ちなみにイニシャルはY・Tさんでいきます。
「待って、待ってよ!」
犬吠埼風は目の前へ進んでいく彼を追いかけていく。
しかし、どれだけ走っても、追いかけても風の手は彼に届かない。
「なんで、なんでよ!」
叫びながら風は走る。
追いかけていく中で距離はどんどん離れていく。
つまずき倒れる風。
彼は振り返ることもないまま、先へ向かう。
「待って、待ってよぉ!蔵人さん!」
「違う」
立ち止まった彼は振り返る。
その目は冷たい。
「俺の名前は落合日向、蔵人は死んだ弟の名前だ」
拒絶して風の前から彼は消える。
風は涙をこぼして地面に崩れ落ちた。
「あれ、蔵人君!蔵人君じゃないか!」
俺が四国の町中を歩いていると声をかけられる。
西暦と比べて大差ないようにみえる町。
神世紀300年という時代において、俺は落合蔵人と名乗っていたようだ。
スルーしようとすると相手は回り込んで話しかけてくる。
「……蔵人君、だよな?」
「申し訳ないんだが、蔵人は死んだ弟の名前だ。俺は落合日向だ」
「え!?」
「アンタは俺が記憶を失う前に関わっていた人だろうか?」
「あ、そ、そう!俺の名前は天火星亮!近くで中華料理屋をやっているんだ!あれ、風ちゃんと樹ちゃんは?」
「あの家は出ていった。話はそれだけか?失礼―」
「なぁ!」
自転車を止めて天火星亮が呼び止める。
「俺の店で餃子、食べないか?」
いきなりの提案だが、ここで拒絶して大きな騒ぎを起こすのも面倒なため、ついていくことにした。
「俺の夢はさ、世界で一番、うまい餃子を作ることなんだ」
「……そうか」
「食べてみてくれ!」
そういって彼が机に置いた餃子を食べる。
一口。
目を見開いてぱくぱくと餃子を食べ始めた。
満足したのか全てを食べ終えると手を合わせる。
「御馳走様、とてもおいしかった」
「そういってもらえると嬉しいよ……なぁ、日向君」
「なんだ?」
「行く宛はあるのか?」
「……それを聞いてどうするつもりだ」
警戒しながら日向は問いかける。
記憶を取り戻した日向をどこで大赦が狙っているかわからない。
すぐに対応できるように隠しているブルライアットへ手を伸ばした時。
「よかったらうちでしばらく生活しないか?」
「なぜ?俺はアンタと記憶を失っている間は面識があったのかもしれないが……何も知らない。そんな俺を住まわせる理由があるのか?」
「うーん、放っておけないんだ」
「だから、住まわせると?」
問いかけに亮は頷いた。
「行く宛ないんだろ」
「……わかった、ただ、住まうだけじゃない。店の手伝いもさせてもらう」
「よし!決まりだ!部屋に案内するよ!」
そういわれて後に続く日向の表情は先ほどより険しさが抜けていた。
犬吠埼樹は人前に立つことに緊張する少女である。
彼女は勇者部のメンバーと共にカラオケに来ていた。
近づいている歌の試験をなんとかクリアするために彼女の上がり症を治すため。
治すためなのだが、どことなく交流会のようなものになっていた。
カラオケに来たことのない夏凜は戸惑い、友奈や風は楽しそうに、美森の場合は全員が立ち上がって敬礼するということになりながらもみんな楽しそうにしている。
しかし、肝心の樹の上がり症はどうしょうもなかった。
「あれ、みんな?」
「あ!天火星さん!」
彼女達の前を出前の帰りだった天火星亮と出会う。
「カラオケの帰りかい?」
「はい!」
「樹ちゃんの上がり症を治そうとしたんですけれど」
「あがり症?」
「樹ちゃん、人前で歌うのが苦手みたいで」
友奈の説明に亮は納得する。
「成程ぉ」
「天火星さんは緊張とかしないんですか?」
「ちょっと!」
夏凜が友奈へ声をかける。
「どうしたの?夏凜ちゃん」
「あの人、誰よ」
「天火星亮さん!赤龍軒っていう中華料理屋さんをやっているんだ!あそこの餃子はとぉってもおいしんだよ!」
「いつでもおいで!サービスするから!」
「ふーん」
天火星亮の言葉に夏凜は半ば興味なさそうに頷いていた。
のちに店へやってきて、餃子にヤミツキになるのはそう遠くない。
その日の夜。
風が隣で寝ている中、樹は目が覚めてリビングへ向かう。
喉が渇いた彼女は飲み物を飲んで部屋に戻ろうとした時、外に何かがみえた。
「!」
