今回は前回と別の戦隊が登場します。
一応、最後の方に補足説明していますので。
あと、ゆゆゆのネタバレも混じっているので要注意を。
神樹内で起こっている造反神との戦い。
自らの内部に歴代の勇者を呼び寄せた神樹に対して、造反神は一度だけ接続された異世界の脅威を召喚して、勇者と対抗する。
また、神樹も別世界から世界を救った者達を呼び寄せる、そう“スーパー戦隊”と呼ばれる者達を。
香川奪還から少しの時間が流れて。
勇者たちは休息を挟みながらも次の土地の奪還を目指していた。
しかし“謎”も増えていた。
讃州中学の校舎のグラウンド。
そこで大きな声が響く。
「こら、ユーナズ!ぼーっとしてどーした!」
結城友奈は漢堂ジャンに指摘されて顔を上げる。
だが、それは隣にいた高嶋友奈も同じだったようだ。
「二人ともグラグラだな!」
「「ご、ごめんなさい!」」
「そこは息ぴったりなのよね」
ジャンに指揮されて謝る友奈ズの姿を見て、休憩をしていた夏凜は驚きの声を上げる。
ゲキレンジャーの一人、漢堂ジャンは独特な言語を使う。
“ニキニキ”や“ホワホワ”といった言葉に最初は戸惑っていた勇者たちだが、今は慣れていた。その中で一番、ジャンの弟子として指導を受けているのが高嶋友奈と結城友奈――通称、友奈ズである。
「じゃあ、続けるぞ!」
彼女達がいる四国は神樹が作り上げた世界だが、肉体があるため鍛えれば鍛えるほど強くなれる。
そのため、神世紀と西暦の勇者たちは一度、勇者部のある学校へ戻って、二つのスーパー戦隊から修行を受けていた。
一つは獣の力を心に感じ、獣の力を手にする拳法、獣拳。
一つは極限まで体を鍛えることで強くなるオーラパワー。
戦隊を師匠として修行に励んでいた。
「それにしても……」
夏凜は視線を動かす。
音楽室では東郷美森と犬吠埼樹、鷲尾須美が深見レツの指導でピアノを弾いている。
ただし、足でやっていた。
果たしてあれは人間ができるものなのだろうかと夏凜は本気で思う。
「あれは、あれで、凄いわよね」
別の場所では宇崎ラン指導のもとで土居球子と三ノ輪銀が落ちてくる葉を拳で掴むという凄いのか、凄くないのかわからない修行をしている。
本来なら後二人、ゲキレンジャーがいるのだが、どういうわけか神樹に召喚されていなかった。
「あっちはあっちで奇天烈なのねぇ」
「おい!さぼるなよ!」
驚いた声を上げていた夏凜の頭を後ろからポコンと殴る者がいた。
「ちょっと!殴ることないでしょ!」
「抜け出したそっちが悪いんだろ!」
「抜け出していません!少し休憩したら戻るつもりでしたぁ!」
「なにをう!」
やってきたアキラと夏凜はにらみ合う。
「ちょっと!こんなところで喧嘩するんじゃないの!」
「アキラは本当に女心がわかっていないわねぇ」
喧嘩寸前の二人のところへハルカとモモコがやってくる。
「何だよ!夏凜が抜け出したから俺は捕まえに来ただけだよ!」
「だから、逃げ出してないから!アンタみたいなおこちゃまに逃げるなんて勇者としてあり得ないから」
「なにをう!年下のくせして!」
「年上っていうんのなら、もう少し年上らしさをみせたどうなのよ!林檎ばっかり齧って」
にらみ合う二人。
その光景にハルカとモモコの二人はため息を零す。
「こっちの師弟関係は大変ねぇ」
「私達は私達の指導に戻りましょうか」
現在、二つのスーパー戦隊“光戦隊マスクマン”と“獣拳戦隊ゲキレンジャー”を師匠として勇者たちはオーラパワーと獣拳を学んでいた。
それぞれが素質のありそうな方の戦隊から技術を学んでいた。
ちなみに、光戦隊側は犬吠埼風、乃木若葉、郡千景、伊予島杏、W園子、白鳥歌野、古波蔵棗、秋原雪花であり、他が獣拳である。
余談だが、アキラと喧嘩している夏凜もオーラパワーを学んでいる。ちなみに同じ二刀流ということからアキラが師匠であった。
残念な話だが、勇者たち全員が獣拳やオーラパワーを会得できているわけではない。そのため、最低限の基礎を学びつつ、開花を目指している。
「ハルカ、幼い方の園子ちゃんはどう?」
