Fate/Assassin's Creed ―Ezio Grand Order―   作:朝、死んだ

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いよいよ英霊召喚。

書いてて思ったけど無闇に鯖を増やすと会話を書くのが大変だね。何人かが空気になりがち。気を付けないとな……。


memory.08 英霊召喚

 

 

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――HI! 元気にしてるかい新人さん?

 

――ああ、無事で何よりだ。時間旅行は楽しめたかな……ってのは冗談で色々大変だったみたいだな? お仕事ご苦労。素晴らしい働きぶりだったぜ。

 

――ん? 見ていたのかって?

 

――いいや。生憎と今現在進行形で滅ぼされていてね我々。実際に生きてて行動してるのはカルデアに居るショーン達と安全地帯に引き隠ってるあのイカレ夢魔くらいだ。他にも不死や異界に居る奴等はまだ生きているかもしれないな。

 

――FUCK! 人理焼却とか、んなのチート過ぎるだろうが。

 

――ちょいと裏技を使ってな。こうして夢の中で話すくらいは出来る。

 

――にしてもタイムマシンの調査をするはずが、こんなことになるなんてなぁ……巻き込んで本当に申し訳無いと思っている。しかし、今は君が唯一の希望だ。人類最後のマスターさん。

 

――誰かって? ああ、そこから? 何だ? まだ記憶は戻ってないのか?

 

――マジか。ショーンとレベッカには会ったか? 嫌味ったらしい眼鏡と機械好きのリケジョだ。NOってんなら早いとこ接触してくれるんと助かるんだが。

 

――まっ 安心するといい。

 

――君は君のすべきことをするんだ。我々の協力者として。人類最後のマスターとして。一人の人間として。藤丸立香として。

 

――とまあ、アドバイスしてみたもののここはあくまで夢の世界。ここでのことは目覚めたら忘れちまう。断片的には覚えてるかもしれんが。

 

――さて、俺の出番は終わりだ。また会えることを祈っているよ。

 

――それじゃあ、良い夢を。

 

――藤丸立香。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見えるのは辺り一面の純白。

 

感じるのは身も凍る程の冷たさ。

 

そこは視界を覆い隠す程の猛吹雪に包まれただだっ広い雪原だった。

 

 

「――成程。あくまで俺の邪魔をするということか」

 

「――そういうことだ、軍司令官……否、皇帝陛下殿」

 

 

しかし、ほんの一部分。そこだけはこの真っ白な世界から乖離しているのに気付く。

 

散らばる無数の兵士らしき屍。それから流れた血が雪に染まり、円形に広がり、まるで赤いカーペットを敷いたかのような光景を作る。

 

その中で唯一生きている二つの人影。彼らは吹き荒れる吹雪に対して瞬き一つせず、互いを睨みながら対峙していた。

 

 

「誰もが自由を約束された、争い無き世界。その為にお前達は戦ってきたのではないのか? 何故それを成そうとしている俺の行く手を阻む?」

 

 

片や二角帽子を被り、青い軍服の上に銅の胸当てを着けた男。右手には拳銃が握られ、左手には眩い光を発する小さな黄金の球体がある。

 

 

「黙れ。何が自由だ……お前のやっていることは結局、傲慢なテンプル騎士団と何ら変わらない。悪戯に戦火をもたらし、民を苦しめてるだけじゃないか」

 

 

片や貴族風の装飾が施された青いロングコートを身に纏い、フードを被った男。その手には全体が黄金に輝く“剣”が握られており、血に塗れた刀身を軍服の男へと向けている。

 

 

「裏でコソコソするだけの奴等と一緒にするな。どれもこれも世界を統一する為だ。平和を成すには権力は必須であり、仕方の無いことだ。それはお前も分かっているはずだろう?」

 

 

熱烈な殺意と共に剣を向けられていると言うのに軍服の男は気にする素振りを見せず雄弁と語る。まるで考え直せと説得するかのように。

 

 

「闘争の先に何がある?」

 

 

しかし、フードの男は冷徹に問う。

 

 

「平和と安寧。その為に闘争が、戦争が必要なのだ。今の世の中、武力を以てでしか理想は成し遂げられない。それはあの血塗れた革命でよく分かったはずだ。私が、俺が、余がこの世界を支配し、秩序と自由をもたらすことで本当の平和が実現されるのだ」

 

 

平和。安寧。闘争。戦争。革命。支配。秩序。自由……一見すると矛盾しているこれら単語を軍服の男は総て繋がっているとばかりに並べ、如何に己が正しいのかを言い聞かせる。

 

あまりにも極端で強硬的な手段。しかし、こうすることで本当に平和な世を実現出来ると彼は本気で信じていた。

 

 

「そうだな。あの革命で指導者に選ばれたお前は愚かにも“秘宝”を手にし、傲慢な独裁者に成り果ててしまった。確かにお前の言っている理想は素晴らしいことなのかもしれない」

 

 

意外にもフードの男は肯定の意を示す。冷たい表情を一切変えることなく。

 

 

「しかし、世界を統一することによる平和……そんなことは何百、何千年も前に失敗していることだ。思い上がるなよ皇て――」

 

「否! 決して思い上がりなどではない!」

 

 

遮るように軍服の男が叫ぶ。

 

 

「俺は道半ばで挫折した者や死んでいった者とは違う! 俺なら出来るのだ! 俺ならば成し遂げられる! 俺にはそれだけの力がある!」

 

 

確かな自信を以て宣言する。その姿は非常に傲慢にも、高潔にも見えた。

 

 

「だからアルノ……このような愚かな行為はよせ。アサシン教団は何も分かっていないのだ。俺の理想を」

 

 

軍服の男のフードの男に対する説得には、どこか必死さがみられ、しかし決して命乞いなどではなく友と敵対することを拒むかのような激情が込められていた。

 

しかし、フードの男の表情は変わらない。

 

 

「断る。今ここに立っているのは教団の命令によるものだけではない。俺の意志だ。かつて、ジェルマンを殺した時と同じだ。結局は、先伸ばしにするだけだった」

 

 

先伸ばし。その単語を口にする際、フードの男の顔が僅かに歪む。

 

 

「そうだ。お前達アサシンがやっていることはただの先伸ばしに過ぎない」

 

 

対して軍服の男はそれを全面的に肯定する。

 

 

「俺が死んでも何十年、何百年か時が過ぎれば同じ志を持った者が現れ、それを繰り返していずれは平和が訪れる」

 

