マッハ20の初代死神でも幻想郷は辛かった   作:螢雪

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お久しぶりですしか言っていない気がします。
さて、ついに本編も第2期(と言っておけばカッコいい気がする)に突入です。区別はサブタイトルの違いで表す予定です。
現在、文化祭が開催中なのですが、やる事がないので、僕としては絶好の執筆チャンスです。もしかしたら、次の話も明日には作れるかもしれません。
それでは、久々の逃走劇をお楽しみ…、あっ、今回は逃走はお休みなんだった。


マッハ20の初代死神は、幻想郷を楽しんだ1

前作の直後…、

 

 

 

「ちょっと、何してくれてんのあんた…」

 

白玉楼にリスポーン(?)した殺せんせーに、天の声が降りかかる。

 

言うまでもなく、自称神である。

 

「何、とは一体なんでしょう?」

「いや、これは一応『暇を持て余した神々の遊び』なんだよ?それで自害って…。ちょっと興ざめ気味だよ…」

「ですがルールには、自害してはいけないというものは無かったはずですが」

「無いよ、あるわけないよ。だってすると思うはずないから」

 

ため息気味の自称神は、怒りよりも呆れの方が大きいらしい。続けて殺せんせーに問う。

 

「…一体なんの為に?」

「私の精神を貫く為です」

 

殺せんせーは何かを懐かしむような顔をし、空に向かって答えた。

 

「いつの間にか、私は『教育』が必要な人を見逃せなくなってしまいました。あの1年間で、私は殺し屋の心から完全に変わってしまった…。ですが、それは不快なものではありません。むしろどこか心地よいものです」

「…その心地よさの為に、自らのチャンスを棒に振るのか?一応言っておくと、このチャンスも有限だ。期限は神々が飽きるまでだ。わかっているな?」

 

殺せんせーは軽く笑い、自信満々に言い放つ。

 

「この決意の目を見て、わかるでしょう」

「…いや、そのテキトーに書いたような目を見てもよくわからないが」

 

まぁそこまで言うのならば、と自称神はどうやら説得を諦めたようだ。

 

「このチャンスをどう扱うかはお前次第だ、だがほどほどの行動をとることをお勧めするぞ」

「…思ってたんですけど、あなたの口調、安定しませんね?」

「お前と話していると、いくら丁寧な口調を心がけていても気がつくと素と混ざっているのだ…」

 

 

 

 

 

妖夢が白玉楼に戻ると、殺せんせーはまだ着いていなかった。よくあることだが、殺せんせーが殺されてから白玉楼に強制送還されるまでに、若干の時間差があるらしい。

 

「あら妖夢、お帰りなさい。どうだった?」

 

縁側でのんびりとしていた幽々子が妖夢に気づき、笑顔でヒラヒラと手を振る。その主人の様子に多少は和んだが、

 

「…顔が少しうかないわね。何か怖いことでもあった?」

「いえ!そういうことでは、ないのですが…」

 

妖夢は声を張って誤魔化そうとするも、語尾は縮こまってしまう。

 

どうしても、あの光景は意味不明すぎて、ゾッとする。

 

「まぁ、殺されないように生き延びようとする人が、いきなり目の前で自殺したら、それはびっくりするわよねぇ」

「見てたんですか!?」

 

妖夢は思わず声を上げる。幽々子はあの場にいなかったはずだが、

 

「久々にやる気満々の妖夢を見たから、その雄姿を見に来たのよー、気づかなかった?」

 

気づかなかった?なんてとぼけちゃって。どうせ気配を殺してたに決まってる。妖夢は不服げに「わかりませんでした」と一応答えておく。

 

「あらあら、ご機嫌斜めね。じゃあ、殺せんせーさんを迎えに行こうかしら」

 

結局見透かされていることに妖夢は更に拗ねるが、幽々子はお構いなしにどこかに行ってしまう。はぁ、と軽くため息をついた。

 

殺せんせーが自ら自分の命を捨てたので、今回の報酬は誰にも与えられないようだ。…いや、そんなことは問題ではない。

 

これから先も、あのタコと生活しなければならないことが問題である。

 

それに、殺せんせーが白玉楼に残る理由。『教育』と言ったことから、どう考えても私が関連している。

 

私が?あのタコから?教育?

