黒騎士は勇者になれない   作:断空我

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タイトルは別のものにする予定でしたが、急きょ、変更。




乃木若葉の無自覚な恋心

 

「落合日向!今日こそ、手合わせ願うぞ」

 

「断る」

 

 丸亀城の近く。

 

 ゴウタウラスが休んでいる傍で乃木若葉は“今日”もやってくる。

 

 俺はため息を零す。

 

「いつもいっているはずだ。理由がない」

 

「いいや、ある!共に戦う仲間として必要だ!」

 

「俺とお前達は仲間ではない。ただ、共通の目的で行動しているに過ぎない」

 

「だが、行動しているなら互いの動きを把握しておくことは必要だ」

 

「……はぁ」

 

「あ!なんだ!?そのため息は!」

 

 わからないのか?と俺は素直に言いたい。

 

 だが、そうすれば、余計に面倒なことになる。

 

 何度もやりとりしているから、俺は言わない。

 

 とにかく、

 

 乃木若葉はとにかく、今の俺にとって面倒な相手だ。

 

「こうなったら、無理やり!」

 

 振るわれる木刀を躱す。

 

「お前は辻斬りか?」

 

「何を言う!私の模擬戦の申し込みを拒み続けるお前が悪い!」

 

 無茶苦茶だ。

 

 振るわれる木刀を躱して、握り締めている手に手刀を振り下ろす。

 

 痛みで乃木若葉は木刀を落とした。

 

「むむ!卑怯だ!」

 

「何を言う。問答無用で斬りかかって来るお前が悪い」

 

 肩をすくめる。

 

 乃木若葉がこのように問答無用で俺に模擬戦を仕掛けるようになったのはジンバが現れてから、いや、デートもどきをしてからだ。

 

 その時から乃木若葉は模擬戦を挑み、断れば木刀で攻撃を仕掛けるということをするようになった。

 

 今のところ、乃木若葉の親友である上里ひなたに相談はしていない。

 

 しばらく様子を見てから話をしようと思っている。

 

「くぅ、なぜ、私と模擬戦をしない」

 

「する理由がない」

 

「酷いぞ!私は――」

 

 続きを言おうとした乃木若葉と俺は同時に身構える。

 

「気付いたか?」

 

「ああ、なんだ、この視線は」

 

 俺の言葉に乃木若葉は頷いた。

 

 こちらへ向けられる視線。

 

 悪意、憎悪の類ではない。

 

 純粋な戦意。

 

 俺達と戦うというもの。

 

「そこだ!」

 

 俺は懐から細長い短剣を放つ。

 

「流石は勇者と黒騎士……というわけか」

 

 放った短剣を木々の隙間から伸びた手が掴んだ。

 

 現れたのは赤と白を基調とした服を纏った男。

 

 髪や髭は手入れが施されていない。

 

 その中で俺と乃木若葉が注視したのは刀袋に納められているもの。

 

 おそらく、刀だ。

 

 木刀などではない、本物の真剣だ。

 

「落合日向」

 

「ああ、バーテックスが混ざっている」

 

 

「だが、どうやって結界の中に!?」

 

「結界は人や神樹に敵意あるものに反応する。だが、そういったものに敵意をもたないのであれば簡単に入れる。そう、人ならぬ存在であろうと……そうだろう?黒騎士」

 

「お前は何者だ?」

 

「名乗らせてもらおう。俺の名前は腑破十臓という。元は人、今は天の神という存在と契約している……尤も、既に役目は果たしているが」

 

「役目?」

 

「この地の下に眠っていたアギトボーマ、それの封印を解くこと……役目を果たした俺は俺の目的のために行動する」

 

「貴様の目的?」

 

「……強き者と骨の髄まで斬りあう」

 

「なんだと?」

 

「俺と裏正は強いものと戦いたい。今までも、これからも変わらない。そして、今の俺から見て、強者といえる存在は二人」

 

 十臓は指さす。

 

「乃木若葉と黒騎士……貴様らのどれか、いや、二人と骨の髄まで斬りあいたい!」

 

 ぞっとするほどの純粋な戦意。

 

