Fate/Assassin's Creed ―Ezio Grand Order― 作:朝、死んだ
ここ最近忙しくて更新ペースがかなり遅くなるかもしれませんのでご了承を。
◇
フランス 某所
「……ふう。無事に転移出来ましたね、先輩」
「ッ……ここが、1431年のフランス?」
現代から585年以上も過去。今正にタイムスリップしてきたという実感は薄く、どこかの片田舎のような印象を受けたが、自分の居た場所とは確かに違う空気を肌身に感じながら立香は視界に広がる見知らぬ地をまじまじと見渡す。
同じ特異点である冬木とはかなり…というか全く違い、きちんと太陽が出ているし自然も豊かであった。深呼吸してみれば都会育ちの立香では滅多に味わえない新鮮な空気が肺へと取り込まれる。
「はい。西暦1431年のフランスで間違いありません……大丈夫ですか? 前回は事故による転移でしたが、今回はコフィンでの正常な転移ですから身体状況に問題は無いはずですが……」
「あーうん。大丈夫……ちょっと頭がクラクラするだけ。乗り物酔いみたいな? …うっぷ」
「酔いやすい体質なんですか?」
霊子ダイブによる反動か目眩を感じているようだった。しかし、ふらつくこと無く立てているのを見る限りしばらくすれば治るだろうとマシュは判断する。
「フォーウ! フォーウ、フォーウ!」
「ってフォウさん!? また付いて来てしまったのですか!?」
元気に鳴くリスっぽい小動物の登場に驚くマシュ。どうやら誰かのコフィンの中に忍び込んでいたようである。
幸いにもフォウに異常は見られない。存在はそのコフィンの者と固定されているはずだから帰還の際には特に問題は無いだろう。
「フォーウ……ンキュ、キャーウ……」
「まったく……遠くへ行くんじゃないぞ」
「……おい、マスター」
「ん?」
仕方無いなぁ…とフォウを撫でる立香。すると背後からエツィオが声をかけてくる。
「アサシン、何?」
「上を見てみろ」
「上ぇ? ……うん?」
神妙な顔をするエツィオ。そんな彼の様子に傾げながらも立香は言葉に応じて上を向き、彼と全く同じ反応をした。
「先輩? エツィオさん? 何が……え?」
空を凝視する二人の行動に疑問に思い、マシュも視線を追ってソレを確認して目を見開く。
『よし、回線が繋がった! 画像は粗いけど映像も通るようになったぞ! ってどうしたんだい皆? 揃って空を見上げちゃったりして』
「……ドクター、映像を送ります。あれは、何ですか?」
ホログラムとして現れたロマニはマシュに従って送られてきた映像を見る。その瞬間、彼らと同じように驚いた様子でソレを見据えた。
『これは――光の輪?』
上空に存在するのはその全貌が確認し切れない程に巨大な光の輪のような物体。何であるかは不明だが、一目で普通ではない異質なものであると立香でも理解出来た。
『いや……衛星軌道上に展開した何らかの魔術式か……?』
「みてぇだな……ありゃ相当な代物だぞ」
「何だと?」
思わず呟いてしまったロマニの疑問にクー・フーリンが肯定する。これにエツィオは驚いた様子で彼へと振り向く。
「そんなことが可能なのか? 魔術に詳しくはないが、あんな強大なものを空に固定するなどもはや人間業ではないぞ」
生前、エツィオが出会った魔術師達はそれこそ手品師と指して変わらないレベルの三流も居れば単独で一個師団を壊滅させる実力者も居た。特に死徒化している者は正攻法ではとてもじゃないが、敵わなかった。
皆が普通の人間を遥かに越える力を保有していたが、それでも彼らはある意味人間の常識の範疇に収まっていた。
恐ろしい呪いを生み出そうと他者の心を支配しようと人をゾンビに変えようと生命を造り出そうと蟲や炎を操ろうと視認するだけで万物を破壊しようとあくまで人間に過ぎなかった。故に、魔術も使えぬ暗殺者の凶刃に倒れたのだ。
しかし、アレは違う。“鷹の目”を持つエツィオはすぐに悟った。ただ巨大ではなく膨大な魔力が宿っているこの光の輪を天高くに書いた存在は、人という枠組みから外れてしまっている。
黒幕の正体はやはり―――。
「おう。俺もルーン文字を空中で固定してるだろ? それと同じ要領で可能だ。規模はともかく」
「む、しかしだな……」
「ああ。言いたいことは分かる。このデカさ、あの高さとなると俺には無理だろうな。師匠でも出来ねぇかもしれぇ」
『君の師匠って……まさかスカサハかい?』