 

いやいやいや、と首をブンブンと振る妖夢。考えられない、というよりかは考えたくない。というか、教育される前にこっちが教育させてやる!

 

そう自分に言い聞かせるも、何となく外の方を見やったりして、殺せんせーがいつ帰ってくるかが気になってしまう自分がいることに気づいて、妖夢は苦悶の表情を浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

「え〜っと、ここ、どこかしら」

 

正しい入り方で入った覚えはないので、迷っても文句は言えないが、流石に死亡判定だけは困る。迂闊には遠くに行けない。

 

白玉楼は、と目を凝らして探していると、「あら」と声がかかった。背中からである。

振り返ると、

 

「幽香じゃないの、何でまた冥界にいるのかしら?」

 

幽々子がふわふわと浮きながら、そこらを歩き回っている幽香に声をかけた。

 

「無理矢理入った」

「どういうことよ…、ちゃんと無縁塚からこんにちはしてきたの?」

「嫌よ、あそこ三途の川に一番近いところに落とされるじゃないの」

「そうなの?」

「何であなたが知らないのよ」

「それで、用事は何かしら?」

 

話を逸らすな、と幽香は突っ込むが、幽々子はそれを無視して幽香の回答を待つ。諦めて幽香はその話に話題を変えた。

 

「紫を呼んでくれないかしら?」

「殺せんせーさんのこと?」

「話が早いわね」

「紫も彼について調べているから」

 

幽々子の一言に、幽香は敏感に反応した。

 

「調べている?殺せんせーのことを?まさか外の世界に行ったんじゃないでしょうね」

「あらー、あなたも随分と話が早いわね〜」

 

まさかか、と幽香は少し慄いた。紫、ちょっとそれは無鉄砲なんじゃないのか?

 

「外の世界から度々来る、宇佐見菫子さんだったかしら?彼女が外の世界の『ぱそこん』ってものを使ってみたらどうだ、って霊夢に言ったらしいのよ」

「へぇ、…って、そもそもその菫子とやらに殺せんせーの話を聞けばいいんじゃないのかしら?」

「彼女、幻想郷に来る為に向こうの世界ではずっと寝てたから、よく知らないみたい」

「役に立たないわね」

ふふふ、と幽々子は機嫌が良さそうに笑う。

「…何でそんなに機嫌がいいのだか」

「あら、わかる?」

「それだけあからさまにニコニコしてたら、流石にわかるわよ。で、何かいいことでも?」

「別にぃ」

「何よその態度、あームカつく。まぁそんなことはどうでもいいわ、紫はいつ帰ってくるの?」

 

幽香はだんだんとイライラしてきて、直球に聞く、と、

 

「あーはいはい、紫様が帰ってきましたよーだ」

「って、また何でそんなに不機嫌なのよ」

 

紫がスキマから身体を出して、幽香の肩に寄りかかる。幽香にそれを振り払われ、不機嫌のまま紫が答えた。

 

「何をどうすればいいのか全っ然わからないわ。これはもう地道に動き回るしかなさそうね」

「地道に、ってどういうことよ」

「とりあえず殺せんせーがいた中学校ってやらは仕方なく『ぱそこん』で調べるにしても、殺せんせーが受け持った生徒を一人一人訪ねるのよ」

「…って、あんたみたいな妖怪、外の連中が見たらどうなると思って…」

 

幽香が少し咎めるような口調になる。しかし紫は片手でそれを抑えた。

 

「記憶を消すから大丈夫よ。それにあの怪物を担任として一年間耐え続けた連中なんだから、肝ぐらいは据わってるはずだし」

「んー、言われればそうね…」

 

幽香がそう唸ると、横でずっと聞いていた幽々子が口を開いた。

 

