Fate/Assassin's Creed ―Ezio Grand Order―   作:朝、死んだ

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フルシンクロ条件:弟子を陽動に使う。



今回は少し短め。


memory.04 ローマに集え

 

 

真実は無く、許されぬことは無い。

 

アサシン教団が遥か昔から掲げ、現代にまで受け継がれている信条。それは自由意思の象徴であり、その意味合いはアサシン達によって様々な解釈がされてきた。

 

ある者は、正義の為ならばどんな罪を犯しても許されるのだと解釈した。

 

ある者は、言葉そのままに受け取り何をやっても構わないんだと解釈した。

 

ある者は、この信条は知恵の始まりに過ぎず未完成なのだと解釈した。

 

ある者は、それは自由ではなく一種の警告であると解釈した。

 

そして、エツィオ・アウディトーレ・ダ・フィレンツェという男はこう解釈した。

 

真実など無いのだから、脆弱な社会の基盤は自分達で守らなくてはいけない。

 

許されぬことなど無いのだから、信念に基づく行動の結果であれば例えそれが悲劇であっても受け入れなければならない。

 

それは彼自身の戒めであり、信念である。そんな彼はアサシン教団において正しく“英雄”と呼ぶに相応しい人物であり、それは一部では信仰の域にまで至っていた。

 

ルネサンス期のイタリアで活躍した彼は創始者“バエク”や伝説の“アルタイル”を筆頭とした偉大なるアサシンと並んで讃えられており、それは一部では信仰の域にまで達していた。

 

その理由は何か。まず彼はルネサンス期において廃れていたアサシンの血盟を復活させた。

 

それからアサシンギルドを立ち上げ、イタリア、スペイン、オーストリア、ロシア、フランス、イギリス、インド、ポルトガル、トルコ、ドイツといった世界各地へ多くの優秀な弟子を送り、当時のテンプル騎士団の勢力を大幅に弱体化させた。

 

その後、“教会”の実権を握り、絶大な力で欧州全域を支配していたボルジアの一族を打倒した。

 

更には彼らが支配していたローマを解放するに留まらずボルジアに対する反乱分子を支援し、あらゆる手段で廃れていた街を復興させた。それから数十年、ローマは実質彼らが運営していたと言っても過言ではない。

 

老年にはかの伝説のアサシン、“アルタイル”の書物庫を探す旅をし、遂にはそれを見つけ出した。

 

他にも多くの偉業や功績を残し、教団に多大な貢献をした。それが現代まで栄光の象徴として語り継がれている所以だ。

 

また数多くのアサシン達を差し置いて“最強”と謳われるだけあってその強さは正に一騎当千であり、オスマン帝国の精鋭であるイェニ=チェリ軍団を真っ向から相手にして傷一つ追わなかった程だった。

 

――しかし、その功績も、その強さも、彼一人だけの手によるものではなかった。

 

稽古を付けてくれた伯父が居た。隠れ方を教えてくれた娼婦が居た。協力してくれた盗賊と傭兵が居た。武器を作ってくれた親友が居た。支えてくれた家族が居た。共に戦ってくれる仲間が居た。

 

レオナルド、パオラ、マリオ、狐、カテリーナ、ローザ、アントニオ、テオドラ、バルトロメオ、ニッコロ、クラウディア……多くの仲間が彼を導き、力を貸した。

 

彼らが居なければエツィオは単なる復讐鬼と化していただろう。彼らが居たからこそ今のエツィオがあるのだ。

 

――そして、これはそんなエツィオ・アウディトーレという英霊を象徴するものである。

 

 

「なっ……」

 

 

舞い落ちる純白の羽。建ち並ぶ芸術的な建築物の数々。横を通り過ぎる群衆。目の前に広がる有り得ぬ光景にアーチャーは愕然としていた。

 

 

「ここは……まさか……」

 

「そう、“ローマ”だ」

 

 

目の前に立つエツィオの言葉通り、今居るこの場所は、この風景はルネサンス期のイタリア・ローマの街並みそのものであった。

 

これは幻か。否、アーチャーには分かる。この群衆も建物も総てが実体を持っているということが。故に、だからこそ信じられず、目を疑った。

 

 

「馬鹿な……私と同じ固有結界の宝具、それも街一つを丸々再現する規模だと……!?」

 

 

自身のものとは桁が違う。大都市を丸々再現するという規格外の代物。明らかに魔術師でもなければ神話の英霊でもない。とてもじゃないが、アサシンのサーヴァントが持つには不相応なものであった。

 

 

