黒騎士は勇者になれない   作:断空我

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今回、ヤンデレ?だよ!

そして、諏訪の話が歌野の口から話されます。


心の支え

 ドラゴンレンジャー ブライ。

 

 彼は太古に存在していたヤマト族プリンスを名乗り、地底深くにおいて眠りについていた人物。

 

 しかし、天の神が起こした騒動により、彼の眠っていた場所が倒壊、その命を散らしてしまう。

 

 天の神と戦うために諏訪の土地神や他の神が死を司る神に協力を依頼することで、ブライは限られた時間だけ現世に生きることができた。

 

 当初は激しい怒りをもって、人間に協力することを拒みバーテックスを倒すためだけに戦っていた。

 

 しかし、歌野の説得と彼女の行動から怒りを収め、歌野や諏訪の人達を守るためにドラゴンレンジャーとして、バーテックスと戦う。

 

「でも、彼の命は限りがあった。それは天の神の猛攻で諏訪の土地神の力が弱まっていくほどに早まっていった……」

 

「私達は話し合い、神樹様からのお告げで、生き残りの人達を四国へ連れていくことにしました」

 

「その誘導を本来なら、ミーたちがするつもりだったんだけど、ブライさんを延命できるかもしれない方法があって、それを見つけるために黒騎士に誘導をお願いしたの」

 

「……では、コイツはお前達を見殺しにしたのではないのか!?」

 

「ワッツ!?誰もそんなことをいっていないわよ!」

 

 流星は信じられないという表情で日向をみる。

 

 しかし、日向は目を閉じて、腕を組み、会話に参加しない。

 

「でも、その延命する手段は使えなかったんです」

 

 水都の話によると延命のための場所はバーテックスの侵攻によって破壊されていて、何もなかった。

 

「そこで、ブライさんは歌野ちゃんに自身の力を継承させることにしたんです」

 

「まぁ、目的地にたどり着くまでに満身創痍になっていたことと、勇者の力を失っていたから条件に合致していたというのもあったのかもしれないけれどね」

 

 歌野は懐から力の象徴を表す金色のコインをみせる。

 

本来ならダイノバックラーと呼ばれるアイテムの中心にはめ込まれているコインなのだが、どうわけか、ダイノバックラーがない。

 

「力を継承はしているけれど、ブライさんみたいにドラゴンレンジャーになることはできないのよねぇ。でも、戦えることはできるから!これから四国のために頑張るわよ!」

 

「それは心強い。よろしく頼む」

 

 歌野と若葉は握手を交わす。

 

 その光景に水都やひなたたちは笑顔を浮かべる。

 

「さて、話はここまでにして、流星!日向!二人はなんで喧嘩をしていたのかしら!?」

 

 全員の視線が流星と日向に向けられる。

 

 歌野に至ってはウソを言えば、ゲンコツと目が語っていた。

 

「喧嘩?違うな、俺はこいつを殺そうとしていた!」

 

「……」

 

「ど、どうして、ですか?」

 

 流星の言葉に怪訝な声を水都はあげる。

 

「落合日向が…………黒騎士がお前達を見捨てたからだ!」

 

「さっきも話したけれど!私達の意思で諏訪に残ることを決めたの……だから、貴方がそこまで気にする必要はナッシングよ!」

 

「だが!」

 

「……別に俺を恨みたいなら、恨み続ければいい」

 

 目を閉じていた日向が口を開く。

 

「な、何を」

 

 彼の言葉に勇者たちが目を見開く。

 

「どういうつもりだ?」

 

「俺がそこの二人を助けずに見捨てたのは事実だ。その事で俺を恨むなら恨み続ければいい。俺はそうしている」

 

 少し間をおいて、日向は告げる。

 

「バーテックスを滅ぼす、俺はそのためにここにいる……話は済んだな?失礼する」

 

「ウェイト!」

 

 出ていこうとした日向を歌野が掴む。

 

「なんだ?」

 

