マッハ20の初代死神でも幻想郷は辛かった   作:螢雪

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前回に「明日投稿できるかも」などという供述をしてしまいすみませんでした。結果として台風により終了時間が早まり、到底間に合わなかった所存です。
しかし下積みがあったからか、随分と早く投稿できました。これでご勘弁を。
また、今回以降は「投稿ペースの向上」と「受験中でもコツコツと進める環境」と「読者の読みやすさ」の為に、本来の話の長さよりも半分で済ませようかと思っています。話によると、5000字程度の話が読みやすいだとか…。あれ、今回9000字超えたんだけど。
取り敢えず、どうかお楽しみください。


マッハ20の初代死神は、幻想郷を楽しんだ2

「いっや〜、なんか物凄くいい!」

 

そう言って人里を歩くのは、身に纏った服装も漂わせる雰囲気も、幻想郷に全く合わない人物。

 

「なんか、すっごく、ものすごく…」

 

ボキャブラリーが少なくて馬鹿みたいに同じことを口にしながら(普段はもう少しマシだが)、キョロキョロと見回すのは、

 

「すごく殺伐としてて、すごくいい!ってんなわけないか!」

 

外の世界と幻想郷を行き来できる唯一の人間、宇佐見菫子であった。

 

 

 

宇佐見菫子(うさみすみれこ)

女子高生

外の世界に住んでいる。

夢の中で幻想郷に出向く事が可能で

香霖堂は彼女を重宝している。

 

 

 

「なーんで見る人見る人、何かしら武器もってこっわい目線を周りに散らしてるのかしら」

 

どいつもこいつも、と不満げな目線で返す菫子は、人里に長居する気になれず、そそくさと外に出てしまった。

 

「気分悪いなぁ…」

 

これも異変ってやつなのかなぁと考える。菫子が異変を起こす前に、面霊気というお面の付喪神が、里の人々が「刹那的快楽」を求めて秩序が乱れるという異変を起こした。ということは、感情を操っているのだから、またその子の仕業?

 

そう考えを巡らしていると、

 

「ひゃっ!?」

 

突如、視界が沈んだ。階段で足を踏み外したのと同じなのだが、今回は踏みしめていた地面が突然無くなった。

 

犯人は大体想像がつく。

 

「ちょうどいいところに来たわ、菫子」

 

気がつくと、菫子は外の世界の雰囲気を漂わせる狭い部屋にいた。

 

「悪いけどここどうするかわかる?」

「もうゆかりん、予告ぐらいしてよ!毎回あれびっくりするんだから…」

 

紫に対してプンスカと怒る菫子。紫は対して申し訳なさそうな素振りを見せず「ごめんごめん」と返した。

 

ここはネット喫茶である。外の世界の事情を知りたいと紫が突然言い出し、菫子が勧めた場所だ。一通り操作方法は教えて、「何よ、簡単ね。こんなの幻想郷の風上にも置けないわ」だなんて余裕ぶっこいていたはずなのに、その日中に数回、操作方法を聞きに来たのだ。幻想郷にパソコンが無いのでわからなかったが、どうやら紫は重度の機械音痴らしいと、菫子は分析している。

 

「前に検索した『さいと』に戻りたいんだけど、一個戻る操作を連打してたらわかんなくなっちゃったわ」

「サイトの名前覚えてる?覚えてたらこれで一発。この右上の…」

 

初期の検索画面まで戻されていた画面から、菫子は検索履歴の一覧を出して、紫にバトンタッチした。

 

「あー、これよこれ。助かったわ」

「っていうかいい加減覚えてよね」

「お礼にどこでも連れてくけど、どこがいい?」

 

無視かよ、と菫子はため息をついた。

 

「…あー、じゃあ霊夢っちのところで」

「わかったわ。また聞くからよろしくね」

「だからいい加減覚えなさいよ…」

 

菫子の呟きはまたも無視され、幻想郷へと強制送還された。

 

 

 

 

 

「さてさて、今度はどこに行きましょうかね」

 

自分が殺される目に遭っていることをいつも通り忘れ、殺せんせーはパンフレットを開いて次なる場所を探す。

 