「いくら最強の称号を持つとはいえ一介のアサシンであるはずの貴方が固有結界を何故……!?」

 

「宝具とは、その英霊の象徴だ。ならば俺が多くの実績を成したこの街が再現されても不思議ではあるまい。それにこの街は我が故郷フィレンツェに次いで思い入れがあるしな」

 

「そんな理屈で……!」

 

「さて、話は終わりだ。そろそろ戦いに幕を下ろすとしよう」

 

 

すると次の瞬間。エツィオの姿が群衆に紛れ、完全に消えた。

 

 

「――ッ!」

 

 

それを見たアーチャーの行動は早かった。即座に大きく跳躍し、近くの民家の屋根に立つ。

 

一先ず動揺や疑問は振り払う。それよりも今は戦闘に専念しなければ。生前の経験故か、気持ちの入れ替えは得意であった。

 

 

(真っ向からの勝負を辞め、暗殺に切り替えたか……!)

 

 

となれば圧倒的に不利だ。何せエツィオにとってこのローマは庭のようなものなのだ。どこから攻めてくるか全く分からない。

 

故に身を隠す場所の少ない屋根の上へと移動した。ここからならば群衆を見下ろし、隠れるエツィオを探すことも可能だ。

 

自身の鷹の目は4㎞先までなら高速で動くものでも正確に視認することが出来る。群衆に紛れ、気配を遮断する暗殺者にどこまで通じるか分からないが、いつどこから襲われても平気なように全神経を集中させる。

 

 

「おい、よせ! 怪我をするぞ!」

 

「む?」

 

 

しかし、下から何者かに話し掛けられたことでアーチャーの集中が切れる。視線を向けると先程までこちらに見向きもしなかった群衆がこちらを見上げていた。

 

 

「それって違法だろ? どうでもいいけど」

 

「何だ君は……どうでもいいなら話し掛けて来ないでくれ」

 

 

アーチャーは顔をしかめ、群衆の一人を睨む。実体はあっても背景に等しいNPCのようなものだとばかり思っていたのだが、明らかに自我を持ち、こちらに反応してきた群衆に驚く。

 

 

「ありゃ誰だ? 馬鹿か?」

 

「なかなか斬新な移動方法だな」

 

「おっ、無茶するなぁ」

 

「サーカス? ここで?」

 

「何で歩かないんだ?」

 

「あんな真似をして、何の意味があるんだ?」

 

「あの世行きだな……遅くても五分後には」

 

「神よ……無謀な」

 

「ありゃ良い運動になるな」

 

 

次々と浴びせられる呆れと憐れみの声。これにはアーチャーも居心地を悪くする。屋根を登ったくらいでここまで酷い言われようとは。

 

 

「ッ……無視だ無視……」

 

「何の為にあんなことを……あっ成程女絡みか」

 

「違う!」

 

 

話し掛けてくる以外には害は無いと判断し、アーチャーは群衆をスルーしようとするが、最後に呟かれた一言は過去の悪い記憶が甦ったのか気に障ったようだ。たまらず別の屋根に飛び移り、群衆から離れていく。

 

 

「ちっ……この宝具には精神攻撃も含まれているのか」

 

 

苛立ちから舌打ちするアーチャー。奇人のように扱われるのはなかなか堪える。それに言葉一つ一つに棘があり、煽り耐性を下げてくる言動ばかりだった。

 

しかし、警戒は怠らない。いつどこからエツィオが現れても対応出来るように目を光らせていた。

 

――その時、真横から銃声が鳴り響く。

 

 

「!」

 

 

即座にアーチャーは顔を後ろへ反らす。結果、飛んで来た弾丸は彼の目の前を通り過ぎて行く。

 

 

「……はっ、驕ったな。あなたともあろう者が暗殺に音の出る銃を選ぶとは――!?」

 

 

足を止め、銃声がした方向へと身体を向けるアーチャー。――しかし、それと同時に背後から殺気を感じた。

 

 

「何っ!?」

 

 

振り向けば屋上に備え付けられた着替え室のカーテンから白い影が飛び出し、襲い掛かって来ていた。アーチャーは咄嗟に剣を振り、喉元に迫っていた短刀を弾く。

 

白い影はそのまま後方へ下がり、アーチャーから距離を取る。

 

 

「むっ……エツィオ・アウディトーレじゃない……?」

 

 

その襲撃者は、エツィオと同じような白い衣装にフードを被っていた。しかし、覗かせる顔は全くの別人の男だった。

 

 

「我らが導師の敵、ここで討つ」

 