「殺せんせー、帰ってきたわ」

「そう、じゃあ白玉楼での応対よろしく、そんで幽香、こっち来て」

「えっ、ちょっ」

 

紫が幽香を掴んで隙間の中に引っ張り込んだ。その場には幽々子だけが残される。

 

やがて、殺せんせーの姿がその場にやってきた。

 

「お疲れ様です、殺せんせー」

「スポーツ帰りの高校生への労いの言葉みたいですね…」

 

満面の笑みの幽々子に対し、殺せんせーはあまり笑えそうにない。

 

「妖夢ならもう白玉楼にいますよ」

「ありがとうございます、では」

 

そう言って殺せんせーはのろのろと歩き出した。疲れているのか、高速移動をしていない。

 

「…おい紫、」

「聞いて、しっかりとしたわけがあるの」

 

殺せんせーが豆粒ほどの大きさに見えるほど遠くに行ったところで、隙間から紫と幽香の顔が出てくる。

 

文句を言いかけた幽香を止め、紫は隠れた訳を話した。

 

「殺せんせーから隠れてる訳じゃないわ。——殺せんせーを見ている神から隠れているのよ」

「神…?殺せんせーが幻想郷に来るたびに指名手配のことを言っていた声は…、神のことだったのか」

 

しかし、それは夢の中で聞いているので、記憶としてはあやふやである。本物の殺せんせーを見た時に、「ああ、こいつか」と脳が理解するのだろう。

 

「なんでわざわざ神に対立するのよ」

「あなたもわかっているはずよ。——何故殺せんせーがこの遊びに選ばれたか」

 

それについては幽香も不服に思っていた。手段は何にしろ報酬があるにしろ、残酷に言ってしまえば、これは殺せんせーの公開処刑だ。だとすると、殺せんせーはそれなりの行為をしたということになる。

 

しかし、少しの時間、相手をしただけでも、殺せんせーの中が善良な人物だと言うことぐらい、すぐにわかる。

 

「何か深い訳があるに違いない、それなのに、実際に処刑の舞台として使っている私たちには何も知らせない…。腹が立たない?」

「まぁ…そうね」

「そんなわけで、コソコソと調査中よ」

「でも神ならば、幻想郷在住の神にでも聞けばいいじゃないの?」

「別に守矢の所とかを信用してない訳じゃないんだけど…、相手は神だし、いつどこで情報が漏れるかわからないから」

 

漏れるって…、まるで情報戦じゃないの。

幽香は紫の発言に、あからさまに顔をしかめた。

 

 

 

 

 

幽々子に名前を呼ばれ、妖夢は遅い足取りで迎えに行く。

 

幽々子は「殺せんせーを迎えに行く」と言って白玉楼を出た。そして帰ってきたということは、殺せんせーがそこにいるということだ。

 

恋愛面の話ではなく、ただただ顔を合わせづらい。今まで通りきつく当たって誤魔化すか、と算段していたが、

 

「何やってんだテメェ!」

 

殺せんせーを見た途端、妖夢は思わず叫んだ。算段は不要だった、殺せんせーが枯山水庭園をいじくり回していたからである。

 

「妖夢〜、ただいまー」

 

呑気に近づいてくる幽々子に、妖夢は噛みつくように訴える。

 

「幽々子様!何で注意しないんですか!」

「殺せんせーが修行だって言うから。あと、はい」

 

そう言って幽々子が渡したのは、二本の木刀だった。

 

「私を止めたくば、木刀で一回でも私の身体に当てなさい。今日中に当てられなかったら、枯山水の手入れは妖夢さんが行うことになります」

「はぁ!?」

「これは修行です」

「何の為の修行だ!意味がわからない!」

 

妖夢が殺せんせーに向かって怒鳴りつけていると、殺せんせーの顔がうっすらと緑がかってきた。——この顔は、

 

「あれ?もしかして、『一回でも』当てることができないんですか?」

 

舐めている顔だ。

 