命蓮寺とか面白そうですねぇ、と観光気分の殺せんせーだったが、

 

その直後、あり得ないことが起こった。

 

「殺せんせー」

「…!?」

 

ただ名前を呼ばれただけだが、殺せんせーは肩をびくんと揺らし、驚愕の顔でゆっくりと振り返った。

 

何故なら、今の声は…、

 

「私のことを、覚えてる?」

 

 

その声は聞き覚えがあった。

その声は、一年間聞いてきた声。

 

 

E組の、生徒。

 

 

「よかったぁ。もう会えないと思ってたのに」

 

 

何故ここにいるのか、謎が多いが、確かにここに存在している。

 

さらに、その生徒は殺せんせーにとって、他の生徒よりも少し特別な存在。

 

 

 

殺せんせーを殺した、張本人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…って、

 

「んなわけあるはずないじゃないですかああああ!!」

「えええっ!?」

 

突如暴れ出す殺せんせーに、その生徒は戸惑う。

 

「ちょ、殺せんせー!もしかして本当に忘れてたの!?」

「いいえ!私が受け持った生徒のことは忘れるはずがありません!…そう!」

 

殺せんせーはビシッと指をさしてその生徒を指差した。

 

「あなたは今、自分のことを『私』と呼びましたね!」

「え、だから?」

「それは残念でした!」

 

勝ち誇った殺せんせーは目を鋭くし、決定的な指摘をした。

 

 

「渚くんは、男ですから!」

 

 

一瞬、驚愕の表情を見せていた潮田渚だったが、やがてはあっとため息をついた。

 

「おいおい、しくじっちゃったぞ。おい覚妖怪、どういうことだ」

「私に聞かないでください。そんなこと予想外何ですから」

 

不意に現れたのは、一見は普通の幼女だ。しかし身体からチューブのようなものが飛び出しており、それが幼女が手にしている丸い球体に集中している。

 

それは、第3の目だった。

 

「記憶を探るのはだいぶ根気のいる作業なんです。会話まで再生できませんから」

 

地底にいるはずの古明地さとりが、疲れ切った表情でそう言った。

 

「大体、何でこいつは男子なのに女子みたいな髪をしとるんじゃ。あ、いや待てよ、こいつ顔が既に女顔じゃのう…。もういっそ女として生きていた方が良さそうな気がしてくるぞ」

 

偽渚はそう言って自分の顔をペタペタと触る。髪を触ると結んでいたのが解け、長くなって垂れた。

 

「うーむ、髪質もいい…。むしろ儂が欲しいくらいじゃ」

「あのー、」

 

殺せんせーが口を挟んだ。「何?」とイラついた目線を2人が送る。

 

「渚くんの姿で喋らないでもらえますか?違和感がありますし…」

「うむ、それもそうじゃ」

 

そう言うと、偽渚はドロンと煙に包まれた。煙が晴れた中にいたのは、

 

大きな尻尾を持った化け狸、二ッ岩マミゾウだった。

 

 

 

古明地さとり(こめいじさとり)

覚妖怪

地底をまとめる長。

相手の心の中を見れる。

最近、自作小説を執筆中。

 

 

 

二ッ岩マミゾウ(ふたついわまみぞう)

化け狸

化け狸達の頭領的存在。

現在、命蓮寺に住んでいるが、

人間へのいたずらは絶えない。

 

 

 

「しかし、何故渚くんのことを知っているのですか?わざわざ地底から出てきてまで…」

「それよりも私が小説を書いていることを知っている理由が気になるのですが」

 

ジト目で睨んでくるさとりを無視し、殺せんせーはマミゾウに尋ねた。同じく無視したマミゾウは煙管を取り出しながら答える。

 

「さとりの妹さんがじゃな、儂と同じく命蓮寺に顔を出す事があるのじゃ」

「あなた顔出すどころが常勤のはずでしょう、サボってるでしょ」

「そんで、あんたの報酬の話が出回って、妹さんが——こいし、って言うんじゃがな、さとりの『心の中を見る能力』と儂の変化の術で、思い入れの深い人物で騙してとっちめようって提案してきたのじゃ」