 

何千、何万年も先かもしれない。いつか必ず人類は辿り着くことが出来る。それは神も悪魔も決して変えられぬ運命(さだめ)であった。

 

 

「しかし、それまでに一体どれだけの血が流れ、悲劇が生まれる? それはお前の意志ではないだろう?」

 

 

歴史は繰り返す。どこまでも。それは7万5000年前から何も変わっていない理であり、これからもずっと続くであろう悲劇にして喜劇だ。

 

 

「……ああ、それは看過出来ないな。平和をもたらすには何者かに支配される方が手っ取り早いのかもしれない。何をやっても、先伸ばしにするだけなのかもしれない。いずれ偉大な指導者が現れ、人々を平和と安寧へ導くのかもしれない」

 

「ならばアルノ――」

 

 

漏れ出た肯定の言葉にやっと説得に応じてくれたのかと軍服の男が快活な笑みを浮かべる。

 

 

「しかし、お前ではない」

 

 

確固たる意志を以てフードの男は切り捨てる。軍服の男の総てを。

 

 

「何?」

 

「断言しよう。今のお前では何も成し遂げられんよ……ナポレオン」

 

 

その言葉に暫しの沈黙が起こる。互いが互いを否定し合い、議論は平行線を辿る一方だった。

 

もはや解り合うことは不可能。言葉を交わすのは無意味だと悟らざるを得なかった。

 

 

「結局、争うしかないのか?」

 

 

歯を噛み締めながら軍服の男は訊く。

 

 

「そういうことだ」

 

 

当然とばかりにフードの男は答える。

 

 

「そうか……残念だ。お前ならば理解してくれると思っていたが、どうやら思い違いだったようだ!」

 

 

すると軍服の男が黄金の球体を掲げ、雷光のような強烈な光を周囲へ放つ。

 

 

「そんなものは効かぬ」

 

 

しかし、フードの男はそれを剣で切り払い、雪原を蹴って駆け出す。対する軍服の男も“秘宝”が効果無しだと判断すると拳銃を構える。

 

 

「お前の快進撃もここまでだ――!」

 

「否、まだ始まったばかりだ――!」

 

 

二人の距離は目と鼻まで縮まり、そして――。

 

これはかつて、父親の復讐の為に暗殺者となり、その無鉄砲さが祟って愛する者を失った者の未来であり、我々にとっては遥か過去の出来事。

 

世界の、隠された真実だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――んぅ?」

 

 

気だるげに目を覚まし、視界に映ったのは無機質な白い天井。

 

いつもの見慣れた自宅の天井ではないことに一瞬戸惑うが、すぐに眠る…正確には気絶する前のことを思い出し、自己完結する。

 

藤丸立香、起床。

 

 

「あー、しんど……」

 

 

なんだが長い夢を見ていた気がする……二人の男の夢だ。何か会話していたようだが、その内容は曖昧で思い出せる光景も決して鮮明ではない。

 

覚えているのは雪が降っていて中世後期辺りに居そうな軍服姿の見知らぬ誰かとエツィオのようなフードを被った誰かが戦っていたということだけだった。

 

ふとした拍子に忘れてしまいそうなくらい朧気な光景であったが、まるで映画のワンシーンのような迫力のあるその光景は未だに立香の記憶に残っていた。

 

 

「フォウ!」

 

「うぐっ!? …ってフォウじゃん」

 

 

その時、腹部に何かが跳ねる衝撃が走る。思わず呻き声をあげながら視線を向けてみるとそこにはあの白い謎の小動物が居た。

 

 

「何だ? お前は寝起きに現れる特殊能力でも持っているのか?」

 

 

そんなことを言いながら立香はフォウの頭を優しく撫でる。相変わらずモフモフしていて心地好い毛並みだ。

 

 

「ここは……カルデアだよな。俺、無事に帰れたんだな」

 

 

火災があったはずなのに大丈夫なのだろうか。ふとそう思った立香であったが、そういえばロマニが管制室でナビゲーターをしていたのを思い出し、施設自体は大事に至らなかったのだと考える。

 

しかし、それ以外の被害は甚大だ。裏切り者であるレフ・ライノールの引き起こした爆発によって立香以外のマスターは皆重体となってしまい、コールドスリープすることで何とか延命措置をしている正に最悪といって良い状況だろう。

 

外部へ連絡することが出来れば何とかなるかもしれないが、ロマニ曰く何故か無線が繋がらずあの赤く燃える地球儀…カルデアスとやらによれば人類は滅亡してしまっているらしい。

 

レフのあの態度からしても恐らく人類はもう……だとすれば連絡が取れないのも納得が行く。外部は文字通り地獄と化しているのだから。

 

しかし、手遅れではないはずだ。立香は何となしに予感していた。故にこの絶望的な状況下で己は立ち向かなければならぬと決意していた。

 

 

「――あっ」

 

 

思考に更けていると自動ドアが開く音と共に聞き覚えのある声がする。

 

振り向いてみれば予想通り、自分を先輩と慕う不思議な少女――マシュ・キリエライトであった。その格好は冬木での露出の激しい目のやり場に困るものではなく、最初に会った時と同じ白いパーカーだった。

 

 

「先輩。目が覚めたんですね」

 

 

一瞬驚いた様子で硬直していたが、すぐにマシュは安堵したのか嬉しそうな声でそう言う。

 

 

「うん……おはよう、マシュ」

 

「おはようございます。体調の方はどうですか?」

 

「ああ、この通り元気さ。ピンピンしてるよ」

 

「本当ですか。良かったです」

 

 

彼女の浮かべた笑顔に眩しさを感じながらも立香は微笑み返し、自分が健康であることを示す為に少しはがり腕を回し、身体を捻ってみせる。

 

 

「しかし、タイミングが良いね。ついさっき起きた所なんだ」

 

「そうだったのですか……毎日欠かさず見舞いしていたのが幸いしました」

 

 

まるで予期していたようだと冗談っぽく言うと返ってきた返答にん?と立香は首を捻る。

 

 

「毎日? あのマシュ、俺ってどのくらい寝てたんだ?」

 

 

恐る恐る立香は尋ねる。

 

 

「はい。文字通り三日三晩は寝てました」

 

「マジで!?」

 

 

そして、後輩の告げた言葉に衝撃を受ける。随分と長く寝てたような気はしていたが、まさかそこまで長い間とは思わなかった。

 