「…上等だやってやるよぉ!」

 

目に見えてブチ切れた妖夢は幽々子から木刀をひったくるように取り、目にも留まらぬ速さで横に振るった。

 

「遅いですよぉ〜、ハエが止まりますね」

 

しかし案の定、殺せんせーは余裕綽々といった様子でかわし、屋内へと入っていった。

 

「待てコルァ!」

 

枯山水を乱さないように空中でブレーキをかけた妖夢は、すぐさま切り返して殺せんせーに襲いかかった。

 

嵐のようにどこかへ行った殺せんせーを妖夢を見て、幽々子はくすくすと笑いながら歩く。その後ろから、

 

「…ちょっと幽々子、あの子、口悪くなっていないかしら?」

「妖夢はねー、怒ると手がつけられないのよ。それに影響も受けやすいし」

「そうじゃなくて、教育上よろしくないんじゃないのってことよ」

 

スキマを少しだけ開通した紫が、扇子を持って不安げな顔をする。しかし幽々子は笑みを浮かべたままさらりと答える。

 

「妖夢って、ちょっと頑なじゃない?だから殺せんせーはいい薬になると思うんだけど」

「随分な荒療治ね…、それ知ったら妖夢怒るわよ?」

「平気よ平気。私がここの当主よ」

「晩飯抜きとか言われるわよ」

「それは困るわ」

 

食料の問題を指摘され、一瞬とはいえ不安に駆られた幽々子だったが、…すぐに何とでもないというような表情へと変わる。

 

「…でも多分、殺せんせーのことで手一杯になると思うわ。私のことまで気が回らないわよ。だから余計なことはしないでね」

「わかったわよ。こっちとしても、白玉楼に殺せんせーを置いてくれてた方が、動きやすくて都合がいいし」

 

部屋の奥では、まだドタドタと乱闘の音が聞こえる。そういえば幽香は、と思い出して幽々子が聞くと、紫はもう地上に返したと伝えた。

 

 

 

 

 

「ほれほれ〜、こっちですよ〜」

 

触手をクネクネとうざったらしく動かしながら、殺せんせーは妖夢の周りで飛び回る。それも、必ず妖夢から一定距離以上離れずに、である。

 

煽っているその態度に、先程からイライラが止まらない。

 

「愚弄するな!いい加減に…」

 

妖夢は木刀を二本とも、カチリと構え、

 

「人符・現世斬っ!」

 

目にも止まらぬ速さで、殺せんせーに対し辻斬りをした。妖夢のスペルカードの中の、神速の技である。神速の殺せんせーなら神速のスペルカード、そう考えたのだが、

 

「ぬるいですねぇ」

「!?」

 

殺せんせーはケロっとした態度で、位置を変えずに佇んでいた。

 

「しかし、やはり剣術はなかなかのものですね。速さでごまかすこともなく、綺麗な打ち込み方です」

「な…!?」

 

あれだけ速かったはずなのに、こいつは自分の姿勢まで細かく見てる…だと?

 

「と、いうことは、妖夢さんの直すべき点は、別の点、つまり剣術に関係のない点ですね」

 

ニヤニヤとなお分析を続ける殺せんせーに腹が立つが、

 

(…待て)

 

妖夢はふと動きを止めた。何か考えているのを察したらしく、殺せんせーはその場から動かない。

 

(こいつは「教育」と言った…。認めたくはないが、私に至らぬ点かあるってことか…?)