「そうだ。俺のルーンは全部あいつから教えてもらった」
クー・フーリンの発言にロマニは驚く。原初のルーンを扱う彼に加え、その師匠……即ちかの影の国の女王でも不可能な程の代物だとすればアレを書ける存在はますます限られてくる。
「マーリンなら、やろうと思えば可能かもな……まあ、奴の仕業だとすればどうせロクでもないことだろう」
無表情のままセイバーオルタが呟く。
『何にせよ、とんでもない大きさだ。下手すると北米大陸と同サイズか? 1431年にこんな現象が起きたなんて記録はないぞ』
「ってことは……あれが特異点に関係しているのか?」
『そういうことだね。間違い無く未来消失の理由の一端だろう。アレはこちらで解析するしかないな……あ、所長。所長はどう思いますか?』
映像のデータを技術部門へと送信しながらロマニはオルガマリーへ意見を求める。
『……所長?』
しかし、返答は無く沈黙が続く。思えばレイシフトしてから不自然なくらい喋っていない。いつもなら光の輪を見てすぐに何らかの反応を示すだろう。
「あれ? そういえばマリー所長居ないじゃん」
「本当です。どこにも……」
『えぇ!? 嘘だ、確かにレイシフトしたはずだぞ……点呼、点呼を取るんだ!』
不思議そうに首を傾げる立香とマシュに対し、ロマニは慌ててた様子で確認する。
『立香君!』
「はーい」
『マシュ!』
「はい!」
『エツィオ!』
「ああ、居る」
『クー・フーリン!』
「おう、居るぜ」
『佐々木小次郎!』
「うむ、居るとも」
『アーサー王 ……じゃなくてセイバーオルタ!』
「無論、居るに決まっているだろう」
『オルガマリー所長!』
……しーん……。
『……嘘ぉ!? 本当に居ないじゃないか!?』
「まさか……俺らとは違う場所へ転移しちゃったのかな?」
『なっ そんな訳……って本当だぁ!? こちらからずっと遠方に居るぞっ!? この座標は……“パリ”か!』
予想外の事態だ。オルガマリーが定めていたポイントとは全く違う場所に転移してしまっている事実を確認してロマニは絶叫をあげる。
「パリって首都だよね確か?」
『ああ。別名“花の都”、“芸術の都”とも言われている観光したい街ランキング上位の常連さ。まあ、この時代だと凱旋門もエッフェル塔もないんだけどね……何でまたそんな場所にマリーが……?』
「む、“花の都”はフィレンツェだろう。芸術に関しても負けていないぞ」
『え、そこ張り合う!?』
ロマニの説明に意外にもエツィオが噛み付く。確かに彼の故郷、フィレンツェは“花の都”を意味している。それを差し置いてパリが“花の都”と呼ばれていることが気に食わなかったようだ。
「所長と通信は出来ないのですか?」
『さっきからしているけれど全く応答がないんだ……通信機が壊れているのかもしれない。悪いけど霊脈のポイントを見つけたら所長の捜索にあたってくれないかな?』
「はい。了解しました」
「え、すぐに探さないの? 所長一人で特異点に居るんだよ?」
ロマニの判断に立香が疑問を抱く。オルガマリーは優秀な魔術師だが、サーヴァントが相手では非力も良い所だし、彼女の性格上一人だけ別の場所に転移したら取り乱すのは容易に想像出来た。
ならば早く見つけて合流しなければ彼女の命が危険だろう。故に捜索を後回しにして良いのかと思った。
『うん。残念だけどここからパリはかなり離れている。移動中に戦闘が起こるかもしれないし、先に付近にある霊脈を見つけて準備を整えた方が良いと判断した。幸いにも所長の反応に異常は無いようだしね』
「けど……」
納得が行かない立香。しかし、任務や安全のことを顧みればロマニの論が最適解であるため言い淀む。
「……む、マスター」
するとその時、エツィオが遠方を見据えながら呼び掛けてきた。
「集団がこちらへ接近している。数は十数名ほど……服装からして兵士、フランスの斥候部隊だろう。まだ俺達には気付いていないようだが、どうする?」
「え?」
『あ、ほんとだ。いつの間に……喋り過ぎてて周辺確認を怠っちゃってたよ。えっと数百mの距離……』
「第一村人発見、という奴ですね」
「兵士だけどね」
「どうしましょう。
「うーん……そうしようか。現地の人なら何か情報を持っているはずだし」
「なら、俺に任せておけ」
聖杯に関する情報を得る為にも立香がフランス兵と接触してみることを決めるとエツィオがそう言って前へと出る。