 神樹も判断できないわけだ。

 

 身構える乃木若葉の前に俺は立つ。

 

「落合日向、何を」

 

「貴様にバーテックスの一部が混じっているなら、俺の敵だ。貴様は俺が」

 

「おっと、待ってもらおうか」

 

 聞こえた声に俺は振り返る。

 

 口笛を吹きながら学ランの男が立っていた。

 

 学ランと学帽、学ランの背中には流れ星のような刺繍が施されている。

 

 学帽の向こうからは冷たい瞳が俺に向けられた。

 

「そうか、お前か」

 

「流れ流れて、四国までやってきたが……こんなところで、人間としての貴様の姿を見るとは驚きだ。黒騎士」

 

 目の前に現れた相手と俺は懐かしむ様な会話をする。

 

 しかし、少しでも変な動きをすれば互いに殺しあう準備は出来ていた。

 

「そういえば、お前の名前を聞いていなかったな」

 

「落合、日向」

 

「そうか、俺の名前は……流星光、さすらい転校生にして、お前を殺す男だ」

 

「邪魔をするのか?流星」

 

「おいおい、勘違いしてもらっちゃ困るぜ?十臓さんよ。アンタの相手はあっちの勇者さんにしてもらうという話をしていたじゃないか」

 

「ああ、だが、お前の殺意を受けても平然とするどころか、より精錬された殺意をみて、気が変わった」

 

「……二人まとめてかかってきても構わないぞ」

 

「バカなことを言うな!落合日向!あの二人はどちらも強敵だ。いくらお前でも」

 

「敵がなんであれ、バーテックスだというのなら、俺は斬る。それだけだ」

 

 鞘からブルライアットを抜く。

 

「まぁ、待て」

 

 今にも戦いの空気になろうとしていた時、流星が手で制する。

 

「今日は顔合わせだ。久しぶりの再会だ。すぐに幕引きすることもないだろ?お前がしでかした罪を思い出しながら決闘を迎えようじゃないか……なぁ、落合日向」

 

「……仕方ない。今は下がろう。だが、裏正と全力で振るう時を楽しみにしているぞ」

 

「じゃあな、あの二人の苦しみを貴様に味合わせてやる」

 

 流星と腑破十臓は姿を消した。

 

「逃げたか……」

 

「落合日向!待て!」

 

 去ろうとした俺に乃木若葉が呼び止めた。

 

「答えろ、なぜ、流星光はお前を恨んでいる?一体、奴と何があったんだ?」

 

 乃木若葉に俺は短く答えある。

 

 俺と流星光。

 

 その間にある因縁。

 

 あれは――。

 

「奴は恨んでいるのさ」

 

「恨んでいる?」

 

「俺が諏訪で勇者と巫女の二人を見殺しにしたと恨んでいるのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「若葉ちゃん?」

 

 乃木若葉は上里ひなたの言葉にハッと周りへ視線を向ける。

 

「す、すまない」

 

「どうしたんですか?いつも真面目に授業を受けているのに、ここのところ上の空が続いています」

 

「いや、大丈夫だ」

 

「そういわれても、無理だぞ!数日も若葉が上の空なのはタマ達もわかっているんだ。何か悩みがあるならタマ達に相談しタマえ」

 

「タマっち先輩の言うとおりだよ」

 

「若葉ちゃん!相談してよ!」

 

 若葉に集まる勇者たち。

 

 そのことに嬉しく思いながらもこのことを話すべきか悩んでいた。

 

「もしかして、日向さんのことですか?」

 

「それは……」

 

「何があったの?」

 

 若葉に千景が詰め寄る。

 

「答えて、乃木さん、日向に何があったの?」

 

 ぞっとするほどの冷たい声に球子と杏が下がりそうになった。

 

「落合日向が言っていたんだ……自分が諏訪の勇者と巫女を見捨てたと」

 

「え、でも、あの時の手紙には」

 

「そのようなことは一切、書かれていませんでした」

 

「ああ、だが、諏訪についての全貌を彼は話していないのも事実だ。もしかしたらということも」

 

「そんなこと!絶対にないです!」

 

