Fate/Assassin's Creed ―Ezio Grand Order―   作:朝、死んだ

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オデッセイもうすぐ発売……楽しみだなぁ ヒヒヒッ

今回の戦闘シーンは独自解釈が多いので設定に矛盾があるかもしれませんのでそこんとこよろしくお願いいたします。はい。


memory.05 黒き聖剣

 

 

どうしてこんなことになった。

 

()は思う。数え切れない死体が積み上げられた丘の上で。力無く膝を付き、虚ろな瞳を浮かべながら。

 

 

「……どうして、だ」

 

 

目の前には血の海。その中心で横たわっているのは王と同じ金髪の騎士……それは自分の留守を狙って叛逆を企てた叛逆の騎士。己が先程、“槍”を以て突き殺した、一応は息子(・・)という立場の存在だった。

 

王を恨み、王位を狙う()が下法を以て産み落とした憐れなる存在。確かに王の血を受け継いだ、否。王に限り無く似た模造品である。

 

粗暴な性格ではあったが、本質は純粋で優しい人物だと認識していた。かつて血の繋がりを主張する彼を拒絶し、血縁を認めることも決して無かったが、それでも彼は己を恨んだり憎んだりする様子は無く、確かに己を慕い、ブリテンの為に尽くしてくれていたはずだった。

 

なのに何故―――。

 

 

「どうして、なのだ……モードレッド卿よ……」

 

 

何故裏切り、よりにもよって暗殺者の手駒となったのか。王には分からない。彼は己が王位を譲らなかったからだと言っていたが、それは己は“剣”を抜いた時点で寿命は存在せず、跡取りなど必要ではなかったからだ。

 

 

「どうして事もあろうか“暗殺教団”などに……彼らに何と唆された? 自由か? それとも安寧か?」

 

 

忌々しい。総ての元凶は湖の騎士でも叛逆の騎士でもなく太古から続く“教団”だった。彼らは自由を謳っているがそれを履き違えている。彼らの言う自由とは単なる無秩序な混沌に過ぎず、それは決して民にとって幸福にはならない。

 

そう王は認識していた。そうであるはずだと思っていた。否、思い込まされていた。

 

――正義は一つではない。正義を抱いたのであれば必ずそれと敵対する別の正義が存在する。

 

逆も然り。叛逆の騎士の掲げる正義に協力したのが“暗殺教団”という正義であり、王の掲げる正義に協力したのは“古き結社”という正義であったに過ぎない。

 

 

「間違いだったのか? 総て……私では無理だったというのか?」

 

 

間違いではないはずです。

 

“剣”を抜く時、花の魔術師の警告に王はそう言った。後悔などせぬと思っていた。しかし今、まごうことなき破滅を突き付けられ、王の心は後悔と絶望で満ちている。

 

かつて、騎士の一人が王にこう言った。“王には人の心が分からない”、と。それは確かにそうなのであろう。しかし、そんな人心が解せぬ王でも広い目でみればちっぽけな、単なる人間に過ぎなかった。

 

 

「私は……」

 

 

こうなれば“剣”は役立たずであり、“鞘”は姉によって隠されてしまった。恐らく密かに手を結んでいた暗殺教団に渡したのだろう。いや、例え“鞘”があったとてもはやどうにもならない。

 

この国は、ブリテンは、王の国は滅びる。他ならぬ王のせいで。

 

 

「わたしの、せいなのか……」

 

 

王は、国よりも人を愛した。

 

万人にとって善き生活。善き人生を善しとし、弱きを助け強きを挫く。多くの力持たぬ者達を治める。その為に己の人間性と己の人生を封印した。

 

しかし、王の心は民には伝わらなかった。人の心を理解出来なくなり、大を救い小を切り捨てることを躊躇無く実行するその姿は、民や兵の目からはかつて倒した卑王よりも冷徹なものに見えたのであろう。

 

 

「私のせいで……ブリテンは滅びる……私の、私のせいで……!」

 

 

治めるべき国も、守るべき民も、自分の兵も、自分の家臣も、自分までも、何もかもを失った。

 

しかし、彼女(・・)は何も悪くない。

 

元よりこの国は詰んでいたのだ。王が王となる以前から何もかもが足りなかった。金も、食物も、土地も……一騎当千の力を持つ猛者は多く居たが、それだけでは国は運営出来ない。それでいて凶作が続き、蛮族が幾度も侵攻してくる。他国からの支援も突然断絶してしまった。

 

故に、藁にもすがる思いで運命に抗う力を与えてやるという甘言にも食い付いたが、結局は利用されていただけだった。

 

もはや滅びは必然だった。王もそれを察していた。故に、せめて穏やかな滅びを望んでいたというのに。

 

仕方の無いことだ。王がどう頑張っても、この国は滅びていた。“秘宝”の力に頼ろうとも、どこまで自己犠牲に走ろうとも、国の滅亡は確定していた。

 

 

「ふざけ、るな……そんなの、そんなのあんまりじゃないですか……」

 

 

しかし、しかしだ。こんな悲劇を、こんな救いの無い話を、果たして誰が納得出来ようか。断固として認めてなるものか。このような滅亡を受け入れてなるものか。

 

 

「そうか……私は、王に相応しくなかったのですね。王になってはいけなかったんですね……」

 

 

漸く悟った。その絶望に染まった顔を上へ向ければ天から一筋の光が照らしていた。それは王にとって正しく希望の光であった。

 

力のみの“剣”や“槍”では無理だ。癒すことしか出来ない“鞘”でも無理だ。ならば今度は“杯”にすがるまで。

 

奇跡すらも起こせる万能の願望機。必ずやそれを手にし、この国を……ブリテンを救済する。

 

悪魔の囁きは時に天使のように聴こえるとはよく言ったものだ。王は誘われるがままに光を受け入れ―――。

 

 

「我ながら、愚かしいものだ」

 

 

