Fate/Assassin's Creed ―Ezio Grand Order―   作:朝、死んだ

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少し短め。

オデッセイ、未だにクリアせず……忙しくてなかなか出来ない+ストーリー進めずロケーション巡りしかしてねぇ……。


memory.07 友との再会

 

 

「ぐ、ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 

先程までの余裕の態度はどこへやら。エツィオに蹴り飛ばされたレフは情けない悲鳴をあげながらカルデアスの中へと消えていく。

 

ブラックホールに等しい重力に圧縮され、太陽に等しい灼熱に焼かれ、身体を融かされ、崩れていく苦痛は想像を絶するものであろう。それを何度も永遠に繰り返し、体験するのだから尚更だ。

 

 

「……はっ、ざまあないわね」

 

 

最大限の怨嗟と憎悪を以てオルガマリーは吐き捨てる。今頃肉体が分子レベルで分解される苦しみを味わい続けているのだろうと考えれば心が清々した。

 

しかし、同時に虚しさを覚える。父親が死んでから唯一信頼していた人物だった。己の理解者だとすがり、依存してしまう程に。その正体が人類を滅ぼそうとする巨悪の尖兵だったという事実はやはり大きなショックとなっていた。

 

 

「……怪我は無いか?」

 

 

エツィオが声を掛ける。その声質には心配の感情が混じっていた。

 

 

「ええ。大丈夫よ……その、ありがとう。助かったわ」

 

「なに、当然のことをしたまでさ。しかし、あの男とは知り合いだったのか?」

 

「そうね。私達の仲間だった男。けど実は裏切ってた今回の一件の黒幕……しかも人間ですらなかった」

 

「成程……それにしても君の反応から察するに相当な詐欺師だったようだな。信頼してしまっていたのだろう?」

 

「ええ。すっかり騙されていたわ。情けないったらありゃしない本当に……あなたが居なければ死ぬ所だったでしょうね」

 

 

あのまま行けば地獄の苦しみを味わうのは己の方だった。オルガマリーは命の恩人に等しいエツィオに感謝の言葉を投げ掛け、レフが落とした聖杯を拾い上げる。

 

そして、目の前へ翳してみればカルデアスは跡形も無く消え去った。

 

 

「……所長」

 

 

気丈に振る舞いながらもその漂う哀愁にオルガマリーの心情を察する立香。何か元気付けられないかと思うが、呼び掛ける言葉が思い浮かばず立ち往生してしまう。

 

 

「……これで本当に、終わったんですよね?」

 

「ええ。聖杯は無事に回収。任務完了よ。けど管制室の件みたいに爆弾でも仕掛けてるのかもしれないし、さっさと帰った方が良いでしょうね……これよりカルデアへ帰還します。ロマニ」

 

『は、はい。すぐに転送します』

 

 

セイバーを倒し、戦いが終わったかと思った矢先に現れたレフ。そのことからまだ何かあるのではと不安になるマシュにそう言ってオルガマリーはロマニに指令を出す。

 

すると辺りが光に包まれる。

 

 

(これで終わった、か……いや、違う。まだきっと、始まり過ぎない)

 

 

これにて一件落着。とは決していかない。立香の第六感は警鐘を鳴らす。あのセイバーの言っていた通り、戦いはまだ始まったばかりなのだろう。

 

長い戦いになる。それは一般人である彼からすれば何てことに巻き込まれたんだと嘆きたくなるものであったが、にも関わらず彼はそんな気は一切無くその心は覚悟に満ちていた。

 

 

(俺に何が出来るのか分からないけど……マシュや所長の為にも、しっかりしないと……)

 

 

遠退いていく意識の中、立香は確かにそう決意するのだった――。

 

 

『あれ? 立香君? 立香君っ――!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行ったか」

 

 

一同が、その場から消えた後。岩陰から黒い靄に覆われた男が姿を見せる。先程オルガマリーの前に現れたアサシンのサーヴァントだ。

 

聖杯戦争は終わり、特異点は修復された。にも関わらずこの影のサーヴァントは、何故消滅すること無くそこに存在し続けているのだろうか。

 

 

「さて、序章は終わった。これからお前達がどのような冒険譚(オデッセイ)を描くか、楽しみにしていよう」

 

 

そう言ってアサシンは天を見上げると不敵に笑い、目深に被っていたフードを脱ぐ。

 

黒い靄から微かに見えるその顔は――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――カルデアの一室。

 

室外で職員達が慌ただしく作業している中、()は相も変わらず椅子に腰掛け、液晶画面と睨めっこしていた。

 

 