 首を掴まれたことで不機嫌な表情で日向は歌野をみる。

 

「シャラップ!約束を果たしてもらうから!あ、乃木さん、食堂ってどこ?」

 

「え、あぁ、あっちだ」

 

「オーケー、レッツゴー!水都も行くよ!」

 

「え、あ、歌野ちゃん!?」

 

 二人の手を引いて走り出す歌野。

 

 突然の事態に誰もが困惑していた。

 

 あの流星光ですら、言葉を失ってしまうほど。

 

「………………チッ」

 

 ただ一人を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何をやっているんだ!」

 

 追いついた若葉は目の前の光景に叫んだ。

 

「ワッツ?」

 

「落合日向!貴様、どういうつもりだ!」

 

「……」

 

「なぜ、なぜ!」

 

 沈黙して答えない日向、目の前の事実を否定したいのか、慟哭しながら若葉は叫ぶ。

 

「なぜ、貴様は蕎麦を食べている!?」

 

 机の上に置かれている三つのどんぶり。

 

 そこには若葉の好きなうどん……ではなく、蕎麦が入っていた。

 

「うーん!ヤミィ~」

 

「乃木若葉、うるさいぞ」

 

「なぬ!?」

 

「俺が何を食べようと俺の自由だ」

 

「裏切るつもりか!?私がいかにうどんのすばらしさを教えたというのに!」

 

「フフフ!乃木さん、諦めなさい。彼は私達、蕎麦のシンパなのよ!」

 

「認めぬ!認められないぞ!貴様はうどん派閥なのだ!絶対に、抜け出すことなど許さぬ!」

 

「なぁ、杏」

 

「なに?タマっち先輩」

 

「なんだ、これ?」

 

「多分、考えたら負けだよ?」

 

「おぉ~、若葉ちゃんと歌野ちゃんが火花を散らしている」

 

「まぁ、その原因は日向さんのようですけれど」

 

 目の前で繰り広げられる蕎麦派VSうどん派の対決。

 

 苦笑している水都の横で蕎麦を食べ終えた日向は音を立てずにその場を去った。

 

 若葉と歌野が日向のいないことに気付いたのはそれから三十分後のことだったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりに静かな時間だ」

 

 ゴウタウラスが休んでいるところへ足を運ぶとそこではドラゴンシーザーと楽しそうにじゃれている姿があった。

 

 流石に邪魔する気分になれず、ぶらぶらと四国の海岸を歩く。

 

 思えば、こうして、独りっきりになるのはいつ以来だろうか。

 

 四国に来てから勇者や風太郎、力、健太といった面々といることが多くなっている。

 

「……復讐者の道を選べば、独りになるはず、それなのに……俺の周りにはいつも誰かがいる。これが、良いことなのか……どうか」

 

 復讐者としてバーテックスと戦う。

 

 蔵人が死に、ブルブラックとの契約を選び、バーテックスと戦い続け、より多くのバーテックスと戦えるということと勇者と巫女の二人に頼まれたことで仕方なく四国までやってきた。

 

 孤独の道を進むことになると思っていたというのに、俺はどうして、こんなにも人に囲まれているのだろうか?

 

「俺は」

 

「発見!こんなところにいたのね!」

 

 聞こえた声に振り返ると白鳥歌野と水都の二人がいた。

 

「何の用だ?」

 

「失礼な態度ね!一緒に戦ってきた仲間じゃない!」

 

「……何度も言うが、俺は勇者の仲間になった覚えはない」

 

「どこまでもクールな態度ね!だから、貴方にはっきりと伝えておきたいことがあるのよ!」

 

「伝えたいこと?」

 

 歌野と水都の二人は互いを見る。

 

 何だろうか?

 

「「私達は貴方のことが大好きです」」

 

「……は?」

 

 突然の事態に俺は困惑するしかない。

 

 好き?

