Fate/Assassin's Creed ―Ezio Grand Order―   作:朝、死んだ

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前作と違い、ぐた男の視点から始まります。文章の感じが変わっているかもしれませんので前作の方が良かったという方はほんと申し訳ありません!

にしても何で消えたんだろ……前に書いてた時もあったんだよな。次は話だけでも本体に保存しておきましょうかね。

では、投下!


Sequence.01 復活のE ーA.D.2004 炎上汚染都市冬木ー
memory.0 カルデア


 

 

――歴史は血で綴られる。

 

今から約7万5000年前にアダムとイブが“秘宝”を奪い、楽園(エデン)から脱出して以来、人類は多くの争いを繰り返してきた。

 

土地。

 

民族。

 

差別。

 

略奪。

 

大義。

 

比較。

 

名誉。

 

金銭。

 

宗教。

 

弾圧。

 

解放。

 

革命。

 

怨恨。

 

憎悪。

 

裏切り。

 

恋愛。

 

激情。

 

気紛れ。

 

憐憫

 

理由は様々だが、総ての人間が持ち合わせている“欲望”という衝動によって争い事はいくらでも起き、それが大きくなって戦争が起きる。現代においてもそれは変わらない。

 

人の歴史にはいつも闘争があり、多くの血が流れて成り立っている。これは周知の事実であり、変えられぬことだ。

 

しかし、三千年も昔から人類を視ていた七十二柱もの“魔神”はこれに怒り、悲しみ、嘆いた。

 

こんな悲劇があって良いのか。こんな残酷なことがあって良いのか。こんな悪意が存在していて良いのか。彼らは人類を哀れみ、憐れみ、失望し、無価値と断じた。ただただ争いと死を繰り返し、成長しない人類へ見切りを付けた。

 

何よりも、もうこのような光景を見るのは耐えられなかった。

 

故に、人を憐憫した彼らは一匹の“獣”となる。

 

――そんな彼らが、最も許せぬ存在は、救える力を持ちながら人類の有り様を看過した“王”ではなく、彼の裏に居たある二つの勢力だった。

 

それは“獣”が誕生する何千年も前から存在し続けている歴史の影。決して表舞台に出ることは無く、しかし中枢に関わっている。古今東西あらゆる時代の歴史的な出来事の裏にはいつも彼らが暗躍していた。

 

片や秩序による統制を目的とし、権力者を傀儡として操る影の支配者。片や自由を重んじ、弱者の救済の為に悪しき者を断罪する死の刃。

 

“獣”が何よりも許せないのが、彼らが“平和”という同じ志を持っているにも関わらず対立し、殺し合っているという事実だ。

 

彼らの起源は聖書のアベルとカインにまで遡る。遥か昔から現代に至るまで彼らは歴史を動かし、互いの利益と目的の為に熾烈な戦いを繰り広げていた。今も尚、それは続いている。つまり人類の歴史は、平和を謡いながら互いに相容れること無く争う彼らの歴史でもあるのだ。

 

度し難い。何もかもが度し難い。“獣”にはそれが何の利益も生産性も無い無意味で無価値で愚かなものに見えたであろう。

 

彼らが分かり合い、手と手を取り合うことさえ出来れば彼らの掲げる平和というものは簡単に成し得る事実を“獣”は理解しているのだから尚更だ。

 

だから滅ぼすと決めた。終わらせると決めた。己が悲しみなど存在しない本当の理想郷を創り出すと決めた。

 

そして、三千年もの時が過ぎたこの日、“憐憫を抱いた獣”は悲願の達成の為に“人理焼却”を実行する。

 

――しかし、それは同時に長きに渡る“人”との戦いの始まりを意味していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

loading.....

 

――Hi! 元気にしてるかい新人さん?

 

――え? いつものお姉さんはどこかって? ビジョップなら別の奴を相手にしてるさ。こういうのは彼女の専門なんだけど今回は俺がナビゲートしてやるよ。

 

――ったく……何で俺なんだろうな? ショーンやレベッカでも良いだろ。確かに同じ日本人なら話しやすいかもしれんが、新入りだからってコキ使いやがって。

 

――え? お前も新人なのかって……いやいや違うぞ。あくまで奴等のチームの新入りという意味さ。こう見えてアサシン歴は長いんだぜ? 何せ忍者の家系なんだからな。あ、螺旋丸は使えないぜ。

 

――おっと。無駄話はこのくらいにして本題に移ろうか。君がたまたまアルバイトとしてスカウトされたあの……フィ、フィ、フィッシュカルメ焼き? 旨そうだな。

 

――そう! フィニス・カルデアだ! 知ってたぞ。人理?継続保障なんとかっていう魔術師共の作った組織だ。

 

――そのカルデアで集めた情報をこちらへ送ってほしい。そこはビジョップ曰く何やら興味深いことをやろうとしていてな。アブスターゴの連中も関わっている。

 

――何でもそれはあの“フェニックス・プロジェクト”と同等かそれ以上の一大プロジェクトらしい。本社に潜入させてるスパイの報告によると……驚くなよ? “タイムマシン”を作っちまったらしい。

 

――落ち着け。もしアブスターゴが自由自在にそんなもんを使えたら我々や教団なんて今頃歴史改変されて消滅しているさ。恐らく何かしらの制限があるんだろう。しかし、凄いだろ? “アニムス”や“ヘリックス”による追体験とは違う。実際に過去へ行って偉人と触れ合い、秘宝を集め放題って訳だ。憧れるぜ。

 

