今回は黒騎士誕生のお話なので、のわゆ話皆無です。
「俺はバーテックスをすべて殺す」
廃墟の街中。
腰には一振りの剣を携えている。
剣の中心に埋められている緑色のクリスタルが光の反射で煌めく。
そして、全身を黒い鎧を纏っている。
頭部には金色の角があり、顔はバイザーのような兜で隠されていた。
この世界は滅びの危機を迎えている。
天の神という存在が人間を見限り、滅ぼすために生み出した存在“バーテックス”。
バーテックスによって世界中は火の海と化して、生き残っている人間は日本の四国しか存在しない。
だが、俺は四国ではなく、諏訪の方にいた。
俺の後ろには諏訪から四国へ向かおうとしている普通の人々がいる。
大人が少しとたくさんの子供。
誰もが疲弊した表情をしながらも助け合い、四国を目指す。
「隠れろ」
俺の言葉に大人たちが子供を廃墟の中に隠す。
「出てきたな?」
目の前に白い怪物が現れる。
目や鼻はない、人を食らう口のみが存在する怪物。
――バーテックス。
人を滅ぼすために神が生み出した存在。
そして、俺の憎むべき存在。
俺は腰の剣を抜く。
奴らを根絶やしにすることが今の俺の生きる理由。
そのために、俺は生きている。
腰から愛剣となったブルライアットを引き抜く。
漆黒の肩から後ろへ伸びるマントが風で揺れる。
「黒騎士様!」
隠れていた子供の一人が叫ぶ。
「隠れていろ」
ちらりと俺は一瞥して冷たい声で告げる。
ブルライアットをショットガンモードにして目の前のバーテックスを射抜く。
すぐにわらわとバーテックスが現れてくる。
セイバーモードに切り替えるとともに逆手に持ち替えながらバーテックスの体を切り裂く。
背後から迫るバーテックス。だが、遅い。
「黒の一撃!」
叫びと共に放たれた一撃でバーテックスは両断される。
バーテックスはまだまだいる。
地面を蹴りながら宙へ舞い上がるとそれをチャンスと見て口を開けて襲い掛かる個体がいた。
「甘い!」
――黒の衝撃。
放った必殺ともいえる一撃で大型バーテックスは地面に落ちた。
着地するとともにマントを翻す。
バーテックスの群れは既にいない。
「ちまちまと倒しているだけでは意味がないか」
黒騎士の姿から人の姿に戻った俺は悪態をつく。
「本当ならこのまま攻め込みたいところだが」
ちらりと廃墟から顔を出している連中の姿を見る。
「無視してやりたいが……アイツらが枕元に立たれても面倒だ。約束を果たすとしよう」
諏訪にいた時、俺は勇者と巫女という存在と知り合った。
こんな世界になった時に俺と“似た”ようにバーテックスと戦う力に覚醒した者。それを勇者、人間を滅ぼすことを反対する神の声を聴く巫女。
そんな二人の少女と出会い、彼女達に頼まれて俺は生き残りを四国へ連れていくことを約束させられた。
四国には諏訪よりもたくさんの人達が“神樹”という存在によって守られ、複数の勇者がバーテックスと戦っているという。
誰かと関わることに興味のない俺だが、四国に行けば無数のバーテックス、そして、生み出している天の神とやりえるチャンスがあるかもしれない。
だから、俺は四国を目指す。
ついでにこいつらを届けてやる。
それなら、死んでいったあの二人も文句を言わないだろう。
「蔵人……あれから、もう何年経つんだろうな」
鎧に包まれた手の中、小さなペンダントだった欠片をもちながら俺は空を見上げる。
バーテックスが現れた日。
俺が復讐者になった日を。
バーテックスが現れるまで、俺はどこにでもいる普通の子供だった。
少し違いがあるとすれば、親が転勤族だったということだろう。
学者で各地を転々としていた。
二年くらいその地にとどまっていればいい方だった。
俺は気にしなかったのだが、幼い弟は辛かった。幼いながらに各地を転々として友達ができない。そのことからいつからか、弟の表情に笑顔が消えていった。
気付いた俺は、両親に頼み込んで親と離れて暮らすことにした。
研究ばかりだった両親も弟の表情から流石にまずいと感じたのだろう、だが、研究を止めることができないということから離れることを決める。
勿論、最初は苦労ばかり、慣れない料理や家事などで悪戦苦闘しつつも弟の、蔵人(クラウト)のために頑張ってきた。
仕送りももらえたからなんとか生活をしてきた。
生活が安定してくると弟の笑顔も増えてくる。
これでよかった。俺はそう思っていた。
バーテックスが現れた日。
