思議」もサークルの活動として取り込み始めた。だがメリーも言われたことを一緒に調査するのが主な仕事なので、不満は言わない。
「で?この超生物はどんな不思議を持っているの」
「ふっふっふ、知りたい?」
「知らないと活動できないんだけど」
「アッハイ」
蓮子はいそいそと、追加の資料をメリーの前に出した。
「これは…」
「そう!」
メリーが感想を言う前に、蓮子は興奮して一人で語り出した。
「どんな役でも完璧にこなす天才女優・磨瀬榛名!
『ヌル杉野』の名称でメジャーリーガーとして活躍・杉野友人!
ノーベル賞並の万能な人工血液を開発・奥田愛美と竹林孝太郎!
他にもテレビに出たことがあったり、大きな評価を受けている人ばかり、そしてこの人達が全員、超生物のいたクラスに所属していたという事実!これは不思議がありそうでしょ!?」
「蓮子の演説はさておいて、これはけっこう気になるわね」
蓮子の言葉を全無視し、メリーは資料に目を通してそう言った。
「それにしても、ここまでよく資料を揃えたわね」
「いやいや、あらゆるコネと弱みを持っていればこのくらい。メリーもどうよ?」
「私は危ない橋は渡らないタイプなの」
それにしても、とメリーは蓮子に聞く。
「これだけの資料があれば、もう他に調査することはないでしょう?」
「いいえ、まだ肝心なところが判明していないのよ。この超生物がどういう経緯で生み出されたのかとか」
「生み出された…、って、この超生物は生物兵器か何かってこと?そんなことはどこにも書いてないけど」
「確かに明言はされてないけど、今の状況下なら推測は簡単よ。この超生物が話題になって以来、奇怪な怪獣、生物は今まで発見されていない。もしこの生物が自然発生したのなら、他の類の超生物も現れて然るべしだし、資料から見るに知能レベルが非常に高いってことは、人間をベースに作られた、って言われても不思議じゃないでしょ?」
「言わんとしていることはわかるけど…」
それでも状況証拠では断言は出来ないだろう。それも込みで蓮子はこの調査を提案したのだ。
「もちろん、グレーな話だから揉み消されたらそこで話は終わるけど、私たちはそこで諦めないわよ。私たち自身で、証拠を見つけ出すのよ!」
「そういうことなら別に構わないんだけど、どうするの?」
妥当なのは関係者や、資料のリストにある当時の防衛省の関係者、学校関係者、そして元生徒たちに話を聞くことなのだが、蓮子の計画はメリーの斜め上をついた。
「この超生物が潜んでいた別校舎。東京に位置しているんだけど、実はこの土地、元生徒たちが買っているのよ。秘密が眠っていると思わない?だったらこの目で確かめるしかないでしょ!」
「…え!?まさか東京に行くの!?」
思わず立ち上がってしまうメリーだが、蓮子は自信満々に「その通り!」と答えた。
「嘘でしょ!?もしかして日帰りで行けると思ってる!?」
先に話した通り、東京は現在荒れ果てており、かつて大通りだった場所にも植物が蔓延るなどの惨状で、都会の道を歩くだけでもピクニックのような気分になる。当然、交通網は完全に死んでおり、電車では関東圏に少し入っただけの場所までしか近づけない。
それを知っているので、メリーは驚愕しているのだが、蓮子は尚も元気な表情でグッと拳を握り締めた。
「思ってるわけないでしょ、野宿するに決まってるじゃない!ちょっとした合宿よ!」
「人一人いない場所で野宿して、何が合宿!?」
良く言えば行動力に溢れている、悪く言えば無鉄砲。メリーにとっては、蓮子は後者にしか見えない。
「大丈夫よ、歩いて行くわけないでしょ。電車降りたところでレンタカー借りれば、一泊で戻れるわよ」
「いくら何でも楽観視しすぎでしょ!?」
結果的に楽観的だった。運転を名乗り出た蓮子が免許取り立てで、更には道がデコボコしすぎて車がガタガタと揺れて、座っているだけのメリーも疲れてしまった。まだ高速道路の残骸が生きていたから助かったものの、そこが通れなくて山道を進むことになったらどうなっていただろう、とメリーは震えた。
関東圏の高速道路は死んでいるので、料金は取られない。車も当然他にはなく、蓮子は調子に乗ってスピードを出すので、メリーは運転していないはずなのにヘトヘトとなった。
高速道路を降りてからは、道が一気に廃道感を増した。出来るだけ大通りを通って目的地に近づく。だが過去の地図を見る限りは、校舎に続く道の麓まで行くには、細めの道路を通らなければならず、これだけ荒廃している様子では、途中で車を降りて徒歩で行かなければなさそうだ。だが、
「…ここ、なんとか通れそうだけど」
「ええ。出来るだけ近づいたら?」
細い道でも、車が通れるほどには荒れてない道を見つけたので、そこから目的地に少しでも近づこうとする。しかしこの道だけ、狭いというのに周りと比べて広く感じる。原因は草木が邪魔しておらず、車が通れるほどのスペースが、この道にだけ空いているからだ。
(他の細い道は車どころか自転車も安定して通れるか怪しいのに、どうして?)