場所は変わり、洞窟の最奥にある盛り上がった丘の上。輝く巨大な結晶体を背に漆黒の騎士王は佇んでいた。まるで番人のように。

 

 

「時代が変わり、神秘は廃れ、幻想は去り、科学の繁栄によって例外は悉く否定され、やがて忘れ去られる。人間の思考は低次元が故に」

 

 

或いは何者かが管理し、統制しやすいように仕組んだことか。どちらにせよ神秘こそ至高だと盲信する魔術師からすれば全く以て嘆かわしい話だ。

 

だが、これに関しては騎士王…セイバーも同様の意見だった。当然だろう。彼女(・・)の祖国が滅んだ原因の一つでもあるのだから。

 

 

「理不尽だろう。あまりにも理不尽な話だ」

 

 

故に彼女は奇跡に頼った。祖国の救済という純粋でありながら人理の礎を揺るがすあまりにも馬鹿げた願いを叶える為に。

 

 

「そんな私があろうことか“人理の防人”などというものを担う羽目になるとは、随分と皮肉な話だ」

 

 

可笑しそうに、しかし浮かべているのは冷徹なまでに無表情。まるで表情筋の無いロボットのように眉一つ動かすこと無くセイバーは淡々と呟く。

 

脳裏に過るのは幾度の並行世界での記憶。この冬木で同じように同じマスターに召喚され、そのマスターに恋をした記憶。また別の記憶では今と同じように黒化してしまいマスターと敵対し、一騎討ちの果てに敗れた記憶。他にも様々な相違のある聖杯戦争の記憶があるものは鮮明に、あるものは曖昧に入り乱れていた。

 

大半はバッドエンドだったが、その中の幾つかは万人が認めるハッピーエンドだった。セイバーが求めていた最高の結末と幸福が、確かに存在していた。

 

 

「――くだらん」

 

 

しかし、セイバーはその一言を以て切り捨てる。それらは確かに自身が経験したものであると理解出来たが、()のセイバーからしてみればまるで他人の記憶を見ているかのようであり、共感こそするもこの自分と今の自分は違うとはっきりと認識していた。

 

正義の味方に憧れる少年と触れ合うことで人間性を獲得した彼女は、限り無く同一人物に近い別人なのだ。

 

 

「今の私は単なる暴力装置。ならば己の役目を全うするのみ」

 

 

そう呟くセイバーは相変わらず無表情で虚空を見つめる。彼女は聖杯戦争をしに来たにも関わらず此度の異変を素直に受け入れた。

 

本来ならば聖杯を望んでいた己にとっては不本意なものであったが、人理が消滅してしまっては元も子も無いからだ。

 

 

「おっと。独り言が過ぎたな……聴いているのか? ■■■■」

 

 

その問いに対する返答は無い。しかし、セイバーはそれを肯定と受け取り、沈黙する。瞬き一つせず竜すらも怯むであろう威圧感を放ちながら佇むその姿は人形、或いは機械のようだった。

 

 

「…………?」

 

 

すると次の瞬間。ポーカーフェイスを保っていたセイバーは表情を僅かにしかめる。

 

その理由は、洞窟の中腹で一つの魔力反応が消滅したことだった。

 

 

「ほう……アーチャーが死んだか。元より期待など微塵もしていなかったが、こうも早いとは」

 

 

守護者であるが故か、それとも並行世界での自身への交わりが故か、他のサーヴァントと違って黒化しながらも自我を持ち、己に協力的だった赤い弓兵。

 

不運にも最弱のクラスを引いたとはいえ大英霊たるアイルランドの御子と彼が接触し手を組んだ異邦人達を相手に勝利出来るとは思っていなかったが、それでも小手先の上手い彼がこうも呆気無く敗れるのは予想外だった。

 

――フィニス・カルデア。かの機関から派遣された者達は存外やるようだ。

 

 

「……む、来たか」

 

 

これも予想よりも早い。既に異邦人達はこの空間へと足を踏み入れていた。

 

ならば叩き潰すまで。セイバーは冷徹な表情のまま気配を感じ取った方角へと視線を向け―――その目を見開く。

 

 

「――ほう。面白いサーヴァントが居るな」

 

 

そして、次の瞬間。微動だにさせなかったその口角を吊り上げ、笑みを溢す。

 

その瞳に映るのは、この場で唯一(・・)の人間である少年を守護するように立つ、十字架を模した大盾を携えた作り物の人形のように伽凛な桃髪の少女……そんな彼女の背後にセイバーは一人の騎士の姿を幻視していた。

 

それは―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが“大聖杯”……」

 

 

洞窟の最深部へと辿り着いた立香は眼前の巨大な水晶体に目を見張る。彼だけではない。マシュやオルガマリーにとっても圧巻の光景だった。

 

 

「超抜級の魔術炉心じゃない……何で極東の島国にこんなものがあるのよ……」

 

『資料によると、製作はアインツベルンという錬金術の大家だそうです。魔術協会に属さない、人造人間(ホムンクルス)だけで構成された一族のようですが』

 

 

オルガマリーの疑問にロマニが答える。

 

 

(ホムンクルスって……マジかよ。そんなものが実在していたのか)

 

 

聞き捨てならない単語だ。造られた人間……立香は勿論のこと世間一般の倫理観としても明らかに非人道的で不道徳的な存在だった。

 

まさか魔術師の世界では何ら可笑しくない当然のことなのだろうか。立香は僅かに顔をしかめ、二人の会話に耳を傾ける。

 

 

「――悪いな。お喋りはそこまでだ。奴さんに気付かれたぜ」

 

 

しかし、それはキャスターの言葉によって阻まれる。彼の視線を追ってみれば盛り上がった丘のような場所の上に小さな人影があった。

 

 

「…………」

 

 

色素が抜けた薄い金髪。首元まで身体を覆う漆黒の鎧。十字架の如く地面に突き立てれているのは刀身まで真っ黒な“剣”。

 

立香は目を見開く。冷徹な眼でこちらを見下ろすその存在は、彼の視点からはどこからどう見ても年端も行かぬ少女(・・)にしか見えない。

 