「ハイテンションで修業を受けてくれるわ、ただ、二人とも同じタイミングでお昼寝しちゃうのよねぇ……杏ちゃんが起こそうとしてくれているからまだいいけれど」
「そう、こっちも大変、皆個性的だから」
二人は話し合いながら体育館へ向かう。その後ろでは張り合いながら走るアキラと夏凜の姿がある。
直後、体育館から巨大な音が聞こえてきた。
あまりに大きな揺れのためにアキラの手の中にあった林檎が転がる。
「な、なによ!」
「今の、体育館だけど」
四人が体育館の中に入ると、大太刀を構えている乃木若葉と拳を構えるタケルの姿があった。
そして、周囲には倒れている千景やケンタ、園子達の姿がある。
「ちょっと!」
「これって、どういう状況!?」
流石に見過ごせないため、モモコやアキラが叫ぶ。
「流石はタケル師匠です!師匠のゴッドハンドはとても素晴らしい!」
「若葉ちゃんの居合は凄いよ。少しでも当たり所が悪かったら俺がダウンしていた」
二人はそういって構えを解く。
少し離れたところで観戦していたひなたは口を開けて苦笑している。
「ひなたちゃん、これ、どういう事態?」
事態が飲み込めないアキラが傍にいたひなたに尋ねた。
「えっと、タケルさんがゴッドハンドと呼ばれる技をもっているということで、若葉ちゃんがそれを見てみたいといいだしまして、何がどうなったのか、タケルさんのゴッドハンドと若葉ちゃんの居合による勝負が始まり……その余波で周りの人たちが被害を受けました」
「「「えげつない」」」
「「え!?」」
夏凜達の言葉にタケルと若葉が首を傾げた。
ちなみに被害を受けたケンタたちはしばらくして回復して、目を覚ます。
「あぁーぁ、それにしても勇者たちの快進撃っていうのかな?そのために、多くのバーテックスや呼び寄せたヴィラン達が倒されちゃっているよぉ」
神樹の世界の中、一人の少女が中学校を眺めながらため息を零す。
「本当なら勇者たちを半分くらい潰して、大事な人を探すつもりだったのになぁ……手がかりはこれだけだもんなぁ」
少女は手の中にある黒い短剣をぺろりと舐める。
「うん、そろそろ動かないと色々と煩いからなぁ、動くとしますかぁ」
大きく背伸びしながら少女は不気味な笑みを浮かべる。
「あの人が気にかけていた子を殺せば、姿を見せてくれるかなぁ?」
パチンと少女は指を鳴らす。
直後、勇者たちの所持している携帯から樹海化警報が鳴り出す。
樹海化が起こったことで勇者たちは訓練を中断して、迫るバーテックス達を迎えうつ。
戦闘にはゲキレンジャーとマスクマンのメンバーも参加する。
「「「「「「オーラマスク!」」」」」」
五人は左腕に装備しているマシキングブレスによってマスクマンに変身する。
「「「たぎれ!獣の力!ビースト・オン!」」」
ゲキレンジャーの三人もゲキチェンジャーで変身して、駆け出す。
しかし、今回の戦いはいつもと違うことがあった。
「何だ、こいつら!?いつもより連携ができている!?」
ブルーマスクの言葉通り、バーテックスはどういうわけか連携して勇者はマスクマン、ゲキレンジャーを狙ってくる。
勇者たちは戸惑いながらも連携して、バーテックスと戦う。
戦うのだが。
「このバーテックス達……東郷さんを狙っている!?」
「だが、どうして!?」
「もしかして、だが、巫女である東郷を狙えば、我々の移動手段などがなくなることをわかっているのか?」
「そんな、私を?」
「だったら、皆で守ればいい!」
驚く東郷に対して、銀が叫んで攻撃する。
杏も狙ってくるバーテックスを射抜く。
その時、ゲキヌンチャクで戦っていたゲキレッドが叫ぶ。
「何か……何かくる!」
「何か?」
「ジャン師匠!何かって、なんですか?」
「ゾワゾワと違う……別のものだ。でも、冷たい!」
「へー、わかるんだ。流石は獣を心で感じる拳法の使い手だねぇ」
ゲキレッド達の近くに音を立てずに少女が現れる。
桃色の髪に褐色の肌、そして、黒や白などを基調とした勇者衣装。