「はぁ、なるほど。記憶も見れるのですね」

「いえ、本来は記憶を見ることは出来ませんが、能力の応用で集中して力を入れればある程度は…、って、ちょっと待ってください」

 

さとりが手を挙げて会話を止める。そして殺せんせーに向き直り、

 

「何でさっきから私のことを見ていないんですか」

「え?…ああこれは失礼。いえ別に無視しているわけじゃありませんよ」

 

朗らかに笑う殺せんせーにムカついたのか、さとりは殺せんせーの心の中を見た。

 

(ケモノキャラで胸が大きいのも悪くはないですねぇ)

 

「ただの変態じゃねぇか!」

 

さとりが表情筋をフルに使って全力で突っ込む。

 

「ニュヤッ!?まさか心の中を見ちゃいましたか!?」

「見てやりましたよ!道理でおかしいと思ったら…、マミゾウさん!襲われないように注意してくださいよ!」

「それ言うんじゃったら、さとりも危ないのでは」

「確かにそうかもしれませんが、私よりもあなたの方が危険です!」

「はん?儂はそんなに美形かのう?ありがたいんじゃが、儂はさとりの方が綺麗だと思うぞ」

 

マミゾウは心の中を見ていないので、ただ「殺せんせーが変態」という情報しか知らない。

 

そしてさとりは、そのもどかしさとちゃっかり褒められた動揺で思わず口を滑らしてしまった。

 

「だから!奴は巨乳好きなんですよ!マミゾウさんに比べたら私のつるぺたボディなんて…、はっ!」

 

その場に静寂が訪れた。ぽかんとした表情で見つめるマミゾウと、言っちゃったよと思った顔の殺せんせー。その空間に耐えられなくなったさとりは、

 

「ああああああああくっそおおおおおおおお!!!」

「ちょ、さとり落ち着け!」

 

地面をバンバンと素手で叩くさとりを、マミゾウが何とか鎮めようとする。取り押さえられたさとりは、ギラリと殺せんせーを睨み、恨みを込めた声で話しかけた。

 

「私のことを侮辱しやがって…ただでは返さぬ、死ぬまで呪ってやる!」

「いや自爆しただけですよね!?私何も悪くないですよね!?」

「ほざけ!テメェにはただ死ぬよりも恐ろしい、地獄の中の地獄を見せてやる…。私がゴスロリだと発言したことを、あの世で一生悔やむがいい!」

「おいさとり!無茶苦茶な発言をするな、何か矛盾しているぞ!あと何じゃゴスロリって!?いつの間に聞こえの悪い単語を覚えたんじゃ!?」

 

ギャーギャーと荒れ狂うさとりを必死に抑えるマミゾウだったが、ついにさとりは振り解き、全力で地面に向かって叫んだ。

 

「お空ーーーーー!!お燐ーーーーー!!あのクソダコをけっちょんけっちょんにしなさいーーーーー!!」

「いやあなたが戦うんじゃないんですか!?」

「というかその2人って、さとりのペットじゃったな。ここで叫んだって聞こえるわけが…」

「「呼ばれて飛び出て邪邪邪邪ーん!」」

「本当に出てきた!?それと無理矢理な当て字もしてきた!?」

 

さとりが叫んだ地面から、まるでスリラーのPVのごとく2人の少女が這い出てきた。驚愕する殺せんせーとマミゾウをよそに、現れた2人は次々と元気よく言葉を発した。

 

「さとり様!お呼ばれして来ました!確かご要望は『あのゴスロリをキットカットにしなさい』でしたよね!」

「いや違うんじゃが!?というかゴスロリってことは以前から会話を聞いてたんじゃないのか!?さらにはさとりをキットカットってどうするつもりじゃ!?」

「違うよお燐、私には『汚物は消毒だぁーーーーー』って聞こえたよ」

「それ丸々違うじゃろう!全く話聞いておらなかったろう!」

「なるほど!つまりはここにいる奴らをぶっ飛ばせばいいんだ!さすがお空!」

「違うー!そしたら儂も巻き込まれるじゃろうが!」

 