しかし、身に纏うその風格はまごうことなき国を治め、兵を率いる王のものであり、圧倒的な覇気を放っていた。

 

 

「なんて魔力放出……あれが本当にあのアーサー王なのですか?」

 

 

マシュが震えた声で呟く。

 

 

『間違いない。何か変質しているようだけど彼女はブリテン王、聖剣の担い手アーサーだ』

 

「やっぱり女の子だよね?」

 

『ああ。伝説とは性別が違うけど何か事情があってキャメロットでは男装をしていたんだろう。ほら、男子でないと玉座に着けないだろ? お家事情で男のフリをさせられてたんだよ、きっと』

 

「……なんか二次創作みたいな話だな」

 

 

その霊基を分析しながらロマニは確信を以て説明する。あれは間違い無くアーサー王だ。

 

しかし、女性という事実に立香は懐疑的な様子で首を捻る。日本の創作物、特に所謂ソーシャルゲームというものにおいてよく行われている過去の偉人や伝説の英雄の性別を本来男性な所を女性に変えること。所謂女体化と呼ばれている行為だ。この状況は正しくそれであり、尚且つ現実で起きていることであった。

 

当然アーサー王の女体化も様々なゲームや漫画に多く登場しており、日本では偉人を玩具にする文化があるという批判の対象にされることもあったが、この場合はまさかの史実通りだったということになる。

 

 

『アハハハ……宮廷魔術師の悪知恵だろうね。伝承にもあるけどマーリンはほんと趣味が悪い』

 

「ふうん……あれが、アーサー王なのか」

 

 

立香としてはあのような少女が本当に男装しても誤魔化せ切れるとは思えず疑問は残るが、一先ずは納得しておこう。

 

 

「え……? あ、ホントです。女性なんですね、あの方。てっきり男性かと思いました」

 

「いやいや、どう見ても女じゃん」

 

 

驚くマシュに立香が呆れ気味にツッコミを入れる。あの優秀な後輩には似合わぬ目の節穴っぷりであり、些か意外だった。

 

 

「見た目は華奢だが甘く見るなよ。アレは筋肉じゃなく魔力放出でカッ飛ぶ化け物だからな。一撃一撃がバカみてぇに重い。気を抜くと上半身ごとぶっ飛ばされるぞ」

 

 

するとキャスターが忠告してくる。サーヴァントである彼が言うのだ。生身の立香ならば掠るだけで挽き肉になるだろう。

 

 

「ロケットの擬人化のようなものですね……理解しました。全力で応戦します」

 

 

鋭い目付きでこちらを見据えるセイバーに対し、僅かな恐怖を感じながらもマシュは盾を構える。

 

 

「おう。奴を倒せばこの街の異変は消える。いいか、それは俺も奴も例外じゃない。その後はお前さん達の仕事だ。何が起こるか分からんが、出来る範囲でしっかりやんな」

 

「……なぁ、キャスター。倒したらここがドカーン!とか無いよな?」

 

「……流石にそれはねぇだろ。多分」

 

「何を馬鹿なことを言っているのよ。さっさと特異点を修復するわよ」

 

 

キャスターの言葉は、特に最後の部分はどこか含みのある言い方だった。そこが気になった立香の問いに彼は苦笑いする。

 

傍らで聞いていたオルガマリーも無駄な懸念だと切り捨てる。セイバーが特異点の元凶なのは火を見るよりも明らかなのだから。

 

 

「――ほう。面白いサーヴァントが居るな」

 

 

その時、沈黙を貫いていたセイバーの口が開き、底冷えするような、しかし透き通った少女の声が発せられる。

 

 

「なぬっ!? テメェ喋れたのか!? 今までだんまり決め込んでやがったのか!?」

 

 

これにキャスターが驚愕した様子で問い掛ける。どうやら黒化してからセイバーはずっと口を閉ざしていたようだ。

 

 

「ああ。何を語っても見られている。故に案山子に徹していた。尤も、いくら聞き耳を立てられようが構わなかったがな」

 

(……見られている?)

 

「ちょっと、どういうことよ?」

 

 

淡々と返答するセイバー。その言葉に立香とオルガマリーは引っ掛かりを覚える。口振りからして何者かに監視されているようだ。まさかセイバー達とキャスター以外にも、別の存在がこの特異点に関わっているのだろうか。

 

だとするならばそいつが総ての黒幕なのでは―――。

 

 

「考察など無意味。貴様らもゲームの駒に過ぎないということだ。それに、これから死に逝く者共に何を語っても仕方のないことだろう」

 

 

そう言ってセイバーは大地に突き立てていた漆黒の剣を引き抜く。

 

あれが、伝説の武器としてはトップクラスの知名度を誇るであろう聖剣“エクスカリバー”なのだろうか……()剣という割にはその有り様は魔剣と呼んだ方が自然なものであった。

 

 

「あれが神造兵器……規格外も良い所じゃない……」

 

 

しかし、そう感じるのは魔術や神秘とは無縁だった一般人である立香のみ。他の面子、特にオルガマリーはその刀身を見ただけで理解出来た。

 

変質こそしているものの、あれは遥か昔に()の海で精製された最強の聖剣なのだと。

 

 

「だが、面白い。その宝具は面白い。運命というのは全く以て、何を廻り合わせるか分からん」

 

 

一転して愉しそうに笑うセイバー。その鋭い視線の先にはマシュが居る。

 

 

「構えるがいい。名も知れぬ娘」

 

 

次の瞬間。大気が震え上がるのをこの場に居た全員が感じた。セイバーの持つ聖剣の刀身がより闇に染まり、莫大な魔力が集束していく。その光景は宛ら黒い光……そう形容せざる負えないものだった。

 

 

「……っ!?」

 

「その守りが真実かどうか、この剣で確かめてやろう!」

 

「――下がっていてくださいマスター! 来ます……!」

 

 

