黒騎士は勇者になれない   作:断空我

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黒騎士と乃木若葉の決闘

「黒騎士!いるか!」

 

 香川の丸亀城。

 

 バーテックスによって世界が蹂躙されている現在、この城こそが勇者の住まう場所であり、人々を守る最後の砦でもある。

 

 一室。

 

 そこに勇者のリーダーである乃木若葉がノックもせずに中へ入った。

 

 本来ならそんなマナー違反のようなことをしない彼女なのだが、今回はそのようなことをしなければならない事態だった。

 

「チッ!いない!」

 

 手に刀袋を握り締めた彼女は室内に誰もいないことを確認すると外へ飛び出す。

 

 本来なら彼女と共に上里ひなたも一緒に居るはずなのだが、彼女は先日の疲労が残っており、部屋で休んでいた。

 

 ちなみに現在時刻、朝の五時。

 

 早朝から乃木若葉は元気だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四国の結界の近く。

 

 そこに黒騎士はいた。

 

 彼の傍には重星獣ゴウタウラスの姿もある。

 

「バーテックスの姿はなかったか」

 

 黒騎士の問いかけに答えるゴウタウラス。

 

「すまなかったな。今は休むといい」

 

 その言葉に頷いてのしのしとゴウタウラスは離れていく。

 

「四国周辺を狩るだけでは意味がないな。やはり」

 

 外に出るべきか。

 

 考えていたことをそろそろ実行に移すべきかもしれない。

 

「見つけたぞ!」

 

 そんなことを考えていた黒騎士は聞こえた声に振り返る。

 

 現れたのは木刀を手にしている乃木若葉。

 

 あちらこちら走り回ったのか少しばかり呼吸が乱れている。

 

「乃木若葉、何のようだ?」

 

 彼女は呼吸をすぐに整えるとビシッと黒騎士を指さす。

 

「決闘だ!忘れたのか!?」

 

「……何のことだ?」

 

 いきなりのことに流石の黒騎士も困惑する。

 

 乃木若葉とは仲がいいわけではない。衝突もあるが、いきなり決闘と言われるような覚えはなかった。

 

 異変に気付いたのか戻ってきたゴウタウラスも不思議そうにしていた。

 

「お前!二日前に、私が置いた手紙を読まなかったのか!?」

 

「……手紙というのはこれのことか?」

 

 黒騎士は懐から取り出したのは白い封筒。ただし、今時の若者が使うような便箋でなく、時代劇でみるような形のものだ。

 

「そうだ!届いているではないか!」

 

「いや、お前」

 

 怒っている乃木若葉に珍しく、固い口調が崩れている黒騎士は中身を見せる。

 

「決闘じゃなく、デートの申し込みになっているんだが」

 

「…………なに?」

 

 黒騎士から渡された手紙を覗き込む若葉。

 

 しばらくして、顔が面白いくらいに真っ赤になった。

 

 目がグルグルと渦を巻いている。

 

 ゴウタウラスが黒騎士に問いかける。

 

 

――彼女は大丈夫なのかと。

 

 

 鳴き声からそのことを察した黒騎士はため息を零しながら若葉に近づく。

 

「乃木若葉、大丈夫――」

 

「この勝負は預けた!」

 

 一言告げると信じられない速度で海岸から離れていく。

 

「…………鉄砲玉か」

 

 残された黒騎士はぽつりと呟いた。

 

 小さく同意するようにゴウタウラスも鳴く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひなた、どういうことだ!?」

 

「何のことです?」

 

「手紙のことだ!」

 

「ああ、それですか?若葉ちゃんが忙しいということで私が代わりに嗜んでおきました」

 

「頼んでいないのだが?」

 

「そうでしたか?ほら、好きだという気持ちはちゃんと伝えないと」

 

「自分でできる!私はアイツを外へいかせないために決闘を申し込んだつもりだったのに……あんな、恥ずかしいことになるなど」

 

 顔を赤らめて、あの時の出来事を思い出している若葉。

 