――まあ、全人類が夢見たであろう技術にワクワクするのは置いといて、我々はカルデア内部に潜入する機会を待っていたんだ。何人かスパイは送ってはいるんだが、皆、立場が下の職員ばかりで連中のプロジェクトに深くは関われていない。つい最近得られた情報は所長が無能だってのと緑の服を着たもじゃもじゃ頭のおっさんが何か怪しいってことくらいだ。

 

――そんな時にヘリックス調査でお世話になっている君がカルデアからスカウトされたと報告された。いやぁ、こういうの天は我に味方したっていうんだよな。

 

――ああ、確かに数合わせの補欠だ。しかし、それがどうした。バイトとはいえ連中のプロジェクトの一員としてスカウトされたんだ。得られる情報は末端のスタッフよりも遥かに多いだろう

 

――と、言う訳で今回の君への任務はカルデアへ潜入し、情報を根刮ぎ持ち帰ってくること。まるでスパイミッションで楽しそうだな。俺がやりたかったぜ。

 

――うん。良い返事だ。だが、君は我々と違って一般人だ。スパイ映画顔負けのアクションや話術は無理だろう?

 

――落ち込むなって。そこで君の記憶を一時的に抹消させてもらう。怪しまれることなく溶け込む為にな。

 

――安心しろ、我々やアブスターゴに関することだけだ。時が来たら接触してくる同志が君の記憶を戻すから彼らと一緒に情報を集めてくれ。

 

――うん。それも良い返事だ。どうだ? いっそ正式に我々の仲間にならないか? 俺が鍛えてやるからさ。

 

――冗談だって。その年で指名手配は辛いだろう。まっ ともかく期待している。では、頑張れよ。

 

――藤丸立香。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記憶処理開始.....

 

以下の用語に関する事柄総てを破壊、抹消します.....

 

『アサシン教団』、『デッドセック』、『ピース・オブ・エデン』.....

 

修復コードは『■■■■■』......設定完了......

 

処理中.....

 

10%削除......

 

27%削除......

 

36%削除......

 

52%削除......

 

68%削除......

 

85%削除......

 

99%削除......

 

100%削除。記憶処理完了しました。

 

尚、記憶処理の副作用によって強烈な眠気が襲う可能性あり。いつ発生するかは不明。使用者へ注意を喚起してください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 

どこか近未来感溢れる、無機質なだだっ広い通路。その上に一人の少年が横たわっていた。

 

 

「ここは……」

 

 

――どこだ。

 

深い眠りから目覚めた少年はむくりと起き上がり、寝惚けた様子で目元を擦り、辺りを見回す。

 

頭髪の色は黒。服は白い制服のようなものを着用している。整った顔立ちだが、特徴の無い、“平凡”、“普通”という言葉が似合う出で立ちであった。

 

 

「あー眠い……」

 

 

大きな欠伸をしながらズボンのポケットの中を漁る。すると通行証のようなカードを見つけた

 

そこには少年の顔写真があり、その隣に“氏名:藤丸立香 様”と記載されている。どうやらそれが少年の名前らしい。

 

 

「カルデア、ねぇ……何でこんな所で寝てたんだ俺?」

 

 

最もな疑問。寝惚けているのか先程から記憶が曖昧だった。しかし、カードにある機関の名前には覚えがある。

 

人理継続保障機関“フィニス・カルデア”。

 

街を歩いていたら国連の職員を名乗るハリー・ポッター? アンダーソン君? みたいな名前の男にスカウトされたのだ。世界を救う為にカルデアにアルバイトとして入らないかと。

 

はっきり言って胡散臭かったが、給料が良く好奇心もあってすんなり受けることにした。他にも理由があった気がするが、思い出せない。

 

何でも自分はマスター適正というのが高く、他の47人の同じ仕事を担う同僚は皆、“魔術師”というオカルトな存在なのに数少ない一般人の中から選ばれたマスター候補らしい。

 

「えっと……そう、確か飛行機に乗った。それで雪山の上にある建物に入って……ん?」

 

 

二日酔いような気分で自身が何をしていたか記憶を辿っていると下腹部で何かが動く。そういえば先程から妙な重みを感じていた。

 

視線を下へ動かしてみると……。

 

 

「フォウ!」

 

「わ、何だこいつ?」

 

 

そこには白いモフモフした珍獣が居た。猫のようにも犬のようにもリスのようにも見えるよく分からない生き物だ。

 

 

「フォーウ?」

 

「あら可愛い……悪いけど愛想振り撒いても餌は持ってないぞ?」

 

「フォウ!」

 

 

可愛らしく首を傾げる白い生き物。試しに顎を撫でてみると気持ち良さそうに目を細める。その瞳には知性が宿っていて動物にしては利口そうだった。

 

何の動物なのだろうか。見たところイヌ科のように思えるが、ネコ科かもしれないし、容姿からしてリスの仲間かもしれない。それともアフリカ辺りで発見された新種の珍獣か。

 

そして、カルデアには珍しいものが居るのだなと立香は一人で納得する。

 

 

「何をしているのですか? 先輩」

 

 

白い生き物を可愛がっていると背後から声をかけられる。

 

――誰?