対峙するのは(シールダー)の英霊。圧倒的な魔力と覇気を一身に受けながらも恐れる素振りなど一切見せず、皆の先頭に立つその姿に、経験の浅さなどは微塵も感じなかった。

 

立香は不安を覚えながらもマシュを信じ、オルガマリーは恐怖で取り乱し、キャスターはほくそ笑む。

 

 

「卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め―――」

 

 

そして、セイバーは聖剣を下から大きく振り上げ、その闇を解き放つ。

 

 

「“約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)”―――!」

 

 

暗黒の闇がまるで津波のように、大地を抉り取りながら行く先の有象無象を消し去ろうと押し寄せる。

 

 

「宝具、展開します……!」

 

 

しかし、マシュは不動を貫く。前方に白亜の結界を展開させ、堤防の如く闇を押し留める。

 

それを見て立香は目を見開いた。剣から放たれたのは恐れるべき広範囲攻撃。伝説の聖剣……その威力は絶大なのだと理解していたつもりだったが、いくら何でも一本の剣からこんな巨大なビームが出るとは思わなかった。

 

そして、そんな圧倒的な一撃をマシュは防いでいる。

 

 

「くうぅぅ……」

 

 

拮抗する両者の力。マシュは吹き飛ばされまいと全力で踏ん張る。立香を、オルガマリーを、皆を守るという彼女の意志が、白亜の壁をより強固なものとしていた。

 

 

「……フッ 見事だ」

 

 

――そして、闇は虚空へと消える。セイバーの視界には焦土と化した地面が広がっており、その先にはマシュが無傷で立っていた。

 

 

「ハァ……ハァ……やり、ました……」

 

「ああ、やったなマシュ!」

 

「う、嘘。ほんとに聖剣の一撃を防いだというの……?」

 

 

ガッツポーズをして喜ぶ立香。一方、オルガマリーは死を覚悟していたこともあって放心状態であった。

 

 

「おっと。まだ安心するには早いぜ」

 

「え?」

 

 

キャスターに言われて視線を向ければセイバーは既に第二射の準備に入っていた。

 

 

「えぇ!? まだ撃てるの!?」

 

「奴は聖杯から魔力を無尽蔵に供給してやがる……恐らく半永久的に魔力切れは起こさないし消耗もしない」

 

「つまりビーム撃ち放題ってことか!? チートじゃんかそれ!?」

 

 

言ってしまえばノーリスクで必殺技が使い放題。そんな衝撃の事実に立香は口をあんぐりさせる。

 

 

「その通りだ……アンサズ!」

 

 

するとキャスターは杖から火球を放つ。

 

 

「ふん……無駄なことを」

 

 

しかし、セイバーは気にすることなく剣を構える。当然火球は彼女にそれも頭部に直撃するが傷どころか汚れすら付かない。

 

対魔力:B。

 

大魔術を以てしても傷を付けるのは難しい魔力攻撃に対する絶対的な防御。セイバーには、現代の魔術師を遥かに凌駕するであろうキャスターの魔術を用いても牽制にすらなかった。

 

 

「はっ それはどうかな?」

 

「はあああああっ!」

 

「何っ……」

 

 

反射的にセイバーは守るように剣を前へやる。それと同時に刀身に重い衝撃が走った。

 

 

「くっ……」

 

「……貴様か、小娘」

 

 

自身の頭を粉砕しようと盾を鈍器の如く振り下ろしたのは聖剣の一撃を防いだ少女。鍔迫り合い、小刻みに震える剣をしっかりと握り締めながらセイバーは笑みを浮かべる。

 

まだ未熟。しかし分かる。彼女は何よりも高潔な()の力を受け継ぐに相応しい人物であると。

 

 

「実に面白い……しかし、」

 

「なっ!?」

 

 

するとマシュの足が宙に浮く。それから盾にまるで戦車か電車でもぶつかったような圧倒的な力が加わる。

 

 

「きゃっ―――」

 

 

小さな悲鳴をあげ、マシュは吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられてしまう。

 

 

「くっ……」

 

「遅い。早く立て」

 

「!?」

 

 

何て力だ。ギリギリで受け身を取り、ダメージを軽減出来たマシュはすぐに立ち上がろうとするが、前を見ると既にセイバーが間近まで迫っていた。

 

 

「俺を忘れるなっての!」

 

 

しかし、振るわれた剣は即座に二人の間に移動したキャスターの杖によって受け止められる。

 

 

「ちぃ……!」

 

「情けないな、ランサー。槍が無ければこんなにも弱くなるものなのか?」

 

「今はキャスターだこの野郎……!」

 

 

キャスターのステータスは最適正クラスであるランサーの時とは比べようがない程に低い。筋力など最低ランクだ。

 

しかし現在、魔力放出によるブーストに加え、素で高い筋力を誇るセイバーの剣を受け止めている。これはルーン魔術を用いて自身の筋力を何倍、何十倍にも増幅させているからだ。

 

だが、それでもセイバーの力は凄まじいものであり、今にも押し負けそうであった。

 

 

「嬢ちゃん! 手伝いな!」

 

「は、はい……!」

 

 

するとマシュが助太刀に盾を振るう。セイバーはそれを回避する為に後方へと退く。

 

 

「ふぅ……危うく真っ二つになる所だったぜ」

 

「大丈夫ですか?」

 

「おう。嬢ちゃんこそ……で、一瞬とはいえアレと切り結んでみてどうだった?」

 

「はい。酷く重い一撃でした。比喩にロケットを使ったのは大袈裟かなと思ってましたが、あれは正しく人間ロケットですね」

 

 

キャスターの問いにマシュは思ったことをそのまま述べる。

 

 

「そうか……で、殺れそうか?」

 

「はい。確かに凄いパワーですが、防御出来ない程ではありません」

 

「よし。それじゃあ、作戦は……」

 

「私が囮としてセイバーの攻撃を受け止め、キャスターさんが攻める、ですよね?」

 

「そういうこった」

 

 