「――アサシンに勝利を」

 

 

男の傍らにまた別の人物が立つ。恐らくアーチャーを銃撃した者だろう。服装はこれまたエツィオと同じものであったが、胸部に膨らみがある。顔を見ればそれは金髪の女性だった。

 

アーチャーは困惑する。彼らの存在もそうだが、サーヴァントである己と戦える程の戦闘力と攻撃される寸前まで気付かせない気配遮断スキルを有していたからだ。

 

これではまるで――。

 

 

「「「「「「「「「「闇に生き、光に奉仕する、そは我らなり」」」」」」」」」」

 

 

「!?」

 

 

 

すると右に左……四方八方から発せられた別々の声が一つに重なる。ハッとした様子でアーチャーが辺りを見回せば白いフードを被った暗殺者の集団が自身を取り囲んでいた。

 

 

(馬鹿な……まさかこいつら全員が……アサシンだとでも言うのかっ!?)

 

 

あまりの驚きに言葉を失う。教団の一員という意味ではない。彼ら一人一人がアサシンのクラスを宛がわれた無銘の英霊なのだ。

 

そのような宝具があるのは知っていた。あの征服王の持つ数万の軍勢を召喚する宝具がその筆頭だ。しかし、しかしだ。軍勢を率いたという逸話など皆無であったはずの暗殺者のサーヴァントがこのような宝具を持っているとは誰が予想出来ようか。

 

 

「例え世の人は真実を盲信しようとも、忘れるな」

 

 

――真実は無い。

 

 

「例え世の人は法や道徳に縛られようとも、忘れるな」

 

 

――許されぬことも無い。

 

 

どこからともなく響くエツィオの言葉に、暗殺者達は再確認するかのように己の魂に刻まれた“信条”を述べる。この言葉の下に彼らは集い、影に生きることを決めた。彼らにとってそれは己の在り方そのものである。

 

永遠に続く血盟(ブラザーフッド)。太古から現代まで受け継がれるアサシンの信条を胸に彼らは偉大なる師の呼び掛けに応じ、霊体となって再び現世へと馳せ参じたのだ。

 

 

「勝利を我らに」

 

 

それが号令となり、アサシン達は一斉に背のクロスボウを手に構える。

 

 

「!」

 

 

アーチャーの動きは速かった。足場の屋根が陥没する程の力で踏み込み、十数mまで高く垂直にジャンプした。

 

当然、アサシン達はクロスボウの照準を上へと動かし、矢が嵐のように放たれる。

 

 

「――熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!」

 

 

するとアーチャーの目の前に七つの花弁のある花のような結界が展開され、矢を弾いていく。

 

トロイア戦争においてアカイア側で活躍した戦士、アイアスが所持していた七枚の牛皮を敷き詰めた青銅の盾が宝具へと昇華したもの。トロイア側の大英雄ヘクトールの攻撃を悉く防いだそれは投擲武器や飛び道具に絶対的な防御を誇る。

 

 

(多勢に無勢とはこのことか……だが、私もただで殺される訳にはいかない。精々足掻かせてもらうぞ……!)

 

 

アーチャーは無傷の花弁を踏み、近くの高い建物へと跳び移る。その手には洋弓が携われていた。

 

 

「――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻れ狂う)

 

 

そして、矢として現れるのはドリルのように捻れた螺旋状の長剣。ケルト神話にて登場する伝説の剣の贋作。

 

 

偽・螺旋剣(カラド、ボルグ)

 

 

伝説の剣を矢にするという贅沢な使い方だろうか。しかし、それだけではない。アーチャーは宝具を()()し、いくらでも贋作を生み出せるが故、“壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)”という宝具を自ら爆破させるという更に贅沢な使い方を用いるのだ。

 

弓を引き絞る。狙うはこちらを追ってくるアサシン達が立つ()()。敵を纏めて一掃する為に、街の一部ごと消し飛ばすつもりだった。

 

 

壊れた(ブロークン)―――」

 

「そうはさせぬ」

 

「――ッ!?」

 

 

しかし、喉に鋭い痛みが走ったことでそれは出来なくなる。

 

 

「なっ……!?」

 

 

目を見開き、視線を下に向ければ自身の首から矢が生えていた。一体どこから。そんな疑問を抱くよりも先に力が抜け、弓を落とす。

 

そして、間髪入れずに二発目の矢が今度は心臓を狙って飛んで来る。

 

 

「チィッ……!」

 

 