「うーん……結局、めぼしい情報は得られなかったな」

 

 

残念そうに彼は呟く。ここに召喚されてから凡そ四年間、カルデアに協力しつつもずっと調べていた。

 

生前の愛する友、そして彼が所属する組織の不倶戴天の宿敵。しぶとく現代においても存在し続けている彼らが、自身を召喚した組織を支援し、何らかの目的の為に利用しているということはすぐに分かった。

 

故にその目的を探っていたが、とうとうその内容を知ることは出来なかった。ハッキングを行い、情報を抜き出す後一歩の所で何者かの手により管制室が爆破され、停電が起きてしまったからだ。

 

しかも予備電源が起動した際に再度ハッキングを試みるもどういう訳かインターネットに繋がらず、カルデアのデータベース以外には介入出来なくなっていた。

 

 

(ロマニのあの慌てようから察するに、“第二の災厄”が遂に訪れた。よりにもよってファースト・オーダー開始のタイミングを狙ってくるとは、やはり内部に鼠が紛れていたようですね)

 

 

こればっかりはどうしようもない。裏切り者の検討はついていたが、その立場故に迂闊に手出しするのは危険であり、慎重にならざるを得なかった。

 

しかし、もはや後の祭り。今となっては単なる言い訳にしかならない。対処するよりも先に行動に移された挙げ句に、最悪己が直接現場に赴かなければいかない展開の可能性もある、崖っぷちに居るのだから。

 

 

『――“レオナルド”! 聴こえるかい!?』

 

「ん?」

 

 

その時、通信機から響いてきた友人の声に思考が引き戻される。

 

 

「ああ、聴こえるとも。どうしたんだい? ロマニ」

 

『立香君が倒れた! 命に別状は無いが……万が一に備えて来てくれ!』

 

「立香……? ああ、例の生き残りのマスター候補か。今や最後のマスターだが。倒れたって、特異点の方は?」

 

『心配せずとも無事に解決した……とは言えないかな。レフ教授は裏切るし修復したはずの特異点は未だに炎上してるし想定外の事態が起こりっぱなしだ!』

 

 

悲鳴のような声をあげる友人ことロマニ・アーキマンに彼は神妙な笑みを浮かべる。どうやら特異点自体は解決したが、更なる問題が発生……否、山積みになっているようだ。

 

 

(成程。やはり裏切り者はレフ・ライノールでしたか……彼には最初から違和感を感じていました。しかし、藤丸立香が倒れたのはレイシフトへの負荷が蓄積していたからか……?)

 

 

その程度で意識を失うとは実に不甲斐ない、とは決して言わない。むしろ期待以上の働きだ。話では魔術とは縁も所縁も無い一般人だと聞いていたが、そんな身であるにも関わらず一つの特異点を修復するとは。

 

運良く生き残った補欠マスター候補に対する評価を彼は上方修正する。

 

 

「了解した。すぐに行くよ」

 

『ああ、頼む。……そうだ、特異点で立香君がどうやったのかアサシンのサーヴァントを召喚した。彼にも挨拶しておいてくれ』

 

「……アサシンだって? それは興味深いね」

 

 

ロマニの言葉に彼は目を見開く。まさかもうサーヴァントを召喚していることもそうだが、そのクラスがアサシンとは奇妙な偶然だ。

 

何せ彼が召喚しようとしている英霊と同じクラスなのだから――。

 

 

『ああ。白いフードを被り、肩にマントを装備したイタリア出身の男だ。恐ろしく強いが、危険性は無いと判断したよ』

 

 

「……はい?」

 

 

そして、ロマニの述べたその特徴を聞いた瞬間。頭を鈍器で殴られたかのような衝撃が走り、彼らしくもなく間抜けな声を出してしまう。

 

 

『で、真名は――』

 

「……エツィオ、アウディトーレ?」

 

『そうそうエツィオ……え?』

 

 

確認するかのように呟かれたその名前にロマニは目を見開く。

 

 

『何で君が……ってそういえば君もイタリア出身でしかも生前、フィレンツェに居たことがあったよね? もしかして――』

 

「―――――!!」

 

『わっ。おい……何だ今の? おーい、おーい“レオナルド”? 応答してくれよ、おーい? あれ、もしかしなくても切れてる? どうしたんだよもう……』

 

 

エツィオと知り合いか。そう問おうとするよりも先にブチッと通信は乱暴に切られてしまう。これにロマニは怪訝な表情を浮かべ、首を捻る。

 

切れる寸前、最後に聴こえたのは自動ドアが開く音と廊下をドタバタと慌てた様子で駆ける足音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――まさか着くなり倒れるとはな」