腰には細長い短剣のようなものをぶら下げて、背中には布用に包んだ何かを背負っている。
「「三人目!?」」
友奈ズが同時に叫んだ。
そこに立っていたのは高嶋友奈、結城友奈に似ていた。
「違う!」
友奈ズの言葉にゲキレッドが叫ぶ。
「コイツ、友奈達と違う!ゾワゾワでもない、ゾクンゾクンだ!」
「あははは、まぁ、そう思うよねぇ、正解だよ?ゲキレッドさん」
にこりとほほ笑みながら友奈そっくりの少女は指を鳴らす。
直後、地面や空からリンシーやアングラー兵が湧き出した。
「わっ、こんな沢山!?」
「友奈ちゃんのそっくりさんが呼び出したっていうの?」
「まずは御挨拶、頑張ってねぇ」
驚くブルーマスクとピンクマスク。
拳でアングラー兵を殴りながらレッドマスクが叫ぶ。
「今は目の前の敵に集中するんだ!ジャンと友奈達はあの子を追いかけるんだ!」
「わかった!タケル!行くぞ、友奈!」
「「はい!」」
「待つんだ!ジャン!」
「待って!」
走り出すゲキレッドと後を追いかける友奈ズ。
その後をゲキブルーとゲキイエロー、神世紀勇者と若葉、千景が追いかける。
湧き出すバーテックスにレッドマスクが拳を構える。
「ゴッドハンド!!」
レッドマスクの得意としている必殺拳“ゴッドハンド”がバーテックスを貫く。
貫かれたバーテックスはドロドロとその体を消滅させる。
「一気に倒すぞ!雪花たち、ジェットカノンを使う!」
「うげっ、離れないと」
「わわっ!」
雪花と棗が慌てて、離れる。
五人のマスクマンの必殺武器である“ジェットカノン”。
マスクマンのオーラパワーを流し込んで放つもので、マスクマンが装備しているレーザーマグナムという装備の45倍の威力を持つ。
その威力を知っている棗たちはその場を離れる。
レッドマスクの叫びと共に放たれたジェットカノンを受けたバーテックス、リンシー、アングラー兵は跡形もなく消滅した。
「いつも思うけれど……スーパー戦隊だけは敵に回したくない」
「手合わせとしては申し分なし」
冷や汗を流している雪花に対して、淡々と棗は言う。
「よし、ジャン達の後を追いかけるぞ」
「待てぇ!ゾクンゾクンの友奈ぁ!」
ゲキレッド達に呼ばれたのか、別の理由があるのか、友奈のそっくりさんは立ち止まる。
「あ、貴方は一体、誰なの!」
「私?私は赤嶺友奈っていうんだぁ」
「あ、赤嶺……赤嶺って、まさか」
「そう、大赦の中でそこそこの地位のある赤嶺さんちの友奈さんなんだぁ」
大赦のことに詳しい園子や夏凜たちは彼女の告げた名前に驚きを隠せない。
「その赤嶺さんの友奈さんは何者なんだ」
「まー、簡単に言えば、今日は自己紹介なんだけどねぇ、私、造反神側の勇者なんだぁ」
「……それって」
「僕達の、敵というこか」
驚きを隠せないゲキイエロー。
ゲキブルーが小さく呟く。
にこりと赤嶺友奈は微笑む。
それだけのことなのにゲキレンジャー達はおろか、勇者たちも後ろへ下がりそうになる。
ゲキレンジャーは本能的に相手が脅威であることを理解した。
「えっと、はじめまして、結城友奈です」
「うんうん、はじめまして、結城ちゃん。私の後輩だねぇ」
「後輩?」
「うん、私、神世紀の初期の勇者なんだぁ」
驚く友奈に赤嶺友奈は挨拶する。
「はじめまして、高嶋友奈です」
「ああ、お会いしたかったんだぁ、高嶋先輩~、貴方のおかげで私は生まれたからぁ」
「え、どういうこと?」
「貴方がいたから、私は生まれたんだ……尤も、心の支えはあの人だけどねぇ」
最後の方は勇者たちやゲキレンジャーにも聞こえなかった。
「ああもう、頭が痛くなってきたわ」
犬吠埼風が頭を抱える。
友奈が二人いるだけでも大変だというのに、敵側にいるという赤嶺友奈の存在に誰もが混乱していた。
「色々と話しているところ悪いけどさぁ、アンタ、私達の敵?味方?」
少し遅れて、マスクマンと雪花たちがやってくる。
雪花が槍を構えながら問いかけた。
その目は警戒している。
「私、わかるんだよねぇ、敵意を持っているかどうかとか」
「え、私、全然、わかんないんだけど」