お空とお燐とマミゾウのマシンガントークを眺めながら、この隙にと殺せんせーは図鑑を翳した。

 

 

 

霊烏路空(れいうじうつほ)

地獄鴉+八咫烏

核融合の力を得たカラス。

とんでもない力を持つが

名前の通りトリ頭との説も。

 

 

 

火焔猫燐(かえんびょうりん)

火車

死体集めが仕事の黒猫。

空を制止する立場だが

たまに一緒にボケに転じる。

 

 

 

「かっかっかかか核融合!?それじゃっ、あれっ、霊夢さんが言ってた、」

「よーし!じゃあ早速、…ってあれ、さとり様は?」

 

殺せんせーが絶句している中、お空が主人の姿が無いことに今更気づき、辺りを見回す。と、

 

「あれええええ!?さとり倒れてる!?」

 

あろうことか、さとりはヤ◯チャのポーズで地面に倒れていた。それを見たマミゾウが絶叫するも、

 

「…あれ、でもさとり様って私たちを呼んだよね?ってことはさとり様は生きてるはず!じゃああれはさとり様じゃない!」

 

お空はそう言って(私、頭いい)と踏ん反り返るが、違うそうじゃない。

 

「いや、あんたらが出て来たときにさとりにぶつかったんじゃないのか!?」

 

頭を使ったつもりが肝心のことに気づかず、やはりトリ頭説が濃厚である。

 

と、お空の後ろからお燐が顔を覗かせた。

 

「あっと!あんなところに死体があるじゃあありませんか!」

「いや死んでないし!ていうかあれあんたらの主人だし!」

「お空、あたいは仕事を優先するよ!ここは任せた!」

「だからあれさとり!ってか主人の命令より仕事が優先か!」

「そんじゃあいっきまーす!」

「だから人の話を聞けと言って、」

 

マミゾウの制止も無視し、お燐は自分らが開けた穴にさとりを連れて戻って行った。お燐も大概のトリ頭なのかもしれない。

 

そして残されたお空はと言うと、

 

「エネルギー充填、120%ぉぉぉ!!」

「おいコラ!銀魂ver.に影響されて他作品のネタを使いたがるな!というか今撃ったら儂も危ないじゃろうが!」

 

慌てて止めようとするマミゾウの事など知らず、お空は自身の腕につけられた制御棒から核エネルギーを…、

 

「エネルギー充填、140%!!」

「まだ溜めてた!?」

 

腰を抜かして逃げそびれていた殺せんせーは、思わぬ幸運でリスポーン直後死亡を免れたようだ。

 

というか、お空はいつまで溜めるのだろうか?

 

「エネルギー充填、160%!!」

 

原作を無視しひたすらエネルギーを溜める辺り、どうやらお空の思考はまだ子供が抜けていないらしい。となると、

 

(200まで溜めるか、もしくは途中で飽きるか…、いっそ1000まで溜めてくれた方が助かりますが、)

 

マミゾウはやっとの事で足を動かし、何とかこの場を離れようとしている。だがここまで核エネルギーを溜めれば、正直どこに逃げても影響は受けざるを得ない。

 

(まずいですね…、幻想郷が破壊されてしまうのは勿体なさすぎます…)

 

しかし殺せんせーでは手も足も出ない。自分だけなら完全防御形態で生き延びれるかもしれないが、他の人は助けられない。幻想郷の住民全てはもちろん、マミゾウを包み込むだけで精一杯だ。当然、自らの犠牲を伴ってである。

 

「エネルギー充填、180%!!」

 

もう数値で見ると制御棒が爆発してもおかしくないのだが、そこら辺は子供特有の妄想特殊設定だろう(例・右手に呪われしダークマター)。しかし充分すぎる威力があるのは確実だ。

 

いっそのこと、完全防御形態への移行の応用でのエネルギーの放出で相殺するか…、いや、核エネルギーには到底及ばない。

 

まてよ、防御…?