「何だ? お前が最初に接触すんのか?」
「ふん……敵と間違われて襲われる、なんてことにならなければ良いのだがな」
「まあ、見ていろ」
訝しむクー・フーリンとセイバーオルタ。対してエツィオは余裕の態度でこちらからはっきりと見える距離まで来たフランス兵らの元へと行く。
「ひっ……何者だ!」
「ボンジュール。怪しい者ではない。俺達は異国から来た旅の修道士さ、つい先程フランスへやって来たばかりでな」
「修道士だと……? しかし、お前はともかく後ろの二人はそうは見えないが?」
流暢なフランス語を話すエツィオの言葉に兵士は警戒と怪訝の感情を露にしながら立香とマシュを見る。他のサーヴァント達は怪しまれるからか霊体化していた。
「彼と彼女は同伴している故郷の友人だ。一人旅、それも遠出となると色々と困難だからな。護衛も兼ねてついて来てもらっている」
「護衛? 確かに女の方は盾のようなものを持っているが……あの格好は……」
チラリ、と兵士らは後ろの二人へと視線を向ける。
「む……あー確かに少々露出が多いが、別に彼女は娼婦ではないぞ」
「あ、いや、別にそんなことは……」
少し目を鋭くしながらエツィオがマシュに聴こえぬよう小声でぼそりと告げると兵士は図星を突かれたのか慌てる。
まあ、あの格好は男を誘っているようにしか見えないし、娼婦の類いだと思うのも無理もない。しかし、マシュ本人は至って真面目なのである。
「ともかく俺達は敵対する理由も無く、争う意思も無い。矛を収めてくれないかな?」
「うーむ……本当に敵ではない、のか?」
警戒心が僅かに薄れる。すると兵士達はざわざわとエツィオにどう対応すべきか相談をし始めた。
「どう思う? 格好は明らかに怪しいが、“竜の魔女”の手下には見えん。連中はもっと狂っていた」
「俺達を油断させるつもりじゃ……」
「馬鹿。俺達なんかにそんなことしなくても簡単に殺せるだろ。あいつらは竜よりもずっと強いんだ」
「敵意も感じられないし……信用しても良いんじゃないか?」
「後ろの子めっちゃ可愛いんだけど」
「あの格好で娼婦じゃない訳ないでしょ」
(……竜の魔女だと?)
そんな兵士達の話に聞き耳を立てていたエツィオは会話に出てきた単語に疑問を抱く。
何かの隠語だろうか。かつて、テンプル騎士団の前身たる結社の幹部はコードネームとして動物の名前を使っていたという話をエツィオは思い出す。
「ところで……随分と疲弊している様子だが、何かあったのか? 現在戦争は休戦していると聞いていたが……」
「何だ? 知らないのか……ってああ、そうか。こっちに来たばっかだったんだな。しかし何というか、こんな時にフランス来ちまうなんてとんだ災難だなあんた……」
「? どういうことだ」
何食わぬ顔で訊いてみれば兵士は同情的な言葉をエツィオに投げ掛ける。
「実はな……三日前に処刑されたはずのジャンヌ・ダルクが復活して“竜の魔女”を名乗って暴れているのさ。フランスへの復讐と称してな」
「……何?」
すると愚痴を溢すように兵士は事の顛末を語り始める。
曰く、あのジャンヌ・ダルクが復活し、竜の軍勢を率いて各地で破壊と殺戮を繰り返しているらしい。異端審問の裁判長であったピエール・コーションや国王であるシャルル七世も惨殺されてしまったそうだ。
「成程……そのようなことが起きていたとはな」
「ああ。もう大変だよ。ワイバーンなんて、イングランドのロングボウよりも恐ろしい」
どうやら竜の魔女というのは隠語でも何でもなくそのままの意味であったようだ。
ジャンヌ・ダルクの復活とフランスへの復讐。そのような衝撃的な事態に陥っているということに後ろで話を聞いていた立香達は驚く。
当然だが、彼らの知る本来の歴史の中で死んだはずのジャンヌ・ダルクが復活したなんてことは起きていない。
つまりこれは特異点の影響であり、甦ったジャンヌ・ダルクこそが元凶である可能性が高いということだ。
「マシュ、復活したジャンヌ・ダルクってまさか……」
(はい。十中八九サーヴァントでしょう)
「わっ 何今の?」
(念話です。声を交わさずに意思伝達、会話をする魔術……テレパシーと言えば良いでしょうか。こう、意識すれば先輩も出来るはずです)
「えっ……ほんと?」
脳内に直接話し掛けてきたマシュに驚きながらも彼女のざっくりな説明の通りに意識を傾ける。
(あ、あーあー、こう?)