しかし、無銘とはいえ腐っても英霊だ。アーチャーは身体を反らし、心臓ではなく肩に矢を受ける。致命傷は避けられたが、そのままアーチャーは重力に従い、塔から落下していく。

 

 

「かはっ……くっ……」

 

 

地面に叩き付けられる衝撃。凄まじい激痛に悶絶しながらもアーチャーは刺さっている矢を乱暴に引っこ抜く。首に空いた穴から絶え間無く血が溢れ、空気が漏れることでヒューヒューという音がする。これ程の傷を受けながらまだ生きているのは流石サーヴァントと言えよう。

 

 

「またならず者か……」

 

「物騒な世の中だ。常識も法律もあったもんじゃない」

 

「一種の教訓だな……明日死ぬかのように生きろ。いつ死神が訪れてもいいように」

 

「一体何があったんだ……酷い……誰か人を呼んで、いや、逃げなきゃ」

 

「哀れな……せめて祈りを捧げよう」

 

「ふぅ、まったくこの世は死体だらけだ」

 

「ううっ、酷い有様だな、誰も片付けをしないつもりなのか?」

 

「うわっ死んでる! 番兵!」

 

「誰がやったんだ! 俺だと思われたらまずいな、消えるとしよう」

 

「また一人天に召されたか、魂に安らぎがあらんことを」

 

 

「好き勝手、言って、くれる……後、まだ死んでいない……」

 

 

野次馬を作り、他人事のように口々に呟く群衆にアーチャーは呆れる。

 

しかし、実際のところ間違いではない。気合で何とか踏ん張っている状態だが、この傷ではもうじき消滅するだろう。

 

 

「最初から、私を塔の上に誘導するのが目的だったという訳か……」

 

 

まんまと引っ掛かった。アーチャーは悟る。総てが計算付くだったということに。

 

生前の経験からアサシンの恐ろしさをよく知っており、警戒しているアーチャーを暗殺するのはとても困難なことだ。それに何らかの防御手段を用いて防がれる危険性もある。

 

ならばどうするか。アーチャーが他者を攻撃するタイミングを狙うのだ。余程冷静で余裕がある場合でない限り、どんな者でも無防備になる。その僅かな隙を突く為に予め弓兵にとって絶好の狙撃ポイントである塔の付近に身を潜め、待ち伏せていた。

 

 

「――そうだ」

 

 

ドンッと鈍い音が響く。

 

大地へと降り立ったエツィオは籠手から仕込み刃を伸ばし、アーチャーへと歩き出す。

 

 

「ハハッ……見事だ。もしかしたら、心のどこかで貴方を侮っていたのかも、しれんな」

 

 

渇いた笑いが零れる。暗殺者が固有結界を持ち、更にサーヴァントにも匹敵する暗殺者を多く召喚するなど誰が予想出来ようか。全く以て常識外れにも程があろう。

 

もはや勝機は皆無に等しい。しかし、アーチャーの瞳に宿る闘志は未だに燃えている。

 

その手に鶴翼三連を行った際と同じように刀身が伸びた干将・莫耶を召喚し、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

「ほう……まだ立つか」

 

「最後の悪足掻きという奴だよ……貴方に一太刀くらいは浴びせたいの、でな……!」

 

 

双剣をクロスさせるように構え、全速力で駆ける。アーチャーは一瞬にしてエツィオとの距離を詰め、彼を切り裂かんと振り翳す。

 

 

「――無駄だ」

 

 

しかし、次の瞬間に響いたのは肉を断つ音ではなくキィン!と金属と金属がぶつかり合う甲高い音であった。

 

アーチャーの渾身の一振りはそれよりも遥かに細く短い刃によって在らぬ方向へと受け流され、エツィオには届かなかった。

 

ならばと二擊目を加えようとするアーチャーだが、そうはさせないとばかりに剣の刀身を滑るように刃が眼前に迫る。

 

 

「かはっ……」

 

 

そして、そのままアーチャーの心臓を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……敗れたか」

 

 

何も無い真っ白な空間。そこで力無く倒れるアーチャーはエツィオに抱き抱えられていた。

 

 

「死が汝に平穏をもたらさんことを」

 

「平穏、か……すまないが、死んだところで私にそんなものは無い」

 

「何? どういうことだ?」

 

「何のことは無い。身の程も弁えず世界と契約し、守護者となった代償さ」

 

 

自嘲気味にアーチャーは語る。

 