 

 好きというのは、どういう意味なのだろうか。

 

「フフフ、驚いているようね。サプラーイズは大成功のようだわ」

 

「歌野ちゃん、それだと誤解されちゃうよ」

 

「おっと、それはいけないわね!勘違いされないように伝えるわ。ミーとみーちゃんの好きはラブという意味だからね」

 

「なに」

 

「私とうたのんは黒騎士さん、いえ、ひ、日向さんと恋仲になりたくて、告白したんです」

 

 恋仲?

 

 

 俺の頭は混乱してしまう。

 

 いや、わかってはいるんだ。単に理解が追いついていない。

 

「俺は……その告白を受け取ることは出来ない」

 

「理由を聞いても、いいかしら?」

 

「……俺は復讐者だ。天の神を滅ぼすために戦う。そんな俺に告白してもそっちが不幸になるだけだ」

 

 今の俺が誰かと一緒に幸せになるなど、できない。

 

 誰かと一緒になっても他人を不幸にするだけだ。

 

「話はそれだけか?なら、俺は――」

 

「シャラァアアアアアアップ!」

 

 叫びと共に歌野に殴られた。

 

 もう一度、言おう。

 

 殴られたのだ。

 

 わけがわからん。

 

「何をするんだ」

 

「シャラップ!出会った時からアンタ、少しは変わったと思ったのに、全然!変わっていないみたいね!決めたわ!普通に振られたら諦めようと思った。宣戦布告よ!」

 

「はぁ?」

 

「ミーは全力でアンタにアタックする!アンタのその性根を叩きなおしてみせる!そして、今度はアンタから私やみーちゃんに告白するようにしてみせるから覚悟しなさい!」

 

「……おい、藤森水都、コイツを止めろ」

 

「ごめんなさい、黒騎士さん、ううん……落合日向さん。私も本気だから」

 

 コイツもダメか。

 

 俺はため息を零して立ち上がる。

 

「勝手にしろ」

 

「勿論、勝手にするわ!覚悟しなさい!」

 

 ビシッと指を突き付ける歌野に俺はため息を零す。

 

 どうして、俺の周りにはこうも強い奴らがいるのだろうか。

 

 ため息を零しながら俺が立ち上がろうとすると左右から手が伸びて立たされる。

 

「さ!これから親睦を深めあうわよ!」

 

「えへへ、これからよろしくお願いします」

 

 笑顔を浮かべて歩き出す二人。

 

 俺はため息をするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奪われる……私の大事な日向が奪われる。

 

 駄目、そんなことがあってはならない。

 

 彼は私のものだ。私が彼を愛して、彼が私を愛する。

 

 小さい頃からずっと、彼のことを思っていた。彼だけを思ってきた。

 

 地獄の中で、彼だけが手を差し伸べてくれた。

 

 そんな彼が奪われる?

 

 

 ああ、ダメだ、ダメだ。

 

 

 許せない。

 

 許せるわけがない。

 

 奪われるというのなら、どこかに閉じ込めてでも、いいえ、いっそのこと、私と二人で深い海の底に沈もう。

 

 そうすれば、私達は、永遠にいられるのだから。

 

 邪魔する奴はすべて消し去る。

 

 そう、全て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 俺はゴウタウラスのところへ向かっていた。

 

 隣にはなぜか、白鳥歌野がいる。

 

「なんでついてくる?」

 

「オウ!ドラゴンシーザーに会いに行くの!それと、畑を耕す人手が必要なの」

 

「流星にでもやらせろ」

 

「捜しているんだけど、みつからないのよ!もう!誤解も解けたのに!」

 

「理解できても、心の整理ができていないんだろう。そっとしておいてやれ」

 

「おっどろき、貴方が他人の心配をするなんて」

 

「心配なんてしていない。それなら、お前が探しに行け」

 

「ノンノン!そういって逃げるつもりでしょ?駄目よ!貴重な人材を手放すつもりなんてナッシングなんだから」

 

「だからって、腕に抱き着くな。重い、自分で歩け」

 

「重いなんてレディーに失礼よ!」

 

「はいはい」

 

 コイツは喋らなければいいのに。

 

 ため息を零しながらゴウタウラス達のいる場所へ向かおうとしていた時。

 

――殺気!