 

 

「君は……?」

 

「初めまして。マスター候補の方ですか?」

 

 

振り向いて、まず視界に入ったのは薄い桃色の髪、雪のように白い肌、整った顔立ち、それから眼鏡に赤いネクタイ、更にスカート付きの黒い服とその上に羽織った白い上着。

 

どこか無機質さを感じる、言い表すならそう、まるで人形のような女がすぐそこに立っていた。

 

 

「あ、えっとその……」

 

「フォウ!」

 

「おや。フォウさん。どこへ行ったかと思ったら……先輩と一緒に居たんですね」

 

 

質問に答えようとするが、白い生き物の元気の良い鳴き声がそれを阻む。少女の反応から白い生き物と彼女は知り合いのようだ。

 

 

「……ねぇ、“先輩”って?」

 

 

にしても、彼女は何故自分のことを先輩などと呼ぶのだろうか。立香は疑問に思い、少女に尋ねる。

 

 

「はい。ここに居る方々は私にとっては全員先輩のようなものなので」

 

 

そして、その返答にまた首を傾げた。つまり彼女はこのカルデアで最年少ということだろうか。経歴ならばついさっき来たばかりの立香よりも下ということはまずないだろう。

 

 

「へぇ……そうなんだ。変わってるね」

 

 

謎は残るままだが、別に深く聞くようなことでもないだろう。少女が自分のことを先輩だと思っているならそれで良い。少なくとも害意は無いのだから。

 

 

「そうでしょうか?」

 

「うん。まあいいけど」

 

 

頭上に疑問符を浮かべる少女。そんな様子に立香は微笑する。

 

初対面でいきなり先輩扱いされ、一瞬戸惑うが、このような美少女に先輩呼びされるのは悪くないなと思った。

 

 

「それで君は?」

 

 

腹の上で丸まっている白い生き物を床に置いて立ち上がり、少女の名を問う。

 

カルデアの職員だろうか。それとも自分と同じように雇われたバイトか。にしては自らも着用している白い服を着てない。話してる言語は日本語だが、容姿からして日本人ではないだろう。

 

 

「あ、そうでした。まだ名乗ってませんでしたね。私はマシュ・キリエライトと言います」

 

 

少女が自分の名を言う。やはり外国人だったようだ。

 

 

「マシュか……俺は藤丸立香だ。藤色の藤に丸いと書いて藤丸、立って香ると書いて立香だ。以後よろしく」

 

「はい。漢字までご丁寧に。こちらこそよろしくお願いします。先輩」

 

「フォウ! キュー、キャーウ!」

 

「……失念していました。あなたの紹介がまだでしたね」

 

 

マシュの足下をクルクルと走り回りながらフォウが鳴く。その素振りはまるで人間の言葉を理解しているようだ。やはり畜生にしては利口である。

 

 

「こちらのリスっぽい生物はフォウ。カルデアを特に法則性もなく自由に散歩する特権生物です」

 

 

そうマシュが説明するとフォーウ!と元気よく鳴く白い生き物もといフォウ。

 

鳴き声そのままの名前に立香は適当さを感じる。犬にワンと猫にニャーと名付けるようなものだが、その辺は突っ込まないでおこう。

 

「私以外にはあまり近付きませんがどうやら先輩は気に入られたみたいです」

 

「そうなの?」

 

「はい。おめでとうございます。カルデアで二人目の、フォウのお世話係の誕生です」

 

「えぇ……」

 

 

なつかれたからといって世話してやる道理は無いのだから変な生き物の世話係に任命されても困る。その世話係一人目がマシュだとすると、変な生き物を放し飼いにしていて良いのだろうか。

 

 

「フォウ!」

 

「あ、またどこかへ行っちゃいましたね」

 

 

するとフォウは廊下を駆け出し、この場から去って行く。マシュの話からするに気紛れな性格なようだ。

 

 

「ところで……」

 

「ん?」

 

「ご質問よろしいでしょうか先輩。通路で一体何をしていたのですか?」

 

 

ふとマシュが先程から疑問に思っていたことを問い掛ける。彼女の視点だと立香は通路のど真ん中で座り込むという不審な行動を取っているように見えた。気になるのは当然だろう。

 

 

「寝てた」

 

「……それは驚きました」

 

 

そして、返ってきた簡潔な返答に少しばかり呆気に取られる。

 

 

「お休みしていたのですね。しかし、通路で眠る理由が、ちょっと。硬い床でないと眠れない性質なのですか?」

 

「いや、好きで寝てた訳じゃないぞ? すんごい眠かっただけだ」

 

「成程。寝不足でレムレムしていたということですか?」

 

「うーん……そうなのかねぇ。何も思い出せん」

 

 

本当に何でこんな場所で寝ていたのだろうか。痛みを感じる後頭部を摩りながら立香は首を捻る。つい先程まで何をしていたか思い出せず、曖昧な記憶だけが残っている、まるで脳にフィルターでも掛かっているような不思議な状況だ。

 

 

「思い出せない? 漫画でよく見る記憶喪失という奴ですか?」

 

「いや、バイトでカルデアに来て長ったらしい話を聞いたのは覚えてるんだけど……まあ、どうでもいいか。覚えてないってことは別に覚えるようなことではなかったということだろうし」

 

「どうでも良いものなのでょうかそれは?」

 

 

一部とはいえ記憶を失っているというのはかなり大変なことではないだろうか。なのにどうでもいいと言い切ることにマシュは驚く。

 

 

「そうだよ。“真実は無く、許されぬことも無い”んだからさ」

 

「……それはどういう意味ですか?」

 

 

唐突にそんなことを口走る目の前の少年にマシュは頭上に疑問符を浮かべる。真実など無いのだから自分の失った記憶や失った理由にいてはどうでもいいとということか。しかし、許されぬこととは一体。

 

 

「あー、格言みたいなものだ。色々な意味合いがある。っていうか俺も変なことを言っちゃったな。悪い」

 

「成程……知りませんでした。覚えておきます。それにしても先輩は面白い方ですね。今まで会ったことのないタイプです」

 

「え? お、おう……」

 

 

くすりと笑うマシュ。初めて見せた感情の籠ったその顔に立香は思わず見惚れてしまう。

 

どこか人間味の無い少女だと思っていたが、今見せている表情から存外感情豊かなようだ。

 

 

「フォーウ……?」

 

 

その時、立ち去ったはずのフォウが二人の後ろ姿をジッと見つめる。その硝子玉のような瞳に映る立香の背中には、“白い羽”が舞っていた。

 

 

それが意味するものは――。

 

 

“これもまた運命か”

 

“善き人、限りなく善良であり、中立であり、普通である人間”

 

“しかし、その血には間違いなく流れている。死神の因子は目覚めつつある”

 

“比較しよう。監視しよう。見定めよう。これから起こる長き冒険と試練の中でどう変わるか。或いは変わらないか”

 

“期待しているぞ人間。しくじるなよ。さもなくば――”

 

 

獣が、君を喰らう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――お、やっと連絡が来たか。

 

――そうだ。そいつだ。藤丸立香。奴は上手く潜り込めたか?