 

現在のこの状況は、無縁塚での戦いと全く同じだ。避けつつも決して逃げ出さない、舐めきった態度の殺せんせーに、あの時の妖夢は怒りに任せて剣を振るった。

 

そして、自らでは一度も剣を触れさせることは出来なかった。

 

「だんだん、わかってきたようですね」

 

まるで妖夢の思考を読んだかのように、殺せんせーは構えていた木刀を下ろした。

 

「いくら私のことが気に食わなくても、妖夢さんが『まだ足りない』点は存在しています。私は、それを直すために自殺したんですよ」

「…」

 

薄々はわかっていた、だが殺せんせーに教えられるのは腹が立つ。

 

「まぁ、それでもあなたにはプライドがあるでしょう、ではこうしましょう」

 

プライドとやらの意味はよくわからなかったが、殺せんせーの続けた言葉だけで充分だった。

 

「『教育』だけでは、弟子は師匠を超えることは出来ません。何故なら師匠が持っているものしか、弟子は手に入らないからです。弟子が師匠を超える為には、『教育』以上のことを自分でしなければなりません。つまり」

 

殺せんせーはヌルフフフと、ひさびさにご機嫌そうに笑った。

 

「妖夢さんが私を倒せるということは、私から教わったからではなく、自らの力で成し遂げたからと言えます」

「…少し強引な気がするが」

「さぁ?この世界もほぼほぼ強引みたいなものです。自らの意志を貫くことはもちろん大事ですが、流れに逆らわないことも時には必要ですし。この強引な流れに乗っておきましょう」

 

そういうことで、と殺せんせーは妖夢から木刀を取り上げた。

 

「私の教育を、受ける気にはなりましたか?」

 

妖夢は自分でも驚くほど静かに殺せんせーの話を聞いていた。

 

なんだろう、こいつの言葉ではなく、話し方だけでも聴きこんでしまう。…そんなことも癪だ。

 

「…ダメだと思ったらすぐさま斬り捨てるぞ」

「全然構いませんよ。まぁ、斬ることができればの話ですが」

「ほざけ」

 

痛いところを突かれて、妖夢はそう吐き捨てて外に出た。条件通り、枯山水庭園を直す為である。

 

 

 

 

 

結局、特に情報も得れずに追い返されてしまった。

 

幽香は、どうやら博麗神社近くの森に降ろされたらしい。

 

「…ったく、テキトーな位置に送らないでくれるかしら」

 

口ではそうぼやいたが、実際のところ都合が良かった。この件に関して、霊夢にも話を聞きたかったからだ。

 

木々の間を抜けると、突然視界が開け、博麗神社の姿を確認できた。

 

森を抜けたので、太陽の光が肌を刺す。日傘を広げながら、幽香は縁側に近づいた。

 

中にいるであろう霊夢を呼ぼうとすると、横で声がした。

 

「あうーん?」

 

何とも間の抜けた声に、そちらの方向に目を向けると、

 

「…えーと、霊夢はいるかしら?」

 

頭に角が生えた、少し暗い緑色の髪をし、下駄を履いている少女に、幽香は尋ねると、その少女は元気そうに「はーい!」と答えて、神社内に消えていった。

 

程なくして、その少女の頭を撫でながら、霊夢が姿を現わす。

 

「何よ、あんたがここまで来るなんて珍しいわね」

「んー、来たっていうか、飛ばされたっていうか…」

「あん?」

「とにかく、もともと聞きたいことはあったわ。今でいいかしら?」

「別にいいわよ」

 

霊夢はすぐに承諾した。というか、基本することのない霊夢は、だいたいいつ来ても中に入れてくれる。

 

「お茶出すからちょっと待ってて」

「…ねぇ、」

「何?」

 

霊夢が振り返ると、幽香は呆れたような表情で尋ねた。

 

「…それはどういうこと?」

「紫のせいよ、決して私は好き好んでこういうことはしていない、疑わないでよ」

 

霊夢は、少女を撫でる手とは逆の手で、紫によく似た人形を抱きしめていた。

 

 

 

高麗野あうん(こまのあうん)

狛犬

神社や寺を勝手に守護している。

元は神霊だったが

とある異変で神獣化した。

 

 

 

 

 

「ではまずは、自分を倒すことから始めましょう」

「自分を、倒す?」

 

白玉楼の、特に枯山水庭園に被害が及ばなそうな庭で、殺せんせーと妖夢は早速、授業とやらを始めていた。

 