 

「マジです。ドクター曰くかなりの疲労が蓄積していたみたいで……ずっとレムレム……いや、この場合はノンレム睡眠でしょうか? まあとにかく無事に目覚めて何よりです」

 

「うん……ありがと。けど、そんな疲れてるって自覚なかったんだけどなぁ」

 

「成程。どうやら先輩は凄まじい体力を持つだけでなく疲れ知らずのようですね。オルガマリー所長は強がりしてたってお怒りでしたが」

 

「そうなの? うーん……何でだろ……?」

 

 

いまいち実感が沸かない。現在も寝起き特有のだるさは少し感じるが、それ以外は何とも無い。筋肉痛も疲労も一切だ。故にそこまで身体に負担が掛かっていたことが、立香は信じられなかった。

 

 

「――ほお。それは興味深いね」

 

 

その時、先程と同様に自動ドアが開く。

 

 

「単純にそういう疲労に鈍い体質によるものなのか、激しい運動や体験で興奮状態となったことでアドレナリンが大量に分泌されたことによるものか……どちらにせよ、一般の学生にしては高いスペックだ」

 

 

入ってくるなり独り言のようにそんなことを呟く。視線を向けるとそこには眼鏡を掛け、知的な雰囲気を醸し出す男が立っていた。

 

誰だろうか。これに立香はどこかで見たことがあるような気がするが、一向に思い出せない。

 

 

「えっと……誰?」

 

「あれ。ショーンさんじゃないですか」

 

 

こてんと首を傾げながら問う立香に対してマシュの方は男のことを知っているのか名前で呼ぶ。

 

 

「このカルデアでオペレーターをやっている、ショーン・ヘイスティングスだ。以後お見知りおきを……最後のマスター君」

 

 

男は自身の役職と名前を告げる。その声は失礼ではあるが、どこか軽薄そうに聴こえた。

 

オペレーター、ということは見覚えがあるのは管制室かどこかで会ったことがあるからだろうか。それとも……。

 

 

「はい。俺は藤丸立香です。藤色の藤に丸いと書いて藤丸で……ってそれは知ってるか。その、よろしくお願いします……えっと、ヘイスティングスさん?」

 

「そう畏まることはない。気軽にショーンと呼んでくれて構わないよ。その方がフレンドリーな感じがするだろ? 別に僕は立場や年齢とか上下関係は気にしないし、君とは仲良くしといた方が良いからさ」

 

「あ、そう、っすか? じゃショーンさんで」

 

 

少し言葉を崩すも流石に初対面の相手に向かって呼び捨てにすることはしない。

 

 

「それで、ショーンさんは何故ここに? どうかされたんですか?」

 

「何だい? 僕が藤丸立香に会いに来たら駄目だって言うのかい? マシュ・キリエライト」

 

「あ、いえっそういう訳では……」

 

「フッ 冗談さ。Dr.アーキマンからそろそろ彼が目を覚ます頃合いだから連れて来るように頼まれたのさ。手が空いてるのが僕しか居ないからとのことだ」

 

 

少しムッとした様子で言ってみればおどおどと戸惑うマシュを見て面白そうにショーンは言った。

 

これに立香は顔をしかめる。素直で純真なマシュをからかうのは止せとばかりに。そんな彼に気付いているのか気付いていないのかチラリとショーンは一瞥すると彼の肩に手を置く。

 

 

「さあ、行こうか。あのMrs.ヒステリックも君の召喚したアサシンも皆待っている。キリエライトも来たまえ」

 

「あ、はい……」

 

「ん。分かった(ヒステリックって……所長ェ……)」

 

 

Mrs.ヒステリックとは十中八九オルガマリーのことだろう。あんまりな通称だが、最初の冬木での振る舞いを普段も頻繁に行っていればそう呼ばれるのも当然か。

 

しかし、仮にも上司である人物に対する蔑称をこうも平然と言うとは。随分と口が悪い男だと立香は苦笑いを浮かべる。

 

 

「ところで、どこで何すんの?」

 

 

そういえばどこへ連れてかれるのかも何をするのかも聞いてなかったと立香は尋ねる。

 

 

「ん? ああ。俗に召喚ルームと呼ばれる部屋さ。現状の戦力だけじゃ人理修復には厳しいだろう? だから増強するのさ。まあ、ソシャゲで課金してガチャ回してキャラをバンバン増やすようなものだと思ってくれ」

 

「増強……ってことは……」

 

「そうだ」

 

 

にやり、とショーンは笑う。

 

 

「――英霊召喚さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「只今連れて来ました。Dr.アーキマン」

 

 

召喚ルーム。ショーン曰くそう呼ばれている、ホール型の大きな台座のある機械が置かれた部屋に立香とマシュはやって来た。

 

 

「おや。もうかい? 向かわせてから五分と経っていないんだけど……」

 

 

真っ先に視界に入ったのはロマニだった。それ程期間は空いていないはずだが、生身を見るのは何だが久しぶりな気がする。

 

 

「行ってみたら既に起きてたんですよ。それじゃあ、僕はもうお(いとま)させていただきますよ」

 

「うん。お疲れ様……サボっちゃ駄目だよ? ショーン」

 

「Dr.アーキマンじゃありませんから大丈夫ですよ。しかし、今回ばかりはそのサボり癖のお蔭で命拾いしたみたいですけど」

 

「ハハハハ……相変わらず言うね」

 

 

立香らを相手にした時とは違い、上司であるためか畏まった態度を取るショーン。しかし、それが台無しになるくらい容赦無く毒を吐く。

 

ロマニが怒るどころか嫌な顔一つせず、苦笑いするだけということは彼の憎まれ口はいつも通りのことであり、それを許せる程度には仲は良好なようだ。

 

 

「じゃあね。健闘を祈るよ、藤丸立香」

 

 

去り際にそう言ってショーンはこの場を後にする。

 

 

「――さて、おはよう立香君。といっても今が朝か夜かなんて分からないんだけど。長い眠りだったね。調子はどうだい?」

 

「おはようロマン……この通りピンピンしてるよ。肩凝りも筋肉痛もないし、頭もスッキリしてる」

 

「また強がりじゃないでしょうね? 藤丸」

 

 

具合を尋ねるロマニに元気溌剌といった様子でそう言う立香。しかし、別方向から棘のある言葉が飛んでくる。

 

その主はすぐに予想が付いた。

 

 