 

――へぇ……マスター適正は上の方なのか。あいつハッカーだけじゃなくて魔術師にもなれるんじゃないか? ハハハハ、冗談だ。あいつに魔術の才能はあってもキチガイの才能は無い。

 

――そうそう。何千年経っても成長するどころか退化してる人でなしの糞共の集まり……アブスターゴの次にぶっ殺してぇ連中だ。

 

――ああ、悪い悪い。魔術師にもマシなのは一部は居たな。で、首尾はどうだ?

 

――え? すまん。もう一回言ってくれ。

 

――追い出されただと? 何で? まさか俺達のことがバレたのか?

 

――居眠り?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、演説中に居眠りした挙げ句に所長に喧嘩売って会議室から追い出されたって?」

 

「そうなんだよ」

 

 

カルデア・48号室。

 

簡素なベッドやタンスのみが置かれた無機質なその部屋で立香ともう一人、白衣を着た見るからに優しそうな青年が向かい合って話し込んでいた。

 

彼の名は、ロマニ・アーキマン。研究者でカルデアの医療部門のトップらしい。

 

何故そんな人物が立香へと割り当てられたこの部屋に居るのか。それは仕事をサボる為であり、48号室を空き部屋だと勘違いしていたからだそうだ。仮にも医療部門のトップがそれで良いのだろうか。

 

 

「私のカルデアにあなたのような人間は必要ありません! …だってさ。別にあんな怒ることないのに」

 

「あははは……けど大事な話し中に居眠りしてたら誰だって怒ると思うよ。僕も前にウトウトしてたらこっぴどく説教された」

 

 

甲高い女性の声真似をして愚痴る立香にロマニは苦笑いを浮かべる。

 

今から少し前、管制室で何やら小難しい話ばっかりしているので睡魔に負けて寝ていたら所長だという白髪の女性に罵倒され、言い返したら口論になった挙げ句に追い出された。

 

聞くに、どうやらロマニも所長に叱られて管制室から追い出された口らしい。故に事情を説明した時は同志が出来たと大喜びされた。

 

因みにロマンというのは彼の愛称だ。ロマニの“ロマ”とアーキマンの“マン”を重ね、ロマンティックのロマンと掛けている。この渾名を気に入っているようで彼自身からそう呼んでほしいと言われた。

 

 

「だって眠かったんだ。しょうがない」

 

「それが罷り通るのは学生までだよ。立派な社会人になりたいなら克服しないとね」

 

「む、サボり魔がよく言うね」

 

「うっ まあ、確かに模範的な社会人では到底ないと自覚しているけど」

 

「第一あんな演説を長々としていると眠くなるに決まってるじゃん。オルガマリー所長だっけ? 話は簡潔にしてほしいよ。ただでさえカルデアスがどうのとかよく分からない話ばっかりしてくるんだから」

 

「あははは……まあ、愚痴は程々に。彼女も苦労してるんだよ」

 

「そうは言ってもね。それに……」

 

 

と、そこで立香の口が止まる。自分は何をこんなに熱くなっているのか。ロマニが聞き上手なこともあってつい喋り過ぎた。

 

 

「それに? 何だい? 続けてくれよ」

 

 

苦笑いしつつもロマニは話の内容が気になる様子だった。消極的そうに見えて実は立香の愚痴を楽しんで聞いている。

 

 

「あ、いやさ……あの人って何というか……上に立つタイプじゃないよね」

 

「え? ど、どうして?」

 

 

僅かに動揺するロマニ。この反応に眉をひそめながらも言葉を続ける。

 

 

「だって短気で怒るとすぐに感情的になるし、気丈に振る舞ってるけど何かにコンプレックスを抱いているみたいだったよ……プライドも高そう」

 

 

カルデア所長、オルガマリー・アニムスフィア。そう名乗った女性の第一印象は背伸びし、自身の弱さを隠す子供のような人物というものだった。

 

あくまで第一印象なので本当にそうなのかは分からないが、少なくとも管制室での振る舞いを見る限りトップの器ではないと思った。

 

そのことを指摘すれば彼女は顔を真っ赤にして激怒し、この通りだ。

 

 

「立香君……君ってぼんやりしているようで意外と鋭いね。所長がカルデア所長を引き継いだのはここ最近でさ。だからプレッシャーも大きくてそれで他人への当たりがキツいんだ。しかもファースト・オーダーなんて重大な任務をいきなり背負う羽目になるし」

 

「自信が無いってこと?」

 

 

成程。専門用語ばかりであんまり詳しいことは把握できていないが、“ファースト・オーダー”という人類を救う為に歴史の特異点とやらを修復する何とも壮大な計画。そんなのを所長に就任したばかりなのに指揮しなければならない。それは確かに相当なプレッシャーだ。投げ出したり弱音を吐いたりしないのは彼女の責任感と自尊心故か。

 

そんな時にアルバイト感覚で入り、自身の話を聞かず居眠りまでしている者が居れば腹を立て、罵倒するのは至極当然のことだろう。

 