「よく『己に打ち勝て』とか、『限界を超えろ』とかいうじゃないですか。要は以前よりも強くなるということです」

「…つまり、お前は私がクソ雑魚だから、わざわざここに残っていると?」

 

一気に怒りのボルテージが上がった妖夢は、自分の刀に手を添えながらそう言った。その覇気に殺せんせーは慌てて否定する。

 

「違いますよ!そんなことは一言も言ってないですって!」

「じゃあ何なんだ」

「とりあえず刀から手を離してください!妖夢さんの覇気が無茶苦茶怖いんですよ!」

 

 

殺せんせーの知られざる弱点

その5「強い覇気に耐えられない」

 

 

殺せんせーの必死の頼みで、妖夢は刀から手を離す。

 

「…そういう理由ではありません。しかし、妖夢さん一人で私を倒すのはかなり確率が低いのは、否定できません。ですから、まずは更に上達するようにするのです」

「…それで、どうやって自分を超えると?」

 

殺せんせーは再び、木刀を妖夢に手渡した。ただし今度は一本のみである。

 

そして殺せんせーは、自分の服の上から紐を括り付けていた。

 

自分のネクタイの辺りを指差し、殺せんせーは妖夢に説明をする。

 

「今、ここに台所から拝借してきた小皿があります」

「何勝手に取ってんだお前」

「そしてここは、私の唯一の弱点である、心臓の位置です」

「っ!?」

 

突然の弱点に、妖夢は目を見張る。

 

「つまりは、貴方がこの皿を割ったことは、私の心臓を貫いたということになります」

「…自ら弱点を晒して、馬鹿かお前は」

「いいえ?負ける気がしないからこうやって晒しているんですよ」

 

やっぱり煽ってるじゃないか、と妖夢の目線に怒りが含まれる。

 

「では、早速、」

 

そう言って殺せんせーは、妖夢の周りの土に、木刀で少し大きめの円を描いた。

 

「私はここの外から出ません。それではいきます!」

「なっ、」

 

突然の開戦宣言に、妖夢は慌てて木刀を構えた。

 

だが当然ながら…、

 

 

 

殺選手は、マッハ20の速さで相手の後ろに回り込み、肩を叩いて振り返ってきたところに指で頬をぷにっと触って、また戻ってそれを繰り返す!

 

殺選手は、時速1000kmの速さで木刀を振り下ろし、その風圧で周りのものを一瞬で押し出す!

 

殺選手は防御の合間にこっそりと相手の弱みを呟き、集中力を削ぐ!

(例)「毎日夜な夜な…、胸を大きくする方法を…探している…」

 

 

 

ヘトヘトになって地面に手をつく妖夢に、殺せんせーは余裕の笑みを浮かべて言った。

 

「やはりまだ、私にはついていけませんねぇ」

「当たり前だ!」

 

マッハ20の速さにまともにかかっては、勝ち目が無いのは当然である。何かしらで殺せんせーを動揺させ、最大限の力を出させずに攻めるのが、今までの得策なのだ。

 

「だいたい、どこが『自分を超える』だ…。今までと変わらないじゃないか」

「いえいえ、これだけで終わる訳ではありません」

「は?」

 

怪訝な顔を見せる妖夢に、殺せんせーはヌルフフフと笑う。

 

「もう一度だけ、同じことをやって休憩にしましょう。…今度は、昨日の妖夢さんのように、ものすごく遅く動きます」

「…私と同じように?」

「それだけでなく、太刀筋や踏み込み方まで再現します」

 

そんなことまで可能なのか、と妖夢は目を見張った。その表情に答えるように、殺せんせーは再びニヤリと笑う。

 

「私は教師でしたが、前職は戦闘に関するものでしたからねぇ」

 

だからといってそこまでできる訳じゃ無かろう。妖夢はそう考えて、初めて気付く。

 

 

こいつは、やはりとんでもないやつかもしれない。

 

 

「さあ行きましょう、この疲れ切った限界状態で今の私に少しでも剣を触れさせることが出来たら、それは昨日の妖夢さんを超えたのと同義です!」

 