 

 俺は歌野を突き飛ばす。

 

 少し遅れて襲撃者の振り下ろした斬撃が地面を抉る。

 

「っ!?」

 

「襲撃!?神樹の結界の中で!!」

 

「なっ」

 

 土煙の中、姿を見せた相手に俺は驚きの声を漏らす。

 

 襲撃者はちぃちゃんだった。

 

「ちぃちゃん?」

 

「貴方、四国の勇者ね!?いきなり何のつもり」

 

 歌野の問いかけにちぃちゃんは答えない。

 

 それどころか殺意の籠った目で睨んでいる。

 

 どういうことだ。

 

 茫然としていると、俺に向かってちぃちゃんがほほ笑む。

 

「探していたわ。日向、さぁ、一緒に行きましょう」

 

 笑顔で俺に手を差し伸べるちぃちゃん。

 

 だが、その目はいつもと違う。

 

 光がなく、濁っている。

 

 体中から漂うオーラも勇者が放つようなものではない。

 

「これは……」

 

「ちょっと!いきなり襲い掛かるなんて、一体、どういう――」

 

「よせ!“歌野“近づくな」

 

 ビクンとちぃちゃんが体を揺らすと同時に鎌を振るう。

 

「あぶなっ!?」

 

 振るわれた鎌を白鳥歌野は咄嗟に笛と短剣が一体化した武器、獣奏剣で防いだ。

 

 小さな火花を散らしながら歌野は後ろへ下がる。

 

「ちぃちゃん、一体、何を!」

 

「あぁ、私を見てくれた」

 

 ちぃちゃんに問いかけると俺に笑顔を浮かべる。

 

 だが、その笑顔は今までにみたことがない種類のものだ。

 

 小さな笑みを浮かべているがその瞳は俺を見ているようでみていない。

 

 ドロドロしている瞳と笑顔でこちらをみていた。

 

「ちぃ、ちゃん?」

 

「嬉しい、嬉しいわ、貴方が私を見てくれている。それだけで、今の私はとても満たされた気持ちになる」

 

「何を言っている。それに、どうして、こんなことを」

 

「貴方のため、いいえ、私と貴方のためよ」

 

「俺とちぃちゃんのため?それはどういう――」

 

「ヘイ!私のことを無視して何勝手に話をしているのよ!」

 

 俺とちぃちゃんの間に割り込む形で白鳥歌野が立ちはだかる。

 

 その途端、ちぃちゃんの顔から笑顔が消えて、激しい怒りの感情が浮き上がった。

 

「お前、お前、お前、お前……お前がいるから!日向が、日向が私から遠ざかる!遠ざけようとする!」

 

「ワッツ!?一体、何の」

 

「下がれ!」

 

 ブルライアットを抜く。

 

 衝撃で後ろに下がりそうになりながら目の前のちぃちゃんをみる。

 

「何を考えている!今、白鳥歌野を!」

 

「ええ、殺そうとした」

 

「なぜ、なぜ!」

 

「だって、日向に色目を使うんだもの」

 

「なっ、それだけの理由だっていうのか!?」

 

「それだけ?違うわ!決して許されないことをそこの女はやったの!私の大事な日向を奪おうとしている!あまつさえ、告白なんてして、許さない……殺す、殺してやる!!」

 

 叫びと共にちぃちゃんの体からどす黒い何かが噴き出す。

 

 何だ、これは?