 

 

カルデア・48号室。

 

エツィオは壁に軽く凭れ、腕を組みながら佇んでいた。その視線の先には簡素なベッドには今や人類最後のマスターとなってしまった少年、立香が布団を被った状態で寝かされている。

 

“特異点F”から帰還した直後、立香は蓄積していた疲労が一気に出て意識を失ってしまった。ロマニ曰く幸い命に別状は無いが、暫くは眠ったままらしい。

 

 

「……やっぱり疲れてたんじゃない。なのにこの私の忠告を無視して痩せ我慢しちゃって……ほんと馬鹿な奴」

 

 

そんな眠る立香の傍らで悪態を付くのはオルガマリー。その言葉とは裏腹に彼女は心配した様子で立香の容態を見守り続ける。

 

 

(ふっ……素直じゃないな)

 

「フォウ……」

 

 

どこか初々しい光景にエツィオは頬を緩める。それに同調するように彼の足下に居る白い珍獣も鳴く。

 

 

「ん? お前もマスターが心配なのか? えっと……フォウ、だったか。何ともまあ珍妙な生き物だ」

 

「ミュー?」

 

 

冬木では軽くスルーしていたが、このようなリスか猫か犬かも分からぬ動物は見たことがなかった。

 

故にエツィオは若干の興味を持ち、ジッと視線を向ける。対してフォウも不思議そうにこちらを見つめ返す。その出で立ちは随分と可愛らしい。

 

初めはヨーロッパ外の異国の生物かと思っていたが、マシュ曰くその正体は全くの不明だという。どこから紛れ込んだのかも分からぬそんな生物を何の警戒も無しに放逐し、飼い慣らしているのは愚の骨頂だと言いたいところだが、様子を見る限り怪しい動きは見せていない。

 

ならばマシュの意思を尊重して警戒するだけにしておこう。これが杞憂であり、本当に無害な愛玩動物であれば良いのだが。

 

エツィオはフォウの頭を軽く撫でる。

 

 

(さて、と……今一番問題なのは、彼女の方だ)

 

 

そして、オルガマリーを見やる。

 

“鷹の目”によって瞳に映る彼女の姿は眩い金色に輝いていた。

 

 

(最初に会った時、彼女の反応は他と違い、明らかに薄かった。それが再会した時はこの反応……一体何があったというのだ?)

 

 

有り得ない変貌だ。反応が薄かったのは、やはりレフ・ライノールの言う通り実際に死んで残留思念となっていたのだろう。

 

しかし、だとすると彼女はエツィオがアーチャーと戦っている間に生き返ったということになる。肉体を得るどころかより強力なナニカとなって。

 

そんなことが可能なのだろうか。死者蘇生に関して懐疑的だったエツィオは聖杯から与えられた知識を探りながら思考する。

 

自らが現代に召喚された死者だというのに可笑しな話だが、この身はあくまでも霊体であるし受肉するには聖杯かそれに準ずる願望器が必要だ。

 

 

(つまり聖杯レベルの代物ならば……受肉自体は比較的容易ということか)

 

 

教団の資料に残っている、かつて“神の子”と呼ばれた男も保有していたとされる秘宝。記録によると完全に死んだ者は復活出来なかったらしいが、残留思念が残っている場合はどうだろうか。

 

しかし、これは単なる受肉では済まない。鷹の目で視たが故にエツィオには分かる。今のオルガマリーという少女の異質さを。

 

 

(……考えても埒が開かんな。思い切って直接訊いてみるとしよう)

 

 

あまりにも短い付き合いではあるが、彼女の人となりは理解したつもりだ。決して立香らカルデアを害する意志は無いであろう。

 

ならば手っ取り早く本人に直接問い質すのが関の山と思い、決断する。

 

 

「……オルガマリー、少し話が―――」

 

 

ダダダダッ

 

しかし、声をかけようとした瞬間。外から響いてきた衝撃音によってエツィオの言葉は阻まれる。

 

誰かが走る音だ。かなり急いでいるようだが、何かあったのだろうかとオルガマリーとエツィオは首を捻る。

 

 

「――失礼するよ!」

 

 

そして、自動扉が開き、足音の主は女性の声でそう言いながら入ってきた。

 

 

「む、何奴……おお」

 

 

当分目覚めぬとはいえ寝ている者が居るというのにドタバタと品も無く入ってきた輩に怪訝な表情を浮かべるエツィオだが、その顔を見るなり目の色を変える。

 