(はい。そうです)
(本当に出来た……便利だなこれ。遠くでも話せるし聞かれたくないことも普通に話せるじゃん)
(そうだ。サーヴァントだの魔術だのといった話はあの斥候達みたいな何も知らない現地の人間は混乱を招くだろうからな……こうやって念話で俺らだけで話した方が良いぜ)
(……そもそも念話のやり方ぐらい事前に教えとくべきでは? いくら壊滅寸前だったとはいえ杜撰過ぎる)
(あ、キャスターにセイバーオルタも。皆と会話出来るのか……凄いな念話って)
正にメールいらず。機器も必要無く、わざわざ文字を入力して送信する手間もないし何より声で会話するため感情や意思が伝わりやすい。
何て便利なのだろう。おまけに魔術など毛程も知らぬ己でも使えるとは。立香は感嘆するばかりだ。
「皆、話が終わったぞ」
するとエツィオが戻ってくる。
(あ、お疲れアサシン……)
(む、これは……念話という奴か? ふむ、確かにこれなら言葉を介す手間が省ける)
(何だ、知らなかったのかよ?)
念話に対して驚きを見せるクー・フーリンが疑問を口にする。
(何分サーヴァントとして召喚されるのは今回が初めてでな……知識としては知っていたが、実際に使ったことはなかった)
(へぇ……まさか新米だったとはな。とてもそうは見えなかったぜ)
エツィオの返答に今度はクー・フーリンの方が驚く。まさかあれだけの強さを見せた冬木での戦いが英霊として初陣とは思わなかった。
(生前に比べて便利な身体になったが、少しばかり便利過ぎる。まだまだ勝手が分からん)
対してエツィオは未だにサーヴァントとしての肉体に慣れていなかった。この念話に加え、霊体化することで物理干渉をすり抜けることが可能で食事も睡眠も必要としない。身体能力も向上している。
特に霊体化すればわざわざ壁をよじ登ることも屋根と屋根を飛び越える必要も無いだろう。しかし、経験不足のエツィオはそれらのサーヴァントの特性を使いこなすには至っていない。
「それにしてもエツィオさん。イタリアの方なのにフランス語が話せるんですね……意外です」
兵士達に対してエツィオが話しているのは紛れも無いフランス語。それもかなり流暢だった。
これにマシュは感心する。自動翻訳により言語の壁は気にする必要は無いとはいえやはり現地の言葉で話し掛けた方が親しみやすさが生まれ、警戒心も薄めることが出来るのだろう。
「ん? まあな……」
バルトロメオらと共にフランス軍に変装して砦に忍び込んだ時のことを思い出すエツィオ。元々はフィレンツェに居たフランス娘を口説く為に学んだフランス語が、思わぬ所で役に立った。
そして、今回……まさか死後もフランス語を学んでいたのがこうして役立つとは思ってもみなかった。
「それで、彼らは自分達の砦へ戻る最中らしい。どうする、ついて行くか?」
「え、だけど……所長が……」
やはりというべきか、立香は言い淀む。
「ふむ、では二手に別れるか? 片方が情報収集と霊脈の確保、もう片方がオルガマリーを捜索し、合流するというのは?」
「え?」
「戦力が分散するのはあまりよくないことだが……この際仕方無いだろう」
エツィオの出した提案。それは確かに未知の特異点において戦力を分散させるという愚行に等しいものだが、時間の短縮とオルガマリーの安全性を高めるという利点もあり、立香の心境も考慮した合理的な判断とも言えよう。
『……うん。所長の身の安全を考えると、その方が良いかもしれない』
ロマニも同意する。
『それで、捜索を請け負うメンバーは?』
「俺が行こう。単独行動には慣れているからな」
「何だ? お前さん一人で行くつもりかよ?」
提案するだけでなく捜索にも自ら名乗り出るエツィオ。しかし、クー・フーリンは単独で向かうことを前提としているような言動に顔をしかめる。
「ああ。出来る限り戦力の分散は避けたい」
「そりゃそうだが……ここは特異点、何があるか分からないんだ。少数が好ましいとはいえ一人だけってのはどうかと思うぜ」