 

「っ!そうか!」

 

閃いた殺せんせーは思わず叫んだ。そう、防御なのだ。

 

幻想郷には博麗大結界がある。八雲紫と初代博麗の巫女が作成し、多少の漏れはあるものの今までヒビすら入ったことのない頑丈な結界。

 

それならば、たとえ核エネルギーをぶち込んでも耐えることが出来るだろう。となると、

 

「空に撃っても、問題ありませんね!」

 

核の散布を恐れて空に撃たせることを躊躇っていたが、結界は恐らくドーム状に広く張られている。空のどこかに撃てば、結界に当たるはずだ。

 

「エネルギー充填、200%ぉぉぉ!!」

 

200まで溜まると、遂にお空の制御棒が光り始めた。そしてそこに手を添える。

 

「ビンゴ!」

 

あれが発射の合図だ。殺せんせーは素早くお空の懐まで近づき、全身の力を込めて制御棒を上に押し上げる。

 

「っ!?何して、」

 

お空が抵抗しようとするも、既に力を放っていた。

 

制御棒から放たれた光線が、空に向かって斜め上に一直線に伸びる。と、

 

その光が、さほど遠くないところで止まった。

 

「ニュッ!?」

 

制御棒から放たれる光はしばらくその途切れた空間に放たれ続け、やがてエネルギーが尽きた。

 

光が止まった空間では、途切れただけで分散している様子もなく、最後まで光は途切れ続け、遂には消えた。

 

そして光が消えたところに、紅白の服を着た少女が立っていた。

 

「あれは…霊夢さん…?」

 

制御棒を持ちながらぽかんとする殺せんせーに、霊夢は心底がっかりしたように溜息をついた。右手に何故か紫によく似た人形を持っている。

 

「全く、まだあんたには知識がないようね」

「は…?」

 

霊夢は少しずつ近づきながら説明した。

 

「どうやらあんたは、結界は何でもかんでも相殺するものだと思ってるらしいけど、博麗大結界は例外よ」

「例外?」

「私が作る結界は、エネルギー同士を中和させて、値を0にするものだけど、博麗大結界はただのでかくて強い壁。今頃壁の内側は弾かれた核エネルギーが充満しているところだったわ」

 

何ということだ、このまま行くと殺せんせーどころか、幻想郷の住民の命が危険にさらされていたのだ。

 

「し、しかしそれは何故…」

「考えてもみなさい。相殺にはこちら側から同等のエネルギーを放たなければならないから、よほど強力な力を維持しなければいけない。でもただでさえ外の世界との隔離の力が必要なのに、その力も必要となったら、初代博麗の巫女は多分もう1人必要ね」

 

そもそも外の世界からの攻撃では、博麗大結界は壊れるはずがないし、まだ核エネルギーが無かったので、当時は幻想郷からの攻撃も過剰な通常防衛で賄えると思っていたのだろう。

 

「それと核に匹敵する相殺のエネルギーが常に放たれてたら、触れた瞬間死ぬわよ。幻想郷の全員の監視なんて出来ないし、幻想郷を守る結界が幻想郷の住民を殺すなんておかしな話じゃない?」

 

実際、偶然結界に触れてしまう、結界を越えようとしてしまう妖怪も多数いるらしい。外の世界の方が、餌となる人間が多いのだから当然といえば当然だ。そういう奴らは、結界に触れた瞬間弾き飛ばされるだけで済むらしい。

 

「でもまぁ、地面に撃たれてたら間に合わなかったし、そこんところは礼を言うわ」

「あ、はい…」

 

素直に感謝されるが、殺せんせーとしては初日の強烈な一撃の記憶があるので、あまり余裕はない。むしろ今まさに核よりも危険な状況である。

 

「ちなみに何故ここが…」

「あんだけでかいエネルギー出されちゃ、誰でも気づくわよ」

「あ、そうですね。いやぁ、私ももう原型も止めることもなく消えてしまうのかと…あっ」

 

口を滑らしたことに気づく殺せんせー。同時に霊夢もそれに気づく。

 