艶のある長い頭髪。透き通るように綺麗な美肌。目、鼻、口、総てのパーツの位置がバランス良く整った顔立ち。胸に豊満なものを持ちながらも引き締まった身体。何よりも女慣れしたエツィオが思わず見惚れてしまう程の美貌。

 

まるで絵画の世界から飛び出してきたかのような美しい女性がそこに立っていた。

 

 

「こ、これはこれは。大変麗しいご婦人よ、お初にお目に掛かります。私、エツィオ・アウディトーレと申します」

 

 

ハッと我に返り、エツィオは紳士的な態度で挨拶し、女性を迎え入れる。

 

対して女性の方も大きく目を見開き、茫然としていた。痙攣するかのようにワナワナと震えているのは少しばかり過剰な驚き様に見えるが一体どうしたのだろうか。

 

 

「して、何用で?」

 

「そ、そうよ。何であなたがこの部屋に……」

 

 

固まって動かない女性に用件を尋ねるエツィオ。気配から察するにサーヴァントだろう。オルガマリーはこの女性のことを知っている様子だが、どうやらカルデアにはマシュや己以外にもサーヴァントが存在していたようだ。

 

 

「……エ、」

 

「え?」

 

「エツィオォォオオ―――――!!」

 

 

すると突然。女性は一転してその顔をぱぁっと輝かせ飛び掛かるようにエツィオへと抱き着いた。

 

 

「うおっ!?」

 

「エツィオ! ああエツィオ! まるで奇跡のようだ! まさか! まさかまさか! 今回の特異点であなたが召喚されるなんて! こんなにも早く夢にまで見た再会が成されるとは思ってもいませんでした!」

 

 

歓喜に満ちた声をあげる女性。いきなり抱き締められたエツィオは戸惑いを隠せないが、芳しい香りと共に胸辺りに伝わる柔らかな感触に心を弾ませてしまう。

 

一方、オルガマリーはそんな光景に圧倒され、ぽかんとしていた。

 

 

「あーその、どこかでお会いになりましたかシニョーラ?」

 

 

絶世の美女に抱き着かれ、悪く思わないはずがなくもう少し堪能したいところだが、疑問を解決する為にもエツィオは一先ず優しく肩を掴んで女性を引き剥がし、問い掛ける。

 

顔を見てみれば若干涙目だった。自分に会えたのがそんなに嬉しかったというのだろうか。しかし――。

 

 

(このような美しい女性との思い出など、例えほんの一度一瞬すれ違っただけだとしてもこの俺が忘れるはずが無いのだが……くそ、さっぱり思い出せん)

 

 

エツィオは己の記憶力、特に関わった女性についての記憶には自信があった。実際生前は老衰し、他界するまで一度も呆けることはなかったのだ。物忘れなど有り得ない。そして、それが目の前に居る非の打ち所の無い美女ならば尚更だ。

 

しかし、いくら思い出そうとしても心当たりが皆無なことに対して内心悔しがる。

 

 

「! ああ、そうでした! 私としたことが今の自分の姿をすっかり忘れていました!」

 

 

すると女性は納得した様子で手を叩く。テンションは相変わらず高い。

 

今の姿……? サーヴァントは基本的に全盛期の姿で喚ばれる。ならばエツィオが女性と知り合ったのは彼女の幼少期か或いは老年期ということだろうか。

 

成程。それなら己の記憶を探っても思い出せないのも当然だ。エツィオは彼女の若い姿や老いた姿をイメージしながら再び思考する。

 

 

「えっと……もしかして生前のエツィオと知り合いなの? ダ・ヴィンチ」

 

「は?」

 

 

そして、やっと我に返ったオルガマリーの衝撃的な一言が思考を中断させる。

 

ダ・ヴィンチ……ヴィンチ村出身の者という意味を持つその名の人物はエツィオの知る限りただ一人しか居ない。しかし、彼は……。

 

 

「如何にもオルガマリー・アニムスフィア! そうですね、では私と彼との濃密な思い出を語るとしましょう!」

 

「え、いや別に……というか、あなたさっきから口調もテンションも可笑しくない?」

 

「まず初めて会ったのはフィレンツェでした! まだ新人の画家だった私を支援してくれていた彼の母親から紹介されたのです! 正に運命的な出会いでした! しかし、悲劇はすぐに起こってしまいました! 卑劣なテンプル騎士団の策略により彼の父と兄弟が処刑されてしまったのです! 彼は復讐を誓い、私を頼ってきました! それからアサシンとなった彼から与えられたアルタイルの写本を解析し、様々な装備を開発して彼の活動を手助けしました! いやぁあれは本当に素晴らしいものでした! そして、宿敵ボルジアとの長き渡る戦いの中で私達は親友と呼び合う仲に―――」