「その時はその時だ。例えまた死ぬのうが、再召喚されればいいだけの話だろう」
「おいおい。それこそお前が恐れてる戦力が減ることに繋がるんじゃねぇか?」
「だが……」
潜入や偵察ならともかく単独で離れて行動するのは危険ではないかと考えるクー・フーリンは断固反対の意志を示す。
対してエツィオもアサシンが故に単独行動が性に合っていたため頑なに引き下がらず、両者は揉め出した。
「おい坊主。アンタはどう思う?」
「え?」
するとエツィオと議論しても埒が開かないと判断したのかクー・フーリンは唐突に立香へと話を振ってきた。
「うーん……俺もキャスターに賛成、かな? アサシンは強いし一人でも大丈夫だとは思うけど所長を見つけて合流するまでのことも考えると他にも仲間が居た方がいいんじゃない? せめて後一人くらい連れて行ったら?」
これに立香はしばらく思考してから答える。それはクー・フーリンの意見に賛同するものであり、その言い分は意外にも非常に理に叶っていた。
確かにエツィオは強い。しかもトップクラスの隠密性を持つアサシンだ。単独行動させようともよっぽどのことが無い限り平気だろうし、むしろ仲間が居ればその高ランクの気配遮断を活かせず、足枷になってしまう可能性がある。
しかし、今回の役割はオルガマリーの捜索と護衛。前者はともかく後者は非常に困難だ。況してや相手がサーヴァントか、或いはそれに匹敵する類いのものであれば。
守りながら戦うとなると流石のエツィオであろうとももしもの事態に陥る可能性がある。それを考慮して最低でも二人、つまりツーマンセルで動いた方が良いと思った。
「……分かった」
そして、その考えはエツィオにも伝わった。
「へぇ……案外すんなり受け入れるじゃねぇか」
「マスターがそう言うなら仕方あるまい。それに確かにオルガマリーを護衛するのであれば俺一人では心配もあるだろうしな」
「そういうこった。そんじゃ後一人はこの俺が――「私が行こう」
すると同行者に名乗り出ようとするクー・フーリンの言葉を遮り、意外な人物が名乗り出る。
「あん? 今なんつったセイバー?」
「どうした、難聴か? 隠れし者……アサシンに同行してやると言ったのだ」
まさかのセイバーオルタの発言に耳を疑うクー・フーリン。思わず聞き返すが、やはり聞き間違いなどではないようだ。
「……どういう風の吹き回しだ? お前さんが好む仕事ではなさそうだが」
「ふん……少し気になることがあってな」
「あん? んだよそりゃ……」
「さあな。自分で考えろ、ランサー」
「だからキャスターだっての」
当然訝しむクー・フーリンだが、セイバーオルタは冷然とした態度で彼の問いに答えない。
「……俺としては、最高戦力のお前をマスターから離すのはあまり好ましいことではないのだがな」
「最高戦力……特異点で私を倒したらしい貴様がそう呼ぶか。まあ、大して問題は無かろう。それとも私が居なくてマスターを守り切れぬほど他の三人が脆弱とでも?」
「む、そんなことは言ってない」
「なら、良いだろう。なぁ、リツカ?」
「え? う、うん……セイバーオルタがやりたいのなら良いんじゃないかな?」
またしても話を振られ、判断を委ねられる立香。彼は戸惑いながらもセイバーオルタの意思を尊重して彼女に同意する。
「ほら、リツカもこう言っている」
「な、マスター……」
「ごめんアサシン……けどセイバーオルタも頑固そうだし、やめるよう言っても聞かなさそうじゃん? 早く所長を見つけたいし」
両手を合わせて謝る立香。確かに例え反対してもセイバーオルタはなかなか引き下がらないだろうし、一刻も早くオルガマリーを見つけ出して合流する為にも誰が行く行かないかで揉める時間はない。
またしてもエツィオは意見を却下された形だが、一理ある動機であったため反論することなく、渋い顔をする。
「それに折角やる気を出してるんだから行かせてあげた方がいいと思うんだ。戦力に関してもこっちにはマシュやキャスターに小次郎も居るんだから何があっても大丈夫だよ」