世界と契約……守護者……これらの単語はエツィオが与えられた知識の一部に合致した。願いを一つだけ叶える代わりに死後永遠に“抑止力”に隷属し、人類の繁栄の敵となる存在を抹消し続ける尖兵……言ってしまえば高尚な英霊には到底頼めない汚れ仕事を担う者達のことだ。

 

この目の前に居る男が、そうだったとは。

 

 

「私は……俺は貴方のような“正義の味方”になりたかった」

 

「正義の味方だと?」

 

 

すると一人称が変わる。口調もどこか少年のような雰囲気になった。恐らくこれが素なのだろう。エツィオは真剣な顔でアーチャーの話を聞く。

 

 

「ああ。初めは“呪い”のように託されたものだったが、やがてその羨望は本物になった。ただひたすらに夢想し、追い求めた。俺はそんな愚かな男の成れの果てだ」

 

 

多くの人々を救いたかった。世界と契約すればそれが成せると信じていた。しかし、結果はこのザマだ。“抑止力”にこき使われるだけの奴隷。多くを救うどころかその倍の数を殺す、単なる掃除屋に過ぎなかった。

 

 

「結局のところ俺では無理だった。貴方のように奴等に勝てなかった」

 

「……()()?」

 

「“アブスターゴ”……それが現代でのテンプル騎士団の表向きの名だ」

 

「……! そうか、奴等はまだ存在しているのか」

 

 

しかし、当然のことだろう。アルタイルが言っていた通り、彼らは不滅だ。()()という最強の武器を操る彼らは例え一人残らず全滅させようともいつの日かまた復活する。

 

そんな連中がたかだか五百年かそこらで消えるなど有り得なかった。

 

 

「国家……教会……政治家……そして今、奴等は巨大な“企業”を隠れ蓑にし、世界を牛耳っている」

 

「成程。俺が戦った時よりもずっと強大になっている訳か」

 

「ああ、そうだ。貴方がボルジアを倒していなかったら、もっと早い段階でそうなっていただろう。或いは更に悪化していたか……どちらにせよ今やアサシン教団は壊滅寸前にまで追い詰められている。劣勢と呼ぶ方が生易しい状況さ」

 

「何と……そこまでか」

 

 

教団が滅び掛けているという衝撃的な内容にエツィオは驚く。どうやら現代のテンプル騎士団は自分が想像しているよりもずっと強大な存在と化しているらしい。

 

 

「懸命に戦った。だが、どうすることも出来なかった。ただ暴力を振るい、殺すことしか出来ない俺では何をやっても無意味だった。連中にとって物理的な力などいくらあっても些細なものでしかなかったんだ。その挙げ句に信じていたものにまで裏切られて処刑された。そして、今は抑止力の使い走り……実に惨めだろう? 俺は英霊になんてとてもなれやしない愚者さ」

 

「…………」

 

 

その言葉はまるで嘆きのようであった。精神は消耗し、人間性は擦り切れていた。これが正義の味方に憧れ、なろうとした者の末路。

 

志は素晴らしいものであったが、現実は理想よりも遥かに厳しかった。立ち塞がる巨悪は何とも強大で理不尽で、しかし諦め切れぬ男は更なる力を追い求めた結果、今も不相応な対価を支払い続けている。何と哀れなことであろうか。

 

 

「だが、その理想は本物だったのであろう。お前は己が信じる“正義”の為にテンプル騎士団と戦った。結果が伴わなかったともしても、お前はお前の“正義”を貫いたのだ。そんなお前の人生を責め、否定する権利など誰にも無い」

 

 

自分自身ですらな、とエツィオは語る。成れの果てと悲観するが、彼にも救ってきた命があったはずだ。彼のお蔭で助かった命も決して少ないものではなかったはずだ。

 

しかし、アーチャーの気持ちも分からなくもない。抑止力にとって都合の悪いものだけを排除する為に遣わされ、殺したくないものまで殺すという辛さは想像を絶するものだ。

 

 

「言ってくれる……こんな私を肯定してくれた人間は恐らく貴方で二人目だろう」

 

 

アーチャーは笑みを溢す。

 

 

「エツィオ……貴方は、後悔していないのか? アブスターゴは、テンプル騎士団は世界を支配するにまで至った。過去の貴方達の戦いも虚しく……俺が言うのもなんだが、結果的には―――」

 

「無意味だった、か? そうだな……確かにお前から見ればそうなのかもしれない。それにお前の言う通り()の人生は後悔ばかりが存在する」

 

「なら――」

 

「だが、未練は無い」

 

 

きっぱりとエツィオは述べる。確固たる意思を以て放たれたその言葉にアーチャーは息を呑む。

 