 

 

目をキラキラさせながらまるで楽しい物語を観客に聴かせるようにツラツラと早口で喋り散らす女性。これにオルガマリーはただ絶句するしかない。

 

一方、エツィオは目を見開き、信じられないといった表情で女性を指差す。

 

 

「……レオナルドォ!?」

 

「そうです! 私があなたの大親友、レオナルド・ダ・ヴィンチちゃんです!」

 

 

絶叫をあげるエツィオ。対して女性は満面の笑みで両手を広げる。

 

生前の友との再会。それは容姿どころか性別まで変わっていた友のせいでより衝撃的なものとなるも、感動もへたったくれも無い展開となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レオナルド・ディ・セル・ピエーロ・ダ・ヴィンチ。

 

彼はルネサンス期のイタリアを代表する芸術家であり、世紀の大天才と呼ばれる程の偉人であった。

 

また“万能人”という異名も持ち、美術、音楽、建築、数学、幾何学、解剖学、生理学、動植物学、天文学、気象学、地質学、地理学、物理学、光学、力学、土木工学など冗談かと思う程に様々な分野に顕著な業績と手稿を残したという。

 

特に画家としては史上最高と呼び声が高く、彼の絵画は数百、数千億もの値がついている。“モナ・リザ”や“最後の晩餐”などは世界的にも有名で先進国で知らぬ者は殆ど居ないだろう。

 

しかも彼は戦車(タンク)やヘリコプターの概念化、太陽エネルギーの運用法などをそれが出来る何百年も前にまるで実際にこの目で見てきたかのように手稿に残しており、この時点でその発想は遥か未来に生きていた。

 

彼を知る者は口を揃えて言う。一分野において彼を上回る天才は数多く居るだろうが、万能、多才という面で見れば彼を越える者など存在しないと。

 

そして、エツィオ・アウディトーレ・ダ・フィレンツェにとっては唯一無二の親友にして、協力者だった。

 

伝説のアサシンが残した写本を解読し、アサシンブレードやピストルといったものを製作することで彼の暗殺を手助けしてくれた。警備が厳重なドゥカーレ宮殿へ侵入するには彼の飛行機械が無ければ到底不可能だっただろう。

 

ローマでは影で支援してもらう他、彼の開発した戦闘兵器を破壊するという仕事を請け負ったりもした。

 

レオナルドが居なければ、エツィオは宿敵ボルジアを倒すどころか志半ばで死んでいたに違いない。そう断言しても過言ではなかった。故に彼にとっては命の恩人でもあり、深く、深く感謝していた。

 

 

「……いやマジかお前」

 

 

そんな親友が、現代において絶世の美女となって存在しているを目の当たりにすれば、取り乱してそう呟くのも無理は無いだろう。

 

 

「ふふん。驚くのも無理はありません。どうです? 完全無欠。完璧な美を兼ね備えたこの姿は?」

 

「え? あ、ああ……とても麗しいが……いや、え、本当にレオナルドなのか?」

 

「当たり前じゃないですかエツィオ! 込み入った事情があってこの姿をしていますが、私は正真正銘あなたのレオナルドですよ!」

 

「(あなたの……?) で、では、それを証明する為に幾つか質問しよう」

 

 

得意気に胸を張る女性…改めレオナルドに未だにエツィオは半信半疑な様子だった。古くからの親友が容姿どころか性別までも変わっているのだから当然だろう。そう簡単に受け入れられるものではない。

 

 

「ええ、構いませんよ、どんと来たまえ」

 

「……俺の伯父の名は?」

 

「簡単です。マリオ・アウディトーレでしょう。イッツミー! マリオー!」

 

「正解だ。俺と共に戦った傭兵隊長の名は?」

 

「それも簡単。バルトロメオでしょう?」

 

「ああ、そうだ。では、そのバルトロメオの嫁の名は?」

 

「えっーと……確かパンタレシアでしたっけ? それともビアンカ?」

 

「パンタレシアで合っている。ビアンカは剣の方だ。……では、チェーザレの死因は?」

 

「転落死。あの傲慢な男も、あなたと重力には勝てなかった」

 

「ふむ、その通りだ。じゃあ次はそうだな……俺を頼って中国から遠路はるばるフィレンツェを訪れた同胞の名は?」

 

「えっ!? うーん……分かりません。そんなことありましたっけ?」

 

「当然だ。それはレオナルドが死んだ後のことだからな」

 