 至りそうになった考えを友奈が否定する。

 

「日向さんは私達を助けてくれました。キロスに狙われていた私だって…………だから、きっと、何か、間違いがあったんだよ」

 

「間違いねぇ……どうやら勇者さん達の心奴は掴んでいるようだ」

 

 聞こえた声に全員が立ち上がる。

 

 若葉は窓際を見る。

 

 窓に腰かけるようにしている学ラン姿の男。

 

「流星光……」

 

「光栄だねぇ、勇者さんに名前を覚えてもらっているとは」

 

「どうやって、ここに!?」

 

「流れ流れて二万年、この程度の場所に入り込むなんて俺には造作もないことさ」

 

「乃木さん、彼が?」

 

「ああ、流星光、黒騎士を恨んでいる者だ」

 

「その通り、俺は奴を許さない」

 

「なぜ、日向を恨んでいるの?」

 

「諏訪の勇者と巫女を奴は見捨てたのさ。二万年という長い年月の中で俺を受け入れてくれた大事な存在を奴は見殺しにした。だから、許さない。シンプルだろう?そもそも――」

 

――お前達は奴のことをどれくらいわかっているんだ?

 

 その言葉に勇者たちは言葉を失う。

 

「アイツの表面的なことしか理解していないんじゃないか?アイツの本質を“本当”に知っているのかな?」

 

 流星光の言葉に誰も言葉を発しない。

 

 千景や助けられた友奈すら言葉を失っている。

 

 その姿に流星光はため息を零し。

 

「そこまでだ」

 

 教室のドアに落合日向が立っていた。

 

 いつでも攻撃できるようにブルライアットへ手をかけている。

 

 日向が現れたことでからかっていた流星の表情が消えた。

 

 いつでも互いが攻撃できるような状態。

 

 その時、樹海化がはじまる。

 

「救われたな。落合日向」

 

「どちらが、だろうな?流星光」

 

 樹海の世界に包まれて勇者たちと共に日向の姿が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者たちは現れたバーテックスと戦う。

 

 しかし、彼らはちらりと視線を動かす。

 

 互いに連携を取りながらも彼らの動きはどこかぎこちなかった。

 

 勇者たちは戦いながらバーテックスを一掃している黒騎士へ視線を向ける。

 

 黒騎士は勇者たちに気にすることなく、ブルライアットでバーテックスを射抜き、切り裂さいていく。

 

 周りのことなど気にしない、周りなど眼中にない。

 

 彼の態度に少なからず勇者たちは動揺していた。

 

 その事に気付いていた若葉が叫ぶ。

 

「今は目の前のバーテックスに集中だ!」

 

 彼女の一言に勇者たちは先ほどまでのぎこちなさがウソのように連携を始める。

 

 十分もせずに勇者たちはバーテックスを倒し、樹海化も解除されていく。

 

 元の世界に戻ってきた彼ら、しかし、いつもと異なり、彼らの中に会話はなかった。

 

 黒騎士はブルライアットを鞘に納めて歩き出す。

 

「あ、く」

 

「黒騎士!」

 

 声をかけようとした友奈よりも大きな声で乃木若葉が呼び止める。

 

「なんだ?」

 

「諏訪のことだ」

 

「話すことはない」

 

 乃木若葉はすぐに動けるようにしながら険しい表情で声をかける。

 

「流星光」

 

 彼女の言葉に黒騎士は歩みを止めた。

 

「彼はいっていた。お前が諏訪で勇者と巫女を見殺しにしたいと……私は知りたい。お前が本当に諏訪で二人を見捨てたのか、その事実を知りたい!教えてくれ」

 

「教えて、何になる?」

 

「知りたい。私は、いや、私達はお前のことを知りたい」

 

 どこまでも冷たい声に乃木若葉は表情を変えず、真っ直ぐに黒騎士を見る。

 

 その姿に黒騎士はある姿を連想させた。

 

 だからこそ。

 

「流星光の言葉は事実だ。俺は諏訪の勇者と巫女を見殺しにした」

 

 彼の告げられた言葉に勇者たちは何も言えない。

 

「忘れているようだな」

 