雪花の言葉に風は驚く。
「残念ながら、私は造反神側、そっちとは敵なんだぁ」
「何でですか!もし、神樹様が分断されてしまえば、私達の生活の危機だというのに」
「うーん、残念だけどねぇ、私達の時代で造反神側につくことに意味があるの。そっちの時代の人達は理解できないだろうけれどぉ」
叫ぶ杏に赤嶺友奈は飄々とした態度で答える。
「まあ、そっちはどうでもいいんだけどね」
「何か、違うこと言い出したぞ!?」
急に違うことを告げた赤嶺友奈に球子が叫ぶ。
「まぁ、本当は私の時代の思惑のために動かないといけないんだけどさぁ、私個人の目的があってねぇ……そうだなぁ、聴いてみようかな」
口元に指をあてながら赤嶺友奈は微笑む。
「うん、そうだな、聴いておこうか」
ニコリと笑みを浮かべた赤嶺友奈は問いかける。
「高嶋さん、結城ちゃん、貴方達は黒騎士様がどこにいるか知っているかなぁ?」
「「え?」」
「黒騎士……?」
「待って、貴方がどうして、彼のことを知っているの!」
赤嶺友奈の問いかけに驚いた声を上げたのは千景だ。
敵である彼女が告げた存在にゲキレンジャーやマスクマンは首を傾げる。
だが、西暦、神世紀の勇者たちは驚きを隠せない。
全員が戸惑っていた。
表情の変化が少ない棗も目を見開いている。
「うんうん、皆さんの表情を見ただけで、理解できたよぉ~、皆さんがどれだけあの方のことを思っているのか……だぁからぁ」
「危ない!」
ゲキレッドが叫び、ブルーやイエロー、マスクマンたちが勇者を抱えてその場を離れる。
少し遅れて上空から巨大な影が落下した。
それはリンシーやアングラー兵、大型バーテックスが混ざり合った歪な存在。
「ちょっ!これはデカすぎでしょ!?」
風が叫ぶ。
「お姉ちゃん、落ち着いて、確かに大きいけれど、妖怪やジャカンジャが巨大化したくらいの大きさだよ」
「だが、そうなると我々では対処が難しい」
「ここは、ゲキレンジャーさんやマスクマンの皆さんにお願いするしか」
顔をしかめる若葉。
杏の言葉にマスクマンとゲキレンジャーが前に出る。
「ターボランジャー!」
レッドマスクが叫ぶことで神樹の世界に移動基地兼巨大母艦であるターボランジャーが現れる。
ターボランジャーの中からランドギャラクシーが姿を見せた。
マスクマンが乗り込み、ランドギャラクシーはギャラクシーロボへ姿を変える。
ゲキレンジャーはゲキビーストのタイガー、チーター、ジャガーの三体を召喚“獣拳合体”によりゲキトージャになる。
二体のロボと対峙するのはジャン曰く“混ざりもの”
「いやぁ、ようやく邪魔者が消えたよぉ」
傍らで戦うロボットを眺めながら赤嶺友奈がほほ笑む。
「皆さんはさぁ、考えたことがないのかなぁ?どうして、黒騎士様が姿を見せないのかなぁって」
「どういう、意味?」
赤嶺友奈の言葉に千景が問いかける。
確かに、彼女も疑問は抱いていた。
黒騎士は勇者ではない。だが、英雄として後の世の四国で崇められてはいる。
神樹の中にスーパー戦隊が呼ばれている以上、彼もくるはず。
だというのに。
「彼は一向に姿を見せない。そうだよねぇ、西暦、神世紀に深いかかわりを持っている、炎力さん、伊達健太さん、大神月麿さんも召喚されているというのに、彼だけ、落合日向様だけがいない」
「あーもー!何が言いたいの!?確かに日向がいないことはクエスチョンだけれど!貴方が気にしていることがもっとミステリーよ!」
「ああ、そっか、まだ、ちゃぁんと話していなかったね」
小さな笑みを浮かべる赤嶺友奈。
さっきまでもつかみどころのない表情から一転して、まるで恋する乙女のように瞳が輝き始める。
彼女は西暦、神世紀の勇者たちにとって爆弾を投下した。
「だって、私は落合日向様にすべてを捧げるんだぁ。この体も、全て、何もかも、あの方のものになるの。それが私の夢、目的、存在しているすべてなんだぁ」
自らの体を抱きしめながらとんでもないことを告げる赤嶺友奈。
「「……え!?」」
戸惑いの声を上げる友奈ズ。
「ブフッ!」
「ゴフッ!」