 

「まあ、そういうことになるね。だから所長……マリーに関しては許してやってくれないか? 本当は優しい子なんだ」

 

「うん良いよ。別に怒ってはないし」

 

 

そもそも居眠りしていたのは自分だ。文句や愚痴こそ言うものの自分の非くらいは認められる。

 

ただレイシフトとやらが出来ないのは少しばかり残念だった。どういう原理かは分からないが、過去へタイムスリップすることが出来るらしい。まるで青い猫型ロボットだ。まだ22世紀ではないというのに人類の進歩は意外と速い。

 

 

(それと……“サーヴァント”だっけ? あれも実際に見てみたかったなぁ)

 

 

古今東西あらゆる英雄や偉人の霊を使い魔として召喚して使役する……宮本武蔵や織田信長といった歴史上の偉人に実際に会えるというのは男の浪漫に他ならず、立香は興味を引かれた。

 

しかし、今やそれは叶わない。そう考えると睡魔に負けてしまったことを後悔する。

 

 

「ん? 通信が……レフからだ。何だろう」

 

 

するとロマニの持つ通信機から音が発せられ、立香の思考は中断される。

 

 

『ロマニ、聞こえるか?』

 

「やぁ、レフ。どうしたんだい?」

 

『後少しでレイシフト開始だ。万が一に備えてこちらに来てくれないか?』

 

「え?」

 

『Aチームの状態は万全だが、Bチーム以下、慣れてない者に若干の変調が見られる。これは不安から来るものだろうな。コフィンの中はコクピット同然だから』

 

「それは気の毒だ。ちょっと麻酔をかけに行こうか」

 

『ああ、急いでくれ。今、医務室だろ? そこからなら二分で到着する筈だ』

 

 

そう言って通信は切れる。レフ……先程会った緑色のタキシードを着込んだ男性だ。マシュと話している時に出会い、所長の説明会があると管制室まで案内してくれた。

 

常に目を細めていて優しそうだったが、どこか不気味で何か裏があるような雰囲気のする人物だったと立香は記憶している。

 

ロマニを見てみると彼はだらだらと汗を流して頭を抱えていた。

 

 

「どうしよう。ここからじゃどう頑張っても五分は掛かるぞ?」

 

「……自業自得だね」

 

「あわわ。それは言わないでほしいな……でもAチームは問題ないようだし、少しくらい遅刻しても許されてるよね?」

 

「あの所長が?」

 

「だよね……」

 

 

一瞬ポジティブ思考になるロマニだが、立香の一言にがっくりと項垂れる。

 

 

「ハァ……マリーにどう言い訳しようか。ま、でも出来るだけ急ぐよ。流石にお呼びとあらば行かないとね。お喋りに付き合ってくれてありがとう。落ち着いたら医務室に来てくれ。今度美味しいケーキでも食べながら話そう」

 

 

そう言ってロマニが部屋から去ろうとしたその時、突如てして部屋が暗転する。

 

 

「……何だ?」

 

「え、明かりが消えるなんて……」

 

 

突然の停電に二人は困惑する。

 

――それから程無くして空間が震える程の轟音が部屋に響き渡った。

 

 

「「!?」」

 

『緊急事態発生。緊急事態発生。中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました。中央区画の障壁は90秒後に閉鎖されます。職員は速やかに第二ゲートから退避してください』

 

 

有無を言わさず、次はけたましい警報と共にアナウンスが流れる。どうやら今のは爆発音だったらしい。

 

 

「何だって!? モニター、管制室を映してくれ!皆は無事なのか!?」

 

 

ロマニがそう言うと彼の目の前にモニターが現れ、管制室が映し出される。そこには炎と瓦礫に包まれた凄惨な地獄絵図としか言い様がない光景が広がっていた。

 

それを見た瞬間、立香は目を見開く。

 

 

「一体何が……!?」

 

「…………!」

 

「あ、立香君!? 待ってくれ……って意外と足速いっ!?」

 

 

考えるよりも先に部屋を飛び出していた。後ろではロマニの制止する声が聴こえるが、構わず廊下を駆け抜ける。

 

 

(管制室が火災だって……ふざけるな。あそこにはマシュが居るんだぞ……!)

 

 

脳裏に過るのは自身を先輩と呼んで慕ってくれる伽凛な少女……助けなければ。理想は分からないが、立香はそんな意思に突き動かされていた。

 

 

「ッ……これは……」

 

 

通常なら五分は掛かる48号室から管制室までの道を陸上選手も顔負けの走りで抜け、一分と掛からずに立香は管制室の入口まで辿り着く。

 

そして、入ってみれば一酸化炭素たっぷりの煙と炎による熱気が襲ってくる。

 

 

「マシュ……どこだ……?」

 

 

煙を吸わないように口元を袖口で覆い、後輩の姿を探す。しかし、あるのは数人の死体と瓦礫のみ。一人一人近付いて確認してみるが、どれも職員やマスター候補生達のものばかりだ。中には至近距離から爆発を受けたのか顔を判別出来ないまでに黒焦げになっていたりバラバラになっていたりする死体もあったが、身長や体格からマシュではないだろう。

 

この事実に少しばかり安堵する。今のところマシュの死体は見当たらない。もしかしたら生きてるかもしれない。そんな淡い期待を寄せる。

 

 

「ハァ……ハァ……やっと追い付いた……君、陸上でもしているのかい……」

 

 

少し遅れてロマニが息を切らしながらやって来た。火事場の馬鹿力という奴だろうか。立香より遅いとはいえ二分と掛かっていない。

 

 

「うげぇ……実際に見ると更に酷い有り様だね。生存者は居ない、ようだ。無事なのはカルデアスだけ……」

 