「マリー所長!」

 

 

やはりと言うべきかそこにはオルガマリーが居た。笑みを浮かべる立香とは対照的に彼女は如何にも不機嫌といった様子で腕を組み、彼へと視線を向けていた。

 

 

「マリー言うなって言ってるでしょうが! ……こほん。まあ、元気そうで何よりだわ。ぐっすり眠れたみたいね?」

 

「え? はい。お蔭様で――」

 

「こっちはあなたが寝ている間、色々と大変だったというのに暢気なものね。あなたが一般人で実力不足の三流なのは分かっているんだから、無理な時は無理と言いなさい。いくら無茶したって死ぬだけよ」

 

「あーいや、本当に分からなくて……」

 

「言い訳は結構。仮に強がりじゃなかったとしても、自分の体調も分からないなんてこの先マスターとしてやっていけると思えないわ」

 

 

キッと鋭い眼で立香を睨み付け、説教するようにオルガマリーは言い放つ。その威圧感は初めて会った際に怒鳴った時よりも遥かに強烈だった。

 

 

「うっ……すみません」

 

 

非は全面的にこちらにあった。まるで親に叱られたような感覚に陥り、立香は項垂れながら謝罪する。

 

 

「分かればよろしい。くれぐれも次はこんなことが無いよう気を付けなさい……頼むわよ。足手纏いは御免なんだから」

 

「素直じゃないなマリー。本当は毎日お見舞いに来るくらい心配しているのに……」

 

「ぶっ殺すわよロマニ」

 

「殺意高っ!? そんな口悪かったっけ!?」

 

「ガン――」

 

「わーっごめんごめん! ごめんなさい!」

 

 

ニヤニヤしながらオルガマリーをからかってみるロマニ。しかし、予想以上に憤慨したオルガマリーが指先をこちらに向けてきたことでその表情は蒼白してしまう。

 

 

「まったく……あ、その、か、勘違いするんじゃないわよ! 心配なんてしてないんだからね! ただあんたが死んじゃったら困るだけよ!」

 

 

その場にへたり込んで命乞いをするロマニに溜め息を吐く。そして、慌てた様子で立香へ顔を向け、ロマニの言葉を否定する。

 

「oh……ここまでテンプレなツンデレは現実で初めて見たよ……」

 

「ガンド!」

 

「痛いっ!? 本当に撃つなんて洒落にならないよっ!?」

 

 

懲りないロマニの一言に遂に指先から魔力弾をぶっ放つ。当然手加減しているが、それでも痣くらいにはなる威力だ。腰に命中したロマニはまさか本当に撃つとは思わなかったこともあって悲鳴をあげる。

 

 

「次余計なこと言ったら口を縫い合わせるわよ……で、藤丸。くれぐれ勘違いしないで――」

 

「……うん。ありがと、所長」

 

「だ、だから違うってば!」

 

「大丈夫ですかドクター?」

 

 

二人のやり取りを見て立香は再び表情を明るくし、マシュは痛そうに腰をさするロマニを本気で心配する。

 

 

「マスター、目を覚ましたのか……って一体何をやっているんだ?」

 

「ん? あ、アサシン!」

 

 

いつの間に来ていたのだろうか。背後に立っていたエツィオに声をかけられて漸く気付き、立香は顔を輝かせる。

 

一方、エツィオの方は何やら騒いでいるオルガマリーとロマニを見て呆れ果てた様子だった。

 

 

「……と誰?」

 

 

そして、彼の隣には見知らぬ女性が立っていた。茶髪のロングヘアで肩にヘンテコな機械の鳥を乗せ、これまた派手な杖と籠手を片手に装備した何ともまあ奇怪な風貌をしていた。

 

しかし、その顔は絶世の美女と呼んでも過言ではない程に、整っていて美しかった。

 

 

「ああ、彼は……」

 

「やぁやぁ初めてましてだね藤丸立香君。私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。クラスはキャスターでカルデアの技術部門特別名誉顧問さ。気軽にダ・ヴィンチちゃんと呼びたまえ」

 

 

すると女性はフレンドリーな態度で名乗る。しかし、立香は聞き覚えのあるその名に首を捻る。

 

 

「ダ・ヴィンチ? モナリザの?」

 

 

世紀の大天才。ルネサンス期に活躍した芸術家でモナ・リザや最後の晩餐等の名画を描いたとにかく凄い人。

 

立香は歴史に疎い方だが、一般常識レベルでそのくらいのことは知っていた。しかし、記憶にあるレオナルド・ダ・ヴィンチというのは自画像に描かれた真っ白な髭を伸ばしたお爺さんだ。

 

目の前の女性とは、あまりにかけ離れている。まさかアーサー王と同じく実は女でしたパターンなのだろうか。

 

 

「フッフッフッ 私の容姿について疑問に思っているようだね。まあ、無理も無い。しかし、考えてみれば当然のことだ。英霊とはその者にとっての理想の表れ――」

 

「なんてまどろっこしいことを言おうとしているが、簡単に言ってしまえばモナ・リザになりたくて性別を変えた変態なのだ。だが、その天才的な頭脳と技術は保証しよう」

 

 

自信満々な様子で女性…レオナルドは説明しようとするが、エツィオがそれを阻んで言い放った言葉に思わずズッこけてしまう。

 

 

「ちょっとエツィオ! 変態はあんまりじゃないですか!」

 

「そうは言ってもなレオナルド。ちゃんとオブラートに包んでみたが、変態の二文字はどうしても外せん」

 

「包み切れてませんよねそれ!? もう! あなたなら分かってくれると思っていたのに! この素晴らしい身体に興奮しないのですかっ!?」

 

「それは別問題だろう。というかその発言が既に変態だぞ。変態」

 

「二回も言わないでください! あ、でもあなたに罵られるのもなんか新鮮で……良い」

 

「…………」ササッ

 

「ああ距離を取らないでっ!」

 

 

そんなコントのようなやり取りをする二人。それを見て立香はやけに親しいなと戸惑うが、その会話から、エツィオとレオナルドは生前からの知り合いなのだと推察する。

 

理由はそれだけでなく、冬木にてエツィオが生きた時代は、レオナルド・ダ・ヴィンチが活躍していた時代と同じルネサンス期を生きた人物であるとを言っていたのを思い出したからだ。

 

 

「知り合いなの? アサシンとその、ダヴィンチちゃんは」

 