 冷たい、突き放すような言葉に杏は怯えてしまう。

 

「俺は復讐者だ。バーテックスに殺された弟の仇をとるまで止まるつもりはない……何を犠牲にしたとしても、俺は止まらない。すべてのバーテックスを滅ぼす」

 

 普通に握っていたら血が滲み出そうなほど力を込めて、黒騎士は言う。

 

 素顔は隠れていてみえない。

 

「(泣いている……みたい)」

 

 千景と友奈は黒騎士が泣いているように見えた。

 

「これが事実だ。俺が諏訪の二人を見捨てたことは消えない。話は終わりか?俺は行く」

 

 一度も、振り返ることなく黒騎士は去っていく。

 

 そんな彼を、誰も、追いかけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は、間違えたのだろうか?」

 

「そう思いますか?」

 

 乃木若葉は上里ひなたと歩いていた。

 

「私は彼と決定的な亀裂を作ってしまったのかもしれない」

 

 黒騎士が現れなくなって既に二週間が経過した。

 

 ゴウタウラスは勇者たちが心配なのか、定期的に姿を見せるが、黒騎士どころか、落合日向の姿すらみせなくなった。

 

「彼が姿を見せなくなってから千景と友奈は探し回っている。杏や球子も気になるのか、町へ出ている……だが、私は」

 

「彼のことが信じられませんか?」

 

「信じたいとは思っている……だが」

 

 若葉は迷っていた。

 

 黒騎士のこと、落合日向のこと。

 

 流星光が告げた諏訪の二人を黒騎士が見捨てたという話。

 

 その話がなぜか棘のように抜けない。

 

「もしかしたらと思うと、疑ってしまうんだ。勇者の仲間達信じているというのに、彼のことになると、私は疑っている。そんな自分が、私は」

 

――もっと嫌いだ。

 

 若葉の話をひなたは最後まで聞いていた。

 

 そして、思っていることを言う。

 

「若葉ちゃんは、日向さんのことが大好きなんですね」

 

「え?」

 

「だから、嫌なんですよ。彼が……日向さんが人を助けずに見捨てたかもしれないという話を聞いて、否定したいけれど、事実がわからないからモヤモヤして、答えが出ないままだから、余計に気持ちが焦って」

 

「……そうか、私は焦っているのか」

 

 ひなたに指摘されて若葉は理解する。

 

 自分は、乃木若葉は黒騎士のことが大好きだから、彼の告げた事実を認めたくなくて、否定したくて、どうにかしたくて、何とかしたくて、気持ちがグチャグチャになって、焦っていた。

 

「ひなた、私はどうすればいいのだろうか?わからない。こういう時にどうすればいいのか、答えがでないんだ」

 

「うーん」

 

 ひなたは考える。

 

 そして、閃いた。

 

「日向さんとしっかりお話すればいいと思います」

 

「話……か」

 

「ええ、しっかり、ねっとりと骨の髄までとことん、語り合うべきです。彼が根をあげるまで」

 

 やるなら徹底的にするべきだ。

 

 彼が逃げるならそれを封じ込めて、周りこんで。

 

 囲めばいい。

 

「私は」

 

 若葉が何かを言おうとした時、樹海化が起こる。

 

 樹海による現象で傍にいたひなたが消えた。

 

 代わりに、目の前に現れたのはジンバ。

 

「乃木若葉……ここで斬る」

 

 ジンバの言葉に若葉は静かに太刀を手に取る。

 

「今の私はいつもより冷静ではない。目の前の敵は容赦なく切り伏せる!」

 

 叫びと共に乃木若葉とジンバは斬りあう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 樹海が起こる少し前。

 

 落合日向は目の前の少年に困惑していた。

 

「ねぇねぇ!黒騎士なんだよね?私服もカッコいい!」

 

 目の前ではしゃいでいる子供の姿に日向は困った表情を浮かべていた。

 

「風太郎だったか、はしゃがないでくれないか」

 

「えぇ!なんで!黒騎士って、諏訪の人達を四国まで連れてきた凄い人なんでしょ!?興奮するのは当然だよ!」

 

 これである。

 