メリーはそう疑問に思っていたが、更に疑問が増える。
「…あ、ここだ」
「え!?」
すんなりと、校舎に続く道の手前に車を停めることができた。だが2人はこの荒廃ぶりから、途中で車を置いて行くことを予想していたので、そのすんなりさに疑問を抱く。
「ねぇ、他の道は車も通れないほどなのに、どうして私たちはここまで来れたの?」
「さぁ…。まぁ、嬉しい誤算ってことで、先に行こうよ」
人は来ないとは思うが、一応車をロックして、蓮子とメリーは山を登る。日頃から運動をしていないのが原因なのか、校舎に着くまでに2人はヘトヘトになってしまう。メリーは運転でも疲れているので、二重に辛い思いになっており、終始蓮子に背中を押されながら登っていた。
校舎は思ったよりも綺麗だった。が、
「…綺麗すぎない?」
一般の家が緑に覆われているぐらいなら、山奥のこの校舎はむしろ緑で散らかっているはずだが、校舎に続く道と校舎周辺だけがすっきりしている。
(よくよく考えれば、今通った山道も、本来なら人が通れない位に狭くなるはずなのに)
ここまで到着するのに、都合が良すぎる。まるで、ここに来る者を誘おうとするかのように。
(ひょっとして、亡霊となった超生物が誘導してたり…?)
その手の話になれば、秘封倶楽部として大歓迎なのだが、蓮子はその線を全く気にせずに、ズンズンと校舎に入ろうとする。「ちょっと」とメリーが呼び止めると、蓮子は立ち止まって後ろを向いた。
「今、メリーなんて言った?」
「え、だから『ちょっと』って呼び止めただけだけど」
「いや、その他に。何か聞こえた気がするんだけど…」
メリーは「ちょっと」以外は何も言っていない。何が聞こえたのだろうか、と疑問に思ったが、すぐに解決する。
「…私たちの他にも、誰かいる?」
2人が話していなかったのに、人の話し声が聞こえた。耳を澄ますと、どうやら2人が来た道から聞こえる。声は複数で、男女のグループのようだ。やがてその人達が姿を現し、2人の前で立ち止まる。
「えーっと、君たちは誰かな?」
こちらも同じことを聞きたいが、蓮子はそのグループの中の1人を見て声を上げる。
「あ、『ヌル杉野』!?」
「え!?っていうことは…」
メリーも蓮子と同様に気づく。この人たちは、かつてここで超生物と共に過ごしていた、E組の元生徒だと。
「いくら何でも無茶しすぎよ。女子大生が2人だけで、こんな廃都の真ん中に来るなんて」
「あはは…」
片岡が差し出したお茶を、メリーは素直に頂いた。
「私はもちろん反対したんですけど…」
「なっ、私だけないがしろにする気!?結局メリーもついてきてるじゃない!」
「蓮子が1人でも行きそうな勢いだから、仕方なく同伴してんのよ。私は保護者で、蓮子はお子様だからね!」
「何よ、子供の心は何歳になっても大事でしょ!?」
「そういう話してない!」
話によると、E組の元生徒はこの校舎の土地を買った後、定期的に訪れて清掃や点検をしているという。それは東京が廃都となった後でも、変わらずに続けられていたのだ。
(だから、車でここの近くまで通れて、ここまでの山道も荒れてはいなかったのね)
けもの道と同じ理屈である。いくら荒れ果てているとは言え、何度も同じ道を通る者がいれば、その道は自然と道の状態を保つ。
「私たちよりも先に車が停まっているから、何事かと思ったけど、まさかその正体がごく普通の女子大生とは」
「普通ではないです。秘封倶楽部ってサークルに所属してるんですよ」
岡野の言葉を一応、訂正しておく蓮子。蓮子とメリーを囲む女性たちの外側でも、男性たちが興味を持っている様子でこちらを見ている。