宛らRPGのパーティーにおいてのタンクとアタッカーだ。前者はともかく後者はクラス的にサポーター向きなのだが。

 

これ以上に無い戦法だ。マシュはセイバーに大きなダメージを与える手段は無いが、セイバーの攻撃を防ぐ手段はある。キャスターはセイバーに大きなダメージを与える手段はあるが、セイバーの攻撃を防ぐ手段は無い。ならばマシュがセイバーの猛攻からキャスターを守り、その隙にキャスターが攻撃するのが最適解であろう。

 

 

「だが、聖剣を何度も捌くのはきついだろう? こいつをくれてやる」

 

「きゃっ」

 

 

そう言ってキャスターはマシュの首元にポンッと手を置く。同時に呪文を唱え、何かしらの魔術を施しているようだ。

 

 

「これは……?」

 

「強化のルーンをふんだんに刻んでやった。筋力も敏捷もAランク級にまで引き上がっているだろうよ」

 

「はい。身体が軽くなって力も湧き出てきます……ありがとうございます。キャスターさん」

 

 

身体能力が格段に跳ね上がったのを自覚しながらマシュは感謝の意を示す。戦闘だけでなくサポートも出来るとは。キャスターであるのだから当然ではあるのだが、何とも心強いことだ。

 

 

「……ふん。小賢しい真似を」

 

「!」

 

 

すると次の瞬間。セイバーが跳ねるように前方へ駆ける。踏み締めた地面は一瞬にして陥没して砕け散り、弾丸……否、ミサイル弾の如くマシュへと斬り掛かった。

 

 

ガキィン!

 

 

「……ッ!」

 

 

しかし、先程のように吹っ飛ばされるマシュではない。高速で鉄塊がぶつかってきたような凄まじい衝撃が襲うが、マシュは一歩も後退することなくセイバーの斬擊を正面から受け止める。

 

 

「さて、どこまで防げるか試させてもらおう」

 

「安心しやがれ。すぐにテメェは死ぬ!」

 

 

その隙にキャスターがマシュの背後から飛び出し、杖の先端をセイバーへと突き出す。

 

 

「そんなもので私を屠れるとでも?」

 

「おうともさ!」

 

 

しかし、動きを直感的に読んでいたセイバーはそれをあっさりと弾く。だがキャスターは退くことなく杖をまるで槍のように扱い、猛獣のような俊敏な動きでセイバーの嵐の如き剣戟に食らい付く。

 

 

「……!」

 

「キャスターで喚ばれたからって、雑魚扱いはよくねぇだろ。なぁ?」

 

「貴様……まさか……!」

 

「おっと、言わせねぇよ」

 

 

剣と杖が幾度も衝突する。聖剣と対等に斬り合えているという事実は魔術で硬化させていることを加味してもキャスターの持つそれが単なる木製の杖ではないことを物語っていた。

 

 

「すっげぇ……」

 

 

一方、立香は正に圧巻と呼ぶに相応しい光景を前に思わずそんな言葉を漏らす。

 

まるで映画でも観ているようである。目の前で繰り広げられる戦闘は総ての動作が猛スピードで行われており、目で追うのがやっとだった。

 

 

「ぶっ潰せ! ウィッカーマン!」

 

「!」

 

 

するとセイバーの目の前に炎の腕が現れ、彼女を叩き潰さんと拳を振り下ろす。

 

これをセイバーは難なく回避するも隙を見たキャスターが懐へ入り込み、連続で刺突を繰り出していく。

 

 

「オラよ!」

 

「ほう……やるなランサー」

 

「キャスターだっての。ちっ……涼しい顔しやがって」

 

 

キャスターは顔を歪め、舌打ちする。完全に不意を突いた形だったにも関わらずセイバーは冷静に対処し、その猛攻は彼女の頬に小さな掠り傷を作る程度に留まった。

 

 

「あの宝具……部分展開出来たのですね……」

 

 

一方、マシュは“灼き尽くす炎の檻”の新たな使い方を知り、戦慄する。あれだけの火力を誇る巨人を一部とはいえ即座に召喚することが可能なのだ。もし特訓の際にあれを使用されていれば間違いなくやられていただろう。

 

 

「成程……そういうことか」

 

 

追撃してくる巨人の腕を切り捨て、セイバーは何かに気付いた様子でキャスターを見据える。

 

 

「ウィッカーマン。ドルイド教の野蛮な供儀。いや、それを再現し宝具にまで昇華した大魔術と言ったところか。その動きにその魔術……単に魔術師の器で弱体化した訳ではなさそうだな」

 

「……へぇ。一目で分かったか?」

 

「ああ。以前から違和感自体は存在していた。今それが確信へと変わった。貴様も随分と運命に翻弄されているようだな、ランサー」

 

「察しが良いことで。後、キャスターだ」

 

「……どういうことですか?」

 

 

二人の意味深な会話。しかし、マシュには全く以て理解出来ない。

 

 

「気にすんな。単なる世間話だ」

 

「そ、そうですか……え、いやあの、敵と世間話するというのはどうなんですか?」

 

「ん? ケルトだと日常だぜ?」

 

「偉大なる英雄の一角とはいえ本質は戦いと女しか能のない蛮族だ。解り合うことは不可能だと思っておけ、小娘」

 

「ボロクソ言ってくれるじゃねぇか、おい」

 

 

セイバーの物言いにキャスターは顔を僅かにしかめ、再び炎の腕を、今度は二本同時に召喚する。

 

その拳は触れるだけで地面を砕き、焼き、焦がし、融かす。セイバーは魔力放出を行い、スラスターのように滑空しながらそれらの猛攻を回避していく。

 

 

「遅い。その火力も当たらなければ宝の持ち腐れだな、槍兵だった頃のスピードが恋しいか?」

 

「うるせぇな。黙ってる時は辛気くせぇ奴だと思ってたが、一度口を開けば急に饒舌になりやがって……!」

 

 