 

「多くを失った。家族も、仲間も、愛する人も、友も……しかし、それと同時に私は多くのものを得た。無意味? いいや。意味のある人生だったさ。私がやってきたこと総ては、決して間違ってなかったと信じている」

 

 

救ってきたものがあった。守り抜いたものがあった。成し遂げられたことがあった。一時とはいえ平和をもたらした。あの日、あの時、エツィオが送った60年の人生に無意味なことなど一片足りとも存在しない。

 

 

「……ハハッ 強いな。英霊って奴は何でこんな不屈な精神を持つ者ばかりなのだろうか」

 

 

呆れながら、しかし嬉しそうにアーチャーは笑う。自分はエツィオとは違う。彼は皆と協力してテンプル騎士団を倒し、至福に包まれた最期を迎えた。正義の味方を志すことなく、なるべくして正義の味方となった。

 

何もかもが違う。この差は一体何なのだろうか。

 

 

「ああ、きっと……きっと貴方が俺だったのなら、こんなことにはなっていなかったのかもな。アブスターゴがどんなに強大で理不尽でも貴方が居たらアサシン教団は……」

 

「それは買い被り過ぎだ。私はお前が思っているような完璧な人間でも正義の味方と呼ばれる程大層な人間でもない」

 

「いいや。貴方は紛れもなく正義の味方だ。他のどのアサシンよりも正義で満ち溢れている」

 

 

アーチャーは称える。案内された教団の支部で彼の記憶の片鱗を見た頃から、ずっと憧れていた。自分もああなれると信じてしまった。

 

 

「貴方は否定する権利など無いと言うが……やはり俺は自分が許せなかった。だから自分という存在を抹消する為に聖杯戦争に臨んだが、この聖杯戦争は狂ってしまった。セイバー曰く、一匹の()の手によって」

 

()だと?」

 

「気を付けろ、エツィオ・アウディトーレ。これはまだ序章に過ぎない。世界は本来の物語から大きく外れてしまった。しかし、貴方なら――」

 

「それはどういう……おい、おい!」

 

 

意味深な発言にエツィオが問い詰めるが、時既に遅くアーチャーは光の粒子となって消滅してしまう。

 

()……その単語も与えられた知識の中に存在する。確かに()()ならば人類を滅ぼすことなど容易いだろう。しかし、だとするならば果たして勝ち目はあろうか。

 

 

「……この死が汝にほんの一時でも安寧をもたらさんことを。眠れ、安らかに」

 

 

思考しながらも弔いは忘れない。エツィオはアーチャーが居た場所に憐れみを以てそう呟き、その場を後にする。

 

こうして、一つの戦いが幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アサシン……大丈夫かな?」

 

 

一方その頃。

 

立香一行は襲い来る獣人や竜牙兵といったエネミー達を撃破しながら洞窟の先を進んでいた。

 

 

「そう心配すんな坊主。仮に殺られちまったとしてもサーヴァントってのは所詮は死人だ。消滅してもまた召喚出来る」

 

 

後ろを振り向き、エツィオの身を案ずる立香をキャスターが励ます。その言葉が励ましになっているのかはともかく。

 

 

『あ、カルデアの召喚システムだと倒されるとここへ強制送還されるようになってるんだけど……』

 

「だけど?」

 

『立香君と直接契約してるアサシンの場合はどうなるのか分からないんだよねぇ』

 

「そんな……」

 

「こらロマニ。余計不安にさせてどうするのよ。藤丸の奴、ただでさえ顔色悪いのに。ちゃんとバイタルチェックしてるの?」

 

『えっ? ……あ、本当だ! これはまずい!』

 

 

デミ・サーヴァントであるマシュはともかく前例の無い直接契約に関して懸念を述べるロマニをオルガマリーが咎める。

 

度重なる移動と戦闘、おまけにサーヴァントとの直接契約によって普段は全く使っていない魔力回路を酷使しているのだ。立香は身体的にも精神的にもかなり疲弊していた。

 

 

「ん? ああ、確かになんかだるいかも」

 

「だるいで済む訳ないでしょ。強がりは止しなさい」

 

「そう言われても……ちょっと頭痛がするくらいで他に目立った疲れは自覚出来ませんよ?」

 

「はぁ? そんな訳……」

 

『そうだよ立香君。使われていなかった魔術回路がフル稼働して脳に負担を掛けている。この体調だと頭痛以外にも何かしらの自覚症状はあると思うんだけど……睡魔が襲ってくるとか吐き気がするとかないのかい?』

 