「多分、察しているとは思いますが、私たちは超生物について調べに来たんです。きっかけは、その超生物に巻き込まれたと言われているあなたたちが、輝かしい功績を残していることを知ったからでした。世間には悪いことのように広まっていますが、いくら何でも功績が輝かしすぎる、何か影響があったに違いない、そう思いました」
「さらには、あなたたちはここの土地を買い、整備までしている。…当事者だったあなたたちがそこまでするとなると、世間に言われている内容には疑問を抱きます。きっと、何か隠された真実があるのではないですか?」
蓮子とメリーの言葉を、片岡らが真剣な表情で受け止める。彼女らが当時から何かを隠しているのは、取材や国からの発表からで十分察しがつくのだが、果たして(秘封倶楽部とはいえ)ただの女子大生に話してくれるのだろうか。
と、真剣ムードの女性グループの外側から、「すげぇ!」と声を上げる者がいた。見ると、前原が手を叩いて喜んでいる。
「そこに気づいてくれる聡明さと、僅かな疑問に対してもここまで動ける行動力に、俺は感動した!」
「あんた、わざと難しそうな言い回ししてない?」
岡野がそうつっこむが、前原はそれを無視して、周りの皆に語りかける。
「いいんじゃねぇか?話しても。俺らの中学最高の青春をよ。俺もそろそろ、誰かに本当のことを話したくてウズウズしてたんだよ」
「…そうだね」
前原の後ろで、業がそう言ってフッと笑った。
「俺らの中だけで、あの先生のことを知っているのはもったいない。語り継げるべきだ」
「…あれ、俺ら、だいぶ前にも誰かに話してなかったっけ?」
ふと、杉野がそう言うと、皆が首を傾げる。
「確かに、みんなで誰か別の人に話したような…」
「でもそんな大事なこと、普通は覚えてるはずなんだけどな」
誰一人として、明確に覚えてはおらず、「話したかもしれない」という曖昧な記憶だけで、なんとなくモヤモヤとする。これ以上考えてもキリがないので、磯貝がパンと手を叩いて皆を誘導した。
「とりあえず、この二人にはお話しするとして、まずは校舎のお手入れから。お二人も、よかったら手伝ってくれるかな?」
「まさかタダで話が聞けると思ってないでしょうね〜?」
中村がそう言って二人の肩に手を回す。「も、もちろんです!」と二人は慌てて言った。
磯貝はお手入れと言ったが、想像したよりも本格的だった。校舎の周りの雑草抜きから、校舎内の隅々までの清掃、穴が空いた箇所の補強など、業者に頼んでもいいレベルの作業を、元生徒たちは、その分野に通じている人からの指示でスムーズに動き、次々とこなしていく。
「ひゃー、疲れたー」
床の水拭きをやっていた蓮子とメリーは、全ての作業が終わると、パタリと倒れ込んだ。「お疲れ様」と矢田に差し出された飲み物を受け取りながら、メリーは一言だけ漏らした。
「これほどまで丁寧に『お手入れ』するってことは、ここがよっぽど大事なんですね」
その言葉を聞くと、矢田は嬉しそうに笑って「そうだよ」と答えた。
「本当に僕がやるの…?」
「先生のくせにウジウジしないの!」
普段、授業を受けていた教室。渚は教壇に立たされ、蓮子とメリーへの話をしろと周りからやいのやいのと言われる。
「ていうか、そもそも講義の形で言う必要もないような…」
「渚がどのくらいのレベルの先生になったか、見定めたいし」
「俺らは後ろから補足するから、好きに話していいぞ」
業と杉野が後ろから声をかける。渚以外の元生徒は全員、席に着席しているのだ。
(なんか、先生っぽくないなぁ。ナヨナヨしてそうだし、小さいし)
まだ渚の本質を知らない蓮子とメリーが、そんなことを思っていると、突然、閉めていた教室の扉がガラッと開いた。
「ごめん、だいぶ遅れちゃった…、って、みんなして何してるの?」
「ああっ!?ま、磨瀬榛名さん!?」