「ああ!千景が血を吐いた!」
「東郷も!?」
風と球子の傍にいた美森と千景が血を吐いて倒れた。
「お~、これは衝撃の展開だねぇ~」
「いや、そのっち、これ、結構、とんでもないことなんじゃ?あと、体も捧げてどうするんだ?」
「さ、さぁ?」
驚くちび園子、首を傾げる銀と少し頬を赤らめている須美。
「雪花、放して」
「落ち着こう!私も落ち着けないけれど、棗さん、人を殺しそうな顔をしているからすぐにやめよう!樹さんとか、杏さんとかがすっごい怯えているから!あと、無言で抜刀しないで!そこ!」
暴走寸前の棗と夏凜を抑える雪花。気のせいか涙目である。
若葉に関しては口から魂が出ていた。
自らが引き起こした光景にくすくすと笑う赤嶺友奈。
「って、そんなウソで私達を騙そうたって、そうは――」
ズゴォンと風の傍の壁が吹き飛んだ。
突風と轟音が過ぎ去った後、ゆっくりと風は後ろを見る。
不気味な形をしていたオブジェのような壁が瞬く間に消滅している。
口を半開きで目の前の光景をもう一度見る。
そこにあったものが綺麗さっぱりなくなっていた。
ゆっくりと風は前を見る。
「今、なんていったのかな?」
眼前に赤嶺友奈の顔があった。
心の中でギャーーーーー!風は悲鳴を上げる。
辛うじて、叫ばなかったのは勇者部部長、リーダーとしてのプライドがあったからだろう。
それがなければ、恥も外聞も投げ捨てて悲鳴を上げていた。
確実だ。
何せ、赤嶺友奈の瞳から光はなくなっている。加えて、彼女の機嫌を損ねることを言ってしまえば、間違いなく、自分の首が刎ねられる。
そんな未来すらみえた。
「ねぇ、今、なんていったのかな?私の聴き間違いじゃなければ、ウソ……ウソっていったよねぇ?あははは、嫌だなぁ。何がウソなのかなぁ?もしかして、私が落合日向様のことを愛しているっていうことをウソだっていうのかな?いやぁ、そんなことないよね?まさか、そんなことをいったわけじゃないよね?神世紀の勇者さんも面白い冗談をいうねぇ……もし、本当にそう思っているんだったら、悲しいなぁ、私は卑怯な手を使いたくないよ。でも、私の……落合日向様の気持ちをウソといったり、落合日向様を侮辱するなら戦闘開始前に叩き潰さないといけないなぁ、こう、原形を保てないくらいブチ!ゴッシャ!ズチュルルルルゥ!って、ねぇ、もう一度、聴くよ?私の気持ちをウソっていったのかな?正直に答えてね?」
「滅相もございませぇええええん!」
訂正、犬吠埼風は頑張った。
だが、今の赤嶺友奈の眼光とその他のオーラのようなものに負ける。
土下座する勢いで謝罪した。
「わーお、あれは凄いな」
「うん……あれは怖い」
赤嶺友奈の行動に球子と杏が驚きの声を上げる。
「暴走した時の高嶋さん以上ね」
「暴走した時の友奈ちゃん以上ね」
「「ええ!?」」
千景と美森の言葉に友奈ズが叫ぶ。
その時、大きな音が響いた。
「あーぁ、倒されちゃったか」
音の方へ赤嶺友奈がみるとギャラクシーロボとゲキトージャによって混ざりものが倒されるところだった。
「ま、いいや、今日は挨拶だけのつもりだったし、じゃあね~」
ひらひらと手を振って赤嶺友奈は突風と共に姿を消した。
勇者部部室。
「まさか、造反神側の勇者が現れるなんて」
話を聞いたひなたが信じられないという表情で告げる。
「でも、ありえることなんじゃないの?ここって、神樹とやらの中なんだし、相手も神なんだから、それぐらいできてさ?」
「可能性はあったとしても、まさか、実際に召喚されるなんて誰も思わないさ。神樹が分裂したらこの世界の危機なんだぞ?」
アキラの言葉にケンタが言う。
別世界の人間であろうと世界の危機は見過ごせない。
彼らがスーパー戦隊だからだろう。
「その話も分かるんだけどぉ」
「あの、風ちゃんはどうしたの?」
ハルカとモモコは部室の片隅で樹に抱き着いて泣いている風のことを尋ねる。
いつもは部長として凛々しいのにそんな雰囲気を台無しにするような状態になっていた。
「グズグズだな!」
風の姿をみてジャンが言う。