 

 驚いていると黒い衝撃波によって俺と白鳥歌野は吹き飛ばされる。

 

「うふふふ、傷つけて、ごめんなさい。でも、少しの辛抱よ。貴方の周りに沸く邪魔者をすべて排除して、戻って来るから、それまで、待っていて、そのあとは私にどっぷりと染めてあげるから」

 

 ニコリと不気味な言葉を告げて、ちぃちゃんが去っていく。

 

 追いかけようとしたが白鳥歌野を庇ったダメージが大きくて、俺は意識を手放す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭の中で声が聞こえる。

 

 邪魔者を蹴散らせ、

 

 そうすれば、日向は私だけを見てくれる。

 

 ならば、私はすべてを潰す。

 

 全てが終わったら、きっと、

 

 きっと、貴方は私だけをみてくれるのよね?日向。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ、くそっ」

 

「無様だな。落合日向」

 

 体を起こした俺の前に流星光が立っていた。

 

 流星を睨む。

 

「ほぉ、流石は黒騎士様だ。女心はわからなくとも、タフなようだ」

 

「お前、何か知っているのか?」

 

「知っているともいえるし、知らないともいえる」

 

「答えろ!」

 

 俺は流星の胸倉を掴む。

 

「熱血だな。そこまであのお嬢ちゃんが大事か?」

 

「……」

 

「そこで詰まるか、お前、本当に重症だよな」

 

「いいから、答えろ!」

 

「おそらくだが、あのお嬢ちゃんは邪気に取りつかれているのさ」

 

「邪気?」

 

「人のマイナスの感情、怨念ともいっていいだろうな。この前のバーテックスの戦いであのお嬢ちゃんに寄生していたんだろうな。今はまだ小さいが、怨念が大きくなればなるほど、厄介なことになるぜ」

 

「どういうことだ」

 

「今は死滅しているが、鬼、妖怪、古い言い方をすれば、オルグなんていう存在になる。まぁ、どちらにしろ、人じゃなくなるということは変わらないな」

 

「くそっ」

 

 俺はちぃちゃんを探すために走りだす。

 

「捜すつもりか?戻す方法もわからないのに?」

 

「今のちぃちゃんは他人を平気で傷つけてしまう。そんなこと、させちゃいけない」

 

「お優しいことで、その優しさを俺にまで向けたってことかい?」

 

 無視していこうとしたら流星に掴まれる。

 

「先を急いでいる。放せ」

 

 無理やり放そうとしたら流星に殴られる。

 

「貴様ぁ」

 

「自惚れるなよ。この流れ暴魔ヤミマル。お前みたいな男に慰めてもらうほどおちぶれちゃいねぇよ。それと……お前を倒すのはこの俺だ。変なところでうじうじ悩んでいられても困るのだ」

 

「何だと」

 

「お前があのお嬢ちゃん達をどう思っているか、その気持ちをぶつけてやれ、そうすれば、あのお嬢ちゃんの邪気は消える。元の状態に戻せるだろう」

 

「……なぜ、俺にそのことを教える?」

 

「別に、男の気まぐれというものさ。早くいかないと……お嬢ちゃんが人じゃなくなるぜ?」

 

「…………ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうねぇ、よせやい、お前に感謝されると蕁麻疹が出るぜ」

 

「なーに、キザな態度をとっているのよ」

 

 日向がいなくなり、肩をすくめた流星光に気絶していたフリをしていた白鳥歌野が呆れた声を出す。

 

「よくいうぜ、あのお嬢ちゃんに花を持たせるのか?」

 

「冗談!そんなことするわけないじゃない。私やみーちゃんは幸せになりたい。だけど、そこに四国の人達をいれてあげるかどうかはあの人次第、そこまで私の器は大きくないもん」

 

「やれやれ、アイツもとんだ相手に惚れられたもんだ」

 

「ふふん!」

 

 嬉しそうに胸を張る歌野。

 

 その姿に流星は小さく笑う。

 

「流れ流れて二万年、こんな面白い奴らは初めてだ。本当に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千景はふらふらと戦装束姿で鎌を振るう。

 

 彼女の目は激しい憎悪に支配されていた。

 

 最初は丸亀城を目指していた千景。

 