そういうことか、と妖夢は木刀を構えた。木刀を構えながら、少しだけゾクゾクとしている自分に気づいた。

 

 

悪寒じゃない、むしろ逆である。

 

 

こいつとなら、自分に更に磨きがかかるかもしれないと考えながら、妖夢は木刀を振り回して圧倒的に遅い殺せんせーに迫った。

 

 

 

 

 

「…ねぇ、それどうにかならないの?」

「うるさいわね、どうにもならないから言ってんでしょう」

 

お茶を啜りながら幽香が指摘すると、目を怒らせた霊夢がそう吐き捨てた。

 

「ちなみに、どうしてそうなったか教えてくれる?」

「殺せんせーを殺した報酬で、あんのスキマババアが…」

 

 

 

あんたに一生ひっつくようになって、側にいないとストレスで発狂するようになったですって!?

 

そうよー、だって霊夢、最近構ってくれないから。

 

冗談じゃないわよ!何であんたになんか…、今すぐ治しなさい!そもそもストレスってどこの言葉よ!

 

んー、でも流石にいつまでも一緒にいると困るかなぁ。

 

聞いてんの!?早く治せって…、

 

あ、じゃあ魔法の森の人形使いさんに私の人形を作ってもらって、スキマで私の存在を漏れ出すようにすれば…。

 

はぁ!?何であんたの人形を側に置かなきゃいけないのよ!?嫌よ気持ち悪い!

 

でもそうしないと発狂しちゃうし…。

 

だから治せっつってんの!

 

無理よ、この効果はねー、どうやら次元が違うの。私達大妖怪なんて、足元にも及ばないわ。だから諦めなさーい。

 

ふっざけんじゃ…、ちょ、どこ行くのよ!ああでもどっか行ってくれた方が、って駄目だわ!発狂しちゃう!ううううンンンンごごごご(悶絶)

 

 

 

「…お疲れ様」

「労うくらいならどうにかしてくんない」

 

不貞腐れた霊夢に、幽香は哀れみの目を向けた。が、

 

「…しかし、紫がそんなことするなんてね。流石に身勝手とはいえ、幻想郷の賢者としては問題じゃないかしら」

「じゃああのスキマババアはもう引退ね。充分歳とったし、早く出て行ってくれないかしら」

「…って、じゃあその人形にスキマがあるわけでしょ?あまりババアババア言ってたら怒り出すわよ」

「結構よ。行動は操れても意志だけは揺るがないってところを見せつけてやるわ」

 

喧嘩上等、と霊夢がガチの目を見せるので、幽香はこれ以上の無駄な話は慎んだ。

 

だから、無駄ではない話をする。

 

「ところで、さっきの話で気になる事があるんだけど…」

「何?」

 

真剣になった幽香の顔を見て、霊夢もその場に座り直す。

 

「あなたにかけられた『報酬』の効果、紫じゃ到底どうにもできないほど次元が違うって言ってたわよね」

「ええ。どうやら神らしいから次元が違うことは納得できるんだけど…」

 

どうやら霊夢も同じようなことを考えているようだ。

 

「神が、一人の人間の生死を操り、殺されることを遊びとして行なっていることが、どうしても納得がいかない」

「あれは…、人間と言っていいのかしら?」

「外の世界に、あんな怪物が生まれると思う?」

 

指摘されて、幽香は沈黙した。

 

「寺子屋の慧音によると、殺せんせーは前職は教師だって言っていたわ。つまりは人間の世界であの姿で順応していたってこと。脅迫して暮らしてたとしても、少なくとも人間世界の基礎知識を溜め込む期間が必要よ。その間もあの姿だったら、力が弱い間にとっくに退治されてるか、幻想郷に来ているわね」

「…つまり?」

 

一息つけて、霊夢は自分の考えを述べた。

 

 

「彼は、人間からあの怪物に改造された」

 

 

しばらく沈黙が続いた。やがて幽香が口を開く。

 