「フッ そういうことだ」
立香の言葉にセイバーオルタはにやりと笑みを浮かべる。つまりセイバーオルタは言うことを聞かなさそうだから仕方無く……という話なのだが、本人は何故か得意気で特に気にしていない様子だ。
「……良いだろう。しかし、くれぐれも目立つような真似はするなよ?」
「ああ。分かっているとも」
やれやれといった様子でこめかみに手を翳しながらエツィオはセイバーオルタの同行を認める。
「それじゃ、よろしくね。二人とも」
――こうして、カルデア一行は本来の任務を担う香達とオルガマリー捜索を担うエツィオ達で別れることとなった。
◇
――それから数分後。
エツィオとセイバーオルタの二人はパリを目指して進んでいた。二人とも横に並んで歩いており、若干セイバーオルタの方がペースが早かった。
「……それで、何が目的だ?」
道中、エツィオが尋ねる。その問い掛けにセイバーオルタはチラリと一瞥し、不敵に笑う。
「さて、何のことだ?」
「惚けるな、単なる気紛れという訳ではないのだろう」
短い期間ではあるが、共に行動してセイバーオルタの人となりはそれなりに理解出来た。
少なくとも完全な善意でオルガマリー捜索に名乗り出るようなことはしないだろう。ならば気紛れなのかもしれないが、彼女は気になることがあると先程言っていた。
それは一体何なのか……立香らの前では事を荒立てたくはなかったため何も言わなかったが、二人っきりになった今、改めて問い詰める。
「ふん……もう分かっているのではないか? オルガマリー・アニムスフィア。あの娘の秘密に関して、だと」
そして、セイバーオルタの返答にエツィオは表情を強張らせる。
「……気づいていたのか」
「ああ。やはり視えていたんだな……貴様らの中には千里眼に近い特殊な視覚能力を持っている奴が何人か居た。貴様もそうだと予想していた」
「ほう……“鷹の目”も知っているのだな。随分とアサシンについて詳しいが、生憎とこちらはアーサー王が存在したとされる時代の記録があまり無くてな……教団がどのような活動をしていたのか分かっていない」
そもそも世界各地の教団が一致団結し、深い繋がりを持つようになったのはアルタイルの時代からだ。
それまでは原初のアサシン、バエクの残した教えや信条のみが伝達し、各々がテンプル騎士団を筆頭とした自由と民衆の敵と戦っていた。
故に、アルタイルが生まれる数世紀も前のアーサー王が統治していたブリテンの教団についての記録は殆ど残されていない。
「ふん……貴様はどう思う? 私の時代に、私の国で、貴様らが何を仕出かしたと思う?」
「……少なくとも、お前が相当根に持つ程のことはしたみたいだな」
セイバーオルタはアサシンを恨んでいる。それは冬木での一件からよく分かっていた。
しかし、物語の中のアーサー王は決して暴君ではなかったはずだ。ならば何故アサシンと敵対することになったのだろうか。
「ああ。恨んでいるとも。この憎悪は言葉ではとてもじゃないが、言い表せない……カムランでのことは今でも忘れんぞ」
鋭い眼光がエツィオへと向けられる。
「恐らく本来の私も、全く以て同じ感想を述べるだろう。それだけのことを、貴様達はやってのけたのだからな」
セイバーオルタの表情は微塵も変わっていなかったが、その姿は言葉とは裏腹にどこか物悲しげであった。
少なくともエツィオにはそう見えた。
「……そうか」
「だが、同時に理解も出来る。貴様達は常に民の味方だった。人心の分からない王は、必要なかったのだろうな」
セイバーオルタは思考する。死んだ今なって漸く分かったことが多々あった。
あの悲劇の戦いに、悪人など一人足りともいなかったのだ。皆が己の正義を掲げて信じ、曲げず貫こうとし、衝突し合った結果だったのだ。
正義と敵対するのは悪ではなく、また別の正義。その言葉はどこまでも正しく、この世の真理であった。
それは何と悲しいことか。
「さて、話を戻そう。オルガマリー・アニムスフィア……今、あの娘ははっきり言って異常だ。果たして人と呼べるかどうかすら怪しい」