「のんのん。私とエツィオは知り合いなんてレベルの関係じゃない。苦楽を共にした大親友なのさ。今風に言えばズッ友って奴だね」

 

「ズッ友……? ずっと友を重ねた言葉か? ううむ。日本語関係は聖杯関連の知識しかないから難しいものだ」

 

 

諺や慣用句等は分かるのだが。とエツィオは顎に手を据える。

 

 

「しかし、その意味なら正しい。彼とは生前、心を通わせた親しい友だった」

 

「へぇーダヴィンチ…ちゃんってよく知らんけど有名な人だよね? そんな人と友達だったなんて凄いなアサシンは……」

 

「フッ……そうか?」

 

「フッフッフッ どうですエツィオ? 今や私ことレオナルド・ダ・ヴィンチちゃんは今も尚世界的に著名な凄い人……即ち万能の大天才と認識されているのですよ」

 

「ああ。大したものだ。にしても、そのダ・ヴィンチ“ちゃん”という呼び方はどういうことだ?」

 

「そりゃ親しみを込めて……」

 

「ダ・ヴィンチは君の故郷のヴィンチ村を指す呼び名だろう……親しみやすさを求めるならレオナルド…ちゃんではないか?」

 

「そんなの決まっているじゃないですか!」

 

 

レオナルドは力強く拳を握り締め、口を開く。その様子から何やら重要な理由があるようだ。実は何故頑なに自身の出身地で呼ばせるのか、それなりに気になっていたのかロマニやオルガマリーを含め一同が注目する。

 

 

「語感が可愛いからです!」

 

 

そして、その言葉に一斉にズッこける。

 

 

「何だそれは……」

 

 

もう一度言おう。馬鹿と天才は紙一重だ。エツィオは思わず溜め息を吐く。

 

 

「む、そういう君は立香君から何でアサシンってクラス名で呼ばれてるのですか? 見た感じ彼は私のことをすんなりとダ・ヴィンチちゃん呼びしてくれるくらいにはノリがよいみたいですが」

 

「……俺の名が呼びにくいらしい」

 

「ん? ああ、確かにアジア圏の人間には呼びづらい名前かもしれませんねエツィオは。いっそのことH男と書いてエッチオと呼ばれてみては? 意味も女好きのあなたにぴったりだ」

 

「冗談は性別だけにしてくれ。しかし、これから他のサーヴァントを召喚し、アサシンクラスが被った際に呼び方に困るな」

 

「こほん……そろそろ本題に入りましょう。ぐだぐだになるわ」

 

「もうなってるんじゃ……」

 

 

呼び方についてエツィオとレオナルドが議論しているとオルガマリーは咳払いする。これ以上時間を無駄にするのはよくない。

 

 

「それじゃあ早速だけど、今からシステム・フェイト……英霊召喚を行うわ」

 

 

そう言ってオルガマリーは近くの台座へと視線を移す。つられて立香も見てみればその上には見たことのない物質が積まれていた。

 

 

「それは……?」

 

「“聖晶石”よ。サーヴァントを召喚するのに必要となる、触媒の代わりといった物だと思ってくれて構わないわ」

 

 

正直、私にもよく分からない代物だわ。とオルガマリーは言う。その傍らでロマニは触れてはならぬことだよと立香に念を押す。

 

そんな彼らに首を捻りながら立香は聖晶石なる虹色に輝く八面体の星のような石を見つめる。全部で30個はあるだろうか。崩れないように綺麗に積まれていた。

 

 

「ふうん……綺麗な石だね。沢山あるけど何人くらい召喚できるの?」

 

「一回の召喚につき三個の聖晶石を消費するわ。つまり十回……そして、その場合だけ十連続召喚というのができてサーヴァントが出る確率がアップするのよ」

 

「……なんかゲームのガチャみたい」

 

「そこん所は気にしないで。さあ、早く聖晶石をいっぺんにあのサークルへ投げ込むのよ」

 

 

まるで立香に疑問を抱かせぬように即答するオルガマリー。彼女に言われた通りに立香は山のような聖晶石を両手で覆うように持ち、中央のサークルへと投げ込んだ。

 

するとサークルが光輝く。

 

 

「おお……」

 

「来るわよ……私達と共に戦うサーヴァント達が……」

 

「あ、ところで所長はどんなサーヴァントが欲しい? ほら、クラスとかさ」

 

「え? そうね……希望はやっぱり接近戦特化のセイバー、もしくはランサーに後方支援の出来るアーチャー、それからキャスターが欲しいわね」

 

「ふうん……俺もキャスターが来てくれると嬉しいな。あ、来たよ」

 

 

光が収まり、そこに立つ人物に一同が注目する。

 

 

「おっと。今回はキャスターでの現界ときたか――――ああ、アンタらか。前に会ったな?」

 

「あれ? キャスターじゃん。本当に来ちゃったよ」

 

「よう坊主。意外と早い再会だったな」

 

 

フードを被っていたが、その姿は冬木で出会ったキャスターその人であった。まさかの知り合いの召喚に立香は顔を輝かせる。

 

 

「キャスターさん!」

 

「ん? おお、盾の嬢ちゃんか。んで所長の嬢ちゃんに軟弱男、そしてアサシン……っと知らない美人さんが居るな。しかもサーヴァントときた」

 

「また軟弱男って言った!?」

 

「どうやら特異点Fでの縁で召喚されたみたいだね。私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。同じキャスターとしてよろしく頼むよ」

 

「おう、よろしくな。キャスター、クー・フーリン。アンタらの為に働かせてもらうぜ」

 

 

各々が違う反応をする中、キャスターの名乗った名に立香とエツィオを除いた者達はぎょっとする。

 

 

「クー・フーリン!? ケルトの大英雄の!?」

 

「ああ、そうだ」

 

「もろランサーじゃない。何がどうなったらキャスターなんかで召喚されるのよ?」

 

「俺が一番知りたいことだよ。そりゃルーン魔術は習ってるが……」

 

「クーフーリン? そんな凄い奴なのキャスターって?」

 

「知らないのですか先輩。ケルト神話において太陽神ルーの血を受け継ぐ半神で必殺の魔槍“ゲイ・ボルク”を持つ大英雄です。ギリシャで言うヘラクレスと同じポジションだと思ってくださって構いません」

 

「はぇー凄いじゃん」

 

 

クー・フーリンは分からなかったが、ゲイ・ボルクというのはゲームや漫画等で聞いたことがある名前だ。あれだけランサーランサー言っていたのも納得である。

 