「……カルデアス」

 

 

二人の視線の先には巨大な地球儀のようなもの“カルデアス”がある。詳しくは知らないが、人類の未来を観測するものらしい。

 

 

「……僕は地下発電所に向かうよ。カルデアの火を止める訳にはいかない」

 

「じゃあ俺は……」

 

「すぐに来た道を引き返すんだ。今なら障壁が閉まるまでまだギリギリ間に合う。急いで避難するんだぞ」

 

 

分かったね!と釘を刺してロマニは慌てた様子で管制室を後にする。しかし、残された立香は逃げ出す素振りなど微塵も見せない。

 

 

「……悪いな、ロマン」

 

 

そう言って瓦礫の上を登り、高い所から辺りを見回す。

 

ロマニは生存者は居ないと言っていたが、そんなことはないはずだ。必ず誰か生きている。根拠は無い。しかし、立香の勘がそう告げていた。

 

 

「…………あ、」

 

 

煙で沁みる眼を凝らし、粘り強く探索していたその時、風前の灯火のような声が聴こえたのを立香は見逃しはしなかった。

 

 

「マシュ!」

 

 

声がした方角を振り向き、遂に見つけた白い光。倒れるマシュがそこには居た。しかし、その下半身は天井から落下したであろう瓦礫によって押し潰され、下敷きになっている。

 

 

「おい……おいマシュ! 大丈夫か!」

 

 

急いで駆け寄って呼び掛ける。夥しい程の血が瓦礫の隙間から流れており、このままでは失血死してしまうだろう。

 

 

「うっ……せん、ぱい…………よかっ、た……無事、だったんですね……」

 

 

ゆっくりとマシュが顔を上げる。

 

良かった。生きている。だが、虫の息で掠れた声を搾り出すその姿からもう長くないのは明らかだった。

 

しかし、そうだと嫌でも理解してしまっていても立香に諦めるという選択肢は無かった。

 

「しっかりしろ! 今助けてやるからな!」

 

 

瓦礫を持ち上げようと力を込める。しかし、爪が割れるほど踏ん張っても瓦礫はピクリとも動く気配を見せない。

 

当然だ。立香は魔術師ですらない普通の人間。こんな巨大な瓦礫を退かすようなスーパーパワーなど持ち合わせていなかった。

 

 

「………いい、です……助かりません、から。それより、はやく、逃げないと」

 

「くそっ!」

 

 

 

後輩と慕ってくれた少女一人すら救えない自身の無力さに悪態を付く。

 

 

「どうか、せんぱいだけ、でも……」

 

「馬鹿なことを言うな! 大事な後輩を見捨てられるかよ!」

 

 

自分のことなど放って逃げろと促すマシュにそう言って立香は何とかならないのかと脳を働かせ方法を模索する。

 

その時、カルデアスに変化が起こった。

 

 

『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。シバによる近未来観測データを書き換えます。近未来百年までの地球において人類の痕跡は発見、出来ません』

 

「……何だって?」

 

『危惧されていた第三次世界大戦の勃発、回避……核戦争による世界の荒廃、回避……しかし、しかし、しかし、人類の生存は、確認、出来ません。人類の未来は、保証、出来ません』

 

 

アナウンスが響き渡る。それは人類の滅亡、未来の破滅を告げる知らせだった。

 

 

「カルデアスが……真っ赤に、なっちゃいました……」

 

 

まるで煮え滾るマグマのような、燃え上がる灼熱のような朱色。それは明らかに異常であることを物語っていた。

 

世界が燃えている。人類が焼かれている。それは即ち――人理焼却。

 

 

「いえ、そんな、コト、より――」

 

 

突然後ろに壁が現れる。火が燃え広がるのを防ぐ為のセキュリティか何かだろう。この空間は完全に隔離されてしまった。

 

このままだと一酸化炭素中毒なり焼かれるなりして二人とも御陀仏である。

 

 

「……隔壁、閉まっちゃい、ました……もう、外に、は……」

 

「……みたいだね」

 

「どうしましょう、せんぱいが……」

 

「……ああ。やっちまったな」

 

 

声のトーンが沈む。しかし、瓦礫を持ち上げる手は力が籠ったままだ。

 

 

「申し、訳……ありません……」

 

「何だよ。マシュが謝る必要ないだろ?」

 

 

悔しそうに唇を噛むマシュ。それに立香は首を傾げる。

 

 

「だけど私のせいで……」

 

「いや、マシュのせいじゃない。俺が君を助けたいと思ったんだ。だからこれは俺が招いた結果だ。俺の自業自得さ」

 

「そんな……こと……」

 

 

少し瓦礫が動く。しかし、それだけ。そもそもマシュを抱えて密室となったこの部屋を脱出することはまず不可能だ。

 

 

「だけど俺は諦めない」

 

 

希望が無くても、確率がゼロどころかマイナスであろうとも、立香は諦めることを決して良しとはしない。泥水を啜ってでも命を擲ってでも自身の決断を否定しようとはしない。

 

それが彼の“信条”なのだから。

 

 

『コフィン内マスターのバイタル基準値に達していません。レイシフト定員に達していません。該当マスターを検索中……発見しました。適応番号48:藤丸立香をマスターとして再設定します』

 

 

するとカルデアスが動く。この予期せぬ事態に対処する為に。しかし、二人にはそのアナウンスは届いていない様子だ。

 

 

『アンサモンプログラム、スタート。霊子変換を開始します』

 

「あの………せんぱい……お願いがあります」

 

 

するとマシュが口を開く。既に彼女は生きることを諦めていた。だけどまだ、未練が残っている。故に立香に嘆願する。

 

 

