慣れないステップを踏んで   作:迦楼羅。

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▼4話 限界超えたら吐く

「休憩ーっ!!!」

 

澤村さんの声が体育館に響き渡る。

それと同時に俺の足腰の力が抜けた。

 

はい、どーもみなさんこんにちは鳴海出流です。

早速ですが

 

『吐きそう……!』

 

チョーシ乗りすぎた…。

 

特に冷たくもない体育館の床に五体投地である。

頭がギュウギュウと締め付けられるように痛いし

足やら腕やらもはや全身が重い。

筋肉が変に伸びきらないような気色悪い感覚がある。

 

流石にこれはまずい。

いくら休憩中とは言えどこの無様な姿はいかがなものか。

けど無理。マジで力入んねえ。

 

立ち上がれずにウンウン唸っていれば

コトリ、とプラスチック製のものが

床にぶつかる音。

 

「鳴海大丈夫?」

 

あなたが神か。

 

マジで後光しか見えねえ、と思うくらいに

心配げな縁下さんの姿があった。

 

『すみません……日頃の運動不足が祟ったようです』

 

うぐぐ、と気合を入れながら立ち上がる。

ほんと、まじで、つらい。

この体の持ち主運動とか本当にしてねーんだな…!?

ボールになれるための準備運動ですら既に

キツかったぞこんちくしょう…!!!

 

「ぶはっ」

 

ぷるぷると震えながら立ち上がれば背後から噴き出す音。

なんじゃなんじゃと振り返れば

腹を抱えて笑う田中さんの姿が。

 

「鳴海オメーそれまさに産まれたての小鹿じゃねえか」

 

視界の隅で他の方々が笑うのも見える。

ちくしょう……言い返せねえ…!

 

『くっ……』

 

羞恥に思わず目を閉じれば広がる光景はアルプス。

 

小屋の近くの柵に寄りかかりながらも

立ち上がる健気な少女。

 

 

「クララ!クララが立ったー…!(裏声)」

 

 

「「『ブフォ』」」

 

思わず噴き出して膝から崩れ落ちる。

その際にクララー!という野太い声が聞こえた気がするが

今はそれどころではない。

 

声の元に視線をばっ、と向ければそこには

にこやかに笑う菅原さんの姿が。

隣で澤村さんが笑いを堪えている。

 

確信犯だなアンタ…!

 

田中さんも木下さんも成田さんも縁下さんも行動不能である。

流石にこれはひどい。

 

(いつかぜってーハイジって呼んでやる…)

 

お、覚えてろよ…だなんて三流の悪役のような

ことを思いながら座り直して

縁下さんが置いてくれたスポーツドリンクを

1口飲む俺なのだった…。

 

 

それにしても。

 

 

深呼吸をして手のひらを見つめる。

ジンジンとレシーブした腕の部分が

熱を持っている。

 

さっきトスをしようとして変な風に

突いたらしい指が熱を持っている。

夢じゃないことはもうわかった。

 

溜息を吐く。

 

割り切っているわけじゃない。

確かにワクワクしてる自分はいるが

そういうことじゃない。

向こうに俺は家族や友人がいる。

 

こっちに家族や友人がいないわけがない。

父親のことは知らないが唐突に男バレに

入部した息子を応援してくれる母親がいる。

 

でも大丈夫ではない。

 

寝て起きたら漫画の世界でしたとか

笑えない事態である。

本当に夢だったらいいのに。

 

帰りたい。なんでこんなとこにいんだ。

何をしてるんだ、俺。

 

明日起きたら昨日母さんの作ってくれた

肉じゃがとひじき煮と切り干し大根を

卵かけご飯で食って電車に乗って

大学入っていつものようにじいちゃん教授の

講義受けてたまに意識飛んじまって

隣の奴に小突かれたりしてノートに纏めるんだ。

昼になったら食堂行っていつもの面子で

食券買って机囲んで飯食ってそれでそれで、

バカ騒ぎして「おーい、鳴海」顔を上げた。

 

田中さんが目の前にしゃがんで顔を覗き込んでいる。

 

『アッハイ!?!?』

 

声が裏返りながら返事をすれば

眼前でひらひらと手を振られる。

 

「大丈夫かあ?」

 

声をかけても返事しばらくなかったから

心配したんだぞ、と言われた。

考え込みすぎたかな、と首を回しながら

大丈夫です、すみませんと返した。

 

「ならいいけどな、休憩終わりだぞ」

 

『えっマジですか』

 

「マジだぞ」

 

そう言って田中さんの指さす先を見れば

ぞくぞくと先輩方が体育館の中央に集まり始めている。

えっマジだやばいな????

 

慌てていつの間にか垂れていた汗を

手に持っていたタオルで拭き取って

1口ドリンクを飲んでから立ち上がって

田中さんとともに他の皆さんの元へと向かった。

 

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