 

「これからよろしくな坊主」

 

「うん。また一緒に戦えて嬉しい」

 

「けどどうせならランサーで来てほしかったわね……キャスターとしてでも申し分無い実力を持つとはいえ……」

 

 

喜ぶ立香やマシュに対してオルガマリーはクー・フーリンを最強クラスであるランサーで召喚出来なかったことを残念がる。

 

しかし、まだまだ召喚は残っている。残りの九回に期待だ。

 

 

「あ、次がき……何だこれ?」

 

 

そして、サークルが再び輝き、現れたのはサーヴァントではなく、数本の短剣のようなものだった。

 

 

「って黒鍵じゃない」

 

「こっけん?」

 

「聖堂教会の代行者が主に使用する武器よ。このようにサーヴァント以外にも魔術礼装や変な物が召喚されることもあるわ」

 

「アイテムってこと? ますますゲームみたいなシステムだな」

 

「しょうがないでしょ。カルデアの召喚システムは不完全なんだから。気を取り直して行きましょう」

 

 

不完全。これだけで大抵のことは罷り通る便利な言葉だ。黒鍵を回収すると再びサークルが輝く。今度はサーヴァントだと良いのだが……。

 

 

「――麻婆豆腐?」

 

 

しかし、召喚されたのは予想外にもよく知るメジャーな中華料理であった。

 

餡は煮え滾るマグマのような赤色をしており、湯気が出ていることから出来立てで熱々なのが分かる。

 

 

「えっと……過去の聖杯戦争に縁のある物が召喚されることもあるらしいから恐らくそれじゃないかしら? ……たぶん」

 

「……麻婆豆腐が聖杯戦争に関係あるの?」

 

 

当然の疑問。どうやれば聖杯を廻って七人のマスターとサーヴァントが殺し合う魔術儀式に、麻婆豆腐と関連性が出てくるのだろうか。皆目検討が付かない。

 

 

「うげ……マジかよ……」

 

 

しかし、唯一キャスター…改めクー・フーリンが反応を示す。彼は顔を歪め、不快感を露にしていた。

 

 

「知ってるの? キャスター」

 

「ああ。まあな……前のマスターの好物だよ。すげぇ辛いから食うのはやめときな。ありゃ劇物の類いだ」

 

 

前のマスター、つまり聖杯戦争の関係者の好物。そんなものまで出るのか。まるで闇鍋だなと立香は苦笑いを浮かべる。

 

それにしても見た目からしてこの麻婆豆腐が激辛なのは察することが出来たがサーヴァントであるクー・フーリンに劇物とまで言わせるとは……。

 

 

「けどまたサーヴァントじゃなかったか……」

 

「確率は低めなんでしょうかね……あ、そういえば先輩はどんなサーヴァントをご所望なんですか?」

 

 

ふとマシュが問い掛ける。彼がどんな英霊を求めるのか気になり、もし可能ならば彼の理想のサーヴァントとなる為に参考にしようと思ったからだ。

 

 

「そうだなぁ……日本の英霊が良いかな。話しやすいかもしれないし」

 

「同郷、ということですか……それはどうにもなりませんね」

 

「ん? 何が?」

 

「あ、いえ。何でもありません」

 

 

日本の英雄と言えばヤマトタケルや織田信長とかだろうか。歴史上の存在でしかなかった人物と実際に会える可能性に立香はワクワクする。

 

 

「に、二連続……まあ、こんなこともあるわね。次行きましょう次!」

 

 

二度あることは三度ある。それとも三度目の正直か。後者であってほしいとオルガマリーは次の召喚に望みを掛ける。

 

そして、サークルに降り立つ人影を見てその望みが叶ったと確信する。

 

 

「――アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎。ここに参上つかまつった」

 

 

しかし、男を前に目を点となる。

 

召喚されたのは長い髪を一本に束ね、着物の上に紺色の陣羽織を着た日系の男だった。

 

 

「アサシン? セイバーじゃなくて?」

 

「そうだよ。どっからどう見てもジャパニーズ・サムライじゃないか。なら普通セイバークラスなんじゃ……」

 

 

オルガマリーとロマニは首を傾げる。彼が背負っているのは一尺を優に越えるやけに長大な太刀やその格好からして知識にだけある日本の侍、武士といった存在なのは明白だ。

 

誰がどう見てもセイバー。しかし、彼はアサシンだと言う。

 

 

「ふむ、何分特殊な召喚で英霊の端くれとなった身でな。私自身は暗殺者ではなく、況してや忍でもない。暗殺に関しても、精々忍の真似事くらいしか出来ん」

 

 

男…小次郎はそんな二人の疑問を自覚していたらしく、目を細めながら答える。

 

その様子を見て立香は飄々としていてどこか掴み所の無い人物だという印象を抱いた。雅な風貌や振る舞いもあってか非常に様になっている。

 

 

「へぇ、小次郎って……確か宮本武蔵に決闘で負けた人だよね?」

 

「ちょ、先輩……」

 

 

小次郎という真名。侍のような出で立ち。日本人である立香はすぐにその正体を理解した。大剣豪と名高く、二刀流で有名な宮本武蔵と巌流島で決闘し、敗北した剣豪……詳細こそ知らないものの巌流島の決闘は日本においては非常に有名なので知名度自体はかなり高いだろう。

 

立香の記憶としては昔観た時代劇で小次郎役の遅いぞ、武蔵!という言葉や燕返しという剣技を使っていたのを覚えている。

 

自分が知っていることに加えて希望していた日本の英霊が召喚されてことに立香は嬉しそうだった。

 

一方、マシュは失礼にもいきなり負けた人呼ばわりする立香に、小次郎が気を悪くしないかと慌てる。

 

 

「フッ……此度のマスターは、なかなか面白い奴よのう。マスター、名は?」

 

「藤丸立香。藤色の藤に丸いと書いて藤丸、立って香ると書いて立香だ」

 

「ほほう。良い名だ。我がマスター、藤丸立香。剣を振るうことしか能が無い拙者だが、これからよろしく頼む」

 

「うん。よろしくね、小次郎」

 

 

しかし、そんな心配は杞憂だったようで小次郎は気を悪くするどころか興味深そうに笑い掛け、立香と握手を交わす。

 

 

「へぇ……こいつは驚いた。まさかお前さんが召喚されるとはな」

 