苛立ちを覚えながらキャスターは杖の先にルーン文字を浮かび上がらせる。するとセイバーの身体が激しい炎に包まれた。

 

 

「ソウェル!」

 

「! ふん……魔術は通用しない」

 

「だろうなぁ!」

 

 

一瞬、動きが止めるが、ダメージどころか熱すらも感じない。何故今更こんなものを使ってきたのか疑問に思うもセイバーは構わずキャスターへと突っ込む。

 

 

「キャスターさん!」

 

 

その時、マシュが二人の間に入ってセイバーの一撃を防ぐ。

 

 

「ナイスだ! 嬢ちゃん!」

 

 

待っていたとばかりにキャスターはマシュの背後から飛び出し、その杖をセイバーのがら空きとなった胴体へと突き出す。

 

また同じ手か。セイバーは失望した様子で先程と同じように攻撃を防ごうとするが――。

 

 

「ッ!?」

 

「させません……!」

 

「貴様……!」

 

 

僅かに剣が押す力が緩んだ瞬間。マシュはセイバーの剣を持つ腕を盾で挟み込むように掴み、拘束する。

 

それは素人が簡単な関節技を見様見真似で行ったあまりにもお粗末なものでセイバーの筋力ならば魔力放出を使用するまでもなく振りほどくことが可能だった。

 

しかし、キャスターが攻撃する為の決定的な隙を生み出すには充分に過ぎる。

 

 

「かはっ……」

 

「やった! 当たりました!」

 

 

鋭い刺突を胸に受け、セイバーは膝を付く。初めて効果的なダメージを与えた。マシュは歓喜の声をあげ、キャスターはほくそ笑む。

 

 

「おのれ……」

 

「今だ! 灰も残さず燃え尽きな! “灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)”!」

 

「ッ!?」

 

 

そして、決定的な隙を見せたセイバーの前に炎上する木々の巨人を召喚する。巨人は足を振り上げ、セイバーの頭上に影を作る。

 

当然セイバーは回避しようとするが、間に合わず巨人は炎を纏った足で彼女を踏み潰してしまう。

 

 

「ふぃ~やったか?」

 

「ちょ、それフラグだって!」

 

「あん?」

 

 

キャスターが口走った単語に慌てた様子で立香が制止する。

 

 

「――やるな」

 

 

しかし、既にその言葉は放たれたものであった。

 

巨人の足を斬り飛ばし、セイバーは陥没した足跡から飛び出して先程立っていた丘の上へと着地する。その額は火傷しており、鎧も僅かだが傷付いていた。

 

 

「しぶとい野郎だ……が、多少なりともダメージはあったみてぇだな」

 

「はい。確実にこちらの攻撃は効いています。このまま行けば……」

 

「――勝てる、そう思っているか?」

 

 

勝機が見え始めた。しかし、セイバーは相変わらずの無表情でマシュとキャスターを見下ろす。

 

 

「随分と余裕だな? 悪いが、聖剣の力はもう使わせない。仮に使ったとしても嬢ちゃんの盾は打ち破れねぇ」

 

「果たしてそれはどうかな。だが、確かに私一人では貴様らを相手に勝利するのは難しそうだ」

 

 

潔く認めるセイバー。己はマシュとキャスターのコンビネーションに翻弄されている。このまま戦いを続けても敗北は必至であった。

 

 

「はっ ならテメェは――」

 

「しかし、甘いな」

 

 

――但しそれは。

 

 

「私が策を打たないとでも思ったか? 魔術師よ」

 

 

彼女一人ならば、の話だ。

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

 

「「ッ!?」」

 

 

 

その時だった。空間が震動し、皆が硬直する。言語に表すのは不可能な、けたましい雄叫びが洞窟中に響き渡った。

 

 

「ッ……」

 

「ヒイッッ!?」

 

「な、何だ……?」

 

「おいおい……マジかよ?」

 

 

正体不明の咆哮に一同が戦慄する中、キャスターは冷や汗を流しながら呟く。彼はこの叫びの主を、それはもうよく知っていた。

 

 

『大変だ! 尋常じゃない量の魔力反応がこちらに物凄い速度で真っ直ぐ向かって来ている! 何だこれはっ!? セイバーよりもずっと強大な反応だぞっ!?』

 

「当たり前だ! そいつと比べりゃアーサー王なんて小物に等しいからな!」

 

 

取り乱すロマニにキャスターが杖を構えながら叫ぶ。

 

聖剣の担い手である騎士王を小物扱い出来る程の英霊……となればまだ神やそれに匹敵する幻想が跋扈していた神話の時代を生き、その時代でも猛者として扱われた存在であろう。

 

 

「■■■■■■■■……」

 

 

そして、洞窟の天井を破壊して降り立った“ソレ”は―――。

 

 

「なかなか骨が折れたぞ。こいつを手懐けるのは」

 

 

よりにもよって一つの神話において“頂点”に君臨した怪物(えいゆう)であった。

 

 

「なっ……」

 

 

背中まで届く長髪、筋肉隆々とした身体、背丈は2mを優に越える、手には片手斧。この街で出会った他のサーヴァントと同様に黒い靄で覆われた肉体。しかし、それらとは比べようがないほどの存在感を放つ巨人を前に立香は圧倒され、言葉も出ない。

 

一目で分かる。これは別格……否、別次元の存在だと。

 

 

「キャスターさん! あのサーヴァントはまさか……!」

 

「ああ、“バーサーカー”だ!」

 

 

キャスターがここへ来る前に言っていた狂戦士のサーヴァント……曰く、手を出さなければ襲って来ず、セイバーでも制御が利かず持て余しているはずだ。

 

故に無視する手筈だったというのにこれは一体どういうことだろうか。

 

 

「セイバー、テメェ……一体どんな手を使いやがった?」

 

「教えてやるつもりはない。しかし、一つ言えることは、狂っても高潔なる精神は失わず、健気にもかつてのマスターの居城を護り続けた大英雄も、使い魔という枠組みは越えられなかったということだ。貴様と同じように、な」