「…待って、彼らにそんな技術がある?」

「あるとしか思えないわね。私だって向こうの事情には詳しくないし、技術革新があったはず」

「幻想郷からの逆輸入の可能性は?」

「幻想郷に入る確率よりも、出て行く確率の方が少ないわ。さらには幻想郷に紛れ込む確率自体がとんでもなく小さい。そんなことはまず起こらないし、起こったとしても紫が気付く」

「じゃあ本当に、元は人間…」

「可能性が高いだけだけどね」

 

人間だった彼が、触手を生やした怪物となり、その姿で教師をし、元の人間に戻る事が出来ずに死んだ。

 

「…底知れぬ事情がありそうね」

「そうね。でもそれは紫に任せるわ。私は神繋がりで守矢神社にでも行ってみるわ」

「あ、それは…」

 

幽香がその件について、紫の意見を伝えるが、

 

「それは紫が幻想郷の賢者だからでしょ?たかが博麗の巫女が動いたくらいで、どうってことはないわよ」

「たかがって、博麗の巫女はそれなりの位置にいるでしょう」

「それは幻想郷の住民の意見。神界隈にとったら、ただお膳立てされた名前だけの存在よ。対した目で見られてないだろうから、私は勝手に動かさせしてもらうわ」

 

そう言って霊夢は腰を上げた。そしてちゃっちゃと手を振って幽香を追い出す。

 

「あんたは昔からいる、力のある妖怪だから、私よりかは目をつけられているはずよ。動くなら臆病過ぎずに、かつ大胆過ぎずに行きなさい」

 

そして霊夢はさっさと出て行ってしまった。

 

霊夢の後ろ姿を見ていた幽香は、ブツブツと呟く。

 

「殺せんせー…、次元の違う報酬…、元は人間…」

 

やがて、首を振って振り向いた。

 

「そこまで干渉したくはない…けど、納得はいかないわね」

 

微妙な感情と立ち位置にいることを自覚しつつ、幽香は自分の家へと戻るため、鳥居をくぐり、長い階段を降りた。

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁ、く、くそ…」

 

息も絶え絶えになった妖夢は、仰向けになって必死に息をしていた。それに対し、

 

「いやぁ、やはり防御が疎かになっていますねぇ」

 

殺せんせーは余裕綽々、といった様子で、幽々子から分けてもらった煎餅を食べている。

 

妖夢と同じ速度で、同じ動きで動いていた殺せんせーだったが、何しろ反応速度が速い。いや、妖夢が遅いのだ。少しでも生まれたスキを突く反射神経は充分なのだが、防御の構えを取る反射神経が鈍く、何度も手首を打たれて木刀を弾き飛ばされては、拾って戻るを繰り返していた。

 

「防御が遅いから、昨日のように危うく身体をぶつけるところになるんですよ。腕で庇うなど、即座に反応しなければ、そのうち大怪我をします」

「ちぃっ…」

 

返す言葉もなければ、元気もない。居心地が悪く、妖夢はそう舌打ちをして無視をした。

 

「妖夢をいとも簡単に打ち負かすなんて、やはりお強いのね」

「ええ。11ヶ月も生き延びた身ですから」

「それで、妖夢はどうなの?」

「今はまだまだですね。ですが長く訓練すれば、より良い状態に持っていけます」

 

そう言って殺せんせーは妖夢の側に来て、上からこう話しかけた。

 

「ということで、この特訓は私が幻想郷に出向く日以外、毎日行うことにします。いいですね?まぁ強制的なのですが」

「この野郎…」

 

呻く妖夢を無視し、殺せんせーがもう一つ煎餅を食べようとしたその時、

 

 

「…喜べ殺せんせー。明日、8回目の逃亡をするぞ。念入りに準備するが良い」

 

 

自称神の声が、天から聞こえてきた。




前半は勉強の合間に作ったものなのでクオリティはお察しください。
後半も少しウトウトしながら作ったのでお察しください。
要は全体的に駄作なんじゃねぇかコラ。
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