「む、お前は……」

 

 

すると再びクー・フーリンが反応を示す。今度は麻婆豆腐を見た時のような嫌そうな顔ではなくむしろ顔見知りに会えて嬉しそうな様子だった。

 

 

「ランサーではないか。いつもの青タイツはどうした?」

 

「生憎と今回はキャスターで現界してるんだ」

 

「何と。お主が魔術師とな? ううむ……意外な特技と言うべきか。となると槍は取り上げられておるのか?」

 

「そういうことだ」

 

「それは何とも……」

 

「御愁傷様、ってか? 止せやい気持ち悪い」

 

 

ランサーではなくキャスターとして喚ばれたことに同情的な目を向ける小次郎。それにクー・フーリンは顔をしかめ、目を反らす。

 

 

「……知り合いなのか? キャスター」

 

 

すると二人の関係が気になったエツィオが問い掛ける。

 

 

「ん? ああ。前の聖杯戦争で何度か殺し合った仲だ。こいつの剣捌きの動きが読めねぇのなんの……もう二度と相手したくねぇ奴だったぜ」

 

「む、それはランサーでか?」

 

「ああ、そうだ」

 

「何と。クランの猛犬にそこまで言わせるとは……」

 

「フッ……燕を斬る為に刀を振り続けた甲斐があったというもの。私としてはランサー、お前はセイバーに次いで再戦したい相手だったのだかな。あの獣のような槍捌きは実に豪快であった……して、妙な身なりのお主は忍の類いかのう?」

 

 

ふと小次郎はエツィオへと視線を向けて問う。

 

 

「しのび? いや、知らない呼び名だ。俺はエツィオ・アウディトーレ・ダ・フィレンツェ、アサシンだ」

 

「えつぃお、あうでぃとーれ……ふむ、異国の者は名が実に長い……そのアサシンとはクラスのことか?」

 

「……つまりサーヴァントのクラス以外のアサシンという呼び名を知っていると?」

 

「ああ。忍の異国での呼び名だ。しかし、詳しくは知らぬ。私は山奥の田舎で生まれ、そこから一歩も出たことがなくてな。忍に関しては“師”からそういう者らが居るという話を聞いたことがあるだけだ」

 

「……そうか」

 

 

一瞬、エッツィオは眉をひそめる。その口振りから小次郎がアサシン教団について知っていると思ったからだ。

 

しかし、本人曰く詳しいことは知らず、伝聞で聞いたことがあるだけのようであり、ならば警戒する必要は無いと判断する。

 

 

「それにしても……その体。かなりの武人とお見受けする。いずれ手合わせしてもらいたいものだ」

 

 

そう言って小次郎は不敵に笑う。その瞳には闘志が宿っていた。

 

 

「……ああ。幸いここには修練場がある。死合いは可能か分からぬが、少なくとも練習試合程度は出来るだろう」

 

「ほう……修練場とな。それは楽しみにしていよう」

 

 

先程から品定めするように見られていたことに気付いていたエツィオがそう提案すると小次郎は嬉しそうに頷く。

 

あの長大な太刀を得物にしている時点でさぞ戦いにくい相手だろう。それにクー・フーリンにもう二度と相手をしたくないと言わせる程の手練れだ。もし闘う際には心して挑まねば。

 

 

「次は……あ、また麻婆豆腐だ。後一回しか残ってないよ」

 

 

閑話休題。エツィオ達が会話している間にも立香は召喚を続けていた。しかし、見たところ召喚されているのは礼装(一部を除く)ばかりでサーヴァントは来ていないようだ。

 

そして、立香の言葉から今が九回目であることが分かる。つまり次でラストだ。

 

 

「ぐ、ぐぬぬぬ……セイバーよ! 次こそセイバー……いえ、この際だから贅沢は言わないわ。せめて近接の強いサーヴァント来て……!」

 

「うん……冬木で会ったセイバーみたいな強いサーヴァントだと良いなぁ」

 

 

オルガマリーは祈るようにそう言ってサークルを前で手を合わせる。立香も最後にもう一人サーヴァントが来ないかと期待して視線を向けた。

 

 

「――召喚に応じ参上した。貴様が私のマスターという奴か?」

 

 

そして、召喚されたのはサーヴァント。それもオルガマリーが散々希望していたセイバーだった。

 

しかし、普通ならば歓喜の声でも湧いてきそうなものだが、一同は凍り付いたように固まり、目を見開く。

 

何故なら――。

 

 

「おい? どうした、まるで因縁の相手と出会ったような顔をして」

 

 

サークルに立つのは、冬木にて激闘を繰り広げた特異点Fの元凶だったのだから。

 

バイザーで目元を隠しているが、その姿と声は間違い無く、あの漆黒の聖剣を振るう騎士王アーサーその人であった。

 

 

「げぇっ セイバー!?」

 

「……随分な物言いだな。小娘」

 

「ヒイィ!?」

 

 

怯えるオルガマリー。当然セイバーは怪訝な表情を浮かべる。

 

 

「む、セイバーではないか。久しぶりだな……見ない内に随分と様変わりしているが、イメチェンという奴か?」

 

「ちげぇよ。あれは反転してたんだ。お前の知るセイバーとはだいぶ違うぞ」

 

 

冬木でのことを知らない小次郎はフランクな態度でセイバーへ話し掛ける。それに対し、クー・フーリンは警戒した様子で説明する。

 

即座にマシュは盾を召喚して立香を守るように前に出て構え、エツィオは既に籠手から仕込み刃を伸ばし、いつでも暗殺出来るよう準備していた。

 

 

「ほう……手厚い歓迎だな。いきなり警戒されると、流石の私も傷付くぞ?」

 

 

これにセイバーは僅かに口元を吊り上げ、冗談っぽくそう言った。

 

 

「……えっと、俺のこと覚えてる?」

 

「ふむ、さあな。貴様達に見覚えはあるが、どのような関係だったかは覚えていない。何だ、もしや敵対者だったのか?」

 

「まあ……そんな感じ」

 

「成程な……道理で警戒されている訳だ」

 

 

何故警戒されているのか理解出来ていない様子のセイバーにもしやと思い、立香が恐る恐る問うとセイバーは首を傾げながら答え、自身が別の場所で召喚された際にカルデアと敵対していたのを知るとこれに納得する。

 

しかし、それはもはや過去のこと。今はカルデアのマスターに従い、人理修復とやらをするまでだ。

 