 

「あん? ちっ……訳の分からぬことをペラペラと。どのみちロクな手じゃねぇってことだろうが」

 

 

問いに答えず淡々と呟くセイバーに怪訝な表情を浮かべ、キャスターは舌打ちする。

 

 

「さて、そろそろ終わりにする……やれ。バーサーカー」

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

 

セイバーが指示すると、バーサーカーは獣のような咆哮をあげながらマシュが居る方へと駆け出す。それだけで暴風が巻き起こり、もはや一つの災害であった。

 

 

「ッ―――」

 

「嬢ちゃん! まともに防ぐな!」

 

 

バーサーカーが斧を振るう。マシュはセイバーの時と同様に防御しようとするが、キャスターが制止の声をあげる。

 

 

「かはっ!?」

 

 

そして、斧が盾に触れた瞬間。マシュは大きく宙に舞った。

 

 

「くっ……一体何が……?」

 

 

セイバーとは比べ物にならない剛力。これに背中から地面に叩き付けられたマシュは一瞬自分の身に何が起こったのか理解出来ず戦慄する。

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

「あの野郎……アンサズ!」

 

 

マシュを追撃しようとするバーサーカーに向けてキャスターは火球を放つ。

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

 

火球は見事バーサーカーの胴体に命中し、彼の動きを止める。セイバーと違って対魔力スキルが無いためダメージは通るが、肌の表面を焦がすだけだった。

 

これにキャスターは舌打ちし、ならばと自身の宝具を発動させる。

 

 

「ならこいつはどうだ!? 焼き尽くせ木々の巨人! “灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)”!」

 

 

燃え盛る巨人が召喚され、バーサーカーを踏み潰さんと突き進む。対するバーサーカーはそれを前にしても一歩も引き下がらずむしろ迎え撃たんと疾走する。

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

「なっ!? マジかよっ!?」

 

 

キャスターは驚愕する。当然だろう。バーサーカーは大きく跳躍し、一瞬で巨人の眼前へと迫ったかと思えば反応されるよりも速く斧を振り下ろし、その頭をかち割ったのだから。

 

しかし、それだけでは巨人は死せず反撃とばかりにバーサーカーを平手で叩き落とす。バーサーカーは地面に陥没するが、即座に這い出て今度は腕を斬り飛ばした。

 

 

「キャスターさんの宝具を身体一つで……」

 

「くそっ……どうやら俺ではバーサーカーは止められねぇみてぇだな」

 

 

圧倒的なその強さに思わず魅入ってしまうマシュ。一方、キャスターはどうしたものかと思考する。このままでは巨人が倒され、消滅するのは時間の問題だ。

 

 

「バーサーカー。その盾の小娘を優先的に狙え。ランサーの攻撃など貴様に火傷を負わすことしか出来ないのだから」

 

「キャスターだっつってんだろ。にしてもテメェ……マジであのヘラクレスを自在に操ってやがるのか」

 

「ヘラクレスですって!?」

 

 

セイバーとの会話の中でキャスターがぽつりと漏らした名前にオルガマリーが反応する。その顔は絶望に染まり、青ざめていた。

 

 

「ちょっとキャスター! それがバーサーカーの真名だというの!?」

 

「ああ、そうだ」

 

「ヘラクレスって……あの?」

 

 

その名は立香も知っている。確か神々から与えられた12の試練を成し遂げたとされるギリシャ神話の登場人物だ。

 

尤も、日本人である立香が知っていることはそれくらいで後はゲーム関連のものだ。

 

 

「ギリシャの大英雄じゃない! そんなの勝てる訳ないわ!」

 

 

しかし、イギリス生まれで魔術師であるオルガマリーはその桁違いさをよく理解していた。故にそれが事もあろうかアーサー王によって手懐けられ、自分らの敵となっていることに心底絶望し、甲高い悲鳴をあげる。

 

神話において彼は最強の猛毒を持つ水蛇を倒した。狩猟の女神すらも捕まえられない鹿を生け捕りにした。アマゾンの女王を殴り殺した。巨人の代わりに天を支えた。ネメアの獅子を絞め殺した。冥界で地獄の番犬すらも手懐けた。更に死後にはその功績から神へと至った。

 

その偉業、その能力……何もかもが規格外だ。英霊としては最上級だろう。

 

 

「ちょ、所長。落ち着いてください」

 

「これが落ち着いてられる訳ないじゃない! マシュは一撃で吹っ飛ばされたしキャスターの魔術は通じない! あんな化け物に加えてセイバーよっ!? 勝ち目なんてある訳が……!」

 

「勝ち目がどうこうじゃなくて勝たないと駄目なんですよ。それにまだ戦いは終わってません。今はマシュとキャスターを信じましょう。ね?」

 

 

ヒステリックに取り乱すオルガマリーを立香が必死で宥める。彼としても絶望的な状況なのは理解していたが、だからこそ冷静であるべきだと思った。

 

 

「よく言った坊主。確かにちょいとヤバい状況だが、ヘラクレスはヘラクレスでも奴はバーサーカーとして召喚されている。こいつを召喚した連中の馬鹿な発想のお蔭でな」

 

 

キャスターが補足する。ヘラクレスは強大な存在ではあるが、それは精神や知恵も含めてのこと。ヘラに掛けられた呪いの如く狂わされ、理性を失った今の彼は本来の力を発揮出来ずに居る。

 

 

「それに今のバーサーカーは汚染されて弱体化している。以前は不死身の化け物だったが、今は俺らの攻撃でも傷付く。だから勝てない相手って訳じゃねぇ……ソウェル!」

 

 

単純に強く戦いたくはないが、勝てない相手ではない。そう言ってキャスターが杖を掲げると炎の巨人を討ち倒し、セイバーの命令通りにマシュへと襲い掛かろうとしていたバーサーカーが炎に包まれた。

 

しかし、やはりダメージは薄い。火達磨になりながら平然とした様子でバーサーカーはマシュへと向かって行く。

 