 だが、道中でみつけた。

 

 見つけてしまったのだ。

 

 かつて、自分達をいじめていた女子たちを――。

 

 自分を醜い、呪われた子だと、背中に火傷の傷や、耳に切り傷などを作った原因。

 

 その存在を見た時、千景の中のどす黒い炎が一気に燃え上がった。

 

 普段は日向や友奈たちとの思い出で蓋をされていた。しかし“邪気”がその蓋を取っ払ったことで、長年、抑えつけていた感情が炎となって一気に爆発する。

 

 “怒り”“憎しみ”といった感情。

 

 鎌を振るう千景に女子たちは悲鳴を上げて、逃げる。

 

 中には命乞いをしてくる者達もいる。

 

 ざまぁみろ。

 

 そう、心の中で吐きながら千景は鎌を振り上げる。

 

 今までの恨みを晴らすように。

 

 自然と笑みがこぼれる。

 

 だが、その笑みは三日月のように裂けていて、歪すぎた。

 

「やめるんだ!」

 

 そんな千景を止めるために炎力が抑え込もうとした。

 

「邪魔を、するなぁ!」

 

 力を千景は殴り飛ばす。

 

 殴られた力はコンクリートの地面に体を打ち付ける。

 

 偶々、千景をみつけて、女子たちに鎌を振るっている姿を見つけた力は止めようとしたが相手は勇者、普通の人間である力では歯が立たない。

 

 普通なら自分に被害が及ばないように逃げるべきだろう。

 

「だとしても、こんなこと、させるわけにいかないだろ!」

 

 叫びながら力は置かれていた角材を手に取って千景に振るう。

 

 振り返ることなく千景は鎌で角材を切り落とす。

 

「邪魔、するなら、殺す!」

 

 瞳が赤くなっている千景の鎌が力に迫る。

 

 斬られるという瞬間、ブルライアットを構えた日向が千景の鎌を受け止めた。

 

「日向!」

 

「……力、下がっていろ」

 

「でも!千景ちゃんが」

 

「ちぃちゃんは……俺が止める!だから…………他の人達を逃がしてくれ」

 

「任せてくれ!」

 

 頷いた力に任せて、日向は千景の前に立つ。

 

 千景は目の前にいる相手が日向だと気付いていないのか憎悪に顔を歪めている。

 

「ちぃちゃん」

 

 名前を告げるも、鎌が振るわれる。

 

 ブルライアットで弾いて呼びかけるも彼女は反応しない。

 

 黒騎士に変身はしない。

 

 黒騎士の力は天の神やバーテックス達と戦うための力。

 

 決して、目の前の少女と戦うためのものではない。

 

「鎌を下すんだ。そんなことをしちゃだめだ」

 

「こいつら、殺す、生きている価値がない……ただ、弱い奴を虐めて、喜んでいるような奴ら、こっちの気持ちも知らない。そんな奴ら!みんな、みんな、みんな!」

 

 ただ、ただ、激しい憎悪に支配されている。

 

 だが、まだ間に合う。

 

 千景は必死に最後の一線を超えないようにとどまっている。

 

 日向にはそうみえた。

 

「ちぃちゃん、俺は」

 

 振るわれる鎌を受け止める。

 

 このままでは神樹によって勇者の資格をはく奪され、千景の勇者装束が解除されるのも時間の問題だ。

 

 どうすればいいか、振るわれる鎌を受け止めながら日向は考え続ける。

 

 そして、答えを出す。

 

 日向が持っていたブルライアットを地面に突き立てる。

 

 両手を広げて千景の方に歩み寄る。

 

「日向!?何を」

 

 力が叫ぶ。

 

「ちぃちゃん、俺はずっと逃げていた」

 

 しかし、日向は何も言わず手を広げて歩み寄る。

 

 鎌が日向の肩に突き刺さる。

 

 刺さった刃を手で抑え込むようにしながら日向はそのまま千景を抱きしめる。

 