 にこりとほほ笑みながら心の中では若葉フィーバーを起こしているひなた。

 

 片手で巧妙に若葉の恥じらう姿を写メに納めている。

 

 気付かない若葉は拳を握り締める。

 

「こうなったらもう一度、決闘の申し出を」

 

 

「若葉ちゃん、少し聞いていいですか?」

 

「なんだ?」

 

「どうして、黒騎士さんに決闘を申し込むんですか?」

 

「……なぜ、か。奴が実力者だからというのもある。何より、アイツをそのままにしておくと遠くに行ってしまう。それは嫌だとなぜか私は思うんだ」

 

「……あらあら」

 

 若葉が悩む様な表情をしていることに、ひなたは嬉しそうにしていた。

 

「なんだ、ひなた?」

 

「いえいえ、若葉ちゃんもそういう表情をするんですねと思いまして」

 

「からかわないでくれ……問題は黒騎士だ。今日も結界の近くを歩き回っている。バーテックスが現れることを待っているのだろう」

 

「彼はバーテックスを滅ぼすことを強く望んでいますから」

 

「だから、心配だ」

 

 若葉は黒騎士のことを思い出す。

 

 はじめて会った時、彼は諏訪から逃げてきた人たちと共に姿を見せる。

 

 重厚な鎧に剣と携えた姿に勇者たちや大社の人間は困惑した。だが、彼の話を聞いて、驚き、そして、共に戦う仲間とみていた。

 

 だが、彼は若葉達の歩み寄りを拒絶。

 

 一人で戦うことを選んでいた。

 

 バーテックスは日に日に強大になっていく。

 

 今は一人でもいずれは、という可能性もある。だから、共に戦うことを黒騎士に望む。

 

「私は黒騎士を一人にすることを良しとしない。だから」

 

「決闘を申し込むわけですね?わかりました。じゃあ、協力しますよ」

 

「すまない。ひなた」

 

「若葉ちゃんの親友ですもの」

 

「そうだな。助かる」

 

 そうして、二人はある計画を練る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またか」

 

 黒騎士は届いた手紙を見る。

 

 それは決闘の申し出。

 

 手紙の内容を一度、みて、溜息を吐きながらも丸亀城にある訓練エリアにやってくる。

 

「来たな、黒騎士」

 

「何の用だ」

 

「勿論、決闘だ!私が勝ったら、これから仲間として共に戦ってもらうぞ!負けたら……お前のやることに口出しはしない」

 

「……そもそも、俺がここにいるのはバーテックスを殺すためであり、仲間になった覚えはない」

 

「そうだろうな。だが、私達は既に黒騎士、お前を仲間とみている」

 

「…………」

 

 沈黙する黒騎士に若葉は木刀を向ける。

 

「お前がどう思っていようと私たちの想いは変わらない。押しつけと言われても、自分勝手と言われても構わない。お前を独りにはさせない」

 

「うるさい」

 

 バンと黒騎士は拳を近くの壁に叩きつける。

 

「俺に仲間などいらない。俺はバーテックスを滅ぼす。そのためだけでいい。ここにいるのもそれだけ……それだけでいい」

 

 叫びながら黒騎士は置かれている木刀を手に取る。

 

「構えろ、乃木若葉。俺が勝てばお前は俺に関わるな!それが俺の望む勝利条件だ」

 

「わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒騎士の振るわれる木刀と若葉の木刀がぶつかりあう。

 

 勇者の少女と黒騎士の刃は常人には捉えることが難しいほどの速度になっていく。

 

 ひなたは目の前の二人が立っているだけにしかみえない。

 

 だが、わかるものがみれば、高速で竹刀がぶつかりあっている。

 

 若葉は一歩も引かない、黒騎士を独りにさせないために。

 

 黒騎士は前に進む、己の復讐を果たすために。

 

「「これで、終わらせる」」

 

 一度、距離をとり、二人は木刀を振るう。

 

 バッキャアンと音を立てて木刀が握り手から先まで砕け散った。

 