正体に気付いた樹は外へ飛び出す。
「く、蔵人さん!」
樹が見つけた存在、それは落合日向だった。
彼は振り返ると訂正を入れる。
「俺は日向だ」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「別にいいさ……俺は記憶を失っていた」
「あ、はい」
沈黙が広がる。
そもそも、自分達の前に姿を消した彼がどうして目の前にいるのか。
もう、一緒にいられないのか。
その疑問を樹はぶつけるべきか悩んだ。
「歌の試験、あるそうだな」
「え、はい……でも、私、自信がなくて」
「樹ちゃんは歌がうまいよ」
「え!?」
「一人で歌っている時は上手だ。俺はそれを知っている」
「あ、あの」
いきなり褒められて戸惑う樹。
彼はあの時みせた表情と違い、蔵人の時のように優しく思える。
「全力で挑め」
「え?」
「歌の試験、周りの目とか、そういうものを気にせず、全力で挑むといい……そうすれば、きっと大丈夫」
「……あの!」
樹は意を決して尋ねることにした。
「く……日向さんは私達の敵なんですか?もう、一緒にいられないんですか?」
尋ねられた日向は表情を変えずに近づいていく。
樹の方へ手を伸ばしてその頭を撫でる。
「悪いが一緒にいることはできない……ただ、できるなら俺は勇者と敵になりたくはない……だが、大赦は気をつけろ」
「え?」
「あそこは信用できない……何より、やってはいけない領域へ手を出した……いつか報いは受けるだろう」
「どういうことです」
問いかける樹に日向は考えながらも告げることにした。
本来なら知らない方がいい事実を。
「狼鬼を生み出したのは大赦だ」
「どうして……」
彼女は奥歯を噛みしめた。
ギリリと歯が音を立てる。
小さな痛みを感じながらも彼女は瞬きせずに彼を見つめた。
どうして、自分とは逢わず、妹と話をしているのか。
妹の方が大事で、自分のことなどどうでもいいのだろうか?
そう考えると心の中が黒い気持ちで支配されそうになる。
「バカなこと考えるな!」
体を震わせるようにしながら今の思考を外へ追いやる。
こんな黒い気持ちを抱いているから彼は自分と会わないのかもしれない。
それか、自分が大赦との連絡役だから?
疑問を浮かべながらも彼と樹の会話へ耳を澄ませる。
だが、頭の中の疑問は消えない。
「どうして、どうして、どうして、私を……私も………私のことも」
そこから先の言葉を風は飲み込んだ。
「どういうことですか?大赦が狼鬼を生んだって」
「樹、一つ、頼まれてくれるか?」
「え?」
問いかけを躱すように彼が頼みごとをする。
「次の戦い、おそらく大きな戦いになるだろう。その際に狼鬼が現れたら一時的でいい。動きを封じ込めてほしい」
「動きを?」
「……勇者の中で頼めるのはお前だけなんだ」
「私、だけ?」
「ああ、おそらく他の勇者だと動きを封じ込めるということは難しいだろう。だから、キミにしか頼めない」
「わかりました!私にできることなら!」
「すまないな」
笑みを浮かべる樹をみて日向はポンと頭を撫でる。
蔵人の時と似ていると思いながらも不思議と今のほうが心地よく思えた。
「悪いが、少しの時間、バーテックスは任せる。俺は、俺が生み出してしまったものに決着をつけないといけないから」
微笑みながら日向は背を向ける。
彼が去っていく。
もう会えないかもしれないという不安にかられながらも樹は叫ぶ。
「また、会えますよね!」
彼はその問いに答えない。
けれど、樹は不思議とまたこうして会えるような気がしていた。
「どうして、犬吠埼樹へ話した?」
「話す必要があったからだ」
ブルブラックの問いかけに日向は答える。
彼らは向かい合いながら話をしていた。
「狼鬼は俺が……黒騎士が生み出してしまった。そんな存在を野放しにしたままなんてできない。俺はアレをなんとかしたい」
「前にも話したように生み出したのは大赦の連中だ。愚かにも黒騎士のような力を欲した一部の人間が精霊の力を借りて、生み出そうとした失敗作。それが狼鬼……わかっているだろう。お前はその尻拭いをしようとしている」
「そうかもしれない、だが、俺達が居なければ狼鬼も生み出されることはなかった。だったら、それをなんとかするのも俺の、俺達の責任じゃないのか?」