あの日のことを俺は鮮明に思い出せる。
俺は弟と一緒に海の方へ遊びに来ていた。
弟が俺に海を見に行きたいといいだしたからだ。近くに海があることから、俺は弟と電車でいくつかの駅を乗り継いで海へやってきた。
海を見て弟はとても興奮する。
俺も海を楽しもうとした時、その時だ、悲鳴が聞こえた。
悲鳴の方を見ると白い怪物が人を食べている。
そう、人を食べていたのだ。
むしゃむしゃと頭を丸かじりにしている。
その光景に俺は弟の手を引いて走り出す。
逃げ出した俺達に気付いた怪物が追いかけてくる。
白くて細長い虫のような怪物は信じられない速度で迫ってきた。
「蔵人!逃げろ!」
「兄さん!?でも!」
「いいから!」
弟を逃がして俺は転がっていた木の棒で怪物を引き付ける。
しかし、怪物は木の棒で殴った程度で傷つくような存在じゃなかった。
尻尾で叩きつけられただけで俺の腕はマッチ棒のようにへし折れた。
激痛で涙を零しながらも蔵人を、弟を守るために奮闘する。
だが。
「兄さん!!」
聞こえた声に俺は顔を上げる。
そこにいたのは別の“白い”怪物。
口を開けて弟に迫っている。
泣きそうな顔をしながらも蔵人は傍にあった石を投げていた。
蔵人を守ろうと立ち上がる。
けれど、俺の手は弟に届くことがない。
「兄さん!」
白い怪物が口を広げて弟を飲み込んだ。
「あ」
バクンと弟の手から先が怪物の中に消える。
俺の前にとんでくるのは弟の手だったもの。
「ああ」
ベチャッという音と共に目の前に手が落ちてくる。
顔に数滴の血がかかった。
「あぁあああ、ぁああああああああああああああああああああああああ!」
救えなかった俺は叫びをあげた。
そんな俺も食らおうと怪物が迫って来る。
白い怪物に食われて、俺も――。
絶望で動けない、その時、赤い光と共に何かが落ちてきた。
衝撃と地割れで吸い込まれるように俺は裂け目の中に消える。
これで、死ねる。
そう思っていた。
だが、この時、俺の運命が決まった瞬間だと、わかっていなかった。
裂け目の中は光も差し込まない闇に支配されている。
そんな中に落ちた俺の体はボロボロだった。
片腕は折れて、足もおそらくひびが入っている。動くたびに激痛が起こる。
「一思いに死ねないっていうのも、案外、辛いんだなぁ」
体が全く動けない闇の中で自虐的な笑みを浮かべる。
弟を救えなかったという事実が頭からこびりついて離れない。
深い闇の中で俺はひたすら後悔する。
どうして、海に行くことを了承したのか。
弟を逃がさなければよかったとか。
もっと俺が強かったら。
力があれば。
奴を殺せるほどの力が俺に、もっとあれば!!
後悔から次第に俺の気持ちは殺意、復讐という感情に染まっていく。
どうして、俺が殺されかけなければならないのか。
どうして、弟が、蔵人が死ななければならないのか。
その理由は、決まっている。
奴らだ。
あの白い怪物、
あれがいたから、俺達はこんな目にあったんだ。
――赦さない。
「俺は、奴らを殺す」
「そうか」
暗闇の中で声が響いた。
「誰だ!?」
警戒するように叫ぶ。
「警戒するな。お前の敵ではない……姿を見せてやりたいが、生憎、お前と同じくらい私も傷だらけだ」
「……誰なんだ」
「私はブルブラック、この星とは別の星を守っていた騎士だ」
「騎士?やべっ、幻聴か?」
直後、頭の中にある映像が流れ込む。
地球とは違う別の惑星。
緑あふれる綺麗な星。
星を巨大な影が覆いつくし、そして、飲み込まれる。
そんな映像が流れ込んだ。
「今の……」
「私の記憶だ。信じてもらえたか?」
「こんなことされたら信じるしかないだろ……それで、俺に何の用だよ」
「バーテックス」
「は?」
「私の記憶を流し込むと同時にお前の記憶を覗かせてもらった。お前を襲った存在はバーテックス。天の神が作り出した先兵だ」
「天の神?」
「どうやら、奴は人類を見限ったようだな」
「どういう、ことだよ」
ブルブラックから伝えられたのは腸が煮えたぎるような話だった。
天の神が人類を滅ぼすことにして、生み出した存在。
それがバーテックス。
バーテックスは人を、世界を滅ぼすために生み出されたらしい。
「勝手過ぎる」
「神という存在はそんなものだ。自分勝手に生み出して、勝手に消し去る。そういったものだ」
「……ふざけんな」
拳を握り締める。
神だが、なんだか知らない、そんな奴の勝手で、蔵人は……弟は命を奪われたというのか?