「ああ……そうだな」
「何があった? 私は特異点でのことを覚えていないが、あの様子だと最初からあんな化け物ではなかったのだろう?」
「さあな……俺にもさっぱり分からん。しかし、初めて会った際の彼女は確かに普通の人間だった。その存在は限り無く希薄だったがな」
「……存在が希薄、だと?」
「恐らく死んでいた、のだろう。肉体を失い、本人はそれに気付かず、亡霊に近い状態となっていたと俺は考えている」
「成程……しかし、今はその真逆だ」
「ああ。その通りだ」
異常、化け物。あのセイバーオルタがそう称する程にオルガマリーの肉体は人からかけ離れていた。
そのことに気付いている者は少ない。立香は勿論、マシュやロマニ、恐らくクー・フーリンや小次郎もだろう。レオナルドに関しては薄々感付いているかもしれない。
今、そのことをはっきりと知るのは鷹の目を持つエツィオと、その特異な体質が故に察したセイバーオルタのみだ。
「ところでセイバー。彼女から感じる力……俺は知っている気がするのだが」
「……貴様、“秘宝”に触れたことがあるのか?」
「ああ。何度か、な」
「ならば、その予想は的中している」
淡々と答えるセイバーオルタの言葉にエツィオはやはりかと思うと同時に目を見開く。
「まさか。そんなことが有り得るのか?」
「私の知る限りでは聞いたことがない。アレをあんな意味不明な用途で使用するなど、自殺も良い所だ」
対するセイバーオルタも言葉とは裏腹に信じられない様子だ。しかし、いくら考えても答えはそれしか浮かばなかった。
人を甦らせる手段はごまんとあるが、あれは単なる蘇生や受肉なんてレベルではない。オルガマリーの肉体を変質させているその正体を知るからこそエツィオとセイバーオルタはそれを信じられない。
「しかし、オルガマリーは生きているぞ」
「……天文学的な確率だな。失敗すれば狂死し、成功しても精神は崩壊するはず。何故あの娘は平然としている?」
「知らん……ただもしかすると情報を得ず、肉体だけが変質したのかもしれない」
「それこそ可笑しい話だ。アレが人に取り込まれて干渉しないとでも?」
「確かに、な……」
疑問に次ぐ疑問。二人はオルガマリーが何によって変質したのかは分かっていたが、それがあまりにも異常なことであったため理解出来ずに居た。
「これ以上考察に考察を重ねても仕方無いだろう。オルガマリー・アニムスフィアを見つけ出し、そして事情を聞けばすぐに分かる。貴様もそのつもりだったのだろう?」
「……ああ。そうだな」
エツィオとしては、オルガマリーの善良さを信じて必要な事態になるまでそっとしておこうと考えていたが、セイバーオルタの方はすぐにでも正体を知りたいようだ。
彼女を刺激してしまうのは良くないとも思ったが、機会は限られるし、事情を知れるならその方が良いとも思った。
故に、セイバーオルタの考えには一応賛同する。
「さて、そろそろ着くはず……む?」
――その時。ふとセイバーオルタが何かに気付き、足を止める。
「ん? 何だ?」
「……アサシン。私達が居るのは確か西暦1431年だったな?」
「ああ。改まってどうし……た?」
何やら驚いた様子でそう尋ねてくるセイバーオルタに怪訝な表情を浮かべ、エツィオは彼女の視線を追ってみる。
そして、絶句した。
「……その頃のフランスというのは、ここまで発展していたのか?」
――そこは芸術の都、パリ。
しかし、15世紀の街並みにしては明らかにレベルが違う。視界に映るどの建物も高く、周囲にある町や村と比べても遥かに高水準だ。
そして、何よりも異質であったはどの建物よりも高く聳え立つ鉄塔――“エッフェル塔”と呼ばれるフランスの象徴とも言える建築物である。
これが建設されるのはこの時代から400年以上も先のことのはず。にも関わらず確かにそれは目の前に存在していた。
「……一体どういうことだ?」
――第一特異点。
どうやらそれはエツィオらが予想していたよりも遥かに異常なようだ。