 何とか遠ざけようとしているのだが、こうやって近づかれてしまう。

 

 年は弟の蔵人に近いから、どうすればいいのかわからない。

 

 昔のように優しくすることに抵抗がある。

 

 悩んでいた俺は気配を感じた。

 

「風太郎」

 

「なに?」

 

「俺の後ろに隠れていろ」

 

「え!?」

 

 日向はそういって、風太郎を隠す。

 

「出て来い、流星」

 

「流石は落合日向、俺の存在に気付いたか」

 

「当然だ、お前の気配は間違えない」

 

「嬉しいねぇ、だが、そういうのも最後だ」

 

 流星は笑みを浮かべながら、手を振るう。

 

 日向は咄嗟に風太郎を庇う。

 

 少し遅れて、爆発が周囲に広がった。

 

「いきなりだな」

 

「ほう、そこにいた餓鬼を庇うか。その優しさを少しでもあの二人に向けるべきだった!!」

 

「……風太郎、二度は言わない。隠れろ」

 

「う、うん!」

 

 頷いた風太郎が遠くへいったことを確認して腰からブルライアットを抜き出す。

 

「やる気になったか、さぁ、始めようぜ」

 

 そういう流星の手には剣を持っている。

 

「さぁ、始めようぜ?」

 

 にやりと笑いながらヤミマルの剣とブルライアットで斬りあう。

 

「どうしたぁ?黒騎士の姿にならないのかい?」

 

「そういうお前こそ、流れ暴魔の姿にならないのか?」

 

「ここの結界は面倒でねぇ、暴魔みたいな力を使えば、弾かれちまうのさ。しかし、お前みたいな奴をよく神樹とやらは受け入れたな」

 

「そこは、俺も思うよ!」

 

 突き飛ばしてブルライアットをショットガンモードにする。

 

 放たれた弾丸を流星はひらりと躱す。

 

「おーおー、相変わらずえげつない強さだな」

 

「本気を出していないくせによく言う」

 

 互いを称えながらも油断せずに動きを注視する。

 

 少しでも怪しい動きをすればすぐに行動を起こす。

 

 二人の間にはただならぬ空気が漂っていた。

 

 直後、二人の周りを樹海化が広がっていく。

 

「おいおい、随分としらけさせることするな」

 

「チッ」

 

 流星が周りを見上げた時、日向は黒騎士の姿となって駆け出す。

 

 何も言わずに駆け出した彼の姿に流星は舌打ちする。

 

「チッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グッ!」

 

 乃木若葉は近くの壁に体を打ち付ける。

 

「笑止、勇者、弱い!」

 

 笑い声をだしながら武器を構えるジンバ。

 

 斬りあってどのくらいの時間が警戒しているのかわからない。

 

 若葉は太刀を握る手を強めた。

 

「まだ、やるか?」

 

「当然だ、お前達を倒すために我々はいる。四国を、そこに住まう人を守るために!」

 

「だが、黒騎士は違うでござる」

 

 ジンバの言葉に若葉は動きを止める。

 

「黒騎士はためらわない。目的のためならば大勢の命を奪う。そういう男だ。お前達勇者とは違う。アイツは拙者と同じ、目的のためなら手段を択ばない“修羅”なり」

 

「……最初は、私も……そう思っていた」

 

 ゆっくりと若葉は立ち上がる。

 

 俯いている彼女の表情を読み取ることは出来ない。

 

 だが、ジンバを前に覇気は衰えていない。

 

「だが、今は違う!」

 

 力強い声で若葉は否定する。

 

 顔を上げたその目に迷いはない。

 

 強い意志を宿している。

 

「私にとって黒騎士は……落合日向は大切な人だ。最初は怪しい気持ちもあった。だが、彼がいなければ、私は仲間を失っていた。それに」

 

 サソリ型バーテックスに球子と杏。

 

 盗賊騎士キロスに友奈が。

 

 アギトボーマにひなたが。

 

 黒騎士が、落合日向がいなかったから確実に若葉は仲間を失っていた。

 

 短い時間けれど、彼のことを理解するには十分。

 