「これは……」

 

「引き分けだな」

 

 ため息を零す。

 

 お互いの一撃で木刀が限界を迎えた。

 

「木刀を代えるという手もありますが?」

 

「同じ結果だ。完全に決着をつけるというのなら、勇者の力を使う必要があるだろう……それを乃木若葉は本意ではないだろう?」

 

「その通りだ。私と黒騎士、貴方はもう仲間だ。勇者装束を纏ってまで決着をつける必要は」

 

「甘いな」

 

 黒騎士は態度を一転させて告げる。

 

「乃木若葉、お前は甘い……俺は復讐者だ。何を犠牲にしても、俺は天の神を滅ぼす。お前のように仲間を大事などしない。お前達がどれだけ仲間だと告げても、俺はお前達を仲間とみない」

 

 拒絶の言葉を吐いて、黒騎士はその場を離れる。

 

「……若葉ちゃん!?」

 

 何も言わない若葉の姿を見てひなたが驚きの声を上げた。

 

 若葉は黒騎士がいなくなると涙をこぼしていた。彼女が泣いていることに気付いたひなたは慌てて駆け寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、俺は何を悩んでいるのか」

 

 誰もいない場所で黒騎士は空を見上げる。

 

「揺らぐな、忘れるな、俺はなんのためにこの力を手にしたのか、絶対に忘れてはいけないのだ。俺は、勇者ではないのだから」

 

 手の中にある砕けたペンダント、そこに刻まれているものを見つめながら黒騎士は歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後、黒騎士が合流する直前に下っていた神託によってもたらされていたバーテックスの大規模な侵攻が起こる。

 

 後に“丸亀城の戦い”として記録される出来事。

 

 その中、作戦と連携で戦う勇者とは別に黒騎士は自身の武器で無数のバーテックスを蹴散らす。

 

 途中で集合体のバーテックスが現れるも、背後で控えていた重星獣ゴウタウラスの参戦によって勇者たちは被害者をだすこともなくバーテックスを倒すことに成功する。

 

「おぉ!?凄いな、あの牛!」

 

「タマっち先輩、バッファローだよ」

 

「それって、どっちが違うのかな?」

 

 ゴウタウラスがゆっくりと確実に角でバーテックスを蹴散らしていく姿を見て勇者たちも心強い仲間を得たと思う。

 

 その中、バーテックスの群れの中、敵の返り血で汚れまくっていた黒騎士がいた。

 

「この程度か!バーテックス!」

 

 叫びながらブルライアットでバーテックスを切り裂いていく。

 

 大型バーテックスはゴウタウラスが相手をしていることで黒騎士に小型のバーテックスが集中していた。

 

 そこに乃木若葉が黒騎士を助けるために割り込んだ。

 

「黒騎士!無事か!」

 

「余計なお世話だ。小型は俺が始末する。貴様は仲間の心配でもしていろ」

 

「私が心配しなくてもみんな、自分のやるべきことをやっている。お前は私達と違って休憩もなく長時間、戦闘を――」

 

「奴らを滅ぼすためなら、この程度、問題ない」

 

 ショットガンモードでバーテックを撃ち抜きながら黒騎士は答える。

 

「ゴウタウラス!叩き潰してしまえ!」

 

 黒騎士の叫びと共にゴウタウラスは雄叫びを上げて前足で集合体バーテックスを叩き潰す。

 

「黒の衝撃!!」

 

 ゴウタウラスの強力なパワーで強固な外皮を砕かれた集合体バーテックス。

 

 そこに黒騎士の必殺の一撃が炸裂。

 

 集合体バーテックスは爆発を起こす。

 

「黒騎士……お前は」

 

 樹海化と呼ばれる現象が解除されていく中で、若葉は返り血で汚れている黒騎士の後姿をみているだけしかなかった。

 

 

 

 

もし、スーパー戦隊が絡んで新たな戦いがあるならどれがいい?

  • パワーレンジャー
  • リュウソウジャー
  • ルパパト

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