「あ、そうなのですか。道理で……」

 

「……どうやら本当にレオナルドのようだな」

 

 

証明完了。目の前に居る美女は正真正銘己の親友だった。この事実にエツィオは疲れた様子で額に手をやる。

 

 

「やっと信じてくれましたか! いやぁ本当に感無量です! こうしてあなたと再び対面し、言葉を交わせるなんて!」

 

 

そう言って再び抱き着いてくるレオナルド。先程はこの柔らかな感触を堪能したいと思っていたが、正体が親友だと分かるとすっかりその気が失せてしまい、恥ずかしさの感情が出てしまう。

 

 

「ああ。俺も会えて嬉しいよ……嬉しいが、一体何故女になっている? 込み入った事情とか言っていたが」

 

「はい! 是非とも聞いてください! 私が何故このような美しい姿をしているのかを!」

 

 

するとレオナルドはエツィオから少し離れ、上機嫌そうに言った。余程己の容姿について話したいようである。

 

 

「以前、女性の絵を描いていると言っていましたよね?」

 

「ああ。確かサライの奴へ送った絵だろう? 奴が売り払う前に見せてもらったがあのこちらを見つめているような目元に整った美しい造形……流石はあのレオナルド・ダ・ヴィンチだと唸らざるを得ない素晴らしい出来の作品だったよ」

 

 

レオナルドの死後、彼の弟子から見せてもらった美しい女性の絵を思い出すエツィオ。あれは確か彼がヘルメス教団に拉致される直前に見た彼曰く書き損じとなった絵に似ていた。

 

 

「うんうん。そうです。あなたもあの最高傑作を見てくれたんですね! サライの奴に感謝しないと! 本当は真っ先に見せたかったんですが、あなたの消息が掴めなくて……」

 

「それはすまんな。しかし、その絵画がどうかし……む、まさかレオナルド(きみ)……」

 

 

ハッと何かに気付く。だが、辿り着いたその仮説にエツィオは顔をひきつらせる。まるでそうであってほしくないかのように。

 

 

「ご察しの通りです! 私はあの最高傑作、史上最高の美――“モナ・リザ”の姿に霊基を改造して召喚されたんです!」

 

「……つまり、君は自分が思う最も美しい姿になりたいから自身の描いた婦人の姿になったという訳か? わざわざ己の霊基を改造し、性別までも変えたと?」

 

「その通り! 流石はエツィオ! すぐに理解してくれましたね!」

 

 

そして、高らかに宣うレオナルドにその顔は更に歪んでしまう。

 

 

「……旧き友に会って早々こう言うのはどうかと思うが……」

 

「ん?」

 

「馬鹿と天才は紙一重だな」

 

「!?」

 

 

溜め息混じりにエツィオはそう言い放つ。これにまさか罵倒の類いが来るとは思ってなかったレオナルドは驚愕した様子で表情を固める。

 

 

「そんな!? 酷いですエツィオ!」

 

「これでも充分柔らかく表現したつもりだ。 何一体をトチ狂ったら自作の絵の人物の姿に、しかも女性になるなどという発想に思い至るのだ?」

 

 

エツィオからしてみれば狂気の沙汰としか言い様が無い。

 

彼の記憶の限りレオナルドという人物はかなりの変人であったが、そこまでブッ飛んではいなかった。……はずだ。

 

 

「そりゃ私が天才だからですよ! 私の万能の才能を以てすれば“自己改造”のスキルなど無くても霊器を自由自在に改造出来ます! なら、あの羨望して止まない究極の美へと到達するしかないでしょう!?」

 

「……生前の君は美男子として評判だったはずだが? 何も女にならんくても」

 

「確かに私はあなたには劣るとはいえ優れた容姿をしていたと自負しますが、私にとってはモナ・リザこそが究極の美だったのです! それを完璧に再現する為には性転換もやむを得ません! あ、生やすことも出来ますけど!」

 

 

ムッとした様子でレオナルドは熱弁する。己のことを天才だとに自称したり自信ありげな態度を取っていたりと今の彼は生前と比べてどこか傲慢さがあるように見えた。

 

恐らく現代においても天才として歴史に名を残し、絶大な評価を得ていることを知って少なからず天狗になっているのだろうとエツィオは考える。

 

しかし、そうなるのも無理は無い。英霊にはよくあることだ。死後に神話や歴史に名を残し、その武勇や逸話、偉業が評価され、称え讃えられ、或いは崇拝され、偉大な英雄として祭り上げられ、皆の憧れの的となる。これは逆も然りであり、反英雄にも通じる。