「えっと、事情を言うなら、赤嶺友奈さんが原因です」
美森が事情を話す。
彼女の目的を風がウソだと判断したらとんでもないことになりかけたということを。
「うわぁ」
「そりゃねぇわ」
「恐ろしいな」
アキラ、ケンタ、レツが美森から聞いた話に青ざめる。
まともにその狂気を浴びた風はブルブルと体を震わせていた。
いつも言う「女子力!」という言葉も出てこない。
風の状態に苦笑いをしていた時。
「ゾクンゾクンだ!」
ジャンが真剣な表情で叫ぶ。
突然の言葉に困惑する勇者たち。
だが、ランとレツの二人は身構える。
ガラララと部室のドアが開いた。
「こんにちは~~、きちゃったぁ~」
ドアを開けて“赤嶺友奈”が入ってきた。
「はぁ!?」
「ウソ!!」
彼女の出現に勇者とマスクマンたちは驚きの声を上げる。
「へぇ~、ここが部室なんだぁ。いやぁ~、ここに巫女の上里ひなたさんがいるって聞いたからさぁ、一目見たくて、後をつけたんだぁ」
驚いている皆に赤嶺友奈はニコニコと話す。
身構えるジャン達の横からひなたが前に出る。
「貴方が、赤嶺友奈さんですね?」
「はーい、そうでーす。初めまして、上里ひなたさん、うわぁ、伝説と言われるだけあって凄いねぇ」
「本当に友奈さんそっくりだ」
赤嶺友奈の姿を見て藤森水都が驚きの声を上げる。
「ゲームでいえば、オルタ……ダークサイドみたいな存在みたいね」
実際にみていない中学園子や水都、ひなたは驚いている。しかし、そういう状態ではない。
ここに造反神側の勇者がいるということは――。
「あー、そんな身構えなくていいよ。私は背後から襲撃とか、不意打ちとかそういうことはしないから、ちゃんと戦闘開始のゴングがなったら、戦うから……勿論、戦うことになったら手加減とか、そういうことは一切しないから全力で挑みに来てねぇ」
「つまり、ここで戦闘する意思はないということか?」
タケルの言葉に赤嶺友奈は頷く。
「そうだよ。ただ、勝負するだけじゃつまらないよねぇ?私に勝てたら色々と教えてあげる。造反神のこととか、どうして、この世界にヴィラン達がいるのか……そして、友奈の秘密とかねぇ」
にこりと友奈は微笑みながら「だからぁ」と続ける。
「私が勝ったら、落合日向様のすべてをもらう」
突然の言葉に室内の時が止まった。
正確には勇者と巫女の時である。
「「「「「は?」」」」」」
「「は!?」」
「?」
マスクマン、ゲキレンジャー達が困惑した声を漏らす。
「貴方達が彼をどう思っているかは知っているよぉ、でも、私の想いが一番強いんだぁ。だから、勝利したらあのお方は私のものになるんだ」
「ち、ちょっと――」
「ふざけないで」
赤嶺友奈の言葉に千景がぴしゃりと言い放つ。
「貴方がどういう目的で彼に近づくのかはしらない。けれど、貴方に彼は渡さないわ」
「ふぅーん、じゃあ、郡千景さん、彼がどこにいるのか、知っているの?」
「……それは」
「知らないんでしょ?」
「じゃあ、そっちは知っているっていうの?」
言葉を詰まらせる千景。
雪花が逆に赤嶺友奈へ尋ねる。
情報を引き出すつもりで挑発したのだろう。
「当然だよ。検討はついている。け・れ・ど、貴方達に教えてあげなぁい。だって、貴方達のことは勇者として尊敬はしているけれど、愛のライバルだもん。あの人に関する情報は一つたりともぜぇったい教えてあげなぁい」
ぞくりと勇者と巫女が後ろへ下がる。
頬を赤らめながら話す赤嶺友奈。
だが、その目はどうしょうもないほどの闇がみえた。
「(この人は一体、どんなものを抱えているのでしょうか……どうして、日向さんに固執しているの?)」
ひなたは赤嶺友奈に警戒を高める。
「さて、挨拶はほどほどにして、そろそろ帰るね。次の戦闘で会うけど、油断しちゃダメだよ?全力で挑むから」
「って、逃がすかぁ!」
赤嶺友奈に夏凜、棗、雪花、球子、杏、銀、須美、千景、歌野が飛びかかる。
手や足などを拘束して彼女の動きを封じ込めた。
囲む形でレツやケンタたちが立ちはだかる。