 何より、言葉にすることは恥ずかしいが、彼と一緒に気持ちが昂る。

 

 心臓がバクバクと音を立てて、落ち着かない。

 

 だが、彼といるととても嬉しい気持ちになる。

 

 乃木若葉は無自覚だが、落合日向に恋心を抱いていた。

 

 それだけで、彼を信じるに十分。

 

 太刀を握り締めて姿勢を落とす。

 

 ジンバも武器を抜いた。

 

 二人は同時に駆け出す。

 

 神技、そういうべき、彼女の一撃がジンバの武器を砕く。

 

「な、にぃ!?」

 

 武器が破壊されたことにジンバが驚きの声を上げる。

 

 自慢の武器が破壊されたことにジンバが戸惑いの声を上げる中、その場に一人の男が現れる。

 

「やはり、骨の髄まで戦う相手は」

 

「貴様、なぜ、ここに」

 

 驚くジンバに現れた十臓は鞘から裏正を解き放つ。

 

「な、なにを」

 

「お前の恨み、憎しみ、負のエネルギーを貰うぞ」

 

 斬られた個所から怨念のようなエネルギーが噴き出して十臓の裏正に吸い込まれていく。

 

 裏正に吸い込まれていったマイナスのエネルギー。

 

 それは腑破十臓を外道としての姿へ変える。

 

「これで、俺も骨の髄まで斬りあえる」

 

 十臓は裏正を握り締める。

 

「貴様、何の……」

 

「ジンバ、お前は用済みだ。消えろ」

 

 十臓の放った一撃。

 

 その一撃がジンバの命を奪い取る。

 

「お前達、仲間ではなかったのか……」

 

「仲間?俺にそのようなものはない。俺にあるのは、骨の髄まで斬りあうという本気の斬りあい!それをするために天の神と契約を結んだというのに……力を封印されてしまった」

 

 人の姿に戻った十臓は裏正を鞘に納める。

 

「乃木若葉、黒騎士、俺は強き者と戦いたい、骨の髄まで!」

 

 ぞっとするほどの狂気に乃木若葉は自然と後ろに下がってしまう。

 

「時間切れか」

 

 樹海化が解除されていく。

 

 同時に十臓の存在が薄れ始めた。

 

「完全になったことで神樹の結界に阻まれるか……乃木若葉、今は体を癒せ。時がくれば、貴様か黒騎士、本気の勝負を楽しみにしているぞ」

 

 そういって十臓の姿が消える。

 

 若葉が立ち上がろうとした時、彼女の体を刃が貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「若葉ちゃん!?」

 

「な!?」

 

 樹海化が解けて、ひなたたちは乃木若葉を探していた。

 

 ようやく、彼女達は若葉を見つけたのだが――。

 

「お前、何をしているんだよ!何をしたのか、わかっているのか!?」

 

 球子が叫ぶ。

 

 その目は激しい怒りで燃えていた。

 

「ウソ、だよね?何かの……間違いだよね!」

 

 信じられないと高嶋友奈は叫ぶ。

 

 その目は否定してほしいという気持ちで揺れていた。

 

「間違いだっていってよ!日向さん!!」

 

 乃木若葉をブルライアットで貫いている黒騎士に友奈は叫んだ。

 




次回の本編が終わったら、番外編をやる予定です。


キャラ紹介


腑破十臓

最近、見た人もいるかもしれないですけれど、侍戦隊シンケンジャー、シンケンレッドの宿敵。
裏正という逆刃の刀で強い相手と骨の髄まで斬りあいたいと望む外道。
ちなみに元人間。
今回は乃木若葉と黒騎士のどちらかにするか絶賛、悩み中。


流星光

高速戦隊ターボレンジャーの初期?~終盤まで出てきた人物。
人間の時は「さすらい転校生、流星光」という名乗りがある。
ちなみに成績優秀かつ色々と特技豊富。
その正体は流れ暴魔ヤミマル。
人でも暴魔でもないことから差別を受けてきたが、今回では?





もし、スーパー戦隊が絡んで新たな戦いがあるならどれがいい?

  • パワーレンジャー
  • リュウソウジャー
  • ルパパト

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