 

そして、聖杯の知識で現代において己がそのようなプラスな評価を受けていることを知れば良い気を思わないはずがないのだ。余程高潔で謙虚な人物でも無い限り多少の傲りを持つのは当然と言えよう。

 

と、考察してみたが、今重要なのはそこではないだろう。

 

 

「……分かった。もう何も言うまい。君の奇人ぶりは今に始まったことではないしな」

 

 

まさか女になるとは思わなかったが。困惑しながらもこれは言っても無駄だなと判断したエツィオは一先ず納得した風に見せる。あまり深く考えてしまうと気が参ってしまう。

 

 

「えぇ……エツィオなら喜んでくれると思っていたのに……まさか好みではありませんでしたか? 今の私の美貌はクリスティーナにも勝っていると思いますが?」

 

「いや、正直好みなんてレベルではない。顔、身体も、総て完璧だ。絵画を再現したのなら当然だが、このような美貌の持ち主には出会ったことがなかった。モデルより美しいんじゃないか?」

 

「えへへへ……そうですかそうですよね!」

 

「しかし、友がそのような見た目になって一体どうして喜ぶ? 普通は戸惑うだけだろう」

 

「そんな! 中身おっさんでは無理と!? てっきりエツィオは身体が女性なら誰でもイケるかと……」

 

「馬鹿にしてるのか? 流石にそのくらいの節操はある」

 

「人妻は抱けるのに?」

 

「……それはそれ、だ」

 

 

何というか……レオナルドが言うと洒落にならない。彼は同性愛者で、かつてはそれで訴えられたこともあるからだ。

 

体つきを強調するポーズを取り、エツィオが誉めれば頬を赤くして照れる様は大半の男を虜にするであろうが、中身はホモのおっさんである。

 

 

「しかし、こうしてエツィオとまた会えるなんて本当に感激ですよ! しかも若い姿でなんて! 初めて会った時を思い出します!」

 

「……ああ。女になっていたのは色々と衝撃的だったが、何とも感慨深いことだ」

 

 

親友との再会。サーヴァントとなって良かったと思えた時だった。英霊となっているのであればいつか巡り会うことになるとは思っていたが、まさかこんなにも早いとは。

 

 

「……あの、そろそろ良いかしら?」

 

 

すると会話に入ってこれず、先程から存在感が消え失せていたオルガマリーが漸く口を挟む。

 

 

「おや。すっかり忘れていたよオルガマリー」

 

「む、すまん。つい話し込んでしまった」

 

「大丈夫よ。エツィオとダ・ヴィンチは親交があったということね。まあ、同じルネサンスの英霊なのだから有り得ない話ではないけれど」

 

 

それもかなり親密な仲のようだ。いつもと違ってレオナルドが敬語口調だったのは恐らく生前、少なくともエツィオの前ではあのような喋り方をしていたのだろう。

 

 

「いやーそれにしてもエツィオを召喚するだなんて……どうやったんだい? 最後のマスター、藤丸立香君は」

 

「知らないわよ。まあ、悪いことじゃないのは間違いないわ。彼無くしては今回の特異点解決は無理だっただろうし」

 

「うんうん。エツィオは凄まじく強くて格好良いからね。それはもう頼りになったことだろう。私もその勇姿を見たかったよ」

 

「……本当に好きなのね」

 

 

楽しそうに話すレオナルドを見て、オルガマリーは苦笑いを浮かべる。彼が同性愛者(あっち系)なのは彼女も知っていた。かつて、浴場で女湯に入ってきた彼に怒鳴った際に「女性には興味無いから安心するといい」とカミングアウトされた時のことは今でも記憶に残っている。

 

 

「オルガマリー、レオナルドの奴は召喚されて随分と経つのか?」

 

「ええ。英霊第三号……カルデアで三番目に召喚されたサーヴァントよ。本来ならシステムが不安定だったからすぐに退去する予定だったけどロマニの提案もあってカルデアの技術局特別名誉顧問の地位に就いているわ。技術部門の実質的なトップね」

 

 

特別名誉顧問。名誉顧問とは本来ならばその組織の顧問や相談役を退きながらも組織に属し、権限を持つ者に与えられる称号だが、頭に特別とあることからサーヴァントを編入させるに際して与えられた異例のものなのだろう。

 

それにしても、一部門のトップとはかなりの地位だ。しかし、過ぎたる地位だとは思わない。技術部門に世紀の大天才、レオナルド・ダ・ヴィンチを置くなど知る人から見れば何と贅沢な使い方だと言うに違いないからだ。