「てを、手を……握って貰って、良いですか?」

 

「え? ……分かった。そんなのいくらでも握ってやるから死ぬな」

 

 

一瞬困惑する立香だが、すぐに彼女の手を包み込むようにぎゅっと握る。その腕は細く、温かかった。

 

 

「あった、かい……」

 

 

柔らかな感触と仄かな熱が伝わる。マシュは安心したかのように微笑み、握り返す。

 

 

『レイシフト開始まで……3、2、1』

 

「ありがとう、ございます。これで未練が無くなりました」

 

「そんなこと言うな……大丈夫だ、マシュ。必ず助けるから」

 

 

諦めない。その意志の下、立香はマシュを見つめる。

 

この時、彼は気付かなかった。自身が無意識に知らぬ呪文を口ずさんでいることなど。

 

 

――素に銀と鉄。

 

――礎に石と契約の大公。

 

――祖には我が導師■■■■■・■■■・■■■。

 

――降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

――閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

 

――繰り返す都度に五度。ただ、満たされる刻を破却する。

 

――――告げる。

 

――汝の身は我が下に、我が命運は汝の刃に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

――誓いを此処に。

 

――我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を殺す者。我は信条を尊ぶ者。

 

――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ。

 

 

『全行程完了(クリア)。ファーストオーダー 実証を開始します』

 

 

そして、彼らは光に包まれる。

 

ここから運命(Fate)信条(Creed)の物語が始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――若い頃の私には自由があった。

 

――だが、気づかなかった。時間もあったが、無駄にしてしまった。 愛されてもいたが、無頓着だった。

 

――これらを理解するのに、私は長い年月を要した。だが、人生の黄昏を迎え、私は至福に包まれている。

 

――愛、自由、時間……かつて無価値に思えていたもの、それこそが私の原動力だったのだ。

 

――特に愛。愛こそ宝だ。

 

――愛しきもの……妻、子供たち、そして兄弟、姉妹。

 

――私たちを育み、常に疑問を投げかけてくる広大にして素晴らしき世界。

 

――そして我が妻ソフィア。

 

――その全てに、永久の愛を。

 

――エツィオ・アウディトーレ。

 

 

(……まったく)

 

 

地球でも宇宙でもない、果て無きだだっ広い虚空が広る世界。そこに一人の男が立っていた。

 

 

(()()()()眠っていたというのに、叩き起こすとはな。■■■とやらは随分と乱暴らしい)

 

 

普段の男ならば酷く困惑していたことだろう。ここはどこだ、自分は死んだはずだ、と取り乱していた。

 

しかし、男にそんな様子は無い。頭の中に叩き込まれた膨大な知識によって今の状況について総て把握したからだ。

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

頭に響いてくる男か女か子供が老人も分からぬ不可思議な声。いや、まともな言語かも怪しい。男に理解出来るよう無理矢理翻訳されているようにも思えた。

 

その声の主は男を歓迎していた。この星の歴史に名を刻んだ英雄の一人として。最も男の存在は人類の歴史には一切記されていないが。

 

 

(“座”か。アルタイルは死後の世界など存在せずあるのは無のみだと言っていたが、そうでもなさそうだな)

 

 

星の意思、霊長の意思、世界の守護、抑止力、英霊、サーヴァント……随分と便利なシステムだと思った。しかし、然程驚きはしない。“かつて来たりし者”や彼らが作り上げた“秘宝”の存在を知っていれば当然だろう。

 

 

(しかし、生憎と私は“英霊”と呼ばれるような程のことは成し得ていないぞ)

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()(使)()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

(預言者……その言葉も懐かしい。しかし、私はメッセンジャーとなっただけで救世主などと大層な呼ばれようは……そうか、デズモンドは成し遂げたか)

 

 

言葉の真意に気付き、男から笑みが溢れる。名前しか知らない。顔も、いつの時代のどこのどのような人物なのかも、全く分からない。しかし、よく知っている。あの日、あの時、確かに心と繋がり、彼に総てを託した。

 

始まりはフィレンツェ、終わりはマシャフだった。四十年近くもの長き戦いの日々を思い出し、男は感慨深く思う。

 

 

(で、お前はまた私に戦えと? とっくの昔に引退し、枯れ果てたこの老い耄れに)

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()

 

(……みたいだな)

 

 

つまり全盛期の肉体を保っており、老衰とは無縁だと。男もそれは理解していた。先程から身体が軽く、精神も若返ったような気分だった。

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

(……そうか。戦いを強いる、か。束の間の安息だったな)

 

 

男は溜め息を漏らす。

 

結婚し、家族ができ、農家として働く。平穏以外の何者でもない幸福な生活。最後の最後でそれを掴み取った。そして、自身が生まれた故郷で愛する家族に囲まれながらこの世を去った。漸く、漸くだ。男は安らかな眠りに就いた。

 

しかし今、再び剣を取れと声の主は命じる。そして、それはきっと拒絶出来ぬことなのだろう。

 

 

(まあいい。英霊として戦ってやろう。だが、俺が信じ、重んじるのはアサシンの信条だ。決してお前の言いなりにはならぬ)

 

 

男は承諾する。戦うことには慣れている。強いられることにも。

 

但し、条件付きだ。死んだ身である己を叩き起こし、姿も見せず語りかけてくる得体の知れぬ存在においそれと従う気は微塵も無かった。

 

 

――()()()()

 

 

声の主はあっさりと了承する。感情を一切感じさせぬ無機質な声で。

 

 

(しかし、私のような者を英霊に招き入れるとは物好きな奴だ。それに正義の為とはいえ暗殺者は果たして英雄と言えるのか)

 

 