 

「何、覚えていないのか? だが、キャスターは覚えていたぞ」

 

 

するとエツィオが疑問を抱きながら会話に割り込んでくる。

 

 

「キャスター? ……ランサー。何だその格好は?」

 

「今はキャスターなんだよ」

 

「何、貴様がキャスターだと? ククク。あのアイルランドの光の御子が、魔術師の真似事とは冗談にも程がある」

 

「そいつはどうも……にしても本当に覚えてねぇみたいだな」

 

 

馬鹿にするような物言いに顔をしかめながらもクー・フーリンはセイバーが本当に特異点Fでのことを覚えてないのを確認する。

 

 

「ふむ、こうなるとキャスターの記憶にも齟齬があるかもしれんな。キャスター、お前はどれくらい覚えている?」

 

「あん? えっーと……聖杯戦争をしていて、街が燃えて人が消えて、急にセイバーの野郎が水を得た魚のように暴れて俺以外のサーヴァントが皆倒されて、泥に汚染されたサーヴァント共に逃げながら戦ってた時にアンタらと出会ったんだ。そこからアーチャーをお前さんが倒し、バーサーカーが乱入してくるハプニングがあったが、何とかセイバーを倒して聖杯戦争の勝利者となって消滅……したはずだ」

 

「……ああ。概ねその通りだ」

 

 

記憶による齟齬はほぼ無い、とエツィオは考える。

 

 

「ほう……そんなことがな」

 

 

一方、セイバーはクー・フーリンの話を聞いてそう呟く。しかし、あまり驚いてはいないようだ。

 

 

「……と待てよ? 思い返してみれば俺も記憶が曖昧だ。アンタらと会って以降のことは鮮明に覚えているが、それ以前、特に街が燃える前の真面目に聖杯戦争していた時の記憶が抜け落ちてやがる」

 

「……何? お前のマスターについてもか?」

 

「ああ。さっぱりだ。冬木ってことはバゼットか言峰の野郎だと思うんだがな……」

 

 

ピンポイントでその部分の記憶が消える。果たしてそんなことがあるのだろうか。エツィオは困った様子で顔を歪める。後で訊こうと思っていた冬木にて問い質せなかったクー・フーリンの隠し事が聞けなくなったからだ。

 

 

「記憶にフィルターでも掛かっているということかしら? にしても中途半端過ぎるけど」

 

 

するとエツィオらの会話を聞いたオルガマリーが独り言のように呟く。先程と違ってセイバーに怯えた様子は無く、顎に手を添えて思考に更けていた。

 

 

「……まあ、この話は一先ず置いておきましょう。今や人理の修復が最優先よ。誉れ高き騎士王……カルデアはあなたを歓迎するわ」

 

「ふん……先程とは大違いだな。まあいい」

 

 

暫しブツブツと呟いた後、オルガマリーはそう言ってセイバーを迎え入れる。敵意が無く、記憶が欠落しているのが分かったからか先程のように怯えた態度は取らない。

 

それに、あのアーサー王が味方となるのだ。戦力としては申し分無いだろう。

 

 

「それでマスター。貴様の名は?」

 

 

するとセイバーは立香の方へ顔を向けて名を問う。

 

 

「え? あ、藤丸立香。えっと漢字は……」

 

「いや、必要無い。我が名はアルトリア・ペンドラゴン[オルタ]……そうだな、セイバーオルタとでも呼ぶがいい。リツカ」

 

 

そう名乗り、セイバーオルタは笑う。バイザーでその瞳に何が映っているのかは分からないが、立香がマスターに相応しいかどうか見定めているのだろうか。

 

そんな視線に立香は――。

 

 

「ところで前見えるの? それ」

 

 

――と、先程から気になっていたことを尋ねる。冬木で敵対していた相手でかなり追い詰められたこともあったというのにこの一般人、全く緊張しておらず平常運転である。

 

そんな疑問を聞いてセイバーオルタは呆気に取られ、マシュやキャスターはその肝っ玉に感心し、オルガマリーは何て質問すんのよ!と額に手をやる。

 

 

「……フッ。一応見えはするが、これは気に入らんのか?」

 

「いや、かっこいいとは思うけど……別に無くてもいいんじゃない? 冬木の時は着けてなかったし」

 

「そうか……ならば取ろう」

 

 

するとあっさりとセイバーオルタはバイザーを外し、その金色に輝く瞳を露にする。

 

バイザーは目元を守る役目があるが、元より直感スキルを持つセイバーオルタには必要の無い代物だ。後は相手に視線を見せないという使い道もあるが、そのような小手先を必要とする程セイバーオルタは弱くはない。

 

 

「うん……やっぱりその方が可愛いよ」

 

「……そうか」

 

 

何気無しにそんなことを言う立香にセイバーオルタは何とも言えない表情をする。

 

通常ならば侮蔑と受け取って斬り殺しでもするだろうが、立香が全く他意無く、純粋に思ったことを言っただけなのを察したからだ。

 

もし今の立香が某エルドラドのバーサーカーを召喚してしまった場合、残念ながら速攻で殺されてしまうことだろう。

 

 

「ふむ、サーヴァントは三体、か。なかなかの戦力じゃないかなオルガマリー?」

 

 

するとレオナルドが召喚されたサーヴァント達を観察しながらオルガマリーへ問い掛ける。

 

 

「そうね……マシュやエツィオも含めて計五騎……佐々木小次郎はともかく大英雄二人が召喚されたのは本当に喜ばしいことだわ」

 

 

最強の称号を持つ暗殺者。聖剣の担い手である騎士王。原初のルーンを扱う光の御子。魔法の領域に達した剣技を使用する剣士……はっきり言って国家すらも容易く落とせそうな過剰戦力である。

 

しかし、カルデアの目的は人理修復。

 

七つの特異点での聖杯の回収。人理を焼き払う程の力を持つ強大な存在との戦い。その旅はこれらの戦力を以てしても厳しいものだろう。

 

こほんと、オルガマリーは咳払いして周囲を見渡しながら口を開く。

 

 

「――さて、これにて召喚を終了とします。そして、今から人理修復についてのミーティングを始めます」

 

 

今ここに始まる。

 

史上最大の聖杯戦争――Grand orderが。




という訳でキャスニキ、農民、セイバーオルタが召喚されました。

前はスパさんも召喚されてたけど今回はまだ出ません。後々召喚されるから安心してね。
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