 

「無理か……嬢ちゃん! 衝撃を受け流すんだ!」

 

「はい……!」

 

 

言われた通り、マシュはバーサーカーの一撃を盾で受けた瞬間に斜めに反らすことで衝撃を緩和させる。

 

 

「くっ……!」

 

 

しかし、バーサーカーは止まらない。続けざまに二撃目を、三撃目を、まるで乱舞の如く重い攻撃をし続ける。余波だけで吹き飛ばされそうになるマシュだが、何とかその猛攻を捌いて食い下がっていた。

 

 

「エイワズ!」

 

 

これにキャスターがそう一言叫ぶ。するとバーサーカーが持つ斧が跡形も無く消え去った。

 

 

「■■■!?」

 

 

突然武器が消滅したことに一瞬硬直するも即座に拳を作り、戦闘を続行しようとするが、そう判断すると同時に顎に強い衝撃が走る。

 

 

「はああああ!!」

 

「ッ……■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

 

一瞬とはいえ決定的な隙を生んで、マシュが反撃に出ないはずがなかった。盾による強烈なかち上げがクリーンヒットし、バーサーカーはその身を僅かによろめかせる。

 

 

「ナイス判断だ!」

 

 

そして、がら空きとなった脇腹に炎を纏った杖が突き刺さり、真横へ吹っ飛ばされた。

 

 

「キャスターさん……!」

 

「すげぇ馬鹿力だろ? だが、ありゃ理性の無い暴風雨だ。確かに化け物みてぇに強い。けど勝てない相手じゃねぇ。協力してさっさと終わらせるぞ」

 

「はい……!」

 

「■■■■■■……」

 

 

バーサーカーはすぐに起き上がり、戻って来る。傷こそ負っているが、痛みに堪えている様子は無くセイバーの命令通りにマシュを殺そうと闘争心を剥き出しにしていた。

 

流石は理性無き狂戦士。恐らく内蔵を潰されようが、下半身を吹き飛ばされようが、首だけになろうが、生きて動けるのであれば彼は構わず戦おうとするだろう。

 

マシュは盾を、キャスターは杖を構え、こちらへ突撃してくるバーサーカーを迎え撃つ。

 

 

「な、何よ……い、意外と戦えてるじゃない……」

 

 

それを見ていたオルガマリーは動揺していた心を落ち着かせ、安堵した。そもそも神代を生きた規格外の強さを誇る一部の英霊は、サーヴァントという枠組みに押し込められている時点で本来の力を発揮出来ないよう制限が設けられている。

 

無論ヘラクレスはその中の一人であり、大幅に弱体化しているはずだ。それに彼が活躍したギリシャ神話は数千年も昔のことでその内容には諸説あり、矛盾点も存在する。あの無双の強さや逸話に多少の誇張があっても不思議ではない。

 

 

「相手があのヘラクレスってなった時はどうなるかと思ったけど……バーサーカーとして召喚されたせいでヒュドラの毒矢もケルベロスもネメアの毛皮も使えないみたいだし……このまま行けば勝てるかも。ねぇ、藤丸?」

 

 

これはもしかするとバーサーカーもセイバーも倒し、無事に特異点を修復出来るのではないか。オルガマリーは淡い希望を抱きながら立香へと目を向ける。

 

 

「……うん」

 

「? どうしたの?」

 

 

しかし、立香の顔はオルガマリーの期待とは裏腹に神妙なものであった。

 

 

(可笑しい……攻撃のチャンスだってのにセイバーは何をやっているんだ?)

 

 

てっきりバーサーカーと二人掛かりで戦うと思っていたが、当のセイバーはバーサーカーを向かわせてから動かず高みの見物を決め込んでいた。

 

マシュもキャスターも警戒こそしつつもバーサーカーの相手で精一杯でそんなセイバーを無視している。

 

まさかバーサーカーとの戦闘で消耗させてから参戦するつもりか。しかし、先程彼女はそろそろ終わりにすると確かに言っていた。あれは一気に決着を付けるという意味ではなかったのか。

 

これは一体……。

 

 

「あ、まさか……! キャスター!」

 

「あんっ!?」

 

「セイバーの奴、またあのビームを撃とうとしてるんじゃ……!」

 

「何っ……だが、そんな素振りは……!?」

 

 

キャスターはバーサーカーと戦いながらも何故か動かないセイバーに気を配っていた。少しでも宝具を発動しようものなら彼女の背後にウィッカーマンを召喚して踏み潰せるように。

 

故に立香の言葉に疑問の声をあげ、彼女の様子を確認した次の瞬間―――、強烈な魔力反応を感じ取った。

 

 

「なっ……」

 

「悪いなランサー。今の私は、手段を選んでられる余裕は無い」

 

「馬鹿な……テメェいつの間に……っ!?」

 

「大聖杯から一気に魔力を引き出した。貴様が倒したサーヴァント数体分……チャージなど一瞬で終わる。尤も、あまり無駄遣いはしたくないのだがな」

 

 

先程と同様に闇が収縮し、空間が震える。聖剣への魔力の蓄積は既に極限状態に達していた。

 

 

「くそっ……灼き尽くす(ウィッカー)――」

 

「無駄だ。今度こそ消えろ」

 

 

慌ててキャスターは杖を振るい、宝具を発動しようとするが、もはや間に合わない。構わず暴れるバーサーカーのせいでマシュも妨害することは出来ない。

 

この場にセイバーの宝具の解放を、止められるものはどこにも居なかった。

 

 

「――“約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)”!」

 

 

そして、押し寄せた破壊の波が洞窟を包み込み、巨大な闇の柱が立ち昇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――手は打った。

 

――後は運命が導くであろう。

 

――安心しろ。多少の相違は生じるだろうが、過程がいくら変わろうが結果は必ず同じものに辿り着く。

 

――さあ、始めよう。大いなる計画を。

 

――エデンの再興を。




H男「あれ? 俺の出番は?」

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