「ふっふっふー!こうすれば、アンタは逃げられないでしょ!さぁ、色々と教えてもらおうかしら!アイツのこととかねぇ!」
笑みを浮かべる雪花。
だが、赤嶺友奈の表情は崩れない。
「だから、無駄だって、いっているじゃない」
巻き起こる突風。
瞬く間に赤嶺友奈の姿が消えた。
「ウソ、手足とか、ちゃんと掴んでいたのに」
「……自信満々なわけだ」
驚いている千景と彼女の余裕が崩れないことを理解した棗。
「どーでもいんだけどさぁ!重たいからどいてくんない!?」
アキラが叫ぶ。
衝撃によって勇者たちが吹き飛ばされて、何人かを抱き留めたマスクマンたちだが、アキラだけは運悪く、夏凜や棗たちの下敷きになっていた。
「重いっていうなぁ!」
「ぶへぇ!」
額に青筋を浮かべた夏凜は勢いを利用してアキラを殴り飛ばした。
「女子に重たいは厳禁」
殴られたアキラをみて、棗はぽつりと漏らす。
「高嶋さん、大丈夫?」
各自、部屋で休んでいる中、千景は高嶋友奈に問いかける。
「千景の言うとおりだな。お前のことだ。あの赤嶺友奈のことが気になっているだろ」
「うん……でも、大丈夫!正面からぶつかっていく!それが私の良いところだって日向さんもいっていたもん!」
笑顔を浮かべる友奈。
千景もほっこりとした表情になるもすぐにドロドロした闇色の感情を浮き出す。
「あの赤嶺友奈、高嶋さんと同じ顔をしていたけれど、私達の大事な日向を奪うというのなら容赦しない」
「うん!赤嶺ちゃんには悪い気がするけれど、日向さんは私達と一緒だもんね!」
「そうだな、赤嶺友奈の目的はわからないが落合日向は絶対に他の連中に渡さない……私達が愛する」
「流石、若葉ちゃんです。頑張りましょう!」
笑みを浮かべながらもどこかぞっとする表情の友奈、千景、若葉。
ちなみに離れたところで同じように杏や球子、ひなたも頷いていた。
神世紀の勇者たちが休んでいる場所。
「友奈ちゃん、大丈夫?」
「東郷さん、うん!大丈夫!赤嶺友奈ちゃんのことは気になるけれど……卑怯なことはしないって言っているから全力で挑むんだ!」
「その意気よ!」
沈んだ様子もなくやる気に満ちている友奈の姿を見て美森や夏凜は喜ぶ。
謎はあるが、今は造反神から四国を取り戻す。
「それに!」
えへへと笑顔を浮かべながら友奈は言う。
「赤嶺ちゃんに勝ったら日向さんのこと!何かわかるかもしれないもん!」
「……そうね、あのお方が戦ってくれるのならすぐに四国解放も夢ではないわ」
「まぁ、完成形勇者よりも最強だものね……」
「うん!それに、再会したらいぃっぱい!甘えたいんだ!」
「……そうね」
はにかんだ笑顔を浮かべる友奈に同じような気持ちを抱きながらも表に出さないようにする美森。
「ところで、あれ、大丈夫なの?」
夏凜は部屋の隅で樹の傍で黒騎士くんぬいぐるみを抱きしめている風の姿を見る。
樹が傍であやしているが、風が元に戻る様子はない。
「赤嶺友奈のあれに触れたんだから、仕方ないわよね」
「そんなに怖かったの~?」
唯一、赤嶺友奈の狂気を真っ向から受け止めてしまった風。
その時のことを思い出してしまうのか風は樹の愛用している黒騎士くん人形を強く抱きしめる。
「……そういえば、友奈の次か同等くらいあの人への想いが強いのよね。風って」
変形するくらい黒騎士くん人形を抱きしめる風。
神世紀において伝説と言われていた最強の黒騎士。
どういうわけか神樹の中に存在しない彼に会いたい。
自然と彼女達は同じ気持ちを抱いていた。
「「「「「日向さんに会いたい」」」」」
神樹の中のどこかの町。
その片隅で一台の焼き鳥の屋台があった。
炭火焼で焼き鳥を調理している中年オヤジ。
そんな店にいる客は人間ではない。
別の世界で冥王と呼ばれたスーパー戦隊の敵であり弟や妹たちを愛していたジルフィーザ。
屋台で彼は焼き鳥を食べている。
そんな彼の傍には世紀末覇王にでてきそうな凶悪な顔をしたアラクレボーマの姿があった。
「やはり、解放のカギは勇者が握っているのか」
ジルフィーザの言葉に大将が頷く。