むしろ英雄とは真逆。かけ離れたものだと男は思う。例え数多の武勇や偉業を残していようとも我らは影の存在だ。表舞台で活躍する英雄とは違うと。

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

(“冠位”だと? ふん……そんなものに興味は無い。死んでいるのに階級などに拘る必要性は皆無だ)

 

 

生前は“大導師”という高い地位には着いていたが、影の存在となったその日から男は名誉も栄光も必要としていなかった。死後であるなら尚更だ。

 

 

(第一、私よりも優れたアサシンはいくらでも居るだろう。かのアルタイルが生まれる遥か昔から戦ってきた偉大なる先人達が)

 

 

クセルクセス王を暗殺した者。

 

アレクサンドロス大王を暗殺した者。

 

秦の始皇帝を暗殺した者。

 

カエサルを暗殺した者。

 

クレオパトラを暗殺した者。

 

かつて、そんな偉業を成し遂げ、伝説を作った先人達の証を巡り廻った男にはよく分かっていた。

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

イタリアの教団を復興させた。多くの弟子を取り、一流に育て上げた。強大な力を持っていたボルジア家を倒し、最終的にはヨーロッパ全域をテンプル騎士による支配から解放した。預言者としての使命を果たし、間接的にとはいえ人類を救った。

 

そして、

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

声の主は男を称賛する。たった一人で数千の軍勢を傷一つ負わず殺していく男の映像をホログラムのように映しながら。

 

 

(……最強、か。確かにそう云われていたこともあったな。どうやら御宅は随分と私を高く買っているらしい)

 

 

しかし、その声質に感情など一切籠っていないため男は別に嬉しくも何ともなく、懐疑的な眼をする。

 

 

――()()()()()()()()()()()()

 

 

すると声の主は脈絡も無く話を変えてそんなことを告げる。

 

 

(ほう……それは随分といきなりだな。起きたばかりなのだが?)

 

 

曰く、死んでから数百年もの年月が過ぎているらしいが、男にとっては眠りに就いてからすぐに目覚めたような感覚だ。

 

すぐに駆り出すくらいなら事前に起こして説明してもらいたかった。

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(……何があった?)

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そして、告げられたのはあまりにも衝撃的な事態を表すものだった。

 

 

(なっ……!? 馬鹿な。人類の危機はデズモンドが解決したのではないのか?)

 

 

唖然とする男。人類を滅ぼす大いなる災いは回避されたのではなかったのか。しかも声の主の口振りから察するにその人理焼却とやらは既に行われてしまっている模様であり、とてもじゃないが男が対処出来る事態ではないように思える。

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

相変わらず無機質な声だったが、どことなく焦りの感情が見え隠れした。男は一転、神妙な面持ちとなる。

 

 

(成程。それは確かに人類にとって未曾有の危機だな……しかし、人為的なものだと? そんなことが可能な存在が居るというのか)

 

 

そして、それを倒せと。

 

はっきり言って無茶振りも良いところである。そもそも与えられた知識ではそういう危機には抑止力というものによって未然に防がれるはずだ。

 

つまり人理焼却とやらの黒幕は抑止力による妨害を潜り抜ける術を持つか或いは通じない程の強大な存在だということだ。

 

それとも抑止力自体が何らかの要因で機能していないか。どちらにせよ英霊とはいえ一介の人間である男一人では荷が重い。

 

無論、それは声の主も理解していた。故に男に更なる知識を授ける。

 

 

「……! カルデア……そして、人類最後のマスターか……そいつが私を呼んでいると?」

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……そうか」

 

 

またしても男は溜め息を漏らす。

 

家族を殺され、アサシンとなり、仇であるボルシアを倒し、アルタイルの宝物庫を探し求め、顔も知らぬ未来人にメッセージを伝え、総てを終えて安からな最期を迎えたかと思えば次は人類の救済……改めて波乱に満ちた人生だと自覚する。

 

しかし、断る理由などあろうか。

 

 

「良いだろう。この“エツィオ・アウディトーレ・ダ・フィレンツェ”。カルデアのマスターと共に焼却された人理を修復し、黒幕を暗殺する」

 

 

その眼に迷いは一欠片も粉微塵も無い。

 

人に永久の愛を。アサシンとしての使命よりも人間としての正義感よりも何よりも、そう謳った者が人類の滅びを看過するはずがなかった。

 

 

――()()()()()()()()()()()()()() ()()()()

 

 

どこか嬉しそうに声の主が言うと、男は光に包まれ、飛び立つようにこの場から消える。

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

loading.....

 

 

BEASTー1による歴史の改変が実行されました。

 

動作確認.....システムに異常無し。正常に機能しています。

 

観測中.....人類が存在していたであろう時代は99.999%確認出来ません。同時に七つの特異点を観測。BEASTー1は目論見通りPoEの分配を終了したと認識します。

 

これより“PROJECT FATE”を始動。

 

“杯”によるバックアップ120%.....アブスターゴデータバンクから七人の英霊を召喚。各特異点に配置します。

 

 

フランソワ=トマ・ジェルマン、成功。

 

 

ロドリゴ・ボルジア、成功。

 

 

バーソロミュー・ロバーツ、成功。

 

 

クロフォード・スターリック、成功。

 

 

ジョージ・ワシントン[オルタ]、成功。

 

 

アル・ムアリム、成功。

 

 

カイン、成功。

 

 

第一段階、異常無く成功。これより第二段階に移ります。アブスターゴ本社の復興及びデータ復元を開始。現在30%.....

 

――報告。人理継続保障機関フィニス・カルデアの存続を確認。

 

審議中.....破壊価値無し。利用価値有りと判断。放逐して構わないと結論付ける。

 

異常無し。プランを続行する.....

 

 

 

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