磨瀬榛名であり雪村あかり、そしてE組では茅野カエデの名で親しまれている彼女の登場に、蓮子が思わず立ち上がる。事情を一通り聞いた茅野は、「じゃあ渚の授業が聞けるんだね」と笑って、渚は「授業でもないよ…」と呟いた。
茅野も席に座り、渚も落ち着きを取り戻したところで、磯貝が「起立!」と声を上げた。立ち上がる元生徒たちに釣られて、慌てて立ち上がる蓮子とメリー。
「礼!着席!」
懐かしい、とふと二人は思った。高校、大学ともに号令が無かったので、中学以来である。
それに対して、元生徒たちは、二人とは違う懐かしさに思いを馳せていた。
渚は教卓に手を添えて、席に座っている全員の目を、順番に見る。そして明るい声で、開始の宣言をした。
「それじゃあ、始めます!」
このあとがきを読んでくださっているということは、この作品を読了してくださったというわけですね。本当に、ありがとうございます。
この作品が初めて投稿されたのは2018年7月。なんと約4年間も続いた作品と、聞こえはいいのですが、亀も驚く投稿ペースなので本編は全24話。一話ごとの文字数が多いにしても、この投稿ペースの遅さから逃してしまった読者はきっと少なくありません。物書きの方は投稿ペースは出来るだけ早くするように努めてくださいね。
そんな話はどうでもよくて、ここでは積もる話を出来るだけ厳選して話したいと思います。なのであとがきにしては長いです。大体関係ない話なので無視しても大丈夫ですよ。
まずはずっと言いたかった言い訳です。この作品は単発を予定していて、そもそも初投稿で、小説を投稿するのはどんな感じなのかを把握するためにやっていました。ですが想像を超えた20件ほどのお気に入り登録と「続きが読みたい」という感想を頂いて、図に乗った僕は即席で続きを制作しました。まだオチも決まっていなかったので、とりあえずドタバタを繰り返す予定で作っていたのですが、これにより、最終的なオチの設定と初期の設定とで乖離が発生します。なので違和感を感じた方、間違ってはいませんが許してください。
次に、知識がまだまだ足りない件についても話したいです。暗殺教室は漫画、アニメ共に履修済みですが、東方は原作未プレイなんですよね…。今はネットで何でも知れる時代なので、設定はある程度は知れますが、書籍もまだほとんど読めていないので(香霖堂は最近読んだ)、勘違いとかありそうで怖いです。もしあったら、…許してください。あとはキャラ崩壊もですね。感想で指摘を頂いたので、タグは付けたのですが、まぁ主に妖夢がガラ悪くなっています。面白くしようと加えた設定なのですが、逆にとっ散らかって困ったこともありました。
あと、ストーリーの大筋には、感想から発案したものもちょっぴりあります。その節は大変ありがとうございました。
まだまだ話したいこと、言い訳したいことは湧いて出てくるのですが、ダラダラと喋るわけにもいかないので、最後にこの作品について。本編、エピローグ共にこれで終了なのですが、もしかしたら舞い戻ってくるかもしれません。というのも、まだ出していないアイデアもありますし、殺せんせーと他のキャラとの絡みも書いてみたいのです。そして何より、この作品は僕がネットに投稿した中での一番の成功作なので、居心地の良さを求めて帰ってくると思うのです。(他のネット小説サイトにも投稿はしているのですが、閑古鳥が鳴くような有様で…)もし戻ってきたのを見かけたら、番外編として出す予定ですが、是非また一読してください。
ここまで執筆を続けられたのは、お気に入り登録や感想等で元気をくださった皆様のおかげです。心から感謝しています。本当に、ありがとうございました。
番外編に限らず、ハーメルンでは別作品を投稿するつもりなので、興味を持っていただいたら読んでください。