赦せない。
俺は天の神を赦さない。
「落合日向……お前は天の神に復讐をしたいか?」
「ああ、したい。だけど、俺は」
悔しいが俺じゃ、天の神に太刀打ちできない。
先兵のバーテックスすら戦えなかったんだ。
そんな俺が奴らと戦うなんて、夢物語もいいところ。
「復讐を望むというのなら……私と契約しろ」
「契約?」
「そうだ、私の力をお前に与えよう。そうすれば、お前でもバーテックス、もしかしたら天の神と戦えるかもしれない」
「……どうして、そんな提案を俺にする?」
ブルブラックの話が本当なら俺は望んで受け取るだろう。
だが、そうする理由がわからない。俺に与えなくてもブルブラックが戦うことも出来るはずだ。
「私は過去の戦いにおいて受けた傷が癒えていない。今のままではバーテックスにすら苦戦するだろう。だから、お前に持ち掛けた。私の力を与える。だが、条件がある」
「条件?」
「お前が天の神を倒した時、その体を私に与えること。それが条件だ」
「……わかった」
ブルブラックがどういう理由で俺の体を求めるのかわからない。
だが、応じれば力が手に入る。
奴らを殺せる力が手に入るというのなら、俺は喜んで体を差し出そう。
弟が死んだ今、俺に生きる理由はない。
あるのは、身勝手な理由で弟を殺した天の神に思い知らせてやること。
「ならば、ブルライアットを受け取れ。お前に黒騎士ブルブラックの力を授ける」
「ああ、ブルブラック。アンタの力を受け取る!」
暗闇の中から現れた黒い鞘に納められた剣。
緑色の宝石が輝く剣を手に取る。
握り締めた時、俺の頭に浮かんだ単語を紡いだ。
「騎士転生……」
バーテックス達が跋扈する海岸。
そこに人の姿はない。
生きていた人たちは根こそぎバーテックスに食いつくされてしまった。
突如、裂け目から光があふれる。
その中から飛び出したのは漆黒の鎧にマントを纏った騎士。
頭部の左右に伸びる金色の角、そして、額と胸部に輝くクリスタル。
腰に愛剣、ブルライアットを携えた黒騎士ブルブラック。
ブルブラックの力を手にしたヒュウガはブルライアットを抜いた。
彼に迫るバーテックス達。
近づいてくるバーテックスの一体を鞘から抜いたブルライアットで切り裂く。
両断されたバーテックスは消滅。
「ガンモード」
ブルライアットを鞘に戻してショットガンモードにすると遠くにいたバーテックスを狙撃する。
撃ち抜かれたバーテックスは消えさった。
次々とバーテックスが迫って来る。
セイバーモードにブルライアットを切り替える。
「黒の一撃!」
近づくバーテックスはブルライアットの斬撃で切り伏せる。
目の前に巨大な口を開けて迫るバーテックス。
「邪魔だ」
――黒の衝撃!
放った一撃で巨大なバーテックスも切り伏せる。
その時、揺れが起こった。
「……これは」
衝撃と共に地面の中から巨大なバッファローのような生物が現れる。
「……そうか、お前はゴウタウラス」
唸り声を上げながら姿を見せたのは巨大な星獣。
火山の星、タウラスに住まい、黒騎士ブルブラックと共に戦ってきた。
「重星獣、ゴウタウラス」
頭の中に流れる情報。
ブルブラックから教えられた相棒の存在を見る。
現れたゴウタウラスは残りのバーテックス達を踏みつぶして、目の前にやってくる。
彼の中にブルブラックの存在を感じ取ったのか、嬉しそうな声を上げた。
「ゴウタウラス……俺はブルブラックではない。だが、ブルブラックの力を宿している。だから、というわけじゃないが俺に手を貸してくれ。俺は天の神を滅ぼす!」
風でマントが揺れる中で黒騎士となった彼はゴウタウラスに己の覚悟を告げる。
ゴウタウラスはそんな彼の覚悟に答える様に空へ吼えた。
「……感謝する。ゴウタウラス、行こう」
歩き出そうとした黒騎士、その足元で何かが当たる。
視線を向けると光を受けて反射する割れたペンダントのようなものがあった。
「これは……」
ペンダントの欠片を手に取る。
「間違いない……蔵人が持っていたものだ」
欠けているが、黒騎士は見間違えることがない。
それは両親と別れて生活する際に母親が蔵人へ渡したもの。
お守りとして母が蔵人にプレゼントしたものだ。
「……蔵人」
壊れたペンダントを俺は手の中で握り締める。
「俺は必ず、復讐を果たそう!必ず、バーテックスを、天の神を殺すと!」
兜などで顔は隠れてみえないが、彼の顔は泣いていたことを知るものは誰もいない。
そして、戦いの舞台は四国へ。
もし、スーパー戦隊が絡んで新たな戦いがあるならどれがいい?
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