 腕の中で暴れる千景に日向は己の気持ちを吐き出す。

 

「俺は、ずっと、わかってはいたんだ。ちぃちゃんが俺のことを好きなこと、俺との日々をとても大事に思っていたこと、けれど、俺は怖くて、それを言えなかった。認めれば、俺が認めてしまえばそれは本当に大事なものになってしまって、また、奪われてしまうのではないかって」

 

 大事なもの、かつての落合日向にとっては弟の蔵人。

 

 だが、蔵人はバーテックスによって死んだ。それも、日向の目の前で。

 

 黒騎士になってからも心の底で日向は恐れていた。

 

 自分が大事なものを作ればそれは壊れてしまうのではないだろうかと。

 

 もしかしたら、自分が何か大事なものを作れば、それは目の前で壊れてしまうかもしれない。

 

 だから、日向は今まで拒絶してきた。

 

 自分に大事なものなど必要ない。

 

 心の底から大事なもの、愛しいものなど、絶対に作らない。作ってはいけないと。

 

 だから、歌野や水都の告白も断った。

 

 何より、千景や友奈の気持ちも漠然と気づいてはいた。だが、摩耗した心や受け入れることができない。本能的に恐れて受け付けない。

 

 

 だが――。

 

 

「ちぃちゃんをここまで追い詰めて、苦しめていたのは俺だ。すべて、俺が悪いんだ。ちぃちゃん、ごめんなさい。それと――」

 

 

――こんな俺を好きになってくれて、ありがとう。

 

 

 そういって日向は千景を強く抱きしめる。

 

 抱きしめられていた千景の瞳が元に戻る。そればかりか、彼女の中にとどまっていた黒いモヤのようなものが消滅していく。

 

「私……は」

 

 ハッと千景は日向に鎌を突き立てていることに気付いた。

 

 鎌を放り投げてそのまま離れようとする。

 

 しかし、日向は離さない。

 

「放して!私は、最低な、ことを」

 

「最低じゃない。これはちぃちゃんが抱いていた怒りだ。それを受け止める責任が俺にはある」

 

「何を言って、こんな、こんな醜い気持ちを私は」

 

「……人は誰だって、醜い気持ちを持っている。俺だって、誰だって……今回、ちぃちゃんのそれは悪意で噴き出してしまっただけだ……ちぃちゃんが自分の意思でやったわけじゃないんだ。だから、気にしないで」

 

「無理よ、私、私は貴方を傷つけた!一番、大事な、大好きなあなたを、こんなことをした私を……自分が許せるわけがない!」

 

「じゃあ、俺からのお願い」

 

 強く千景を抱きしめたまま、日向は言う。

 

「まずは、自分のことを好きになってくれ」

 

「自分を?」

 

「ああ、ちぃちゃんは自分が嫌いなんだろ……まずは、そこから、そうすれば、いつか、いつかは、俺にしたことも許せるようになる」

 

「できるかしら……」

 

「できるさ。ちぃちゃんは独りじゃない。高嶋友奈や勇者の仲間、それに力や健太、俺も、いる」

 

「日向も?」

 

「ああ、いる」

 

「……それなら、頑張れる……と思う」

 

「……うん」

 

 放そうとしたら千景がさらに抱き着いてくる。

 

「しばらく、こうさせて……くれないかしら?」

 

 顔を赤らめながら見上げてくる千景に日向は笑みを浮かべる。

 

「いいよ」

 

 嬉しそうに――今の気持ちを忘れないように千景は日向と抱きしめあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談ながら、騒動に気付いてやってきたひなたがその光景を写真に収めために丸亀城で騒ぎが起こったことは別の話である。

 

 




次回は番外編、ガチでヤバイ赤嶺友奈がみれるはず。

もし、スーパー戦隊が絡んで新たな戦いがあるならどれがいい?

  • パワーレンジャー
  • リュウソウジャー
  • ルパパト

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