「……責任か」
「なんだ?」
「お前の口からそんな言葉を聞くことになるとはな……だが、忘れるな」
警告するようにブルブラックが告げる。
「ギンガの光の場所はもうすぐわかる……その時は私の目的を果たさせてもらう」
「何を、考えているんだ?」
「最初から私の目的は変わらない。やるべきことは一つだ」
「……ブルブラック」
日向の言葉にブルブラックは沈黙で答えた。
「樹ちゃん、歌の試験どうなったかな?」
「さぁな」
赤龍軒。
そこで皿洗いをしていた日向に天火星亮が話しかける。
居候ということで何もしないということは問題があるということで皿洗いなどをしていた。
そんな彼に亮が話しかける。
皿を洗う手を止めず彼はどうでもいいと答える。
「なぁ、日向はどうして二人に会おうとしないんだ」
「……別れがはっきりと決まっているのに会う必要があるか?ないね。余計に辛くなるだけだ」
淡々と話す日向に亮はなんともいえない表情を浮かべていた。
その時、彼の中で黒騎士が告げる。
――樹海化が起きたと。
かつて、西暦から神世紀に変わった時代。
大社も大赦と名を改め、西暦で戦った勇者たちはお役目の終わりを告げられて普通の生活に戻っていたころ。
一部の大赦の人間がある実験を行った。
それは人工的にバーテックスと戦える存在を生み出すこと。
勇者とは異なる別の存在。
西暦の時代、勇者と共に戦い天の神に大打撃を与えた存在……“黒騎士”のような英雄を生み出すこと。
上層、特に乃木と上里家にばれないように連中は行動を起こす。
なぜにそんなことをしたのか。
行動を起こした存在は偶然にも目撃していたのだ。
赤い姿になった二人の人間。
黒騎士と異なる姿だったが、研究を続ければ第二の黒騎士が生み出せるかもしれない。
そんな愚かなことを考えた彼らは黒騎士と縁のあった二人を拉致して、研究の限りを尽くした。
結果、偶然にも彼らは第二の黒騎士といえる存在を生み出すためのアイテムを生み出すことに成功する。
――闇狼の面。
そう呼ばれるアイテムを彼らは作り出す。
強大な力を与える面だが、使用した者にどのような代償を生み出すかわからなかった。何より、その存在を乃木家と上里家の当主が気付き、封印を施されることになり闇狼の面は大神家という存在が保管することになった。
勇者部が戦う数年前。
三人の勇者がバーテックスと戦った。
過酷な戦いでバーテックスを追い払うだけで精一杯だった彼女達を守りたいと望んだ一人の男が保管されていた闇狼の面をかぶり、戦いに挑んだ。
幸か不幸か彼はとても清らかな心の持ち主であり、勇者を守りたいという純粋な思いに三体の精霊が応え、彼に協力した。
その結果、三体の精霊が一つになった巨人の手によってバーテックスは倒される。
しかし、代償があった。
膨大な力を秘めた闇狼の面は使用者を呪い、その体を邪悪な存在へ変貌させる。
変貌させるだけに終わらず、使用者の記憶、心すら蝕んで別の感情へ塗り替えていく。
激しい怒りと憎悪。
勇者を滅ぼす存在として彼は新たに生まれ変わった。
狼鬼という存在に。
樹海化した世界。
その中で狼鬼は進軍するバーテックスを眺めていた。
今までと比べ物にならない数。
全ての勢力で勇者を叩き潰す。
「そして、俺は貴様を滅ぼす!」
狼鬼は振り返る。
その背後には狼鬼をみている黒騎士の姿があった。
狼鬼は三日月剣を構えて剣先を黒騎士に向ける。
「決着だ。俺の憎悪、邪気を以て貴様を滅ぼす!」
「……狼鬼、俺はお前を止める。それが俺の償いだ」
ブルライアットを鞘から抜いて黒騎士は刃を構えた。
次回は初の試みで個別番外編。
その後は番外編をやるか、本編をやるか、検討中です。
もし、スーパー戦隊が絡んで新たな戦いがあるならどれがいい?
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パワーレンジャー
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リュウソウジャー
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ルパパト