「色々と調べてまわったんだがな……インフェルシアの呪いについては魔法使い、もしくは清らかな少女の〇〇が必要らしい」
「……では、早くすべきではないのか?」
焼き鳥を食べながらスモウボーマが言う。
「そうは問屋がおろさねぇ、早く旦那は解放すべきなんだろうが……造反神側の勇者、さらに巨獣ハンターの姿もある……旦那を解放したら厄介な敵を二つ三つ、相手にしなきゃならねぇ……呪いから解放されたばかりの旦那にはきついだろうねぇ」
「しかし!」
「今は様子を見なければならぬということだ。我々もすぐに彼を解放させることを望んでいる……だから、危機に貶めるようなことは避けなければならぬ。我々は造反神を裏切った者達……ゆえに全力を振るえるという訳ではない。今の我々では造反側の勇者や巨獣ハンター……貴公子もいる」
「歯がゆいものだ!」
アラクレボーマは机をたたく。
コロコロと置かれていた樽が地面へ落ちそうになる。
「おい、気をつけろよ!」
慌てて大将とジルフィーザが樽を掴む。
「ああ、すまない!!」
大将に怒られてアラクレボーマは謝罪する。
そんな彼らを見守るようにゲコッと黒いカエルが鳴いた。
軽く戦隊紹介です。
この紹介を見て、また、見直すと色々と違うかも?
光戦隊マスクマン
スーパー戦隊の一つでオーラパワーと呼ばれる力を引き出して戦う戦隊。
地底帝国チューブと戦った。
初の五体合体ロボがでてきた戦隊でもある。
マスクマンのブルーは最年少の十六歳設定。そのため、ヤンチャな面も目立つ。
今回はあまり前面に出ていないけれど、レッドマスクのタケルは恋人を第一話で失ったことで地底帝国に憎しみのようなものを抱きつつも、のちに恋人が地底帝国の姫君であることを知るなど、恋愛面の要素もありました。
獣拳戦隊ゲキレンジャー
戦隊としては敵味方でドラマが用意されていた戦隊、商業などは仮面ライダーに負けたといわれるけれど、話などはとても面白い。
ちなみに声優陣が当時と今においても、超豪華です。
今回は途中参加した二人はおらず、初期の三人のみ。
詳しい設定とかはウィキさんなどを調べてみるといいかも。
冥王ジルフィーザ
救急戦隊ゴーゴーファイブに出てきた敵幹部。
初期から中期、終盤に登場しており、敵兄弟のトップという設定(テレビ版において)
最後にラスボスの情け容赦ない策略により弾丸扱いでゴーゴーファイブへ挑まされ、最後はゴーゴーファイブの家族の愛情を称えて死亡するも最終回とその前の話で操り人形として復活。
報われないキャラです。
今回はヴィランとして登場しているもある人物のために奮闘している模様。
ちなみに作者の好きなキャラです。
アラクレボーマ
高速戦隊ターボレンジャーに登場した暴魔。
実は過去の出来事から改心して戦いをやめていたのだが、暴魔の幹部に騙されて街を破壊、レッドターボに説得されて、争いをやめるも操られて巨大化。
ターボロボによって宇宙へ連れられて星座になるという結果。
今回はヴィランの立場で召喚されているが、叛逆してジルフィーザ達と行動している。
焼き鳥屋の大将
名前はないですけれど、百獣戦隊ガオレンジャーに登場しています。
ちなみに今回は人間ですけれど、この人、オルグです。
ちなみにめっちゃいい人、焼き鳥は最高らしい。
黒いカエル
ヒント、インフェルシア
樽
ヒント、星獣戦隊ギンガマン。
赤嶺さんの暴走はこれくらいでいいのだろうか?やりすぎると淫乱っぽくなるから難しい。
次回も番外編、赤嶺さんのターンは続きます。
もし、スーパー戦隊が絡んで新たな戦いがあるならどれがいい?
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パワーレンジャー
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リュウソウジャー
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ルパパト