「待てよ…、同じ人が報酬もらってもいいなら、紫との呪縛も解ける…」

「退散っ!!」

 

霊夢の恐ろしさを身をもって感じていた殺せんせーは、一瞬のうちにその場から退散した。制御棒を支えられていたお空が「あわわ」とバランスを崩して倒れる。

 

「あ、逃しちゃったわ…。まぁマッハ20に何も用意なしに敵うはずないか。っていうかマッハって知らないけど」

 

日本の風情のある幻想郷では、基本的にカタカナ語は入ってこない。彼女らでも使えるものは、西洋から来た紅魔勢などや、外の世界にいた早苗や菫子から、強いて言えばブン屋から教わったぐらいである。たまに紫も(勝手に)教えてくる。

 

「さーて、あんたら何してたのー?」

 

お祓い棒を片手に睨みつける霊夢に、お空が目に見えて縮こまった。と、横からマミゾウが帰ってきた。

 

「実はのぅ、かくかくしかじかで…」

「ふうん、なかなか面白いことするじゃない。で、ご乱心になったさとりがあんたらを呼んだと」

「そういうことじゃ。で、何故その人形を持っているのか?」

「聞くな。それと、」

 

霊夢は不意にお空にデコピンをかました。「痛っ」とおでこに手を添える。

 

「いくらなんでも莫大な核エネルギーを出さないでくれるー?危うくここ一帯が全滅よ」

「す、すみません」

「そんじゃ、とりあえず帰って」

「うっす!」

 

やけに調子のいいお空は、出てきた穴へと帰っていった。

 

「あ、こら!穴ぐらい埋めてきなさい!…聞こえてないわね。後で地底に文句を言わなきゃ」

「しかし、殺せんせー様々じゃったのう」

「別に私は間に合ったけどね」

「嘘つけ、さっき地面に撃たれてたら間に合わなかったしっていっとったろう」

「…聞き耳立ててんじゃないわよ」

 

どうやら強がっていたらしい霊夢は、少しばつが悪そうにそっぽを向く。

 

「…マッハ20の上に知能が高そう、ますます臭いわ」

「なかなかじゃったのぅ、すぐさま儂の変化も見抜いておったし」

「そういや、あいつの頭ん中覗いたんでしょ?何か情報くれない?」

「うーむ、儂が直接見たわけではないしの、聞くならさとりに聞いた方が一番早い。今は伸びているじゃろうが」

 

それにしても、とマミゾウは少し驚いた顔で霊夢に聞く。

 

「殺せんせーとやらに興味があるとは、いつも暇そうな霊夢には珍しいの」

「何て?」

「いや失敬、言い間違えた。異変にしか動かない霊夢が動くとは、これは何事か?」

 

マミゾウに指摘されて、霊夢は少し悩んだ。確かにこれと異変ではないし、神も突発的なことをすることがある。そもそも賢者の紫も突然守矢神社を移転させてきたりと、訳の分からないことをしてくる。だから別にこの神々の遊びはおかしくはないのだが、

 

「…何となく、ね。おかしい気がするのよ」

「ふむ、まぁ儂もよくわからんがの」

「それじゃ、私は行くところがあるから」

 

そう言って、霊夢はそそくさとその場から離れた。空に消えていくのを眺めているマミゾウは、ボソリと呟く。

 

「殺せんせーの死の時、奴の教え子が皆、涙していたとさとりは言っていたが…。殺せんせーは慕われるほどの存在じゃった。霊夢はそんな奴にこの仕打ちはないだろうと疑っておるのかのぅ」

 

ま、涙しながらナイフを突き刺すのは少し狂気じみているが、とマミゾウは考えるのをやめ、気晴らしにと散歩を始めた。

 

 

 

 

 

「あれー?霊夢っちー、どこー?」

 

博麗神社に着いたものの、霊夢の気配がせずにそこら辺をウロウロする菫子。しかし一向に見つからない。途中で居候している狛犬に出会うも、

 

「知りませんよー、霊夢さんは勝手ですから」

 

いやまぁそうなんだけどさ、と菫子は心の中で文句を言う。

 

