慣れないステップを踏んで   作:迦楼羅。

18 / 19
▼番外編 難しく考えないで伝えるだけ

⚠︎色々と時系列すっ飛んでます。

主人公誕生日話。

 

 

『おはよう』

 

「おはよう、誕生日おめでとう」

 

そう、朝食を用意する母さんに言われて

俺ははっ、と気がついた。

カレンダーを振り返り見れば

5月14日。俺の誕生日だ。

 

『そっか、そうだわ……』

 

てか、ここの俺も同じ誕生日なんだな…。

 

「あら、忘れてたの?」

 

『いや、色々ありすぎて…』

 

おかしそうに笑う母さんに

思わず笑い返しながら首に手を当てる。

本当に、色々とありすぎた。

 

というか、帰れないまま1ヶ月が

経過している…。

 

今はそれより皆に食らいつくのに必死だし

俺自身ももっと頑張って

スタメンになりたいって言うのが

あるんだけど。

 

「ふふ、頑張ってるのね」

 

今日はすき焼きだからね、と言われ

俺は喜びに跳び、そのまま跳ね回ったせいで

階段の角に小指をぶつけて

痛みのあまりにしばらく蹲ったのは

俺と母さんだけの秘密でお願いします。

 

『行ってきます』

 

「いってらっしゃい」

 

なんも変哲もない日常なんだけど、

誕生日ってだけで色が変わる。

俺は夕飯のすき焼きに想いを馳せながら

家を元気よく飛び出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして普通に朝練をこなして

授業、小テストを挟んだり、

席が近い月島やと話したりしながら昼休み。

 

ゲームのログインボーナスを受け取ろうと

スマホに電源を入れれば

不意に目に入る通知。

 

『あっ』

 

見覚えのある名前と贈られた言葉に

思わず口元が緩む。

 

【研磨:誕生日おめでとう】

 

嬉しい不意打ちだ。

MP全回復くらいには価値がある。

母さん特製の弁当を膝に置きながら

スマホを見てニヤニヤしている俺に

気づいたのか月島が微妙な顔をしている。

 

「どうしたの?」

 

それに気づいたらしい山口が

月島の視線の先である俺を見て、

首を傾げた。

 

『…いや、研磨からL○NE貰って、』

 

口元の緩みを誤魔化すために

手で覆い隠す。

思ってたより嬉しかった。

まさか覚えてるとは思っていなかったけど。

 

俺とか忘れちゃうからなあ。

周りが祝ってたらそれに合わせて祝う感じ。

……研磨の誕生日聞かなきゃな。

 

見ていい?と言われたので画面を

見せる。ちなみに以前L○NEが来たのは

音駒戦の翌日。

 

マルチの討伐クエストに

行こうという誘いのときだ。

徹夜で素材狩りしてへろへろになりながら

朝練こなしたっけ。

 

画面を見たらしい山口が

前回のゲームについての俺らの会話に

一瞬呆れた目をした後突然目を見開いた。

 

「えっ鳴海今日誕生日だったの!?」

 

『えっ、うん』

 

もっと早く言えよー!と山口。

いや、自分の誕生日大々的に宣伝はしないだろ、と

突っ込めばまあね、と月島が頷いた。

 

「初めて知った……」

 

山口が不貞腐れたようにそう零せば

月島も、僕も知らないよ、と

興味なさげに呟いたあと、

 

「誕生日おめでとう、はいコレ」

 

月島が持っていたらしい未開封のガムが

手渡される。…グリーンアップル味だ。

 

『さんきゅ〜』

 

「もー!俺持ち歩いてる菓子とかないから

今度商店の肉まんでいい!?」

 

『え〜〜アイスがいいなあ!

ハーゲン○ッツ!』

 

笑いながらそういえば山口に

高いよ!と小突かれる。

バイトとかしてないとキツイよな。

あれの値段で箱アイス1個買えたりするし。

 

じゃあガリ○リ君な!といえば

呆れたように笑ってそれならいいよ、と

言われた。ラッキー。

最近暑くなってきているから

アイス食べれるのは嬉しい。

 

へへ、と笑う。

あんまりこういう誕生日イベを

気にしたことがなかったから

自分がいざ構って貰えるとなんだか

気恥しいものがある。……嬉しいけどさ。

 

「分かったよ、ツッキー」

 

「……」

 

いそいそとカバンにガムをしまっていれば

頭上で会話が交わされる。

不思議に思って顔を上げてみれば

山口が再び弁当を頬張っていた。

 

『……?』

 

月島もスマホを少し弄っていたかと思うと

また昼食を再開した。

……ま、いっか。

俺も弁当の蓋を開けて、

思わずニンマリする。

 

弁当のおかずに唐揚げが入ってるし、

白米の上には昨晩の夕飯に出てきた

ナスとひき肉のカレーが

少し乗せられている。

めっちゃ美味いんだよなあ…!

 

幸せいっぱいになりながら頬張った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________5月14日火曜日午後6時過ぎ。

 

 

部活も終わり、片づけも終わり。

あとは着替えるだけ。

そんな時だった。

 

「鳴海〜!ちょっとこっち

手伝ってくれないか?」

 

縁下さんの声が倉庫から聞こえて

慌てて返事をして駆けつけた。

 

『どうしました?』

 

「悪いんだけどちょっとここ

支えててくんない?」

 

『了解です』

 

そう返事をして縁下さんが

支えていた板を倒れないように

両手でしっかり持って支える。

……意外と重い。

 

しばらくした後。

 

「ん、ごめんな、ありがとう」

 

『いえいえ!』

 

縁下さんが柔らかく笑って

後頭部をかくのを俺は両手を振って

当たり前のことだ、と返す。

 

縁下さんにはいつも

お世話になってるわけだし。

これくらいのことはしたい。

 

「じゃあ、そろそろ着替えに行こうか」

 

そう促されて体育館を閉めて

部室へと向かった。

 

『あ、先にどうぞ!』

 

そう言って

縁下さんのために扉を

先に開けた瞬間だった。

 

パンッッッ!!!!