「別に無いけど……」

 

 

オルガマリーの指摘に肩や手首を回しながら立香は首を傾げる。確かに疲れは感じるが、そこまで酷いものではなかった。

 

 

「凄いですね。追ってくるエネミーから爆走し、ここまでずっと歩きっぱなしだと言うのに……改めて先輩の体力に舌を巻きました」

 

「え? そんなことしてたのこいつ?」

 

「はい。しかも行き止まりじゃなかったら逃げ切ってたかもしれない速さでした」

 

「そういや嬢ちゃんとの特訓の時も俺の魔術も自力で避けてたな。なかなかの反射神経だったぜ」

 

「あ、そりゃどうも……」

 

 

マシュとキャスターの言葉に立香は照れ臭そうに頬を掻く。前者は可愛らしい後輩、後者は過去に偉業を成した英霊、そんな人物に誉められて嬉しくないはずがない。

 

 

『そうそう、立香君って足が速いんだよね。僕なんか死にもの狂いで走ったのに追い付かなかったよ』

 

「それは単にあなたが軟弱なだけよ」

 

『酷いっ!?』

 

「とにかく、一先ず休憩しましょう。アーサー王との戦いで倒れられても困るわ」

 

「お、そうだな……そろそろ“大聖杯”に着くし、最後の一休みとしようか」

 

 

オルガマリーの提案にキャスターが賛同する。特異点修復は事を急ぐ事態だが、だからと言って休憩を疎かにしてはいない。疲労が原因で失敗しては元の子も無いのだから。

 

 

『流石所長、ナイス判断。マシュ、キャンプの用意を。温かくて蜂蜜たっぷり入ったお茶の出番だ』

 

「了解しましたドクター。私もティータイムには賛成です」

 

「……平気なんだけどなぁ」

 

「先輩。どうぞ」

 

「あ、うん……ありがと」

 

 

皆が賛成する中、立香は一人そう思うも休憩の大切さは理解しているのでマシュから魔法瓶を受け取り近くの手頃な岩へと腰を掛ける。

 

ほんのりと温かい。燃えている街でホットティーとはどうなのだろうかと思いながらも蓋になっていたコップに注ぎ、グビッと飲む。

 

 

「どうですか?」

 

「甘い……けどまあ美味しいよ」

 

「それは良かったです。冷たいものもありますので欲しければ言ってください」

 

 

糖分は疲労に効くと言うが、確かにそうだ。少しばかりスッキリした頭で立香は今までことを思い返す。

 

 

(魔術……英霊……聖杯戦争……随分と大変なことに巻き込まれたなぁ)

 

 

何とも非常識で非日常で非現実な世界。カルデアも、この燃えてる街も、サーヴァントも、今起きている事柄総てが夢幻だと言われたら納得してしまうくらいだ。

 

しかし、これは紛れも無く現実だ。記憶の追体験でも流入現象でも何でもない、確かな現実だと理解出来る。

 

 

(にしても困ったな……これじゃ()()の仕事が出来なくなる……ん?)

 

 

ピタリ、と立香の思考が停止する。

 

 

(本来の? 何を考えているんだ俺は……カルデアの仕事をOKしたのはアルバイトにしては給料が良かったからだろ。いや、雪山に連れて来られるわ人類滅亡を防ぐなんて突拍子の無い説明をされるわで怪しさ満天だったが……)

 

 

カルデアのマスター候補という仕事を引き受けた動機。給料や好奇心以外にも別に理由があったような気はしていたが、“本来の仕事”とは何だ? その言い様だとそっちがメインになる。ならば何故自分はそれを忘れてしまっているのか。

 

疑問に思った立香は曖昧な記憶を探るも、やはり引き出しに錠前を掛けられているかのように思い出せない。そもそも何故記憶が曖昧なのだろうか。ここに来て初めて己の穴だらけな記憶に戸惑いを見せる。

 

 

「キュー?」

 

 

すると足下に柔らかい感触が走る。見てみればフォウがすり寄って来ていた。

 

 

「ん、どうした? フォウくん」

 

「フォーウ、フォフォフォーウ!」

 

「ごめん、分かんない」

 

「――ちょっと良いかしら?」

 

「え?」

 

「フォウ?」

 

 

そんなフォウとじゃれ合っているとオルガマリーは咳払いしながら話し掛けてきた。彼女は立香と同じように近くの岩に腰を下ろし、しっかりとこちらを見据える。

 

 

「…………」

 

「……あの、なんすか所長」

 