必要な時にはいてくれないと困るよ。

 

と、その時に感じた。

 

「!?なっ、何この莫大なエネルギーは!?」

 

お空の自称200%核エネルギーである。これ程のエネルギーであれば、菫子でも余裕で感じ取れる。

 

「はっ!いいこと閃いた!」

 

指をパチンと鳴らして、菫子が軽快な足取りで鳥居をくぐって博麗神社を出る。

 

「こんだけ目立てば当然霊夢っちもくるはず!ならあっちで待ってれば…」

 

意気揚々と空中へと飛び出した菫子だったが、

 

「うげっ!」

 

突然視界が目の玉で埋め尽くされた。そして狭い部屋に入れ込まれる。

 

「ちょっと!ゆかりんいい加減にしてよ!」

 

未だネットカフェでパソコンと格闘している紫に、本日二度目のご指名である。

 

「ごめんごめん。で、この英語が大文字にならないんだけどどうすればいい?」

「英語じゃなくてアルファベット!ったくもう、ここ、シフトキーって言うんだけど、これを押しながら入力したいやつを押して…」

「あーあーあー、なったわちゃんと。ありがとね」

「もう、どうでもいいから早く元の場所に戻して」

「はいはーい」

 

対して悪気のなさそうに紫はスキマを作り出す。

 

「そういえば」

「はい?」

「さっきから呼ぶその『ゆかりん』って何よ」

「それは愛称よ。…ネットで調べたらゆかりんの面白い歌が聴けるけど、聴く?」

「…遠慮しとく」

 

何か良からぬ予感がしたので、紫は手早く菫子をさっきまでいた場所に戻した。

 

しかし、着地した時には既にエネルギーの気配は無くなっていた。

 

「全く!人使い荒すぎ!」

 

菫子が霊夢を探す旅はまだまだ続く…。

 

 

 

 

 

「待てよ…」

 

昼飯の食材となる、素麺をこれでもかと寸胴鍋にぶち込みながら、妖夢はふと気付いた。

 

「この特訓は私が幻想郷に出向く日以外、毎日行うことにします。いいですね?」

 

昨日、殺せんせーは確かにこう言った。強制的に特訓をやらされるのは不本意この上ないのだが、それよりも、

 

「奴はもう生き残るつもりは無いのか?」

 

生き残った報酬が何なのかは妖夢は知らないが、少なくとも殺せんせーはその為に命をかけている。しかしあまりやる気を出さないと、神々から見放されて、もう二度と好機はないかもしれない。それは殺せんせーもわかっているはずだ。

 

「そこまでして、特訓をしたいのか…?」

 

妖夢には信じられないことだ。だが実際のところ、殺せんせーは前回、妖夢の「教育」の為に好機を一つ無駄にしている。

 

寸胴鍋のお湯から沸き立つ泡が溢れないように火を調節しながら、妖夢は黙り込んだまま考える。

 

…いや、もしくは、

 

「しばらくは逃げ切れないと観念している?」

 

口に出してみると、その線がいかにも怪しくなってきた。殺せんせーは今まで7回逃げてきたが、その中で午後まで逃げ切ったことはほんの僅かである。

 

いやしかし、あの余裕そうで憎たらしい顔の殺せんせーだ、ちょいとからかうと顔を少し赤くして逃げ切ってみせると強がっていた。…しかし現実を見るなら、

 

「妖夢まだー?お腹すいたー」

 

幽々子が台所にひょいと顔を覗かせ、声をかけてきた。「もう少しお待ちください」と返事をする。

 

…うん、まぁいいや。どうせ今回も逃げ切れないんだし。

 

そう思い直した妖夢は、先程の幽々子の様子からまだ足りなそうだと考え、新たにもう一つ寸胴鍋を用意し、水を張り始めた。

 

 

 

 

 

後に後者の線が濃くなるのは、数時間後の話である。




半分にカットしても投稿ペースはガタ落ちになることをここで宣言します。
それと、若干にネタ切れです。オチまでに繋げる、殺せんせーのボケを入れた逃亡劇の発案に時間がかかり気味。辛い。
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