 

 

「あ、因みにあなたは第四号ね。正確にはカルデアで召喚された訳ではないけど」

 

「ほう……なら、一号と二号も居るのか?」

 

「勿論居るわ。一号は私の父、マリスビリーが冬木の聖杯戦争で召喚した魔術師の英霊よ。消息不明だけど恐らく聖杯戦争に勝利した時点でもう消滅してるはず。二号はマシュと融合している英霊よ。残念ながら両者共に真名は分からないけど……」

 

「ふむ、成程……更に戦力が増えるかと思ったんだが、そう上手い話は無いか」

 

 

しかし、レオナルドが味方に居るとは実に心強い。彼のその天才と呼ばれる程の凄まじき頭脳は誰よりも知っている。正に百人力と言って過言ではない、幾度と無く力を貸してもらい、助けられてきたエツィオはそう思った。

 

それに気になることがまた増えた。オルガマリーの口振りからして彼女の父親はあの冬木での聖杯戦争にて生き残り、勝利しているらしい。

 

推察は容易だ。恐らくカルデアの設立には聖杯の力が関わっているのだろう。そして、魔術師の英霊ということはキャスターのサーヴァント。最弱クラスと名高いが勝ち抜くことが難しいだけで不可能という訳ではない。

 

しかし、となると可笑しいことが起きる。あの特異点で召喚されたキャスターのサーヴァントはあの青髪の男。アイルランドの光の御子、クランの猛犬とも呼ばれた大英雄だ。

 

彼がカルデアで召喚された英霊第一号だとするならオルガマリーの名前を聞いた際に何らかの反応を示しても良いものだが、そんな素振りは見せなかったし何よりも彼は違うとエツィオの直感が訴えていた。

 

あの冬木は数ある並行世界の一つだったのだろうか。

 

 

「で、何の用なの?」

 

 

と、オルガマリーが問い掛ける。いきなり入ってきたかと思えばエツィオに熱烈に抱き着いたが、まさかそれだけが目的だった訳ではないだろう……そう思いたいが。

 

 

「え? ああ、ロマニに立香君が倒れたから念のため来てほしいって言われてね。その際にエツィオのことを聞いて居ても立っても居られなくなって思わず来ちゃった訳さ」

 

「ふうん……心配性ね、あいつ」

 

 

命に別状は無く、いずれは目覚めるにも関わらずわざわざレオナルドを呼ぶとは、とオルガマリーは呆れた様子だった。わざわざ見舞いに来ている彼女が言うのもどうかと思うが。

 

 

「失礼するよ。そっちにレオナルドの奴は……お、居た居た」

 

 

すると噂をすればとばかりにロマニが部屋に入ってきた。

 

 

「やぁロマニ。さっきは通信をブチ切っちゃって悪いね」

 

「ああ、そうだ。何で急に……ん? エツィオも居るじゃないか。ってことはやっぱり……」

 

「ご察しの通り! エツィオは私の親友さ!」

 

 

一瞬首を捻るロマニだったが、エツィオとレオナルドが近い距離に居ることから先程己が立てた仮説が間違っていないのだと悟る。

 

そして、正解だとばかりに満面の笑みで告げたレオナルド。しかし、単なる顔見知り程度かと思っていたロマニは親友という単語に目を見開く。

 

 

「えぇ!? 君、アサシンと友達だったのかい!?」

 

 

友人関係を築いていた自他共に認める天才サーヴァントがアサシン、つまりは“教団”側だった事実に衝撃を受けるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ショーン」

 

「ん? 何だいレベッカ」

 

「ふと思ったんだけどここにはレオナルド・ダ・ヴィンチが居るんだからエツィオの正体ってすぐにバレるんじゃないかしら?」

 

「まあ、そうだね。あのボーイズラブの変態のことだ。一切隠すこと無くまるで自分の武勇伝でも語るようなエツィオのことを延々と喋り倒すだろうね」

 

「ならデータを削除した意味は? むしろ怪しまれるんじゃないかしら」

 

「んーほら、余計なことは知られる訳にはいかないだろ? これからの為にもね……それにすぐにレオナルドもこちら側になる」

 

「あ、それってつまり?」

 

「ああ、たった今ウィリアムから指令が来た。間も無く接触する予定だ。最強のアサシン様にね……」

 

 

とあるオペレーター二人の会話。

 

様々な思惑が交錯する中、物語は止まらず進み続ける――。




皆さんお待ちかねのレオナルドとの再会。如何でしたかな。なんか変態度が上がってる気がする。

次回はいよいよ英霊召喚。
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