「あ、いやえっとその……そう、カルデア所長として部下であるあなたとコミュニケーションを取ろうと思って……」

 

 

急にどうしたのだろうか。自分のことを嫌っていたはずなのに、彼女の心境の変化に立香は首を傾げる。

 

 

「み、認めてあげるわ。マスターとしては及第点ギリギリだけど……それでも一般人にも関わらずあなたはよく働いてくれています」

 

「そりゃどうも……」

 

「けど勘違いはしないでね。所詮あなたは私達の力が無ければ何も出来ない一般人なんだから。無茶するじゃないわよ」

 

「……ツンデレ?」

 

「違う! 何でそうなるのよ! 折角人が褒めてあげてるのに!」

 

 

恥ずかしそうにしながら立香を評価するオルガマリーだったが、彼の返答に豹変。甲高い声で怒鳴り付けた。

 

そんな彼女に対し立香は特に反応も返さずにお茶を啜る。

 

 

「マリー所長もよくやっていると思いますよ」

 

「へ?」

 

「まだ若いのにカルデアって大きな組織の所長に就任して……プレッシャーとか凄そうなのに気丈に振る舞って……さっきはヒステリックになったりパニックになったりしてましたが、あの状況じゃ誰だってああなりますよね。むしろそんなことがあっても自暴自棄にならず責任感を以て所長としての役目を全うしようとしているのは普通は出来ませんよ」

 

「ななななな、急に何言ってんのよ!」

 

 

つらつらと称賛の言葉を述べる立香。これにオルガマリーは動揺した様子で顔を赤くする。

 

 

「そうですね。所長風に言えば、認めてあげますよ。あなたは凄い人だ」

 

「――――――」

 

 

最初に会った時は人の上に立つような器ではない、お飾りのようなものだと思っていた。気丈に振る舞ってはいたが、自身のコンプレックスを隠している弱い人間だと思っていた。

 

それは当たっているのかもしれない。しかし、彼女は立香が思っていたほど弱い人間ではなかった。プレッシャーや責任感に押し潰されようになっても耐える根性がある。それに事あるごとに嫌味や罵詈雑言を並べるが、根は善人だ。少なくとも立香はそう思った。

 

――そして、彼が何気無しに言ったその言葉はオルガマリーにとっては何よりの()()だった。

 

 

「……初めてよ。そんなこと言われたのは」

 

「え?」

 

「な、何でもないわ!」

 

 

ぼそりと呟かれたその言葉は聞き取ることが出来なかった。オルガマリーの顔を覗き込んでみればその頬が若干赤くなっているように見えた。

 

 

「所長……?」

 

「ふんっ……気持ち悪いこと言ってないで充分に休めたならさっさと行くわよ!」

 

「えぇ……酷いなぁ……」

 

 

人が誉めたのに気持ち悪いとは酷い言われようだが、最後に彼女が言ったことには同意する。エツィオを残して先へ進んだというのに、のんびり休んでいる暇は無い。

 

――セイバーを倒し、特異点を修復する。“大聖杯”まで目前だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――おのれ。

 

――漸く使命を果たす時が来たというのに総て水泡に帰そうと言うのか。

 

――ふざけるな。3000年越しの計画? 笑わせてくれる。こちらは7万年以上も待ったのだぞ。

 

――そなたのやろうとしていることは全く以て無駄なことだ。今頃になって“白き巨人”の真似事をしたところで何も意味を成さない。

 

――それは■■■■がやろうとした。モーセがやろうとした。ソロモンがやろうとした。イエスがやろうとした。そして、テンプル騎士団がやろうとしている。だが、先人は成し遂げることは出来ず、統制による平和を訴えるかの者達は難航している。彼らが思うほど世界は、人類は甘くなど無かったのだ。

 

――況してや人から零れ落ちた“獣性”に過ぎないそなたに成せる訳が無かろう。総てを滅ぼし、一から作り直す……そんなことで理想が果たせるとも?

 

――否。それが可能なのは“私”だけだ。

 

――断言しよう。そなたの浅知恵で練った計画は水泡に帰す。3000年も掛けて寝ずにやって来たことは総て無駄であり、無意味に滅ぼしたのだと後悔するだろう。

 

――しかし、しかしだ。そのそなたの失敗のせいで、くだらぬ茶番のせいで私の計画が破綻する。そんなことは絶対に許されない事象だ。何としてでも阻止せねば。

 

――我らの世界を救済する為に。




フルシンクロ100%達成。

アーチャーは犠牲となったのだ……H男の宝具お披露目、その犠牲にな

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