 

クラッカーの音がして

思わず飛び跳ねた。

 

肩を上げながら音源を見れば。

 

「「「誕生日おめでとう!」」」

 

 

 

『……えっ』

 

ぽかん、と口を開けば

縁下さんに背中を押される。

 

「ほら入った入った!」

 

中央の小さい机には

ポテチやチョコクッキーやら、

お菓子の袋が置かれている。

部屋の隅にビニール袋が

投げ捨てられていて笑った、

……乱雑だな!?

 

「よっ誕生日男!!」

 

「本日の主役!」

 

そう田中さんと西谷さんに

言われてまた笑う。

ノリノリじゃねーか。

 

というか、いつの間に、と驚いた。

別に大々的に誕生日お知らせしたとか

そういうわけじゃないし、

そもそも一部員の誕生日イベ

こんなことすんの?って感じ。

 

先輩方が知ってるってことに

驚きを隠せない。

 

そんな俺を見越したのか、菅原さんが

笑いながら俺の肩を叩いてきた。

 

「皆山口と月島に教えて貰ったんだよ」

 

『えっ』

 

思わず振り返れば

そっぽを向く月島と頬をかく山口。

……昼休みのときか!!!!

 

『まじか……!』

 

「へへ、あの時にツッキーと話したんだよ」

 

どうせなら、ねって!と山口が

月島に同意を求める。

 

「山口うるさい」

 

「ごめんツッキー!」

 

もう部活に入ってから何回目だ

このやりとり。それにしても嬉しい。

 

「つーわけで日向と影山に

ひとっ走りして貰って坂ノ下商店で

菓子やらなんやら買ってきてもらいました〜」

 

もちろん全員の割り勘〜、と

菅原さんに言われてそのパシられた

2人の姿を探した。

 

『?』

 

そんな俺に気づいたのか澤村さんが

おもむろに俺の足元、の少し左を指さした。

 

「探し人ならそこだよ」

 

そのまま指先を辿って

視線を向ければ黒とオレンジの塊が

床に転がっていた。

 

「ゼェ…ゼェ……」

 

「ボゲ……日向ボゲ…」

 

『うわ……』

 

汗だくだくの2人が足元で転がっている。

反射的に足を後ろに引いてしまった。

影山に至っては罵倒のボキャブラリーが

少なすぎて一種の鳴き声みたいだ。

 

ていうか通りで俺を迎え入れた時の

声が少し足りないはずだ。可哀想すぎる…。

よっぽど全力で走ったんだな、と

2人に哀れみの視線を送った。

 

「はは、いや、改めて誕生日おめでとう

まさか今日だとは知らなかったわ」

 

とは澤村さん。

 

「俺らの中で1番早くて6月の俺だもんな」

 

菅原さんが合わせるように口を開いた。

 

「4月、5月っていないもんなー…

鳴海、おめでとうな」

 

東峰さんが俺と目を合わせて

笑いながらそう言ってくれる。

 

その隣にいた清水さんが口を開いた。

 

「誕生日、おめでとう」

 

その言葉が聞けただけでも十分です…。

女子に祝って貰えて感謝の極み……。

思わず拝みそうになってしまった。

 

「もっと早くに言ってくれたら

ちゃんと準備出来たけどな!」

 

「まあ自分の誕生日なんて、

なかなか言わねーよ!!ノヤさん!」

 

田中さんと西谷さんが

がはは、と笑いながら言う。

西谷さんには

あとでガリガ○君奢るからな!と

言われてしまった。

 

まずい、山口と被る。

やはり山口にはダッツ奢ってもらおう。

 

「俺からも個別にこれあげる」

 

そう言って成田さんがのど飴をくれる。

りんご味だ。

…今日はやたらとりんごに縁がある。

 

「俺からは悪いけどないわ…

でも誕生日おめでとうな」

 

頭を撫でてくれたのは木下さん。

 

「まだまだこれからだし

インハイも春高も頑張ってこうな?」

 

縁下さんが笑いかけてくれる。

はい、と頷いた。

 

「改めまして、おめでとう!」

 

「昼休みに一応言ったけどね」

 

「そうだね、ツッキー」

 

でも言ってくれるだけで嬉しい。

俺が笑ってしまえば

月島には怪訝そうな顔をされたが

山口は終始笑顔だった。

 

「ゼェ……鳴海…おめでとう…!!!!ゼェ…」

 

鼻水やら汗やらを垂らしていて

正直汚い。日向にタオルを差し出せば

震える手で受け取ってくれる。

 

「……ボゲ……鳴海…誕生日おめでとう…」

 

同じように影山にも渡せば

持っているからいい、と断られ

ついでに、といった感じで言葉を貰った。

なんとなく驚いた。おめでとうとか

言うタイプに全然見えないし。

 

いや、それにしても、と口をもごもごさせる。

 

『あ、あーー……』

 

言わなきゃいけない言葉が

恥ずかしくて出てこない。

 

『その、まあ、なんていうか。』

 

視線が自分に集まるのを感じて

さらに顔が熱くなるのを感じた。

赤くなってる気がする。

 

でもここまでやってもらって。

言うことは1つだろ。

 

口を動かして、言葉を絞り出した。

 

『あ、ありがとうございます…

……めちゃくちゃ嬉しいっス』

 

次の瞬間もみくちゃにされて

倒れた中で笑ってしまったのも

また、秘密の話。

 

 

 

 

 

その日の夕飯のすき焼きは、

家族でワイワイと楽しみながら

完食しました。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。